著者
長谷部 文雄 塩谷 雅人 藤原 正智 西 憲敬 荻野 慎也 宮崎 和幸 柴田 隆 山崎 孝治 岩崎 俊樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

ゾンデを用いた現場観測により熱帯成層圏水蒸気量の長期トレンドを明らかにするとともに、熱帯対流圏界層(TTL)内を水平移流しながら巻雲を形成し凝結脱水中の大気の対氷過飽和度が80%に達する事例を見出した。また、観測された大気の水蒸気混合比とその大気の流跡線に沿って上流へ遡ることにより評価される最小飽和水蒸気混合比との比較解析により、TTL内を水平移流しながらゆっくり上昇する大気に働く脱水過程の観測的記述に初めて成功した。
著者
舘脇 洋 三好 永作
出版者
名古屋市立大学
巻号頁・発行日
2008

本研究では4成分相対論を使用して4f電子を含む原子や分子の電子状態を明らかにすること、大きな系を解くには計算の簡略化が必要となるが、信頼に足る4f電子系model core potential (MCP)法の開発である。4成分相対論では変分崩壊、そして大成分偏重に基づくエラーが問題となる。当研究で変分崩壊の無い基底関数が全原子に対して開発され、さらに十分の精度を持つが実用に足る大きさの基底関数も開発された。またHeと等電子系の重イオンの電子相関エネルギーが計算され、非相対論のそれとは異なること、負のエネルギーをもつ状態からの寄与が無視できないことが示された。全一フッ化ランタノイドLaF~LuFの基底状態がDirac-Fock-Roothaan法で求められ、基底状態のf電子配置が明らかにされた。CASCI法、MCQDPT2法等を使用しLaF、CeF、GdF等の分光定数、励起状態の帰属もなされた。4成分相対論における電子遷移能率を世界に先駆け開発し、GdFの励起状態の正確な帰属に成功した。4f電子系に対しての相対論MCP法をGamess等のよく使われているプログラムに組み込み、3フッ化ランタニド分子の系統的研究を行ったが、核間距離の定量的計算には動的電子相関を取り入れることが重要であることが示された。さらに実験(築部)グループにより創製された機能分子トライポードとランタニドイオンの相互作用に関する理論研究では、開発された相対論MCP法を使用し、実測データを説明する結果を得た。
著者
長谷部 光泰 倉谷 滋 嶋田 透 藤原 晴彦 川口 正代司 深津 武馬 西山 智明 岡田 典弘 阿形 清和 河田 雅圭 郷 通子 豊田 敦 藤山 秋佐夫 望月 敦史 矢原 徹一
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本領域の目的である、多様な研究から「複合適応形質進化の共通メカニズム」を推定するという総合的研究を展開する、進化生物学とゲノム生物学を融合させる、を実現するため総括班を有機的に組織し、下記の活動を行い、効率的に連携できた。(1)領域会議を年2回、インフォマティクス情報交換会を5年で18回、ニュースレターを5年で63号発行し、領域内での情報共有、共通意識形成を行った。(2)ゲノム支援活動として実験方法のアドバイス、ゲノム配列決定支援、外部委託についてのアドバイス、各班のインフォマティクス担当者などに指導を行った。(3)形質転換実験技術支援を行った。(4)国内、国際シンポジウムをほぼ毎年開催した。
著者
三辺 義雄 棟居 俊夫 菊知 充 中谷 英夫
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

(1)CD38のSNPを有する自閉症スペクトラム障害とそれを有さない者との間の臨床精神医学的、神経生理学的観点から検討した。(2)患者への治療の事前調査として、健常者20人でオキシトシンの影響について生理食塩水をコントロールとするクロスオーバー盲検試験を行った。その結果、表情認知の傾向や、葛藤課題に対する反応速度に対する影響は、個人の素質によって異なることを確かめた。今回有害な副作用が生じなかった。(3)自主的にオキシトシン点鼻薬を輸入し治療を開始しはじめた例から病状改善が顕著であるケースの特徴を検討した。
著者
小田 利通 田村 知巳 垣花 泰之 田村 知己
出版者
鹿児島大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

