著者
大槻 勤 大野 かおる
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

環境の変化が崩壊定数(半減期)に最も現れやすいと予想される核外電子捕獲(Electron Capture(EC)崩壊は核外の1sや2s電子が原子核に捕獲されて崩壊する。本研究者らはフラーレン(C_<60>)内にEC崩壊核種である^7Beを内包させることに成功したことにより、^7Beの半減期測定が可能となった。本研究ではフラーレンという特殊な環境にある^7Beの半減期がどれほど変化するか調べることを目的とする。本年度までに、フラーレン中の^7Beの半減期がヘリウム温度の環境下でどれほど変化するかを調べた。また、ベリリウム金属中でも^7Beの半減期がヘリウム温度でどれほど変化するかを調べた。分子動力学計算を駆使して^7Beの原子核位置での電子密度を調べ、実験・理論両面から核外の電子状態がEC崩壊にどれほど影響を及ぼすか解明した。その結果、以下の研究成果が得られた。1)金属ベリリウム中の^7Beの半減期は室温で53.25日、C_<60>中の^7Beの半減期はT=5Kで52.45日であった。この半減期の差異は約1.5%短く、これまでの観測で最大の達いとなった。2)^7Beをドープした金属ベリリウムをT=5Kに冷却した場合と室温中の場合では約0.3%後者の方が半減期が長くなることが分かった。3)密度汎関数理論・局所密度近似(LDA)に基づき、研究分担者(大野)が開発した全電子第一原理計算手法(全電子混合基底法)を用いて、各々の実験のケースに沿った原子核位置での電子密度を決定した。これらの成果はアメリカ物理学会誌等に投稿中である。
著者
片寄 晴弘 八木 昭宏
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,fNIRS(functional Near Infrared Spectroscopy)を用いた脳活動計測と内観調査とを併せて,音楽系ゲーム実施時の「没入感」の分類と要因分析を実施した.具体的には,1)情緒あふれる人間の演奏をテンプレートとして利用するオリジナルの演奏インタフェースiFPを用いた「操作インタフェースの差異」,「楽曲の嗜好」,「演奏する,聞く等の音楽に対するモードの差」を比較条件とした前頭前野(dorsal prefrontal cortex : DPFC)における脳活動計測,2)和太鼓によるリトミックセッションを題材とした「音色や振動の効果」に関するDPFCと側頭葉における脳活動計測,「インタラクションの効果」に関するDPFCにおける脳活動計測,3)格闘ゲームにおいて,人とプレイする場合(visible条件,および,invisible条件)と機械相手でプレイする場合でのDPFCにおける脳機能計測を実施し,比較検討を実施した.上記の実験結果から,音楽を題材とする際,少なくとも大きくわけて二つの「没入感」:「うっとりする」タイプの没入感,「わくわくする」タイプの没入感が存在し,それぞれの差がDPFCにおけるoxyHbの下降,上昇という形でとらえられる可能性が高いことを確認した.また,要因に関して,「うっとりする」タイプの没入感については,音楽的嗜好,利用インタフェースに対する慣れ,「演奏する,聞く」等の音楽に対するモードの差が影響を及ぼすこと,「わくわくする」タイプの没入感には,「他者とのインタラクション」「音・振動の効果」が影響を及ぼしている可能性が高いことを確認した.
著者
植村 俊亮 波多野 賢治 天笠 俊之 吉川 正俊 渡邉 正裕 前田 亮 石川 正敏
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

インターネット時代を迎えて,地球規模の情報資源が現出しつつあると言われる.WWW(World Wide Web)は,その典型的な例である.しかし,WWWは,ばらばらに構築された,言語も文化も異なるホームページが互いに接続されて,利用可能になっているだけであって,そこから真に必要な知識を発掘する方式はまだ確立されていない.本研究では,WWWに代表される知識資源の大海から,必要な知識を発掘する方式を,とくにその多言語処理面から追求する.具体的には,次の多言語機能をもつ知識発掘システムの実現を目指す.1.ある言語で表現された情報資源に対して,それとは別の言語を使って問い合わせることができる.例えば,英語のホームページの集まりに対して,日本語で質問を出すことを可能にする.2.複数の異なる言語で表現された情報資源の集まりに対して,自分の一番使いやすい言語を使って,問合せを出し,必要な情報を発掘することができる、例えば,さまざまの言語を使ったホームページの集まりに対して,だれでも母国語を使って問い合わせ,知識を発掘することを可能にする.多言語知識発掘システムのため本研究では以下の項目について研究を実践した.1)対訳辞書を用いた検索語の翻訳手法,および並列コーパスによる統計的手法などを用いた効果的な多義性の除去手法,2)フォント埋め込み型HTML/XML文書による多言語文書のブラウジングシステムの実現,3)大量の多言語HTML/XML文書格納のためのHTML/XML文書データベースの開発.
著者
田辺 信介 脇本 忠明
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

