著者
遠藤 辰雄 高橋 庸哉
出版者
鳥取環境大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

この研究目的と同じ内容の北極圏スバルバールのニーオルセン(北緯79度東経12度)で行った観測結果が未解析で残っていたので、その解析を詳細に進め、その結果から標題の目的の研究を行うことにした。この期間は1998年12月16日から1999年1月9日までの間であり、この地方は完全な極夜であり、大気化学的条件としては、光化学反応は考慮する必要がないという興味ある環境であった。また、この時期はこの地方では比較的降雪が見られ、この時期を過ぎると全く降雪がないとされている。その降雪も量が少なくかつかなりの強風であるといわれていたのであるが、この年は大雪に恵まれ、しかも余り強風でない状態続いた。解析によって得られた知見は以下の通りである。(1)降雪試料に含まれている化学成分はかなり低濃度ではあるが、これまでの観測結果の傾向が再確認された。それは、雲粒付の雪結晶と雲粒の全く付かない雪結晶雄である雪片は硫酸塩と硝酸塩を夫々卓越して含んでいた。(2)雲粒の付かない雪片だけが観測された時間に環境大気の硝酸塩はエアロゾルの粗大粒子よりは微粒子の方で枯渇した状態が発見された。(3)また雲粒無しの雪結晶が降る時の降雪試料にかなりの高濃度の硝酸塩が検出され、それと同時に同じ濃度の水素イオンが測定された。このことから、雲粒の付かない雪結晶の表面では硝酸ガスそのものを物理吸着の形でとりこんでいるものと考察される。(4)3日間に亘る長時間の連続する降雪の途中から硝酸塩が枯渇するする現象が発見された。これも光化学反応が起こらないためであると考えられる。以上のことを総合的に考察すると硝酸塩もまた長距離輸送される大気汚染物質であると考えることが出来る。
著者
岡室 博之 港 徹雄 三井 逸友 安田 武彦 高橋 美樹 堀 潔 原田 信行 本庄 裕司 福川 信也 土屋 隆一郎 加藤 雅俊 濱田 康行 村上 義昭 鈴木 正明 柴山 清彦 島田 弘 池内 健太 西村 淳一
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

2007年1月以降の新設法人企業に対して、2008年11月以来4回の継続アンケート調査を実施し、特に研究開発型の新規開業企業の創業者の属性や資金調達・雇用、研究開発への取り組みと技術成果・経営成果等について独自のデータセットを構築した。それに基づいて、新規開業企業の研究開発に対する創業者の人的資本の効果(資金調達、技術連携、イノベーション成果)を計量的に分析した。さらに、政府統計の匿名個票データを入手して自営開業について統計的分析を行い、アンケート調査に基づく分析を補完した。また、知的クラスターに関するアンケート調査と訪問調査を実施し、クラスター政策と新規開業・イノベーションの関連等を考察・分析し、国際比較を交えて関連政策の評価を行った。
著者
岡 孝夫 井野 靖子 高橋 幸水 野村 こう 花田 博文 天野 卓 寒川 清 秋篠宮 文仁
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.363-367, 2009-03-16

龍神地鶏は和歌山県の旧龍神村(現在の田辺市)で少数が維持されている集団であり,同地で古くから飼養されているものである。1994年には村内で30数羽が飼養されていたが,近年では個体数が減少し,遺伝的多様性の減少が懸念されている。そこで本研究では1994年および2007年に採血された龍神地鶏(1994年12羽,2007年2集団各18羽,7羽)について,ISAG/FAO推奨の30座位のマイクロサテライトマーカーを用いて遺伝的多様性の経時的な比較と他の日本鶏品種との遺伝的類縁関係を明らかにすることを目的とした。龍神地鶏3集団において30座位中12座位で多型が認められず,5座位で対立遺伝子の消失が認められた。さらに6座位においては遺伝子頻度0.5以上の主要な対立遺伝子が変化していた。その他の座位の対立遺伝子数は2から3の範囲であった。龍神地鶏各集団の平均対立遺伝子数およびヘテロ接合体率は既報の他の日本鶏品種よりも低い値を示した。次に,日本鶏品種内における龍神地鶏の遺伝的な位置を明確にするため,他品種の解析データを加えてD^A遺伝距離にもとづく近隣結合系統樹を作成した。その結果,龍神地鶏は比較に用いたどの品種ともクラスターを形成せず,高いブートストラップ値で他の品種から分かれる結果となった。以上の結果より,龍神地鶏は地域に固有の品種である一方,小集団で長く維持されてきたため近交がすすみ,遺伝的多様性が低くなった集団であると考えられた。今後この品種を維持するためには,現在残されている2つの集団のみならず,県の試験場等を含めて十分な集団サイズを確保し,集団間の系統的維持が必要であると考えられた。
著者
高橋 章弘 南 慎一
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.6, pp.115-120, 1996-11