近赤外分光法による非侵襲的かつ連続的な心筋内酸素・代謝モニタリングの可能性を確かめるため、次の3項目の検討を行った。(1)心筋内ヘモグロビン(Hb)、ミオグロビン(Mb)、チトクロムオキシダーゼ(Cyt.aa3)解析法の検討。(2)ラット拍動心での測定の検討。(3)ブタ心筋での測定、特に経食道的測定法の検討。方法および結果(1)解析法の検討:ラット潅流心に赤血球やMb溶液を潅流させ、Beer-Lambert則よりHb、Mb、Cyt.aa3を求める演算式を検討した。その結果、血液量や心筋内酸素化状態の変化を行ったところ、Hb、Mb、Cyt.aa3の変化を分離測定するが可能で、解析に要する演算式を確定した。(2)ラット拍動心での測定。(a)直接測定法:人工呼吸下に開胸し近赤外分光装置のプローブを心筋表面に直接装着した後、FlO2を変化させ心筋内酸素化状態を検出した。(b)間接測定法:人工呼吸下に胸壁上に近赤外分光装置のプローブを装着した後、FlO2を変化させ心筋内の変化を検出した。結果:HbはFlO2の低下とともに脱酸素化を受けたが、Mbは12%、Cyt.aa3は8%以下で脱酸素化または還元がはじまり、直接法および間接法ともに心筋内酸素化状態の変化を検出できた。(3)ブタ心筋での測定、特に経食道的測定法の検討。(a)直接測定法:人工呼吸下に開胸し近赤外分光装置のプローブを心筋表面に装着した後、FlO2の変化や冠動脈閉塞時の心筋内酸素化状態を検出した。(b)間接測定法:人工呼吸下に経口的に経食道用プローブを挿入し、FlO2変化時の心筋内の変化を検出した。結果:直接法および間接法ともに心筋内酸素化状態の変化を検出できたが、食道の筋肉からのシグナルの影響を取り除くことが今後の課題であると考えられた。以上の結果より、近赤外分光法により非侵襲的な心筋内酸素化状態モニタリングは可能であると結論できた。また経食道的測定も可能であると思われ、臨床的な応用への展開が期待できると考えられた。
著者
星 勝広
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

