著者
石井 裕繁 城田 欣也 井上 義明 清水 孝史 岩崎 洋一郎 辻本 大起 平野 康文
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.223-230, 2022-02-15 (Released:2023-02-19)
参考文献数
14

症例1は90歳代男性.2021年6月X−1日にファイザー社製新型コロナワクチン(BNT162b2)接種.同6月X日に胸痛あり当院受診,下壁誘導のST上昇を伴う胸痛にて急性心筋梗塞の診断で緊急心カテーテル施行,左前下行枝末梢の閉塞を認めた.ガイドワイヤーは容易で小径バルーンの拡張のみで再灌流を得たが,病変位置,造影所見からプラーク破綻ではなく血栓塞栓症を強く疑った.最大CKは590 U/Lと心筋ダメージはわずかであった.心エコー上左房拡大や短絡所見はなく,経過中心房細動は認めなかった. 症例2は70歳代女性.2021年8月X−20日にBNT162b2接種.同8月X日に胸痛あり当院受診.前胸部誘導のST上昇あり急性心筋梗塞の診断で緊急心カテーテル施行,左前下行枝近位部の閉塞を認めた.ガイドワイヤー通過に難渋し,血管内超音波(IVUS)で明らかなプラークを認めた.薬剤溶出ステントを留置し良好な開存を得たが最大CK 7628 U/Lと大きな心筋障害を認めた. 2症例とも経過は良好であったが,2回目のワクチン接種にあたり,1例目は原因不明の血栓塞栓症のため2回目のワクチン接種は中止とし,2例目はワクチンとの関連は否定できなかったが通常発症の心筋梗塞と判断,低心機能となったことから2回目のワクチン接種実施とした.ワクチン接種が進むにつれ同様のケースが増えてくるものと思われ,何らかの判断基準が必要と考えられた.
著者
岩崎 学
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1-2, pp.43-54, 2022 (Released:2023-01-12)
参考文献数
36

昨今,統計・データサイエンスが大いに広がりを見せ,データ分析に携わる人々の数も増加しつつある.その中で,統計学の教育や訓練がやや不足がちの人たちもいることから,「因果」と「相関」について,特に回帰分析の枠組みで考える.また近年,オープンデータの利活用が話題となっている.この種のデータの特徴は,集計データであることである. そこで,集計データから個人の行動を推論する方法論としてのエコロジカルインファレンスが重要性を帯びてくる.本稿では,身近な例を取り上げ,それらの分析結果を提示すると共に,その解釈について詳しく議論する.特に,回帰分析の3つの役割である「記述」,「予測」,「制御」の違いを明確にすべきであることを強調する.また,それらのデータは集計データであることから,エコロジカルインファレンスのいくつかの技法を適用した結果も示す.例を2つ示したが,それらは全く同じ数値でありながらコンテクストが違うものである.したがって,解析の数値的な結果は全く同じであってもその解釈が異なっている. 本稿で伝えたいメッセージの第一は,データは数値と背景情報からなることという認識である.コンピュータのできるのは「数値解析」であり,「データ解析」を行うためには背景情報を十二分に吟味しなくてはいけないことを改めて伝えたい.
著者
生態系管理専門委員会 調査提言部会 西田 貴明 岩崎 雄一 大澤 隆文 小笠原 奨悟 鎌田 磨人 佐々木 章晴 高川 晋一 高村 典子 中村 太士 中静 透 西廣 淳 古田 尚也 松田 裕之 吉田 丈人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2211, (Released:2023-04-30)
参考文献数
93

