著者
竹沢 尚一郎 深海 菊絵 近藤 有希子 森田 良成
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

2016年、米国の人類学者Sherry Ortnerは、失業や疾病、戦争、災害等に苦しむ人々を対象とする「暗い人類学が人類学の中心的テーマになっている」と断言した。この発言の背景にあるのは、グローバル化と新自由主義の進展による大量の移民や難民の出現、工場移転の結果としての失業や短期雇用の増加である。急速に変わりゆく現代世界の中で、人類学がその使命とされてきた「異文化研究の学」にとどまることは可能なのか。むしろそれは研究対象と研究方法の根本的な改変を必要としているのではないか。本研究の目的は、苦難に満ちた現代世界に生きる多様な人々を包括的に研究するための新たな方向性を見つけることである。
著者
大澤 義明 城所 幸弘 栗野 盛光 小林 佑輔 櫻井 一宏 小林 隆史 和田 健太郎 高野 祐一
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-04-01

EVシフトが進めば、大幅な税収減となり新たな財源の確保が必要となる。一方で、インフラ維持管理費用が深刻な問題となる。走行距離など移動経路に応じて課税する受益者負担の考え方はわかりやすく身の丈にあったインフラ量を誘導する。道路修繕更新費用の一部が走行税で賄われる受益者負担課金を想定し、地方自治体まちづくりに与える影響を分析し、社会最適化などの理論モデルを構築する。
著者
久保 文明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

近年の共和党は、中道穏健派が著しく退潮し、保守派が圧倒的な主導権を握る保守的な政党に変化した。この要因として南部の変化、レーガン主義の浸透などさまざまな点を指摘できるが、とくに注目すべきは、1970年頃から今日にいたるまでの変化が、いわゆる決定的選挙なしで起きていることである。すなわち、近年の変化は二大政党間の劇的な勢力関係の変化を伴わず、しかもきわめて緩やかな変化となっている。これまでに例のない政党変容を理解するためには、これまでとは異なる概念装置が必要不可欠であろう。本研究では、社会運動・政治運動による政党への浸透、ならびに政党を支援する利益団体連合の形成・変化という二つの視点を重視して研究を行った。これまで公民権運動など社会運動の政党への浸透についてはかなりの研究が蓄積されてきたが、クリンチャン・コアリションに代表されるキリスト教保守派と共和党の関係は、社会運動よりは基盤の狭い政治運動の政党への浸透として理解できることを示した。また、とりわけ重要な点は、1990年代の半ばから、反増税団体、銃所持団体、中小傘業団体、キリスト教保守派団体、反環境保護政策団体、文化的保守派団体などがいわば大同団結し、井和党を、とりわけその保守派を支援し始めた。これは同時に、保守系のシンクタンク、財団などの501(c)(3)団体、Americans for Tax Reformなどさまざまの保守系501(c)(4)団体、そして政治資金団体である保守系政治活動委員会(PAC)が非公式な形ながら機能的に相当程度統合されたことも意味していた。今日では党内穏健派現職議員を落選させようとするPACも登場している。このような党外部の政治団体の浸透・連合が果たす役割を解明できたことが本研究プロジェクトの大きな成果である。
著者
伊藤 弘明 岩崎 基
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

