著者
中島 弘二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.708-733, 1989-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
52
被引用文献数
3 3

生産活動をめぐる人間一環境関係研究は,もっぱら物質文化や生業活動の問題として文化地理学において取り扱われてきた.しかし Cosgrove (1978)が指摘するように,人間一環境関係とは文化から文化景観への一方向的流れとしてではなく,知と存在との,そして認識と実践との弁証法的関係としてとらえられるものである.本稿は近代阿蘇山麓の牧野利用の分析を通して,そうした弁証法的人間一環境関係を明らかにすることを試みた.その結果,牧野をめぐる社会変化が生態・社会両システムのシステム間関係に依存しているということ,そしてそうした関係が稀少性のさ中での共同主観化された意識と実践との弁証法的展開過程であることが明らかとなった.それは単に研究対象の問題のみにとどまらず,人問一環境関係という問題を設定する地理学者自身の認識論的プロブレマティックにかかわる問題である.
著者
柳原 良江
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.12-21, 2011-09-25 (Released:2017-04-27)

代理出産の是非に対する議論を深める上では、まずは現在の混乱の根元に横たわる倫理的な問いに対峙する必要がある。本稿の目的は、代理出産の展開に対する歴史的経緯と、その認識枠組みに対する変遷をたどり、この問いを明確化することである。他者に依頼して子を産ませる行為は、洋の東西を問わず、複数の文化の中に存在していたが、それらはキリスト教に影響された性規範や、近代的な人権意識によって次第に廃止され、代理出産のニーズは存在しつつも不可視化された状態にあった。1976年以降、米国でノエル・キーンをはじめとする斡旋業者が、この行為を科学の進歩主義や、身体の自律を謳う一部のフェミニズム思想など、近代的な枠組みの中で再提示したことを契機に、この行為に対する要請は再び表面化し、現在では装いを新たにした代理出産が、広く用いられている。こうした歴史的展開から、代理出産の根底にあるのは、他者の身体を利用する行為に対する倫理的問いであると言えよう。
著者
村田 健介 岡本 健 池上 さや 川崎 喬彬 唐津 進輔 近藤 豊 松田 繁 田中 裕
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.307-309, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
5

家庭常備薬の「正露丸」を200錠内服し, 木クレオソート中毒に至った1例を経験した。症例は67歳の女性で, 原因不明の意識障害で当院に救急搬送された。意識レベルはGlasgow Coma Scale E3V1M4であり, 気管挿管し入院とした。CTや血液生化学検査で明らかな意識障害の原因は断定できなかった。第2病日に意識が改善し, 入院前日に下痢症状に対して正露丸を200錠内服したことが判明した。第5病日をピークとした軽度の肝逸脱酵素の上昇が出現したが改善し, 第6病日に精神科に転科となった。正露丸は日本において家庭常備薬の下痢止めとして長年親しまれている薬である。その主成分は木クレオソートであり, 大量内服症例では木クレオソートに含まれる少量のフェノールによる嘔吐や血圧低下, 意識障害, 遅発性肝障害等の症状が出ることがあり注意が必要である。
著者
佐々木 淳 岡田 啓司 佐藤 至 佐藤 洋 千田 広幸 大谷 久美子 池田 光秀 池田 美喜子 山本 幸男 渡部 典一
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故から1年が経過した頃より、福島県の帰還困難区域内で飼育・維持されている黒毛和牛の皮膚に白斑がみられはじめ、放射線被ばくの影響が懸念されたことから、その原因究明のため調査・研究を行った。白斑は頭頚部、体幹部、四肢などほぼ全身で認められた。白斑の大きさは直径1cm程度であり、白斑部では被毛の白色化とともに皮膚が肌色に退色しているものもみられた。皮膚生検による組織学的検索では、病変部に一致してメラニン色素の減少・消失とメラノサイトの減数が認められた。本研究結果より本病変は尋常性白斑と診断され、原因はメラノサイトの減少と活性低下の可能性が示唆された。
著者
埴原 和郎
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.265-269, 1974-02-28 (Released:2009-08-21)

In this paper, the author discussed man's adaptation to the cold and formation of the northern Mongoloids in the light of human adaptability to the climatic conditions.It is widely known that the mammals generally show several adaptations to the climate, among which the most effective factors seem to be the light and the temperature. For instance, in the field of mammalian ecology, the rules proposed by GLOGER, BERGMANN and ALLEN are generally accepted, and they can be also applied on microevolution of the human populations to some extent. Thus, it is said that the Caucasoids have adapted to the cold and moist climate with low radiation of ultraviolet rays, and the Negroids to the environment with high temperature and excessive radiation of ultraviolet rays. In parallel to this, the Mongoloids are regarded as having adapted to the very low temperature and dry weather.However, adaptation in this direction has likely occurred in or just after the latest stage of the Upper Paleolithic, because the Mongoloids from this stage such as the Upper Cave Men show almost no evidence of adaptation to the extremely cold temperature.In this respect, the modern Mongoloids living in the arctic areas may be regarded as the people who acquired their adaptability to the cold in relatively recent stages of evolution. On the other hand, we can find some other populations who retain more or less archaic characters of the Mongoloids in peripheral areas of the Asian and the American Continents, and even in the sub-arctic areas.For instance, the Ainu has so far been attributed their origin to the Caucasian stock. Several recent findings on their blood composition, dermatoglyphics and dental characteristics, however, show close affinity to the Mongoloids.On the other hand, the Ainu still shows unique characteristics in quite rich beard and body hairs, relatively thin subcutaneous fat, partially projected facial bones, etc., and these characteristics do not show high degree of adaptability to the cold climate.On the basis of these fact, it is quite likely that the Ainu might be one of branches of the Mongoloid stock who has less experience to live under the extremely cold environment, and still retains some archaic characters compared with the neighbouring populations. Naturally, this hypothesis should be checked by several other data from the fields of anthropology, prehistory, geology, and other related sciences.
著者
村上 優
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.201-205, 2000-05-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
8