平成5年7月12日の夜間に発生した北海道南西沖地震は、奥尻島を中心に渡島・桧山地方に大きな被害を与えた。特に、奥尻町青苗地区では、地震直後の大津波と延焼火災により、人的被害、住宅・都市施設被害、水産漁業被害、商工観光産業被害など広範囲かつ甚大な被害がみられた。本調査研究は、種々の復興事業が進行する中、居住する住民が現在どのような実態にあるのか、住宅の再建状況や防災対策、居住地環境評価等について把握を行い、今後の震災復興の在り方を検討するための基礎的資料とすることを目的としている。本調査は地域安全学会震災調査研究会が実施した震災後第3回目のアンケート調査で、本報では被害が最も大きかった育苗地区の居住者を対象に、「地震再発への不安」「日常生活での防災対策」「居住地まわりの安全性」「防災情報の入手」等について考察を行った。調査の結果、住民の防災意識に関する実態をまとめると、以下のように整理される。(1)大地震再発に対する不安は、住民意識に依然として高く、長期化している (2)日常生活での防災対策は、十分と考えている住民は少なく、その具体的な備えについては、容易に備えられものから取り組まれている。 (3)居住地まわりの安全性は、津波に対しては概ね安心感を抱いているが、地震や火災に対して多くの住民が不安感を抱いている。 (4)冬期間の災害発生における住民避難の不安要因は、低温や降雪などの気象条件が大きな部分を占め、災害の種類によっては避難により生命の危険が増すこともあると住民は捉えている。 (5)防災情報の入手方法は、メディアを利用し短時間で入手できるものを多くの住民が望んでいるが、巡回等による直接的な伝達方法を望む住民も一方でみられる。
著者
高田 雄京 奥野 攻 越後 成志 菊地 聖史 高橋 正敏
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

静磁場による骨の成長誘導の可能性を調べるため、耐食性に極めて優れた無着磁および着磁白金鉄磁石合金(Pt-59.75at%Fe-0.75at%Nb)をウィスターラットの両側脛骨にそれぞれ1〜12週埋入し、骨親和性と静磁場刺激による骨誘導を光学顕微鏡とX線分析顕微鏡を用いて評価した。同時にコントロールとして、骨および生体親和性の高いチタンおよび生体用ステンレス鋼(SUS316L)においても同様の実験を行い、それぞれの骨成長を比較検討した。その結果、静磁場の有無に関わらず白金鉄磁石合金表面に形成する新生骨のCa/Pは、チタンや生体用ステンレス鋼と同等であり、皮質骨との有意差はなかった。また、4週以降では、いずれも埋入金属全域を新生骨が覆い、白金鉄磁石合金に形成した新生骨は、静磁場の有無に関わらず微細領域においても皮質骨と同等のCaとPの分布を示し、十分に成熟した骨であることが明らかとなった。これらのことから、白金鉄磁石合金に形成する新生骨の成熟度、形成形態、形成量は静磁場の有無に依存せず、いずれもチタンに準じ、生体用ステンレス鋼よりも優れていることが明らかとなった。特に、白金鉄磁石合金において、静磁場の有無に関わらず生体為害性が全く現れなかったことから、生体内で利用できる磁性材料としての可能性が非常に高いことが示唆された。しかし、白金鉄磁石合金の形状が小さく局所的で強力な静磁場が得にくいことや、ウィスターラットの骨代謝が速いことから、本研究課題の期間内では静磁場による骨の成長速度の相違を明瞭に見出すことができなかった。今後の課題として、局所的で強力な静磁場を付与できる磁石とラットよりも骨代謝の遅い動物を用い、静磁場刺激による骨の成長誘導を試みる必要があると考えられる。
著者
塩村 耕 高橋 亨 阿部 泰郎 榊原 千鶴
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

