著者
藤井 守男 佐々木 あや乃
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、神秘主義の発展過程からみて重要性が際立つ3つのペルシア語説教テクストの特徴を明らかにするため、独自の検索機能を設定した「ペルシア語説教テクスト文例対比データベース」を構築した。これを活用することで、13世紀の後半に頂点を迎えるペルシア神秘主義文学の形成過程に、ペルシア語説教テクストが果たした役割の学問史的位置づけを実証的に提示することが可能となった。
著者
木内 幹 田中 直義 村橋 鮎美 三星 沙織
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

醗酵食品の嗜好性に対する食文化の一端を明らかにすることを目的として、東南アジア各地で大豆醗酵食品の製造・利用方法を調査し、試料中の風味物質を分析した。食品中に存在する細菌のフロラを解析して、それらの風味物質が生産される過程を推測し、応用の可能性を検討した。調査地は、カンボジア東北部(平成18年2月)、ミャンマー・シャン州東北部(18年10月)、ラオス北部(19年10月)であった。カンボジアには「シエン」と称される大豆醗酵食品が製造・利用されている。シエンは醗酵させた大豆を高濃度の食塩水に入れて1週間以上熟成させる方法で製造される調味料である。これまでの文献にシエンの報告は認められない。ミャンマーには「ペーポ」と、ラオスには「トゥアナオ」と称される大豆醗酵食品が製造されている。いずれも醗酵させた大豆に食塩とトウガラシを主成分とする調味料を添加し、熟成させることで製造されている。調査と分析により、カンボジアとラオスとの間に製造、利用方法に大きな差異のあることが明らかになった。今後は、この地域を詳細に調査したい。ペーポから分離された細菌を用いて新規糸引き納豆の開発を行った。採集した試料29点から同定によりBacillus subtilisを得て、そのうちの42株を蒸煮大豆に生育したコロニーの糸引きから納豆菌として選別した。分離菌の生育最適温度は33℃〜45℃まで広範囲であった。納豆製造試験で10株を選別した。それらの菌株を用いてわが国の納豆は異なる軟らかい納豆などを作ることができた。カンボジアのシエンから134株を分離してスクリーニングを行い、さらに納豆の製造試験を行って10株を選抜した。Bergey's Manual of Systematic Bacteriology第2巻に準拠した同定の結果、白色を呈しコロニー表面がしわ状で、好気性有胞子桿菌であり、それらはいずれもBacillus subtilisであった。
著者
高木 彰彦 遠城 明雄 荒山 正彦 島津 俊之 中島 弘二 山野 正彦 源 昌久 山本 健児 熊谷 圭知 水内 俊雄 久武 哲也 山野 正彦 源 昌久 山本 健兒 熊谷 圭知 水内 俊雄 内田 忠賢 堤 研二 山崎 孝史 大城 直樹 福田 珠己 今里 悟之 加藤 政洋 神田 孝治 野澤 秀樹 森 正人 柴田 陽一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

公共空間と場所アイデンティティの再編について、地理思想史、理論的研究、経験的研究の観点から検討を行った。研究成果として、『空間・社会・地理思想』10(2006)、『空間・社会・地理思想』11(2007)、『空間・社会・地理思想』12(2008)を毎年刊行したほか、英文報告書として『Reorganization of public spaces and identity of place in the time of globalization : Japanese contribution to the history of geographical thought(10)』(2009)を刊行した。
著者
池田 和彦 額田 敏秀 池田 研二
出版者
(財)東京都医学研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

