著者
中野 祥子 田中 共子
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学 (ISSN:13495178)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.59-77, 2017 (Released:2020-09-10)
参考文献数
23

本研究では、日本人とムスリム留学生との関係形成を、日本人側の視点から実証的に探索した。具体的には、ムスリム留学生と親しい関わりを持つ、日本人6名に半構造化面接を行い、交流時の葛藤や戸惑い、関係形成・維持のための工夫を尋ねた。その結果、交流時の葛藤及び戸惑いは、4つにまとめられた「: 宗教的な実践への戸惑い」、「宗教的価値観を用いた応答への戸惑い」、「宗教的な議論への戸惑い」、「宗教的な禁忌への不安」。また、関係形成・維持のための工夫は、5つにまとめられた「: 宗教的実践への配慮」、「宗教的実践への不干渉」、「共通点への注目」、「率直な自己表現」、「積極的な働きかけ」。本研究の日本人ホストは、文化差への戸惑いを抱きつつも、「適度な距離感」を保ちながら場の共有が可能になるよう努めて、交流を楽しんでいた。良好な関係形成・維持を可能にする鍵となる、双方にとっての「適度な距離感」は、最低限でさりげない配慮、過度に干渉しない姿勢、宗教的価値観を受け入れたうえで率直な意見を述べようとする態度のバランスによって創出されるものと考えられた。
著者
日高 なぎさ 田中 英高 土田 こゆき 寺嶋 繁典
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.55-59, 2001-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

従来から指摘されているように心因性発熱の発生機序を不十分な情動表現から生じるとするなら, 言語化を促す箱庭療法はきわめて有効な治療手段であろう.箱庭療法が奏効した心因性発熱の1例の治療過程について報告する.導入当初は統合性の低い箱庭が多くみられ, 制作中はほとんど話をせず言語表現の乏しさが目立ったが, 治療を終結する頃には全体として統合性の高い箱庭があらわれるようになった.同時に言語化も促され, 家庭や学校での出来事を自発的に話し, 発熱もなく登校するようになった.本症例では箱庭療法を通じて欲求や感情の言語化が促され, 心的浄化が図られた結果として症例の重篤化を防ぐことができたと考えられる.
著者
久保田 悟 雨車 和憲 田中 勇帆 古川 利博 八嶋 弘幸
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 C (ISSN:13452827)
巻号頁・発行日
vol.J105-C, no.12, pp.376-383, 2022-12-01

核磁気共鳴分光法(Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy:NMRS)は有機化合物の分析をはじめとする化学的及び生理学的な基礎研究において非常に有用である.しかし,観測信号の信号対雑音比(Signal-to-Noise Ratio:SNR)が低いという問題をもつことから,効果的なデノイジング手法によって,測定の高効率化や経時変化の大きな試料への幅広い対応が可能となることが期待される.本論文では,NMRSによる観測信号は周波数域上においてスパース性をもっており,更にこれのN階差分をとった場合でもスパース性が失われないことに着目したデノイジング手法を提案する.シミュレーションによる数値実験から,スペクトル形状やノイズ強度に依らない安定したデノイジング性能を示したためこれを報告する.
著者
金 明哲 徳田 尚之 村上 征勝 田中 栄一
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.49-65, 1992-03-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
24

中国語の音声認識の機械処理を進める上で,中国語の計量的な性質を把握することは不可欠である.本論文ではSuen(1986)が中国語の高頻度単語として提唱している6,321語を用いて,中国語の音声認識を行う上で必要となるその音声学的性質について以下の項目にわたる計量分析を試みた.(1)声母,韻母,音素,声調の出現頻度(2)音節,音素を単位とした単語長 (3)音素を単位としたエントロピー,1次条件付きエントロピーおよび2次条件付きエントロピー (4)声母,韻母,音素を単位とした近距離単語数および声調,品詞が近距離単語数に与える影響 (5)声母,韻母,音素を単位とした置換対.その結果,例えば,声調や品詞情報が既知の場合でも一漢字単語では音素を単位としたレーベンシュタイン距離1の単語数は1単語あたり10.38語にものぼり,機械的な音声認識において単語単位での誤り訂正は極めて難しいが,二漢字単語では同じレーベンシュタイン距離1単語数は声調や品詞情報を考慮しなくとも1単語あたり平均約3語で,声調,品詞情報が既知であると1単語あたり0.26語まで減少するため,声調,品詞情報などを有効に利用することにより単語単位の誤り訂正が十分可能であると考えられるなど,今後中国語の音声認識などの機械処理を進める上で有益な幾つかの結果を得た.
著者
伊藤 政幸 池島 義昭 白石 忠男 佐藤 隆一 田中 勲 市橋 芳徳
出版者
MATERIALS LIFE SOCIETY, JAPAN
雑誌
マテリアルライフ (ISSN:09153594)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.37-43, 1992-01-25 (Released:2011-04-19)
参考文献数
8
被引用文献数
1