駿河湾・土佐湾および北太平洋東北沖から採取した深海生物を供試して人為起源物質の化学分析を実施し、以下のような研究成果を得た。1)供試した全ての深海生物から有機塩素化合物と有機スズ化合物が検出され、この種の人為起源物質による汚染が、外洋の深海生態系にまで拡がっていることが明らかとなった。また、日本近海産の深海生物にはPCBsが最も高い濃度で残留しており、次いでDDTs>CHLs>HCHs>HCB>PCDFs>PCDDsの順であった。2)沿岸と外洋の深海生物の間で人為起源物質の残留濃度を比較したところ、DDTsやヘキサクロロシクロヘキサン(HCHs)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)に関しては、顕著な濃度差は認められず、これら物質が日本沿岸から外洋まで均質に分布していることがわかった。一方、PCBsやクロルダン化合物(CHLs)、ブチルスズ化合物(BTs)の残留濃度は、駿河湾の深海生物で最も高く、外洋性ハダカイワシでは相対的に低値であった。3)外洋のハダカイワシを対象とした調査から、有機塩素化合物の中でも分子量が大きく粒子吸着性の高いPCBsやDDTs、CHLsは深層に、揮発性が高く粒子吸着性の低いHCHsやHCBは表層付近に偏って分布することが示された。また、沿岸および外洋の深海生物から検出されたBTsはいずれも表層に偏った濃度分布を示し、表層への流入が続いていることがその要因と考えられた。よって今後も、BTsによる深海汚染は進行することが示唆された。4)駿河湾における調査から、PCDDsやPCDFsは表層性の魚類よりも、深海に生息する堆積物食性の甲殻類に高蓄積していることが明らかとなった。また、日本近海の深海底は、ダイオキシン類など移動拡散性に乏しく粒子吸着性の高い物質の'たまり場'となることが推察された。5)沿岸性の一部深海生物に蓄積するBTsやPCBs,PCDDs,PCDFsの濃度は、魚介類の薬物代謝酵系や内分泌系をかく乱する惇性毒性の閾値に近いものであった。よって、深海生物の内分泌系に及ぼす毒性影響の解明が今後の課題となった。
著者
藤島 政博 道羅 英夫 GORTZ Hans-Dieter FOKIN Sergei
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

繊毛虫Paramecium属とその核内共生細菌Holospora属を野外採集し, 世界分布図に棲息が確認された場所をプロットすることを目的とし, 北欧(フィンランド, スウェーデン, ノルウェー)とその周辺国(エストニア, ロシア), 中国, ブラジル及びオーストラリアで現地協力者の協力を得て採集を行った。その結果, オーストラリアとブラジルで, P. caudatum, P. aurelia species, P. bursaria, 及び, 新種と思われるP. bursaria類似の細胞を採集したが, Holospora維持細胞は採集できなかった
著者
戸川 達男 斉藤 浩一 大塚 公雄 山越 憲一 小川 充洋
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、戸川らがコンセプトを提唱し、実際に研究を進めてきた高齢者の健康状態を在宅でモニタするための技術のさらなる開発を進めるものである。これらの技術の特色は、家屋および家具にモニタ機器を組み込むことにより、被検者の日常生活を妨げずに生理量や行動を計測するというところにある。被検者は無侵襲かつ無拘束で計測が可能であり、計測は自動化されており煩雑な機器操作を求められない。また、計測されていることすら意識させずに在宅で計測が遂行可能である。本研究では、これまでの研究成果を実用化するため、長期間にわたってデータを収集し、得られたデータの解析・解釈の方法を確立することを目的とした。具体的には、このために一般家庭で使用できるシステムを開発することをねらいとした。研究においては以下を行った。まず、独居被験者を対象とした生理量および行動モニタリングのためのシステムを構築し、モニタリング実験を行い、連続3ヶ月以上のメンテナンスなしでのモニタリングが可能であることを実証した。また、3世代家庭においても行動センサを用いてのモニタリングを行なった。また、小型の3軸加速度および3軸磁気センサを内蔵した腕時計型データロガーを開発し、生活行動中の測位が可能であるかどうかについて検討した。また、収集した行動データの定量評価法の開発を試み、具体的な評価法を示した。生理量モニタりんぐについては、ベッド内温度計、浴槽内心電計、トイレ体重計を用いた1ヶ月以上の連続計測を示したほか、トイレ体重計を改良した。また、被験者のプライバシや家庭に導入するモニタ機器のセキュリティに関して検討を行った。結果、本研究においては、長期の在宅健康モニタリングと、それを支援するための定量的評価プロセスが可能であることを示した。なお、被験者のプライバシ保護については更なる議論が必要と考えられた。
著者
井上 寛司 山岸 常人 小林 准士 平 雅行 久留島 典子 関根 俊一 淺湫 毅 松浦 清 大橋 泰夫 小椋 純一 和田 嘉宥 的野 克之 田中 哲雄 松本 岩雄 鳥谷 芳雄 花谷 浩 山内 靖喜 野坂 俊之 石原 聡
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

