著者
小澤 正直
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

量子論理に基づく集合論である量子集合論の研究は,論理学的方法で量子論を再構築し,量子論の確率解釈を拡張することを目指している。量子論理には含意結合子の選択に任意性があり,その標準化や個別化が長年の問題とされてきた。本研究では,含意結合子の選択による量子集合論の差異に着目し,量子集合論の移行原理が成立する多項式定義可能な2項演算がちょうど6種類あることを証明し,そのうち実質含意と呼ばれる3種に対して,量子集合論で定義される量子物理量の順序関係の確率解釈の差異を明らかにし,実験的検証可能な特徴付けを与えた。この研究により数学基礎論と物理学の新しい境界領域の展開と量子情報技術への応用が期待できる。
著者
小林 達明 高橋 輝昌 保高 徹生 近藤 昭彦 鈴木 弘行
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

福島第一原発事故による放射性Cs汚染に対する除染作業による里山森林生態系の反応を3年間継続測定した。137Csの初期沈着量は500kBq/m2だった。137Csの林冠から林床への供給は、2013年7kBq/m2だったのが2014年4.4kBq/m2に減少したが、2015年には4.7 kBq/m2に増加した。これは137Cs動態が平衡状態に移行しつつあることを示す。林床の137Cs蓄積量は有機物層除去で79%、リター除去で43%減少した。林冠から林床への137Cs供給はそれぞれ38%と33%減少した。処理効果は見られたが、有機物層下層の除去は可給態Csの減少にあまり貢献しなかったと考えられる。
著者
相澤 啓一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

日独両言語間の通訳者養成は日本の高等教育機関では未だ制度化されていないため、本プロジェクトでは希望者を募って通訳者養成を定期的に実践する中で、通訳者が必要とする日独専門用語データベースの整備と、よりよい通訳のあり方をめざす理論化を目指した。本プロジェクト開始後、ドイツ・ハイデルベルク大学では日独英通訳者養成の修士課程が設立されたので、協力して資料収集と単語リストの共同開発、意見交換を行った。用語リスト等は今後も継続して整備されていく予定である。
著者
貝原 巳樹雄 千葉 悦弥 金野 茂男
出版者
一関工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ハロゲン光源(近赤外光源)、光チョッパー、モノクロメーター、光センサー、プリアンプ、ロックインアンプ(高い信号対ノイズ比を実現するための特殊なアンプ)、モノクロメーターの波長送りモーター、制御およびデータ処理用PCをUSBで接続するタイプの原価20万円程度のプラスチック種類判別機を開発した。判別できるプラスチックの種類は13種類程度であるが、国内のプラスチック総生産量の約90%程度の種類判別をカバーできる。
著者
池田 京子 大谷 真 香山 瑞恵 東原 義訓 山下 泰樹 谷塚 光典
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

通常,正しい発声法は,熟達したプロのヴォイストレーナーによる個別訓練によってのみ習得できるとされており,このことが教育現場において,歌唱指導の壁となっていた。そこでこれまで研究代表者らが開発してきた「声の見える化技法」を応用したソフトウェアを開発し,改良を重ねた。また、それを用いた指導法を構築し、附属学校園での「歌唱指導」の授業実践を重ねてきた。これにより,児童・生徒たち自身が自分の声を評価し,友だち同士の相互評価ができ,プロのヴォイストレーナーがいなくても,自分たちが目的を設定することで,主体的な学びに発展させるシステムの端緒を構築した。
著者
竹田 和由
出版者
順天堂大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

