著者
金坂 清則 山田 誠 新谷 英治 勝田 茂 坂本 勉 天野 太郎 小方 登 秋山 元秀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、19世紀の世界をリードした西欧の中でもとりわけ重要だった大英帝国の人々が行った旅や探険とその記録としての旅行記について、アジアに関するものに絞り、歴史地理学的観点を主軸に据えつつ、歴史学者や言語学者の参画も得て多面的に研究し、そのことを通して、未開拓のこの分野の研究の新たな地平を切り開く一歩にした。また、その成果を地理学のみならず歴史学や文学の世界にも提示して学問分野の枠組みを越えることの有効性を具体的に提示し、かつそれを一般社会にも還元することを試みた。このため、I英国人旅行家の旅と旅行記に関する研究、II英国人の旅と旅行記に関するフィールドワーク的研究、III旅のルートの地図・衛星画像上での復原、IV19世紀のアジアを描く英国人の旅行記文献目録編纂という枠組みで研究を進めた。Iでは、このような研究の出発点となるテキストの翻訳に力点を置く研究と、それ以外の理論的研究に分け、前者については最も重要かつ代表的な作品と目されるJourneys in Persia and Kurdistanについてそれを行い、後者については、最重要人物であるイザベラ・バードやその他の人々の日本・ペルシャ・チベット・シベリアへの旅と旅行記を対象に研究した。IIについては、イザベラ・バードの第IV期の作品であるJourneys in Persia and Kurdistanと、第V期の作品であるKorea & Her NeighboursおよびThe Yangtze Valley and Beyondを対象とし、このような研究が不可欠であり、旅行記の新しい読み方になることを明示した。またツイン・タイム・トラベル(Twin Time Travel)という新しい旅の形の重要性を提示し、社会的関心を惹起した。IIIでは縮尺10万分の1という従来例のない精度でバードの揚子江流域の旅のルートを復原すると共に、この種の研究に衛星画像の分析を生かすことができる可能性を西アジアについて示した。また今後の研究に必須の財産となる目録を編纂した(IV)。
著者
藤原 輝男 日下 達朗 翁長 謙良 南 信弘 細山田 健三 今尾 昭夫
出版者
山口大学
雑誌
自然災害特別研究
巻号頁・発行日
1986

水食による農地災害防止の基礎的問題としての降雨特性と土壌特性との関連における土壌侵食の問題解明についておよそ次のような成果を得た。(1)南・小椋は25種の土壌について自然降雨による最大一時間降雨強度と土壌流亡量を一降雨毎に測定した結果、許容流亡土量を0.5t/haとすれば限界降雨強度は5〜30mm/hとなる結果を得た。(2)細山田は表土が黒ボクの土壌流亡の実測結果から、土壌因子Kの値が約0.04となり、また、たてうね,よこうねの土壌流亡量の比は中程度の侵食量の場合、前者が30〜40倍になることを求めた。(3)田熊はマサ土と赤色土の侵食性は、それぞれ220μmの粒径分と集合体の安定度が高い相関を示し、その両土の水食後の粒子の210μmの粒径分が対照的であることを明らかにした。(4)藤原・日下はこれまでに明らかにしてきた表面流と土壌侵食量の基礎的な関係に侵食要因を総合的な数値で表わす侵食係数を取り入れて展開し、降雨量から直接予測できる実用的な土壌流亡量推算式を提案した。(5)福桜は雨滴侵食に対する土壌面タン水の影響を明らかにするためにナイロン球を用いた実験を行なった結果、水滴の場合と明らかに異なって水深3mm程度のタン水時における衝撃のピークは認められなかった。(6)深田は水深がある場合に落下水滴による底面圧力を測定し、データを無次元量でまとめ、底面圧力と侵食量は密接に係わっていることを示唆した。(7)翁長は侵食試験区や室内実験の観測をもとに侵食に関与する傾斜要因を解明した結果、【E_I】値186以下の降雨条件下で侵食が極めて少くなる限界勾配(約1.5度)があることを実証した。また今尾は被覆による防止効果の発現は単作栽培に比較して早朝に発生すること及び帯状幅の長さには限界のあることなどを明らかにした。
著者
山田 健司 水村 容子 小川 信子 一番ヶ瀬 康子
出版者
