著者
前川 雄亮 里見 佳典 小林 博幸
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.315-322, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
24

今日においては多くの医療機器がデジタル技術に支えられて開発されている.このような機器の中でも本稿では,特にSoftware as a Medical Device(SaMD)およびDigital Therapeutics(DTx)について述べる.まず,DTxについて簡単に歴史を振り返り,海外において開発された特筆すべきDTx製品の例を紹介する.次に,日本のDTxの開発状況へ話題を移し,特に海外に対する日本の開発状況の遅延について議論する.日本におけるSaMD/DTxの開発は①保険償還制度における収益予測の不確実性,②事例の蓄積不足による規制情報の限定,③臨床試験計画や承認後のソフトウェア修正戦略の困難さ,④ソフトウェア物流・認証システムの構築,⑤競合製品としてのSaMD以外のソフトウェアの増加といった多くの課題を抱えている.以上の議論をふまえ,日本におけるデジタルヘルスケアの発展における望ましい将来像と予想される課題をいくつかあげる.SaMD/DTxだけでなく,non-SaMDも含めたさまざまな製品が開発され,エコシステムが形成・相互に接続され,トータルヘルスケアが実現されるであろう.製品開発を充実させるためには,前述の課題を一歩一歩解決していく必要がある.それらに加えて,Personal Health Record(PHR)の保護と活用のためのルール作りが必要である.最近になって,日本のSaMD開発企業数社が,業界統一組織JaDHAを設立した.企業,規制当局,その他関係者の対話を通じて,この難問が解決されることを期待する.
著者
梶川 拓馬 前田 一敏 桑本 康生
出版者
日本赤十字広島看護大学
雑誌
日本赤十字広島看護大学紀要 (ISSN:13465945)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.95-100, 2015

本研究の目的は,高齢の統合失調症患者が超長期入院生活の中で何を楽しみとして日々を生きているのかを明らかにすることとした。 研究方法は記述的探索的デザインとした。対象者は,民間精神科病院に入院する65 歳以上の統合失調症患者であり,入院期間が10 年以上にわたり継続して現在に至る人達を対象とした。半構成的面接法を用いて,ありのままの言葉で楽しみについて語って頂いた結果,3つのカテゴリーと7つのサブカテゴリーが見出された。 統合失調症患者は,《懐かしさに感じる心の安寧》,《病棟生活の中でつくりあげる夢見心地》,《他者とともに過ごす時間の交流》から楽しみをつくりあげている事が明らかとなった。資料
著者
宮前 良平 藤阪 希海 上總 藍 桂 悠介
出版者
国立大学法人 大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター
雑誌
未来共創 (ISSN:24358010)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.243-275, 2022-03-31 (Released:2022-07-22)

本稿は共生・共創を考えるうえで重要なテクストである『サバルタンは語ることができるか』(スピヴァク 1998 = Spivak 1988)(以下『サバルタン』)の共読を通して、スピヴァクによる表象(代表/表現)の問題意識を共生学の3つの アスペクト(フィロソフィー、アート、サイエンス)から多角的に捉えなおすことを目的とする。第1章では、『サバルタン』の共読の舞台となった読書会がはじまった経緯を述べ、正しく内容を読み取ることを志向しながらも「読みの差異」が生まれたことに着目する。第2章では、共生のフィロソフィーの視点から『サバルタン』におけるスピヴァクの立ち位置を確認する。その際にスピヴァクによる自己言及に着目し、サバルタン連続体の見方を導入することの重要性を述べる。第3章では、共生のアートの視点からテクスト経験をオートエスノグラフィとして表現することを通して、自らのサバ ルタン性を語り直す。第4章では、共生のサイエンスの視 点から調査研究を行う際のサバルタン性との関わりを反省的に描き出す。最後にこれらの「読みの差異」を、ポジショナリティの差異として環状島モデルに布置し整理することで、「サバルタン」と、語る主体としての私との関係性を考察する。
著者
奈良 隆寛 浜野 晋一郎 野崎 秀次 田中 佳子 清水 正樹 野田 洋子 厚川 清美 有田 二郎 堀田 秀樹 前川 喜平
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.261-267, 2000-05-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
15
被引用文献数
2