乳がん症例・対照401ペアにおける有機フッ素化合物(PFASs)の異性体別の血清中濃度を四分位等でカテゴリー化して独立変数とし、乳がん罹患の有無を従属変数として多変数調整オッズ比を算出したところ、19種類のPFASsの血清中濃度と乳がんリスクの間に有意な負の関連を認めた。分岐鎖のあるペルフルオロトリデカン酸(PFTrDA)では血清中濃度が中程の群において乳がんリスクの有意な増加を認めた一方、分岐鎖のないPFTrDAでは有意な負の関連を認めた。また、対照群における横断研究を別途行い、重回帰分析により18種類のPFASsの血清中濃度と末梢血白血球DNAメチル化レベルの間に有意な正の関連を認めた。
著者
菊谷 達弥 椙山 泰生 澤邉 紀生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本、米国シリコンバレー、英国ロンドン近辺の幾つかの企業について、共同開発、技術提携、技術情報会社の役割などを聞取り調査した結果、オープンイノベーションの問題を、取引コストの視点から分析することが有効であることがわかった。取引コストはさらに「取引相手を探索するコスト」と、「企業内部での調整コスト」の2つに分けられる。この視点の有効性を大規模サンプルで検証するために、日本の上場製造企業を対象に質問票を実施した。本社研究開発部門については「技術提供」と「技術獲得」、事業部については「技術獲得」を調査した。その結果、以下のことが判明した。(1)まず、取引相手を探索する部門の存在は、これらすべての取引を促し、この意味で探索コストを共通に減らすのに有効である。これに対し、調整コストのあり方は、取引や企業組織のタイプによって異なる。(2)本社研究開発部門の、外部への技術提供の決定には、事業部門との調整が必要であり、事業部の数が多くなるほど、外部への提供は抑制される。これと整合的に、事業部の権限が強い分権型マネジメント・コントロールであるほど、外部への提供は減少する。ただし、部門間で技術情報を共有する仕組みがあれば、この調整コストは減少し、外部提供が促される。逆に、中央の研究開発部門の権限が強い場合は、テクノロジー・プッシュ型の外部提供が行われる。(3)次に、本社研究開発部門の技術獲得は、事業部が多くなるほど促進される。そしてマネジメント・コントロール・システムが、事業部の権限が強い分権型であるほど、こうした本社部門による技術獲得は増大し、事業部からの要請に基づくニーズ・プル型の技術獲得が行われる。(4)これは事業部における技術獲得に影響し、分権型システムであるほど、事業部自らが技術獲得を行う必要性を減少させる。こうした調査の実施は他には皆無といってよい。また、分析結果についても、技術取引を取引コストの視点から捉え、さらに取引コストを構成する内部調整コストを、マネジメント・コントロールと関連させて分析した点で重要である。
著者
笹本 健 西牧 謙吾 徳永 亜希雄 玉木 宗久
出版者
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

特に周囲の人々から重度・重複障害児・者といわれ、さまざまな障害があり、知的にも低いと思われている人の中に、かなりの割合で通常に近い知的能力と文字表現能力を有している人が存在する可能性が示唆された。また、そのような人々に対する表出援助(STA)法の有効性について脳科学的な実証(測定)の基盤を築くことができたと同時に、実際的な文字表現の支援の方法について、事例を通して明らかにすることができた。
著者
川崎 剛志 曽根 正人 佐藤 明浩 近本 謙介
出版者
就実大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

まず行尊の伝記研究では、史実研究と偶像研究との双方を視野に入れて研究を進め、その成果として川崎が「行尊年譜(稿)」を作成した(『研究成果報告書』)。この年譜に基づいて考察すると、史実研究の面では、(1)行尊の宗教活動の中核には護持僧としての活動があり、熊野御幸先達の事績などもその枠組みの中で捉える必要があること、(2)行尊の験功の事例は天台宗寺門派の伝記よりもむしろ『真言伝』に多く記録されており、史実の解明にも有効であることが判明した。他方、偶像研究の面では、(3)天台宗寺門派においては長承三年(1134)園城寺金堂再興供養を最高潮とするかたちで行尊伝が構成されていることが判明し、以後の再興事業において行尊による再興が常に規範とされたことが推測される。上記については研究論文を準備している。次に行尊の詠歌研究では、佐藤がその表現を和歌史上に位置づけるべく試みた(『研究成果報告書』)。行尊の和歌表現は同時代のそれと共通するところが多く、特異な体験によって裏打ちされた特徴的な表現が微温的に現われている、というのが結論である。これらと並行して、行尊が活躍したのと同時期、院政期における他宗の山岳信仰にも目を配り、川崎が南都(興福寺及び真言律宗寺院)における葛木峯=金剛山信仰の展開を跡付けた。なお研究を進めるなかで、行尊の詠歌が、行尊の宗教活動、ひいては後代の天台宗寺門派による偶像化を支える重要な道具として機能したことも一層鮮明となったが、その論証は今後の課題とせざるをえなかった。
著者
松浦 弘明
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

