著者
山岸 常人 平 雅行 藤井 雅子 坪内 綾子 永村 眞 中川 委紀子 冨島 義幸
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本の密教寺院に関しては、事相中心の古義真言教団と、教相中心の新義教団という図式的区分がある。古義教団の醍醐寺では、灌頂や諸尊法の伝授だけではなく、教相聖教の作成・書写・修学・法会が行われていた。一方の新義教団の寺院の実態は、これまで史料が乏しかったが、既往研究を踏まえつつ、智積院所蔵史料を調査することによって一挙に実態が明瞭となった。これらの史料蒐集の結果、高野山・醍醐寺・根来寺、さらに周辺の多くの地方寺院の間での聖教の書写・貸借を踏まえた修学・伝授のネットワークが確認され、事相・教相を総合的に受容する中世密教寺院の実態が明らかになった。新義・古義の教団理解にも修正を加えることとなった。
著者
川原 由佳里 田中 幸子
出版者
日本赤十字看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

諸外国における高度看護実践の発展プロセスを調査した。海外での関連史資料の調査と米国の看護史専門家への聞き取り調査を行った。結果、高度実践看護は様々な変遷を辿り、関係職種との衝突と調整を経て、現行の教育認証、資格認定、権限を整備してきたこと、日本での導入においては看護学の基盤に基づく教育、保健師助産師看護師法での資格規定、検査、診断、処方に関する権限の医師法・薬剤師法を含めた法体系のもとでの整備が必要であり、とりわけ医師による医業独占を廃し、必要な権限を獲得すると同時に、ケアサイエンスとしての看護のアイデンティティと実践の基盤をより確かにすることが重要と考えられた。
著者
去川 俊二 吉村 浩太郎
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

免疫染色では凍結保存した脂肪組織の脂肪細胞はすべて死亡していることが明らかとなった。脂肪幹細胞についても、生存しているものの、割合は小さかった。さらに、脂肪移植の動物実験において、新鮮脂肪組織の移植と比較して、大きく劣ることがわかった。今回の研究によって、現存する脂肪組織の凍結保存方法では、一定の幹細胞は保存できるものの、脂肪細胞は不可能である。幹細胞についても細胞としての凍結保存に比べて、大きく劣ることが分かった。再生医療の重要な細胞源とされる脂肪組織の利用法の最適化について、新しい知見を与えた。組織としての凍結では効率が悪いため、何らかの方法を開発する必要があることが明らかとなった。
著者
小澤 智生 糸魚川 淳二
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究の目的は,保存状態が極めて良い化石資料からDNAの抽出を試み,抽出されたDNAを基質としてPCRによって特定の遺伝子領域を増幅した後,塩基配列の決定を行い,近縁の現存種の遺伝子情報と比較し,生物の系統進化を明らかにすることにある.研究計画に示された内容について研究期間中に以下の成果を得た.1.化石骨などの化石資料からのDNAの抽出法,化石化の過程で低分子化したDNAを基質としてかつ生体高分子の続成過程で生じた多くの阻害物質を克服してPCR反応を効率的に進行させる方法といった実験手法の問題につき基礎研究を行い手法を確立した.2.ロシア科学アカデミーに所蔵されているシベリアの永久凍土産の5万3000年より10000年前のマンモス化石および現存種のアフリカゾウ・アジアゾウよりミトコンドリアDNAを抽出し,チトクロームb遺伝子領域307塩基対をはじめとした二三の遺伝子の領域の配列決定を行い,ゾウ亜科の分子系統樹を構築した.その結果,これまでの形態に基づく系統関係の通説と異なりマンモスはアフリカゾウにより近縁であることが明らかになった.また,分子時計によれば両者の分岐年代は約700万年前と推定される.なお,今回の4万3000年前のマンモス化石からのDNAの塩基配列決定は,コハク中の昆中化石を除き,現在のところ動物化石では最も古いDNAの抽出および塩基配列決定例である.3.化石記録の豊富な海生腹足類キサゴ類を対象に,現生種のミトコンドリアDNAのいくつかの遺伝子領域の塩基配列データに基づき分子系統樹を作成し,化石記録と形態に基づく系統樹と比較検討した計果,形態にもとづく系統樹は生態型を反映したものであり真の系統関係を反映していないことが判明した.また,キサゴ類の種分化は海洋気候の温暖期より寒冷期に集中して生じていることが判明した.
著者
上田 隆一
出版者
千葉工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究はロボットで別々に扱われることが多い空間認識技術と学習技術を「記憶」をキーワードに統合し、新たなアルゴリズムを考案することを目的としている。平成29年度の計画では、ロボットが得たセンサ情報と実際に行った行動を記録した「記憶」に対して、記憶中の各部分と空間中の特徴を対応づける研究を行う予定を立てた。平成29年度、実際に得られた成果は1)「教示のためのエピソード上のパーティクルフィルタ(教示のためのPFoE)」の実装と実験による有効性の確認、2)教示のためのPFoEで使う「記憶」のグループ化(クラスタリング)機能の実装と有効性の確認であった。1)の「教示のためのPFoE」は当初計画になかったものであるが、これによって、ロボットが自身のタスクと空間に対する知識を同時に学習する際の学習効率を大幅に向上させることが可能となった。本手法によって、マイクロマウス型のロボットが、ゲームコントローラで教示されたいくつかの動きを再現することを確認している。2)については、1)で作成した「教示のためのPFoE」に、記憶をクラスタリングするアルゴリズムを追加することで、ロボットがタスク中に、自身がタスクのどの段階にいるのかを認識できるようにした。また、この認識結果を使って、ロボットがタスク中に必要な行動をショートカットする問題を緩和することに成功した。1)の成果を平成29年度9月に行われた日本ロボット学会学術講演会において公表した。また、IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA2018)に採択され、平成30年度の5月に公表予定である。2)の成果は、平成30年度の日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会で公表予定である。
著者
大島 直行 木田 雅彦 石田 肇 百々 幸雄
出版者
札幌医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