近年薬物依存・乱用の状況は深刻さを増しており, とくに覚せい剤は第三次乱用期を迎えているといわれる. 一方, 臨床の現場で出会う薬物依存は覚せい剤や有機溶剤が主であるとしても, 依存している薬物は多様となってきている. 精神科以外の一般科でも遭遇する医師の処方する薬物や, 薬局で市販されている薬物への乱用・依存について論じた. 薬物関連問題を表現する用語として乱用, 急性中毒, 依存, 慢性中毒があり, ただしく使い分けるべきである. 睡眠薬, 抗不安薬および鎮静剤の依存は, 不眠や不安, または鎮静を目的として使用する薬物は大別すると, プロム剤, バルビツール酸剤, 非バルビツール酸剤, ベンゾジアゼピン系剤(BZ系剤と略)に分けられる. なかでもBZ系剤はその効果と安全性より広く用いられるようになった. BZ系剤の依存については高容量依存と常用量依存, さらにはアルコールやその他の薬物との併用による依存と3型に分類して検討をすべきである.
著者
奥田 健次
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.2-12, 2006-08-31 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
5

研究の目的:高機能広汎性発達障害をもつ不登校児童の保護者に対して登校行動を形成するための行動コンサルテーションによるサービスの効果を検討した。研究計画:被験者間マルチプルベースラインデザインと基準変更デザインの組み合わせを用いた。場面:大学附属の心理相談室とプレイルームにて実施した。対象者:2名の高機能広汎性発達障害をもつ不登校児童とその保護者を対象とした。介入:それぞれの不登校児童について直接的な行動観察と、保護者や学校からの聞き取りによる生態学的アセスメントに基づいて、トークン・エコノミー法と強化基準を段階的に変更していく支援を実施した。行動の指標:登校から下校までの学校活動への参加を、学校参加率として測定した。結果:介入後、両名とも学校参加率が増加し、介入2以降、100%の学校参加率が続いた。結論:トークン・エコノミー法を利用した行動コンサルテーションによる支援において、対象児童や対象児童の母親、学校場面の生態学的アセスメントに基づく支援プログラムの作成と実施が重要であることが示された。
著者
道上 達広 長谷川 直 春山 純一
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.225-232, 2015-09-25 (Released:2017-08-25)

月や火星には深さ・直径共に数10mから100mにおよぶ縦孔が近年,探査機によって多数観測されるようになった.また縦孔の中には,地下空洞に開いた「天窓」であることが確実なものもある.こうした縦孔は,科学的に多くの興味があるとともに将来的に人類が月や火星に進出したとき,長期滞在に適する基地として有望な場所でもある.月の大きな縦孔については,地下空洞の天井に隕石衝突が引き金となって形成された可能性が示唆されている.本研究では,月に見られる楕円形の大きな縦孔が,隕石の斜め衝突によって形成された可能性を,実験的研究によって明らかにした.
著者
高倉 祐樹 中川 良尚 橋本 竜作
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.316-320, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
13

臨床現場に出て数年の初学者にむけ, 失語症状に対する分析的な視点と, 失語症状の長期的な回復を考慮した視点から, 失語症者本人とその家族への対応について述べた。第 1 章では, 失語症状のメカニズムを推定し, 治療的介入の手がかりを得るためには, 数量的な評価 (正答数) だけでなく, 質的な評価 (誤りの特徴) が重要であることを解説した。第 2 章では, 病棟で受ける失語症者と家族からの質問に, どのように答えるのか, 専門家として寄り添いつつ, 納得を得るための対応について解説した。
著者
南浦 涼介 石井 英真 三代 純平 中川 祐治
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.85-95, 2021-03-31 (Released:2022-04-01)
参考文献数
16

これまで多くの場合,評価という形で捉えられてきたものは,それが評定目的であっても,改善目的であっても,基本的には「個人」を対象にし,その能力の判定や形成を如何に目的に合う形でおこなうかという点では,発想は共通していた。しかし,近年のオルタナティブアセスメントの議論を見れば,評価は決して「個」を単位に「数値化・指標化」していくだけではなく,「共同体」を単位に「物語化」していく観点も見ることができる。 本稿では,こうした流れをうけて,評価という営みに教育としてどのような可能性があるのかを論じ,評価概念の再検討を試みる。そして評価について,1)実践共同体の関係性の構築を単位とすることができる点,2)事例をめぐる当事者間の対話による間主観性を生み出す物語の構築が重要である点,3)「評価する」という行為とそれをなす場の存在自体が,新しい学びやつながりを生み出す創発性を有する点,を論じていく。 また,具体的事例として学びの対象者が「外国人」であることから,個人の学習や発達の保障と個人をめぐる社会関係の構築や共同体への参加が不可分な関係にある日本語教育を事例とする。その事例から,上述の「共同体の実践の物語化」がいかにして評価の側面を生み出し,またそこにいかなる価値が見いだされるのかを具体的に見ていきたい。
著者
石井 知子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.23-38, 1956 (Released:2023-07-29)

The library movement in Meiji produced three same-titled works “Toshokan Kanrihô” by Chikuken Nishimura and Inagi Tanaka, which appeared at about ten year’s interval. Examining these, it may be concluded that European & American library techniques which were introduced since the beginning of Meiji had been transplanted here in Japan already by this time they were written. This article composes these works each other and discusses the Meiji library movement.