3年研究の初年度、米国スタンレー財団精神疾患脳バンクより分与された疾患(統合失調症・双極性障害・大うつ病)・対照脳の前頭葉および側頭葉組織の遺伝子発現をDNAチップおよびTaqMan法でしらべたところ、ニューロペプチドY遺伝子の発現は、統合失調症(精神分裂病)の前頭葉で有意に減少していることを見いだした。次年度は、理研・加藤忠史氏との共同研究で同スタンレー試料前頭葉60検体について60個のDNAチップを用いて個別に比較検討し、統合失調症前頭葉でニューロペプチドY遺伝子の発現が低下することを確認した。ニューロペプチドY遺伝子の発現低下は、検索対象の年齢、性別、死後時間、服薬量とは関係しないことから、ニューロペプチドY遺伝子発現の低下が統合失調症の病態と関連している可能性が考えられた。そこで最終の本年度は、ニューロペプチトY遺伝子をターゲットとして、統合失調症患者と健常者に差がみとめられるかとうかをしらべた。ヒトのニューロペプチトY遺伝子の9カ所に1塩基置換の多型もみつけた。このうち7つはデータベースに存在しない新規のものであった。統合失調症群と健常者群のあいだでこれららの多型の出現頻度がことなるかどうかをしらべた。この結果、-485C>T多型は統合失調症の遺伝子リスクファクターであることか明らかになった。
著者
竹田 敏一 山本 孝夫 山本 敏久 代谷 誠治 北田 孝典 宇埜 正美
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

初年度の作業では、MA核種と金属燃料希釈材を併用した超長寿命炉心の概念を検討し、その核的な成立性が高いことを示した。また、MOX燃料ナトリウム冷却炉心と金属燃料鉛冷却炉心の、燃料形態・冷却材の違う炉心において、燃料にMAを添加して炉心計算・燃焼計算を実行し、MAの核変換率について中性子スペクトルの違いを用いて検討した。また、核変換の内訳を直接核分裂率と間接核分裂率、捕獲反応による核変換の3つの因子を用いて比較した。2年目の作業では、半理論的燃焼方程式によるMA核種の燃焼特性への影響を評価する方法を確立し、超長寿命炉心に適用した場合の最適初期装荷量について検討を行った。結論として、1)Np-237は、高中性子束においては、燃焼による出力変動に悪影響を与える。よって、低中性子束の領域で照射することが望ましい、2)ブランケットにNp-237を大量(57%,残りU-238)に装荷することによって、Puビルドアップによる出力上昇を緩和できる可能性がある、などの知見が明らかになった。最終年度では、KUCAのB架台において、金属燃料の希釈材候補である、Nb, Cr, W, Pbの各核種についてサンプル反応度の測定を実施した。いずれの核種も、適切な量を炉心中央部に装荷することにより、ペリオド法によって精度よくサンプル反応度の測定を行うことができた。この種の実験においては、サンプルの出し入れに伴う反応度のずれが大きな問題となるが、5回にわたる再現実験の結果、最初の1回を除いて再現性は非常によいことがわかった。
著者
仁木 宏 玉城 玲子 原 秀樹 長宗 繁一 福島 克彦
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

大藪村にかかわる中世史料、近世史料の収集、目録化、分析をおこなった。地形図、絵図、地籍図、航空写真等の資料を収集し、トレース、デジタル化し、また分析を加えた。大藪村のみならず、広く乙訓地区の発掘調査の成果をまとめ、遺物・遺跡について整理するとともに、目録化した。現地踏査においては、水利・民俗慣行などについて、聞き取りを実施し、また墓塔などの石造物調査も進めた。その結果、自然地理的環境条件、中世集落遺跡の立地、近世の水争いや桂川渡船の実態などについて明らかにすることができた。さらに、山城国以外の諸地域について、古文書調査や踏査を通じて、中世集落・地域社会の実態を解明し、比較検討する方法を編み出した。これらの情報を研究代表者・研究分担者間で共有するため、月1〜2回のペースで会合を開いた。平成14年5月19日、第13回平安京・京都研究集会「京郊中世村落の歴史的環境-西岡大藪村を中心に-」(日本史研究会と共催)を開催し、40名程度の研究者に対して、調査研究の中間報告をおこなった。また同10月27日、現地講座「大藪のあゆみ」を現地で開催し、地元の方々45名に対して調査成果の還元をはかった。
著者
佐瀬 勘紀 石井 雅久 池口 厚男 蔵田 憲次 兼子 敬子
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

