著者
工藤 桃成
出版者
神戸市立工業高等専門学校
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2018-08-24

数学とその応用分野において,曲線は古くから研究されてきた重要な研究対象であり,その中でも特に代数曲線は,主に代数幾何学・整数論と呼ばれる分野で研究されている図形である.本研究では,特殊な代数曲線の探索・決定を目的としており,理論と計算の融合的なアプローチによって解決を目指している.本研究で得られる特殊な代数曲線は,暗号・符号理論への応用可能性を併せ持ち,将来的には情報通信などへの応用が期待される.
著者
山口 和也
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

光合成細菌にニッケル含有酵素ウレアーゼが存在することは、これまでほとんど知られていない。本研究において、紅色無硫黄細菌であるRhodobacter capsulatusがウレアーゼを生合成することを見いだし、さらにこの細菌のウレアーゼを単離精製することに初めて成功した。この光合成細菌は、通常の生育条件下ではウレアーゼを生合成することなく生育する。ところが、窒素源をアンモニウムイオンから尿素・アルギニン等に変え、窒素代謝系を制御することにより、この菌体におけるウレアーゼ生合成を誘導することができた。また、窒素飢餓条件下にすることで生合成されるウレアーゼの量が増加することも明らかになった。さらに、ウレアーゼ生合成過程においてニッケルイオンを添加するとウレアーゼ活性が著しく促進されることより、この細菌のウレアーゼも他の菌体のものと同様にニッケルを含む酵素であることも示唆された。光合成細菌中の色素や複合タンパク質の生成をおさえ、より多くのウレアーゼの単離精製を行なうために、暗所好気的条件下で培養した細菌からウレアーゼの精製を行なった。ウリアーゼ精製の際に用いるバッファーに2-メルカプトエタノールを添加することにより、精製効率は飛躍的に向上することが明らかになった。この添加剤は酵素の活性中心である複核ニッケルに架橋することにより酵素を安定化させる働きをしているものと考えられる。さらにイオン交換・疎水クロマト法により、従来単離されなかった光合成細菌のウレアーゼの精製に成功し、酵素比活性は38μmol(Urea)/min.mgまで向上した。SDSゲル電気泳動により、サブユニットの分子量は67KDであることも判明した。本研究により、高度に精製された新規の光合成細菌ウレアーゼが得られ、ウレアーゼの構造と機能の関連性を解明し生体中におけるニッケルイオン役割を明らかにするための礎が得られた。
著者
村上 恭通
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

当該研究の最終年度に当たり、これまでの復元実験の成果を検討し、木原明(国選定保存技術保持者<玉鋼製造>)との意見交換を実施した。その検討成果を受け、2014年10月、岡山県新見市備中国たたら伝承会実験場において製鉄炉(愛媛大学20号炉)を復元し、銑鉄生産を目的とした操業実験を行った。製鉄生産炉の要が、送風孔の角度・高さ、炉床の堅さであることを反映した最終の実験では、当初の目的である銑鉄を炉外に連続して生産することができた。送風孔の高さをさらに調節すればさらに生産効率があることが判明した。しかし製鉄遺跡の情報から復元した炉で銑押し技術を復元するという当初の目的は達成できた。
著者
山口 十四文 平井 俊朗 実吉 峯郎
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

強力かつ選択的なヌクレオシド・ヌクレオチド系テロメラーゼ阻害剤を獲得するための分子設計を行った。テロメラーゼは制がん剤の研究開発を行う際の恰好な標的酵素と考えられる。また、良い阻害剤はテロメラーゼの構造や機能を研究するための試薬として有用であると考えられる。まず、いくつかの糖部変換ヌクレオチドアナログのテロメラーゼに対する阻害効果を塩基部がチミンとグアニンの場合を比較しながら調べた。その中で、3'-アジド-2',3'-ジデオキシグアノシン(AZddG)5'-トリりん酸(AZddGTP)とカーボサイクリックオキセタノシンGトリりん酸(c-oxtGTP)などのいくつかのグアニンヌクレオチドアナログがチミンのものに比べて強い阻害効果を示した。特にAZddGTPが強い阻害を示し、阻害機構はdGTPに関する拮抗阻害とプライマー3'末端に取り込まれるための鎖伸長停止と考えられる。AZddGTPは、脊椎動物DNAポリメラーゼαおよびδに対する阻害は弱かったことから、テロメラーゼ選択的阻害剤といえる。次に、ヒトHL60培養細胞を用いて、数十日の長期間にわたるAZddG処理がテロメアDNA長および細胞増殖速度にどのような影響を及ぼすかを調べた。AZddGは再現性良くテロメアの短小化を引き起こした。また、細胞増殖への影響はそれほど顕著ではなかったが、わずかな増殖速度の低下が認められた。DNAポリメラーゼα阻害を作用機構とするアラビノルラノシルシトシン(araC)がAZddGの効果を増強するかどうか調べたが、特に観察されなかった。現在、既存の制がん剤の効果をAZddGが増強するかどうかを検討中である。
著者
実吉 峯郎 山口 十四文
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

