著者
鈴木 雅博
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.47-67, 2016-11-30 (Released:2018-03-26)
参考文献数
14

本稿は,教師たちが曖昧な校則下での組織的で厳格な指導をどのように/どのようなものとして論じたのかをエスノメソドロジーの方針により解明することを目的とする。ここでは中学校の登校用バッグの色指定をめぐる議論を対象とする。対象校にはバッグの色に関する細則規程はなかったが,生活指導担当者はそれを黒に限定する指導を行っており,保護者からのクレームを機に教師間で議論となった。教師たちの度重なる議論からは,彼/女らが「規程にはないが指導対象となる事項(=不文指導事項)」というカテゴリーを共有していることが確認された。この中間的カテゴリーは,「共通理解による共同的指導は明文規程による義務的なそれに優先する」との規範によって支えられており,こうした規範があることで,不文指導事項は曖昧な校則と厳格な指導との間に折り合いをつけるための妥協の産物ではなく,教師たちの主体的協働の証として積極的な評価を与えられ得るものとなっていた。 他方で,相互行為のなかでは,文書主義・反管理教育といった規範や,指導の歴史的経緯が参照されていた。しかし,文書に拠らない管理教育的な指導が否定されていないこと,また,指導の歴史が遡及的に構築されていたこと等は規範や歴史が人びとの議論を規定するとの説明が不十分なものであることを示している。むしろ,それらは文脈のなかで参照されることで,それとして表出しながら,その場の議論を構成するという相互反映的なものとして見ることができるだろう。
著者
角田 啓斗 新田 理人 豊田 賢治
出版者
アクオス研究所
雑誌
水生動物 (ISSN:24348643)
巻号頁・発行日
vol.2023, pp.AA2023-22, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

A carcharhinid shark was caught in a set-net fishery off Wajima City in Ishikawa Prefecture, Japan. The individual was identified as a copper shark Carcharhinus brachyurus based on morphological characteristics and DNA barcoding using the 12S ribosomal RNA and cytochrome c oxidase subunit l gene (cox1) regions of the mitochondrial DNA. In Japan, the copper shark has been recorded from the Sea of Japan, including the coasts of Hokkaido, Niigata and Yamaguchi prefectures; and from the Pacific coast, including the Kashima-nada Sea, the east coast of the Boso Peninsula, Sagami Bay, the Ariake Sea and the south coast of Kyushu. This report represents the first reliable record of the copper shark from Ishikawa Prefecture.
著者
山田 正俊 田副 博文
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

環境試料中の238Pu/239+240Pu比を調べることにより,放出されたプルトニウムの起源を同定することができる。土壌中の238Pu/239+240Pu比を測定し,福島第一原発事故由来のプルトニウムの寄与率を推定した。福島県内の表層土壌中の238Pu/239+240Pu比は0.03~1.27であり,福島第一原発事故由来のプルトニウムの存在を確認した。その寄与率は,最大で42%であった。
著者
鬼頭 美江 佐藤 剛介
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.187-194, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
43
被引用文献数
3 3

良好な恋愛関係や夫婦関係を築くことは,人々の幸福感や精神的・身体的健康に影響を与えることが示されており,こうした関係の良好さや満足感を高める要因の検討が,これまで多く行われてきた。その要因の一つとして,自己の社会的価値である自尊心が挙げられる。自尊心の高い人,および自尊心の高い恋人や配偶者を持つ人ほど,恋愛関係や夫婦関係により満足していることが示されている。しかし,これらの知見は主に個人主義が優勢である北米を中心に示されており,集団主義が優勢であるとされる日本においても再現されるかは自明ではない。そこで本研究では,日本人の夫婦107組に質問紙を配布し,個人の自尊心が自己および配偶者の夫婦関係満足感に与える影響について,APIMを用いて検証した。その結果,夫婦ともに自尊心が高い人ほど,夫婦関係に対してより高い満足度を感じていた。さらに,配偶者の自尊心が高い人ほど,自己の夫婦関係満足感が高かった。こうした自尊心と夫婦関係満足感との関連には,性別や年齢による有意な差異は見られなかった。したがって,日本においても,個々の自尊心は,自己の夫婦関係満足感だけでなく,配偶者の夫婦関係満足感にも影響を与えることが示された。
著者
安藤 瑠称 吉岡 実穂 大門 正太郎 板口 典弘
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
pp.psychono.42.4, (Released:2023-11-28)
参考文献数
56