半乾燥地域に位置するアリゾナ大学環境調節農業センター(CEAC)のポリエチレン二重被覆温室を用いて環境測定を行った結果、自然換気と組み合わせた細霧冷房において、一定の設定気温の下で、換気量を減少させると湿度が増加し、細霧冷房のための水消費量が減少することを明らかにした。これは熱収支に基づく予測と一致した。また、気温と湿度を同時に制御する簡易な制御アルゴリズムを考案し、トマト栽培下で動作させた結果、目標の気温24〜25℃、相対湿度65〜75%にほぼ制御できることを明らかにした。水消費量の抑制は、湿度が高まることによる蒸散量の減少が大きく寄与した。一方、細霧冷房時の環境の分布特性も明らかとなり、特に、気流について、温室中央では上方に、周囲では内側あるいは下方に向かう気流が発生していることが明らかとなった。光質については、赤色/遠赤色比が、畝間では下方にいくに従って徐々に減少し、群落内では中央高さで最小となった。対象温室は天窓の開口部が屋根自体が開閉するという特徴があり、自然換気の基本的特性を解明するため、縮尺1/15の模型を用いて風洞実験を行った。その結果、天窓の開口部が風下に面し、両側窓が開放されている場合、温室内平均気流速やその分布が優れることを明らかにした。天窓の開口部が風上に面している場合は、外気が天窓上端から巻き込むように流入し、温室内に逆流を伴う循環流が形成された。天窓開口部の向きは平均気温には影響しなかったが、開口部が風下に面している場合、温室の中央から風下にかけて高温域が発生した。換気窓開口部への防虫スクリーンの設置の影響は大きく、温室内気流速は設置しない場合の40〜68%まで減少した。これらの結果は、半乾燥地において水使用量を抑制しつつ効率的な生物生産が可能であることを示している。
著者
林 真紀夫 谷 晃
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

細霧システム利用に関する試験を行い、以下の成果が得られた。1.冷房時の温室内環境の把握実用規模の大型温室において細霧冷房時の環境計測を行い、細霧の断続噴霧運転における、温室内の温湿度環境の経時変化の実態を明らかにした。2.換気率解析細霧冷房では、温室の換気率の大小が温湿度環境に大きく影響することから、日本型温室と大型フェンロー温室で換気率測定を行い、実態を把握した。3.運転制御法の検討細霧冷房では一般に断続的細霧噴霧を行う運転制御が行われている。1時間当たりの噴霧量が同じ場合に、どのような細霧噴霧周期が適当かを検討した。その結果、1回当たりの噴霧時間を短くすることで、温湿度変動幅が小さくなり、未蒸発細霧の落下が少なくなることが判明した。4.細霧冷房設計用ソフトウェア開発温室諸元、屋外乾湿球温度、温室内吸収日射量のパラメータを与えることで、温室の換気率および温室内蒸発散量との関係で温室内気温および相対湿度を推定することのできるVETH線図(Ventilation-Evaporation-Temperature-Humidity関係線図)をコンピュータ画面上で描くソフトウェアを開発し、細霧冷房設計に役立てられるようにした。5.薬剤散布における細霧付着の改善細霧システムを利用した薬剤散布において、葉表面および裏面への薬剤付着量を調べた。この結果、葉裏面への付着量は極めて少ないことが明らかとなった。しかし、攪拌扇による空気攪拌によって、葉裏面への付着量が若干増加することが確認できた。
著者
赤尾 勝一郎 佐伯 雄一
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

植物体内に生息する窒素固定細菌は窒素固定エンドファイトと呼ばれている。窒素固定する植物は根粒菌の共生するマメ科植物とフランキアの共生する十数種の植物に限られている。しかし、ブラジルにおいて、20数年前、サトウキビの中には根粒構造を伴わない共生窒素固定系の存在が示された。窒素固定エンドファイトの生息するサトウキビの中には60〜70%の窒素固定寄与率を示す場合のあることが報告された。その寄与率はマメ科植物-根粒菌の共生系に匹敵する。また、窒素固定エンドファイトは、サトウキビの他にイネ、ムギ、ソルガムといったイネ科の主要作物、バナナ、パイナップル、チャなど、科を越える多くの植物種に内生することも明らかにされた。このことは、マメ科以外の作物にも窒素固定機能を付与することの可能性を示した。しかし、これを実現させるためには幾つかの解決すべき問題点がある。その中で特に重要なことは、有用菌の選抜と、植物体内への定着と増殖である。増殖と定着の指標には窒素固定量の把握が必須であり、本研究では、この3点を重点的に検討した。研究期間は平成16年から19年までの4年間であり、前半では、GFP標識のHerbaspirillum sp.