人間とは動物の中で唯一死の概念を有する「死を知る人(homo memor mori)」であり、そうであるがゆえに未来へ本を遺し、過去の本を読む「本の人(homo librarius)」でもある。したがって、書物は人類の遺した文化遺産の中で最重要のもので、我々は遺されたそれらの全体像を出来るだけ明らかにすべき責務がある。この研究計画の目的は、古典籍の宝庫として知られる西尾市岩瀬文庫の古典籍全1万8千点について、各書籍の書誌、成立、内容を詳細に書き込んだ、いまだかつて見られないような「記述的(descriptive)」な書誌DB(データベース)を完成・公開し、そのことを通して新たな時代の書誌目録のあり方を全国の所蔵機関や文庫に提案することにある。本研究計画に先立つ事前調査を含めて6年間の集中的調査を経て、現在1万1千点について調査入力が終了した。また、DB公開運用の先行モデルとして、並行して調査を進めてきた名古屋大学附属図書館神宮皇学館文庫について平成17年4月より書誌DBを公開し、新たに判明した問題点を改善した。まだまだ前途は遼遠ながら、岩瀬文庫という豊富にして多彩な内容を含む一大文庫について、DBを完成公開する夢の実現が具体化しつつある。正直に言えば、古典籍にかかわる一研究者として、珠玉の知見に満ちたDBを公開することに躊躇する気持ちは、調査開始以後しばらくの間は強くあった。しかしながら、大量の古典籍-その全ては死者の遺したものである-に触れる中で、書物と人間との関わりについて体感開悟するところがあり、今ではDBの公開が書物の活用に大きく資するものであり、そのことが書物を遺してくれた先人たちに対する報恩となることを確信している。そして、このようなDBが方々の文庫に備わることによって、日本の人文学が新たな局面に一歩を踏み出すに違いない。
著者
新井 学 倉田 佳明 磯貝 哲 高橋 信行 橋本 功二 平山 傑 土田 芳彦 村上 裕子 辻 英樹 井畑 朝紀 成田 有子
出版者
北海道整形外科外傷研究会
巻号頁・発行日
2010

肘頭骨折を合併した小児上腕骨外顆骨折の2例を経験した。【症例1】7歳男児,遊具から転落受傷し,上腕骨外側顆骨折はJacob 分類stageⅢ,肘頭骨折は2mmの転位であった。両骨折に対し観血的骨接合術を施行した。【症例2】4歳男児,ソファーから転落受傷し,上腕骨外顆骨折はJacob 分類stageⅡ,肘頭骨折は転位がわずかであった。右上腕骨外側顆骨折に対し観血的骨接合術を施行した.肘頭骨折は保存的加療とした。2症例とも骨癒合が得られ可動域制限なく経過良好である。肘頭骨折に上腕骨外側顆骨折が合併する受傷機転として,肘関節伸展位で内反および外反力が関与し,上腕骨外側顆骨折を合併した肘頭骨折は比較的稀であるが,見逃されると機能障害を残すため認識しておくべき損傷形態である。
著者
高橋 明善 古城 利明 若林 敬子 大内 雅利 黒柳 晴夫 桑原 政則
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

一 研究課題1 日米特別行動委員会(SACO)合意に基づく沖縄の基地返還・移設、跡地利用に関する研究(1)名護市における基地移設・ジュゴン保護と住民運動。(2)普天間飛行場移設問題の政治過程。(3)読谷飛行場の返還と跡地利用計画に関して1996年のSACO合意以来の経過を追跡研究した。2 基地引き受けの代替として進められる地域振興策と内発的振興の研究を次の場面で実施した。(1)基地移設に関する日米SACO合意の実施過程。(2)移設先並びに沖縄北部振興(3)読谷飛行場跡地利用 (4)普天間飛行場跡地利用 (5)環境保全と観光開発3 沖縄を中心とする国際交流の研究。沖縄の持つ国際性を移民社会と歴史研究の中で検討した。(1)中国と沖縄の歴史的交流の研究 (2)ブラジルにおける沖縄文化 (3)歴史の中の沖縄とアジア二 研究上の留意点と得られた成果主要研究テーマである基地の返還・移設問題に関して次のような問題を特に重視した。(1)沖縄の戦略的位置づけの変化による米軍再編と基地負担軽減問題。(2)移設元の普天間基地所属の沖縄国際大学への落下、騒音、婦女暴行、危険な訓練実施などの基地被害、基地災害がもたらす基地批判世論の盛り上がり。(3)普天間基地の名護市移設がもたらす環境破壊に反対する運動の国際的拡がり。(4)知事先頭の日米地位協定改定要求運動。(5)以上の結果としてもたらされた普天間基地移設見直しと日米政府の政策転換。(6)普天間基地移設をめぐる政治過程と跡地利用問題。(7)読谷飛行場の返還と跡地利用計画の進展。得られた最も重要な知見は次の2点にある。(1)環境保全への配慮なくしては基地問題の処理も、地域振興も不可能であるほどに環境問題が地城政策の実施にとって根本的な重要性をもつにいたった。(2)沖縄の基地の存在と基地政策は、日米政府による世界最強のシステムが作り出したものである。しかし、そのシステム世界も住民の生活世界からの抵抗を受けることにより、政策を調整・譲歩せざるを得なくなったという重要な帰結がもたらされた。ふたつの世界の葛藤のダイナミズムの研究を通して歴史変動への想像力を拡大することができた。
著者
田口 真 吉田 和哉 中西 洋喜 高橋 幸弘 坂野井 健
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