Healthy participants can adaptively modulate their trajectory height to reduce possible disturbance to the movement when signal dependent noises increase. We aimed to clarify whether such an adaptive trajectory planning ability is preserved in hemiplegia patients, who showed decreased motor skills because of brain injury, and analyzed reaching kinematics with or without a 200 g weight. We hypothesized that patients would adjust their trajectory in simple reaching movements to compensate the lack of motor control accuracy due to their symptoms. The results show that patients’ trajectories with a weight were higher than those without a weight in affected hands. Moreover, in the 200 g weight condition, even higher trajectory was observed in the second block compared to the first block. These results suggest that hemiplegia patients can plan an adaptive trajectory, considering their movement accuracy, task requirements, and increased effects of motor noises due to muscle fatigue. We also replicated the results of the previous study using healthy participants, which are explained by the same mechanism considering motor noises and task requirements.
著者
中村 秀明 匂坂 量 阪本 奈美子 刈間 理介 鈴木 宏昌
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.7-14, 2021-04-26 (Released:2021-05-10)
参考文献数
8

【目的】自動胸骨圧迫装置判断に影響する因子とその使用が静脈路確保(以下,PIVC)に及ぼす効果を明らかにする。【方法】2018年8月1日から2019年2月28日にBANDOメディカルコントロール協議会の4消防本部において記録された心肺停止傷病者に対するPIVC321症例を対象とした。【結果】実施者因子では,救急救命士の年齢が若く,拡大二行為認定経過年数が長いこと。傷病者因子では,年齢が若い,男性に自動胸骨圧迫装置が装着されやすい因子であった。自動胸骨圧迫装置群のPIVC成功率は有意に低く(44.6% vs 62.6%:p<0.05),静脈の性状とPIVC所要時間に関して有意差は見られなかった。キーワード:救急救命士,心肺停止,静脈路確保,静脈路確保成否因子,自動胸骨圧迫装置
著者
横井 賀津志 藤井 有里 酒井 ひとみ
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.109-117, 2020-02-15 (Released:2020-02-15)
参考文献数
19

レビー小体型認知症の発症により,作業ができなくなり自分らしさを獲得できなくなったクライエントに対し,Person-Environment-Occupation Model of occupational performance(PEOモデル)を用い介入した.クライエントと作業療法士は作業ニーズを特定し,作業歴を紐解き作業分析を行い,人-環境-作業の適合を見極めるため,それぞれを個別に評価した上で作業遂行場面を観察したところ,作業形態と意味が満たされた.クライエントを主語に作業を基盤とした介入を実施した結果,人-環境-作業が最大限に適合し,クライエントは日記に「自分が生まれた感じがした」と表現する作業的存在を確認できた.さらに作業の力は,傾眠回数の減少にも寄与した.
著者
小森 義峯
出版者
関西法政治学研究会
雑誌
憲法論叢 (ISSN:24330795)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.17-37, 2003-12-20 (Released:2018-01-10)

English unwritten constitution is a great help to (a) maintenance of old and good tradition and civilization, (b) flexible correspondence to changing social circumstances, (c) stability of legal life by no calling an unconstitutionality in question. On the other hand, in Japan, the problem of amendment to the Japanese Constitution is greatly discussed now. Many drafts of the new constitution appear. But, in my opinion, an unwritten constitution is extremely suitable for the new Japanese constitution, because historically Japan is elder than England. In this thesis, a table of contents is as follows : (1) general idea of an unwritten constitution, (2) sources of law of the English unwritten constitution, (3) merits of the English unwritten constitution, (4) the significance of an unwritten constitution in Japan, (5) sources of law of the Japanese unwritten constitution, (6) a comparative study of Magna Carta in England and the 17 Articles Constitution in Japan, (7) Conclusion.
著者
木村 秀雄
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.383-401, 2007-12-31 (Released:2017-08-21)
被引用文献数
4

人類学は非常に厳しい環境の中にある。厳しい批評を受けて、民族誌という作品を書く力が減衰してしまっている。そのような状況の中で、批評が新しい民族誌の新しい方向性を切り開き、そこから生まれた新たな民族誌が再び新たな批評を生み出すという循環が成り立たなくなっているのだ。現在の世界を取り巻く状況を、世界無形文化遺産、特にボリビアの先住民であるカリャワヤを題材にして論じていく。そこから引き出せることは、世界無形文化遺産の制定は、危機にさらされた文化の保護を目的にしていて、そこで行われる活動は国際協力と似た性格を持つこと、職業的人類学者の書く民族誌は著作権を手放さない限り、究極的には人類学者の商売の道具であること、現地社会に調査の成果を還元するためには、無名の民族誌制作者として働くボランティアという立場もあるということである。そして最後に、複雑さをます世界の中で、民族誌の作成にも批評にも画一的な指針は存在しなくなっているが、そのことが逆に民族誌の自由度をますことにつながり、古いタイプの愚直な民族誌をも含め、民族誌の可能性は広がっていることが論じられる。
著者
河野 雅洋
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.729-734, 2007-07-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
13