近年、日本では、急速な人口減少が進む中、自然災害の頻発化、地域経済の停滞、新型コロナウィルス感染症の流行等、様々な社会課題が顕在化している。一方で、SDGs や生物多様性保全に対する社会的関心が高まり、企業経営や事業活動と自然資本の関わりに注目が集まっている。このような状況を受けて、グリーンインフラ、NbS(自然を活用した解決策)、Eco-DRR(生態系を活用した防災減災)、EbA(生態系を活用した気候変動適応)、地域循環共生圏等、自然の資源や機能を活用した社会課題解決に関する概念が幅広い行政計画において取り上げられている。本稿では、日本生態学会の生態系管理専門委員会の委員によりグリーンインフラ・NbS に関する国内外の動向や、これらの考え方を整理するとともに、自然の資源や機能を持続的・効果的に活用するためのポイントを生態学的な観点から議論した。さらに、地域計画や事業の立案・実施に関わる実務家や研究者に向けた「グリーンインフラ・NbS の推進において留意すべき 12 箇条」を提案した。基本原則:1)多様性と冗長性を重視しよう、2)地域性と歴史性を重視しよう。生態系の特性に関する留意点:3)生態系の空間スケールを踏まえよう、4)生態系の変化と動態を踏まえよう、5)生態系の連結性を踏まえよう、6)生態系の機能を踏まえよう、7)生態系サービスの連関を踏まえよう、8)生態系の不確実性を踏まえよう。管理や社会経済との関係に関する留意点:9)ガバナンスのあり方に留意しよう、10)地域経済・社会への波及に留意しよう、11)国際的な目標・関連計画との関係に留意しよう、12)教育・普及に留意しよう。
著者
大町 聡 宮本 梓 岩崎 翼 福田 潤 鈴木 美幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0484, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 周径の測定は筋の肥大や萎縮の程度を簡昜に評価する手段として用いられている。また、大腿周径は大腿四頭筋(以下Quad)の筋組織厚や筋力を反映すると従来から考えられてきたが、ハムストリングス(以下Ham)との関係性について言及された報告は我々の調べた限りでは捕猟し得なかった。また近年、超音波測定装置において、人の骨格筋の筋組織厚の測定は高い再現性が確認されており、非侵襲的かつ簡易に測定が可能であるため、臨床の場において繁用されている。そこで今回は、大腿周径とQuad・Hamの筋組織厚について、さらには筋力との関係性についても検討を行い、大腿周径の測定は臨床の場において簡易にできる評価法であり、Quadの評価だけでなくHamも評価できるのかを明確にすることを目的とした。【方法】 対象は健常成人男性14名(平均年齢26.2±3.1歳)とした。周径の測定は、膝蓋骨上縁5cm・10cm・15cm・20cmとし、背臥位、膝関節伸展位にて1ミリ単位で測定した。筋組織厚の測定は、超音波測定装置(FUJIFILM社製)を用いて、大腿部前面筋(大腿直筋・中間広筋、以下RF)、大腿部前面内側筋(内側広筋以下、VM)、大腿部前面外側筋(外側広筋以下、VL)、内側Ham(半腱様筋・半膜様筋、以下MH)、外側Ham(大腿二頭筋長頭・短頭、以下LH)の測定を行った。RF、VM、VLの測定肢位は背臥位、膝関節伸展位、MH、LHは腹臥位、膝関節伸展位とした。RFの測定部位は下前腸骨棘と脛骨粗面を結んだ線と各大腿周径との交点、VMの測定部位は大腿骨軸に対して15°傾斜させた線と各大腿周径との交点、VLの測定部位は大転子と大腿骨外側上顆を結んだ線と各大腿周径との交点とした。MHの測定部位は、坐骨結節と大腿骨内側上顆を結んだ線と各大腿周径との交点とし、LHの測定部位は、坐骨結節と腓骨頭を結んだ線と各大腿周径との交点とした。深触子は皮膚面に対し垂直に接触させ、長軸にて実施した。RFの測定は5cmでの測定のみ共同腱が混在し、測定困難なため除外とした。筋力の測定は、BIODEXを用い、角速度60°/sでの膝関節屈曲、伸展におけるQuad、Hamの最大等速性収縮筋力を測定した。筋組織厚の測定は3回行い、検者内信頼性についての統計手法はICC(1、3)を用いた。また、Quad、Hamの周径・筋力・筋組織厚についてはピアソンの相関係数を求めて検討した。統計処理にはRコマンダーを用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 研究に先立って被験者には、研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得た。【結果】 筋組織厚の測定の再現性はQuadとHamともにICC=0.96~0.99で各部位とも良好であった。周径と筋組織厚の相関係数は、VM(5cm/10cm)0.84/0.57、RF(20cm)0.86、VL(5cm/10cm/15cm/20cm)0.74/0.76/0.75/0.67,MH(5cm/10cm/15cm/20cm)0.83/0.84/0.77/0.67、LH(5cm/10cm/15cm/20cm)0.64/0.66/0.63/0.74であった。周径と筋力(5cm/10cm/15cm/20cm)の相関係数はQuad 0.61/0.68/0.66/0.70、Ham 0.53/0.65/0.61/0.66であった。筋力と筋組織厚の相関係数はVM(10cm) 0.60、RF(10cm/15cm/20cm)0.61/0.80/0.86、VL(10cm/15cm/20cm)0.81/0.66/0.79であり、MH・LHは相関がみられなかった。【考察】 Quadにおいて、一般に膝蓋骨上縁5~10cmでの周径はVMおよびVLが、15~20cmでは大腿全体の筋群が評価できるとされており、今回の結果からも周径5cmとVM(r=0.84)、周径10cmとVL(r=0.76)、周径20cmとRF(r=0.86)に最も強い相関を認め、一致した。Hamにおいても、最も強い相関を認めた周径10cmとMH (r=0.83)、周径20cmとLH (r=0.74)の結果はMRI装置を用いて筋断面積を算出した先行研究と一致した。したがって、周径の測定はQuadの評価のみではなく、Hamの評価においても有用であり、特に周径5cmではVMの筋組織厚、周径10cmではVL、MHの筋組織厚、周径20cmではRF、LHの筋組織厚とQuad、Hamの筋力を評価することが望ましいと考える。【理学療法学研究としての意義】 大腿周径は、Quadの評価だけでなくHamを評価する手段としても有用である。
著者
岩崎 洋平 岩井 智成
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
研究報告グラフィクスとCAD(CG)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.1, pp.1-8, 2013-06-17

