著者
佐藤 正志 瀬川 直樹
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1-23, 2018-03-30 (Released:2019-03-30)
参考文献数
52

本稿は製紙業を対象に全国的な立地変動とその要因の解明を通じ,国の政策的調整が後退した後の成熟産業における企業を中心とした再編メカニズムの動態を論じた.日本の製紙業は1990年代以降,国内需要低迷による成熟産業化と企業合併による寡占化が進んでいるが,国内工場の立地と生産の推移をみると,2000年代以降,印刷・情報用紙を中心とした紙では,合併前の各企業主力工場への集約化と生産規模拡大と共に,小規模工場や大都市圏中心部の工場を中心に閉鎖や生産縮小が進められていた.一方で,衛生用紙や雑種紙,板紙では消費地に近く輸送コストの低い大都市圏近郊の工場を中心としながら,地方圏でも中規模工場での生産を継続している.     製紙業の立地変動や生産量増減の要因について,抄紙機への設備投資と用水に着目した結果,合併後生産量が増加している基幹工場の多くは,元々コストが安価な河川表流水・伏流水を大量に使用できた工場であり,新鋭の大型抄紙機の導入により生産効率の向上を図っていた.対して,閉鎖や縮小の対象になった工場は,工業用水道使用割合が高く,かつ古く生産能力の劣る抄紙機を使用していた.特に印刷・情報用紙における生産拠点の再編では,企業間競争の激化により,用水を中心とした生産コスト低減と効率的な生産を目指しつつ,企業合併による寡占化を通じて地域別に配置された基幹工場に集約が進められることが示された.
著者
齋藤 みのり 佐野 伸之 小林 隆司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.72-77, 2019-02-15 (Released:2019-02-15)
参考文献数
6
被引用文献数
1

自閉症スペクトラム児の対人社会性を阻害する要因の一つに,ファンタジーへの没入現象が指摘されている.今回,ファンタジー没入行動により,様々な日常生活の遂行に支障をきたしていた広汎性発達障害男児に対し,ファンタジーを外在化する作業活動を通した支援を行った.本児は,架空のカードゲームを頭の中で展開する遊びに,様々な日常生活場面で没頭していた.作業療法では,頭の中に描いているファンタジーを外在化し,それを用いて一緒に遊べるよう模索した.また,徐々に交流の場が広がるよう促した.これらの支援により,本児の頭の中のファンタジーが整理され,現実とのつながりを築いていき,生活障害が軽快したと考えられる.
著者
世利 修美 星 悠樹 境 昌宏
出版者
一般社団法人 軽金属学会
雑誌
軽金属 (ISSN:04515994)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.175-180, 2005 (Released:2006-02-24)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

Surface observation and electrochemical measurements were carried out to clarify the influence of acetic acid on corrosion behaviors of industrially pure aluminum alloy 1100. The consideration of the potential-pH-pOAc diagram and polarization analysis reveal that coexistence of citric acid and chloride ions will severely pitting-attack aluminum alloy 1100.
著者
西山 孝樹 藤田 龍之 知野 泰明
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D2(土木史) (ISSN:21856532)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.123-131, 2012 (Released:2012-11-20)
参考文献数
64

わが国では,10世紀をピークとして9世紀から11世紀にかけて,「土木事業の空白期」が存在していたことを本研究で指摘した.その背景には,10世紀における律令国家の崩壊が最も影響したと考えられる.そして更なる要因として,平安貴族を中心に,土の掘削を忌み嫌う「犯土」思想が,10世紀後期から11世紀に存在しており,その思想が「土木事業の空白期」に影響を及ぼしていたとみられることを示した. しかし,空白期における土木事業は,全く実施されなかったわけではなかった.わずかではあるが,僧によって行われており,文献史料を中心に彼らの事績をまとめた.そして,「犯土」思想が僧による土木事業に影響を与えたかについても迫り,平安時代における「土木事業の空白期」の実態を明らかにした.
著者
Fumio HIAI
出版者
The Editorial Committee of the Interdisciplinary Information Sciences
雑誌
Interdisciplinary Information Sciences (ISSN:13409050)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.139-248, 2010 (Released:2010-09-16)
参考文献数
80
被引用文献数
35 36

These lecture notes are concerned with several topics in matrix analysis covering the Löwner and Kraus theory on matrix/operator monotone and convex functions, the Kubo–Ando theory on operator means, spectral variation and majorization, and means for matrices. Matrix norm inequalities related to majorization and means for matrices are also discussed.
著者
増山 幹高
出版者
JAPANESE POLITICAL SCIENCE ASSOCIATION
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1_79-1_109, 2009 (Released:2013-02-07)
参考文献数
39