天台宗の古刹である浮浪山鰐淵寺は、中世出雲国一宮出雲大社の本寺として創建され、極めて重要な役割を果たした。本研究は、鰐淵寺に対する初めての本格的な総合学術調査であり、鰐淵寺の基本骨格や特徴、あるいは歴史的性格などについて、多面的な考察を加え、その全容解明を進めた。
著者
坪井 孝夫 小川 輝繁 宇高 義郎 三宅 淳巳 石井 一洋
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

炉心溶融時に生ずる水素に起因するデトネーションに関して、3年間に以下の研究成果を得た。(1)炉心溶融時の雰囲気中に存在する水蒸気がデトネーションへの遷移(DDT)に及ぼす影響を実験的に調査するために、水蒸気濃度を0%から4-5%へと変化させた結果、全長13mのデトネーション管では3-8%の水蒸気を含む混合気ではDDTが生じなかった。実験条件によりこの限界は変化した。衝撃波管を用いた実験では、DDTが生ずるまでの誘導時間は、水蒸気濃度と初期温度に強く依存した。(2)局部的に混合気濃度が異なる場合、すす膜観測より、通常のすす膜構造と異なる規則的模様が観測され、複数の燃焼形態か混在することが観察された。(3)生じたデトネーションが構造物間の狭い空間を伝播する際の挙動については、間隙長一定の場合に、デトネーションのセルサイズが同一であっても混合気の組成によって伝播形態が大きく異なった。さらに混合気の組成(当量比、窒素およびアルゴン希釈割合)を大きく変化させた場合は、同一のセルサイズに対しては水素過剰混合気の方が速度欠損が大きかった。同一希釈量では、窒素希釈の方がアルゴン希釈よりも間隙内速度欠損が大きかった。(4)デトネーション管端にステンレスチューブを複数本最密になるよう挿入し、チューブ内径および長さがDDT過程に及ぼす影響について調べた結果、チューブの挿入によりDDT距離が大幅に短縮された。本研究の遂行にあたり、石井一洋、三宅淳巳、坪井孝夫と同行の大学院生がアーヘン工科大学を訪れ、アーヘン大学のオリビエ教授、シュミット助手、ビークリング助手、グレーニッヒ教授を招聘し、研究打ち合わせ並びに共同実験を行った。
著者
都留 民子 高林 秀明
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

就労・家族生活における変動(events)に向き合う主たる姿勢・行動は、「自己防衛」「個別的奮闘」あるいは「個別的抵抗」であり、状況・問題の「社会化」がまれなことが、住民たちの言説において明らかになった。個人的対応こそが、スパイラルに貧困(化)をすすめ(健康悪化を含む)、そこでは家族はしばしば重い「拘束」「負担」となり、貧困の防波堤にはなっていない。他方、安定的な、かつポジティブなアイデンティティの形成は、労働ではなく、包括的な社会制度(失業対策事業・生活保護など)によって可能となっている。
著者
枝川 明敬 山本 眞一 小林 信一 加藤 毅 吉川 裕美子 柿沼 澄男
出版者
学術情報センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