本研究では,複合現実感 (MR) を用いた図書館利用者のための MR サービスシステム:MR Librarian System (MRLS) を開発するためのフレームワークについて検討する.MRLS では,MR Librarian (MR 司書:MRL) と名付けたアバターを介して,2 つの図書館サービス (蔵書検索および入館・貸出履歴管理) をユーザに提供することを目指している.蔵書検索サービスでは,ユーザの探している図書が置かれている書棚までのナビゲーション情報を MR 表示された MRL によってユーザに呈示する.また,入館・貸出履歴管理サービスでは,ユーザの入館履歴や貸出履歴のデータを分析して,貸出図書の嗜好や入館の傾向などを MRL の変化として呈示する.さらに,本システムを図書館利用率向上のための (金銭や物品を伴わない) インセンティブ・プログラムとして機能させることについても検討を進めている.本稿では,それぞれのサービスシステムの開発について述べるとともに,本システムのインセンティブ・プログラムとしての有効性を検討するために行ったアンケート調査の結果についても述べる.We have developed a MR Librarian System (MRLS) using Mixed Reality (MR) technology. This system provides users two kinds of services called library search and admission and lending history management, which introduces an avatar called MR Librarian. Former service is composed of the system that provide navigation for bookshelf on which the target book is placed with MR technology. Admission and lending history management services is supply an avatar visualization engine, which can customize the dress and accessory of an avatar according to the preference of borrowed books. By offering these services, MRLS aims to increase the users' incentive and improves the library services. This article reports the development of MRLS, and experimentally evaluate its validity through questionnaire survey.
著者
椙山 一典 岩崎 信 北村 正晴
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