の接種試験、サトウキビとサツマイモから単離した窒素固定細菌の同定と窒素固定活性の測定と、サトウキビとサツマイモから単離した窒素固定細菌へのGFPによる標識を試みた。後半には、GFP標識菌を利用した接種法の検討と、一定の生育期間を通じて窒素固定量を推定する方法を検討した。その結果、サトウキビから12菌株、サツマイモから27菌株の窒素固定細菌を単離した。供したHerbaspirillum sp.、Enterobacter sp.、Pantoea sp.に関する宿主特異性は認められなかったが、菌と植物種や品種との間には親和性の強弱が認められた。また、接種法としてはレオナルドジャーに植えた幼植物の地下部に10^8cells/mlの高濃度が高い効果を示したが、実用技術としては萌芽茎への接種を検討すべきであるとの結論を得た。
著者
中谷 文美 宇田川 妙子 石川 登 今野 美奈子 宇田川 妙子 石川 登 金野 美奈子 松前 もゆる
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、日本、オランダ、イタリア、ブルガリア、マレーシアという5つの異なる社会において、広い意味での「仕事」をめぐる事象や社会通念が、それぞれの社会におけるジェンダー規範や政治的・経済的変化との相互作用の中で、どのように変容し、あるいは維持されてきたかという問題を比較・検討した。その結果、何が仕事で、何が仕事でないか、といった区分も含め、多様な労働観が各社会に存在すること、また急速な産業化、政治体制の変化、社会政策の展開などが、仕事の水準をめぐる規範や特定の労働の担い手などに変化をもたらす過程を明らかにできた。
著者
小塩 允護 肥後 祥治 干川 隆 佐藤 克敏 徳永 豊 齊藤 宇開 竹林地 毅
出版者
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、国内外の知的障害のある人の生涯学習の展開について、法制度の変遷、文化的背景等の社会的要因、参加者及び保護者のプログラムに参加した経緯、これまで受けてきた支援や教育のヒストリー等、支援者の障害に関する認識とプログラムの内容等の個人的要因を検討し、わが国における知的障害のある人のために有用な生涯学習プログラムや支援方法等を開発することである。本研究の成果として,海外の生涯学習のプログラムの開発を行うための資料を整理し,生涯学習における支援プログラムの開発に寄与することができた。研究最終年次である平成18年度は、年度当初に研究協議会を開催し、3年間に得られた結果を整理し、報告書の項立てと執筆分担などを決めて、平成19年2月までに報告書を作成した。アメリカのシラキュウス地区では、シラキウス大学とシラキウス学区との提携で行われているオン・キャンパス・プログラムについて、プログラム参加者、支援者、企画責任者との面接調査を行った。また、障害のある人の自己権利擁護運動と生涯学習との関連についてシラキウス大学の研究者から情報収集した。イギリスのロンドン地区では、イギリスの自閉症協会が運営する自閉症学校2校(初等教育学校、中等教育学校)、ハートフォード州立の初等教育学校1校、特別学校2校(初等教育学校、中等教育学校)を実地調査するとともに、自閉症協会の教育部門責任者、自閉症協会運営の高機能自閉症に特化した就労支援機関(プロスペクツ)責任者、ハートフォード州教育委員会のスベシャリスト・アドバイザリー・サービス担当者との面接調査を行い、イギリスが推進する教育改革やインクルーシブ教育、自閉症協会が推進するSPELLに代表される支援理念が自閉症のある人の生涯学習を進める上でどのようなインパクトを持つかについて資料収集した。報告書では,知的障害のある人の成人教育の概略,北米における知的障害のある人の高等教育機関での生涯学習の展開,オーストラリアにおける知的障害のある人の生涯学習,フィンランドにおける特別ニーズ教育と障害のある人の生涯学習,ニュージーランドの知的障害のある人の生涯学習,イギリスにおける特別な教育的ニーズに応じる教育と生涯学習の項目で,分担執筆した。
著者
田中 開 井上 正仁 寺崎 嘉博 長沼 範良 池田 公博 笹倉 宏紀 井上 和治