惑星大気・プラズマの光学的リモートセンシングを目的とした気球搭載望遠鏡システムを開発した。アルミ角材で構成されるゴンドラを設計・製作した。望遠鏡、太陽電池パネル、PC及び高圧電源を収納する気密容器、ジャイロ(CMG)を収納する防水容器、デカップリング機構がゴンドラに取り付けられる。CMGとデカップリング機構の制御によって、目標精度である約0.2°でゴンドラの姿勢を制御できることが確認された。望遠鏡の光路を波長帯で分け、中心波長400nm及び900nmのバンドパスフィルターを通して別々のCCDビデオカメラで撮像する。経緯台制御によって星像を約0.01°の精度で追尾できることを実験で確認した。望遠鏡視野に天体を捉えたのちは、星像位置検出用光電子増倍管からの出力をフィードバックして2軸可動ミラーマウントを制御することで、星像を視野中心に安定化できることを確認した。追尾性能向上のため、サンセンサーの視野をやや広くし、ガイド鏡の視野をやや狭くする改良を施した。ゴンドラ重量は約300kgとなった。電源は太陽電池から約250Wを供給するが、ニッケル水素充電池でノミナル消費電力を2時間まで供給することが可能である。ニッケル水素充電池の低温特性を測定し、性能に問題ないことを確認した。太陽電池と組み合わせた充放電回路を設計・製作した。熱真空試験を実施し、成層圏環境下で問題なく動作することを確認した。将来、北極で本格的な実験を実施するための調査として、ESRANGEの気球実験担当者と打ち合わせた。10月には実際にスウェーデン・キルナにある気球実験フィールドを視察した。これまでの開発成果を国際学会や国内学会・シンポジウムで発表した。また成果をまとめてAdv.Geosci.誌に投稿し受理された。
著者
増野 匡彦 中村 成夫 高橋 恭子 西澤 千穂
出版者
共立薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.フラーレン誘導体のがん細胞増殖抑制機構の解明ジメチルピロリジニウム置換基を有するフラーレン誘導体(1)ががん細胞増殖抑制効果を示すことをすでに明らかにしているが、その機構の解析を行った。ヒト白血病由来HL-60細胞を1で処理するとアポトーシスの特徴であるDNAのラダー化、クロマチンの凝集、細胞周期のSub G1期での停止が観察され、さらに、カスパーゼ3の活性化、カスパーゼ9の活性化、ミトコンドリアからのシトクロムc放出を引き起こすが、p53の誘導はおきないことを見出した。多くのがん細胞ではp53が欠損しているためp53以外の経路でアポトーシスを誘発する化合物は抗がん剤リード化合物として有利と考えられる。2.HIV逆転写酵素阻害活性の高いプロリン型フラーレン誘導体のデザインと合成フラーレン骨格に結合したピロール環に3つのカルボン酸を有する誘導体(2)をリード化合物としてコンピュータードッキングシミュレーションも用いて様々な誘導体をデザイン、合成した。その結果ピロール環2,5位の2カ所にカルボン酸を有する誘導体(3)の活性が2よりも高く、カルボン酸を1つにすると活性が低下することが明らかとなった。これらの誘導体の阻害活性は現在抗HIV薬として用いられているネビラピンの100倍以上活性が高かった。3.スルホニウム型フラーレン誘導体の抗C型肝炎ウィルス活性スルホニウム型フラーレン誘導体(4)はフラーレン誘導体1と同等のC型肝炎ウィルスRNAポリメラーゼ阻害活性ならびにC型肝炎ウィルス増殖抑制効果を示した。4は細胞毒性も低く抗C型肝炎薬のリード化合物として有望であることを明らかとした。3年間の研究で新規抗がん薬、抗HIV薬、抗HCV薬の有望なリード化合物を創製できた。
著者
千葉 靖典 伊藤 浩美 佐藤 隆 高橋 佳江 地神 芳文 成松 久
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of applied glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.131-136, 2010-04-20
被引用文献数
1