当帰芍薬散が著効した絨毛膜下血腫の2症例を経験した。2例とも妊娠第2三半期おいて絨毛膜下血腫による性器出血がみられた症例である。当帰芍薬散を投与したところ, 投与後1週以内に性器出血はみられなくなった。絨毛膜下血腫も投与後2週以内には消失し, 妊娠39週で2470gおよび3324gの児を経腟分娩した。漢方学的所見では2例ともお血, 水滞および四肢の冷えを認めた。絨毛膜下血腫の存在は妊娠転帰に悪影響を及ぼす可能性があり, 何らかの対策が必要であると思われるが, 現在までのところ西洋医学において有効な治療法は確立されていない。今回の2症例では当帰芍薬散が著効したことから, 絨毛膜下血腫の治療法として当帰芍薬散も有効な選択肢の一つになり得るものと考えられた。
著者
清水 光恵
出版者
公益財団法人 パブリックヘルスリサーチセンター
雑誌
ストレス科学研究 (ISSN:13419986)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.16-19, 2015 (Released:2016-01-15)
参考文献数
4
被引用文献数
1

According to the author’s clinical experiences, patients with developmental disorder, especially autism spectrum disorder (ASD) often develop PTSD-like symptoms following relatively mild stress events such as scolding from parents or teaches, quarrels with others. Another characteristic of the PTSD-like psychopathology in ASD seems to be that very unexpected and accidental details remind the patients of the traumatic event. The relationship between learning disorder and trauma was also discussed.
著者
遠藤 慎 髙橋 武 佐鳥 新
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3+, pp.95-98, 2017-05-01 (Released:2017-10-07)

映像のRGB強度から生体情報を読み取ることにより,非接触で人間の心拍数の測定および感情の識別を試みる本研究は,精神作用(感情)が生体に及ぼす効果, 相関関係を明らかにし, 感情認識機能を確立するという目的に基づく. この機能は,監視カメラや車などに感情認識機能を追加することで潜在的な事故や犯罪を抑止,または防止することも可能である.加えて, 精神医療分野や,生理心理学などの分野で応用されていくことが考えられる.本講演では, 蛍光灯下で被験者をビデオカメラで撮影し,顔の動画を10FPSごとに切り出し, そのRGB画像に写るヘモグロビンやメラニンなどの人体の色素成分から,数値解析ソフトウェアMATLABを用いてプログラムを組み,人体の特徴スペクトルの抽出をおこなった.さらに,得られた特徴スペクトルを用いて心拍数の波形を求め,心拍数の時間変化を数値化(特徴量の算出)をおこなった.また,特徴量を使用し,数値解析ソフトRを用いてクラスター分析をすることにより感情の分類をおこなった.結果,情動喚起(joy, fear)においておよそ70から80%の精度で識別ができた.
著者
木戸 調
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.51-68, 2019 (Released:2020-07-31)
参考文献数
14

アイヌ民族にかかわる先行研究では,アイヌ民族の主体的な「アイヌ史」の構築が求められている一方で,マジョリティである和人が同化を強制したとする「悲劇」的な歴史観が強かった。加えて,現在まで継承されているアイヌ文 化が存在することを踏まえられていない。そこで本稿は,同化をマイノリティが経験する現象と理解し,『蝦夷の光』『エカシとフチ』を対象に,差別的な状況を改善しようとするアイヌ民族個々人の戦略の中に同化を位置づけ,考察した。その結果,まず1900 年代から1910 年代は困窮に対する戦略が意図せざる結果としての文化的同化を引き起こしていたこと,1920 年代以降,差別が増加することで意識的な戦略としての文化的同化が生じていったことが明らかと なった。このように,困窮が意図せざる結果としての同化を,差別が意識的な文化的同化をもたらしたといえる。一方で,1930 年代以降の困窮に対する戦略の中に,アイヌ文化を観光業の中で利用する「観光化」が存在していた。この「観光化」がアイヌ文化継承の糸口となったことが示唆された。このように,アイヌ民族個々人の戦略を分析すること,継承の可能性を踏まえながら同化を考察することができた。また,アイヌ民族の戦略は同化のみにとどまらず,「観光化」が存在したように,常にその構造を超える可能性をはらむものであったのではないだろうか。
著者
石川 ひろの
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.77-90, 2020-06-16 (Released:2020-08-26)
参考文献数
43

この数十年,医療を取り巻く社会的な変化は,患者-医療者関係を大きく転換させてきた。慢性疾患の増加に伴い,患者と医療者との長期的な治療関係や治療過程における患者の主体的な参加が求められる中で,いわゆる伝統的な父権主義的患者-医師関係から,相互参加型の患者-医師関係が模索されてきた。そこにおいて,目指されてきたのが患者と医療者による意思決定の共有(Shared decision making:SDM)である。生命へのリスクが高く,しばしば複数の治療法の選択肢が存在するがん診療場面は,早くからSDMの重要性が注目されてきた領域である。マスメディア,インターネットなど,保健医療に関する情報が増大し,情報源が多様化する中で,患者自身が適切な情報を収集・活用し,主体的に治療や意思決定に参加していく力の重要性は増している。SDMの実践は,参加に消極的になりがちな人々,不利な立場にある人々も含め,治療のプロセスへの参加を促し,納得のいく決定ができるように支援することで,健康の不平等の解消にもつながる可能性がある。