群馬松嶺福祉短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)日本の現行公選法規定は、法規上心身能力低下をもつ選挙人の選挙権行使を実質上抑制阻害している。当該規程は、1951年地方選挙で発生した大規模不正投票の再発防止を理論的根拠としている。しかしながら、当該規程は、不正投票発生原因に対応したものではなく、在宅投票制度全体を不可能とする投票権侵害=選挙権侵害=違憲状態を生ずる原因となっている。1974年に一部復活した郵便投票制度以降を勘案した場合も、同様な違憲状態にあり、この状態は70数年間に及んでいる。(2)介護保険の要介護認定者は、本調査結果の範囲において半数以上が、非投票である。非投票原因は、主として体調の不調と移動困難性である。これは、能力低下レベルとは相関していない。また、移動困難性は通常の移動手段(歩行運動機能レベル)とは関連がなく、自宅と投票所間の投票当日における移動手段の確保を意味している。身体上の能力低下は、投票行動において障害とは言えず、非投票を惹起する原因は、環境因子によって生じている。したがって現行公選法規程が、重度歩行運動機能低下を在宅投票の事由とすることは、実態的論理的に誤謬である。(3)オランダでは、本調査結果の範囲において心身能力低下と公選における非投票とは関係がない。非投票は、自由意志による積極的投票拒否である。またスウェーデンは、在宅投票を不在者投票の一環として制度化し、投票環境の改善によって投票率の向上を恒常的に国策として進めている。(4)以上の結果から、現行公選法規定は、投票権の制限よって心身能力低下をもつ選挙人の選挙権剥奪を行っているといえる。また、すでに心身能力低下をもった高齢者が選挙人人口中に一定の比率を占めており、高齢化によってその人口は激増していくことが予想される。これは、わが国において行政政策への非関与、社会保障施策当事者性の奪取という現象を生じせしめ、人権保障の実体外人口を実質的に増加させるものである。(5)現行公選法が改正され、心身能力低下=投票バリアが解消する場合においては、公権行使への関与階層が未経験域に変化する。また改正が無い場合には、修正資本主義の自己矛盾つまり社会保障機能不全による社会制度倒壊へシフトする。いずれのケースでも、わが国は近い将来において、今と異なる社会形成を経験する可能性が高く、このことは日本自らが、社会と人間のとりわけ本質的な在り方を、本格的に問うべき時の訪れを意味している。
著者
ラーン ヴェルナー 山田 義顕 Rahn Werner Yamada Yoshiaki
出版者
大阪府立大学人文学会
雑誌
人文学論集 (ISSN:02896192)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-21, 2010-03-31

Rahn, Werner. "Strategische Probleme der deutschen Seekriegsführung 1914-1918" の翻訳
著者
山木 昭平 金山 喜則 山田 邦夫
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

インベルターゼ遺伝子の発現調節と肥大成長に対する役割を、ニホンナシ果実成長とバラ花弁の肥大成長によって検討した。(1)ニホンナシ果実より2つの液胞型インベルターゼの全長cDNA(PsV-AIV1,PsV-AIV2)をクローニングした。PsV-AIV1は細胞分裂の盛んな初期成長に関与し、PsV-AIV2は糖集積を伴う細胞肥大成長に強く関与した。(2)バラ花弁の肥大成長は、酸性インベルターゼ遺伝子の発現増加に伴う活性上昇により、スクロースがヘキソースに変換し、大きな膨圧を形成することによって生じる。そしてこの活性上昇はオーキシンによって引き起こされた。ソルビトール脱水素酵素遺伝子の発現調節とソルビトールの蓄積についてイチゴ果実を用いて検討した。(1)イチゴ果実のソルビトール脱水素酵素(NAD-SDH)の全長cDNA(FaSDH)をクローニングし、その活性も検知した。しかし、ソルビトールー6ーリン酸脱水素酵素遺伝子は存在したが、タンパク質と活性を検知できなかった。そしてNAD-SDH活性のキネティックスから、フルクトースの還元反応によってソルビトールが生成されることを明らかにした。(2)NAD-SDH活性はフルクトース、ソルビトール、オーキシンによって促進された。しかしmRNA量の大きな変化はなかった。(3)NAD-SDHのmRNAはイントロンを含んだpre-mature mRNAとmature mRNAを含んでおり、フルクトース、ソルビトール、オーキシンによる活性促進は転写後のスプライシング速度を促進することによって生じた。以上のように、インベルターゼとソルビトール脱水素酵素はバラ科植物の肥大成長、糖集積に密接に関わり、それらの基質や植物ホルモンによって発現が調節されていることを明らかにした。