再生医療等に欠かせない技術である細胞の凍結保存では, 致死的となる細胞内の氷晶生成を防ぐために凍結保護物質が用いられるが, その保護メカニズムについては未解明な点も多く, 凍結保存プロセスは最適化されていない. 本研究では, 細胞内凍結に関係していると考えられる細胞内の水分子ダイナミクスを誘電分光によって測定することで, 細胞凍結保護のメカニズム解明に役立つ知見を獲得し, 安全で環境親和性が高い保護物質を用いたグリーンな凍結保存技術のデザインに寄与することを目指す.
著者
鈴木 誠 鎌形 清人 最上 譲二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

がん抑制機能をもつp53蛋白質は、2重らせんDNA(dsDNA)上を拡散運動し標的配列と強く結合する。本研究ではDNA結合蛋白質とDNAとの結合と探索メカニズム解明に向けて、dsDNAの周りのHMW層の量をbuffer種等で制御したときのp53とdsDNA結合定数測定への影響を実験と計算で調べ、さらに1分子測定によるdsDNA上のp53の1次元拡散係数に及ぼすハイパーモバイル水(HMW)の効果について明らかにする。
著者
山本 雄大 内田 篤治郎
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

心臓手術の術中に採血した検体で、誘電コアグロメーターを用いて全血凝固検査を行い、ROTEMによる測定と比較し、さらに、術直後の血液の分析結果と術後のドレーンからの出血量の相関について検討するプロトコールで、前向きの臨床研究を行った。また、組織因子に対する血液の反応性についても、誘電コアグロメーターで評価を行い、血漿中のtissue factor pathway inhibitor(TFPI)濃度との相関、トロンビン生成能との相関について検討した。本研究の対象は、人工心肺を用いる予定心臓血管手術を受ける患者100名であり、(1)麻酔導入後手術開始前、(2)人工心肺終了後・プロタミンによるヘパリン中和の終了時、(3)閉胸後手術終了時に採血し、誘電コアグロメーターによる測定、ROTEMによる測定、血算、凝固検査用に分注し、それぞれ検討を行った。本研究で得られたデータから、誘電コアグロメーターによって赤血球の連銭形成における誘電率の変化が血漿フィブリノーゲン濃度と相関することが本研究で示唆され、研究成果の発表を行った(EUROANAESTESIA 2020).対象となった心臓手術症例では、Calibrated automated thrombogramによって測定されたトロンビン生成能が、TFPI濃度の上昇などにより低下する症例が認められたが、誘電コアグロメーターにおけるClotting timeがトロンビン生成能の低下を反映して延長することが示された。
著者
岩佐 幸恵 谷 洋江 奥田 紀久子 高橋 亜紀
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の目的は,高機能広汎性発達障害者の24時間にわたる自律神経活動の変化を明らかにすることである。定型発達では,交感神経活動は身体の活動に合わせて昼間活性化し,夜間は沈静化する。相反的に副交感神経活動は夜間に活性化し,昼間は沈静化する。高機能広汎性発達障害者においても昼間は交感神経活動が活性化し,夜間は副交感神経活動が活性化し,サーカディアンリズムを有してはいることが明らかになった。しかし,高機能広汎性発達障害者はサーカディアンリズムはあるものの,睡眠時においても心拍は速く,副交感神経活動の各指標は定型発達に比べて極めて低く,副交感神経活動が全体的に低下している可能性が示唆された。
著者
高橋 徹 松下 正明 鷲塚 伸介 萩原 徹也
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

以下の2編の論文を発表した。①作家・北杜夫と躁うつ病 ― 双極性障害の診断 ―.病跡学雑誌95:58-74,2018.②作家・北杜夫と躁うつ病 ― 顕在発症前エピソードと『どくとるマンボウ航海記』―.信州大学附属図書館研究8:57-87,2019.第一報において、北杜夫における「躁うつ病」の病名が、現代の診断基準における双極Ⅰ型障害に該当すること、また「混合状態」「急速交代型」の特徴を有していたことを考察した。第二報において、顕在発症とされている39歳前にも気分変動が存在し、『どくとるマンボウ航海記』(1960年:33歳時)の執筆にも躁状態とうつ状態が創作に影響を及ぼしていた可能性を指摘した。
著者
日高 佳紀 西川 貴子 増田 周子 天野 知幸 大原 祐治 疋田 雅昭 吉川 仁子 浦西 和彦 浅岡 邦雄
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