ホログラム技術は、立体像の記録技術として広く知られているが、視覚を介して強いインパクトを与えることができるため、光技術の教育素材として大変魅力的である。しかし、ホログラム記録用銀塩乾板の入手が困難になったため、代替品として高感度・高解像度フォトポリマー薄膜を開発し、光技術教育への利用可能性について考察を行うこととした。記録材としては、回折効率・解像度に優れたアクリルアミド系フォトポリマー(ポリビニルアルコール[以下、PVA]、アクリルアミド[AA]、トリエタノールアミン[TEA]、メチレンブルー[MB]の混合液)を研究対象とし、各薬品の添加量を変えた混合液を板ガラスに塗布し乾板を作製した。記録方法は、レーザビーム(He-Neレーザ:出力10mW)をハーフミラーで2本に分け乾板面のある一点で干渉させ位相型ホログラム記録した。測定は、シャッターをコンピュータ制御し、露光開始から5s毎に干渉部からの回折光強度を測定し300sまで行った。また、レーザ光の強度・乾板面に対するレーザ光の入射角(対乾板面法線)等を変え同様の測定を行った。結果、薬剤分量として重量比10%のPVA水溶液100mlに対しAA(7.11g)、TEA(14.92g)、MB(9mg)で最大回折効率80%以上を達成した。また、露光条件としてレーザ光強度15mWで露光時間5s、光の入射角10~30°で露光時間が短く高回折効率が得られた。これらの結果を元に、過去に行っていたホログラム記録用光学系を用い物体の記録を行った結果、観察可能な再生像が得られ、光技術教育への利用可能性が確認できた。また、記録像の観察時、乾板がほぼ透明で膜表面が滑らかなこともあり乾板表面の反射光や乾板背後からの背景光が意外と気になり、再生像が観察しづらいことも分かった。
著者
五百旗頭 真 久米 郁男 細谷 正宏 増田 弘 五十嵐 武士 天川 晃
出版者
神戸大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究の目的は、占領期日本に関する資料状況・研究状況を全般的に検討し、それにもとづいて、政治・外交をはじめ、経済・社会・文化の諸領域にまたがる占領期日本の変動を総合的に研究するための組織を企画し準備することにあった。その目的は十分に達成されたと考える。たび重なる研究・打合せ会議を、神戸・東京などで行い、活発な意見交換を通して、平成3年度の重点領域研究を申請することを決定し、11の班と70名余の研究者によって構成される研究グル-プを作りあげることができた。諸分野の専門家から成る学際的研究である点は当初の予定通りであるが、研究テ-マと問題関心については、討議を通して大きな拡がりを持つに至った。すなわち、研究対象をたんに「占領期日本」に局限するのではなく、占領期を中心に高度成長が構造化するまでの「戦後日本の形成」を総合的に検討し、戦後日本の全体像を提示することを目的とすることになった。現在の日本が「戦後日本」をあとに、歴史の新しい局面に進もうとしていることは、「戦後日本とは何か」に答えることを急務としているのみならず、資料状況・研究状況も本格的な研究を可能にしていると判断されるからである。国際的に理解可能な総合的研究とするため、多様な分析視角を導入することとした。戦後日本の国際的要因と国内的要因、戦後社会の国際比較、戦前・戦後の連続と非連続、戦後の外交・政治・社会文化の継承と変容などを主要な共通的問題関心とし、占領改革、1950年代の戦後体制の形成を通しての高度成長への帰結を、各レベル・各分野で分析しつつ、全体像の解明を試みる。以上のような重点領域研究「戦後日本の形成の総合的研究」(代表者・渡辺昭夫東京大学教授)を申請するという目的を達成したことを御報告申しあげたい。終りに、この企画につき相談に乗っていただいた故砂子田忠孝氏の御冥福を祈りたい。
著者
佐藤 克行
出版者
駒沢女子大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

リモコン型アンケートシステム、通称クリッカーを利用した中学2年生35名の理科授業実践報告をします。この研究目的は、「中学受験時、理科の勉強をしたか」などの前知識を問うことと、「示相化石のアサリがある場所はどんな所か」など、確認テストとして利用し、生徒の理解度にどれ程影響があるか確認しました。方法・結果ついて、次に示します。(1)授業前・教員が、予め授業の前知識の調査と確認テストを作成する。(2)授業開始・教員は、問題を掲示し、前知識の調査を行う。・生徒は、生徒用リモコンを用いて、回答をする。・教員は、クリッカーによる回答結果を、ボタン1つで示し、授業の重点項目を確認し、授業を進める。(3)授業終了・教員は、本日の小テストを掲示する。・生徒の理解度データから、授業の組み立てを検討する。メリットと感じた部分は、大きく3点ありました。1点目は、自分の授業の振り返りがしやすい。生徒のわからなかったポイントが、数字としてでるので、どこがいけなかったのか、判断しやすく、次回の授業組み立ての参考になりました。2点目は、生徒の小テストとしてのデータは、自動的にcsvで保存されているので、採点、成績処理をする必要がありません。3点目は、生徒全員が意思表示・参加できるシステムであることです。教員が当てなければ発言しない生徒が、自ら正解を出したいという意欲がわき、授業へ参加する姿勢に大きな変化が見られました。最後に、実験・実習の授業でもクリッカーを、使用しました。実験のある段階が完了した時点で、クリックし、知らせるという使い方をしたところ、実験のスピードが向上、集中度も増したという半面、内容はよくわからないといった結果になりました。実験時の使用方法については、引き続き検討していきます。
著者
佐藤 亨
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は北アイルランドの文化、歴史、社会について、とくにアイルランドが南北に分断した 1921 年以降を中心として、広く、かつ深く研究し、北アイルランドの詩的想像力の諸相(文学作品やミューラル)を検証した。その主なる研究成果は『北アイルランドのミューラル』と北アイルランドないしアルスターを代表する詩人論(サミュエル・ファーガソン論とルイ・マクニース論)である。ほかに、プロテスタント地区とカトリック地区の境界であるインターフェイスを取り扱う論文も書き、北アイルランド紛争の現状についても考察した。北アイルランドに特化した本研究は、ポスト・植民地、ナショナリズム、少数派の問題などを抱える、世界中の他の紛争地域の研究にも貢献すると自負する
著者
森元 庸介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