Why do opposition parties propose votes of no-confidence they know will not pass? Although there is an extensive literature on the confidence relationship between parliament and the executive, it tends to focus solely on the vote of no-confidence as a mechanism for the parliamentary majority control of the executive. This article fills a gap in the literature by exploring the vote of no-confidence as a tool of the opposition, focusing on its use in the Japanese Diet. I suggest two possible reasons for the vote of no-confidence to have utility to the opposition, even when they know it will not pass. The opposition might use the no-confidence vote for legislative gains, using the no-confidence vote as a delay tactic or filibuster. Or the opposition might use it for electoral gains, using the no-confidence vote as an opportunity to publicize unpopular government policies or actions. Although the traditional literature on the Japanese Diet has suggested that the opposition uses the no-confidence vote for legislative gains, the evidence presented in this article suggests that electoral gains hypothesis better explains no-confidence votes in postwar Japan.
著者
若倉 雅登 曽我部 由香 原 直人 山上 明子 加茂 純子 福村 美帆 奥 英弘 仲泊 聡 三村 治
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.7-13, 2021-03-25 (Released:2021-04-03)
参考文献数
20

【目的】眼球や視路に原因を求められないが,日常的に保有視覚を阻害されてしまう場合がある.この実態をさぐるために,全国的に臨床的特徴を検討すること. 【方法】日常的に保有視覚が常時阻害されている症例を,神経眼科およびロービジョンの専門家の有志でワーキンググループ(WG)にて収集した.2018年11月から2019年4月までの6か月間に眼瞼痙攣,心因性視力障害,詐病を除く上記に見合う症例をWGのメーリングリスト上で報告し内容を検討した.最終的に以下の二次的除外基準を設けて症例を絞り込み,その臨床的特徴を考察した.1)頭部MRIなどで病変が同定できる症例,2)視覚に影響を及ぼす精神疾患が確定している症例,3)眼位,眼球運動障害による視覚障害が出現している症例である. 【結果】最終的に対象となった症例は33例(16歳から80歳,男女比(9:24))が収集された.これらの臨床的特徴を解析すると,非眼球性羞明26例,眼痛5例と視覚性感覚過敏が目立った.両者とも有する例が21例,両者ともないものが1例であった.これらの多くは注視努力(企図または遂行)によって症状が悪化する傾向にあった.33症例の報告の内容から,3例以上に共通して随伴していた臨床的特徴としては脳脊髄液減少症,片頭痛,ベンゾジアゼピン系薬物の連用,線維筋痛症があった. 【結論】眼球や視路に原因がないのに,日常視を妨げる恒常性の羞明や眼痛を有する症例が少なからず存在することがわかった.これらは,視覚関連高次脳機能障害のうち,感覚過敏が前面に出たものと考察できるが,詳細なメカニズム解明は今後の問題である.
著者
若菜 宣明 中林 敦代 本間 和宏 大松 孝樹 平井 香織 田中 越郎
出版者
JAPAN HEALTH MEDICINE ASSOCIATION
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.44-48, 2007-07-31 (Released:2017-12-28)
参考文献数
19

ビルベリーは夜間視力を改善するといわれている。しかしいくつかの臨床試験が試みられているものの,はっきりした結果は出ていない。ブルーベリーはビルベリーと近縁の植物で,日本ではビルベリーとしばしば混同されている。従って多くの日本人はブルーベリーが視力改善に効果があると思っているが,ブルーベリーの眼機能に関する研究はほとんどなされていない。本研究ではブルーベリーが眼機能を改善するか否かを調べた。7人の健康成人に10gの乾燥ブルーベリーを摂取させ,4時間後に眼機能を評価した。暗順応時間,視野,流涙量(シルマー試験で評価),まばたき回数,自覚所見には改善は見られなかった。また,10人の健康成人に毎朝7gの乾燥ブルーベリーを21日間摂取させたところ,やはり暗順応時間,視野,流涙量,まはたき回数,自覚所見には改善は見られなかった。すなわち,今回の17人の被検者で調べた限りでは,一般的摂取量のブルーベリーでは明らかな眼機能改善効果は見い出せなかった。
著者
飯野 秋成 飯野 なみ
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.42-49, 2017 (Released:2019-02-01)