1940年代に大阪で創業し、戦後の占領期にメジャー出版社に比肩する業務を担った出版社「全国書房」の出版事業における作家と編集者、出版人を中心としたネットワークの全容を解明することを目指し、創業から1970年前後に至るまでの出版書籍の調査、1944~1949年に刊行された文芸雑誌『新文学』の分析、および、創業者である田中秀吉(故人)宅の所蔵資料調査などを行い、終戦前後の過渡的な時代における文学と出版メディアの関係について検討、研究期間終了後に取り組む成果出版のための基礎を構築した。
著者
太田 孝彦
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は今まで等閑視されがちであった江戸時代の画譜に焦点を当て、それらがどのような作品をどのように収録しているかを分析することによって、江戸時代の美術史の様相を解明することであった。画譜の出版においては江戸時代中期、十八世紀初頭に活躍した橘守国と大岡春卜が代表的な存在である。そこで、大岡春卜が出版した『和漢名筆画本手鑑』(享保五年1720)と『和漢名画苑』(寛延三年1750)を取り上げ、そこに春卜の美術史観をうかがおうとした。彼は同時代美術を重視する姿勢を採っていた。『画本手鑑』において、彼は対象をよく知ることによって把握される動物の生態を生き生きと描き出す行為を重視する。狩野派の画家であり、絵手本として機能する画譜の出版でありながら粉本からの離脱を評価する。次にそのことと矛盾することになるが、装飾性という姿や形の美しさこそが世に賞賛されていると位置づける。さらに、奇想天外な意表をつく光景を略筆で描く「鳥羽絵」を「狂画」として「風流」な嗜みとして評価し、多く収録する。そして『名画苑』では、長崎に伝えられた最新の技法と感覚を評価する。また、一種の遊びの精神に満ちた絵、絵画におかしみを持ち込んだ作品、素人の絵画を高く買っていることも注目される。彼の関心が絵画の革新であることを告げる。このように、春卜は絵画革新の時代的潮流を敏感に感じ、「現在流行している作品は旧例の墨守ではない新しい試みの吐露である」と評価し、それらを画譜に掲載し、それらを通じてあるべき絵画の姿を語る。「戯画」である鳥羽絵が持つ「諧謔性」を従来にない絵画の特質と認識していたのである。鳥羽絵は町人の自由な精神の発露であり、これこそがあるべき絵画であると主張していたことを明らかにした。これが十八世紀初頭に生きた春卜の絵画観である。江戸時代に美術をそうしたものと考え、それを告げることが美術史であると考えていたことが明らかになった。
著者
小谷 元子 大西 立顕 内藤 久資 高見 誠一 一木 輝久 古田 幹雄 青柳 岳司 下川 航也 橋本 幸士
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本領域は、数学と物質・材料科学の連携により、「次世代物質探索のための離散幾何解析学」を創成することを目指すものである。原子・分子のようなミクロ構造やナノ粒子などのメゾ構造(これらを階層的ネットワークと理解)と、物質・材料のマクロな性質つまり物性・機能の関係を幾何学的に記述し解析することで、物質のミクロ・メゾ構造とマクロな物性・機能の関係を解明し(順問題)、求められる物性・機能を持つミクロ・メゾ構造の予見(逆問題)、更に構造を生成する動的構造形成の制御(最適化・制御)を行うことを目指し数理モデルの構築、シミュレーションと理論による検証を踏まえた最適構造の提案とそれに基づく物質合成を計画している。総括班は、このような異分野融合研究を効率よく行うための議論の場の提供、チュートリアル的な勉強会の企画・運営、領域全体に資する国際研究集会の運営、成果発信のためのニュースレターの発行などを行った。また、研究班でカバーできない研究課題を分析し、新手法の提案・提起に柔軟に対応するため公募計画を策定し、領域会議において計画研究、および公募研究の間の情報交換と議論を行った。異なる分野、班の間をつなぐためのインターフェースとなる若手研究者を配置した。彼らは領域内の項目間の融合を促進するための勉強会やワークショップの企画、ニュースレターの作成を行うとともに、彼ら自身も連携研究を行い、論文および国際研究集会等において成果を発表した。公募研究をより有効に連結させ相乗効果を上げるために、チームを超えた連携研究を奨励するための連携研究支援を行い論文として発表することができた。領域代表者は特に本領域研究に関していくつかの重要な国際会議でプレナリー講演やサーベイ講演を行い、領域の確立に向けて情報発信を積極的に行った。
著者
サベジ パトリック 味見 純 藤井 進也 徳井 直生
出版者
慶應義塾大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