著者
山田 功夫 深尾 良夫 深尾 良夫 浜田 信生 鷹野 澄 笠原 順三 須田 直樹 WALKER D.A. 浜田 信夫 山田 功夫
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

我々はPATS(ポンペイ農業商業学校)や現地邦人の方々の協力を得て,平成5年3月ミクロネシア連邦ポンペイに地震観測点を開設することができた.平成4年9月の現地調査以後,手紙とファクスのみでのやりとりのため,現地での準備の進行に不安があったが,現地邦人の方々のご協力もあって,我々は計画を予定どうり進めることができた.その後,地震観測の開設は順調に進んだが,我々の最初の計画とは異なり,電話が使えない(最初の現地調査の際,電話の会社を訪ね相談したとき,「現在ポンペイ全体の電話線の敷設計画が進んでおり,間もなくPATSにもとどく.平成5年3月であれば間違いなくPATSで電話を使うことができる」とのことであったが,工事が伸びた).このため最初に予定した,電話回線を使った,観測システムの管理やデータ収集はできなくなった.近い内に電話回線を利用することもできるようになるであろうことから,観測システムの予定した機能はそのままにし,現地集録の機能をつけ加えた.そして,システム管理については,我々が予定より回数を多く現地を訪問することでカバーすることにして観測はスターとした.実際に観測初期には色々な問題が生じることは予想されるので,その方が効率的でもあった.現地での記録は130MバイトのMOディスクに集録することにした.MOディスクの交換は非常に簡単なので,2週間に1度交換し,郵送してもらうことにした.この記録の交換はPATSの先生にお願いすることができた.実際に電話回線がこの学校まで伸び,利用できるようになったのは平成6年1月のことであった.よって,これ以後は最初の予定通り,国際電話を使った地震観測システムが稼働した.観測を進める中で,いくつかの問題が生じた.(1)この国ではまだ停電が多いので無停電装置(通電時にバッテリ-に充電しておき,短い時間であればこれでバックアップする)を準備したが,バックアップ時ははもちろん,充電時にもノイズが出ているようで,我々のシステムを設置した付近のラジオにノイズが入るので止めざるを得なかった.(2)地震観測では精度の良い時刻を必要とする.我々はOMEGA航法システムの電波を使った時計を用意したが,観測システム内のコンピューター等のノイズで受信状態が悪く,時々十分な精度を保つことができなかった.結局,GPS衛星航法システムを使った時計を開発し,これを使った.このような改良を加えることによって,PATSでは良好な観測ができるようになった.この観測点は大変興味深い場所にある.北側のマリアナ諸島に起こる地震は,地球上で最古のプレート(太平洋プレートの西の端で1億6千万年前)だけを伝播してきて観測される.一方,ソロモン諸島など南から来る地震波はオントンジャワ海台と言われる,海底の溶岩台地からなる厚い地殻地帯を通ってくる.両方とも地震波はほとんどその地域だけを通ってくるので,地殻構造を求めるにも,複雑な手続きはいらない.これまでにも,これらの地域での地殻構造に関する研究は断片的にはあるが,上部マントルに至るまでの総合的な研究はまだ無い.マリアナ地域で起こった地震で,PATSで観測された地震の長周期表面波(レーリー波)の群速度を求めると,非常に速く,Michell and Yu(1980)が求めた1億年以上のプレートでの表面波の速度よりさらに速い.このレーリー波の群速度の分散曲線から地下構造を求めてみると,ここには100kmを越える厚さのプレートが存在することが分かった.一方,オントンジャワ海台を通るレーリー波の群速度は,異常に遅く,特に短周期側で顕著である.この分散曲線から地下構造を求めると,海洋にも関わらず30kmもの厚い地殻が存在することになる.これは,前に述べたように,広大な海底の溶岩台地の広がりを示唆する.同様のことは地震のP波初動の到着時間の標準走時からの差にも現れている.すなわち,マリアナ海盆を伝播したP波初動は標準走時より3〜4秒速く,オントンジャワ海台をとおる波は2〜3秒遅い.この観測では沢山の地震が記録されており,解析はまだ十分に進んでいない.ここに示した結果は,ごく一部の解析結果であり,さらに詳しい解析を進める予定である.