学術研究の総合的推進のための重要な柱の1つである若手研究者の養成に関しては平成8年7月の科学技術基本計画における「ポストドクター等一万人支援計画」の閣議決定以降、着実に各省庁で施策の充実が図られており、平成11年度には1万人に達した。このため、この計画による若手研究者の養成の実績やその後の活動状況を検証し、大学院の拡充計画をも視野に入れた今後の長期的展望に立った量的・質的側面の両面を考慮した新たな若手研究者の育成・確保の在り方について研究を行った。本年度においては、昨年度に引き続き、以下の項目について調査・分析を行った。1)日本学術振興会特別研究員制度等の実態と効果に関する調査・分析2)将来の研究者需要に関する調査・分析3)全国の大学研究者に対するポスドクの研究評価及びポスドクの研究環境に関する調査・分析より具体的には、1)については対象者数5,500余社の特別研究員に対し、現在の研究環境を始め、当該人の処遇や勤務先・職場・キャリアパスについてはアンケート調査を行った結果をもとに、その更なる分析を行った結果現在の研究者としてのキャリアパスに少なからず特別研究員の経歴が役立っていることが知れた。一方、2)については、博士課程修了者等を雇用することが予想される企業に2,500余社に対しアンケート調査を行った結果を元にその更なる分析を行った。その結果、以前行った調査(「大学院の量的整備に関する調査研究」1,998)において予想された研究者需給見込みを大幅に変更する必要はなく、その後の経済状況を勘案しても一部に需給バランスが崩れることがあるもののおおよそ釣り合っていることが知れた。また、3)については、今年度初めて調査を行い、大学研究者から5,000名を抽出し、ポスドクへの評価やポスドクを巡る研究環境を聞いた結果、研究環境はかなり恵まれているものの、本人が評価している程には、指導研究者のポスドクへの評価は高くなかったが、概ね、助手クラスの研究活動の同等との評価が大勢であった。
著者
前田 隆浩 中島 憲一郎 高村 昇 山崎 浩則 草野 洋介
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

特定健診受診者1,295人を対象として、動脈硬化に関連することが報告されている遺伝子MTHFR(rs1801133)、HDAC4(rs3791398)、CARKL(rs465563)、Adiponectin(rs1501299)について多型解析を行い、頸動脈内中膜複合体厚(CIMT)と心臓足首血管指数(CAVI)との関連について検討した。いずれの遺伝子においてもCIMTとCAV Iとの間に有意な関連を認めず、ハイリスクアリルの保有数をもとに分類した5群における解析でも有意な関連は認めなかった。しかし、保有数が多いほどC AVI値が上昇する傾向があり、遺伝子多型と動脈硬化との関連が示唆された。
著者
齋藤 俊行 林田 秀明 川崎 浩二 前田 隆浩
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

