著者
池上 俊一 加藤 玄 草生 久嗣 千葉 敏之 藤崎 衛 小澤 実 菊地 重仁 田付 秋子 橋爪 烈
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本共同研究によって得られた成果は以下の3点にまとめられる、第一に、初期中世からルネサンスに至るまで、教皇庁の制度は、内外のコミュニケーションを通じて、ヨーロッパ全体の変動に対応するかたちで展開していた。第二に、イベリア半島から北欧・東欧に至るまで、ラテン・カトリック世界における普遍君主としての教皇庁の影響が、君主から地方に至るあらゆるレベルで確認された。第三に、ビザンツ帝国、イスラム政体、モンゴル帝国といったラテン・カトリック世界の外部との交渉を通じ、教皇庁はヨーロッパの世界認識ならびに自己認識を変化させた。
著者
鈴木 武
出版者
姫路工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

1.ヘイケイヌワラビ産地の現状調査 兵庫の集団では植生を含む現状調査を行った。林相は常緑カシ類、ブナなどが混在するアスナロ林であり、植生学的には、照葉樹林とブナ林の境界にあたる。15m平方のコドラート(下辺が谷から13m)を設定した。ヘイケイヌワラビ(ヘイケ)23株・タニイヌワラビ(タニ)41株・アキイヌワラビ(ヘイケとタニの雑種、アキ)35株を多く含むコドラート外を含めると、ヘイケは計49株を確認できた。ヘイケイヌワラビの葉身長は最大で32cmで、10cm未満の株も1割程度含まれる。7月上旬では葉を展開しきっておらず、しっかりとした成葉となるのは7月下旬であった。現地での胞子嚢の成熟は悪く、今年度は現地個体から十分量の胞子を得られなかった。猛暑による現地の乾燥のためかもしれない。さらに全国のヘイケの産地(鳥取・広島・島根・山口)7ヶ所について、現地調査・聞き取り調査を行った。鳥取・広島の各1集団は現存が確認できない。鳥取・広島の各1集団は10株未満で、極めて危険な状態にある。島根の2集団はともに100株以上の個体があり、比較的良好な状態にある。山口の集団は40株程度である。2.酵素多型による調査 兵庫20個体、島根10個体について、電気泳動法により、AAT/HK/PGI/PGMで解析可能なザイモグラムが得られたが、まったく単型であった。3.胞子からの増殖 兵庫県産の栽培株から11月に得られた胞子を、1/2000ハイポネックスを含む寒天培地播種した。2024時間照明の状態で1週間程度で発芽して、2ヶ月で幅10mm程度の前葉体が形成された。現段階では造精器のみ観察されている。少なくとも前葉体は容易に成長する。今後の継続観察を要する。
著者
長田 年弘 篠塚 千恵子 中村 るい 河瀬 侑 小堀 馨子 坂田 道生 高橋 翔 田中 咲子 中村 友代 福本 薫 山本 悠貴
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