原子力デ-タとしての中性子断面積は,新型炉や将来の核融合炉のみならずさまざまの広い応用分野に於て基礎的かつもっとも重要な物理量として位置づけられ,信頼性の高いデ-タが広い核種にわたって要求されている.近年原子力の基礎的分野の人員や予算不足のために,核デ-タ評価においてこの様な強い要求に答えることは困難になっている.今まで以上の国際協力のみならず革新的な技術の応用が必要である.本研究課題では中性子核デ-タの評価作業に対する支援システムを構築するための知識工学的手法導入の可能性について検討した.以下に研究成果をまとめる.1評価作業を分析した結果その作業は,個別手続き,デ-タベ-スと従来の評価用コ-ド群を結び付けるネットワ-クモデルで表現できる.その各ノ-ドは二つのタイプ:デ-タや属性の集まりとタスクにわけられ,それぞれオブジェクトとしてモデル化できる.2デ-タオブジェクトとしては評価の目標,基礎核特性デ-タ,核反応,反応断面積,核反応モデルとコ-ド,計算用モデルパラメ-タ断面積実験値等であり,3タスクオブジェクトとしては評価目標の設定,基礎核特性デ-タの準備,モデルコ-ドの選択,モデルパラメ-タの初期値選択,パラメ-タの調整,比較対象断面積の準備,計算値と実験値の比較判断,目標致達の判定等である.4オブジェクト間のやり取りはメッセ-ジ交換メカニズムを使う.5上記モデルの一部を32ビットワ-クステ-ション上にNEXPERT OBJECTによって実現した.6従来の理論モデルコ-ド移植し,各種の新しいデ-タベ-スを構築してシステムに組み込んだ,7オデジェクト指向モデルを採用した結果試験システムは理解性,拡張性,保守性の高いものとなり,本格システムの実現性を明かにした.
著者
岩崎 信 長谷川 晃 最上 忠雄 藤原 充啓 三石 大
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究では,東北大学工学部量子科学館加速器を大型実験装置の例として,高度にITを活用した高校生向きの科学実践型課外授業を開発し,SSH高校生に最適なプログラムのモデル:ブレンディングモデルを開発実践した.大型実験装置現場での授業:実地授業を中心として,導入学習としての事前eラーニング遠隔授業,締めくくりの学習としての事後遠隔リアルタイム授業の3部構成を開発し実践で検証した.授業の目標は、体験目標:加速器の運転、ビーム照射、物質の変化体験.向上目標:学んだ(学ぶ)知識の総合的運用,『エネルギー』と『物質』(原子・イオン)の2つのキー概念で理解.先端的な装置の研究や実用の活用について体験的に理解.達成目標:用いるイオン加速器のシステムとしての構造や構成を理解し加速器を運転することで身体的に獲得する.17年度は埼玉県SSH2年生〜20人、18年度は山口県SSH3年生2人加えて実施された。事前,実地は東北大学のオープンキャンパスを含む夏休み時期に独立に,事後は合同で11月下旬にJGN2を利用して実施した.生徒達の高い加速器概念獲得状況の確認と、アンケート調査等により良好な評価を得た。キーは,生徒たちにとって難解な加速器を"分かる"状態に導くことと、同時にある種"分からない"状態も作り,好奇心,探索心を誘起させ,努力する気持ちを惹起させること.つまり、既習知識の活用の場面と新知識獲得への挑戦的文脈を実践的に用意した.大型装置は存在感があるが,それを生徒達が理解し,運転し,使い,関連する多様な生起現象を思考する身体的実験環境は,科学的論理的思考の基礎となる対象の科学的認識モデル形成を自然に促進する.大学の大型実験装置,教員,院生,それらの活動や思考や説明との接触は,"異文化"との濃厚な接触であり,将来の創造性,独創性発揮(直観や洞察)によい影響を与えると確信する.
著者
岩崎 久美子
出版者
特定非営利活動法人 日本評価学会
雑誌
日本評価研究 (ISSN:13466151)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1_17-1_29, 2010 (Released:2014-05-21)
参考文献数
43

エビデンスの概念は、わが国の教育分野では、一般的に知られているとは言い難いが、昨今、「エビデンスに基づく政策」(evidence-based policy)という言葉が政策を論議する文献等で多く散見されるようになってきている。本論では、このような背景にあって、第一にコクラン共同計画やキャンベル共同計画が基本とする、ランダム化比較試験(RCT)の系統的レビュー(メタ・アナリシス)で産出される厳密な定義でのエビデンスを中心に、産出、普及、活用の上で生じる課題を明らかにする。第二に広義の科学的根拠という意味で、経済協力開発機構(OECD)が、近年「エビデンスに基づく政策」という言葉を用いて政策提言を積極的に行ってきている背景を人的資本論に基づきながら論じる。そして、最後に教育におけるエビデンスに基づく政策についての方向性を示唆する。
著者
岩崎 泰昌 奈女良 昭 宇根 一暢 太田 浩平 木田 佳子 廣橋 伸之 谷川 攻一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.10, pp.797-803, 2014-10-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
12