NK細胞やNKT細胞は感染の初期防御において重要な細胞である。NK細胞やNKT細胞の感染防御機能に重要な分子を明らかにし、これらの細胞の活性を調節することで感染防御機構の制御を図ることを目的として研究を進めてきた。今年度は、NKT細胞の特異的リガンドによる活性化後の機能変化と、それを応用してNKT細胞の活性を高める手法を見出し報告した。NKT細胞は、CD1d上に提示された糖脂質をT細胞レセプターで認識し活性化する。生理的なリガンドとしてバクテリア由来のGSL-1等が知られており、またα-galactosylceramide(α-GalCer)によるNKT細胞の特異的な活性化が、腫瘍治療や感染防御に応用され始めているが、充分な成果は得られていない。我々は、特異的リガンドで活性化されたNKT細胞では、細胞表面のレセプターが一時的に消失し、その後、T細胞レセプターがNK細胞レセプターより早く再発現することを見出した。この現象はOCH刺激後に顕著で、OCH刺激後、抑制性NK細胞レセプターであるCD94/NKG2Aの発現の無いNKT細胞は、α-GalCerによる再刺激で10倍以上の量のサイトカインを産生した。また、このCD94/NKG2Aを介したNKT細胞の機能抑制はIFN-γにより増強されることを見出し、これがNKT細胞の活性化調節に重要であることを示した。この結果により、NKT細胞の活性を制御する自己に対する抑制性NK細胞レセプターが見出され、この機能調節によりNKT細胞の反応性を制御できる可能性が示された。また、1次反応と2次反応でNKT細胞のリガンドに対する反応性が異なることは、感染時期等によりNKT細胞が異なった反応をしている可能性を示しており、今後、感染時期を追って詳細にNKT細胞の反応性を解析し、感染防御機構におけるNKT細胞の真の機能を解明する必要性が示唆された。
著者
山崎 敏正 井上 勝裕 齊藤 剛史
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

以前の科研費(基盤研究(C)サイレントスピーチBCI、平成23年度~25年度)では、頭皮脳波を利用したsilent speech Brain-Computer Interface in Japanese(SSBCIJ)において、個々のサイレント母音とサイレントなひらがな2文字のdecodingにとどまっていた。本研究では、健常者において、日本語で、サイレントの3文字以上から成る単語および文節のdecodingを可能にするアルゴリズムの開発と、患者(脊髄性筋萎縮症Ⅰ型)への適用を目指した、real-time SSBCIJシステムの設計を検討した。
著者
原田 綾子
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

里親は児童福祉法上の里親委託によってその身分が発生するものであり、そのケアの性質は本来公的なものである。しかし日本での実態としては、里親は、疑似養子縁組的・私的養育として実践されることが多かった。このことが里親の権利義務をあいまいなものにしてきたと考えられる。本研究者は、アメリカの制度を手掛かりとして、社会的養護の目標を、①親と暮らせない子どものために、それぞれの子どものニーズに合った質の高い代替的ケアを提供すること、②子どもがその最善の利益になるかたちで社会的養護を出ていくために長期的目標を立てそれに向けたサービスを行うこととし、この二つの目標達成に必要な里親の権利義務について検討を行った。
著者
谷口 宏充 栗谷 豪 宮本 毅 長瀬 敏郎 菅野 均志 後藤 章夫 中川 光弘 伴 雅雄 成澤 勝 中川 光弘 奥野 充 伴 雅雄 前野 深 嶋野 岳人 板谷 徹丸 安田 喜憲 植木 貞人 古畑 徹 小嶋 芳孝
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

頭山およびそれを包括する蓋馬溶岩台地に関して、現地調査、衛星データー解析、採集した資料の化学分析・年代分析、国内の関連地層の調査・年代分析などの手法を用いて、白頭山10世紀巨大噴火の概要、白頭山及び蓋馬溶岩台地の火山学的な実態を明らかにしようとした。開始してから1年後に北朝鮮のミサイル問題・核開発問題などの諸問題が発生し、現地での調査や研究者との交流などの実施が徐々に困難になっていった。そのため、すでに収集していた試料の分析、衛星データーの解析及び国内での調査に研究の主力を移し、可能な限りの成果を得ようとした。その結果、近年発生している白頭山における地震多発とマグマ活動との関係、存在は知られているが分布や内容が全く未知である蓋馬溶岩台地の概要が明らかになり、更に、地下におけるマグマの成因についても一定の結論を得た。混乱状態にある白頭山10世紀噴火の年代問題をふくめ、また、北朝鮮からの論文を含め、研究成果は12編の論文として論文集にまとめられつつある。
著者
山上 実紀
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