古代ギリシア・ローマ美術史における、広義の「祈り」(「嘆願」、「崇拝」、「オランス」)図像について、作例を検証した。特にギリシア時代の「嘆願」と、ローマ時代の「オランス」に、女性を「祈り」の主体とする作例数が多いことに着目し、社会的弱者の「祈り」と、道徳等の社会規範との関わりに目を向けた。小堀馨子(古代宗教史)は専門的見地から参加し、「命乞い」などのネガティブな価値判断を与えられた「嘆願」図像が、「敬虔さ」を表すポジティブな「崇拝」および「オランス」図像に転用された現象について検討を行った。期間中に5回の研究例会を開催し、最終的な研究成果に関して報告書を編集、刊行、専門研究者に配布した。
著者
安田 雅哉 脇 隼人 青野 良範
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、近年暗号分野で非常に注目されているLWE(Learning with Errors)問題ベースの格子暗号の解読計算量を解析すると共に、LWEベースの格子準同型暗号の安全パラメータの抽出を行い、暗号方式の性能評価を行うことである。2017年度の研究目標は、LWE問題などの格子暗号の安全性を支える数学問題を効率的に解くアルゴリズムの開発を行い、LWE問題の求解実験を開始することである。2017年度の研究成果として、格子暗号の安全性を支える最短ベクトル問題(Shortest Vector Problem, SVP)を効率的に解く新しい格子基底簡約アルゴリズムの開発を行い、2010年からドイツ・Darmstadt大がWeb上で公開しているSVPチャレンジの102次元から127次元という高い格子次元において、これまでよりも短い格子ベクトルの探索に成功した。さらに、今回開発したアルゴリズムをLWE問題の求解に適用し、既存の解法アルゴリズムよりも高速に解けることを実験的に示すことができた。また、格子問題の解法の1つであるrandom samplingアルゴリズムの正確な解析に成功し、LWEベース暗号を含む格子暗号の解読計算量の上界を評価することが可能となった。さらに、SVPを整数二次計画問題に定式化し、代表的な最適化エンジンであるCPLEXでSVP求解にチャレンジし、50次元程度まで求解可能であることを示すことができた。一方、代表的なLWE準同型暗号スキームを実装し、統計・分析などにおける基礎演算である行列計算を暗号化したまま効率的に計算する手法を開発し、プライバシー保護利活用技術としてLWE格子準同型暗号が利用可能か判定するための準備を整えることができた。
著者
内藤 俊雄 眞山 博幸
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は通常のバルク(D=3)の試料とフラクタル次元(D)を落した試料(2<D<3)とを対比し、磁気転移や超伝導転移といった協同現象における秩序化が次元Dと共にどう変わっていくかを実験データとして提示することであった。与えられた試料のDの制御を実現し、その電子物性を明らかにした点が新しい。3年間でほぼ予定通り研究が進み、酸化コバルトの反強磁性転移温度(T_N)とDの関係、および銅酸化物高温超伝導体の臨界電流密度(J_C)とDの関係が、それぞれ当該の物理量を種々のDを持った試料で測定することで得られた。この成果は論文として受理され、特許も申請した。
著者
但野 利秋
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

(1)農耕地および野草地に生育する16種の植物の根圏と非根圏における酸性フォスファターゼ活性を調査した。根圏における活性は非根圏のそれより1.1-26.8倍高かった。(2)ル-ピン、トマト、アズキを供試して土耕実験を実施した結果、これらの作物の根から分泌される酸性フォスファターゼは、根圏土壌に含有される有機態リン酸化合物を加水分解にて無機態リン酸を放出し、リン酸吸収を増加させる機能を持つと推定された。(3)ル-ピンの根から分泌される酸性フォスファターゼは、トウモロコシ葉の乾燥粉末および都市汚泥に含有される有機態リン酸化合物から無機態リン酸を放出する機能を発現した。(4)ル-ピンの根より分泌された酸性フォスファターゼ粗酵素液を、リン酸質肥料無添加条件で低リン耐性が低いテンサイとトマトの根圏に定期的に注入することにより、これらの両作物によるリン吸収が増加し、生育を改善された。この結果は、分泌性酸性フォスファターゼが植物根によるリン吸収において大きな役割を果たしいることを示す。(5)分泌性酸性フォスファターゼは根の全域から分泌されることを明らかにした。この酵素は主に根の表皮細胞で合成され、ただちに分泌されると推定された。分泌性酸性フォスファターゼの合成と分泌は培地からのリン酸供給が少なく、植物がリン不足を感知した場合に誘導され、リン欠乏条件で合成と分泌が急激に高まった。(6)ル-ピンとトマトの根から分泌される酸性フォスファターゼの分子量はやや異なるが、その特性はかなり類似することを明らかにした。但し、分泌量はル-ピンでトマトより著しく多かった。(7)ル-ピンの根から分泌された酸性フォスファターゼは根表面より2.5mm以内の根圏に局在し、活性は根表面に近いほど高かった。根圏において酸性フォスファターゼ活性が高いほど根圏土壌中の有機態リン酸化合物含有率は低下した。(8)ル-ピンの根から酸性フォスファターゼとともにクエン酸、リンゴ酸、シュウ酸が分泌された。根圏におけるこれらの有機酸の分布は酸性フォスファターゼの分布と類似した。これらの有機酸は、難溶性無機態リン酸化合物からリン酸を放出する機能を持つことを示した。(9)世界的にリン資源の埋蔵量の寿命は数10年程度であると推定されているが、リン酸を効率的にリサイクル利用するならばその年数を数十倍にすることが可能である。本研究の結果から、植物根の酸性フォスファターゼ分泌能は、リン酸の効率的リサイクル利用法の開発において中心的役割を果たし得ると結論される。
著者
津田 博幸 佐藤 信一 遠藤 慶太 佐野 誠子 山口 敦史 市田 悟 一色 知枝 稲生 知子 遠藤 慶太 奥田 和広 木下 綾子 笹生 美貴子 布村 浩一 保坂 秀子 三品 泰子 村本 春香 本橋 裕美 山田 純 湯浅 幸代 尤 海燕
出版者
和光大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