史料整理に注力した前2年度の成果に立脚し、今年度は、近世決疑論における藝術の位置づけについて、総括的な考察をおこなうことを主眼とした。その内容と意義は以下のごとくまとめられる。(1)藝術に対する寛解主義と厳格主義の対立は、一義的には道徳上の対立である。だが、この対立は、美学的な見地からするならば、作品を非実効的であるがゆえに安全とみなす「弱い」藝術観と、実効的であるがゆえに危険とみなす「強い」藝術観の対立として翻案される。(2)とりわけ前者、換言するなら藝術を形式主義的な相のもとで理解する態度について、思想史の通念は、それをもっぱら18世紀以降に成立したものとみなしてきたが、16-17世紀に全盛期を仰えた決疑論について精査することで、西洋における藝術観の変遷をめぐる時間的な見取りを再検討する必要を明らかにした。また、一般的には、上記の対立は、理念的には作品の間然することなき理解を前提する検閲という営為の逆説について再考をうながすと同時に、翻っては、表現の自由、さらには思想の自由が抱える消極性について一定の光を投げかけることにもなった。(3)また、本研究は、決疑論が依拠した法学的コーパス(主として教会法の領域)をつうじて、藝術の問題を法制史の文脈に位置づける道筋を実証的に示すとともに、中世に成立した法文書群の近世における持続的な効果を裏づけた点でも意義を有している。前2年の成果と併せ、以上の内容を、学会発表2点をつうじて公表した。
著者
花澤 麻美
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

