著者
岡本 雅享
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 = Journal of the Faculty of Integrated Human Studies and Social Sciences, Fukuoka Prefectural University (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.11-31, 2009-01-08

筆者は拙稿「日本における民族の創造」(大阪経済法科大学『アジア太平洋レビュー』第5号、2008年9月)で、1880年代末の日本で「民族」という言葉・概念が生じてから、どのよう に民族が創造されてきたかを、大和民族(1888年初出)と出雲民族(1896年初出)を対比しながら検証した。本稿では民族の三要素(歴史・文化、言語、宗教)の中で、日本の中ではより単一だと思われがちな言語に焦点をあてて、単一・同質だといわれるものの内部から、その幻想を解体してみたいと思う。
著者
後藤 誠 石田 貴志 野中 康弘
出版者
一般社団法人 交通工学研究会
雑誌
交通工学論文集 (ISSN:21872929)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.A_90-A_98, 2019-02-01 (Released:2019-02-06)
参考文献数
10

高速道路の交通性能は、道路条件や走行環境条件(気象条件)、交通条件によって変化することが知られており、そのうち交通条件はドライバーの属性や自動車の性能に依存し、経年的に変化している可能性があったことから、QV の経年変化を分析した。平成 15 年から平成 28 年を対象に 39 地点の QV 図を比較した結果、ほぼ全ての地点で自由流時速度や実現最大交通量、渋滞発生後捌け交通量が経年的に低下していることを確認した。また、実現最大交通量は平均で約 7%、平均速度は 7 ~ 9% 低下していることを明らかにした。これらより、交通性能の経年的な低下傾向は広いエリアで同様に発現していることから、局所的な地点の特性によるものではなく、社会全体の様々な制度変化やドライバー属性の変化等がこれに影響している可能性があることを示唆した。
著者
中澤 達哉 近藤 和彦 森原 隆 小山 哲 小森 宏美 池田 嘉郎 古谷 大輔 小原 淳 阿南 大
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、「王のいる共和政」の国際比較を通じて、近代ヨーロッパ共和主義の再検討を行った。この結果、ハンガリー、ドイツ、ポーランド、スウェーデン、オーストリアにおいて、「王のいる共和政」というジャコバン思想と運動が存在したことを解明した。さらに、これらの地域における「王のいる共和政」論の源流を、16世紀の政治的人文主義(political humanism)による古代ローマ共和政の近世的再解釈に見出した。加えて、この思想が啓蒙絶対王政を正当化するための主導的原理として機能したことを実証した。このようにして、この原理が1790年代の中・東欧において広範に拡大することになったのである。
著者
YE TINT TUN 入江 憲治 THAN SEIN 白田 和人 豊原 秀和 菊池 文雄 藤巻 宏
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.42-50, 2006-03-01 (Released:2010-03-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1

ミャンマーのイネ地方品種には, 胚乳のアミロース含量が0から40%にわたる広範な変異がある.Chin, KachinおよびShanなどの山岳部の諸州の地方品種には, アミロース含量にとくに大きな変異がみられる.これらの地域で, 極低アミロース (4%以下) の地方品種が頻繁に出現するのは, タイ, ラオスからベトナムにわたり広がるもち稲栽培圏の影響を受けているとみられる.本研究では, さまざまなアミロース含量をもつ地方品種の利用法を調査した.ミャンマーでは, 消費者や販売業者が飯米の粘性や柔軟性に基づいて米をKauk Hnyin, Kauk Sei, Kauk ChawおよびKauk Kyan.の4群に分けている.それぞれの群の名称は, もち米, 粘る米, 柔らかい米, 堅い米を意味しており, 収集標本のアミロース含量の測定の結果, もち (無) , 低, 中, 高のアミロース含量であることが判明した.今回調査したChinおよびShanの両州では, Kauk Seiが最も多く, 地域の人たちが常食にしている.また, Kauk SeiおよびKauk Hnyinの両群の米は, 伝統的な祭事の時にスナックを作る材料として習慣的に用いられている.もち米とみられるKauk Hnyinは, 全国的に分布しているが, 粘る米とされるKauk Seiは, ミャンマーの山間部で卓越している.ミャンマーにおける米の調理・加工製品は, 7つのタイプに分けられた.すなわち, 飯米, ケーキ, 生地製品, フリッター, 麺, プディングならびに飲料.それぞれのタイプには, 数種類あるいはそれ以上の異なる調理・加工製品が含まれる.調理・加工の方法は, 米の素材 (米粒あるいは米粉) , 品質・成分 (アミロース含量) , 加熱法, 添加食材の種類などにより異なる.ミャンマーのイネ地方品種のアミロース含量の変化は, さまざまな調理や加工の方法に対応して選抜されてきた結果と考えられる.
著者
新井 かおり
出版者
北海道大学アイヌ・先住民研究センター
雑誌
アイヌ・先住民研究 (ISSN:24361763)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.173-200, 2021-03-01