室内など閉鎖空間での火災による傷病者は,熱傷の他に一酸化炭素中毒(CO)を合併することが多いが,同時に化学繊維などの燃焼で発生したシアン化水素の吸入によりシアン中毒を生じることがある。室内火災の現場から救出されCO中毒にシアン中毒を合併した1例を経験したので報告する。症例は18歳の男性。ビル内にある飲食店の一室で火災に巻き込まれて,消防により倒れているところを救助され,火災発生から約1時間後に当院救命救急センターへ搬送された。来院時,意識はGlasgow coma scale score 3,顔面にII度熱傷 7%,両手にIII度熱傷 5%を受傷しており,気道内に大量の煤を伴う気道熱傷を認めた。血中乳酸値は13.5mmol/Lで高度の乳酸アシドーシスを認め,carboxyhemoglobin(COHb)濃度は33.8%,来院から1時間後の血中シアン濃度は,4.3µg/mLであった。乳酸値は来院後12時間で正常化,100%酸素換気下でCOHb濃度は来院3時間後に5%以下,シアン濃度は来院4.5時間後に0.3µg/mLにそれぞれ低下したが,意識の回復は認めなかった。来院時の頭部CTでは,軽度の脳浮腫と皮髄境界の不鮮明化を呈し,第3病日には明らかな皮髄境界の消失と高度の脳浮腫が認められ,来院から6日後に低酸素脳症で死亡した。来院1時間後の血中シアン濃度は,致死レベルを越えていたことから,COHb濃度の上昇による酸素運搬障害に加えて,シアン中毒による脳細胞の細胞内窒息により,来院時からすでに高度の低酸素脳症が生じたものと考えられた。本症例では,シアン中毒の解毒薬であるヒドロキソコバラミンの投与はできなかったが,室内などの閉鎖空間での火災による傷病者に対しては,ヒドロキソコバラミンを早期に投与する必要性があると考えられた。
著者
岩崎 雄一 眞野 浩行 林 彬勒 内藤 航
出版者
日本環境毒性学会
雑誌
環境毒性学会誌 (ISSN:13440667)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.53-61, 2021-08-12 (Released:2021-08-12)
参考文献数
45

Microplastic contamination in the environment is an emerging concern worldwide. In this review, by putting a particular focus on the ecological risk assessment of microplastic particles, we introduced several results of hazard assessments that have focused on the hazardous concentration for 5% of the species (HC5) estimated using species sensitivity distribution. In these previous studies, point estimates (mean/median) for HC5 were derived on the order of 0.01–1 µg/L (based on particle number, 105–106 particles/m3). We then summarized and discussed the relevant issues on the hazard assessments for microplastic particles: (1) identification of effect mechanisms relevant for risk assessment, (2) consideration of the influences of microplastic properties on effect concentrations, (3) identification of a proper concentration unit (i.e., mass-based or particle-based concentration), (4) handling of effect concentrations obtained from experiments that failed to establish concentration-response relationships, (5) consideration of bioavailability of microplastic particles, (6) consideration of environmentally realistic exposure conditions, (7) consideration of naturally occurring particles, (8) consideration of the influences of chemical additives and preservatives on effect concentrations, and (9) application of uncertainty factors to effect concentrations.
著者
沢田 雅洋 山下 博 岩崎 俊樹 大林 茂
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会論文集 (ISSN:13446460)
巻号頁・発行日
vol.58, no.681, pp.295-301, 2010 (Released:2010-10-27)
参考文献数
14

