著者
小林 千草
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.51-59, 2022-01-31 (Released:2023-01-31)
参考文献数
54

GENESIS(Generalized-Ensemble Simulation System)はタンパク質や核酸,膜分子などの生体システムの分子動力学法計算エンジン,モデリング,解析ツールを含んだプログラムである.これまでに計算が難しかった時空間の生命科学等を解析するため,「富岳」などスーパーコンピュータによる効率的な大規模並列計算を実現できることが大きな特長である.本稿では,GENESIS の特徴などを述べるとともに,公開版GENESIS1.7 と,開発版GENESIS2.0b3 の二つの最新版に対して,代表的な機能や高速化について紹介する.
著者
小林 俊一
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

水棲生物の中でもイルカの運動能力は高く、胴体を水上に持ち上げる立ち泳ぎができる。しかし、その立ち泳ぎの力学的な解析はされておらず、どのようにしてイルカは立ち泳ぎを実現しているのかが十分に明らかにされていない。そこで、本研究はカマイルカの立ち泳ぎにおける水上と水中における運動挙動を撮影、3次元動作解析によって明らかにし、その胴体を水上に持ち上げる推力を発生するメカニズムを検討した。また、その結果をイルカの尾びれを規範としたフィンを用いた水中推進機構に技術的に移転させ、高推力化を実現させた。
著者
栗林 千聡 武部 匡也 佐藤 寛
出版者
日本スポーツ心理学会
雑誌
スポーツ心理学研究 (ISSN:03887014)
巻号頁・発行日
pp.2023-2015, (Released:2023-06-13)
参考文献数
15

The purpose of this study was to develop and examine the preliminary effectiveness of a cognitive behavioral therapy program to address competitive anxiety among junior athletes. This cognitive behavioral therapy program for competitive anxiety in junior athletes was developed based on a cognitive behavioral therapy program for anxiety disorder in children and adolescents (Ishikawa, 2013). The goal of the program was not to eliminate competition anxiety itself, but to make athletesʼ interpretation of competition anxiety and cognition more flexible. A group of seven junior players (four males and three females) from a private tennis club were treated by a clinical psychologist once a week for a total of four sessions. This program was shown to increase their psychological performance selfefficacy post-intervention and at follow-up compared to pre-intervention. Interpretation of competitive anxiety and competitive positive self-statements showed a post-intervention increase compared to preintervention. Finally, the future effective practice of the program is discussed.
著者
岩本 圭亮 村上 順一 佐野 史歩 林 雅太郎 上田 和弘 小賀 厚徳 濱野 公一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.1917-1922, 2016 (Released:2017-02-28)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

症例は44歳,女性.検診の胸部単純X線検査で異常を指摘された.CT検査で後縦隔腫瘍を指摘され,当科へ紹介された.MRIとPET-CTから嚢胞性病変を疑い,胸腔鏡下に後縦隔腫瘍を摘出した.腫瘍は薄い被膜に覆われた単房性嚢胞で,周囲組織との連続性はなかった.嚢胞壁は単層または数層となった丈の低い線毛円柱上皮細胞からなり,エストロゲンレセプター陽性かつプロゲステロンレセプター陽性であったため,Müller管嚢胞と診断した.術後にHorner症候群を認めたが,術後6カ月に改善を認めた.閉経前後の女性における後縦隔嚢胞を認めた場合,Müller管嚢胞の可能性を念頭に置く必要がある.
著者
吉原 克則 一林 亮 伊藤 博 坪田 貴也 濱田 聡 本多 満 奥田 優子
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.93-98, 2009-02-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
15

