著者
金森 寛充
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

飢餓ストレス誘発による心筋オートファジーは自己細胞内蛋白や細胞内小器官を分解しエネルギー産生を代償することで心機能を維持した。急性心筋梗塞においてオートファジーはエネルギー産生を代償し心筋細胞死を抑制することで梗塞サイズを縮小した。また慢性心筋梗塞においてリモデリング抑制と心機能改善に関与した。すなわちオートファジーは心保護的作用がありこれを促進させることは心筋梗塞の新しい治療手段となりうることが示唆された。
著者
渡邊 真平 齋藤 昌利 埴田 卓志 佐藤 信一 池田 秀之
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

人工子宮システムを用いれば,妊娠90から100日まで (ヒトの妊娠24-27週に相当),安定した胎児循環のもとで合併症なく,母獣の子宮内で育った胎仔と同等に育てることができることを証明する.また子宮内炎症に曝露された胎仔でも人工子宮システムで安全に成育できることを証明する.
著者
大庭 伸也
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

大型ゲンゴロウ類の仲間の多くは絶滅の危機に瀕している。ゲンゴロウとクロゲンゴロウの個体数は減少しているが、それらの近縁種のコガタノゲンゴロウ(コガタノ)は増加傾向にある。諸形質について種間で比較したところ、コガタノは他の2種に比べ、①高温下で幼虫の生存率及び成長速度が高まること、②成虫は活発に飛翔すること、③地域間(本州から南西諸島)で遺伝的変異がほとんどないことが判明した。以上の結果から、近年の地球温暖化の影響でコガタノが増加し、成虫は高い移動分散能力を持つことから、過去に減少または絶滅した地域へと再定着していると考えられた。
著者
溝口 優司 中橋 孝博 安達 登 近藤 恵 米田 穣 松浦 秀治 馬場 悠男 篠田 謙一 諏訪 元 馬場 悠男 篠田 謙一 海部 陽介 河野 礼子 諏訪 元
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2005

旧石器時代から縄文~弥生移行期まで、日本列島住民の身体的特徴がいかに変化したか、という問題を形態とDNAデータに基づいて再検討し、日本人形成過程の新シナリオを構築しようと試みた。結果、北海道縄文時代人の北東アジア由来の可能性や、縄文時代人の祖先探索には広くオーストラリアまでも調査すべきこと、また、港川人と縄文時代人の系譜的連続性見直しの必要性などが指摘された。シナリオ再構築への新たな1歩である。
著者
鳥養 祐二 田内 広 趙 慶利 庄司 美樹
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

トリチウム処理水の海洋放出処分における、安全確認と安心のために、トリチウム水を用いてヒト細胞の培養を行い、その影響を調べた。その結果、①海洋放出するトリチウム処理水濃度と比較して、非常に高濃度なトリチウム環境下でしか細胞死は起きないこと、②モンテカルロ法により、細胞核にトリチウムのβ線のエネルギーを付与するためには、トリチウムは細胞核内に存在する必要があること、を明らかにした。また、③魚の自由水に含まれるトリチウムの濃度を迅速に測定できる手法の開発を行い、トリチウム処理水の海洋放出処分時の迅速な安全確認が行えるようにした。本研究は、トリチウム処理水の処分に大きく貢献する研究成果である。
著者
湯川 やよい
出版者
東京女子大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究は、非触法ぺドファイル(子どもを性的な対象とする小児性愛者のうち、性加害を実行したことがない人々)の実態を、当事者の語りから読み解く仮説生成型の研究である。2年目にあたる2018年度は、特に(1)前年度の国内調査についての海外発表(中間報告)、(2)海外調査、(3)関連領域における調査法関連での文献調査とまとめ、(4)国内での継続調査を行った。まず、(1)については、国際社会学会(7月、トロント)において報告を行った。日本国内の非触法ぺドファイルの自己形成が、北米中心に発信される診断文化の文脈とセクシュアリティのポリティクスの交差のなかで独自の位置取りを占めることを報告し、当該テーマにおいて先駆的な実践が報告される西欧非英語圏で活動する関連研究者と議論できたことは、貴重な成果と言える。また、ナラティブ分析の方法という観点から英語圏言説の分析を行った論文を共著『自己語りの社会学』に収録した(8月に出版)。(2)については、米国フィラデルフィアおよび米国シアトルにおいて、関連研究者とのディスカッションおよびフィールド調査を行った。現地の運動当事者との面会は実現しなかったものの、関係者への間接的な調査は行うことができた。(3)については、周辺関連領域における性的マイノリティ一般の調査技法にかんする論稿をまとめ、発表した(和文、2019年3月)。また、(4)国内調査についても継続インフォーマントへの聞き取りを行っている。
著者
江口 文陽
出版者
高崎健康福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ヒカゲシビレタケ菌糸体の生理学的特徴を明らかにした。また、ヒカゲシビレタケは、強迫性障害の治療に有用であることを明確にした。その作用機序の1つは脳内モノアミンの挙動へ与える影響であることを突き止めた。これらの結果は、催幻覚性きのこの基礎研究および強迫性障害をはじめとした神経系疾患治療の研究に貢献するものである。
著者
赤石 樹泰
出版者
武蔵野大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