研究用原子炉圧力容器とその本体の上から下へ貫通している実験用の配管との間に3個のシリコーンゴム製のOリングが装着されて13年間使用された.この間にOリングに加えられた諸因子を計算によって求めた結果, 放射線は最も高い位置で3.46kGy, 熱は原子炉運転時には50℃であり, 摺動は比較的少ないことが明らかになった, 同じ使用状態での余寿命を推定するために, 70℃で50kGy/hの線量率で同じ材質のOリングを線量を変えて時間加速照射を行い, 試料の機械的性質の変化を実機試料と比較した.その結果, 実機試料と同程度の劣化を時間加速試験試料に与えるためには前者より一桁以上高い線量が必要なことが判明した.得られた物性値を総合的に検討し, 破断伸びが50%に低下するまで使用可能と判断し, 同じ使用環境での余寿命を26年と推定した.
著者
諏訪 正典 田中 敬司 スワ マサノリ タナカ ケイジ Masanori Suwa Keiji Tanaka
雑誌
東京都立産業技術高等専門学校研究紀要 = Research reports of Tokyo Metropolitan College of Industrial Technology
巻号頁・発行日
vol.4, pp.35-39, 2010-03

The Japan International Birdman Rally has been held at Lake Biwa since 1977. Our team of TokyoMetropolitan College of Industrial Technology (CIT) participates in the glider section of this Rally since 1999. Asadvanced control techniques are required for the purpose of further extension of flight performance of the glider, apilot training system is necessary. On the other hand, a flight simulator for educational purposes has been developedat the Aerospace Engineering Course of CIT. By utilizing this simulator, the glider flight simulator for BirdmanRally has been manufactured. The development, primary functions and future topics of the simulator aresummarized in this paper.
著者
髙山 浩一 田中 理美
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.180-187, 2022-06-20 (Released:2022-06-29)
参考文献数
30

がん悪液質は体重減少,食欲不振,倦怠感を主たる徴候とし,がん患者の生命予後やQOLを悪化させる.悪液質の発症には生体反応として産生される炎症性サイトカインや腫瘍細胞が産生するさまざまな因子が関与しており,エネルギー代謝の異常と骨格筋の分解をもたらす.Fearonらは体重減少の程度による簡便な診断基準を提唱し,より早期からの介入をすすめているが,がん悪液質の認知度はまだ低く今後も啓発活動が必要である.2021年,本邦ではがん悪液質を適応とするグレリン様作動薬,アナモレリンが世界に先駆けて承認され,現在日常臨床で用いられている.しかし,薬物治療だけでは不十分であり,栄養療法や運動療法を組み合わせた多職種による包括的治療が必要と考えられる.また,GDF-15抗体などの新たな薬剤開発も進行しており,がん悪液質治療のさらなる進歩が期待される.
著者
田中 省作 本田 久平 長谷川 由美
出版者
立命館大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