Research of Long-Distance Human-Powered Flight has been performed through the following four items: Aircraft design, Risk management, Pilot performance, Weather prediction. Actual flight took place on August 12, 2009. The flight distance was 20.72km. In this study, results of weather prediction using 1-way downscaling technique are validated by surface observation data and feasibility of weather prediction for Long-Distance Human-Powered Flight is discussed. The weather prediction with 1-km mesh decreases RMSE of wind speed by 0.1--0.2m/s compared with that with 5-km mesh. The weather prediction with 1-km mesh also has a potential to reproduce nonstationary wind. The RMSE gradually increase with time, which is mainly caused by initial and boundary data given from coarse mesh model. To reduce the RMSE, it is desirable to use newest analysis data as possible for initial and boundary data.
著者
高野 保真 岩崎 英哉 佐藤 重幸
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1_253-1_287, 2015-01-26 (Released:2015-02-11)

関数型言語 Haskellは,遅延評価を標準とするプログラミング言語であり,近年注目を集めている.デファクトスタンダードの処理系である Glasgow Haskell Compiler(GHC)は多くの研究の基盤として用いられ,新しい言語概念など先進的な研究成果が取り入れられている.その一方で,GHCの実装は巨大で複雑になってきており,GHCに新機能を導入することは障壁が高くなってしまった.このような状況において,我々は実行時メモリの効率化を目指して,遅延オブジェクトを再利用する手法を提案し,GHCに実装してきた.我々が提案した手法は,コンパイル時にプログラム変換を行い,再利用対象とする遅延オブジェクトへの参照を単一にした上で,遅延オブジェクトを破壊的に書き換えて再利用する.その基本的な機構は既に先行論文において述べ,メモリ削減の効果も確認済みである.本論文は,再利用手法を実現するために考えられる各種手法の実装方法,および,それらの手法の得失・取捨選択に関する議論を詳細に行う.また,再利用手法の基本的な機構の実装で培った経験を生かし実装した,再利用手法の改善技法をいくつか提案する.それらの技法を導入することにより,実行時間に関するオーバヘッドを低く抑えることが可能であることを実験により確認した.最後に,GHCを研究の基盤に用いた経験より得られた遅延型関数型言語処理系に関する知見についても述べる.特に,GHCが Haskellで記述されていることは,処理系の拡張性に大きく貢献していることが分かった.
著者
高山 真 沖津 玲奈 岩崎 鋼 渡部 正司 神谷 哲治 平野 篤 松田 綾音 門馬 靖武 沼田 健裕 楠山 寛子 平田 宗 菊地 章子 関 隆志 武田 卓 八重樫 伸生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.621-626, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
7
被引用文献数
9 8

平成23年3月11日に発生した東日本大震災は,巨大な地震と津波により東日本の広い範囲に甚大なる被害をもたらした。東北大学病院では被災地域への医療支援を行ない,漢方内科においても東洋医学を中心とした活動を行なった。ライフラインが復旧せず医療機器の使用が困難な中にあって,医師の五感により病状を把握し治療方針を決定できる東洋医学は極めて有効な診断・治療方法であった。被災直後には感冒,下痢などの感染症と低体温症が課題であり,2週間経過後からアレルギー症状が増加し,1ヵ月以降は精神症状や慢性疼痛が増加した。感冒や低体温に対する解表剤や温裏剤,咳嗽やアレルギー症状に対する化痰剤,疼痛やコリ,浮腫に対する鍼治療・マッサージ施術は非常に効果的であった。人類の過酷な歴史的条件の下に発達した東洋医学は大災害の場でも有効であることを確認した。
著者
岩崎 美香
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.93-113, 2013 (Released:2019-08-07)

臨死体験は、典型的には死に近づいた人や何らかの 強い危機状態にある人に起こる、超越的で神秘的な要 素を帯びた体験である。本論考では、半構造化された インタビュー調査から得られた17例の日本人の臨死体 験事例に関して、臨死体験による死生観の変容の特色 を明確にするために、臨死体験者と、臨死体験を伴わない生命の危機状態から回復したガンの患者との比較 を試みた。ガンからの回復者には、死という終わりを 見据えて生きる態度が見られ、死のこちら側を包括す る時間意識が形成されていたのに対し、臨死体験者は 死の先の領域を意識し、死の向こう側を包含する時間 意識を獲得していることがわかった。結論として、臨死体験は個人の死生観の拡大を促していることが導かれた。
著者
白水 俊介 岩崎 雄介 畦地 拓哉 安部 智哉 兼平 暖 相良 篤信 里 史明 湯本 哲郎 亀井 淳三
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-6, 2020-01-10 (Released:2021-01-11)
参考文献数
10

