著者
福井 勝義 宮脇 幸生 松田 凡 佐藤 廉也 藤本 武 増田 研
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、平成17年以来、北東アフリカのエチオピアを主要な対象とし、国民国家の形成過程で頻発してきた民族紛争について、その発生・拡大・和解のプロセスを歴史的に検証することを目的としている。昨年に引き続き本年度も、研究代表者をはじめ研究分担者および研究協力者がそれぞれエチオピア西南部の各民族集団において、民族紛争の発生・拡大・和解に関する聞き取り調査を実施する一方、各地方行政府に収められている行政文書のアーカイブ調査を試みることで、現地で得た情報との整合性を確認し、民族紛争と国家政策との関連性を示した。例えば、研究代表者である福井は、攻撃する側である農牧民メ・エンと攻撃される側である農耕民コンタ双方において戦いとその被害状況に関して情報収集を行った結果、エチオピア帝政期・デルグ社会主義政権期・EPRDF現政権期という20世紀のエチオピアにおける3つの政権の交代期に民族間の戦いが頻発していることが明らかにされた。こうして現地で収集、整理された情報は、国内で年3回開催された研究会合において統合的に分析が進められた。また、空中写真・衛星画像を用いて戦いや環境の変化に伴う各民族の居住領域の変化を時系列的に復元し、これを生態環境データと照らし合わせ比較検討した。これらの情報は今後、各民族における紛争に関する情報収集を継続的に行うことで、より広範な地域における民族間関係を歴史的に明らかにすることが可能になる。また、昨年度より着手したアーカイブ調査を実施していくことで、民族紛争と国民国家への統合のプロセスとの関連性を理解することができるようになる、と考える。
著者
嘉田 勝 会沢 成彦 西村 治道 藤本 典幸
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
研究報告コンピュータと教育(CE) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.15, pp.171-178, 2009-02-20
被引用文献数
3

大学祭での一般来場者向け学術企画の一環として,体験型の情報科学教育手法 「コンピュータサイエンスアンプラグド」 の学習活動を来場者が体験できる展示企画を実施した。会場内に複数の学習活動空間を設け,多様な来場者をガイドが都度案内する博物館型展示としたため,一斉授業とは異なるさまざまな工夫を施した。本発表では,今回の実践をふまえ,コンピュータサイエンスアンプラグドの博物館型展示の可能性と課題を考察する。As an attraction in a university campus festival, we held a scientific exhibition based on Computer Science Unplugged for general visitors. Unlike a class in a school, we had to guide various visitors of all ages, who arrived by twos and threes. To enable this, we set up stages of various activities in the classroom in parallel, and we offered each group of visitors suitable selection of activities. On the outcome of this practice, we investigate possibilities of such kind of exhibition based on CS Unplugged.
著者
福山 佑樹 見舘 好隆 藤本 徹 浅見 智子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.127-138, 2019-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
37

本研究では,変化の激しい現代社会におけるキャリア形成に資するために公立大学のキャリア関連科目において,未来の仕事を創造する学習カードゲーム「ジョブスタ」を大人数講義用に改変した教材を用いた実践を行った.実践の結果,大学生が身につけるべきキャリア資質として定義した5項目のうち,「キャリアに対するプロアクティブ行動」には有意差がみられなかったが,「キャリア計画性」など4項目について実践の事前・事後において有意差が確認された.また実践では,大学生の多くみられる「やりたいこと志向」を超えて,仕事を選ぶ際に「社会的な視点」が必要であるという意識を含んだキャリア観を一部の学生に与えた可能性が示された.
著者
倉本 圭 川勝 康弘 藤本 正樹 玄田 英典 平田 成 今村 剛 亀田 真吾 松本 晃治 宮本 英昭 諸田 智克 長岡 央 中川 広務 中村 智樹 小川 和律 大嶽 久志 尾崎 正伸 佐々木 晶 千秋 博紀 橘 省吾 寺田 直樹 臼井 寛裕 和田 浩二 渡邊 誠一郎 MMX study team
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.207-215, 2018-09-25 (Released:2018-12-21)

火星衛星Phobosからのサンプルリターンに挑む火星衛星探査計画 (Martian Moons eXploration: MMX) は,現在,宇宙航空研究開発機構 (JAXA) プリプロジェクトとして,2024年の打ち上げと5年の往還期間を設定し,精力的な検討・初期開発が進められている.MMXは,サンプル分析,Deimosを加えた火星衛星の近接観測,そして火星大気および火星圏のモニタリング観測を組み合わせることにより,惑星に寄りそう衛星という切り口と視座から,太陽系における大気と水を湛えたハビタブル惑星の形成と進化の解明に迫ろうとしている.
著者
佐野 明人 菊植 亮 望山 洋 武居 直行 藤本 英雄
出版者
横断型基幹科学技術研究団体連合(横幹連合)
雑誌
横幹連合コンファレンス予稿集 第1回横幹連合コンファレンス
巻号頁・発行日
pp.133, 2005 (Released:2006-06-27)