五島市で実施した健診受診者のうち「40歳以上で10本以上の歯を有する」1053人を対象に分析し、歯周ポケットの深さの平均値と頸動脈の血管の厚み(IMT)、全身の動脈の硬さを示す心臓足首血管指数(CAVI)の関連をみた。その結果、歯周ポケット深さの平均値が1mm増えると、IMTが0.02mm厚くなり、動脈壁が肥厚するリスクが43%増加、さらにCAVIは0.13増加し、CAVIの異常値(8以上)を示すリスクが32%増加していた。また、血中の活性酸素は、歯周病細菌の特にPg菌の血清抗体価と正の相関を示し、活性酸素値の高い者ほど歯周病が悪化しており、酸化ストレスと歯周病の関連性が認められた。
著者
長谷見 雄二 山田 常圭 金森 道 李 海峰
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、環境共生建築のひとつの手法として注目されているアトリウム型建築とダブルスキン型建築について、自然換気と煙制御を両立させる技術的可能性を検討した。環境共生や省エネルギーの要求などから、自然換気の活用への期待が高まっているが、火災安全の視点からは、このように自然換気を促進するための開放的な空間構成は、火災時には、煙の流動拡大を引き起こし、全館に人命危険を及ぼすおそれが大きいため、特殊な例を除いてはなかなか普及していない。この実状は、自然換気システムは、今後、必要性を増すと考えられるにも関わらず、それに適した煙制御計画手法が未整備なままであることが、その適用を特殊な条件に限定し、普及や技術的展開を阻んでいることを浮き彫りにするものである。そこで、本研究は、自然換気と煙流動が同一の流体力学的原理-煙突効果に支配されることに注目し、新たな視点から、ソーラーチムニーによる自然換気システムをほぼそのまま煙制御システムとして利用する設計概念を提示して、その有効性・妥当性を模型実験と数値計算により実証した。本システムでは自然換気のシステムを煙制御に対しても用いることになるので、火災時にも機械の力を頼らずに自然換気システムのポリシーを一貫にしたうえ、設備・しくみが煙制御のためだけのものでない分、コスト的に有利になるものという二次的な効用も得られると考えられる。意匠・空間計画に対しては、排煙設備や遮煙シャッターなどが軽減・省略できるという観点では、本システムは有利なものであるといえる。本研究の成果に基づいて、現在の一般的なアトリウム型建築・ダブルスキン型建築に著しい改変を及ぼすことなく、火災安全性能を確保できるため、今後、自然換気を活用した環境共生・省エネルギーと火災安全性の両立を実現させる建築を普及させていくことが期待される。
著者
塩野 清治 升本 眞二 八尾 昭
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は,地下構造を探求する地質学的原理の定式化を通じて,地質調査データにもとづいて3次元地質構造を推定する計算機処理システムを具体化することである。地質学の原理に関する理論面での研究では,地層の分布域,地層・化石・地質年代の関係,地層の対比・区分など地質学の基礎概念が集合,関数,関係,同値関係,順序関係,ブール代数など離散数学の初歩的概念で表現できることを示した。また,地質学の基本原理である「地層累重の法則」に対して数学表現を与え,この法則が地層の形成順序や層序区分の基礎であることの理論的根拠を明らかにした。これは地層学的対象の計算機処理の原理を提示するとともに,「地質学の数学的基礎」という従来にない新しい研究分野への展望を与える重要な成果である。また,堆積作用と侵食作用で形成される地質構造に対する数学モデルにもとづいて,地層の分布域と体積面や侵食面に相当する曲面との間に成り立つ論理的関係(論理モデル)を一般表現する方法を導いた。論理モデルとの曲面の具体的形状が与えて地層の分布域が確定するという立場から,地質調査データから地質図を作成する過程を一連の数学的手続きとして形式表現した。これは地質図の計算機処理に対する理論的基礎を与えるものである。計算機処理の面では、露頭での観察データを入力して3次元地質構造を出力するアルゴリズムを研究した。処理システムは空間情報の入力・管理・解析・モデリングの標準基盤として多くの分野で実用されているGIS上で開発した。処理システムの有効性は既存の平面地質図を入力データとして、3次元地質構造を推定することによって検証した。2次元の空間情報を対象としたGIS上で3次元の地質構造を処理できる道を開いたことは3次元GISの発展や地質情報の活用を促進する上で重要な意義を持つ。
著者
上野 行一 奥村 高明 岡田 京子 三澤 一実 一條 彰子
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究を通して、対話による意味生成的な美術鑑賞教育の地域カリキュラムおよび指導法を構築し、その成果を『北九州市美術鑑賞教育カリキュラム』ならびに『東京都府中市美術鑑賞教育カリキュラム』にまとめた。学校と美術館、地域が一体となって進める鑑賞教育の授業研究を、北九州市で31回、東京都府中市で17回それぞれ実施した。また美術鑑賞教育フォーラムを3回開催し、これらの成果を大学美術教育学会等で発表した。
著者
大井 恭子 田中 真理 成田 真澄 阿部 真理子 保田 幸子 板津 木綿子 ホーン ベバリー 小林 雄一郎
出版者
清泉女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は日本、韓国、台湾、香港という東アジアに位置する4か国がする英語ライティング教育に関して、アンケート調査によって実態を浮き彫りにし、そして互いが一堂に会することで実態を比較しあい、問題点などを共有し、今後の展望などに関して国際シンポジウムとして意見交換ができたことが一番の成果と言える。さらに、学習者コーパスを精査することにより、4か国・地域の学生の書く英語の諸相が明らかにされた。最終成果物として『EFL Writing in East Asia: Practice, Perception and Perspectives』を刊行し、多くの方と共有できたことで、この分野の進展につながった。
著者
木村 英紀 牛田 俊 大石 泰章 津村 幸治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