『経国集』対策部の諸写本の写真・コピーを全て入手し校訂本文を作成した。その上で「対策」全26首の注釈をほぼ完成した。合わせて、「対策」をベースにして、古代文学・思想・文化・宗教・古代史などに新たな光を当てる領域横断的研究に着手し、現在、各メンバーが論文を執筆中である。
著者
野田 遊
出版者
愛知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

米国のシティ・カウンティ統合政府の事例等を研究し、基礎自治体と広域自治体が統合して形成される垂直的統合政府の民主性と効率性について明らかにした。統合成功事例では、統合による経済発展や財政効率の向上を実現していた。一方、規模が拡大した政府において、地域を分けて住民の意向を吸い上げる取り組みなどを進め、民主性と効率性の両立に配慮していた。また、効率性はサービスを地域全般に公平に広げる機能を持つ点も明らかになった。これらは、日本の地方制度改革に資する重要な点である。
著者
林 透 深野 政之 山崎 慎一
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、従来、大学の組織構造に関する制度的変遷や機能分析をテーマとした学術的研究が中心で、大学経営や大学教育の日常的課題に焦点を当てた研究が皆無な状況に着目し、大学教員と大学職員が協働する運営体制づくり(教職協働)を超えて、大学構成員である学生との協働実践を含めた新しい姿(教職学協働)を明確化し、大学現場が直面する組織開発(OD)の担い手のあり方を探求した。研究成果として、大学教員・大学職員・学生が協働する参加型組織経営をファシリテートする組織開発(OD)の方法論及び実践事例を蓄積し、新たな提言を行ったほか、日米共同研究により、両国のFD活動の特徴や相違点を明らかにすることができた。
著者
中島 和子 西原 鈴子 石井 恵理子 岡崎 眸
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

当該研究期間の研究成果を次の4点にまとめることができる。(1)複数言語環境で育つ言語形成期の幼児・児童・生徒が、どの言語の接触量も不十分な生育・家庭・学校環境に置かれたときに一時的に生じる言語性発達遅滞をセミリンガル現象と言う。幼児の場合は言語全体の発達遅滞、学齢期の場合は認知力を必要とする特定の言語領域(読解力、作文力、抽象語彙など)の発達遅滞につながる。現象面では子どもの生得の機能障害と共通するところが多いため誤解されることが多い。愛知県の外国人児童生徒調査と東京のNew International Schoolの会話力・読解力調査を通して、マジョリティー言語を母語とする子どもよりも、マイノリティー言語を母語とする子どもがセミリンガル現象に陥る可能性が高いことが確認された。(2)主な要因は、親の国を越えての移動による教育の断絶、突如強要される使用言語・学習言語の切り替え、劣悪な言語・文字環境から来る第一言語(母語)の未発達などである。(3)教育的処置としては、日本語と英語、日本語とポルトガル語、日本語と中国語のように言語体系が異なる2言語間でもL1→L2、L2→L1の双方向の転移があることから、幼児の場合は第1言語を強め、文字環境を改善すること。学齢期の場合は、a)心理的セミリンガル現象から自ら抜け出せるように、心のケア(=アイデンティティー育成)をすること、b)最大限の認知活動を促進する学校環境を整えることなどである。(4)国内の外国人児童生徒教育では、セミリンガル状況で入学する小学1年生が急増しており、また学習言語能力の発達遅滞のために中学1,2年で中退する生徒が増えていることに鑑み、セミリンガル現象に対する行政、学校当局、教師、保護者の認識を高める必要がある。本研究で立ち上げた「母語・継承語・バイリンガル教育研究会」がその面で大きな貢献をしてきている。
著者
岩井 善太 川崎 義則 日野 満司
出版者
熊本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