著者
北西 允 清野 惇 倉持 孝司 豊田 博昭 植田 博 大熊 忠之 上谷 均 山田 浩 川内 つとむ 盧 雲 揚 磊 田 平安 廖 俊常 余 久隆 聶 天こん 呉 耀森 劉 澤貴 姚 登魁 魯 国棟 ちゅ 明れん 劉 永誉 胡 澤君 趙 長清 閻 培 つう 明理 吉川 栄一 市川 太一 安井 威興 大賀 祥充 石外 克喜 片岡 直樹 吉川 元 加藤 高 董 しん 杉田 憲治 高 紹先 上野 裕久 YANG Lei RYU Ini TAN Pinan RYU Zukui 楊 磊 聶 天貼
出版者
広島修道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

1 政治・法意識の比較研究 広島修道大学法学部の新入生及び4年次生に対しては1989年4月、西南政法学院の学生に対しては同9月、アンケ-トによる異識調査を行なった。その後中国では意識調査ができなくなってしまったが、修道大学の新入生に対しては、同12月追跡調査を行なった。1991年度に追跡調査を行なうべく中国側と話合いを重ねたが、中国政府が意識調査を禁止しているとの情報もあり、遂に実現できなかったのは残念である。しかし、1度ではあるが中国の学生の政治・法意識の調査が行なえた意義は大きく、その後も中国で意識調査が行われないためかえってこの調査結果は貴重である。調査結果の分析は、修道大学の研究叢書として、来年3月までには発表すべく作業を進めている。2 日中法制度の比較研究 日中両国の研究分担者がそれぞれ個別に或は共同して研究し、各年度双方から5名づつ計30名が相手国を訪れ、裁判所、議会、市役所、大学のほか刑務所、登記所等も視察し、関係者に質疑を行ない、法施行の実態を見、まだ研究会をもった。そのほか、政法学院の楊磊研究員は1988年9月から2年間修道大学客員助教授、その後今月まで非常勤講師として、合計3年半、広島大学の片岡直樹研究員は1990年4月から政法学院に留学生として1年、ともに相手国の研究員と共同研究を行なって来た。3 研究成果の発表 10に記載のとおり、これまでの研究成果の1部は既に杉田憲治が3本、片岡直樹が1本、加藤高(楊磊と共沢)が1本、楊磊が1本、計6本の論文として発表しているが、更に全員の共同研究の成果としては、修道大学総合研究所発行の広島修道大学研究叢書として、1993年3月までに『日中学生の政治・法意識』、1994年3月までは『日中両国法制度の比較法学的・法社会学的研究』の2著を出す予定である。
著者
中牧 弘允 村上 興匡 石井 研士 安達 義弘 山田 慎也
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度は、入社式、新入社員研修と社葬に焦点を置いて調査をおこなった。入社式と新入社員研修については大阪のダスキンで、一燈園とのつながりを明らかにした。社葬については、ソニーの社葬を調査し、国際色豊かな演出の中にソニーの企業としての特色と盛田会長のカリスマ的創業者としての性格を明らかにした。また、大成祭典、一柳葬具総本店といった葬儀社においても調査をおこない、社葬と社員特約の歴史的変遷を跡づけた。平成12年度は、前年度に引き続いて入社式、新入社員研修、社葬を追跡調査したほか、社内結婚についての調査もおこない、公と私の場が入り交じった日本独特の会社文化を明かにした。社葬と会社特約については、大阪の大手葬儀社である公益社を新たに調査した。平成11・12年度を通じて、九州の酒造関係の地場産業における儀礼調査、京都の伏見稲荷神社における会社儀礼の調査をおこない、伝統産業と宗教の関わり、会社ならびにサラリーマンの強化儀礼について研究をおこなった。それぞれの調査を総合して、報告書として「サラリーマンの通過儀礼に関する宗教学的研究」を作成した。
著者