医師のバーンアウトと感情労働の関係を明らかにすることを目的とし、総合診療医17名を対象としたインタビュー調査を行った。結果として、医師たちは「冷静さ」という感情規則を保つために、"患者との距離化"、"自らの感情の抑圧"という2つの方法を用いて自らの感情を管理していた。医師にとっての困難な感情体験を乗り越えるために、医師にとって感情管理は必要であり、そのような医師の感情労働を自他ともに肯定できるかどうかという状況要因が、医師のバーンアウトに関連していることを指摘した。
著者
田中 亜以子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成23年度は、避妊による快楽と生殖の分離が、夫婦間の性行為にいかなる変容をもたらしたのかということを明らかにするために受胎調節の啓蒙が国家政策となった1950年代に着目した。これまで先行研究は、避妊技術と夫婦の「快楽の性」への志向性が手を携えて浸透していったこと、さらにそのことと連動して性行為における「感じさせられる女」と「感じさせる男」という役割規範が浸透していったことを指摘してきた(川村1998、荻野2008)。だが、夫婦間の性が「快楽」への志向性を高めた結果、なぜそこで「感じさせられる女」「感じさせる男」が演じられるようになったのか。その受容過程は、ほとんど問われてこなかった。「戦後」という時代に「感じさせられる女」「感じさせる男」が、たしかに脚光を浴びたことは、ヴァン・デ・ヴェルデの『完全なる結婚』が1946年にベストセラー化したことによって証拠づけられてきた(橋爪1995、川村1998、田中雅2010)。セックスのゴールを男女の同時オーガズムに設定した『完全なる結婚』は、女をオーガズムに導く責任を男に課し、そのための技巧や体位を詳細に記述した性のマニュアル本である。そうした書がベストセラーになったことが、日本社会に大きな影響を与えたことを否定するつもりはない。だが、『完全なる結婚』において何が提示されたのかということが繰り返し論じられてきたのに対し、そこで提示されたことがどのような論理によって受容されたのかということについては、これまでほどんど問われてこなかったのである。啓蒙側と受容側にズレはなかったのか。あるいは男と女の間のズレはどうだろうか。申請者は、そうした問いを立てることによって、「感じさせられる女」「感じさせる男」が共に平等と支配と関係を取り結んできたメカニズムを解明した。具体的には、まず性に関する当時のオピニオンリーダーたちが何を考え、何を発言していたのかということを整理した上で、夫婦雑誌の流行に着目し、「感じさせられる女」「感じさせる男」が「戦後」という時代にどのような枠組みにおいて注目されることになったのかということを浮かび上がらせた。続いて、1949年6月に創刊され、既婚男性を主たる読者とした『夫婦生活』という雑誌に着目し、「感じさせられる女」「感じさせる男」がどのようなものとして啓蒙され、かつ、どのような論理で男たちに受容されていったのかということを分析した。最後に、50年代を通して女性月刊誌の中で最も読まれた雑誌であり続けた『主婦の友』に着目し、性生活関連の記事を『夫婦生活』との比較の観点から分析することで、受容の論理の男女差に光を当てた。
著者
中西 千香 荒川 清秀 明木 茂夫 塩山 正純 植村 麻紀子
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