昨年二〇〇九年、通称「アイヌ施策推進法」が成立し、「アイヌの人々が主体となった研究」をすることが、官民挙げての課題となった。しかしアイヌが研究の主体になることは、当時主流であった戦後史学の目的論的な、発展法則的な歴史観とはあいいれないことや、アイヌ側からの資料に乏しいなどの理由があって、特にアイヌ史研究では立ち遅れてきた。本論では90年代までアイヌの諸運動のけん引者として著名だった貝沢正のアイヌ史編さん事業について、まず本論の筆者である“私”と貝沢の関係に由来する視座と資料について述べる。そして、他に例がないほど、「アイヌ側から見たアイヌ史」に固執し、三度ものアイヌ史の執筆・編さんにとりくんだ貝沢正のかかわった、ウタリ協会(名称当時)発行の『アイヌ史』(全五巻)をその失敗例と見て、同じく貝沢が執筆・編纂の責任者であった『二風谷』をその成功例と見て、「アイヌ側から見たアイヌ史」の可能性を探る。
著者
辰口 直子 大 雅世
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.345-351, 2019-10-05 (Released:2019-10-11)
参考文献数
12

一定条件下で鶏卵のゆで加熱を行い,卵の中心温度と保持時間が凝固状態に与える影響を明らかにして,好みの凝固状態の温泉卵を作るための指標を提示する事を目的とした。 水温65℃,68℃,70℃一定で加熱した場合,卵中心温度は,65℃で30 分,68℃で28 分,70℃で27 分で水温近くに達した。その時,いずれの温度でも卵白の流動性があるが,到達温度によって異なり,卵黄の高さもそれぞれ異なった。温泉卵の形状は65℃では,卵白の流動性があり,210 分経過した後も広がり方は減るものの流動性が認められた。68℃では保持時間が長くなると流動性は減少し,70℃では30 分経過すると流動性がみられなくなった。卵黄は65℃,68℃では保持時間が長くなると高さが増す傾向にあったが,70℃では大きな差はみられなかった。中心温度と保持時間での卵白と卵黄の凝固状態が明らかになったので,これらの結果を利用して好みの成績を得る為の指標を作成した。
著者
大渕 憲一
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.119-129, 1991-02-20 (Released:2016-11-30)
被引用文献数
2

The present paper reviewed empirical research on the effects of violent pornography on male audience. Some laborabory research found that violent pornography depicting rape scenes increased male subjects' aggression against female targets, even when they were not angered by the victims. In other studies, the male audience of violent pornography showed more rape-supportive attitudes, that is, they perceived rape as less criminal and accepted more rape myths. These findings implied that it may increase rape proclivity in males. Rapists displayed more sexual arousal than non-rapists to rape scenes in several experiments, but some researchers held the assumption that the non-rapists were also aroused by rape scene but they inhibited their arousal because of a feeling of guilt. The majority of normal men really showed some similarities to rapists in cognitions or beliefs on women's sexuality and rape. In conclusion, it was alleged that sexual aggression is not a personal pathological problem but a socio-cultural issue which has much bearing on male dominant value system.
著者
吉村 勇哉 藤﨑 孝輔 山本 武範 篠原 康雄
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.137, no.5, pp.581-587, 2017-05-01 (Released:2017-05-01)
参考文献数
16
被引用文献数
3 7

Magnesium oxide (MgO) tablets are widely used as laxatives in patients with constipation. Recently, the “Revision of Precautions on the Use of Magnesium Oxide” has been issued by the Japanese Pharmaceuticals and Medical Devices Agency, warning against the risk of hypermagnesemia with the use of MgO. However, the majority of physicians continue to administer MgO for constipation without adequately considering its safe use. In the present study, we performed two analyses using an identical lot of MgO tablets and evaluated the risk of hypermagnesemia. Approximately 90% of the MgO tablets dissolved within 120 min in dissolution testing; it was believed to form an absorbable state for magnesium. With orally administered MgO, 15% is absorbed in the body and 85% is excreted via the feces without being detected in pharmacokinetic analysis. Magnesium absorbed into the plasma demonstrated peak concentration 3 h after administration and was excreted via the urine within 48 h.
著者
入山 茂 池間 愛梨 桐生 正幸
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.95-101, 2017 (Released:2019-01-01)