例の急性脳炎 (60例)・脳症 (10例) のてんかんの発症について検討した.23例がてんかんに移行した.23例中18例は脳炎発症から平均7カ月間の期間をおいて (潜伏期あり) てんかんを発症した.また, 23例中5例は急性期からそのままてんかんに移行 (潜伏期なし) した症例がみられた.潜伏期を経ててんかんを発症した症例の中では, 髄液のneuron-specific enolase (NSE) 活性が高い症例はてんかんが難治で, てんかんを惹起する病理に神経組織の崩壊が関与することが示唆された.一方, 潜伏期なしでてんかんに移行した症例は急性期の発作の回数が多く, てんかんは難治性であったが, 髄液のNSE活性は正常であった.この一群は, 潜伏期を経ててんかんを発症する症例とは別の機序で, てんかん原性焦点の活動が増強されたものと考えられた.
著者
岩上 裕吉 上堂 文也 松浦 倫子 庄司 絢香 三宅 宗彰 松枝 克典 井上 貴裕 脇 幸太郎 中平 博子 七條 智聖 前川 聡 金坂 卓 竹内 洋司 東野 晃治 石原 立 北村 昌紀
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.584-592, 2020-05-24

●「考える内視鏡診断」のポイント・SMT様の隆起性病変の診断では,まず大きさ,表面の弧の形状,隆起の立ち上がりの性状から主座を推測する.さらに,病変の部位,個数,隆起の形状,陥凹の有無と性状に着目し鑑別診断を行う.・EUSでは,病変の局在(非腫瘍胃壁構造との連続性),辺縁性状,内部エコー像を観察する.・NETは発赤や陥凹など上皮に変化を伴うことが多く,大きなものは不整形で陥凹を伴うことが多い.黄色調,表面に血管拡張を伴うことがある.EUSで第2層に連続する低エコー腫瘤として観察される.・GISTは球形で丈が高く,頂部に深い円形の潰瘍を伴うことがある.第4層に連続する低エコー腫瘤として観察される.・転移性胃癌は多発し,丈が低く陥凹を伴うことが多い.・組織診断のため,狙撃生検やボーリング生検,EUS-FNAを試み,診断困難であれば内視鏡的切除も考慮する.
著者
馬場 駿吉 高坂 知節 稲村 直樹 佐藤 三吉 鈴木 茂 遠藤 里見 石戸谷 雅子 小野寺 亮 山田 公彦 大久 俊和 荒井 英爾 鈴木 雅明 大山 健二 粟田口 敏一 戸川 清 岡本 美孝 松崎 全成 寺田 修久 喜多村 健 石田 孝 馬場 廣太郎 島田 均 森 朗子 池田 聖 金子 敏郎 今野 昭義 山越 隆行 石井 哲夫 窪田 市世 鍋島 みどり 田口 喜一郎 石山 哲也 中野 雄一 中村 英生 五十嵐 文雄 古川 仭 作本 真 山下 公一 久保田 修 宇佐神 篤 伊藤 博隆 鈴木 元彦 間宮 紳一郎 横田 明 加藤 薫 大屋 靖彦 河合 〓 岩田 重信 横山 尚樹 井畑 克朗 瀧本 勲 稲福 繁 坂倉 康夫 鵜飼 幸太郎 雨皿 亮 山田 弘之 坂倉 健二 平田 圭甫 伊藤 由紀子 村上 泰 竹中 洋 山下 敏夫 久保 伸夫 中井 義明 大橋 淑宏 阪本 浩一 村田 清高 平沢 昌子 原田 康夫 森 直樹 白根 誠 多田 渉 小林 優子 竹林 脩文 河野 嘉彦 夜陣 紘治 平田 思 宮脇 修二 津田 哲也 山下 隆司 二階堂 真史 柿 音高 永澤 容 増田 游 後藤 昭一 西岡 慶子 折田 洋造 東川 康彦 武 浩太郎 進 武幹 前山 忠嗣 百田 統洋 堤 昭一郎 茂木 五郎 川内 秀之 松下 太 吉村 弘之 高田 順子 石川 哮 定永 恭明 大山 勝 松崎 勉 坂本 邦彦 廣田 常治 内薗 明裕 鯵坂 孝二 中島 光好
出版者
The Society of Practical Otolaryngology
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.389-405, 1995-03-01
被引用文献数
13 16

The efficacy and safety of Kampo preparation Sho-seiryu-to were studied in a joint double-blind trial in comparison with a placebo. The study was carried out on 220 patients with perennial nasal allergy at 61 hospitals. Granules in a dose of 3 g were administered 3 times daily for 2 weeks. Moderate to high improvement was recorded in 44.6% of the treated patients and in 18.1% of those receiving placebo. The difference is significant (p <0.001). Side effects were noted in 6.5% of the treated patients and in 6.4% of the controls (not a significant deference). The side effects were mild and had no influence on the daily life of the patients.
著者
村冨 浩太朗 太田 和希 小嶺 肇之 谷川 聡 山崎 一彦 前村 公彦
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.715-729, 2022 (Released:2022-08-24)
参考文献数
45