わたしたちは、中国語のレアリア“realia”の中国語教育における可能性、妥当性について検討した。メンバーそれぞれが毎年、資料収集、そして、分析を行い、論文発表および学会発表を通して、このことを証明した。また、年に1回研究会やワークショップを行い、一般の学習者や中国語教育従事者に向けて、レアリアとは何か、レアリアの特徴を紹介し、中国語教育でどのように援用できるか、援用することが、これからの中国語教育にどういう意味をもつのかについて,利点を述べ、明確な示唆を与えることができた。メンバーそれぞれが限られた時間の中で、やるべきことはやりとげ、本プロジェクトは目標を達成したと言える。
著者
辻 加代子
出版者
神戸学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、京都語に隣接する京都府口丹波方言の敬語展開の現状を明らかにすることを目ざしたものである。口丹波地方では、従来、尊敬語として機能するハル敬語と、親愛語として働くテヤ敬語とが併存し、使い分けられていた。しかし、2012年から2015年までの現地調査の結果、京都市に近い南東部、特に中心部の亀岡地区で、テヤ敬語が廃れつつあることがわかった。そして女性は京都市女性話者に近い敬語運用を行い、男性は京阪地方で盛んな軽卑語のヨルを取り入れ、テヤ敬語の役割の一部を担わせつつある。また、ほぼ全域で、存在動詞がハルに承接する場合、オラハルとイハルないしイヤハルとのあいだでゆれがみられることがわかった。
著者
三宅 康子 山村 卓
出版者
国立循環器病センター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

家族性(遺伝性)高コレステロール血症の原因遺伝子として因果関係が最もよく知られておりかつ高頻度なものはLDLレセプター遺伝子異常である。わが国に見られるLDLレセプター遺伝子異常にはどのようなものがあり、またどのような異常が多いのかについて調査してきた。LDLレセプター遺伝子の全coding領域およびプロモーター領域についてSSCP法、direct sequencing法により塩基配列の詳細を調べたところ新たな高頻度変異や、minor変異がいくつか見出された。互いに血縁のない207例の家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体について解析を行ったところ、207例中121例(58%)にLDLレセプター遺伝子異常が見出され、合計56種類の異なる変異が確認された。それらのうち、8種類の変異は比較的高頻度に見られた。それらはC317S変異(207例中6.3%)、K790X変異(6.3%)、1845+2T→C変異(6.3%)、L547V変異(3.4%)、P664L変異(2.9%)、D412H変異(2.4%)、2313-3C→A変異(2.4%)、V776M変異(2.4%)でありこれらはいずれも点変異であった。これらの変異はわが国におけるLDLレセプター遺伝子のcommon mutationであると思われる。これら8種類の変異を合わせると全体の32%を占めるところから、わが国の家族性高コレステロール血症の32%の遺伝子診断は比較的容易であると思われた。しかし残りの48種類の変異は1例(0.5%)から3例(1.5%)にしか見られず、これらのminor mutation(全体の26%)は診断が難しい。このようにわが国におけるLDLレセプター遺伝子変異は非常に多様なものであり一般的には遺伝子診断は難しいと思われる。症状と変異の関連については、LDLレセプター活性を正常の20〜30%残しているtypeの変異ではnull typeのものに比べて臨床症状がmildであった。全coding領域の塩基配列を調べても変異が見られない症例は207例中86例(42%)あり、これらの遺伝的高コレステロール血症は、LDLレセプター遺伝子以外の遺伝素因に基づくものと思われる。これらがどのような遺伝素因によるものであるのか、考えられる高コレステロール血症素因について調査予定である。
著者
中村 雅之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

免疫沈降法や免疫細胞化学法などの研究の結果、コレインは細胞骨格系タンパク質やオートファジー関連タンパク質と相互作用することが示唆された。ミトコンドリア膜電位を消失させマイトファジーを誘発する脱共役剤で細胞を処理すると、コレインと細胞骨格系タンパク質との相互作用が増強した。また、コレイン強発現細胞ではコントロール細胞と比べてオートファジーを誘発する飢餓刺激やマイトファジーを誘発する脱共役剤刺激後の細胞生存率が有意に高かった。これらの結果から、コレインはオートファジーやマイトファジーに関わる細胞死抑制機構に関与しており、それらの機構の破綻が有棘赤血球舞踏病の分子病態である可能性が示唆された。
著者
伊藤 壽啓 喜田 宏
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