縊死偽装事例では、自殺と関連しやすい情報が含まれることにより、確証バイアスが生じ、死因 の鑑別を誤る可能性がある。特に、検視官と比較して、法医学の専門的な訓練を受けていない司法 警察員における確証バイアスの影響は大きい可能性がある。本研究では、過去の縊死偽装事例の分 析を行うことにより、心理学の領域でほとんど検討されていない、縊死偽装事例に関わった司法警 察員における確証バイアスの影響について、研究の手掛りとなる知見を提供することを目的とした。 テキストマイニング手法を援用し、縊死偽装事例 1 例の検視に関わった元検視官、元法医学者、元 司法警察員の出版された記録から、遺体の部位や状況、遺体に付随する物品に関する単語および熟 語(以下、遺体情報)を抽出し、χ 2 検定および残差分析を行った。分析の結果、他殺と鑑別した元検 視官、元法医学者と比較して、自殺と鑑別した元司法警察員は、着眼する遺体情報の種類が少なく、 索状物、頸部圧迫、体重といった縊死と関連する遺体情報に着眼していた。
著者
竹内 栄一
出版者
一般社団法人 表面技術協会
雑誌
実務表面技術 (ISSN:03682358)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.171-182, 1980-04-01 (Released:2009-10-30)
参考文献数
27
著者
小池 求
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.118, no.9, pp.1620-1643, 2009-09-20 (Released:2017-12-01)

As one condition of the program instituted under the Boxer Protocol of 7 September 1901, the emperor of China was required to make a formal apology to the emperor of Germany for the murder of Baron von Ketteler in Beijing during the Boxer uprising. However, the Qing Dynasty's decision to send a mission of expiation to Germany was motivated less by the rules of the Protocol than an intention to improve relations between the two countries, while Germany's main intent was to receive a formal apology for Ketteler's murder. This divergence in expectations would greatly complicate negotiations over how the audience between the Chinese ambassador and the German emperor was to be conducted and cause increased friction between the two countries. The problems concerning the audience decorum involved 1) the submission of an official communique, which Prince Chun 醇 was to perform in the presence of Wilhelm II and 2) the German demand that the Chinese "kowtow" at the emperor's feet as a sign of apology. The Chinese vehemently protested the demand to "kowtow" as an act of "national disgrace." As the negotiations bogged down, the original Chinese expectations about the mission were dashed. The Qing government desired the use of a precedent established in 1896 when Li Hongzhang 李鴻章 was granted an audience before Wilhelm II and submitted to him a formal letter; but the German emperor insisted that Prince Chun's Chinese retinue kowtow, despite initial opposition by his own Bureau of Foreign Affairs. Upon the advice of diplomats who had directly experienced life at the Qing Court, the Bureau argued that since the kowtow was a religious act, it was inappropriate within the realm of international diplomacy, showing that there were concerned parties in both countries who were willing to compromise via diplomatic precedents and interpretations. Wilhelm II did heed the criticism offered by his diplomats and public opinion, showing a disposition to compromise, but giving into such pressure also threatened to demean his imperial authority. Therefore, resolving the "kowtow problem" required some gesture from the Chinese, which appeared in the form of a prodigious appeal to the emperor from Prince Chun to graciously excuse his Chinese retinue from kowtowing, which freed the Germans to relent without any loss of face on the part of their emperor. It was in this way that through a compromise between the two countries on the question of diplomatic ceremony, the problems surrounding the mission of expiation were solved prior to the signing of the Boxer Protocol.
著者
時津 裕子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.110, 2021

<p>かつては口承で語り継がれた怪談が,Web上のテキストで楽しまれるようになって久しい。そこで描かれる恐怖がどのようなものであるか知ることは,現代日本人の心性や文化的特性を考える上で不可欠だろう。本研究の目的は,現代のネット怪談がもつ意味的構造を解明することである。まとめサイトに掲載されたランキング上位100篇の怪談を収集し,作中に登場する恐怖の喚起につながると考えられる112件の物語要素を抽出した。つづいて,各話におけるこれら要素の存否状況をダミー変数として,数量化理論Ⅲ類による分析を実施した。カテゴリー布置から,1軸が,作中で発生する出来事の原因に明確な説明が成り立つかどうか(「ルール明示/ルール不明瞭」)を,2軸が怪異や霊的存在が目に見える形で登場するかどうか(「恐怖の直接呈示/間接呈示」)を表すと解釈でき,ネット怪談はこれら2軸の組み合わせにより4類型に分類できることがわかった。</p><p></p>

50 0 0 0 OA 水痘ワクチン

著者
浅野 喜造
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.249-256, 2009-12-24 (Released:2010-07-03)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

1974年に岡株水痘ワクチンの成績がLancet誌に公表され30年以上が経過した.米国では同ワクチンを定期接種化し10年以上が経過し,接種率は約90%に到達しており,水痘が過去の疾患になりつつある.しかるに水痘ワクチンの開発国である我が国では未だ任意接種のままで接種率は40%を超えたものの水痘の流行は以前のままである.水痘ワクチンの定期接種化は小児のみならず国民すべてに有益であり,公衆衛生学的にも医療経済学的にも意義の高いことは同ワクチンが世界中で用いられていることからも明らかであろう.