生殖細胞およびトランスホームした細胞に活性が高く、複製に際してその末端部分を合成するテロメラーゼに着目し、その阻害剤の分子設計を行った。酵素としては、逆転写活性を有することでウイルス由来のそれとの比較は重要であり、生物寿命との関連、がんとの関連で注目されているにもかかわらず、酵素学的解析はほとんど行われていない。そこで、Stretch PCR法の条件を詳しく検討した結果、ヌクレオシドと関連する阻害剤候補物質のLineweaver-Burkプロットなどを用いた反応速度論的解析が可能となった。我々の研究室ですでに保有するL-dGTPおよびL-dTTPの阻害能をこの系で評価したところ、HIV逆転写酵素と比較してエナンチオ選択性が高いことが明らかとなった。我々が合成したdUTP類似体についてその5位に疎水性スチリル基を導入すると親和性が高まり、一方、HIV逆転写酵素を強く阻害することで有名なHEPT誘導体はテロメラーゼを全く阻害しないことも明らかとなった。以上の知見に基づいて、塩基部では、かさ高さ、疎水性、親水性、電気陰性度などを指標とした置換メチル基を有するアラUTP誘導体、糖部では、既に有効なアラビノース、ジデオキシリボースとの比較において従来全く試みられていないリキソースヌクレオシド誘導体を設計、合成した。今回ヒトHeLa細胞テロメラーゼを用いて検討したが、さらなる素材としてサクラマス精巣に高いテロメラーゼ活性を有することを見出したのでこれは今後の蛋白質化学的解析に発展することが期待される。
著者
実吉 峯郎 川口 健夫 山口 十四文
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、まず、ヌクレオチドの酸素をメチレンに置き換え、りん酸エステルをメチレンホスホン酸にすることから始まる。そのため、既知の方法に従って、トリエチル亜りん酸をパラアルデヒドと反応させて得たヒドロキシメチルトリエチル亜りん酸としたのち、トシル化して鍵中間体とした。一方、L-アラビノースより出発して調製した、L-チミジンの直接的ホスホン酸化を色々な条件で試みたが、副生成物が多く実用的でないことが判明した。ついで、メチル-L-2-デオキシリボフラノシドと当該試薬を、水素化ナトリウム存在下反応させ、副生するジ置換体を分離後、3′-水酸基を塩化パラトルオイル処理により保護した。メチルジトルオイルデオキシリボシドのアノメリック位はエーテル溶媒中の塩酸ガスによるクロル化により、α体が選択的に析出してあとの反応に都合がよいが、今回の反応では、α体とβ体が混合物として得られた。そこで、トリメチルシリルチミンを用いていわゆる、Max-Hoffer反応を行ったあと、生じたαとβの異性体をシリカゲルカラムクロマトにより分離した。αとβの生成比は1:3であった。N_4-アセチルシトシンのシリル体でも同様な反応が進行したが、プリン系では、この縮合条件では、多くの異性体を生じ、相互に分離して目的物を得るにはいたらなかった。一方、1,2-イソプロピリデン-3-O-トシル-α-D-キシロフラノースをホスホネート化したあと、加酢酸分解に付し、トリメチルシリルチミンと縮合し、脱保護すると、エポキシド中間体を経て、アラTの5′-メチレンホスホネートに到達した。両者の燐部分の脱保護を行い目的物を得た。この方法を適用して、塩基部位のバリエーションを合成するとともに、すでに合成出来た化合物については、現在、単純ヘルペス1型、2型、サイトメガロウイルスに対する抗ウイルス活性を検定中である。
著者
実吉 峯郎 川口 健夫 山口 十四文
出版者
西東京科学大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