研究計画に従い,次のようなテーマを重点的に推進した.1. 崩れのモデルに基づいた指文字の生成:前年度提案した,掌と手の向きごとに分割した手指に対して生理構造の観点で最も安定的な手指の状態形状との一種の重み付き平均に基づいた手指形状の生成モデルの実装を進めた.このモデルのパラメタである重みの範囲が,指文字の崩れに連関する.そのパラメタは被験者実験で推定することを計画していたものの,コロナ禍の影響もあり,かなわなかった.2. 学習システムのプロトタイプの実装:カメラに向かって指定された指文字を表出し,それを自動的に認識した上で,その正誤を判定するようなモジュールの開発を進めた.1のテーマが進み,指文字ごとに許容される崩れの範囲がパラメタとして推定されれば,この学習システムの正誤判定にそのまま適用できる.3. 指文字学習のための新しいテキストの作成:これまでの指文字の崩れや,指文字間の錯誤に基づいた部分形状を活用した指文字の類型化を盛り込んだ,今までにない新しい指文字の学習テキストを作成した.
著者
澤田 めぐみ 冨田 知里 原田 萌香 岸 昌代 田中 寛
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.273-284, 2022-10-01 (Released:2022-11-16)
参考文献数
40

【目的】女子大学生を対象に鉄欠乏の実態を調査し,血清フェリチン値正常群の赤血球関連検査値を明らかにすることを目的とした。【方法】成人女子大学生177人を対象に赤血球関連検査値からフェリチン低値群(フェリチン 12 ng/ml未満)のスクリーニングについて検討した。また食事調査(BDHQ)でフェリチン低値群と減少群(フェリチン 12 ng/ml以上,25 ng/ml未満)を合わせたフェリチン不足群の食生活の特徴を探索した。【結果】鉄欠乏性貧血は3.3%,鉄欠乏で貧血を認めない潜在性鉄欠乏は18.1%と高頻度であった。赤血球関連検査値から鉄欠乏をスクリーニングする場合のカットオフ値は,MCH28.6 pgとすると感度は89.4%,特異度は76.3%と最も良好であった。食事調査において,フェリチン減少群は充足群に比べ鶏肉の摂取量が有意に多かった。フェリチン低値群は充足群に比べハムの摂取量が有意に少なく,洋菓子の摂取量が有意に多かった。またフェリチン不足群を充足群と比較すると,脂ののった魚や納豆の摂取が有意に少なく,コーヒーの摂取が有意に多かった。1,000 kcalあたりの鉄摂取量は中央値で充足群,減少群,低値群の順に 4.83 mg,4.52 mg,4.42 mgであったが有意差はなかった。【結論】女子大学生の21.4%に鉄欠乏を認めた。MCH28.6 pgをカットオフ値とすると,感度,特異度とも高値で鉄欠乏をスクリーニングできた。フェリチン不足群は洋菓子やコーヒーの摂取が有意に多く,食生活のバランスを欠いている可能性が考えられた。
著者
臼田 知史 田中 雅臣
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.226-231, 2010-04-05 (Released:2020-01-18)
参考文献数
12

我々の銀河系では超新星の頻度が約50〜100年に一度と推定されているが,人類がこの約400年間に銀河系内の超新星を肉眼で確認した例はない.その間に望遠鏡や分光器が発明され,系外の超新星について詳細な観測研究が進んだが,系内の超新星に対してはこれら高度化した装置での観測機会はなかった.我々は日米独共同で,系内の超新星残骸ティコ(超新星爆発記録は1572年)とカシオペヤA(推定爆発年は1680年)の爆発当時の放射光の「こだま」(light echo)-光源の周囲にある塵やガスによって反射された光が遅れて届く現象-をすばる望遠鏡で分光観測し,新たな知見を得た.
著者
銅島 裕子 田中 輝美
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.13-22, 2013-01-31 (Released:2019-04-06)
参考文献数
28

気晴らしという個人の注意・関心をほかに向けることによって、抑うつ気分をコントロールする方法が研究されているが、その効果については一致した見解は得られていない。そこで本研究の目的は、うつ病と診断された精神科診療所の通院者を対象に、気晴らしを中心とした認知行動療法(CBT)と通常診療を実施することによってネガティヴな反すう思考や抑うつ気分に変化が見られるかを検証する。方法は、大うつ病性障害の患者40名を2群に無作為に割り付け、積極的な気晴らしの実行が推奨されたCBT/Distraction群(n=20)と、傾聴を主とした精神療法/Control群(n=20)の比較検討が行われた。2要因混合分散分析の結果、交互作用が有意となり、Distraction群の時差における単純主効果が有意となった。よって気晴らしを中心としたCBTによって、ネガティヴな反すう思考と、抑うつ気分が軽減したことが示された。