続縄文時代恵山文化の形成と展開に際しての、本州弥生文化の影響の実態と把えるため,北海道豊浦町礼文華貝塚の発掘調査を実施した。調査の結果,次の点が明らかになった。1.貝塚の規模は,約500m^2であった。貝層の堆積は、最も厚いところで1mを計。形成時期については,縄文時代晩期終末に始まり,続縄文時代恵山期と比較的長期にわたることが明らかとなった。2.遺構は,残念ながら墓の発見はなかった。ただし、立地条件や過去の調査結果などから、本遺跡の墓地としての可能性は大きく,埋葬遺構の発見も,将来的に期待される。本調査においては,イルカの埋納土壙の発見があった。全国的にも、きわめて珍らしい検出例である。土壙は、直径約100cmの円形を呈する。埋土を10cm程掘り下げた段階で,頭骨を中心とする大量のイルカの骨があらわれた。その数は12個体分だが,調査は土壙の約半分にすぎないことから、全体ではさらにその数が増すものと思われる。おそらく、「送り場」的な性格を持つ遺構と考えられ、たいへん興味深い。3.出土遺物の中で,特に注目されたものに土製紡錘車の出土がある。恵山文化期の包含層中より出土したもので,北海道出土の紡錘車としては,最も古い例となった。おそらく、本州の弥生前期〜中期段階の資料と深く関係するものと思われ、有珠10遺跡より出土した南海産貝輪とともに,北海道への弥生文化の波及を示す、興味深い資料の追加となった。
著者
山中 恵一 水谷 仁
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

アレルギー疾患に対する抗原特異的治療は免疫療法であり、この奏効機序に関してIL-10産生型抑制性T細胞の誘導によるものと証明した。Th1/Th2バランスの是正ではなく炎症を抑制するサイトカインであるIL-10の炎症部位への局所誘導はアレルギー疾患に対する安全かつ効果的な解決法である。本研究ではアレルゲンの負荷により免疫抑制を誘導するIL-10産生の時系列的解析を行いその発現の時空間的把握を行った。
著者
山田 聡
出版者
京都大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究の目的は、潰瘍性大腸炎(UC)の大腸炎症粘膜におけるEpstein-Barr virus (以下EBV)再活性化機序の解明を目指すものである。本研究において、① UCを模した薬剤誘発性腸炎モデルを利用したEBVのマウス感染実験、② 免疫抑制治療中のEBV感染マウスにおける腸炎再燃実験をそれぞれ行い、大腸炎症粘膜におけるEBV再活性化機序の解明を目指す。加えて、③ 炎症発癌におけるEBV再活性化機序の解明を目指す。本研究はマウスモデルからヒト検体を用いた包括的研究を予定している。本研究を発展させることにより、UC難治例への新たな治療ストラテジーの開発に貢献するものと期待される。
著者
片岡 孝介
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