今年度は下記の研究成果が得られた。(1)骨髄中の抗原提示細胞の動態抗原標識した抗原をマウスに投与することで、生体内における抗原の可視化に成功した。抗原は二次応答時にのみ骨髄に選択的に集積し、その中で血管周囲に付着するものと骨髄内に散在するものの二種類が観察された。免疫を行ったマウスの血清を新たなマウスに移入する実験により、血管周囲への抗原の付着は抗体を介して行われることが示唆された。また、骨髄内に散在する抗原のほとんどは、抗原を取り込んだ成熟B細胞であることが明らかとなった。この成熟B細胞の骨髄内における動態を観察するため、様々な色素を用いて抗原を標識し、観察に最も適する色素の探索を行った。今後は二次応答時の、この抗原提示細胞と骨髄の記憶ヘルパーT細胞のMHC class II-T細胞レセプターを介した接着を中心に細胞間相互作用を明らかにしていく。(2)二次免疫反応における骨髄記憶ヘルパーT細胞の動態初めに、生きているマウスの長骨において細胞動態を観察する実験系の立ち上げを行った。GFP遺伝子発現マウスより骨髄を取りだし、その浮遊細胞を新たなマウスの静脈中に移入した。この時、血管を標識する目的として、色素標識されたデキストランを共に投与した。その結果、移入したGFP陽性細胞が血管から骨髄内に移動している様子が観察された。加えて、細胞の移出入は血管の特定の部位において選択的に行われていることが明らかとなった。現在は、抗原特異的エフェクターヘルパーT細胞をマウスに移入し、この細胞が骨髄に入る様子、また抗原を投与した際に再び骨髄より移出する様子の撮影を行っており、移出入に関わる分子メカニズムを明らかにする予定である。また、記憶ヘルパーT細胞の形成と維持における分子メカニズムを解明した研究を投稿した。現在、Eur. J.Immunol.において審査後修正中である。
著者
佐藤 康史
出版者
札幌医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、骨髄間葉系幹細胞(MSC)を複製可能アデノウイルスのvehiclesとして用いたin vivo腫瘍ターゲッティング療法を開発することを目的とした。各種消化器癌に対してMSCが実際に腫瘍局所へ特異的かっ効率的に集積できるか否かにつき検討した。またtet on systemを組み込んだ複製可能アデノウイスルの作製を試みた。(1)in vivoマウス腫瘍モデルでの基礎的検討-MSCの腫瘍集積性の検討各種消化器腫瘍細胞として、MKN28,MKN45などの胃癌細胞株やhuh7,Hep3Bなどの肝臓癌細胞株を用いた。これらの細胞をnude mouseに対し皮下接種し生着後に1×10^5に調整したMSCを20日間に3回尾静脈投与した群と直接腫瘍内投与する群を設定した。さらにその2週間後に全身の臓器を含め摘出し凍結固定した。これらについて蛍光顕微鏡や坑MSC抗体(A02)を用いて腫瘍内に集積したMSCの割合と分布を検討した。全身の臓器および腫瘍を摘出し検討したところ、いずれも腫瘍特異的なMSCの集積がみられた。とくにHuH7において著明な集積がみられた。(2)tet on systemで制御可能な複製可能アデノウイスルの検討自らの複製に必要なEIAを癌特異的プロモーター(AFP)で制御し、しかもp53を不活化するE1B-55Kを欠失させた構造を有する複製可能アデノウイルスAdAFPep/Repを作製した.本virusを改変しE1Aの発現をtet on systemで制御するためTREとその下流にAFPepの転写因子であるHNF-1遺伝子を組み込んだアデノウイルスを作成しこれらをMSCに感染させたところ、Doxycycline添加により効率よく複製を開始した。これを用いin vivoでの有効性につき検討を行っている。以上のことから、各種消化器腫瘍の移植マウスモデルにおいて、MSCは腫瘍に集積可能でありこれにtet on systemで制御したAdAFPep/Repを搭載するシステムが可能であることが示された。
著者
前門戸 任 西條 康夫
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では研究者がすでに作製しているSLPIプロモーターを用いたアデノウイルス(AdSLPI.E1AdB)の非小細胞肺癌特異的腫瘍の腫瘍選択性についてさらに研究を進め、in vitroだけでなくin vivoにおいてもSLPI分泌非小細胞肺癌で複製されていることをその抗腫瘍効果と同時に観察した。SLPIプロモーターのはたらきをその下流にレポーター遺伝子をつなぎマウスの静脈に投与を行うと、肝臓での発現は僅かにしか認められず、気管内投与でも発現する正常細胞は太い気管支に少数の細胞が認められるのみで当ベクターの安全性が期待できる。次に、非複製アデノウイルスであるAdCMV.NK4(NK4はHGFの分子内断片でありHGFのアンタゴニストとしてのはたらきとHGFに依存しない強力な血管新生阻害作用御もつ)とAdSLPI.E1AdBの併用療法を行った。二つのウイルスが同一SLPI産生腫瘍内に感染したとき、AdSLPI.E1AdBより発現したE1A蛋白がAdCMV.NK4にはたらき、単独では複製しないAdCMV.NK4に複製と発現増強が認められた。また、この併用療法を腫瘍に対し試みると単独療法を凌ぐ効果があり、なおかつ通常の遺伝子治療では効果を発揮することが難しい径が1cmを超える腫瘍に対しても十分な効果を発揮することが出来た。腫瘍組織の分析では、AdCMV.NK4の作用である血管新生阻害の増強が認められた。この二つのウイルスベクターの併用療法は非小細胞肺癌特異的な強力な遺伝子治療として期待できる。
著者
茂木 一司 福本 謹一 上田 信行 阿部 寿文 下原 美保 宮田 義郎 苅宿 俊文
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