糖鎖の機能解明や糖鎖構造分析のための標準品を合成するための一つの手段として,糖転移酵素の利用が考えられる.糖転移酵素は基質特異性が明確である一方,酵素自体が不安定で大量に生産することが難しいため,糖転移酵素を利用した糖鎖合成の産業的な利用は難しいと考えられてきた.一方,安価な生産のためには大量生産技術が確立している酵母等の代替宿主を用いることが期待されているが,ヒトの糖転移酵素を多量に発現させた例はあまりない.われわれは動物細胞(HEK293T細胞)とメタノール資化性酵母(<i>Ogataea minuta</i>)を宿主としてヒト糖転移酵素の生産法の開発と応用を検討した.既知の情報ならびに当センターで新規にクローニングした遺伝子を含め,糖鎖合成関連遺伝子をライブラリー化した.糖転移酵素のほとんどはHEK293T細胞で可溶型酵素として発現が可能であった.ビーズ上に固定した糖転移酵素を利用し,さまざまな糖鎖・糖ペプチドの合成を行った.また合成した糖鎖の一部は基板上に固定し,糖鎖チップの生産を行った.今後はさらに糖鎖の種類を増やすことで,糖鎖と結合するタンパク質の特異性をより厳密に決定に利用できると考えている.一方,酵母の発現系については,導入した糖転移酵素の半数程度しか発現が確認されなかったため,種々の条件の最適化等を検討した.その結果,従来の条件では活性がほとんどみられなかった糖転移酵素も活性が確認できるようになり,ある酵素では数百倍の生産性の向上に成功した.次に,天然からは大量調製が困難な<i>N</i>-型多分岐糖鎖の調製を行った.アガラクト型複合型2分岐鎖を出発材料とし,糖転移酵素を逐次作用させることにより,アシアロ型3分岐,4分岐型糖鎖の生産に成功した.今後,酵素法による糖鎖の大量調製が可能となり,糖鎖チップへの応用や糖タンパク質医薬品の原料への活用が期待できる.本研究はNEDO「糖鎖機能活用技術開発」プロジェクトにおいて実施したものである.
著者
密山 幸男 高橋 一真 今井 林太郎 橋本 昌宜 尾上 孝雄 白川 功
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J93-A, no.6, pp.397-413, 2010-06-01

面積効率の向上を目指したヘテロジニアス構造を有する粗粒度再構成可能アーキテクチャは,アプリケーション分野を特化することで高性能化と小面積化を実現することができる.そこで我々は,対象アプリケーションをメディア処理に特化したヘテロジニアス粗粒度再構成可能アーキテクチャARAMを開発してきた.本論文では,ARAMによって複数の動画像復号処理を実現できることを示すため,MPEG-2デコーダ,MPEG-4デコーダ,H. 263デコーダを設計対象として,各処理過程のマッピングについて述べる.更に,動画像復号処理の高性能化要求に対して,ARAMのスケーラビリティと動画像復号処理の画素並列性を用いた性能拡張について述べる.またフィルタバンクのマッピングについて述べ,動画像復号処理以外にも適用できる機能拡張性を示す.
著者
松島 龍太郎 里田 隆博 高橋 理 田代 隆
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