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、主として治罪法以降の刑事訴訟関係立法や実務の運用に関する貴重な資料を、その散逸・滅失が危ぶまれる現時点において、収集・整理することが、現行法の解釈に際してのみならず、将来予想される刑事訴訟法の全面改正を検討するについても、有益と考えられることに鑑み、主として治罪法以降の刑事訴訟法典の立案・制定の過程、および、実務の状況を跡付けようとの意図のもと、実施されたものである。その結果、寺崎嘉博教授による、「任意処分と強制処分との区別について・再論」などの論稿が生み出され、また、井上正仁ほか編『日本法律学事典』(第一法規)および井上正仁・渡辺咲子・田中開編著『刑事訴訟法制定資料全集-昭和刑事訴訟法編(2)』(信山社)の出版作業が進行中であるなどの成果を得た。また、本研究では、単に歴史を振り返るにとどまらず、刑事訴訟法の基本原理・原則や基本問題について再考するとともに、現在進められている、また、今後進められるべき刑事手続の改革についても検討を行い、(1)刑事免責、(2)ハイテク犯罪関係立法、(3)証人保護、などに関し、一定の成果を公表することができた。3年間の研究の中において痛感したことの一つは、古く貴重な文献・資料をデジタル化などの方法により早急に保存することが緊急の課題だということである。折角、遠方の大学図書館に赴きながら、貴重な資料につき、保存上の理由から、複写ができなかったこともあった。また、第二次世界大戦中の空襲により貴重な立法資料が焼失してしまったこと、など、予期せぬ障害に遭遇することもあった。ともあれ、前述のような一定の成果が得られた。研究期間は満了したが、今後さらに、研究を深め、更なる成果の公表につとめたい。
著者
喜多 伸一 松本 絵理子 辻本 悟史 野口 泰基 寺本 渉 山口 俊光
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、手指が物体に触れるときの情報処理過程を調べるため、心理学実験と生理学実験を行い,触覚的注意の性質を解明することを目的として遂行した。そのためまず基礎科学に重きを置いた研究として、健常者を対象とした触覚探索の実験を行った。またその後に実世界での応用に重きを置いた研究として、視覚障害者を対象に含めて触地図内の図形の探索実験を行った。これらの実験により、触覚的注意の時空間特性を計測して視覚的注意と比較し、物体触知の能動性を解明した。
著者
冨安 卓滋 松山 明人 井村 隆介 宮本 旬子 大木 公彦 穴澤 活郎 赤木 洋勝
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

イドリヤ川では鉱山地域周辺において、無機水銀の濃度は、鉱山からの距離に伴って減少するが、メチル水銀濃度は、流下に伴い一度上昇した後に低下することが明らかとなった。また、河川底質からの溶出実験により、河川水と底質を一緒に保存すると水中の総水銀濃度は数倍になる一方で、メチル水銀濃度は数百倍にまで上昇する現象が見られた。これは、河川水中メチル水銀の起源として、底質が重要な役割を担うことを示唆するものであった。また、周辺地域への水銀の拡散状況を調べるために、河川底質、川岸土壌、草原土壌、森林土壌表層中の水銀濃度を測定した結果、水銀鉱山に最も近い地点では、河川底質中の総水銀濃度が最も高かったが、下流地点では、草原土壌の総水銀濃度が最も高く、また、メチル水銀濃度は、川から離れるに連れて高くなる傾向が見られた。河川底質、周辺土壌に関して、蛍光X線分析をおこなった結果、河川沿岸土壌、周辺草原土壌は、森林土壌と河川底質の混合層として存在することが明らかとなってきている。これらをふまえて、今年度は水銀の周辺地域への拡散における川による運搬の影響、また、水銀の化学形を明らかにするために、水銀鉱山付近とその約2km下流の2地点において、川岸から山へ向かって約20mおきに各4点、採土器を用いて土壌を柱状に採取した。採取した試料は柱状図を記載し、層ごとに切り分け、石、根などを取り除いた後、チャック付きビニール袋に保存し日本に持ち帰った。現在下流地点の総水銀濃度の測定が終了、水平方向では川岸から2点目に最高水銀濃度が観察され、また、鉛直方向には層毎に大きく水銀濃度が変動することが確認された。これらは、河川の氾濫によって運搬された水銀汚染底質の堆積によるものと考えられる。
著者