本稿では、「第1期~第2期ウルトラシリーズ」の6_曲の主題歌について、1つの番組の主題歌に含まれるメロディのモチーフが、後続番組の主題歌のメロディに継承されている状況を、メロディ譜から考察した。さらに、メロディに含まれる音符の音価について、平均情報量による分析を行い、モチーフの継承による平均情報量の変化の特徴を示した。 まず、「第1期ウルトラシリーズ」の主題歌である「ウルトラマンの歌」と「ウルトラセブンの歌」のそれぞれについて、作曲者の作風と、当時の各楽曲制作に求められた方向性を文献からリサーチした。「ウルトラセブン」は「ウルトラマン」の後継番組でありながら、主題歌の制作においてモチーフを継承する意図は確認されなかった。さらに、メロディ譜の分析により、「ウルトラマンの歌」と「ウルトラセブンの歌」のメロディには、明確に共通といえるモチーフは見られなかった。 また、「第2期ウルトラシリーズ」の主題歌である「帰ってきたウルトラマン」、「ウルトラマンA」、「ウルトラマンタロウ」、および「ウルトラマンレオ」には、「ウルトラマンの歌」および「ウルトラセブンの歌」のモチーフが、それぞれ変形されながら継承されていることを確認した。 さらに、「第1期~第2期ウルトラシリーズ」の6_曲の主題歌について、メロディの音価と音高の平均情報量を求め、2次元空間に配置すると、楽曲間のモチーフが大きく変形することなく継承されている場合に近接することを示した。モチーフが大きく異なる「ウルトラマンの歌」と「ウルトラセブンの歌」の2_曲が早期に生み出されたことにより、その後のシリーズにおけるモチーフ継承によって統一感を保持しながらも、多彩な楽曲群が生み出されることにつながっていることが示された。
著者
吉田 聡子 佐伯 由香
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.4_11-4_17, 2000-09-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
22
被引用文献数
1

Lavender,Rosemary,Citronellaの3つの精油を吸入した際の自律神経系に及ぼす作用について調べた。Lavenderの香りは,交感神経系を抑え,精神・心理面だけでなく身体的にもリラックス効果をもたらした。逆にRosemaryのように精神・心理的にリフレッシュ・スッキリとした気分を感じさせるような香りは,その作用によって一過性に交感神経系を刺激する効果を持っていることが考えられた。嗜好において個人差の大きなCitronellaのような香りでは,精神・心理面にも被験者間でかなりばらつきがあり,自律神経系への効果も複雑であった。看護領域で芳香療法を用いる場合,精油自体の持つ生理的作用と個人の嗜好とを考慮し選択する必要性のあることが考えられた。
著者
堀江 祐範 神原 辰徳 黒田 悦史 三木 猛生 本間 善之 青木 滋 森本 泰夫
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.237-243, 2012-09-01 (Released:2012-12-14)
参考文献数
9
被引用文献数
1

日本や米国を含む諸外国の宇宙機関の国際協力のもと,月面に基地を造り宇宙飛行士が長期間滞在する計画を検討している.月表面には隕石の衝突や宇宙風化により生じた月レゴリスと呼ばれる微粒子が堆積しており,微小重力下の月面での作業においては,月面の粒子状物質の有害性評価が重要であるが,その報告は少なく,特にアレルギーとの関連についての報告はない.月レゴリスの化学組成は,SiO2がほぼ半分を占め,その他Al2O3,CaO,FeOなどが含まれる.宇宙飛行士が月レゴリスの吸入により花粉症様の症状を呈したとの報告があるほか,地球上で類似の組成を持つ黄砂ではアレルギーの増悪効果が報告されており,月レゴリスはアレルギー増悪効果を示す可能性がある.月レゴリスと類似の組成を持つレゴリスシミュラントを卵白アルブミンと共にマウスの腹腔内に投与した試験では,アレルギー増悪効果は認められなかったが,今後吸入モデルなどによるさらなる検討によって,月レゴリスの安全性を確認することが重要である.
著者
田代 綾美 宮本 恵美 古閑 公治 久保 高明 大塚 裕一 船越 和美
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.310-320, 2018-12-15

近年,超高齢化に伴い,誤嚥性肺炎に罹患する患者は年々増加している.一般的な喉頭挙上にかかわる筋力強化訓練は実施上の配慮の必要な場合が多い.本研究では,簡易に行える構音訓練が喉頭挙上訓練として有効であるか,その効果について表面筋電計を用いて検討した.「カ」は「タ」や「ラ」と比べて舌骨上筋群の筋活動が有意に高く(p<0.01),嚥下おでこ体操と比較して舌骨上筋群の筋活動が同程度であることが明らかとなった.さらに,1か月後の訓練効果を比較した際,「カ」連続構音群では,水の嚥下で単位時間当たりの筋活動量の増加(p<0.05),および筋活動持続時間の短縮が認められた(p<0.05).これは,舌骨上筋群は主に「速筋」により構成されていると推察されることから,「等張性運動」に相当する「カ」連続構音群で訓練効果がみられたのではないかと考えた.このことから,「カ」連続構音訓練は喉頭挙上訓練として有効であることが示唆された.
著者
善教 将大 坂本 治也
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.96-107, 2017-11-30 (Released:2019-06-08)
参考文献数
35
被引用文献数
3