有機リン中毒治療に際し,医療者の二次被害と考えられた事例を経験した。中毒症状の強い 1 名は,先天性コリンエステラーゼ(ChE)欠損と診断され,有機リン中毒患者治療により症状を呈した特異な事例である。有機リン中毒患者の脱衣,清拭,気管挿管,胃洗浄などの初療に関係した医療者 5 名と救急室で他患者に対応していた3名に処置中から頭痛・頭重感(8/8),全身倦怠感・目の違和感(5/8),喉の痛み(3/8),四肢の脱力感・歩行障害(1/8)が2-3日, 1 名は 5 日間継続した。暴露後の採血で軽症 7 名のChEは正常であったが,直接関与していないが脱力感・歩行障害も訴えた 1 名はChE 27 IU/lで,その後も40IU/l以下であった。他の血液,生化学的検査に異常は認められず,先天性ChE欠損を疑い,簡易的遺伝子検索を実施し遺伝子変異(DNA塩基置換:G365R変異)のヘテロ接合であることを確認した。しかし,この変異単独例と比較すると表現型が異なるため,他の変異合併を疑わせた。ChE活性低下のため有機リンに対する血中での結合が低下し神経筋接合部により多くの有機リンが作用したと考えられ,正常活性では軽い症状ですむ程度の暴露量でも,先天性ChE欠損では過敏な感受性のため看過できない症状が出現したと考えられた。先天性を含め二次的にもChE活性低下は,しばしば遭遇する病態である。ChE阻害薬中毒患者治療に際しては医療者や来院患者の二次被害防止を徹底すべきである。
著者
小林 輝雄 藤橋 芳弘 円谷 哲男 佐藤 純一 大浦 泰 藤井 保和
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌D(産業応用部門誌) (ISSN:09136339)
巻号頁・発行日
vol.117, no.5, pp.609-615, 1997-04-20 (Released:2008-12-19)
参考文献数
15

In Japan speed tests in 300km/h region have been carried out since Oyama Test Line recorded a 319km/h run in 1979. Meanwhile TGV recorded a 515.3km/h run by an electric locomotive installed with a pantograph in 1990 and ICE did 406.9km/h using similar train in 1988. High speed current collection tests over 400km/h using electric railcars have been desired in Japan. Problems of high speed tests are: train speed approaching wave propagation velocity, multi-pantographs resonance, and too large uplift of contact wires caused by lift. It is necessary to keep wave propagation velocity of contact wire higher than train speed. CS contact wire and TA contact wire were compared in high speed tests because it was impossible to get a good current collecting performance by using hard-drawn copper contact wires. In December, 1993 using these contact wires we carried out high speed running tests of 400km/h region on Jyoetsu Shinkansen with the test train STAR 21 which JR EAST built for high speed tests. This paper gives the current collecting performance of these contact wires predicted by simulation and running tests at 425km/h.
著者
田川 道人 新坊 弦也 富張 瑞樹 渡邉 謙一 古林 与志安
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.e202-e207, 2023 (Released:2023-08-25)
参考文献数
25

症例は8歳4カ月のバーニーズ・マウンテンドッグ,去勢雄であり,肺腫瘤の精査を目的に帯広畜産大学動物医療センターを紹介受診した.切除組織の病理学的検査にて肺原発の組織球性肉腫と診断し,第36病日よりロムスチンによる術後抗がん剤治療を行った.ロムスチン5回目投与時に右兼部に5cm大の皮下腫瘤を認め,細胞診にて組織球性肉腫の転移病変と診断した.ドキソルビシンを使用したが効果はみられず病変は11cm大まで増大した.第172病日よりリン酸トセラニブの投与を開始したところ転移病変は急速に退縮し1.5cm大まで縮小した.しかし第301病日に転移病変の再増大と胸水貯留を認め,ビンクリスチンを投与するも反応なく第318病日に斃死した.一時的ではあったものの,リン酸トセラニブの劇的な効果がみられた稀な症例と思われた.
著者
福井 正博 林 憲一
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.210-217, 2013-01-01 (Released:2013-01-01)
参考文献数
23