クルクミン誘導体CNB-001には、経口で正常ラットの記憶力を高める効果が見出されたため、アルツハイマー病治療薬開発のリード化合物として注目されている。本研究では、主に海馬スライス標本を用いた電気生理学的検討により、その作用機序の解明を試みたところ、CNB-001はMAPキナーゼやPKC経路には影響せずに、NMDA受容体ならびにCaMKⅡ依存性機構により、海馬における記憶形成の分子過程である長期増強現象(LTP)を促進することが明らかとなった。
著者
神庭 重信 鬼塚 俊明 加藤 隆弘 本村 啓介 三浦 智史
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

うつ病の神経炎症仮説に基づき、動物実験としては、グラム陰性菌内毒素をマウスに投与して、行動および脳内の組織化学的変化について研究した。広範囲に及ぶミクログリアの一過性の活性化は見られたが、それを通じたアストログリア、オリゴデンドログリアへの影響は検出できなかった。ミクログリア活性化阻害物質であるミノサイクリンの投与は、内毒素投与の有無にかかわらず、抑うつ様行動を惹起した。培養細胞系では、ヒト末梢血中の単球から、ミクログリア様細胞を誘導することに成功し、気分障害罹患者を対象とする画像研究でも、拡散テンソル画像を集積した。これらの研究を通じ、うつ病と神経炎症の関連についてさらに知見を深めた。
著者
池邨 清美 中野 茂
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,生後12ヶ月未満に保育所に入所した子どもを対象として,保育士との愛着と母親への愛着を比較し,1)0歳児保育においても,子どもは母親と同じように愛着を形成するのか,2)保育士に対して形成される愛着は,母親に対して形成される愛着と連続性があるのか,独立して形成されるのか,の二点を明らかにすることを目的とした。対象は,生後1年未満から保育所で保育されたもの,家庭で保育されたもの,それぞれ35名の子どもである。研究は,愛着Q分類法による行動観察と愛着行動尺度と気質尺度を用いた質問紙によって,子どもが生後12ヶ月にから18ヶ月の間に行われた。その結果,質問紙調査では同じ子どもについて保育士に対する愛着と母親に対する愛着が比較されたが,生後8ヶ月以降に保育所に入所した乳児には両者に強い関連が見られたが,必ずしも気質がその関係を直接的につないでいるわけではなかった。また,そうした関連は生後8ヶ月未満に保育所に入所した場合には見られず,愛着は母親と保育士に個別に形成されると考えられた。保育士と母親に対する愛着を同じ子どもで観察した事例は少ないが,母親と不安定な愛着を形成した場合でも保育士とでは安定した愛着を形成する場合があった。保育所保育群と家庭保育群で比較すると,保育士に対する愛着は母親に対する愛着と遜色がなく,0歳児保育では保育士は重要な愛着対象であり安定した愛着を形成していたが,保育所児は泣きを保育士から世話を得るための手段として用いる傾向にあった。こうした知見から,愛着形成期での保育士の愛着形成における役割が示された。わが国で女性の社会進出が進み,0歳児保育がますます盛んに行われる状況において,保育士の役割を示した本研究の意義は大きいと考えられる。また,国際的にも0歳児保育での愛着研究はそれほど行われておらず,貴重な成果と言えるだろう。
著者
河野 哲也 福島 千鶴 松瀬 厚人 土田 朋子 尾長谷 靖
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

