著者
縣 秀彦 宇山 陽子 CHABAY Ilan DOUGHERTY James 篠原 秀雄 奥野 光 大朝 摂子 郷 智子 中川 律子 高田 裕行 室井 恭子 藤田 登起子 野口 さゆみ 青木 真紀子 鴈野 重之 臼田 功美子 (佐藤 功美子)
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

従来の博物館、科学館等における様々な科学コミュニケーション・シーンにおいての「物語る」ことの役割を分析し、科学ナラトロジー(物語り学)について考察した。主な成果として、国立天文台構内に三鷹市「星と森と絵本の家」を平成21年7月開館予定。絵本の家での有効なラナティブの活用として「星の語り部」の活動を提案した。また、市民に科学を物語る場として、平成20年11月より三鷹駅前に「星と風のサロン」を開設し定点観察を継続している。
著者
河合 伸昭
出版者
岡山市立岡山後楽館高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究のねらい現在の高校生に対し、数学の学力養成は重要な課題である。ここでは、特に生徒が理解に困難を感じるベクトルについて幾何ソフトを用いた教材の開発を試みた。研究方法概念の発達をたどり、自然にベクトルを理解できるようにベクトル・微分的考えが自然的な現象の解明に鮮やかに用いられた歴史的なニュートンの「プリンキピア」、そしてそれを初等的な幾何を用いて解説したファインマンの「Lost Lecture」をもとに、幾何ソフトを活用した教材を作成した。それを、本校の数学倶楽部、市民講座の受講生の方に講義し、内容を改善を図った。研究の内容・成果まず、ベクトルの合成・分解、運動の記述の前提である慣性の法則の直感的理解のため、ガリレイの放物運動の研究を出発点とした。ガリレイは、慣性の法則をはっきりとうち立て、速度がベクトルとして合成・分解できるということを示した。これを幾何ソフトで視覚的に示した。ここから、ケプラーの三法則から万有引力め法則・惑星の運行の解明の過程をたどり、ベクトル的考え方・運動の解析における微分的考え方の有用性が実感できるよう構成を考えた。「面積速度一定の法則」は慣性の法則と三角形の等積変形・「運動の第二法則」とベクトルの合成から導ける。ベクトルや力学は高校生にとって理解するのが難しいのであるがこ幾何ソフトを用いることで、理解が容易になったようである。さらに、速度の変化をベクトルの差で表し、「ケプラーの第三法則」から引力が距離の二乗に反比例すること(万有引力の性質)も示すことができ、これもまたベクトル概念・微分的な考え方の正当性の「demonstration」となっており、生徒の理解を強力に後押ししたようである。最後の、万有引力による惑星の軌道が太陽を焦点とする楕円軌道を描くことは、まだ生徒に授業実践できていないが、日本数学教育学会全国大会では、発表予定である。
著者
荒井 容子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

1999年から2002年にかけての国際成人協議会のカナダからウルグアイへの事務局移転は1980年代中頃に軍事独裁政権を終結させた当該国及び当該リージョンの民衆運動の盛り上がりと、1985年第3回世界大会を通じての同協議会へのその影響、事務局移転後の同協議会の挑戦的活動展開と、関わっている。従ってこの移転は単なる経費削減目的の途上国移転ではなく、同協議会発展史における重要な画期として、上記諸条件と深く関わらせて理解されるべきことが明らかになった。またリージョン組織についてはそれぞれの発展史を、関係国の政治情勢の変化、リージョン内の諸国間関係、支援組織等をふまえて分析する必要があることが分かった。
著者
岡 剛史 吉野 正 大内田 守 佐藤 妃映
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)の発症機構をDNAメチル化状態、ヒストン修飾状態、miRNA発現、ポリコーム遺伝子群、クロマチン構造変換等エピジェネテイック異常の観点から患者検体・培養細胞等を用いて解析した。ポリコーム遺伝子群の発現の異常偏り、ヒストン修飾状態の大幅な変化、miRNAの異常発現, 様々な遺伝子の異常発現およびDNAメチル化異常が発症に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
著者
伊藤 ゆり 杉本 知之 中山 富雄 中村 隆 ベルナルド ラシェ ミシェル コールマン
出版者
地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所)
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