先進国で高齢化が加速度的に進む中で加齢性記憶障害の発症機構の研究は重要性を増している。脳内で多く発現しているCB1受容体は、加齢性記憶障害に深く関与することが知られているが、その機構には不明な点が多い。助成対象者は、CB1受容体がミトコンドリアの品質を管理することで海馬神経細胞の機能を維持していると予想している。本研究では、CB1受容体によるミトコンドリア品質管理機構を解明することで、今後増加すると予想される加齢性記憶障害の機構解明や予防戦略の確立につなげることを目的としている。
著者
坂本 優子 時田 章史 鈴木 光幸 荻島 大貴 松岡 正造 本田 由佳
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

ビタミンDは現代社会の中で特に不足しがちな栄養素である。われわれは、幼児の「生理的」と言われているO(オー)脚がビタミンD不足に由来すること、ビタミンDサプリメントを使用すると改善が早いことを明らかにしてきた。O脚だけでなく精神発達や免疫機能保持にも重要な栄養素でありながら、われわれのコホートでは、90%がビタミンD欠乏という危機的状況であった。そして、その子ども達の血中ビタミンD濃度も他のコホートと比較して低く、O脚が高率に含まれていた。そこで、本研究では集団を前向きに検討し、妊娠中の母親と生まれてからの子どものビタミンDサプリメントの使用が子どものO脚の程度を軽くするかどうかを検証する。
著者
平野 修 河西 学 平川 南 大隅 清陽 武廣 亮平 原 正人 柴田 博子 高橋 千晶 杉本 良 君島 武史 田尾 誠敏 田中 広明 渡邊 理伊知 郷堀 英司 栗田 則久 佐々木 義則 早川 麗司 津野 仁 菅原 祥夫 保坂 康夫 原 明芳
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-10-21

奈良・平安時代において律令国家から、俘囚・夷俘と呼ばれたエミシたちの移配(強制移住)の研究は、これまで文献史学からのみ行われてきた。しかし近年の発掘調査成果により考古学から彼らの足跡をたどることが可能となり、本研究は考古学から古代の移配政策の実態を探るものである。今回検討を行った関東諸国では、馬匹生産や窯業生産などといった各国の手工業生産を担うエリアに強くその痕跡が認められたり、また国分僧尼寺などの官寺や官社の周辺といったある特定のエリアに送り込まれている状況が確認でき、エミシとの戦争により疲弊した各国の地域経済の建て直しや、地域開発の新たな労働力を確保するといった側面が強いことが判明した。
著者
菅 幹雄 中村 洋一 居城 琢
出版者
法政大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

経済センサス-活動調査の個票データを用いて全市区町村の産業連関表を推計する。本推計では市区町村別産業小分類別「事業所の売上(収入)金額試算値」の個票データを用いて、全国表の市区町村分割を行う。なお推計においては本社部門と現業部門を分割する。このとき本社活動の範囲は、複数事業所を有する企業の本社で発生している事業活動以外の生産活動(管理活動及び事業活動を補助する活動)とする。さらに全市区町村の産業連関表を社会会計行列(SoclalAccounting Matrlx, SAM)へ拡張する。これにより、市区町村レベルでのEBPM(Eyidence Based PoIlcy Making、事実に基づく政策策定)の実現を目指す。
著者
後藤 佐多良 熊谷 仁 福 典之 宮本 恵里
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、骨格筋の速筋線維や遅筋線維の割合を規定する遺伝子多型を明らかにし、それらの遺伝子多型が将来の生活習慣病リスクとなるか否かについて検討を行った。日本人男性において、ACTN3 R577X多型およびACE I/D多型が骨格筋の筋線維組成に関連することを明らかにした。さらに、これら2つの遺伝子多型の組み合わせが、将来の高血圧発症リスクに影響を及ぼすことを明らかにした。これらの研究成果から、ACTN3 R577X多型およびACE I/D多型は骨格筋の筋線維組成に関連し、将来の高血圧リスクを反映する可能性が示唆された。
著者
横溝 岳彦 城 愛理
出版者
順天堂大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