申請時に提出した研究計画に基づき、まず、アラビノフラノシルシトシン-5′-モノりん酸(アラCMP)を出発材料とし、N4,2′,3′位の水酸基を無水プロピオン酸を用いてアシル保護した後、ピリジン中、塩化トリイソプロピルベンゼンスルフォニルと、対応するアルコール又は、フェノールと反応させ、脱保護、ダウエックス1(ぎ酸型)カラムクロマトグラフィーで精製し、a)フェニル、b)オルトクロロフェニル、c)パラノニルフェニル、d)フェノキシエチル、e)フェニルプロピルの各エステルを合成した。まず、3′→5′エキソヌクレアーゼ(ホスホジエステラーゼ)による酵素的水解に対する挙動を吟味したところ、いずれも、短鎖直鎖アルキルエステル(メチル、エチル、プロピル)と比較して、相対的に、水解速度は速く、その順番は、abcedであった。従って、芳香環に直結した水酸基を有するエステルが、この酵素にたいする親和性が高いと思われる。耐性細胞では、細胞膜の透過性が低下し、かつ、第1次りん酸化過程(salvage酵素)が欠落している可能性が示唆されているので、第一に細胞膜の透過を良くし、内部でエキソヌクレアーゼによってエステルの水解による、アラCMPの放出が行われることが望ましい。ついで、アラC感受性および耐性の培養ヒト癌細胞であるKB細胞を用いて上記化合物の検定を行ったところ、化合物cのみが、耐性株に対して増殖阻害を示した。cはアルキルフェノールエステルであり、側鎖ノニルグループによって、透過性とエステル酵素分解のかねあいがうまくいき、他の化合物にない挙動を示したと思われる。今後は、同様にアラC耐性に白血病細胞を用いて検定を行う予定である。膜透過性すなわち、細胞外からの取り込みには膜のトランスポートが関与しているので、その補助薬を開発することも耐性克服には有用であり、フェネチルデオキシウリジンとFUdRの系をモデルとしてその有効性を明らかとした。(発表論文)。さらに、りん酸エステルの類似体としてのホスホネートヌクレオシドについても一般的な合成法を確立しつつある。
著者
永井 美之 実吉 峯郎 吉田 松年 斉藤 英彦
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

HIVに対する抗ウイルス剤開発にあたっての標的のひとつはちウイルスゲノムの逆転写の過程である。これまでに用いられたアジドチミジン(AZT)、ジデオキシシジン(DDC)には、相当な選択性が認められるものの、骨髄抑制などの副作用が重大問題となっている。骨髄抑制は、株化リンパ球とそこでのウイルス増殖の抑制から得られたin vitro治療指数からは予知できなかった。本研究では血液幹細胞のin vitro分化増殖系に対する薬剤の毒性が生体レべルでの骨髄毒性を反映するか否かを調べることを主要目的とした。ボランティアから得た骨髄細胞からエリスロポエチンと顆粒球コロニー刺戟因子により赤芽球系コロニー(CFUーE)及び顆粒球系コロニー(CFUーG)を形成させる過程に各種薬剤を加え、発育抑制の程度を算定すること、血小板系については株化された巨核芽球(MEGー01)の分裂増殖ならびにフォルボールエステルによる巨核球へ分化の際の薬剤の影響を調べた。その結果、AZTは臨床使用時の血中濃度に相当する濃度又はそれ以上で、CFUーEとCFUーGを共に抑制したが血小板系への毒性はみられなかった。一方DDCはCFUーEやCFUーGは抑制せずMEGー01細胞の分裂増殖を抑制した。巨核球への分化はDDCでも抑制されなかった。以上の結果は、AZTが貧血や顆粒球減少を招きやすく、DDCは血小板減少を招きやすいという実際の副作用とよく一致した。したがって、本システムは、抗エイズヌクレオシドアナログの骨髄毒性評価に有用であると考えられた。本システムにより新設計と既知のヌクレオシドアナログの毒性も検討したが、結果として、AZT又はDDCより優れた薬剤は見出せなかった。尚本研究の過程で、ヌードマウス、SCIDマウスを含む調べたすべての系統のマウス血清中に抗HIVー1活性の存在することを見出した。現在阻止物質の単離精製を進めている。
著者
松崎 慎一郎
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