地域がん登録資料を用いて、がん患者の治癒割合および非治癒患者の生存時間の中央値を推定し、その時代変化を検討することによりがん医療の評価を行った。1975~2000年において、食道、胆嚢・胆管、肺がんは全期間を通じて治癒割合、生存時間ともに向上し、診断・治療技術の向上が示唆された。一方、肝がんでは治癒割合は向上せず生存時間だけが延長した。また、前立腺がんでは生存時間の延長がなく、治癒割合だけが向上し、過剰診断の可能性が示唆された。
著者
田中 二郎 ビーゼリー メガン 大野 仁美 中川 裕 大崎 雅一 菅原 和孝 BIESELE Megan 野中 健一 太田 至 早木 薫 池谷 和信 早木 仁成
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

1.生活史に刻印された変容の歴史、定住化に伴う産業の変遷、畑の請負い耕作やヤギの委託の変化、および、グイ語、ガナ語と隣接諸言語との接触史に関する資料の収集などにより、狩猟採集民サンとカラハリ族をはじめとする近隣農牧民の交渉史、共生関係の動態が明らかにされた。2.サンの年長男性の生活史を収集・分析し、過去の狩猟活動、婚外性関係、成人式、農牧民より取り入れた呪術的観念等の詳細が明らかにされた。3.サンの食用および物質分化としての昆虫利用を調査し、とくに昆虫食が食生活に占める質的重要性を明らかにした。さらに、哺乳類、取類、爬虫類を含む動物の形状や行動に関する精密な認知が予見、凶兆、習性や形態の起源神話といった象徴的解釈と密接に相関していることを明らかにした。4.グイ語とガナ語の言語構造と語彙に関する記述を精密化し、正書法を提案した。5.過去30年間に及ぶ人口調査のデータを用いて、サンの人口動態を解明した。6.サンとカラハリの儀礼の比較分析から、サンはいくつかの要素をカラハリからとりいれてきたにもかかわらず、呪術的要素は伴わなかったことを明らかにした。7.子供の言語・身体発達と社会化の過程を、狩猟採集の衰退、平等主義の変容、学校教育の導入など「近代化」の諸問題との関連において明らかにした。8.カラハリ砂漠の辺縁部植生移行帯では、ジャケツイバラ科落葉喬木モパネは家畜の飼料、物質文化として重要なばかりでなく、宗教儀礼などにおいても重要な象徴的役割をもつことが明らかにされ、さらに、この土地の利用権をめぐる民族間の争いがアイデンティティーの問題との関連で生起し、総選挙など国家レベルでの問題にも深く関わっていることが明らかになった。9.平成9年度には、ボツワナ政府主導のサンの移住という歴史的な事件が発生し、これに伴う諸問題の解明が急がれたが、多くは将来の課題となった。
著者
関 奈緒
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