現代の食生活において、世界的な肥満の増加と健康意識の高まりから、カロリー摂取量を抑制する目的でゼロカロリーの人工甘味料が広く用いられている。一方で、カロリーを抑制するために用いているにも関わらず、人工甘味料摂取が逆に肥満や2型糖尿病のリスクを上げることが報告されており、その健康への影響が注目されている。本研究の喘息モデルマウスでは容量依存性にアスパルテーム投与でアレルギー性気道炎症の亢進を認めていた。今回の研究により、人工甘味料:アスパルテームは既存の気管支喘息のアレルギー性気道炎症を増悪させるだけでなく、それ自体が気道炎症惹起のリスクになると考えられた。
著者
清家 章
出版者
高知大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

縄文時代から古墳時代を通じて、女性の地位がどのように変化するかを墳墓と遺存人骨から調査した。その結果、全時代を通じて女性家長が存在し双系的親族構造の中で女性はヘッドウーマンの地位を保持していることが明らかとなった。しかし、首長層における女性の地位と権能は複雑であることが明らかとなっている。弥生時代中期と古墳時代中期以降は女性首長の存在が認められず、その間に存在する弥生時代終末期〜古墳時代前期には女性首長の存在が一般的に認められる。つまり、首長層においては首長権を行使するこどに対し、女性の活動が活発的な時期とそうでない時期があるのである。その原因は性別分業と大きな関わりがあると考えられる。特に戦争との関わりが重視される。女性には戦争に関わる権能がない、あるいは積極的には認められていなかったため、戦争あるいは軍事的緊張が高まる時期、もしくは政権の軍事化が行われる時期には女性は首長になり得なかったのではないかと考えられた。また古墳時代中期以降に臨時的な場合を除いて、女帝・女性首長は存在しないので、これ以降女性首長が登場することはなかった。また、古墳時代中期以降は一般層においても父系的編成が行われたと考えられる墳墓群が認めあられた。政権が軍事化するに伴い、首長は男性に限定され、下位層に対しても軍事的な理由から父系的な編成が行われたと考えられるが、それは貫徹せず、双系的基盤は後世に受け継がれた。
著者
岡ノ谷 一夫 池渕 万季 戸張 靖子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

家畜化された動物には、白斑がある、頭が丸い、攻撃性が弱い、ストレス耐性が高い等の共通点がある。これを共通して説明するのが家畜化の神経堤細胞仮説である。神経堤細胞は、色素細胞や顎組織、副腎髄質を形成するので、攻撃性が低い個体を選択するうち、これらに関連する特性が弱まるという仮説である。ジュウシマツは野生の小鳥、コシジロキンパラを250年前から日本で家禽として育てた亜種である。両亜種の差異が神経堤細胞仮説に合致するかを検討した。結果、ストレスと白斑、および大脳歌制御システムについてはこれが合致するが、嘴の長さや体の大きさ、扁桃体の大きさなどについては差異が認められなかった。
著者
山本 周美
出版者
武庫川女子大学短期大学部
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

トランス脂肪酸(TFA)は、不飽和脂肪酸のうち二重結合の立体配置がトランス型になっているものの総称である。工業由来TFAは、子宮内胎児発育遅延や発達障害のリスクとなることが欧州の研究で示唆されている。そこで、本研究では日本人妊婦を対象に、胎児の発育に及ぼすTFAの影響について検討した。胎盤組織から脂質抽出を行い、GC-MSにて脂肪酸分析を行い、児の発育指標との関連を検討した。結果、早産児の場合、胎盤中のTFAの存在比率と出生体重SDスコアが負に相関した。この結果から、TFAが児の発育を抑制する可能性が示唆された。
著者
杉田 昭栄 八巻 良和 志賀 徹 居城 幸夫 飯郷 雅之 横須賀 誠 青山 真人
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