自動車業界に代表されるものづくりの現場は,デジタル化・自動化が進む中,今なお人の触覚に基づく技(面品質検査など)と感性が重要な役割を担っている.特に,グルーバルな大競争に打ち勝つために,最高の商品性と卓越した製造品質を確保した車両品質の強化が叫ばれている.皮膚や機械受容器細胞の構造には,巧妙な触覚情報処理機構が仕組まれており,その特徴は力学ベースで議論することができる.本研究では,触覚の本質が能動触であることを考慮して,触覚情報処理機構を力学的(動的)側面により解明し,その仕組みや本質的な原理を工学的に応用する.結果的に,必然性の高いデバイス開発が期待できる.本講演では,手掌の皮膚に装着し,触覚刺激を増幅する触覚版のコンタクトレンズについて報告する.触覚コンタクトレンズを用いることで,物体の微小な凹凸を鋭敏に,しかも素早く検出できる.
著者
本橋 秀之 藤本 敦子 坂根 稔康 山本 昌 矢野 義孝
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.133, no.11, pp.1235-1241, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

In recent years there have been over 30000 suicides annually in Japan. This is one of the most serious problems for Japanese society. Because mental disorder is closely associated with suicide, factors related to the increase in mental disorders and suicides should be clarified. In this study, various data regarding social factors were evaluated to assess the correlation of the number of patients with mental disorders and suicides among the 47 prefectures of Japan. Various data regarding social factors, such as income, savings, or rate of divorce, were obtained from the database of the Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan. Among the factors, the annual income and the amount of savings were significantly correlated with the number of patients with mental disorder. On the other hand, while the annual income did not have a significant correlation with suicides, the amount of savings had a significant correlation with suicides. In conclusion, the annual income and amount of savings may both be one of the important factors involved in mental disorders, and the savings may also be a factor affecting suicides. These analyses are valuable in helping to clarify the causes of mental disease, and can hopefully contribute to the health and welfare of Japanese.
著者
堀 翔太 藤本 修平 杉田 翔 小林 資英 小向 佳奈子
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.100-109, 2018-09-20 (Released:2018-09-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1

目的:患者のヘルスリテラシーに関して,臨床場面で医療者が行う介入方法とその効果を明らかにすることである.方法:電子データベースから,患者のヘルスリテラシーに関するランダム化比較試験の論文を抽出し,PRISMA声明に従い,質的なシステマティックレビューによりその内容を評価した.結果:介入方法別にその効果をみると,「資料の配布のみ」では「ヘルスリテラシー」が,「資料の配布と医療者による説明」では「健康行動に対するアドヒアランス」が向上したとする論文が多く抽出された.また,「医療者から患者への一方向の介入」と「患者と医療者の双方に向けた介入」では,「ヘルスリテラシー」が向上したとする論文が多く抽出された.結論:資料の配布に加え医療者による説明を行うことで,個別性に配慮した情報提供を行える可能性や,医療者が患者の理解の程度を適宜確認することで,疾患の理解度や自己管理能力が向上する可能性が示された.
著者
藤本 浩一 佐野 裕司 渡邊 英一
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.285-294, 2012-12-15 (Released:2013-03-02)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

本研究は,脈波伝播速度(PWV)の計測に小型の近赤外線反射型センサーによって得られる加速度脈波を応用したものである.特に疾患の無い51名の研究対象者(21〜90歳)が実験に参加し,研究対象者を若年群(n=14),壮年群(n=21)および高齢群(n=17)の3群に分けた.脈波伝播時間(PTT)は頭部,指尖部および足底部の加速度脈波と心電図より求め,計測区間距離は体表面よりテープメジャーによって同定した.PWVは計測区間距離をPTTで除することにより求めた.なお,51名のうち12名の研究対象者は,加速度脈波と心電図により求めたPWVの精度を検討するため,従来法によるPWVの計測も行った.両方法によって計測されたPWVより求めたPTTは有意な相関関係(ピアソンの相関,P<0.001)にあることを確認した.腹部大動脈系を計測区間に含むPWV(心臓−前額間PWV,心臓−手指尖間PWVおよび心臓−足底間PWV)は男女ともに加齢にともなって有意な(分散分析,P<0.001;単回帰分析,P<0.001)上昇が認められたものの,腹部大動脈系を計測区間に含んでいないPWV(前額−指尖間PWV,前額−足底間PWVおよび指尖−足底間PWV)は加齢の影響を受けなかった.また,これらの傾向は性別,身長,BMI,心拍数,血圧で補正しても同様であった(重回帰分析,P<0.001).以上の結果は先行研究および弾性動脈と筋性動脈の特性と一致するものであり,本研究で用いたPWVの計測法は従来法と比較して迅速かつ簡便なものであるが,従来法と遜色なくPWVを評価できることが示された.
著者
藤本 武
出版者
新潟青陵大学・新潟青陵大学短期大学部
雑誌
新潟青陵大学紀要 (ISSN:13461737)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.283-300, 2004-03-10