[目的]親子喫煙防止教育を核として、学校・家庭・地域連携による地域喫煙対策を推進する。[方法]親子喫煙防止(防煙)教室効果を、平成13年度と同様のアンケート調査による子どもの意識、家庭内分煙実施状況の推移によって評価した。本評価をもとに、防煙学習プログラムと指導教材、住民参加型による包括的地域喫煙対策システムを開発し、評価指標を設定した。[結果及び考察]1)親子防煙教室により、親子の意識向上、子どもの喫煙意志抑制、家庭内分煙の推進が得られた。2)親子防煙教室及び調査結果の住民への還元は地域への波及効果が大きく、住民主導によるたばこ学習会、公民館等の分・禁煙化へ繋がった。親子防煙教室への地域住民の参加も急増し、児童・保護者・地域住民合同グループワークへと発展、参加者の意識が向上した。3)1)、2)をもとに、学校における学年別防煙学習プログラムと、地域防煙対策の学校・行政・地域の役割分担、防煙・分煙・禁煙支援の連携による包括的地域喫煙対策システムを開発した。システム検討には、住民を巻き込んだ参加型手法を採用し、早期より意識の共有化を図ったことから、事業化が円滑に行われた。連携の取り組みの一つとして、行政主催の禁煙教室の禁煙成功者を喫煙対策サポーターと位置づけ、学校の防煙学習、地域の分煙学習等に活用したが、これは非喫煙者、喫煙者間の相互理解や、禁煙希望者の増加等を促し、かつ禁煙者本人の禁煙継続の意識付けともなる等の効果があり、地域より高い評価を得た。4)防煙教育評価は、短期指標として毎年のアンケートによる子どもの意識変化を、長期指標として成人式喫煙率調査による喫煙率推移を追跡することとした。平成14年度の新成人は、男性64%、女性43%が毎日喫煙者であり、対策の効率的実施が急務であることが示された。なお、本研究で構築したシステムは、汎用型への発展も可能であり、今後広域展開が期待できる。
著者
福田 アジオ 周 正良 朱 秋楓 白 庚勝 巴莫曲布む 劉 鉄梁 周 星 陶 立ふぁん 張 紫晨 橋本 裕之 福原 敏男 小熊 誠 曽 士才 矢放 昭文 佐野 賢治 小林 忠雄 岩井 宏實 CHAN Rohen PAMO Ropumu 巴莫 曲布女莫 陶 立〓
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

平成計年〜3年度にわたり中国江南地方において実施した本調査研究は当初の計画どおりすべて実施され、予定した研究目的に達することができた。江蘇省常熟市近郊の農村地帯、特に白茆郷を対象とした揚子江下流域のクリ-クに広がる中国でも典型的な稲作農村の民俗社会の実態とその伝承を記録化することができ、また浙江省の金華市および蘭渓市や麗水市における稲作の民俗社会を調査することが出来た。特に浙江省では中国少数民族の一つであるシェ族の村、山根村の民俗事象に触れることができ、多大な成果を得ることが出来た。2年度は前年度の調査実績を踏まえ、調査地を浙江省に絞り、特に蘭渓市殿山郷姚村、麗水市山根村、同堰頭村の3か所を重点的に調査した。ここでは研究分担者は各自の調査項目に従って、内容に踏み込み伝承事例や現状に関するデ-タを相当量収集することができた。また、この年度には中国側研究分担者8名を日本に招聘し、農村民俗の比較のために日中合同の農村調査を、千葉県佐倉市および沖縄県読谷村の村落を調査地に選び実施した。特に沖縄本島では琉球時代に中国文化が入り込み、民俗事象のなかにもその残存形態が見られることなどが確認され、多大な成果をあげることが出来た。3年度は報告書作成年度にあたり、前年度に決めた執筆要項にもとずき各自が原稿作成したが、内容等が不備がありまた事実確認の必要性が生じたことを踏まえ、研究代表者1名と分担者3名が派遣もしくは任意に参加し、補充調査を実施した。対象地域は前年度と同じく蘭渓市殿山郷姚村、麗水市山根村の2か村である。ここでは正確な村地図の作成をはじめ文書資料の確認など、補充すべき内容の項目について、それを充たすことが出来た。さらに、年度内報告書の作成をめざし報告書原稿を早急に集め、中国側研究分担者の代表である北京師範大学の張紫晨教授を日本に招聘し、綿密な編集打合せを行った。以上の調査経過を踏まえ、その成果を取りまとめた結果、次のような点が明らかとなった。(1)村落社会関係に関する調査結果として、中国の革命以前の村落の状況と解放後の変容過程に関して、個人の家レベルないし旧村落社会および村政府の仕組みや制度の実態について、また村が経営する郷鎮企業の現状についても記録し、同じく家族組織とそれを象徴する祖先崇拝、基制について等が記録された。特に基制については沖縄の基形態がこの地方のものと類似していること、そして沖縄には中国南方民俗の特徴である風水思想と干支重視の傾向があり、豚肉と先祖祭祀が結びついていることなどから、中国東南沿海地方の文化との共通性を見出し、日中比較研究として多大な成果をあげることが出来た。(2)人生儀礼および他界観といった分野では、誕生儀礼に関して樟樹信仰が注目され、これは樹木に木霊を認め、地ー天を考える南方的要素と樹木を依り代と見立て、天ー地への拝天的な北方的要素が融合した形と見られる。また成人儀礼ではシェ族に伝わる学師儀礼の実態や伝承が詳細に記録され、さらに貴州省のヤオ族との比較を含めた研究成果がまとめられた。特に中国古代の成人式の原始的機能が検出され、また先祖祭祀との関わりや道教的要素の浸透など貴重なデ-タが集積された。その他、中国民俗の色彩表徴の事例などの記録も出来た。(3)民間信仰および農耕儀礼として、年中行事による季節観念と農業生産との関係、農耕社会における祭祀の心理的要因や農耕に関する歌謡によって表出された季節的意味などに焦点をあて、ここではさらに日本の沖縄との比較を含めて分析された。さらに建築儀礼に関しても詳細に報告され、沖縄の石敢当を対象に中国との比較研究もまとめられた。(4)口承文芸および民俗芸能については稲作起源神話の伝承例を初めとし、江南地方の方言分布とその特徴ならびに文化的影響の問題について、さらに金華市と沖縄の闘牛行事の比較研究などに多大な成果を得ることが出来た。(これらは報告書として刊行予定)
著者
久保田 紀久 小林 彰夫
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