異文化理解・総合・マルチメディアパッケージ教材の開発・実践・評価に関する2年間の研究は、以下のように整理できる。1.「子どもによる子どものための芸術・文化発信プロジェクト」の教材開発として、「お茶箱プロジェクト」(インドネシア共和国・バリ・ウブド小学5年生対象、イタリア共和国・フィレンツェ市小学1年生対象、越後妻有アートトリエンナーレ)と「なりきりえまきプロジェクト」(同・フィレンツェ大学語学センター学生対象、同トリエンナーレ)の2つの異文化理解ワークショップを開発し、各地で実践し、ワークショップという共同的/協働的な学びの有効性を実証し、確認できた。2.「お茶箱プロジェクト」では、日本の茶道の仕組み(しつらい)を使って、ものの来歴を「語る」ということを通して、ことば(語り合う・表現し合う)と学習環境のデザインの関係を明らかにした。「なりきりえまきプロジェクト」では、日本美術独特の絵巻を題材にして、絵画における時間表現(現代のアニメに通じる)を登場人物に変身する(なりきる)という身体化と重ねて行うワークショップを開発した。これらは、異文化理解教育の方法に有効であった。3.研究成果の社会還元の方法として、展覧会に注目し、上記の内容を「越後妻有アートトリエンナーレ2006」(新潟県十日町市)で「学びの繭」展として発表した。会場での空間及び映像展示は非常に美しく心地よいという参観者の評価を得た。同時に、会場当番にあたった制作スタッフ・学生スタッフと来場者との多様なコミュニケーションによって、研究の経過の公開と共有の場のみならず、さらなる共同の学びの場となるという「(学びの)入れ子構造」がつくられることがわかった。
著者
保田 ひとみ 畑下 博世
出版者
愛知県立看護大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

昨年度は、妊娠初期から産後1ヶ月までの夫の役割変換における縦断研究のうち、2組の夫婦を対象にし、それぞれの夫について妊娠初期と中期における夫の役割変換の過程を明らかにすることに取り組んだ。その結果、妊娠初期では、「妊娠への関心」、「妻・胎児へ関心を向け始める」、「漠然とした家族像の描写」の3つのカテゴリーが抽出され、妊娠中期では、「妻の身体・心理・社会的変化への関心」、「妻・胎児へ関心の上昇」、「妻・胎児へ関心の低下」、「漠然とした家族像の描写」の4つのカテゴリーが抽出された。そして、これらのカテゴリーは、両時期ともにそれぞれが関連し合っていることが明らかになった。本年度は、昨年度の対象に2組を加えて引き続き、妊娠初期から産後1ヶ月までの夫の役割変換の過程について明らかにした。研究方法は、本年度加えた2組の対象のそれぞれの夫に対しては、1.妊娠確定後妻の状態が安定した時期(1回目)、2.胎動知覚の時期(2回目)、3.分娩前の時期(3回目)、4.産後早期の時期(4回目)、5.産後1ヶ月頃の時期(5回目)に5回の面接を行った。昨年度からの対象の2人の夫には、それぞれ3回目から5回目の面接を行った。4人の夫の面接内容は昨年と同様に質的に分析した。その結果、妊娠確定後妻の状態が安定した時期(1回目)、2.胎動知覚の時期(2回目)においては、新しいカテゴリーの抽出はなかったが、1回日の面接で抽出された、「妊娠への関心」のカテゴリー名を「子どもを持つことへの関心」に、「妻・胎児へ関心を向け始める」のカテゴリー名を「妻・胎児へ関心」に変更した。分娩前の時期(3回目)では、「妻の身体・心理・社会的変化への関心」、「妻・胎児への関心の上昇」、「人間としての成長発達」、「漠然とした家族像の描写」の4つのカテゴリーが、産後早期の時期(4回目)と産後1ヶ月頃の時期(5回目)では、「第1子を迎える」、「妻・第1子への関心の上昇」、「人間としての成長発達」、「漠然とした家族像の描写」の4つのカテゴリーが抽出され、1回目から3回目と同様にそれぞれが関連し合っていた。以上の結果より、妻と第1子に関心を持ち続けることが夫の人間としての成長発達を促していると考えられた。
著者
竹田 直樹 八木 健太郎
出版者
兵庫県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