在来ナマズ属3種の地域集団および遺伝的構造を明らかにするために、日本全国およびアジア諸国からナマズ類を採集し、ミトコンドリアDNA調節領域の塩基配列に基づく系統地理解析を行った。ビワコオオナマズでは1集団(琵琶湖)、イワトコナマズでは2集団、ナマズでは3つの大きく分化した地域集団が国内に存在することが明らかとなった。イワトコナマズについては、これまで琵琶湖固有種とされてきたが、近畿・中部地方に別の地域集団が存在することが分かった。また、次世代シーケンサーを用いてマイクロサテライトマーカーを開発し、遺伝的多様性の評価が可能となった。
著者
田中 愛治 川出 良枝 古城 佳子 西澤 由隆 齋藤 純一 吉川 徹 小西 秀樹 船木 由喜彦 今井 亮佑 品田 裕 飯田 健 井柳 美紀 遠藤 晶久 清水 和巳 Jou Willy 千葉 涼 日野 愛郎 三村 憲弘 村上 剛 山崎 新 横山 智哉 加藤 言人 小川 寛貴 坂井 亮太 中西 俊夫 劉 凌
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2013-05-31

熟慮を経てから市民のニーズを測定するCASI調査と、熟議を通して市民のニーズを探るミニ・パブリックスを比較分析すると、熟議に基づくミニ・パブリックスよりも、熟慮に基づくCASI調査の方がサンプルの代表性は高く、実施のコストが低い点では好ましい。しかし、本プロジェクトの実験・調査を通して、熟慮だけでは難しいが、熟議を通してこそ達成できる効果もあることが分かった。例えば、事実に対する思い込みの是正においては、熟慮ではなく、熟議の効果が確認できた。したがって、CASI調査(熟慮)とミニ・パブリックス(熟議)のどちらにも利点があることが明らかになり、一概に両者の優劣をつけることはできないといえる。
著者
森田 昌孝
出版者
山形大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

【目的】障害者雇用促進法により研究機関も含む公的機関は一定以上の障害者を雇用することが定められている。研究機関における一般管理業務や維持管理業務、研究補助業務は技術職員が従事し、定員として雇用されている。しかし、そのような管理業務を再点検してみると、多くは日々の決まって行う業務であり、作業監督者・従事者が一定の配慮をすることにより、軽度知的障害者の方でも十分に公共のために貢献できると考えられる。そこで、研究機関において円滑に就労するために必要な点についてを明らかにするため次の調査を行なった。【方法】高等養護学校(117校、回収率51.3%)ならびに研究機関(204施設、回収率36.8%)を対象にアンケートを実施した。高等養護学校へは就労にあたっての注意点や対応可能な職域について、研究機関へは職員の労働形態の推移や意識問題、具体的な作業について、主に調査した。【結果および考察】高等養護学校では雇用者側が障害の特性を理解するなど一定の配慮をすることにより雇用につながる可能性が示唆された。研究機関では実験器具の洗浄、試験動物の飼養管理の補助や施設の清掃など対応可能な場面が多くあることが明らかになった。しかし、慎重な意見も多く、事前に3者の十分な協議を行うことが雇用拡大には不可欠であると考えられた。
著者
武田 悠
出版者
広島市立大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2018-08-24

1978年の先進国首脳会議(サミット)において発出されたハイジャックに関する声明の形成と実施、及びそれらに対する日本の関与を、外交文書等に基づいて検討する。当時、西側世界有数の経済力を持つに至った日本は、経済問題のみならず政治問題でも国際秩序への関与を求められた。先進国が標的となっていたハイジャックもその最初期の事例であった。サミットを通じた日本の関与の実態を明らかにすることで、既存の国際秩序を受け入れて活動するのみだったと言われることの多い戦後日本外交が、実際にはその経済力ゆえに国際秩序の運営に関与していたことを明らかにする。
著者
安井 大輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