甲殻類の代表としてエビ類を選び、試料として南極産及び太平洋産オキアミ、小エビ類を用いて煮熟および焙焼法により生成される香気特性を比較検討し、さらに加熱香気形成に影響を及ぼす生体成分として遊離アミノ酸組成について分析した。焙焼処理は煮熟と異なり加熱処理法により風味の異なるものが出来るためまず条件の検討を行った。エビ類は一般に漁獲後凍結保存してあるため焙焼に際し(1)凍結乾燥(2)解凍の前処理を行ったのち、適当な温度と時間を施し、各々において最も風味のよい焙焼物を得、官能評価を行った。その結果、凍結乾燥したものは多孔質となり砕けやすく解凍後焙焼した方が歯ざわり、風味ともよいことが判った。呈味性に関与する遊離アミノ酸組成についてHPLCで分析した結果、エビの甘味に関与するといわれているグリシンに差はなかったが、アミノ酸総量は解凍試料に多く官能評価を支持した。次に加熱香気特性を調べるため煮熟香気はSDE法で、焙焼香気は全ガラス製の特製装置により減圧下、140〜160℃で焙焼後、【cH_2】【cl_2】で浸漬抽出し、減圧炭酸ガス蒸留を行い分離し、GCおよびGC-MSで分析した。その結果、南極産オキアミ、サクラエビ、小エビ類の煮熟香気は、ピラジン類や含硫アミノ酸の分解により生成されることが知られるチアルジンやトリチオラン類、さらに今回あらたに同定された二環性チアルジン類縁物が主で共通していたが太平洋産オキアミは全く異なった香気成分組成を示した。一方焙焼香気ではチアルジン類が認められずピラジン類やピリドン,アミドが多くなることはエビ類に共通しているが、オキアミ類は【(CH-3)-2】SOが多く、小エビ類はイソバレルアミドが多いなど煮熟とは異なったエビの種類による差異を示し、もう少しデータを追加すれば多変量解析によりこれら傾向を数値的に出すことが可能であることが示唆された。生体成分についていくつか検討したが今年度は上記の傾向を示唆するデータは得られなかった。
著者
和田 正平 PIUS S.B MASAO F.T 小田 亮 阿久津 昌三 栗田 和明 渡辺 公三 江口 一久 端 信行 PIUS S.B. MASAO F.T.
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