Music is a human universal, but there remains little data on cross-cultural musical variation. We will perform a series of experiments investigating global diversity in perception and production of musical 1) rhythm, 2) melody, 3) harmony, 4) language, 5) creativity, and 6) cooperation. In total we will conduct experiments with thousands of musicians and non-musicians from over a dozen countries around the world. Our findings will have implications for understanding the evolution of music and its place in society, including for composers, instrument manufacturers, copyright legislators, etc.
著者
服部 佐智子
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は、これまで申請者が取り組んできた江戸城本丸御殿大奥(以後、大奥と表記)や加加賀藩の大名屋敷の女性の空間における住宅史研究をより深化させ、大名屋敷の奥向にみられる空間構成について、部屋構成、設備空間、室内意匠、使用実態を包括的に捉えることで、大名屋敷の奥向における空間構成の原理を明らかにすることを目的としている。具体的には、近世上層武家住宅における女性の生活空間として、将軍から降嫁があった藩、なかった藩の奥向をそれぞれ取り上げ、大奥や御三家、御三卿、加賀藩の奥向に関するこれまでの研究成果を踏まえた上で、新たに史料調査で収集した各種絵図史料や文献資料を基に、分析を行っている。本年度は、世界を襲っている新型コロナウイルス感染拡大防止のため史料の所蔵先が閉館していたこと及び新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため東京都外への移動を控えたことにより、本来予定していた史料収集のための調査を実施することができなかったため、次年度以降の調査にむけて、オンラインによる、近世日本建築史研究者との研究交流、意見交換を行うとともに、次年度以降の史料調査をスムーズに実行するために、彦根藩、高田藩、米沢藩、松代藩の奥向について江戸上屋敷奥向の各種絵図史料、文献史料について、全体把握を行った。またそれぞれの江戸上屋敷奥向に関する記述史料、絵図を読み解き、それぞれの江戸上屋敷奥向の平面構成の違いに繋がる原理を見出すために、部屋構成、設備空間、室内意匠、使用実態を総合して考察し、上層武家住宅の女性の生活空間の特質について検討を進めている。
著者
濱嵜 真由美 常盤 洋子 齋藤 益子
出版者
宮崎県立看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

「育児期の月経前症候群(以下PMSとする)セルフマネジメント尺度」を作成し,妥当性と信頼性を検討した。対象は0~6歳児を持つ20~44歳の母親である。無記名自記式質問紙を1640名に配布し,878 名から回収し797名を分析対象とした。育児期の月経前症状を測定する48項目から構成された。分析の結果,38項目,5因子の【月経開始前の情緒の不安定感】,【月経開始後の情緒の肯定的変化】,【月経開始前後の夫のサポートの捉え方】,【月経開始前の気力の低下】,【月経開始前の不快な身体的症状】が抽出された。高い信頼性が確保された。
著者
宇賀神 篤
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