本稿の目的は,何が寄付行動を促進する要因なのかを,全国の有権者を対象とするサーベイ実験を通じて明らかにすることである。先行研究は寄付行動の規定要因に関する重要な知見を蓄積してきたが,他方でデモグラフィーなど個人的特性との関連性への傾斜や推定結果に存在する内生性や欠落変数バイアスへの対処が不十分といった問題を抱える。さらにこれらの問題を解決可能な実験的手法に基づく既往研究にも,代表性の低いデータを用いている点など課題が山積している。本稿では,これら先行研究の問題を解決可能な実験的手法を用いて,寄付行動の規定要因を分析する。具体的には,全国の有権者を対象とする無作為化要因実験(randomized factorial survey experiment; RFSE)によって,寄付の有無と寄付金額に何が影響を与えるのかを明らかにする。実験の結果明らかになった知見は次の2点である。第1に寄付を募る際,他者の1人あたりの寄付金額表示額が少なく,寄付金を管理運営費にあてる割合が小さく,物的・金銭的インセンティブを付加した返礼をしない方が,寄付確率が高くなる。第2に寄付を募る主体がNPO法人以外であり,寄付金を管理運営費にあてる割合が小さく,控除対象にできる方が,寄付金額が高くなる。これら本稿の知見は,先行研究に疑義を呈しうるものであると同時に,実際の政策展開にもいかすことが可能なものである。
著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.1-19, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
27

ベネズエラでは経済的にも政治的にも、理解しづらい状況が継続している。国家経済の規模(GDP)がわずか5年で4割弱に縮小、憲法違反のドル化の進展が公的経済制度の不備を補完している。2019年以降は、ふたりの大統領が対峙するのに加え、国会もふたつ立ち、制憲議会とあわせて、見かけ上は三つの立法権力が存在する状況が続いた。本稿では、そのような事態に陥った背景を考察する。カギとなるのは、政治経済両面で広がる公的制度の機能不全(無視)であり、それを補完すべく広がるインフォーマルなものごとの仕切り、運用、そしてそれがさらに公的制度の機能不全、形骸化を深めるという悪循環である。そのような厳しい状況下で2020年には、新型コロナ感染症がベネズエラにも広がった。
著者
次田 瞬
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.17-33, 2015-07-31 (Released:2015-11-08)
参考文献数
12
被引用文献数
1

Philosophers of mind have advanced three approaches in the project of naturalizing semantics: information semantics, conceptual role semantics, and teleo-semantics. This paper examines the most celebrated but complicated version of teleo-semantics, that is, Millikan's theory of representations. The first half of this paper (section 1-3) motivates and formulates her theory. The latter half (section 4-6) provides clarification of the two technical notions in terms of which Millikan's theory is formulated. One is the cooperation among the producers and the consumers of the representations. The other is the Normal conditions where the consumers of the representations function properly.
著者
佐野 洋子 宇野 彰 加藤 正弘 種村 純 長谷川 恒雄
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.323-336, 1992 (Released:2006-06-23)
参考文献数
30
被引用文献数
12 11

発症後3年以上を経過した失語症者72名にSLTAを施行し,いわば到達レベルの検査成績を,CT所見により確認した病巣部位と発症年齢の観点から比較検討した。SLTA評価点合計の到達レベルは,基底核限局型病巣例,前方限局損傷症例が高い値を示し,これに後方限局損傷例が続き,広範病巣例と基底核大病巣例は,最も低い値であった。発症年齢が40歳未満群は,軽度にまで改善する症例が多い。40歳以降発症例と,未満発症例で,到達レベルに有意な差が認められたのは,広範病巣例と,後方限局損傷例であった。前方限局損傷では,発症年齢での到達レベルの有意差はみられず,失語症状はいずれも軽減するが構音失行症状は残存する。これに対し,後方限局損傷例では,聴覚経路を介する課題や語想起の課題で発症年齢による到達レベルの差が認められる。このことから脳の,機能による可塑性が異なることが示唆される。また基底核損傷例は病巣の形状で到達レベルに差異が著しく,被殻失語として一括して予後を論ずることは難しい。
著者
松永 伸太朗 永田 大輔
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.89-101, 2021-11-10 (Released:2023-11-10)
参考文献数
16

アニメ産業において制作者が用いるスキルは客観的な形式で表現されないが,同業者内では理解可能な形で共有されているという特徴を有する。本稿では,評価の基準が変わりながらその都度の状況に適切な判断がなされることを意味する「浮動する規範」という考え方に依拠しながら,アニメ制作者の語りに基づいて彼らが理解する実力の内実を明らかにした。その結果,同じ監督層であっても,工程全体を見渡すことを経験した制作進行や撮影職出身者と,作画や映像表現に特化したアニメーター出身者では準拠集団が異なっており,それによって異なる技能観を有していることが明らかになった。さらに,アニメーター同士のスキルはそれぞれ自らを他者から差異化することに形式として理解可能なものとなっていた。こうした知見に基づき,客観化されず関係性に基づくスキルであっても,OJTを通したスキル形成が重要性を持つことを示唆した。