本調査はケニア、タンザニア、ザイ-ル、カメル-ン、ガ-ナを主要調査国として1989年から3年間(3年目は調査総括)伝統的政治構造と近代化の比較研究を目的に実施された。調査開始後の1990年頃からアフリカには「民主化」の気運が急激に高まり、複数政党制へ転換する要求運動が実現にむけて動きだした。1991年11月ザンビアで一党独裁が打倒され、12月にはケニアの一党制廃止がきまった。こうした独立時を彷彿させるような急激な民主化運動は社社主義の挫折という国際関係の大変化に呼応しているが、内実、根強い部族主義から噴出している面も否定できない。調査は政治人類学的な視角から住み込み調査法によって行なわれ、以下のような調査成果が得られた。ケニアでは、新しく結成された二大野党FORDと民主党の支持基盤について調査を行なった。民衆の民主化要求では裏面で小数派のカレンジン族出身の現大統領に対する反政府運動であり、新党の結成は新しい部族の対立と反目を生み出している。他方部族の基盤である農村では西ケニアを中心に住み込み調査を行なった。地方では、近代行政とは別個に伝統的権威をもった長老会議が実質的な力をもっていることが明らかにされた。具体的にはアバクリア族のインチャマのように長老会議は邪術者によって構成されているが、個別利害をこえて裁判等を行ない、その権威は正当化されている。タンザニアでは逆に伝統的な長老会議は衰退、共同体儀礼の消滅が記録された。調査したイラク族の村ではウジャマ-開発が強行された後、行政組織はCCM(革命党)に密接に関連するようになり、長老会議は家庭内のもめ事を解決するだけに機能が縮小した。しかし、かつて首長制があったニャキュウサ族ではCCMの影響もさほど強くなく、長老会議の権威がまだ維持されていて、土地の再分配等に大きな発言力をもっている。ザイ-ルでは1990年にカサイ州、クバ王国を調査した。現王朝は17世紀前半の王から数えて22代目にあたり、今日も伝統的権威をもった王が、実効的な統治を行なっている。今回は、王国に生きる人々の社会空間の場がどのようにつくられるかを目的に調査を行なった。具体的にはクバ王権とその傘下のショウア首長権を対比し、両者の最大の質的差異が女性の「集中=再分配」システムから発していることが明らかになった。王権の形成史を女性の授受関係を通してみることがいかに重要な視点であるかを明示できたと思う。カメル-ンでは19世紀末から20世紀初頭にかけて、北部フルベ諸王国で創作された抵抗詩「ムポ-ク」を採録した。「ムポ-ク」はヨ-ロッパ人の前では決して明かすことのなかったフルベ族の本心が、詩というメタフォリックな形で表現された貴重な資料である。伝統的な吟遊詩人「グリオ」が朗唱の中で暗に植民地政府を批判し、世論を形成していった社会状況がこの詩からうかがい知ることができる。また北西部州では、マンコン王国の伝統的王制と近代文明的価値をめぐって調査を行なった。歴代伝承されてきた王の伝統的諸儀礼と近代化に対応する社会と文化の変容過程に注目し、両者が功緻に融合している状態を観察し、その実態について民族誌的記録をとることができた。ガ-ナでは中部アシャンティ王国の王都クマシにおいて現地の歴史資料に依拠しつつ、歴代王位の継承方式のついて調査を行ない、アサンテ王における王位をめぐる相克の歴史を明らかにした。王朝は統合と分裂を繰り返したが、王母を核とする「血の原理」に着眼し、王位継承を論じたところに、今回の研究の新しい展開がある。ト-ゴでは、中部山岳地方に居住するアケブ族の首長制の形成と解体に関する調査を行ない、同地方の伝統的政治組織が海岸諸王国の奴隷狩りに対抗していたことを証明することができた。以上、調査を分担した各個は、成果報告として論文を作成中であり、国立民族学博物館論文報告や学会誌等に寄稿する予定になっている。
著者
稲葉 継雄 松原 孝俊 金 〓実 田中 光晴 新城 道彦 入江 友佳子 小林 玲子 花井 みわ 槻木 瑞生 天野 尚樹 三田 牧 アンドリュー ホール
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