この論文の第一部では、一神教の「シェキナ」における「霊の内在」解釈の変遷を述べ、次にハイデッガーの存在と存在者につての存在論的解釈とドゥルーズの存在論的差異論の視点に立って、「霊の内在」を解釈し、「シェキナ」が「神の内在」ではなく「霊の内在」であることを明らかにする。更に「シェキナ」が、霊が自己の神性を無化し、民の「痛み」に共苦し、同行する思想を持つ霊と民との制度的現実的「痛み共同体」であったことを、解明する。第二部では、古代日本の「依り代」における「神霊の内在」と「依り代」の構造とが一神教の「シェキナ」に極めて類似していることを解明し、「依り代」から考察される古代日本人の「痛み」理解につぃて論及する。一神教の「痛み」が人間の根源であるとするのに対して、古代日本の「痛み」は人間の現象であるとされていることにより、人間への救済である「依り代」共同体は聖性を維持し、聖性の無限大化によって「痛み」の除去を達成しようとすることを、比較文化論的に考察する。最期に、諸宗教の絶対性ではなく、諸宗教の独自性を確立し、宗教的多元主義と諸宗教間の対話のための試みの一端であればという願いがこの論文の目的である。
著者
木下 侑里 藤本 和久 李 民 篠原 理恵 小林 征洋 川名 誠司 佐伯 秀久
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.1348-1352, 2014-12-01 (Released:2017-02-10)

海産物摂食により発症したアニサキスアレルギーの2例を経験した.症例1は,サバ,タイ,ヒラメを摂食後に膨疹と呼吸困難が出現した.特異的IgE (ImmunoCAP)はアニサキスがclass 5であった. ELISAによる特異的IgE測定では,アニサキス非加熱粗抽出液およびAni s 12が陽性であった.症例2は,ヒラメとブリを摂食後に掻痒と呼吸困難が出現した.特異的IgEはImmunoCAPではアニサキスがclass 6で, ELISAではアニサキス非加熱粗抽出液とAni s 1, 4, 6と12が陽性であった.いずれも被疑食物を用いたプリックテストは陰性であった.症例1ではAni s 12が唯一陽性の抗原であったこと,症例2ではAni s 12が最も強く陽性であったことから, Ani s 12を主要抗原の一つと考えた. Ani s 12は2011年に同定されたアニサキスの新しい抗原である.従来知られていたAni s 1, 2と7に加えて, Ani s 12特異的IgEの測定は今後アニサキスアレルギー診断に有用になる可能性があると考えた.
著者
中山 信弘 田中 辰雄 藤本 由香里 白田 秀彰 大野 幸夫 今村 哲也 金子 敏哉 蘆立 順美 潮海 久雄 横山 久芳 前田 健 上野 達弘 島並 良 寺本 振透 小島 立 福井 健策 野口 裕子 三村 量一 桶田 大介
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

創作・流通・利用をめぐる環境の変化に対して現行著作権法の規定は、著作物に関わる多種多様な利害を適切に調整するためには硬直的に過ぎるとの視点にたち、著作権・著作者人格権の内容と制限に係る解釈論・立法論上の提言と、制度設計の基礎となるべき実証的・理論的な分析手法を提示した(これらの成果を論文集『しなやかな著作権制度に向けて」として刊行する予定である)。また出版者の権利のあり方に関する政策提言、著作権と刑事罰の運用に関する共同声明、シンポジウムの開催等、社会に対する情報発信・提言を積極的に行った。
著者
酒井 和幸 熊谷 大慧 阿部 五月 渡邉 洋輔 山田 直也 古川 英光 藤本 拓 南 絵里菜 光上 義朗 足立 芳史
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.539-546, 2016-11-25 (Released:2016-11-25)
参考文献数
10
被引用文献数
1

