- 著者
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阿久澤 弘
金岡 恒治
- 出版者
- 日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.0353, 2016 (Released:2016-04-28)
【はじめに,目的】着地動作は多くのスポーツに含まれる動作であり,適切に遂行するために多くの筋が協調して活動している。特に後脛骨筋や,長腓骨筋,中殿筋はそれぞれ足関節周囲,股関節周囲の安定性を担っており,動作や姿勢保持に重要な役割を果たしている。姿勢保持のためにそれぞれの筋が協調的に活動し,お互いの機能を補完し合っているとの報告は散見されるが,着地動作中の筋の筋活動開始時間を比較した研究はみられない。本研究の目的は,着地動作中の後脛骨筋,長腓骨筋,中殿筋の筋活動開始時間を比較検討することである。【方法】対象は健常成人男性6名(平均年齢20.6±1.6歳)とした。除外基準は下肢に外傷や疼痛があり,着地動作を行えないものとした。実験試技は片脚着地動作として,高さ30cmの台上で右脚片脚立位をとった姿勢から,台の30cm前方に設置したフォースプレート上に飛び降り,右脚で着地するように行った。試技は5回行い,そのうち3回の成功試技を記録した。被験筋は後脛骨筋,長腓骨筋,中殿筋として着地動作中の筋活動を測定した。後脛骨筋の筋活動測定にはワイヤ筋電図を用いた。ワイヤ電極の刺入は下腿内側近位1/3の位置にて,超音波エコーで筋を描出しながら行った。長腓骨筋と中殿筋の測定は表面筋電図を用いた。筋電図のフィルタ設定はhigh pass 20Hz,low pass 500Hzとし,得られた筋活動データに対して全波整流処理を行った。一連の着地動作のうち身体が宙空にある接地200msec前から接地までの期間を解析し,各筋の筋活動開始時間をintegrated profile methodに基づいて算出した。3回の試技の平均値を各筋の筋活動開始時間として,接地の何msec前から活動を開始したか記録とした。統計解析には一元配置分散分析を使用し,post hoc testとしてBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】各筋の筋活動開始時間は,後脛骨筋が-59.7±28.6msec,長腓骨筋が-70.9±26.6msec,中殿筋が-116.8±22.7msecであった。統計解析の結果,中殿筋の筋活動開始時間は,後脛骨筋,長腓骨筋と比較して有意に早いものであった(p<0.05)。後脛骨筋と長腓骨筋の筋活動開始時間に有意差はみられなかった。【結論】本研究の結果より,着地動作において中殿筋が後脛骨筋,長腓骨筋よりも早期に活動を開始することが示された。中殿筋の機能が不十分だと片脚立位時の足圧中心偏位量が増加するとされている。また,中殿筋の疲労が起こると着地時に長腓骨筋の筋活動量が増加し,筋活動開始時間も早くなるとの報告もある。それらのことからも,身体重心に近い中殿筋から筋活動を開始し,近位部分を安定化させることで,下肢全体の安定性を向上させていると考えられる。臨床的にも,足部の安定性改善を図る場合,中殿筋などの股関節周囲筋も含めた運動が行われているが,その理論的な根拠の一つとなる結果が示唆された。