基本的に朝鮮・台湾・南洋など各地域研究の形で進行してきた植民地教育研究の枠組みを変え、研究協力体制を簡便に構築できるネットワークを形成することが目的である。いわゆる「外地」と呼ばれた地域の実地調査を進め、コリアン・ディアスポラを巡る問題を教育史を通して糾明し、さらに、各地域の研究者が一同に会する研究会を開催したり、世界韓国学研究コンソーシアム(UCLA、SOAS、ソウル大学校、北京大学、ハーバード大学、オーストラリア国立大学などで組織)を活用することで研究のネットワーク化を進めた。
著者
羽二生 博之 熊耳 浩 榎本 浩之
出版者
北見工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

オホーツク海の流氷の動きをDMSP衛星に搭載されたSSM/Iセンサーによるミリ波レーダー画像に画像相関PIV法を用いて解析した。冬のオホーツク海は雲に覆われ可視光での観測が難しいが、ミリ波レーダー画像では厚い雲を通して流氷を観測できる。米国雪氷データセンターから入手した37GHzおよび85GHzの画像データに対して、ピンホールノイズ除去や画像の平滑化処理を施し、さらには37GHzと85GHzの画像を複合して開水域に残った雲の画像を除去した。こうして得られた鮮明な画像を元に、まず数年間の流氷の動きを調べ、流氷の多い年と少ない年の特徴を比較した。次に、画像相関PIV法を用いて流氷帯内部の流氷の動きと流氷境界部の動きを比較検討し、流氷が生成される領域を推定した。また、PIVによる解析に先立ち、解析マトリックスの形状等に関する検討を行い、94年に行われたGPSビーコンの追跡データとPIVの解析結果を比較して本研究でのPIV手法の信頼性を確認した。解析の結果、1)北西の季節風の強さによって年ごとのオホーツク海の流氷の量が決まること、2)北海道近海では毎年流氷が渦を形成する領域が発生すること、3)北西からの強くて極寒の季節風よって流氷がロシア東海岸から離れて海岸付近に開水域が現れ、その海面が凍って流氷が生成されることが分かった。
著者
小栗 裕子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

大学でのリスニング中心の授業にライティングの宿題を導入することによって、リスニング指導ではおろそかになりがちな文法力や語彙力を含む書く力の向上が可能になった。また1年間ライティングの宿題を継続することにより、学習者はライティング力、特に長い文章が書けるようになったという実感を得ることができるようになった。ただし、宿題のフィードバックが必要ですぐに返却をすることが重要な決め手である。
著者
近藤 邦雄
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、テレビカメラなどで撮影した映像をもとに、さまざまな分野で利用されているイラストレーション映像へ変換する描画手法を開発することである。本研究では、(1)一枚の画像のイラストレーションへの変換するための領域分割と調和配色手法、さらに(2)実写映像をイラストレーション映像に変換する手法を提案した。そして、提案手法を用いて映像製作分野に利用できるような教育システムを開発した。(1)本研究ではでとりあげる領域分割とは,画像中の構成要素を近似色で塗りつぶした領域で表し描画の単位とするものである.この手法を用いることで,対象物の形状や特徴の強調や簡略化を行うことができる.また調和配色は,配色理論に基づいた配色を用いて実際の物体とは異なる色で描画する手法である.本研究では基本カテゴリ色を用いたカテゴリカル分割による統合の取れた領域分割と,調和配色を用いた配色変換によるイラスト風画像生成手法を提案した.この結果,離れた箇所にある同一構成物を同じ領域に分割することが可能になった.また,彩度と明度の誇張を用いた配色が可能になった.それにより,領域分割と配色変換を用いたイラスト風の画像を生成することができ,領城分割と調和配色を用いたイラスト生成手法の有用性を明らかにした.(2)実写映像に対してリアルタイム絵画風動画変換するためのシステムを開発した.本システムは映像読み込みや出力部分と絵画処理部分を分離し、また,新たなフィルタを考案し実装することが容易になるようにした。これによって、CG教育にも有用なシステムを開発できた。
著者
森 俊夫
出版者
岐阜女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