走査型顕微光散乱装置(Scanning Microscopic Light Scattering:通称SMILS)によって,代表的な吸水性高分子ゲルであるポリアクリル酸ナトリウム(PSA)ゲル,PSAゲルを酸型にしたポリアクリル酸(PAA)ゲルの内部構造評価を行った.SMILSによって得られる動的ゆらぎの緩和時間分布関数を基準に膨潤率・ヤング率を併用し,ゲルの内部構造を評価した.とくに,動的ゆらぎから得られるスケールをFluctuation Size (FS)とし,FSから算出される架橋密度(νS),膨潤率から算出される架橋密度(νW),ヤング率から算出される架橋密度(νY)を比較することにより,総合的にゲル内部の網目構造を評価した.PSAゲルにおいては,νW ,νY に対してνSは非常に大きな値となったため,SMILSで測定されるFSの値はゲルの網目サイズを直接示唆していない可能性がわかった.さらに,PSAゲルではνY>νWとなり,さらに,被吸収液の塩濃度が低くなるにつれてその差が大きくなることから,ネットワーク主鎖上のイオン基どうしの静電反発が増えるほど主鎖の剛直性が増していることが明らかになった.また,それに伴ってνSが増大する事から,今回の動的光散乱測定においてもネットワーク主鎖の剛直性がνSに影響を及ぼしていることが推察された.そのため,PSAゲルの内部構造を動的光散乱によって解析する場合には,FSの減少を考慮した適切な補正手法が必要になることが判明した.
著者
高田 尚樹 藤本 貴之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
研究報告情報システムと社会環境(IS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.32, pp.99-104, 2009-03-11
被引用文献数
1

近年のゲーム機は,コンピュータとほとんど差異のない性能を持ち,多様な表現が可能である.その反面,旧世代のゲーム機に愛着をもっている層も多く,旧世代ゲーム機の中古市場が存在するなど,最新型ゲームとは違った社会的意義を持っていると考えられる.本研究では,旧世代ゲーム機の代表的機種である 「初代ファミリーコンピュータ (任天堂)」 を利用した現世代コンピュータを実現し,またその意義とエンターテインメント・コンピューティング研究における今後の可能性についても言及する.The recent game machines have the same performance as computers and it is possible to express many things. But there are many fans that are attached to the old game machines and it is fact that secondhand markets for the old game machines exist. This research produces the existing entertainment computer, using 'NES (Nintendo Entertainment System)' which is a typical machine of an old game machine and this refers to the importance and future possibilities in entertainment computing study.
著者
池俣 吉人 佐野 明人 藤本 英雄
出版者
日本ロボット学会
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.23, no.7, pp.839-846, 2005-10-15 (Released:2010-08-25)
参考文献数
14
被引用文献数
7 15

A passive walker can walk down shallow slope with no energy source other than gravity. This motion is very attractive because its gait is really natural and ideal. Moreover, the walker can exhibit a stable limit cycle. Dynamics of passive walking is very interesting target and important for understanding human locomotion and developing the biped robots. Though the passive walkers are mechanically simple, they are a sort of hybrid systems with the switching condition which combines the nonlinear differential equations describing the swing motion and the leg-exchange. This makes it difficult to analyze. In this paper, we focus on the mechanism of stability of fixed points in passive walking. For the sake of simplicity and clarity as possible, we use a biped model known as the simplest walking model and treat the inter-leg angle at heel-strike as a variable. The equations of stability condition are derived from the eigenvalues of discrete dynamical system. We demonstrate a physical structure which forms the fixed points and a mechanism of its stability.
著者
中村 庄八 藤本 光一郎 中山 俊雄 方違 重治
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.8, pp.397-412, 2016-08-15 (Released:2016-09-02)
参考文献数
42

群馬県北西部の吾妻地域は日本海拡大時に形成された関東北部のリフト帯の縁辺部に位置し,中新世から現在に至る断続的な火山活動で特徴づけられている.日本海拡大以降の本州中央部の地質構造形成や火成活動を考えるうえで重要な地域と考えられる.本見学コースの吾妻川中・上流域では,中新世にはバイモーダルな海底火山活動が中心だが,鮮新世以降陸上の環境となって安山岩質からデイサイト質の火山活動が主体となった.しかし,地層の連続性が乏しく層理も明瞭でなく,変質作用を広汎に受けていることによって進まなかった地層の分布や層序の解明は近年になってようやく前進するに至った.また,本地域は長年にわたって議論されてきた八ッ場ダム建設地を含み,応用地質的にも興味深い地域である.本巡検においては,開析された火山体を構成する塊状の溶岩や火山砕屑岩を特徴づける鮮新世の八ッ場層と同時期ないしその一連の火山活動に関連した岩脈・貫入岩体および酸性変質帯を,また,前期更新世に新たに活動を開始した菅峰火山を構成する火山岩,さらに,後期更新世に浅間火山の活動により流下した応桑岩屑なだれ堆積物,草津白根火山の熱水活動により形成された殺生河原の変質帯の見学を行う.