能動的振動制御システムを最も効果的かつ一般的であると思われるロバスト適応制御手法を利用して構成する研究を、申請した研究計画に沿って実施し、以下に示す結果を得た。1.能動的振動制御とそのオンラインロバスト適応制御系構成に関する研究。適応制御手法を振動系制御に適用する場合、オンライン制御計算時間の短縮、振動の周期性の利用、適応アルゴリズムのロバスト化等が問題となる。これらについて考察し、離散時間適応極配置、適応繰返し制御、適応オブザーバ使用等について成果を得た。なお、成果の一部は既に公表した。2.サーボ機構を利用した振動制御装置の試作と実験。実験室レベルでの制振実験装置を試作し、通常のサーボ機構を用いて上記1.の理論が実際に有効に働くことの基本的な確認をおこなった。その結果、固定壁面が利用できる振動制御方式では適応制御方式が非常に有効であることを確認した。また、より応用範囲が広いと思われる動吸振器構造の振動制御装置においても、同様の結果が得られることが確認できた。これらの成果の一部はすでに公表したが、その他についても現在論文として投稿中である。3.スライディングオブザーバー使用によるロバスト振動抑制適応制御手法利用時におけるオンライン計算時間短縮のため、スライディングオブザーバを利用する振動抑制手法を考え、理論的考察をおこなった。特に、スライディングオブザーバを含む閉ループ振動制御系の安定性を一般的に考察し、外乱ロバスト性を含む安定条件を導き、制御系設計時におけるパラメータ設定条件を得た。
著者
長澤 多代
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は,教育の質保証を目指した大学教育において,図書館員が教員と連携を構築するための戦略とその実現に影響を与える図書館内外の条件をテーマ的コード化の手法をもとに明らかにすることである。米国のミシガン大学については訪問調査を行い,関係者への聞き取りや内部資料の調査によって得たデータをもとに戦略と条件からなるモデルを構築した。このモデルについては国際学会で口頭発表する準備を進めている。カナダのウエスタン大学,フィンランドのタンペレ大学でも同様に訪問調査をもとに同様のデータを収集し,データの整理と分析を進めている。
著者
倉田 敬子 松林 麻実子 酒井 由紀子 上田 修一 三根 慎二 國本 千裕 林 和弘 石田 栄美 宮田 洋輔 前田 知子 森岡 倫子 横井 慶子 加藤 信哉
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