GPU(Graphics Processing Unit)はコア数を増加させることで集積度を増し,電力密度を増やすことなく年率1.7倍の集積度増を続けており, 今後しばらくその勢いを緩めることはない.数百~数千個のコアを1チップに集積し,大規模な並列処理が可能となっている.GPUメーカーもソフト開発環境を提供するなど,普及に力を入れていることもあり,GPUの計算能力を一般科学技術計算に適用する試みが注目を浴びるようになってきた.大規模な問題を扱うLSI設計や検証に対しても,その可能性が広がっている.本稿ではGPUを用いたLSI設計の高速化の動向について,以下の二つの観点でまとめる.まず,画像専用プロセッサGPUがいかに生まれ,それが,どのような経緯で一般科学計算に用いられるようになったかという点を解説する.次に,複雑なLSI設計の各種問題に,GPUの計算能力がどのように適用され,どれだけのパフォーマンスの改善が期待できるか,あるいは,今後のアルゴリズム開発がどのように変わっていくかという点について述べる.
著者
林 博史
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.37, pp.51-77, 2004-07

本稿では連合国の戦争犯罪政策の形成過程について、連合国戦争犯罪委員会に焦点をあて、同時に連合国の中小国の動向、役割に注意し、かつイギリスとアメリカ政府の動向を合わせて分析する。枢軸国による残虐行為に対してどのように対処するのかという問題を扱うために連合国戦争犯罪委員会が設置された。委員会は従来の戦争犯罪概念を超える事態に対処すべく法的理論的に検討をすすめ、国際法廷によって犯罪者を処罰する方針を示した。だがそれはイギリスの反対で潰された。その一方、委員会の議論は米陸軍内で継承されアメリカのイニシアティブにより主要戦犯を国際法廷で裁く方式が取り入れられていった。委員会における議論はその後に定式化される「人道に対する罪」や「平和に対する罪」に繋がるものであり、理論的にも一定の役割を果たすことになった。だが当初の国際協調的な方向から米主導型に変化し、そのことが戦犯裁判のあり方に大きな問題を残すことになった。
著者
林 紀代美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.135-153, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
40
被引用文献数
2 1

本研究では,石川県能登地域の海藻類と魚醤を事例とし,当該食材の利用からみた「(文化上の)能登地域」見出すことを試みる.地域住民による10種の海藻の利用頻度の差を確認すると,羽咋市以北の地域で一定の利用が継続し,特に奥能登では海藻類が多用されている.この地域範囲を海藻利用からみた能登地域と考えることができる.一方魚醤は,調査地域全域で海藻類と比べると食卓で利用される頻度が低い.くわえて,魚醤の利用頻度は奥能登と奥能登以南の地域,加賀とのあいだで大きな差がみられた.海藻類以上に魚醤は,「奥能登」の食材と位置づけでき,奥能登のひろがりをとらえる一つの指標とできる.
著者
山本 敏之 濱田 康平 清水 加奈子 小林 庸子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.207-214, 2009-12-31 (Released:2020-06-28)
参考文献数
13

【目的】入院中の統合失調症患者の窒息リスクを評価するために,摂食・嚥下状況を調査し,窒息の既往がある患者に有意な内容を同定した.統合失調症患者の窒息リスクのスクリーニング法を考案した.【対象と方法】統合失調症患者の摂食・嚥下状況に関する13 の質問で構成された摂食・嚥下評価表を作成した.看護師が評価表を使って入院中の統合失調症患者98 人を評価した.診療録から対象の窒息の既往を調査し,窒息の既往の有無で2 群に分類した.評価表で得られた回答を2 群で比較した.判別分析によって,統合失調症患者の窒息の既往の判定に寄与する質問を同定した.統合失調症患者の窒息リスクのスクリーニング法を作成した.【結果】窒息の既往がある患者は4 人,窒息の既往がない患者は94 人であった.窒息の既往がある統合失調症患者に有意に多かった回答は,「義歯が必要であるが使用していない」 (p=0.03),「ほとんど丸飲みする」(p<0.01),「今までに盗食や隠れ食べがある」 (p<0.01),「飲み込みが改善した」 (p=0.03) であった.窒息の既往がある患者に有意に少なかったのは,「口に食物をためたままなかなか飲み込まない」 (p<0.01) であった.判別分析から作成したスクリーニング法は,「ほとんど丸飲みする:+ 1 点」「今までに盗食や隠れ食べがある:+ 1 点」「飲み込みが改善した:+ 2 点」で構成され,3 つの項目の合計が2 点以上のとき窒息のリスクが高いと判定した.このスクリーニング法は判別率92.9%,敏感度100%,特異度92.6% であった.【結論】統合失調症患者の窒息の背景には,摂食動作の異常や精神疾患による異常行動があり,飲み込みが改善した患者で発生しやすいことが示唆された.統合失調症患者の窒息のリスクマネージメントに有用なスクリーニング法と摂食・嚥下評価表を提案した.
著者
林 浩美
出版者
東京藝術大学
巻号頁・発行日
2021-03-25