インフルエンザウイルスは人の他に多くの鳥類および哺乳動物に感染する。ニワトリ、ウマ、ブタ、ミンク、アザラシ等に致死的な流行を起こし、その被害は甚大である。最近、これらのインフルエンザウイルスの遺伝子はすべて野生水禽のウイルスに由来することが明らかとなった。また、渡りガモのウイルスが中国南部でアヒルを介してブタに伝播し、ブタの呼吸器でヒトのウイルスと遺伝子再集合体を形成することによってヒトに導入されたという新型ウイルスの出現機構が明らかにされた。しかし、ウイルスが異なる動物種間を伝播するメカニズムが解明されていない。我々はインフルエンザウイルスの宿主域とレセプター特異性が関連する成績を得た。本研究はレセプター特異性を分子レベルで解析することにより、インフルエンザウイルスの異動物種間伝播のメカニズムを明らかにすることを目的として企画された。まずインフルエンザウイルスの代表的な宿主であるカモ、ウマおよびブタの標的細胞表面のレセプターの糖鎖構造をシアル酸の結合様式の違いを認識するレクチンを用いて解析した。これにより、ウイルスのレセプター結合特異性と宿主細胞表面の糖鎖構造が宿主域を決定する重要な要因であることを証明した。一方、シアル酸の分子種の違い(Neu5Ac,Neu5Gc等)を認識する特異抗体を用いて、N-グリコリル型シアル酸(Neu5Gc)の分布がカモのウイルスの腸管での増殖部位と相関する成績を得た。さらに、このNeu5Gcを認識するヒト由来ウイルス変異株のヘマグルチニンを持ち、他の遺伝子は全てカモのウイルス由来である遺伝子再集合体を得た。このウイルスがカモの腸管で増殖するか否かを現在検討中である。これによりインフルエンザウイルスのカモの腸管における増殖に関わる因子が明らかになるであろう。また、この研究過程で各種動物由来赤血球を用いた凝集試験により、インフルエンザウイルスのレセプター特異性を調べる簡便法を確立した。古くから知られるこのインフルエンザウイルスの血球凝集の機構をウイルスのレセプター結合特異性と血球表面に存在する糖鎖構造という観点から究明することが出来た。今後はヘマグルチニン以外のウイルス構成蛋白に関してインフルエンザウイルスの宿主域に関わる因子を明らかにし、インフルエンザウイルスの異動物種間伝播のメカニズムをさらに解明したい。
著者
大城 房美 ベルント ジャクリーヌ 中垣 恒太郎 吉原 ゆかり 長池 一美 須川 亜紀子
出版者
筑紫女学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