大谷 雅夫 川合 康三 宇佐美 文理 大槻 信 伊藤 伸江 森 真理子 齋藤 茂 金光 桂子 緑川 英樹 森 真理子 齋藤 茂 大谷 俊太 深沢 眞二 楊 昆鵬 愛甲 弘志 乾 源俊 浅見 洋二 中本 大 神作 研一 長谷川 千尋 中島 貴奈 日下 幸男 原田 直枝 小山 順子 福井 辰彦 稲垣 裕史 伊崎 孝幸 竹島 一希 中村 健史 好川 聡 橋本 正俊 二宮 美那子 檜垣 泰代 川崎 佐知子 有松 遼一 畑中 さやか 山田 理恵 本多 潤子 大山 和哉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

室町時代の和漢聯句作品を広く収集し、それらを研究分担者ほか研究会参加者が分担して翻字し、『室町前期和漢聯句資料集』(2008年3月)、『室町後期和漢聯句資料集』(2010年3月)の二冊の資料集を臨川書店より刊行した。また、その中の二つの和漢聯句百韻を研究会において会読した上で、詳細な注釈を作成してそれを『良基・絶海・義満等一座和漢聯句譯注』(臨川書店、2009年3月)および『看聞日記紙背和漢聯句譯注』(臨川書店、2011年2月)として出版した。
著者
三浦 秀一 中嶋 隆藏 熊本 崇 山田 勝芳 安田 二郎 花登 正宏 中嶋 隆蔵 寺田 隆信 村上 哲見 三浦 秀一
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

中世から近世にいたる旧中国の知識人が営んでいた知的活動の諸相を、文献実証額的手法に基づきつつ分析することにより、中国知識人の精神構造が歴史的にどう展開したかについて、総括的な理解と具体的な知見とを獲得することができた。成果の概略は、以下のとおりである。中国中世の仏教界を俯瞰すれば、有に執らわれず、無に陥らず、空有相即を旨とする理行二入の立場が、それに相対立する旧学の側からの、教学を軽んじ戒律を無みするものだとの激しい攻撃と、無なる心をつかみさえすれば形ある修道などどうでもよいとの甘い誘惑とを受けつつも、それらいずれにも屹然とした態度を堅持しつつ困難な歩みを踏み出した、といった構図にまとめることができる。そして、この対立の構図は、その後、一般知識人の精神生活に決定的な影響を与えたと考えられ、中国近世における知識人の精神構造の基本的な枠組みは、この構図を重層的に内面化することで形成されたと判断できる。例えば、北宋の士大夫は、みずからが如何に史に記録されるかについて並々ならぬ関心を抱き、その子孫をも巻き込んで、自身の「事迹」選述をめぐる自己保全運動を執拗につづけている。また、明末清初期の或る一族は、確証が竺少なるにもかかわらず北宋以来の名族との同宗を主張し、族譜の接合・系譜の行為を敢えておこなう。このほか、「封建」と「郡県」との是非をめぐる議論や、六経と史書とを表裏一体の関係で捉える主張が、時代をこえ飽くことなく蒸し返されるように、かれら知識人は、慥かに「有」としての命名・史書・祖法に固執する精神を把持してはいる。しかしながら、同時に、如上の議論が個々の時代社会に対する疑義ないし対案の提示としてなされている事実は、かかる「有」を越えつつそれを包み込む理論的装置をも、かれらがその精神構造の内部に確保していた証左であるとなせるのではないだろうか。
著者
安藤 雅孝 BART BAUTUST RAYMUND S. P 山田 功夫 伊藤 潔 渋谷 拓郎 尾池 和夫 BAUTISUTA Bart PUNOGBAYAN Raymund S. GARCIA Delfi PUNONGBAYAN
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