平成18年度に引き続き、昨年度のディスカッションを通して見いだされた課題をさらに詳細に検討し、都市におけるアートの変容過程を明らかにするための調査と分析を行った。日本国内におけるアートの存在形態に関する研究については、代表者の竹田が中心となって研究分担者とともに研究を進めた。その結果、わが国のパブリックアートとしては、公共空間に彫刻などの美術作品を設置するという形態を取ることが多いことが明らかになったが、こうした自治体などの彫刻設置事業にも、時代によってその枠組みに違いが生まれたことが見出された。その成果の一部として、こうした枠組みの一つとして彫刻シンポジウム型の彫刻設置事業について、その発生と変遷の過程を明らかにした論文が環境芸術学会誌に掲載され公表されている。また、現在進行しつつあるプロジェクト型のアートについては、各地のプロジェクトの調査にもとづいて一般誌等にその成果が発表されているほか、研究代表者らは実際に制作者としても参加することによってその実態の解明を進めた。一方、海外におけるアートの存在形態に関する研究については、研究分担者の八木を中心となって研究代表者とともに研究を進めた。最も大きな変化があった期間として4特に1980年代のアメリカにおける変化の重要性に着目し、昨年度のパブリックアートの見直し研究の調査に加え、1980年代を中心とするアメリカにおけるパブリックアート政策の枠組みに関する研究を進めた。アートを導入する側と、アートを制作する側の双方の視点から検討することにより、1980年代に起きた大きな変化が、導入する側においては冷戦の終結による政治的な役割の終焉が、制作する側においては美術の自律性に関わる意識の変化が重要な要因となって発生したことを明らかにした。この成果は、環境芸術学会誌に論文として掲載され、公表されている。
著者
押元 信幸 三澤 一実 大成 哲雄 小野寺 和子
出版者
東京家政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、造形ワークショップの教育・指導プログラムを「アウトリーチ活動」(学校における文化・芸術の普及活動)することにより、将来の美術教師養成のシステムを構想するものである。
著者
青木 正治
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

ミューオン電子転換過程は、超対称性シーソー理論などにおいて10^<-14>程度の頻度で観測できる可能性が示唆されている。ミューオンの異常磁気モーメント測定からも、10^<-14>レベルでミューオン電子転換過程が起る可能性が指摘されている。これは、素粒子の標準理論を超えたTeV領域の物理現象であり、発見されれば宇宙・素粒子の研究に大きなインパクトを与える。本研究の目的は、プロダクションターゲット中に生成されるミューオニックアトムから直接放出される電子を測定することによってミューオン・電子過程の探索を行う実験方法の開発を行うことにある。本年度は、J-PARC MLFで行う実験のデザインを具体的に行った。まず、カナダ国TRIUMF研究所と協力して、大立体角新設ビームライン(Hライン)のコンセプトを確立した。本ビームラインは多様な用途に使用する事ができるように設計されており、ミューオンg-2測定実験等、他のミューオン物理とのシナジーが大きい提案とすることができた。また、J-PARC MUSEグループとの共同研究において、プロダクションターゲットとしてシリコンカーバイドを使用する事に思い至った。プロンプトキッカーや検出器のデザインも行い、その結果をJ-PARC実験プロポーザル(P41)として提案した。また、KEK物構研S型課題としても申請を行った。いずれの審査委員会においても、本実験提案の物理的な意義などに対して非常に高い評価を得る事ができた。加速器からのパルス陽子ビームの時間構造に関しても、J-PARC RCS加速器グループと共同で測定を進める事ができた。これまでの測定では、本実験に必要とされるプロトンビーム時間構造の達成は可能であるとの感触を得ている。これに関しては引き続き研究を進める予定である。
著者
室田 保夫 今井 小の実 倉持 史朗 原 佳央理 佐野 信三 竹林 徑一 大野 定利 水上 妙子 鎌谷 かおる 片岡 優子 新井 利佳 蜂谷 俊隆
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

3年間の共同研究の成果を終えて、第一に大きな成果は社会福祉史のみならず近代日本史、大阪の近代史にもきわめて貴重な博愛社の史料整理とその保存が出来たことである。具体的には史料目録(仮)の完成とおよそ90箱にも及ぶ資料の保存である。研究の方では創立者小橋勝之助の日誌の翻刻といった研究が進捗した。そして機関誌の複製の作成、また史料が整理されたことによって研究への道がついた。さらにこの作業をとおして研究仲間同志の博愛社研究についての共有するところが大になったことも付け加えておこう。