「女性」という主体とグローバル化によって拡がったMANGAは、均質ではなく多様な表現を生み出しているという先の研究から得られた観点から、本研究では「グローカル化」をキーワードに、アジア(東/東南アジア)に焦点を定め、各地域での日本マンガの影響、地域独自の女性マンガ文化の成り立ちや発展、動向や現状の調査・分析を行い、その成果を論文や学会で発表し、論集を発行した。女性MANGA研究プロジェクトとして開催した3回の国際会議では、地域公共機関の協力を得て現地の女性作家も招聘して討論を行い、グローカルな現象を経て生み出されたMANGAの派生文化的領域の可能性のさらなる検証が、今後の課題として確認された。
著者
森川 輝一 福島 清紀 奥田 太郎 佐藤 啓介 宮野 真生子 佐藤 実 新田 智道 福野 光輝 近藤 智彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究課題について、各メンバーが様々な分野の学会で研究発表を行なったほか、仏教学、社会心理学、古代ギリシア思想の研究者を研究協力者として招き、意見交換を実施した。また、それぞれのメンバーが研究課題についての論文や著書を刊行した。代表的なものとして、宮野真生子『なぜ、私たちは恋をして生きるのか』(ナカニシヤ出版、2014年)、森川輝一他『政治概念の歴史的展開・第八巻』(晃洋書房、2015年)が挙げられる。
著者
清水 克哉
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度は実際に希ガスのキセノン(Xe)を高圧装置(DAC)に封じこみ、超高圧力下実験を行った。キセノンは閉殻電子構造を持ち、結晶構造及び電子構造ともに最も単純な絶縁体の一つである。超高圧力下に於いて絶縁体-金属転移を研究する上で最も基礎的かつ重要な情報を与えると考える。過去に別の研究者からキセノンの金属化については2,3の報告がある。それらはいずれも光学的な測定によるものであるが、130〜150GPaの圧力域で金属化を報告している。それに対して、本年度に行った我々の電気抵抗測定による金属化の検証は、より直接的な実験といえる。キセノンは常温常圧で気体であり、低温状態で液化させて封止するが、液体状態を取る温度域が161K〜165K(融点〜沸点)と非常に狭いため、正確な温度制御が必要であり、昨年度製作した低温封止装置を使用した。100GPa超の超高圧を発生するためにDACに用いるダイヤモンドの圧力発生先端面は直径50ミクロンを使用し、その面内約30ミクロン径の穴を作成し試料室とする加工技術を確立した。低温でキセノンを封じ込めたDACを室温まで昇温した後、顕微鏡で観察しながら加圧を進めた。圧力が100GPaを超えた付近で試料のキセノンが赤みを帯び、光学測定から金属化臨界圧とされた130GPaまで加圧を進めたが、電気抵抗は測定器(デジタルマルチメータ)の測定限界抵抗(300MΩ)より大きく、測定できなかった。さらに顕微鏡観測からは試料の赤色は濃くなったものの透過光が観測され、キセノンは130GPaにおいても金属化せず、過去の光学測定による報告と反する結果となった。さらに圧力を上げていくと200GPaでは透過光が全く観測できなくなったが、最終的にダイヤが割れた270GPa付近まで300MΩ以下の電気抵抗は測定できなかった。電極断線の疑いもあるが、少なくとも200GPa付近が金属化圧であろうと結論した。昨年度に行ったCsIの結果と比較すると、CsIは約110GPaで金属化が確認できた。ほとんど同じ(電子)構造・体積圧縮率を持つキセノンが2倍近い金属化圧をもつことは興味深い。本研究の過程に於いて世界最高の270GPaに至る超高圧発生と電気抵抗測定技術を確立したことで、究極の目標である水素の金属化に大きく近づいたといえる。
著者
鈴木 克美 西 源二郎 田中 彰 久保田 正
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

駿河湾産の深海性軟骨魚類のうち、生物学的に最も貴重とされるカゲラザメ目のラブカの生態に関する知見を得ることを研究の主目的とした。1984年1月〜1988年12月に、湾内で操業されているサクラエビ中層曳網等の深海漁業を利用し、沼津から焼津にかけての沿岸水深60〜450mから、242個体(雌116個体、雄126個体)を得た。全体の90%の標本が水深200m以浅で得られた。雌の全長125.6〜181.0cm、体重3670〜17370g;雄の全長117.8〜155.9cm、体重2780〜6360gであった。成体70個体の水槽飼育において最長飼育日数は7日間であった。長期間飼育のためには、網にかかってから輸送終了までの体の損傷防止が必須と考えらた。一方、低比重の肝臓の浮力が水槽内での遊泳を著しく妨害げている様子が見られたので、タロウザメで再加圧試験を行ったところ、常圧から45気圧に加圧して17分後に、水面直下に浮く状態から中層付近への移動が見られた。食性調査に用いた139個体(雌77個体、雄62個体)の胃内容物は、イカ類23例、魚類4例、同定不能な飼料残査の見出された1例であった。一方、空胃率が73.4%と高く、他の大型中深層性魚類と同じく、ラブカが慢性的飢餓状態にあるもおとみなされた。生物学的最小形は雄全長約110cm以下、雌全長約140〜150cmで、特定の繁殖期は認めにくい。卵巣卵は径80〜90mm、卵重230〜250gで排卵され、卵殻腺内で受精し、卵殻に包まれ子宮内で発生する。胎仔は全長約80mmで卵殻から出て子宮内で育ち、全長約550mmで出生する。雌2個体から取り出した受精卵を、自然海水を満たした小水槽内でしいくし、水温8.3〜15.5°Cにおける最長生存期間は134日で、胚体は最初の全長約29mmから全長69.4mmに成長した。