カルシトニン遺伝子関連ペプタイド(CGRP)とP物質はともに感覚神経の中でも特に侵害刺激(痛覚刺激)の伝達物質として働くことが考えられている。脳幹部の三叉神経脊髄路核内における両物質の分布と共存関係について検索した。この結果、CGRP陽性線維は三叉神経感覚核群の全亜核に分布しており、三叉神経主感覚核ではその背側亜核に背外側部と腹側亜核の内側縁に、三叉神経脊髄路核の吻側亜核ではその背内側部と内側部に、同中間亜核では腹内側縁と外側縁に、そして同尾側亜核では第I層、第IIo層そして第V層に分布した。これらCGRP陽性線維は大部分がP物質を共有していた。一方、三叉神経節ではCGRP陽性細胞の大部分は小型ないし中型の円形ニュ-ロンであり、P物質を含有するニュ-ロンは他の細胞に比較して小型であった。三叉神経根を切断した実験例では、同側の三叉神経感覚核群においてCGPR陽性線維のほとんどが消失した。以上の結果より、三叉神経系のCGPR陽性線維の大部分は三叉神経節由来の一次求心線維であり、P物質をも含有することが明らかとなった。すなわち、小型神経節細胞に由来する痛覚伝達線維である。一方、実験動物の一側の歯髄に炎症を起こさせた場合、同側の三叉神経脊髄路核の尾側亜核にオピオイド(ダイノルフィン)含有ニュ-ロンが増加した。これらの細胞はCGRP陽性の神経終末と接触している事実が観察された。したがって、口腔領域に発した痛覚情報は、三叉神経節の小型細胞を経由して三叉神経脊髄路核尾側亜核に投射され、上位脳あるいは局所に投射するニュ-ロンに直接に伝達されることが明らかとなった。
著者
内田 隆 村上 千景 里田 隆博 高橋 理 深江 允
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

ブタ歯胚のエナメル蛋白に関して、分子生物学的、生化学的、光顕および電顕免疫組織化学的に検索し、以下の結果を得た。1. 小柱鞘蛋白のクローニングを行い、全アミノ酸配列を決定した、それをシースリンと名付けた。シースリンは380または395のアミノ酸残基よりなり、そのN端側に26アミノ酸残基よりなるシグナルペプチドを持っている。シースリンはラットのアメロブラスチンと塩基配列で77パーセント、アミノ酸配列で66%の相同性を持っていた。シースリンのC端部付近にはリン酸化された糖鎖がついていると考えられるが、その部位は推定できなかった。2. シースリンは分泌後速やかに分解され、そのN端側約100〜150アミノ酸残基を含むフラグメントは13-17kDaの小柱鞘蛋白となって、小柱鞘に局在する。C端側95アミノ酸残基は29kDaカルシウム結合蛋白となり、このC端部約20アミノ酸が切断されると27kDaカルシウム結合蛋白となる。両者はリン酸化された糖蛋白であり、幼若エナメル質表層のみに局在する。シースリンの分子中央部は特定の構造に局在せず、速やかに分解される。3. エナメリンのクローニングを行い、全アミノ酸配列を決定した。エナメリンは1104のアミノ酸残基よりなり、エナメル芽細胞より分泌されたエナメリンは、分子量約150kDaでエナメル質最表層に位置し、ヒドロキシアパタイトに親和性を持たないと考えられる.エナメリンの分解産物のうち、N端側631アミノ酸残基よりなるプラグメントがヒドロキシアパタイトに親和性を持つ分子量89kDaエナメリンとなる。この89kDaエナメリンがさらに分解して、136番目から238番目のアミノ酸残基よりなる部分が32kDaエナメリンとなる。4. エナメル質形成において、アメロゲニンはエナメル質の形態を作り、エナメリンは石灰化開始とアパタイト結晶の成長に関係し、シースリンは小柱鞘の形成に関与していると考えられた。
著者
野村 章子 野村 修一 山田 好秋 河野 正司 高橋 肇 江川 広子 植田 耕一郎 城 斗志夫
出版者
明倫短期大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、流動性に富みかつ凝集性のよい食品について物性試験を行うことにより、摂食・嚥下機能に障害のある要介護者のための食品としての有効性を評価することにあった。そのために明確にしなければならなかった具体的な事柄は、食品としての物性(硬さ、付着性、凝集性)であった。研究計画の初年度は主に、高たんぱく、低カロリーとして注目されているグルテンの構成要素である2つのタンパク(グリアジン、グルテニン)に着目し、小麦粉からのグリアジンおよびグルテニンの分離を試みたものの、高純度なグリアジンとグルテニンを調整することはできなかった。次年度は、高純度ではないが食品会社から入手したグルテニンとグリアジンを配合したクッキーの物性測定を行った。その結果、嚥下補助食として適正な配合比率を見出した。最終年度は、今までの研究成果に基づき、調整する試験食品の種類を増やして物性測定を行った。臨床試験により、咀囑性・食塊形成性との対応を見出した。さらに、本研究に関連して調査した要介護者の口腔機能と全身状態が、要介護者の食事形態におおいに影響することもわかった。本研究成果は、第15回日本老年歯科医学会学術大会、第10回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学術大会、第3回明倫短期大学学会学術大会で報告した。今後は、要介護度の重度化防止を目的とし、要介護者の食事摂取を向上させるために、義歯治療口腔ケアを実施するための訪問診療機器の開発に繋げる予定である。
著者
小林 正幸 西川 俊 石原 保志 高橋 秀知
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会技術報告 (ISSN:03864227)
巻号頁・発行日
vol.20, no.46, pp.1-6, 1996-09-13
被引用文献数
1