1. 高温応答性ケニヨン細胞の応答温度の種間比較本年度は、「高温応答性ケニヨン細胞」がミツバチ科において保存されているか検証するため、ミツバチ科マルハナバチ属でゲノム情報が利用可能なセイヨウオオマルハナバチを用いて、kakuseiホモログを同定し、同様の高温曝露実験を行った。結果、ミツバチと異なり、kakuseiの発現量は38~40℃の間で上昇していた。このことから、キノコ体の高温選択的な応答性は、少なくともミツバチ科内では保存されていることがわかった。一方、セイヨウオオマルハナバチの高温応答性の閾値はミツバチ2種に比べて約6℃低かった。ミツバチとマルハナバチでは通常の生活温度(巣内温度)に約6℃の差がある。応答する閾値との相関を考えると、キノコ体の高温応答性細胞は、本来通常の生活温度から外れた高温時の温度制御に関わる可能性がある。2. 脊推動物と無脊椎動物に共通した初期応答遺伝子の同定kakuseiはミツバチ科昆虫にのみゲノム上に見出されるため、1.で明らかにしたキノコ体の高温応答性の進化的保存性を検証する際の指標としては不適当である。そこで、昆虫種を問わず広く利用可能な初期応答遺伝子の探索を試みた。ミツバチ脳にGABA(γ-アミノ酪酸)受容体の阻害剤Picrotoxinを投与することで神経活動を誘導したところ、脊椎動物で頻用される初期応答遺伝子の1つであるEgr-1のミツバチホモログ(AmEgrと命名)が発現上昇することを見出した。ゲノムデータベースを用いて他種におけるホモログを探索した結果、脊椎動物から線虫にまで広くホモログが見出され、汎用性の初期応答遺伝子として有望であると考えられた。これは脊椎動物と無脊椎動物で同じ遺伝子が神経興奮マーカーとして使用可能であることを示した初の知見であり(Ugajin et al. 2013)、関連学術領域に与えるインパクトは極めて大きいと考えられる。AmEgrの発現を指標にセイヨウミツバチのキノコ体における高温応答性を検証したところ、kakuseiを用いた際と同様に44~46℃の間で発現が上昇した。さらに、46℃曝露時のAmEgr発現細胞の分布パターンもkakusei発現細胞のものと類似しており、キノコ体の高温応答性を強く支持する結果であった。3. 哺乳類培養細胞を用いた高温応答性TRPチャネルの解析哺乳類培養細胞系を用いた解析では、ミツバチTRPチャネルは高温刺激に応答しなかった。近年、昆虫のTRPチャネルは哺乳類培養細胞では正常に機能しないとの報告もあり、ショウジョウバエS2細胞の利用を検討している。
著者
辻 大地
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

報告者は昨年度までに、前近代アラブ・イスラーム社会の性愛観念においては、男性/女性という身体的性に基づく区分よりも、成人男性/非・成人男性という社会通念に基づく区分が重要であったことを明らかにしてきた。本年度執筆した、ジェンダー研究に関する書籍の項目(「同性愛/異性愛」『論点・ジェンダー史学』2021年刊行予定、「中世ムスリム社会の男性同性愛と政治」『ひとから問う世界史―ジェンダー視点から』2022年刊行予定)は、主にこれらの成果に基づくものである。一方で、昨年度から今年度にかけての本研究の成果として、中世イスラーム社会において「同性愛」概念に類似した意識が芽生えていた可能性を見出した。すなわち特定の人物がある時点において、中傷行為における言説上の展開や医学知識の伝播によって、実際の行為の有無に限らず「同性と性愛関係を結ぶ者」として捉えられるようになるという可能性である。これは上記の区分と必ずしも矛盾するわけではないが、先行研究が無批判的に前提としてきたテーゼに修正を迫るものである。この内容は、比較ジェンダー史研究会とイスラーム・ジェンダー学科研研究会の合同研究会(「同性愛の比較文化史」)で比較史的観点から問題提起する報告を行なったほか、関連する内容を含む論文を学術誌に投稿し現在査読審査中である。加えて現在までの研究成果に対して第11回日本学術振興会育志賞を受賞した。3年間の本研究課題によって、当初の計画に則った成果に加え、上記の通り「同性愛」概念の形成過程に関する新たな気づきを得られた。そこで来年度以降は、育志賞の副賞によって採用予定の特別研究員(DC2)として本研究を発展させ、博士論文に結実させたい。