In the 400-m hurdles, race patterns based on physical fitness are an essential consideration for better performance. This study aimed to clarify the relationship between race patterns and physical fitness characteristics in male 400-m hurdlers. Thirteen collegiate 400-m hurdlers underwent measurement of maximal accumulated oxygen deficit (MAOD) and maximal oxygen uptake (VO2max). Race analyses were also conducted. The results revealed significant correlations between the 400-m hurdles running time and MAOD (r = −0.674, p <0.05) and VO2max (r = −0.607, p <0.05). There were also significant correlations between MAOD and running speed in the early phase (r = 0.839, p <0.001) and middle phase (r = 0.605, p <0.05), and between VO2max and running speed in the middle phase (r = 0.670, p <0.05) and late phase (r = 0.565, p <0.05). It was possible to classify the subjects into four types based on their physical fitness characteristics, and different race patterns were demonstrated based on fitness type. In particular, two subjects with similar times (C: aerobic type, E: anaerobic type) had very different pacing strategies. These results suggest that anaerobic and aerobic capacities affect the speed in each phase of the 400-m hurdles, and that therefore individual physical fitness characteristics consequently affect the entire race pattern. These findings will be valuable when applying the principle of individuality to training strategies for 400-m hurdlers.
著者
河合 将志 尾城 孝一 朝岡 誠 西岡 千文 前田 隼 林 正治 山地 一禎
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.260-266, 2022-05-28 (Released:2022-07-01)
参考文献数
7

日本の機関リポジトリによるオープンアクセスを推進するため,図書館は研究者に対して論文の提供依頼をおこなってきたが,そのメリットは不明確であり,提供依頼の成功率は低迷している.こうした現状を踏まえ,本研究では被引用数に着目することにより,日本の機関リポジトリによるオープンアクセスのメリットの存否について検証した.日本の機関リポジトリによるオープンアクセス論文の数は限られるものの,その被引用数と様々なタイプのオープンアクセス論文の被引用数の比較からは,日本の機関リポジトリによるオープンアクセスのメリットは確認できなかった.
著者
前田 代元 米盛 輝武 東岡 宏明
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.11, pp.858-863, 2011-11-15 (Released:2012-01-25)
参考文献数
9

急性大動脈解離は突然死を来す代表的疾患の一つであり,若年発症は比較的稀である。症例は16歳の男性で,母親に急性大動脈解離の手術歴があり,幼児期に精査するも異常は指摘されなかった。今回,突然の背部痛を主訴に近医を受診した。胸部単純X線撮影と12誘導心電図を施行されるも明らかな異常所見はなく,整形外科的疾患と診断され,鎮痛剤の投与で経過観察となっていた。近医初診から3日後に背部痛が増悪し,入浴中にけいれんを来し,心肺停止状態となり当院へ救急搬送された。来院時,心電図波形診断は心静止であった。胸部単純X線写真にて右大量血胸を認めたため,右胸腔ドレナージを施行した。蘇生処置を継続するも自己心拍再開には至らなかった。死亡時画像診断にて,右胸腔内の大量血腫と大動脈の著明な虚脱を認め,急性大動脈解離から大量血胸を来し,出血性ショックに至ったことが死亡原因と考えられた。遺族同意のもと,同日病理解剖を施行した。胸部大動脈解離は左鎖骨下動脈分岐直下より尾側に約20cmの長さで認め,後縦隔から右胸腔に大量の血腫が確認された。大動脈自体はやや発育不良で中膜において弾性繊維の乱れと断裂,嚢胞状中膜壊死(cystic medial necrosis)を認めた。大動脈解離の発生機序は中膜の異常が強く関与しているものと考えられている。本症例においては明らかな先天性疾患は指摘されていなかったが,年齢不相応の動脈硬化性病変や病理学的にMarfan症候群に類似の所見を認めており,何らかの先天性疾患が関与していた可能性が高い。若年発症の急性大動脈解離ではMarfan症候群などの先天性疾患が関与することが多いとされるが,Marfan症候群に特徴的な身体所見を認めない例でも,家族歴で急性大動脈解離が認められる場合は,繰り返し定期的に経過観察を行うことが重要であると考えられる。
著者
大沢 愛子 前島 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.40-44, 2020-01-25 (Released:2020-02-18)
参考文献数
27

認知症に対する非薬物療法は,薬物療法と対をなし,MCIから重度の状態まで,様々な病期において実施可能な治療法である.また,非薬物療法では,患者本人へのアプローチのみならず家族へのアプローチも可能であり,家族にとっても意義のある治療法である.本稿では認知症に対する非薬物療法の原則を述べ,その後,代表的な非薬物療法を紹介しながら,そのエビデンスについて説明を加える.