BLT2の結晶構造解析と、構造を元にしたBLT2作働薬のリード化合物の樹立を行う。研究代表者の研究室ではBLT2の熱安定変異体の作製と結晶化に必要な単クローン抗体の樹立を行う。Heptares社では、研究代表者が樹立した熱安定変異体BLT2の大量発現、精製、結晶化と構造解析を行い、立体構造を元に候補化合物を選定する。研究代表者は候補化合物の評価を行い、Heptares社にフィードバックする。Heptares社は化合物の至適化を行い、至適化化合物を用いて再度BLT2の結晶化と構造解析を行う。こうしたフィードバックを伴った密接な共同研究によって、BLT2の高親和性作働薬のリード化合物を見いだす。
著者
吉田 司雄 中沢 弥 谷口 基 小松 史生子 牧野 悠 清水 潤 今井 秀和 乾 英治郎 末國 善己
出版者
工学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

サブカルチャー領域を中心に、日本発の「忍者」「探偵」イメージは広く世界に浸透している。「忍者」表象に関する国内研究者の共同研究を推進する一方、「探偵」表象に関する研究ネットワークを海外の研究者と構築し、「忍者」と「探偵」とを接合させる形で、日本および東アジアにおける大衆的なイメージの生成過程を分析した。複数の表象が絡まり合いながら、ジャンル横断的に新たな物語コードが生成される様を明らかにした。
著者
細井 浩志
出版者
活水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

平安貴族の遅刻の実例を集め、遅刻が多発する原因について、特に摂関期に関して、その原因を明らかにできた。また報時装置である漏刻と日本の時刻制度について、その起源を推測し、古代・中世日本において信じられていた宇宙構造論に関して、多くのことを明らかにした。
著者
田中 加代
出版者
愛国学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

従来の研究においては、近世儒教教育思想とその思想家の教育者としてのあり方に注目してきたのであるが、近世の教育法を現在も残していると思われるのは、伝統芸能の世界ではないかと思い至った。そこで本研究では、日本の伝統芸能の中でも、日本舞踊の世界を対象にすることとした。幼時より舞踊に関わってきたことから、外部からの客観的見方とは異なる内部的な考察が可能であると考えたのである。今日に残る日本舞踊の起源は、近世の歌舞伎舞踊であり、歌舞伎の演目の中に所作事が必ず入るところから、専門の振付師が必要となり、歌舞伎役者を兼ねた振付師が誕生した。彼らは流派を作り家元制度を作って、日本舞踊の指導を職業とした。その一人が四世西川扇蔵であり、その門弟の一人が初世西川鯉三郎である。二世西川鯉三郎は、名優六代目尾上菊五郎に丹精なる教えを受け、舞踊の才のみならず振付の才を発揮し、また弟子の指導においても、師匠ゆずりの卓抜性を示した。機会を捉えた教え方の妙味があったといえる。彼の創作舞踊は、古典の良さを基礎としながらも、能や狂言を取り入れ、現代性を加えて劇的な構成を施し、「舞踊劇」という新しいジャンルとなった。舞踊であっても単に形としての振りに終始するのでなく、文学性(ストーリー性)を重視し、菊五郎譲りの写実的で心理的な舞踊劇であった。すなわち、鯉三郎は日本舞踊の「大衆化」を最も意図したのである。しかしながら、「名人」と言われながらも、鯉三郎の芸や業績に対して、当時の社会的評価は必ずしも高かったとは言えない。真の芸術を正しく評価出来る文化的土壌や国民性を、日本はこれから育成していかなければならない。伝統芸能教育は、これからの生涯学習社会を支え、人々の失われた「感性」を養うことに、大いに力を発揮すべきものと思われるのである。
著者
古田 貴志
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