当研究の目的は,(1)西太平洋超高性能地震観測網計画の一環としてフィリピン国に観測システムを設置し,記録の収録と解析を行うこと,(2)フィリピンの地震危険度の推定と地震発生機構・テクトニクの研究を行うことである。以上(1),(2)の順で成果の概要を述べる。(1)超高性能地震計は,平成3年度にフィリピン火山地震研究所のタガイタイ観測点に設置し順調に記録の収録が開始された。記録の解析は現在進められており3カ月以内の報告できるものと思う。地震の収録は,連続収録とトリガー収録の二つの方式を取っている。連続収録は1点1秒,トリガー収録は42点1秒サンプリングを行っている。トリガー記録は,1年で約200点収録されている。現在の問題は,時刻較正と停電対策の2点である。現システムはオメガ電波を用いて時刻較正を行っているが,受信状況等多くの難点を持っている。このため,GPSを用いて時刻較正を行う予定であるが,市販品は高価なため,渋谷(分担者)が手づくりで作製する計画を持っている。停電はフィリピンでの大きな社会問題である。経済的な進展のみられないフィリピンでは,この1〜2年に電力事情が急激に悪化してきた。昼間に5時間程度の停電は普通である。自動車用バッテリーで停電対策を取っているが,長期間の停電を繰返すとバッテリーは回復不可能となる。このため,停電時はファイル書き込みを止め,復電時にも電圧回復まで収録を待つような対策を取る必要がでてきた。これらは,平成5年度5月頃に2名が訪問し実施する予定である。計画立案時や設置の際には予想されなかったことではあるが,発展途上国での研究計画は万全の対策を取る必要があることを示している。(2)地震危険度等 フィリピンは,1990年にフィリピン地震が発生し,1991年にピナツボ山が大噴火,1993年1月にはマヨン山が噴火をした。このようにフィリピンはルソン島を中心に地震火山活動が活発になっている。河高性能地震計を置いているタガイタイ観測所はタール火山の外輪山にあり,マグマ性の地震活動の監視も兼ねている。タール火山の近年の地震活動は高く,噴火の可能性が高いと言われている。火山の噴火や災害の防止軽減のためには,噴火規模の推定が必要である。この基礎資料として,マグマ溜りの位置,深さ,規模,および部分溶融面の位置や深さの情報が欠かせない。平成5年2月末から2週間にわたり,人工地震を用いた地殻構造調査が行われた。平成4年12月に研究協力者の西上がフィリピン火山地震研究所の研究者と共に,発破点の選定,地震計の設置点の調査,業者の折衝等を行い,2月末の本調査へ向けての準備を完了させた。深さ50mの発破孔を2本掘削し,200kgのダイナマイトを人工地震源として,地震探査を実施する予定を立てた。発破点はタール湖(カルデラ湖)西岸に置き,観測点を東岸沿いに南北に展開し,扇状放射観測を行った。発破を2度に分けた理由は,収録システムが日本側とフィリピン側と併せて16組しかなく,1回で東岸域に並べると間隔が荒くなり,マグマ溜り検出には適さないことがわかったためである。本調査では,1回目の発破では東岸の北側に,2回目の発破では南側に展開した。これにより32組の収録システムにより地震探査が行われたと同じくなり,かなり詳しい調査が可能となった。日本から8名,フィリピン側から10名の参加があり,かなりハードなスケジュールをこなし調査・観測を成功させることができた。観測点へは陸路から近づくのは難かしく,ボートを用いて観測システムや観測者の輸送を行ったが,観測期間中は風が強く波が荒かったようだが,これらの困難に果敢に立ち向かい実験を成功に導いた。今年度の研究実績をまとめると,(1)超高性能地震計が稼動し,順調に記録が取れ始めたこと,(2)フィリピン国では始めての研究を目的とした人工地震を用いた地震探査が行われたことがあげられる。後者の探査は,フィリピン側に大きな影響を与えると共に,日本側研究者にも種々の困難を乗り越え共同研究を行う重要さを教えてくれた点は貴重であった。平成5年度からも更に発展した形で国際学術研究が行われる予定である。
著者
木村 伸宏 山田 祥 瀬社家 光 西園 敏弘
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.224-233, 2005-01-01
被引用文献数
2