Saccharated ferric oxide is an iron preparation for intravenous injection obtained by colloidal particles of ferric hydroxide with sucrose. Although it is necessary to dilute saccharated ferric oxide with a 10-20% glucose injection solution according to the product labeling, it is often diluted with 5% glucose injection solution and/or saline in clinical practice. In the present study, we evaluated the stability of saccharated ferric oxide in various diluted solutions in terms of the abundance of free iron ions. The abundance ratio of free iron ions significantly increased with pH elevation of the diluted solution. Moreover, a marked decrease in the abundance ratio of free iron ions was observed in the sodium chloride solution exceeding the physiological concentration (0.9%). Furthermore, a statistical decrease in the abundance ratio of free iron ions was confirmed in the glucose solution compared to saline, and the degree of liberation of free iron ions in 5% glucose solution was the lowest among various concentrations of glucose solution. These results indicate the possibility that saccharated ferric oxide can be diluted by 5% glucose injection solution with minimal effects on its stability, although its dilution according to the product labeling is basically important.
著者
正畠 和典 東堂 まりえ 岩崎 駿 安部 孝俊 山道 拓 村上 紫津 曹 英樹 奥山 宏臣 臼井 規朗
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.815-822, 2019-06-20 (Released:2019-06-20)
参考文献数
39

【目的】先天性喉頭閉鎖症(以下,本症)は,出生直後から上気道閉塞症状をきたし,致死的な経過をたどる予後不良な疾患である.本症の治療経験から,本症の治療成績と問題点について検討した.【方法】1982年から2017年までの35年間に当院と関連施設で経験した本症9例を対象とした.各症例の臨床的背景,出生前画像診断,周産期経過,出生後の治療経過,転帰などにつき,診療録に基づいて後方視的に検討した.【結果】本症9例のうち7例に胎児腹水を認めており,7例中5例は中央値在胎21週時にCHAOS(congenital high airway obstruction syndrome)として出生前診断された.CHAOSとして出生前診断されていた5例のうち,心不全の悪化により子宮内胎児死亡した1例を除く4例に対して,出生時の気道確保のため,ex utero intrapartum treatment(EXIT)による気管切開を施行した.EXIT下に気管切開した全例が出生時に救命され,母体にも合併症は認めなかった.CHAOSとして出生前診断されていなかった4例中3例は出生直後に気管切開で気道確保を行ったが,食道閉鎖症を合併した症例のみが救命され生存退院した.出生した症例の在胎週数の中央値は37週,出生体重の中央値は2,015 gで,5例に本症以外の先天異常の合併を認めた.生存退院できた4例のうち,他の先天異常を伴わない2例と食道閉鎖症を合併した1例が人工呼吸器から離脱して長期生存した.【結論】本症のうちCHAOSとして出生前診断された症例に対して,EXIT下の気管切開は児を救命する有効な治療法であった.
著者
宗景 志浩 Xuan Tuan LE 夏川 優樹 岩崎 望
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
海岸工学論文集 (ISSN:09167897)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.1096-1100, 2002-10-10 (Released:2010-03-17)
参考文献数
11
被引用文献数
1

内湾養殖域の沈降懸濁物と底泥及びヴェトナムのエビ養殖池の海水に含まれる抗生物質濃度を分析した. 人工餌料が使われるようになって沈降懸濁物は減少傾向にあるが, 抗生物質は多量に含まれ, 分解しにくいアンピシリンは底泥中に高濃度で残留していた. エビ養殖池の海水中に含まれるサルファ系抗生物質の濃度レベルは0.05-2.3ppmで極めて高かった. 10~200μMのオキシテトラサイクリン (OTC) 含有培地中でプランクトン (A. klebsii及びS. costatum) を培養した結果, いずれの場合もOTC濃度が高い程吸収されやすくかつ細胞中に蓄積されやすいことがわかった. また, OTCは初期段階でこれらプランクトンの増殖を促進した.