エスシタロプラム(商品名 : レクサプロ錠)は, 2011年7月に薬価基準収載され, うつ病に対して用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害剤である. 添付文書の「用法・用量に関連する使用上の注意」として, 「肝機能障害患者, 高齢者, 遺伝的にCYP2C19の活性が欠損していることが判明している患者(Poor Metabolizer)では, 本剤の血中濃度が上昇し, QT延長等の副作用が発現しやすいおそれがあるため, 10mgを上限とすることが望ましい」との記載があるが, CYP2C19活性欠損患者が日本人で約20%と多く, 2012年6月に禁忌事項として, 「QT延長のある患者」が追記されたにも関わらず, 日本人においてCYP2C19活性欠損を含む因子と副作用のリスクについて考慮されていない. そこで, 本研究では, 日本人におけるエスシタロプラムのQT延長のリスクについて解析を行った.2013年度に鹿児島大学病院でレクサプロ錠を服用された患者は96名(入院25名, 外来71名)だった. そのうち, レクサプロ錠を10mg以上服用し, 肝機能などを元に減量の必要性を考慮すべき患者は28%(96名中27名)だった. また, そのうち心電図が検査されていたのは, 22%(27名中6名)だった. 一方, 心電図が検査されていた患者34名(入院20名, 外来14名)では, 82%(34名中28名)がレクサプロ錠の減量を考慮し10mg以下で服用されていた. 以上のことから, レクサプロ錠を減量する必要のある患者は多く, レクサプロ錠のQT延長のリスクが考慮されていないために, 心電図を検査されていないものと推測された.また心電図が検査されていた患者では, QTc間隔の平均は(Fridericia補正法, Bazett補正法で評価)は, 424/416msであり, 450以上が4名, 480以上が2名だった. QTc間隔が480以上の2名は, レクサプロ錠10mgで服用されており, QT延長のリスクとして, 女性・うっ血性心不全・高齢者(60歳以上)では一致したが, 低カリウム血症や添付文書で減量を考慮するように記載ある肝機能障害(Child-Pugh分類A)はみられず, 投与前の心電図を検査している1名は, レクサプロ錠追加後のQTc間隔増加はみられなかった. これらの症例は肝機能障害がなくレクサプロ錠の影響は少なかったものと思われるが, 今後は肝機能障害のある患者において, CYP2C19活性欠損の有無とエスシタロプラムの血中濃度を測定し, QT延長等の副作用のリスクを評価していく.
著者
小谷 充
出版者
島根大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では, 羽良多平吉がタイトルデザインを担当した劇場用アニメーション『銀河鉄道の夜』(1985)を対象作品として,組版の再現実験をもとにタイポグラフィの特質とそのコンセプトを明らかにした。結果,対象作品に見られる特質は,羽良多が装丁を担当したますむら・ひろしの原案本においてすでに構築されていたことを指摘した。さらにその精緻な組版技法は,種々の関連媒体の同一性を視覚的に保持していたと結論づけた。
著者
松浦 史子 喜多 藍 楢山 満照 水口 幹記 大形 徹 齋藤 龍一 下野 玲子 山本 尭
出版者
二松學舍大學
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

漢~唐代に成立発展した瑞獣の図とその東アジアへの伝播について多分野の祥瑞研究従事者により考察する学際的研究である。龍・鳳凰など多様な種が知られる瑞獣は、王権の正当性を保障する象徴として政治利用されたのみでなく、東アジアの世界観・死生観など文化の基底にも存在するが、従来の祥瑞研究ではとくに図像の研究成果を活用しきれていない。そこで本研究では文献・図像を統合すべく王権との関わりを一つの中心的課題として、研究者間で方針の一貫性を図り、新出の祥瑞図を現地調査し、関連の文献を読解し、①漢~唐代の主要な瑞獣とその図像の名称・機能の検討、②瑞獣図のデータベース化、③唐代の重要な祥瑞文献の翻刻と出版を目指す。