学術研究において,デジタルを基盤とするオープンと共有がどのように進んできているかを明らかにすることが本研究の目的である。研究成果のオープンアクセス化は全分野で半分を超え,電子ジャーナルではデジタルで読みやすい新しい論文形式が進んだ。研究データ共有の体制が整備されている先進事例も見られたが,多くの研究者のデータへの意識は非常に複雑で多様であり,研究実践と深く関わらざる得ないデータ共有は,成果のオープン化以上に実現に困難が多く,多様な視点から検討する必要がある。
著者
水嶋 英治 吉田 右子 宇陀 則彦 白井 哲哉 逸村 裕 大庭 一郎 阪口 哲男 原 淳之 平久江 祐司 松村 敦
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究はアーカイブ技術を導入し「21世紀図書館情報専門職養成研究基盤アーカイブ」を構築するとともに日本の図書館専門職養成史を再検討することを目的とする。筑波大学図書館情報メディア系の前身組織関係資料の解明に向け、図書館情報専門職教育関係史料に関して包括的研究を実施した。本研究で遂行した研究課題は(1)文献資料・実物資料の精査と電子化のための選別・整理および文献資料補足のための聞き取り調査(2)現物資料の整理・展示および組織化、文献資料の部分的電子化、多言語インタフェース設計(3)図書館職養成史に関わる現物資料群の同定とアーカイブ活用可能性の検討(4)図書館情報学教育史の批判的再検討である。
著者
長谷川 哲也 内田 良
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は,資料の電子化が迫られる大学図書館を対象に,格差の実態とその変動を明らかにすることである。本研究では,『日本の図書館―統計と名簿』に掲載されているデータをもとに,国公立大学の図書館資料費および図書館職員について,大学間・大学間格差を分析した。また,格差の具体的な状況を明らかにするため,国公立大学を対象とした聞き取り調査も実施した。本研究が明らかにした重要な知見は,電子ジャーナル費や雑誌費,正規採用の司書数で,大学階層間格差が拡大していることである。研究と教育の両面において,大規模大学ほど図書館資源が潤沢である一方,小規模大学が苦境に立たされている実態が浮き彫りになった。
著者
松尾 豊 PRENDINGER HELMU 中山 浩太郎
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

(i)記号処理を組み込んだDeep Q Networkの構成に関しては、低次元の状態表現を獲得する手法に関する研究を進めた。具体的には、部分的な観測を扱うニューラルネットワークのモデルとして,人間の視覚的注意を模倣した注意機構(attention mechanism)を持つモデルが提案されている。しかし,これらのモデルでは,注意機構の学習がタスクから定義される外的な報酬信号を用いた強化学習によって行われており,外部からの報酬信号が得られない問題設定下では注意機構の学習を行うことができない。そこで、特定のタスクに依存しない方法で注意機構を学習させ,状態の予測を行う手法を構築した。また、よりロバストな状態表現の学習を行うため、深層敵対的強化学習(DARL)を複数のドメインに対して適用する研究も行った。その結果を、深層学習に関する国際会議のワークショップで発表した。次に (ii) 文章からの画像の生成モデルを用いた、画像空間での演算処理 に関して、文章(ソース文)から画像を生成し、それを別の言語での文章(ターゲット文)に変換する方式のニューラル機械翻訳(NMT)を実現した。単純に行うと精度の問題があるため、ソース文からターゲット文の変換を行うseq2seqのモデルに、画像の情報を加えるというアプローチをとった。すなわち、テキストと画像が持つ意味情報を,潜在変数として陽に含むニューラル翻訳モデルを提案した。実験では,Multi30kという,画像とそれに対応する英独の対訳コーパスを用い,提案モデルとの比較を行った.標準的な翻訳精度評価指標である METEORスコアにおいて全てのベースラインを上回った.また、この研究の過程において、seq2seqの学習時により密な報酬を与えることで精度がよくなることを発見し、 その結果を、深層学習に関する国際会議のワークショップで発表した。
著者
山田 悟郎
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