筆者の研究は、多文化時代における食文化の変容と生成に、比較社会学的視点からアプローチし独創的な研究領域を切りひらこうとするものである。従来、自らの文化的民族的アイデンティティを表出する資源としてみなされてきた〈食〉が、グローバル化の進展とともに多文化化しハイブリッド化していくなかで、どのようにその位置を変化させてきたのかは、現代世界の社会・文化研究にとってきわめて有意義なものである。とりわけ筆者は、沖縄や本土から南米に移住した「日系人」が日本に再移住して、沖縄や朝鮮半島からの移住者などと接触しながら、マジョリティ社会のなかで、つくりあげる食文化を長期のフィールド調査によって分析している。具体的なフィールドは横浜市鶴見区の臨海地域である。戦前から沖縄からの本土移民および在日韓国・朝鮮人の集住地であった当地は、1990年の出入国管理法の改正以降、ブラジル・ボリビア・ペルー等から沖縄出身日系人の二世、三世たちが多数移住するようになった経緯を持つ。そして現在は、沖縄と韓国と南米の両文化が混交する文化接触領域Contact Zoneとなっている。筆者の研究目的は、ホスト性とゲスト性が幾重にも錯綜した現代世界の縮図でもあるこのような場を通して、いかに文化の再創造と再整理がおこなわれているのかを探求し、多文化化する現代世界の新たな文化秩序の解明と展望に寄与することである。さまざまな属性を持つ人々の共存する都市における文化やエスニシティを研究するには、他者と差異化し同一性を確認する装置として働く"エスニックフード"の維持・変容という食文化からの視点が不可欠であると考えている。この認識にもとづき、今年度は上記の文化接触領域におけるレストランや家庭食・行事食の調査を行い、食によるエスニック集団の表象と地域内外における人々の食実践について研究を進め、学会発表と論文の執筆を進めた。
著者
北村 歳治 佐藤 次高 店田 廣文 近藤 二郎 桜井 啓子 高橋 謙三 長谷川 奏 吉村 作治 山崎 芳男 及川 靖広 岡野 智彦 鴨川 明子 北村 歳治 保坂 修司 加納 貞彦 深見 奈緒子 鈴木 孝典
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本調査研究は、歴史的系譜と地域的特性を念頭に置き、科学技術と東南アジア・中東等に焦点を当て今日的な視点で取り組んできた。具体的には、イスラーム諸地域の研究者等と直接的に連携し、天文・陶器・医薬・建築等の分野で斬新な調査活動を進め、非イスラームとの相互交流から生まれ出た歴史的なイスラーム文化の保存・育成の研究に成果をもたらした。他方、ICT利用・医療サービス・金融等の今日的な課題に取り組むイスラーム諸地域の動きに関する調査分析も行なった。これらの成果は、早稲田大学、インドネシア国立イスラーム大学等で行われた計6回のシンポジウム等で今日のイスラーム問題の躍動する建設的な側面を明らかにできた。
著者
秦 玲子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

平成24年度には、年次計画に基づき、ニュージーランドの先住民マオリの伝統的タトゥー、モコについて、(1)ニュージーランド国内におけるフィールド調査を行ったほか、昨年度の研究成果を引き継ぎ、(2)地域エリアの領域に焦点を当てた現地稠査、(3)文献資料の収集と調査を行った。また、(4)研究大会やシンポジウムに参加し、成果発表や情報収集を行った。(1)ニュージーランド国内における現地調査モコが彫られる場、そしてモコと非マオリのタトゥーとの接触を考察するため、ニュージーランド国内における長期調査を予定していたが、これを変更して短期の調査を行い、施術の観察とインタビューを行った。今年度の調査における最大の成果は、特に①30代の若い世代の彫師たちの活動と②彫師たちの国内外の客獲得のための宣伝活動について調査を深めることができた点である。(2)地域エリアの領域に焦点を当てた現地調査昨年度ソロモン諸島における太平洋芸術祭の調査を通じて明らかになった、太平洋地域のタトゥーとモコの関わりをより詳細に検討するため、サモアとクック諸島を訪れてフィールド調査を行った。(4)研究大会・シンポジウムへの参加6月の文化人類学会での研究発表のほか、3月のオセアニア学会や日本国内のタトゥー関連シンポジウムに参加し、文化人類学、オセアニァ、タトゥーについての理解を深めた。
著者
平井 洋子
出版者
首都大学東京
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