我々は、高速で文字入力が可能な日本語高速入力システム(ステノワードPCシステム)を2セット用意し、1セット目で発話内容のひらがな入力とかな・漢字変換を行い、他のセットで誤字、脱字等の修正を行う、より正確な字幕をリアルタイムで提示可能な新システムを開発したので、このシステム(連弾入力方式RSVシステム)の機能や特徴、講義場面での使用結果について報告する。
著者
高橋 理
出版者
神奈川歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

中枢神経系の主要な興奮性伝達物質であるグルタミン酸の脳内分布については、従来おもにその合成酵素であるglutaminaseを免疫組織化学的に同定することにより解析が進められてきた。本研究はグルタミン酸に対するポリクロナール抗体を用いて、三叉神経運動核と三叉神経感覚群におけるグルタミン作動性の神経細胞体と神経終末を同時に検出し解析することを目的とした。実験には雌Wistar系ラットを用いた。実験動物を2.0%パラホルムアルデヒドと0.25%グルタールアルデヒドの混合溶液にて灌流固定を施した後に、脳幹部の凍結連続切片を作製し、免疫組織化学的にグルタミン酸様免疫活性を示す神経細胞体と神経終末についてそれぞれFITCを用いて標識し、蛍光顕微鏡下に観察した。実験の結果、グルタミン酸免疫陽性の神経線維と終末は、解剖学的に定義される三叉神経運動核の周囲の小細胞性網様体には少数が観察されるものの、同核内においては運動ニューロンの細胞体と近位樹状突起に接してごく少数しか認められなかった。これに対してグルタミン酸免疫陽性の神経細胞体は三叉神経主感覚核に多数、三叉神経脊髄路核の吻側亜核背内側部と腹外側部に少数、そして同中位亜核に多数が観察された。これら三叉神経感覚核群の内側に接する橋・延髄の小細胞性網様体には免疫陽性の神経細胞体と神経線維が多数観察された。これらの結果より、従来報告されてきた、三叉神経運動核に対するグルタミン酸作働性の前運動ニューロンは、三叉神経運動ニューロンの細胞体や近位樹状突起というよりはむしろ、同核内において遠位樹状突起上にシナプス結合する事が示唆された。今後、この部位において免疫電顕を用いたシナプスの構造解析が重要と考えられる。
著者
遠藤 泰生 荒木 純子 増井 志津代 中野 勝郎 松原 宏之 平井 康大 山田 史郎 佐々木 弘通 田辺 千景 森 丈夫 矢口 祐人 高橋 均 橋川 健竜 岡山 裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

領土の拡大と大量移民の流入を規定条件に建国後の国民構成が多元性を増したアメリカ合衆国においては、社会文化的に様々の背景を持つ新たな国民を公民に束ねる公共規範の必要性が高まり、政治・宗教・経済・ジェンダーなどの植民地時代以来の社会諸規範が、汎用性を高める方向にその内実を変えた。18世紀と19世紀を架橋するそうした新たな視野から、合衆国における市民社会涵養の歴史を研究する必要性が強調されねばならない。
著者
沢田 健志 須賀 卓 斉藤 正典 池田 哲臣 高橋 泰雄 影山 定司 大野 秀樹 大塚 国明 堀江 力
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.22, no.41, pp.1-6, 1998-08-21
被引用文献数
4

電気通信技術審議会において昨年9月策定された地上デジタルテレビジョン放送暫定方式の原案(伝送部分)の仕様に準拠した伝送実験装置を試作した。地上デジタル放送の標準化に寄与することを目的に、本装置を用いて暫定方式原案の動作検証と性能評価を行っている。ここでは、装置の概要について報告する。