果実の成熟にともない糖度含量、軟化さらに果色が増加し、酸度は減少し、収穫時以降は軟化のみ増加し、糖度や果色また酸度は平衡状態となった。この収穫前頃から、カラス等が飛来して果実をつついているのが、観察された。鳥が果実の熟成の時期を見分けることができるのは、嗅覚や視覚の発達が考えられる。そこで、まずはカラスとヒヨドリの嗅覚系の特性を調べた。その結果、脳全体に対する嗅球のしめる割合が極めて小さく、一般には左右独立して存在する嗅球が完全に左右癒合していたことから、カラスとヒヨドリの嗅覚はあまり発達していないことが示唆された。次に視覚系の特性を調べた。カラスの神経節細胞は300万個を超えるとともに、神経節細胞の高密度域が2箇所あったこのことは、視覚が極めて発達していることを示していた。また、網膜周辺に進むにつれ少なくなっていた。視細胞の油球は赤、青、黄、緑、透明のものが見られ、その分布割合は均衡していた。ヒヨドリの神経節細胞の分布傾向はカラスのそれと類似していたが、油球は緑・黄緑系の油球が周囲を占めていた。学習行動によってカラスの各種波長への感受性を調べたところ、短波長に対して最も高い感受性を持っていることが示唆された。さらに、カラスの網膜には、4種類の色覚に関わる錐体オプシンがあり、その内のひとつは紫外線に感受性を有していた。鳥が果実の熟成段階を何で判別しているのか調べるため、熟成段階の異なる果物をカラスに提示し、選択された果実に共通する特徴を調べた。その結果、カラスは果実の熟成段階を判別するために糖度や硬度を手がかりにせず、果実の色、すなわち果皮の光反射を手がかりにしていた。
著者
林崎 浩史
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

アレルギー性気道炎症は炎症細胞が肺組織に集積することで引き起こされる。我々はこれまでに、T細胞の発現するCD69がそのリガンドであるミオシン軽鎖9/12との会合を介し、組織移行を促すことで気道炎症を誘導する事を報告し、この新規気道炎症制御機構をCD69-Myl9システムと命名した。本システムは気道炎症のみならず様々な疾患にも関与することが推測されるが、その詳細は不明であった。本研究により、CD69-Myl9システムの分子機構の一端を、そして病態形成への関与を明らかにすることができた。今後、より詳細に解析を進めることで、CD69-Myl9システムの治療ターゲットとしての可能性を明らかにしたい。
著者
森 健人
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