H21年度は,H19年度とH20年度に行った授業の記録および授業時の学生の会話記録に基づき,教員の説明のしかたで改善すべき点をあらためて検討した。とくに測定の妥当性という概念とその重要性を半年間の講義と実習で会得してもらうということを最優先に据えてこれまでの授業内容を見直した。その結果,具体的な心理尺度を研究例から紹介すること,仕様書の事例を初めに見せること,を授業の初めの方で行うことにした。具体的には,その研究例では測定したい内容をどう定義して,どのような特徴や使用用途を備えさせようとしているのかを研究論文から抜粋し,仕様書を作って与えた。またその心理尺度の項目は仕様書に定義された内容をちゃんと測っているかを学生に検討させ,更にワーディング上の問題点や改善点なども考えてもらった。この準備を行ったことで,項目を集めれば心理尺度ができるわけではないことが,講義で解説するよりも理解できたようだった。また,後に自分たちでオリジナルの尺度を作るときの予行練習ができた。逆に,評定尺度法の説明や注意点,ワーディングや選択肢の並び順による回答の誘導など,調査法としては興味深い知識でも,心理尺度の作成に直接関わらない内容は儒禦プログラムから削除した。H21年度の授業では,チェックリストタイプや,異なる構成概念を包含する総合指標タイプを目指すグループが現れたため,ひとつの構成概念を測定するための尺度との違いを妥当性に絡めて説明する良い機会に恵まれた。この点はこれまで非公式なアドバイスとして行うのみであった。今後の考えられる授業プログラムとしは,授業の初期に研究例を紹介し,その仕様書を示し,「抽象的な構成概念を反映する道具」としての心理尺度という位置づけを行ったのちに,チェックリストタイプや総合指標タイプの例も示して対比させることが考えられる。
著者
宮坂 靖子 光石 亜由美 磯部 香
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

女性の主婦化と「性-愛-結婚」三位一体観とを特徴とする日本の近代家族の生成・存続を可能にしたのは、植民地(朝鮮、台湾、満洲)の存在であった。日本帝国主義は植民地政策において、近代的教育制度と近代公娼制度を利用して、ジェンダーと民族を差異化し階層化することによって、近代家族規範を成立させた。近代家族の「性-愛-結婚」三位一体観は、家族への性愛規範の普及によってのみ成立したのではなく、近代公娼制の存在を必要とした。しかし、近代家族規範は日本国内においてのみ完結したのではなく、日本(宗主国)の外部である植民地に近代公娼制度を移出することにより、自らをより強固なものとしたのである。
著者
奥村 正雄 緒方 あゆみ 川本 哲郎 洲見 光男
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究課題の比較法研究に欠かせないと判断したイギリス刑法の教科書(Andrew Ashworth and Jeremy Horder, Principles of Criminal Law 7thed., Oxford University Press 2013)を協力者を得て翻訳作業を行い、同志社法学に7号に分けて14本の原稿が掲載中である。この作業を通して、本研究課題のイギリスにおける背景事情と刑事法との関係等の理解が、本研究を実行している者だけではなく、読者にも一層深まるであろう。各人の研究成果として、奥村正雄「少年法の適用年齢の引下げを巡る議論ー犯罪被害者等への配慮の視点を中心にー」同志社法学396Ⅱ号(2018年)pp.833-867は、本研究課題との直接的関連はないが、保護処分の妥当性の問題、是非善悪の弁別能力の有無・程度の問題の検討は、未成年の精神障害ないし知的障害を有する加害者の非行と社会復帰支援、それらの傷害を有する少年加害者の被害者支援のあり方を考えるうえで、重要である。川本哲郎「犯罪被害者の人権と被害者支援」同志社法学396Ⅱ号(2018年) pp.813-832は、犯罪被害者支援のあり方について、2004年の犯罪被害者等基本法及び2005年の犯罪被害者等基本計画によって、精神障害や知的障害に起因する犯罪の被害者に対する支援も同等の支援を受けるべき権利があることを主張する。洲見光男「アメリカにおける取調べの規制―自白の証拠能力の制限―」同志社法学396Ⅱ号(2018年)pp.870-889は、知的障害を有する被疑者の取調べにおける捜査官の誘導等による自白の証拠能力の問題点を検討する。緒方あゆみ「摂食障害と万引きに関する一考察」同志社法学396Ⅱ号(2018年)pp.1148-1187は、万引き事犯における摂食障害との関係性を分析している。
著者
松本 武浩 川崎 浩二
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

地域完結型医療の推進に伴い、専門疾患も診療所管理へと変わってきたため、専門診療を支援する仕組みが必要である。がん疾患では、地域連携パスが期待されたが、充分に機能していない。診療所管理の際に専門家が関与できないことが一因と考え、ネットワーク型の地域連携パスを開発した。専門家による診察内容をシステム上に展開し、必要な検査データを自動で格納することで、専門外の医師による専門診療を可能とし、その結果により専門家が異常と判断する条件を組み込み、該当患者を一覧表示することで、診療所管理時でも検査追加の判断や増悪等を早期認識できるシステムを開発した。今後は本システムの評価を行う必要がある。