この研究の目的は、脳の運動制御から生まれたモデル駆動型適応制御とよばれる新しい適応制御の方式を制御論的に定式化し、制御系設計論として確立することである。さらに、モデル駆動型適応制御の適応制御の発展上における位置づけとそれがもつ性質を理論実証両面から明らかにすることにより、適応制御および脳の運動制御の双方の分野に対して、「複雑系」を扱うための方法論としての新たな発展をもたらすことを目指している。主に次の3つのテーマを中心に研究を行った。(1)モデル駆動型適応制御の制御論的な定式化、および運動制御との関連(2)複雑系の同定手法の確立とその構造解析、および学習との関連(3)種々の複雑非線形系に対する制御論的アプローチ(1)については小脳のモデルとして提案された「フィードバック誤差学習法」を2自由度制御系として定式化し、その構造の解析および系の収束性の証明を行った。さらに、これらの結果はフィードバックループ内にむだ時間が含まれる場合へと拡張され、高い制御性能を達成することが示され、複雑なシステムに対する制御系設計のアーキテクチュアとして、適応制御に新しい領域を切り開きつつある。(2)においては、より広い意味での複雑系に対する同定手法の確立を目指している。システムの「複雑度」の扱いを制御系設計において重要となる種々の問題として捉え、構造の解析やモデリング手法の確立において一定の成果を得た。個々の問題は、複雑系を扱う上での難しさの本質に迫る興味深いアプローチを含んでいる。(3)は、制御対象として種々の複雑系への広がりをみせた結果であり、多彩な成果を得た。具体的には、モデル駆動型適応制御を用いた非線形ロボットアームや燃料電池自動車の改質システムの制御をはじめとして、生理学・生物学への制御論的アプローチ、量子システムの制御、ネットワークシステムの制御まで多岐にわたっている。特に、「制御生物学」「量子制御」に関しては、従来の制御理論では扱ってこなかった新しい分野への道を切り開くきっかけを与える結果であり、大きな成果の一つである。2年間の研究の進展を通じて、大規模かつ非線形性の強い複雑系を扱う場合にも「制御論的なアプローチ」が有効であることが改めて明らかになった。たとえば、人の運動制御、制御生物学を扱う際には、システムのダイナミクスの同定・構造や特性の解析・制御器設計といった従来得られている知見を土台として、理論がされており、制御論として対象を捉える考え方が重要な役割を果たしている。今後の課題としては、本研究成果で提起された種々の複雑系に対して個々の制御問題を定式化し、それらを扱うより使いやすい制御理論的な道具立てを整備することが挙げられる。
著者
佐久間 芳樹 池沢 道男 斎木 敏治
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

発光波長や強度などの特性が揃った単一光子源への応用を目指し、III-V族半導体中の等電子不純物による局在準位の制御と利用に関する研究を行った。具体的には、ガリウム砒素中の窒素不純物の最適なドーピング手法を調べ、エネルギーの揃った単一光子発生を世界で初めて実証するとともに、発光寿命や偏光などの特性について明らかにした。本研究によって多くの基礎データが取得でき、今後の技術開発に不可欠な有益な知見が得られた。
著者
西谷 真規子 庄司 真理子 杉田 米行 宮脇 昇 高橋 良輔 足立 研幾 大賀 哲
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008-04-08

本研究では、国際規範の発展における規範間の競合または複合のプロセスを明らかにすることを目的とした。グローバル、リージョナル、ナショナルの各レベルにおいて、①規範的アイディアの競合や複合が、どのような制度変化をもたらすか、②多様な行為主体(国家、国際機構、市民社会、企業等)が競合または複合の過程にどのように関っているか、または、競合や複合から生じる問題をどのように調整しているか、の二点を中心的な問いとして、事例分析を行った。成果は、国際・国内学会発表や論文発表を通じて逐次公開した。最終的には、編著『国際規範の複合的発展ダイナミクス(仮題)』(ミネルヴァ書房)として近刊予定である。
著者
川崎 誠治 石崎 陽一
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

GV/SV比40%以下のグラフトを含む左葉グラフトを用いた生体肝移植でも成績は良好であった(1年生存率100%、5年生存率94%)。左葉グラフト移植後に門脈血流量の著明な増加が認められた。また移植後門脈圧と移植後二週間の一日平均腹水量に相関が認められ、移植後の門脈圧が25mmHg以上の症例では大量の腹水が認められた。移植後門脈圧が25mmHgでは脾動脈結紮、脾摘などの門脈流量調節が必要と考えられた。