通信ソフトウェアに適用する高可用化サーバプラットホームを提案している.サーバのハードウェア故障時は系を切り換えて復旧するが,ソフトウェア故障時には,関連プロセスのみを初期設定して復旧することで,サービスの中断時間を大きく短縮できる.プラットホームの有効性は,3種類の実システムに適用することで実証した.具体的には,全プロセスを初期設定する場合,適用前と比べ,サービス中断時間が半減した.また,サーバのドメイン化とプロセスの冗長化により,中断時間が更に4割短縮できた(合計7割強の短縮).単独プロセスが故障した場合は,そのプロセスのみの再開で復旧し,他のプロセスはサービスを継続できることも確認した.以上の復旧処理は,アプリケーションプログラムを変更することなく,簡単な形式の再開定義を記述することで実行できる.故障プロセスを検出すると,再開定義を分析し,必要な再開フェーズを選択して実施する.通信ソフトウェアを構成するプロセスの性質を分類し,個別再開,グループ再開,全AP再開,全再開の4種の再開フェーズを規定した.故障復旧が失敗した場合,上位フェーズの再開に移行する状態遷移も実装した.
著者
榊 宏之 大村 佳之 松浦 信男 河田 敏勝 落合 穣 山田 知美 臧 黎清 西村 訓弘 Sakaki Hiroyuki Omura Yoshiyuki Matsuura Nobuo Kawada Toshikatsu Ochiai Yutaka Yamada Tomomi Zang Liqing Nishimura Norihiro
出版者
三重大学社会連携研究センター
雑誌
三重大学社会連携研究センター研究報告
巻号頁・発行日
no.18, pp.57-60, 2010

現在、N-95 マスクは空気・飛沫感染する結核菌や、インフルエンザ感染対策用として用いられ重要な役割を担っている。しかしながら、臨床的なニーズを充足できていない点も有しており、その一つとして、近年その感染拡大が社会問題となっているインフルエンザの感染対策に対する N95 マスクのフェイスフィット性が挙げられている。また、メーカー毎にサイズ、構造にもばらつきがあり、実際のパンデミックの際に個々人に対して最適なフェイスフィット性のマスクを提供することに困難を極めることが指摘されている。本研究では、マスクのサイズと、その構造に着目し、人の体格、顔の形状などを検討することで、より多くの人にフィットする最適サイズを検討すると共に、人の呼吸を利用し理論的にフィット性を高めるマスクの構造について検討を行った。検討結果を基に、外周の隙間からの吸込みを防止する構造のマスクを考案し、その試作品を作製した。試作マスクは、体格、顔の形状が異なる幅広い対象者に対してフィット性が高く、感染防御に有効であることが確認され、この結果から、N95 マスクを改良した試作マスクの構造原理を基に開発を進めることで、パンデミックの際にも 1 サイズでより多くの人にフィット性の高いマスクの創出が可能であることが示唆された。
著者
加藤 政彦 山田 佳之 林 泰秀
出版者
群馬県衛生環境研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

かぜをひくことにより、なぜ喘息が悪化するのかを明らかにするため、RSウイルス(RSV)感染させた喘息のモデルマウスを用い、人工呼吸器管理下に気道抵抗、肺胞洗浄液(BALF)及び血液中の炎症性細胞比率と多種類のサイトカイン/ケモカインを網羅的に測定した。対照群に比べて卵白アルブミン(OVA)投与群及びOVA/RSV投与群では、気道抵抗の有意な上昇とBALF中と気道への好酸球浸潤を認めた。BALFでは、OVA/RSV投与群において、他群に比べMIP-1αのみが有意に増加した。一方、血清では、対照群に比べ、OVA投与群でIL-5が、OVA/RSV投与群でIL-17が各々有意に増加した。RSウイルス感染喘息マウスでは、MIP-1α等を介して好酸球性炎症が引き起こされることが示唆された。