令和2年度
著者
櫻谷 あすか 津野 香奈美 井上 彰臣 大塚 泰正 江口 尚 渡辺 和広 荒川 裕貴 川上 憲人 小林 由佳
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2022-015-E, (Released:2023-07-15)

目的:近年,質の高い産業保健活動を展開するために,産業保健専門職がリーダーシップを発揮することが求められている.本研究では,産業保健専門職が権限によらないリーダーシップを発揮するために必要な準備状態を測定するチェックリスト(The University of Tokyo Occupational Mental Health [TOMH] Leadership Checklist: TLC)を開発し,TLCの信頼性・妥当性を統計的に検証することを目的とした.対象と方法:文献レビューおよび産業保健専門職を対象としたインタビューに基づき,6因子54項目(自己理解10項目,状況把握10項目,ビジョン9項目,心構え12項目,業務遂行3項目,人間関係構築10項目)から構成される尺度のドラフト版を作成した.次に,産業保健専門職(人事労務,安全衛生,健康管理のいずれかの部門に所属する者)300名を対象に,webによる横断調査を実施し,信頼性・妥当性を検証した.結果:主因子法・プロマックス回転を用いた探索的因子分析を実施した結果,5因子51項目が得られた(自己理解8項目,状況把握10項目,ビジョン9項目,心構え12項目,業務遂行12項目).次に,確認的因子分析を行った結果,適合度指標はCFI = 0.877,SRMR = 0.050,およびRMSEA = 0.072となった.また,TLCの5つの下位尺度のCronbach’α 係数は,0.93~0.96となった.TLCの合計および下位尺度はいずれも,ワーク・エンゲイジメント,職務満足度,および自己効力感との間に有意な正の相関が認められた(p < .05).一方,心理的ストレス反応との間に有意な負の相関が認められた(p < .05).加えて,「権限によらないリーダーシップを発揮したことはあるか」という質問に対して「はい」と回答した群は,「いいえ」と回答した群に比べて,TLCの合計得点および下位尺度得点が有意に高かった(p < .001).考察と結論:本研究で産業保健専門職向けに新たに開発したTLCは一定の内的一貫性,構造的妥当性,構成概念妥当性(収束的妥当性および既知集団妥当性)を有することが示唆された.
著者
小林 由希子 陳 省仁
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.119-134, 2008-12-18

出産前後の「里帰り」は他の先進国には見られないわが国独特の慣習であるが,これまで心理学分野ではほとんど注目されておらず,医療の視点から周産期リスクとして取り上げられ,否定的な側面が強調されてきた。日本では高度成長期,急速な都市化と核家族化が進み,出産場所は自宅から病院施設へ移行した。また,地域近隣との関係は希薄化し,子育ての環境も大きく変化した。その変化の中,否定的見解が示されても里帰り慣行は依然として続いていることから,そこに多くのニーズがあり,「里帰り」は現代も最初期の子育て支援システムとして養育性形成に関わる場となっている。しかし,この子育ての状況が変化し,支えとなっていた地域共同体が崩壊した現代において,里帰りの役割や持つ意味もまた変化してきており,里帰りが現代の子育て支援システムとして機能するためにはいくつかの課題があると思われ,本論文ではそれらの課題について論じる。