伴野 豊 藤井 博 河口 豊 日下部 宜宏 竹村 洋子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では九州大学大学院農学研究院附属遺伝子資源開発研究センターに保存される世界最高水準のカイコ突然変異体の有効利用と効率的保存を目的として行った。その目標は次の3点にあった。1、DNAレポジトリーの確立(遺伝子資源の有効利用)2、精子レポジトリーの構築(効率的保存)3、遺伝子資源の情報発信(情報レポジトリー)上記3項目に関する達成度は以下の通りである。(1、DNAレポジトリー)約450系統を網羅するDNAレポジトリーを計画通り構築した。各系統に関して10個体を個別に保存し,系統内の多型解析を必要とする研究にも対応したレポジトリーとなり、既に国内・外の研究に活用されている。これまでは研究者が飼育を必要としていた為に利用が限定されていたが桑の確保などの必要がなくなり、利用が拡大している(2、精子レポジトリー)本課題では精子を採取する過程と人工授精の過程に極めて高度なテクニックを有する為に、研究分担者である竹村が開発した技術を扱う事が可能な人材の育成に時間を要した。このために目標の全系統の精子レポジトリー構築には至らず、30系統に留まった。今後、技術の改善に努める必要がある。(3、情報レポジトリー)2005年3月までに報告されたカイコの突然変異遺伝子に関する情報の収集を行った。その結果、カイコ突然変異遺伝子に関しては2005年3月までに報告されている全てについて遺伝子記号,遺伝子名,形質特徴,文献引用が一覧出来るデータベースを構築し、「カイコ突然変異体利用の手引き2005」を刊行した。以上,DNA,精子,情報という3つ事項のレポジトリー化が計られ,カイコ遺伝子資源を効率的に活用・保存できる基盤が出来上がった。
著者
熊木 俊朗 大貫 静夫 高橋 健 佐藤 宏之 福田 正宏 臼杵 勲 國木田 大 高橋 健
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、古代から中世における日本列島の北方地域の社会変動について、特に中世アイヌ文化の形成過程に関する問題を中心に考古学的な検討をおこなった。具体的には、北海道東部地域を主な対象としてオホーツク文化の考古資料分析と擦文文化集落の発掘調査を行うことによって、この地域におけるオホーツク文化の終末とその後の擦文文化の展開・終末の過程を解明し、中世アイヌ文化が成立するまでの社会変化の実態を復元した。
著者
對馬 達雄 今井 康雄 遠藤 孝夫 小玉 亮子 池田 全之 山名 淳
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、戦後ドイツを通底する課題である「過去の克服」という課題に、これまで等閑視されてきた精神史、文化史、広く人間形成の側面からその本質に迫ることを目的としている。本年度は、7名の分担者が交付申請書記載のそれぞれの研究テーマに則して、文献・資料の分析を進め、2回の全体研究会を通じて、共同研究としての統一性を保ちつつ研究を進めた。より具体的には、まず遠藤は、州憲法及び基本法の制定を通して、ナチズム克服の理念としてキリスト教の復権が行われたこと、小玉はナチズムにより解体の危機に瀕していた家族の再建に関する議論と施策が行われたこと、渡邊はナチ教義の注入手段と化していた歴史教育の再建において、ヴェーニガーの「政治的歴史教育」の理念が重要な役割を果たしたことを明らかにした。また、池田は20世紀ドイツを代表する哲学者ハイデガー、リット、ヤスパースの「過去」に対する思想的対応の相違を腑分けし、今井は「政治的成人性」の理念を中核とするアドルノの教育思想の特質を「過去の克服」との関連で明らかにし、對馬は反ナチ運動の復権を司法界において最初に宣明した「レーマー裁判」の意義を検事ブリッツ・バウアーの思想と行動に関連づけて明確にした。そして、山名は「追悼施設教育学」の成立経緯とその今日的意味を「記憶文化」と関連づけて明らかにした。これらの研究成果は、平成23年3月に上梓された對馬達雄編著『ドイツ過去の克服と人間形成』の各論文として収録された。
著者
西村 直子 西條 辰義