これまで博物館の収蔵標本は概ね科学の発展のために収集されてきたといっても過言ではない。しかし,博物標本は自然物である。自然物の役割は科学的研究活動にのみ限定されるべきなのであろうか。申請者はそうは思わない。芸術,エンターテイメントを含めあらゆる文化的創作活動に対しても自然物たる博物館標本は貢献できる可能性が秘められている。しかしながら,標本の保守管理上の制約から「誰でも」「自由に」博物館の標本にアクセスできる環境を構築するためには膨大なコストが必要となり,ただちにそれを実現することは不可能である。そこで博物館標本の3Dモデルが重要となってくる。3Dモデルを活用すれば,「誰でも」「自由に」閲覧する環境を比較的低コストで整えることができる。また,「博物館標本に自由にアクセスできる環境」に慣れていない一般観覧者に対しても「確実にクリーン」で且つ「損壊の恐れがない」3Dモデルとの接触は良い導入になると考える。上記を踏まえて,本研究ではフォトグラメトリー(写真測量)を用いて効果的に博物館標本を3Dモデル化する方法を検証し,如何にして公開するかを模索するものである。博物館標本の3Dモデルを公開する方法として申請者は3種の方法を考えた。1)インターネット上での3Dモデル閲覧サイトの公開,2)3Dプリントを利用した博物館内におけるハンズオン展示,3)3Dプリントを利用した博物館外におけるハンズオン展示。1)についてはYoshimoto3D(β)として国立科学博物館HP上にデータベースを掲載した(http://www.kahaku.go.jp/research/db/zoology/yoshimoto/database/index3D.html)。2)については複数の博物館で試験的に公開を行った。3)については現在「路上博物館」という館外展示を試験的に展開している。
著者
上村 隆広 花村 周寛 尾家 建生 原 一樹
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、開創 1200 年を迎えた高野山を訪れる外国人来訪者の観光動機・体験を実地調査し、高野山における外国人特有の観光体験の実態について、「観光と物語」「多感覚体験」「場所の聖性」等の視角から解明することを目的としたものである。各種調査の結果、以下のような知見を得た。即ち高野山の自然的環境、宗教的伝統、今日的実践が融合して得られる独特の観光体験が、精神性に価値を置く来訪者の高い満足度と評価につながっている一方で、インバウンド急増による「観光地化」的変化等の懸念も出始めており、高野山が観光体験の質を持続させるためには、内外の旅行者とホスト側との「対話」的関係性の増進が期待される。
著者
眞溪 歩 藤巻 則夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本基盤研究(B)「変調刺激による誘発脳波・脳磁界計測」は,誘発脳波・脳磁界計測において被験者に提示する刺激に広義の変調を施し,脳波・脳磁界データから脳内処理に関係する情報を抽出する計測方法の開発を目的とした.具体的には以下の項目について研究・開発を行った.1)M系列符号を用いて人間に直接与える刺激にAM, PM変調を施し,この符号を用いた復調を行った.2)言語処理課題の対照実験に対し,実験Aの脳波・脳磁界には実験Aに関連する変調作用が反映されていると考え,それが実験Bの脳波・脳磁界に含まれているかを調べるフィルタリングを行った.3)2)における脳内での変調作用は自発脳波(α波,β波など)の位相同期にも現れると考え,刺激前後のα波の位相と誘発反応の振幅の関係を調べた.4)変調を施さない方式での脳波・脳磁界計測も行い,上記変調方式と比較した.5)1)の方式の有用性検証するために,リアルタイム動作するBrain-Computer Interface(BCI)を試作した.6)上記の手法開発過程での副産物として,信号源推定法を開発した.上記の情報抽出手段は既存の脳イメージングの枠組みにははまりにくいが,システム論の立場では重要な意味を持つ.脳がその処理において入力信号に変調を加えるなら,入力信号の変化は脳が行った処理と考えられる.計測・制御を支えるシステム論においては,信号と処理は抽象化され同一視される.この同一視の重要性は,システムのanalysisにおいてもsynthesisにおいても実証されている.本研究の提案手法では,このような立場に立脚し,上記の5)を除く項目についてはanalysisとして,5)に対してはsynthesisとして有効の可能性を示した.
著者
伊東 秀之
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

抗発癌プロモーターのスクリーニング試験のうち、protein kinase C(PKC)の活性阻害試験において、緑茶の主ポリフェノール成分の(-)-epigallocatechin gallate(EGCG)が、顕著な阻害作用を示すことを当研究室と国立がんセンターとの共同研究により明らかにしている。一方、五倍子の主成分であるpentagalloylglucoseにもEGCGと同様に抗発癌プロモーター作用が認められており、その作用はPKC阻害作用によるものであることが予想されることから、PKC阻害活性を指標としてより有効な抗発癌プロモーター活性物質の探索を行った。まず、タンニンや関連ポリフェノールを含有する植物の多いトウダイグサ科、バラ科、ツバキ科の他、キク科、アヤメ科の諸植物のエキスについて、PKC阻害活性のスクリーニングを行った。その結果、アヤメ科植物のジャーマンアイリス(Iris germanica)の根のエキスに比較的強い阻害活性を認めたので、PKC阻害活性を指標としてその活性成分の単離、構造解明を行った。本植物の乾燥根をメタノールで冷浸した後、n-ヘキサン、酢酸エチル、n-ブタノールで順次抽出して、分画を行った。各エキスのPKC活性試験の結果、強い活性を認めた酢酸エチルエキスからphenol類、isoflavonoidおよびiridal型triterpenoidを単離した。単離した各化合物についてPKC活性試験を行った結果、isoflavonoidに阻害活性を認めるものがあり、逆にiridal型triterpenoidのなかには活性促進作用を認めるものもあった。このように同植物から、相反する作用を示す化合物を単離したことから、それら化合物の共存関係を調査するとともにさらに活性成分の単離、構造解明を進めている。