北海道の続縄文文化は、7世紀後半には土師器をもった農耕文化の影響のもとに擦文文化に変容する。土器からはそれまで使用されてきた縄文が消え、住居の構造は方形でカマドをもったものとなり、鍛冶の技術や機織りの技術、雑穀栽培の技術などが導入され、生活様式が大きく変革した。擦文文化の経済基盤は河川でのサケ・マス魚とされてきたが、最近の調査では各種の雑穀を栽培する畑作農耕を行っていたことも明らかになっている。畑跡はまだ確認されていないが、道内では7世紀後半から12、13世紀までの34遺跡からアワ、キビ、オオムギなど16種類の栽培植物種子が出土したほか、鉄製の鍬先,鎌などの農耕具が出土する。畑作農耕は7世紀後半から9世紀中頃までは石狩低地帯以南の地で展開されたが、擦文文化の集落が石狩低地帯以北や以東に進出する9世紀後半頃から12、13世紀には、温暖な気候を背景としてほぼ道内各地で畑作農耕が展開された。ただ、石狩低地帯以南では7〜8種類の作物がみられるのに対し、以北では多くても4〜5種類と作物の種類は少ない。また、10世紀以降の遺跡から出土したオオムギに違いがみられる。石狩低地帯以南のオオムギは東北地方北部にその系譜が求められ、以北のオオムギは大陸沿岸地方の鉄器文化で栽培されていたものにその系譜が求められる。大陸系オオムギの導入にはオホーツク文化の集団が関与していたことが明らかになった。擦文文化の集団は河川や海洋での漁業や海上・陸上での狩猟も行っていたことは、出土した魚骨・獣骨から明らかで、畑作農耕や漁労・狩猟での産生物をその経済基盤としていた。狩猟・漁労産生物の一部は、自ら産生できない鉄器などを導入した対価となっていたものと考えられる。海運による交易経済が発展した12、13世紀には、擦文土器や竪穴住居が使用されなくなり、擦文文化からアイヌ文化へと変容する。
著者
若林 啓
出版者
筑波大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

構文解析は,言語などの系列データから「自然なまとまり」を抽出し構造化する系列解析技術である.従来の構文解析モデルは,対象の系列が長くなると極端に計算時間が増加する問題があり,ビッグデータへの適用は困難であった.本研究では,従来の構文解析モデルを階層的確率オートマトンと呼ばれる,系列長に対して線形な計算時間で解析可能なモデルに等価変換する手法を確立した.この変換によって長い系列の近似構文解析を高速に実行できることを示し,文章の名詞句抽出やフレーズ抽出の応用において高速かつ効果的な解析を実現する手法を確立した.
著者
西川 青季 上野 慶介 井関 裕靖
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は,調和写像の無限遠境界値問題を一般の負曲率等質リーマン多様体に対して研究することである.このような空間の中で,カルノー群とよばれる巾零リー群の1次元可解拡大として得られる「カルノー空間」は,対称空間の一般化として重要なカテゴリーをなす.本研究の目標は,このカルノー空間のカテゴリーにおいて,理想境界として現れる巾零リー群上の幾何学・解析学と,内部領域として現れる可解リー群上の幾何学・解析学の相互関係を,「調和写像の無限遠境界値問題」を通して調べることであり,そのためにはまず,解として得られる調和写像の無限遠理想境界の近傍での正則性(微分可能性)を詳しく調べる必要がある.昨年度の研究において,研究分担者・上野は,「複素双曲型空間形から実双曲型空間形への固有な調和写像で,無限遠境界まで連続的可能性をもって延びるものは存在しない」ことを証明したが,その際調和写像の無限遠境界での正則性は,カルノー空間の不変計量の無限遠境界の近傍での発散のオーダーと密接に関係することが明らかになった.今年度は,この点に関してさらに考察し,次の結果を得た.1.定義域のカルノー空間のステップ数が,値域となるカルノー空間のステップ数よりも小さい場合(例えば,複素双曲型空間形から実双曲型空間形への場合),無限遠境界の近傍での不変計量の発散のオーダーが同じであっても,固有な調和写像の無限遠境界の近傍での漸近挙動は,その境界値から完全には決定できない.2.定義域のカルノー空間のステップ数が,値域となるカルノー空間のステップ数よりも大きいか等しく,かつ無限遠境界の近傍での不変計量の発散のオーダーが同じである場合には,固有な調和写像の無限遠境界の近傍での漸近挙動は,その境界値から完全に決定される.西川はこの結果を,上海で開催された国際研究集「International Conference on Modern Mathematics」において,招待講演として発表した.