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は,理論・実験の両側面から,自主流通米価格形成センター方式の入札市場における価格形成メカニズムの意味を解明し,コメの実勢需給をより反映できる代替市場制度を提案することを目指すものである。コメ市場は銘柄米ごとに,1人の売り手(農協)に多数の買い手(卸)が入札する,売り手独占体制である。また,買手と売り手ともに市場の常連である。参加者は互いの状況に関する豊富な情報を持っていると考えてよいため,オークション分析ではあまり用いられない完備情報ゲームとして分析するのが適当である。理論研究においては,コメ入札市場のゲームモデルを構築し,その均衡の特性を分析した結果,コメ価格設定ルールと上記情報環境の特殊性により,売り手独占市場にも関わらず,独占価格や競争均衡価格を含む多くのナッシュ均衡が存在することがわかった。さらに,その複数均衡から精緻化を経て抽出した均衡では,競争均衡に近い配分のみが達成されることがわかった。加えて,実際のコメ市場では,売り手の指値に上限を与えるルールがあるが,これはむしろ,売り手が将来の需要変化を懸念する場合には,指値設定を高止まりさせる誘引を与えることがわかった。以上の理論分析を基にデザインした実験を実施した結果,上記理論に整合的なデータが観察された。したがって,コメ入札市場現場では約定価格下落が懸念されているが,むしろこれは適正価格(=競争均衡価格)への収斂過程における下落傾向である可能性が強いことが判断できる。一方コメ入札市場との比較対象として第二価格入札市場を分析したが,完備情報下では通常の入札行動とは異なる行動が生じることに気づいた。これは参加者心理的な側面に由来するものと思われる。関連して,第二価格入札と競りとの同値性にも疑問が生じた。この点については今後の研究課題として継続していく予定である。2005年,実験経済学の世界組織ESAの公認を受けた初のコンファレンスを主催した。
著者
葛西 康徳 吉原 達也 西村 安博 松本 英実 朝治 啓三 小川 浩三 芹沢 悟 朝治 啓三 吉村 朋代 小川 浩三 芹沢 悟 林 智良 平野 敏彦 南川 高志 北村 麻子 桑山 由文 ゲアハルト チュール エヴァ ヤカブ シーマ アヴラモヴィッチ アデレ スカフーロ ヴォルフガング エルンスト トーマス リュフナー
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

イサイオスの法廷弁論11番及びデモステネスの法廷弁論43番、キケローの法廷弁論「カェキーナ弁護論」を素材として法廷演劇を行うことを構想し、その問題点を検討した。裁判過程全体の再構成を通して、「法」が証人や証拠と同様に位置づけられるという「事実としての」「物としての」法という仮説を提出した。裁判から古代法を見直すことが法の理解を根本から問うことになるという新しい方法論の可能性を示した。
著者
壇辻 正剛 新保 仁 堂下 修司 梅崎 太造 大西 雅行 土岐 哲
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

日本語音声に対するIPA(the International Phonetic Alphabet,国際音声記号、国際音声表記、国際音声字母、国際音標文字)表記の基準作成を求めて、人文系と工学系の研究者が協力して研究を推進した。音声学的側面、音韻論的側面などの言語学的側面および日本語教育などの語学教育的側面、音声の音響分析、音声認識、音声合成などの音響工学、音声情報処理的側面など様々な方面からの研究を統合することによって、日本語音声の記述にIPAという一種のグローバルスタンダードを導入する基盤を確立した。分析対象の音声資料の収集に関しては、既存の音声データベースを活用するだけでなく、独自に音声データの録音、収集、編集を行なった。アンケート調査の結果、相違の著しかった音声を中心に、精緻な音響分析を施し研究の進展を図った。また、比較検討のため他の諸言語の音響分析も行った。主観的な判断に傾きがちであった聴覚印象に頼る音声転写に音響分析を積極的に活用して客観的な基準の作成に努め、定量的な比較や定性的な比較が可能になる新たな音響素性の導入を提案した。また、日本語教育や障害者教育など教育の現場にどのようにIPA表記の問題を活用していくのかを各側面より検討した。その成果の一部をコンピュータ支援型日本語教育システムの開発に導入することが可能になった。IPAのコンピュータ処理に関して、従来のIPAの数値コードの問題点を指摘すると共に、改善案としてより合理的な新たな数値コード化の導入を提案した。さらに、音声合成や音声認識など音声情報処理の分野にIPA表記の問題を導入し、日本語の合成音の記述、表記に関して基準を提供した。音声認識に関しては、特定言語にとらわれない記号系の利用としてIPAを利用する研究を進めるなど、各分野の研究の進展とIPAの応用に新しい側面から視点を与える研究を推進した。