グレイレベル画像解析が編目密度の異なる平編物の視覚的特徴、規則的にあるいはランダムに折り畳まれた綿布の折りしわ外観及びさざ波状のしわや不規則な折りしわを含むランダムなしわの布の視覚的緩和挙動の測定に適用された。デジタル画像のグレイレベル平均、グレイレベルの同時生起行列から抽出される角二次モーメント、相関、コントラストやエントロピーおよびフラクタル次元が視覚的特徴量として測定された。これらの画像情報量は平編物の美しさ、布の折りしわやランダムしわの視覚的特徴や視覚的緩和挙動を特徴づけるのに有用であることがわかった。水玉模様の色対比や色陰現象を特徴づけるためにカラー画像解析が適用された。NTSC_RGBカラーシステムで表現されたRGB画像からL*C*H*画像への変換が行われた。同時生起コントラスト(CON)がL*、C*およびH*画像について計算された。CONは、水玉模様の対比効果や色陰現象を記述するよいパラメータとなることが分かった。並置混色の論理を応用して多色の色柄の全体的な色の印象から色柄布の寒暖を評価するために、カラー画像解析が適用された。多色系色柄布の暖色、中性色および寒色イメージは色相角により評価されることがわかった。RGB色空間を利用した色彩特徴解析が布の色彩テクスチャの特徴づけに適用された。因子分析により官能評価値と視覚的特徴量との関係が検討された。画像解析が色柄布の変退色を評価するのに適用された.画像中の各画素のL^*,a^*およびb^*がCIELABの公式を用いて計算され,L*,a*およびb*の全画素の平均値がそれぞれAVE-L^*,AVE-a^*およびAVE-b^*として得られた.単一色に対して,分光色差計によって測定されたL^*,a^*およびb^*と画像解析から求められたAVE-L^*,AVE-a^*およびAVE-b^*との間にはよい一致がみられた.
著者
小島 広久
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

適応スキュー角ピラミッド型コントロールモーメントジャイロを新たに提案し,スキュー角駆動機構を有する実験装置を製作した.特異点曲面のスキュー角依存性を解析し,従来角度において内部特異点曲面積が最小になることを発見した.従来のジンバル駆動則を適応スキュー角CMG 用に拡張し,約5%の姿勢変更時間の短縮に成功するとともに,オーバーシュート量の減少を達成した.またヌルモーション項を入れることによりスキュー角が姿勢変更終了後に従来角方向へ戻る傾向を与えることに成功し,連続姿勢変更にとって望ましい結果を得た.考案した制御則により,姿勢変更時間が短縮化可能なことを実験装置にて検証した.
著者
西垣内 泰介 郡司 隆男 松井 理直 シュペルティ フィリップ 松田 謙次郎 EMONDS Joseph
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

レキシコンと文法の制約について、文法論、形態論、意味論、音声音韻の各分野で理論的研究を行い、国会議事録などの発話コーパスを用いて実証的な研究を行った。具合的には述語の語彙的特性と再帰表現の単文内での束縛関係といわゆる長距離束縛の関わり、…を示した。平成20 年度の最後にあたってレキシコン、文法の制約が同一指示の現象に関与する諸相についての国際ワークショップを行った。
著者
小山 弓弦葉
出版者
独立行政法人国立博物館東京国立博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

「辻が花染」とは、中世に行われた日本独特の染織技法で、現代では中世の染め模様を指す言葉として定着している。しかし中世の文献にある「辻が花染」と現存する資料とは同一ではないと言われ、その実態は全く明らかにされていない。本研究では、従来通説だった文字資料の解釈について再検討を試み、これまで曖昧だった「辻が花染」の定義をより明確にすることが第一の目的である。そこで、今年度は、近代から現代にかけての染織史研究(あるいは日本風俗史研究上の服飾史研究)図書を中心に資料を収集し、研究史上に現われる「辻が花染」という用語の使用過程を追った。中世染め模様である「辻が花染」と呼ばれる伝存資料について、素材・色・技法・模様構成といった諸要素を詳細に調査し、体系立てられたデータに従って中世の染め模様の編年基準を設定するため、今年度は、京都国立博物館、山形・櫛引町黒川能上座、岐阜・関市春日神社、千葉・国立歴史民俗博物館、大阪・藤田美術館、名古屋市・徳川美術館の各所に所蔵される「辻が花染」関連資料を調査した。撮影可能な作品に関しては、デジタル一眼レフカメラで撮影し、実測調査を行った。調査報告書作成のため、昨年に引き続き、調査データのデジタル化作業を進めた。調査によって収集された画像資料はコンピュータに一括管理し、デジタル・データとして保存した。同時に、ファイル・メーカーに素材・色・技法・模様構成に関する情報を順次入力し、データの構築を進めた。入力された調査データは整理し、順次校正を行った。計画では、今年度中に調査報告書を製本する予定であったが、調査報告書を作成するための予算が十分に確保できなかったため、今年度に編集した報告書用データは、来年度東京国立博物館で発行する『平成18年度東京国立博物館紀要』に掲載することとした。また、これらのデータをさらに蓄積し有効に活用できるよう、これまでの調査した資料を個別にCD-RWに収めた。
著者
佐々井 啓 徳井 淑子 横川 公子 柴田 美恵 森 理恵 松尾 量子 村田 仁代
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

各自研究を推進しつつ各年とも3〜4回の研究会で意見の交換を行い報告書にとりまとめた。研究および意見交換は主に西洋と日本のグループに分かれてすすめた。西洋においては19世紀後半のアメリカ、イギリス、日本における「New Women=新しい女」に焦点をあて、New Womenの服飾からジェンダー意識について検討を行った。New Womenの衣服改良運動や、New Womenを扱った演劇・小説に表された服飾表現から、ファッションにあらわれた女性解放について明らかにし、新しい衣装と行動とによって「新しい女」が確立していったことを明らかにした。また、同時代のイギリスの女性のスポーツ服や合理服といった、新たな服飾についての調査を通して、この時代に新たな価値観が提示され、20世紀のジェンダー観に影響を与えていたことが分かった。また、異装については、17世紀前半の英国の女性の異性装、近代フランス文学における男装を取り上げ検討し、17世紀の異装は少年の服飾との相似点から不完全な男装であったことに注目し、当時のジェンダー意識を明らかにした。日本においては、異装については鎌倉期の『とりかえばや』と近世初期の阿国歌舞伎の装いについて中心に検討し、ジェンダーとセクシュアリティーの明証性について考察を進め、装いのジェンダー的な意味を多面的に示すものとの示唆を得、さらに著者である女性の目を通した男女に共通する価値意識についても明らかにした。また、阿国の男装と風流としての男子の女装の検討からは、服飾における両性の接近について明らかにした。また、17世紀初期の風俗について「歌舞伎図巻」から、男性の髪型と服装の関連を明らかにし、流行をリードする社会集団を特定することによって服飾におけるジェンダー観を明らかにした。またその結果をふまえ、近世日本の服装におけるジェンダー観と近代日本の「キモノ」観との関連を明らかにした。
著者
福光 優一郎
出版者
新居浜工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

すべての音声言語にはアクセントやイントネーションといった韻律情報が含まれており,単語の識別や文レベルの統語構造の構築に用いられている。本研究課題は,統語構造の曖昧な文を聴取する際に,韻律情報を利用することによって,そうした曖昧性が解消されるかどうかについて,事象関連電位を指標とした研究を行った。その結果,韻律情報のひとつである休止(ポーズ)が日本語の文節レベルの修飾-被修飾関係の曖昧性の解消に関わることが示唆された。