著者
副田 義也 藤村 正之 畠中 宗一 横山 和彦 本間 真宏 岩瀬 庸理 樽川 典子 岡本 多喜子
出版者
筑波大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

戦後日本における社会保障制度の研究を、毎月二つずつ主題をさだめ、研究代表者の統括のもとで、研究分担者二人がそれぞれの研究をおこない、代表者、分担者全員参加の研究会でこれを発表し、討論をしてもらい、まとめてきた。今年度の毎月の主題はつぎのとおりであった。4月、近代国家の形成と内務省の行政/『厚生省50年史』の作成について。5月、内務省の衛生行政/『厚生省50年史』の作成について(2)。6月、内務省の社会行政、労働行政、社会保険行政/社会保障研究の諸論点。7月、厚生省の創設と厚生行政/戦時体制下の厚生行政。9月、戦時下の衛生行政と社会行政/施設内文化の研究。10月、戦時下の労働行政と社会保険行政/『厚生省50年史』の編集について。11月、戦後復興期の厚生行政/『厚生省50年史』の編集について(2)。12月、戦後復興期の衛生行政/占領政策と福祉政策。1月、戦後復興期の社会福祉行政/社会福祉史の研究方法について。2月、戦後復興期の社会保険行政/老人ホーム像の多様性と統一性。3月、高度成長期の厚生行政(予定)。以上をつうじて、総力戦体制がわが国の福祉国家体制の厚型をつくったこと、明治以後の内務行政と敗戦以後の厚生行政に一部共通する型が認められること、衛生、労働、社会保険、社会福祉の四分野の進展に顕著なタイム・ラグがあることなどがあきらかになり、それぞれの検討が進みつつある。
著者
岸川 正大 島田 厚良
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

心身障害児(者)は「早く年をとる」とも言われ、剖検例でも脳を含めて老化の徴候とも言うべき年齢不相応な形態学的肇化がしばしば見られる。そこで、愛知県コロニー脳及び組織保存機構に登録されている症例を含めて、10歳代18例、20歳代8例を含む15歳以上の36症例について、海馬、海馬傍回、青斑核でのAT8陽性の過剰リン酸化タウ蛋白(NFT、Neuropile threads)、抗ユビキチン抗体陽性像、ストレス蛋白(αBクリスタリン、Hsp27、Hsp70)の発現頻度などを検討した。その結果、AT8陽性像は10歳代でも16.7%、30歳代は50%に、40歳を過ぎるとほとんどの症例に過剰リン酸化タウの蓄積が見られた。福山型筋ジストロフィー症など、NFTが早期から出現することが知られている疾患を除外しても、10歳代で6.3%、20歳代で43%にAT8陽性像を認めた。また、抗ユビキチン抗体陽性像はAT8の所見に類似した像を呈する一方で、神経原線維変化とは別に雪の結晶類似の構造物(仮称:UPSS=Ubiquitin Positive Snow-like Structure)が広範に散見された。その本態はMicrogliaなのかSwollen oligodendrocyteなのかの鑑別が今後の検討課題として残った。一方、これら異常タウやUPSSなどが出現している症例でも老人斑は全く認められず、一般に見る高齢老人の脳とは少々異なっていた。また、αBクリスタリンは陽性像が見られるものの、Hsp27、Hsp70ではほとんど陰性で、症例の積み重ねと生化学的検索が必要である。
著者
岸江 信介 中井 精一 佐藤 高司
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

大都市圏言語が近隣の地域言語にどのような影響を及ぼしているかを探るため、東京、名古屋、大阪各周辺地域において様々な角度から言語調査を実施した。群馬各地で行った新方言調査では東京若年層とほぼ同じ傾向が独自に進んでおり、名古屋近郊の大垣市調査においても名古屋の影響が大きく、さらには富山など北陸地方へと広がりつつあることが判明した。大阪からの影響としては四国地方の中でも特に徳島への影響が大きいことが諸調査から明らかとなった。
著者
杉浦 直人 幸田 泰則 高橋 英樹 河原 孝行
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、絶滅危惧種レブンアツモリソウの生物学的特性を解明し、その研究成果を効果的な保全管理・指針の実施に反映させることである。また、自生地の再生に用いるのに適した株の供給技術の開発もめざす。さらにカラフトアツモリソウとの交雑に関する現況調査も実施する。以下、4年間の調査研究によって得られた成果の概要を記す。1.マルハナバチ媒花としてのレブンアツモリソウの花の特性を明示するとともに、その結果率および稔性種子率に関するデータ解析等から送粉者としてのニセハイイロマルハナバチの能力についても評価した。また、この送粉昆虫にとって、ヒロハクサフジなどのマメ科草本が花資源として重要なことも解明した。2.生育地の立地や植生等に関する知見、たとえば、低標高で北西斜面の、比較的水はけの良い土地を好む、あるいはマイズルソウなどが共存種として頻出するなどのレブンアツモリソウの生育環境に関する共通項を解明した。また、花形態の解析や標本調査等から、その分類学的位置についても考察を加えた。3.レプンアツモリソウ個体群の遺伝的多様度を求め、地域集団問に大きな相違がないことを明らかにした。さらに、カラフトアツモリソウとの間に雑種が生じており、このまま放置すれば雑種化が進行してしまう危険性があることも指摘した。4.自生地の復元に最適な株の供給を可能にする共生発芽法の技術を確立し、この方法を用いて開花株を得ることにも成功した。また、菌との共生系の実態を解明するとともに共生菌の分類学的検討も行い、その由来が樹木の外生菌である可能性を示唆した。これらの諸知見は、現存自生地での保全管理にとどまらず、自生地の再生・復元を行なう際にも有益と考えられた。
著者
井口 壽乃 児玉 幸子 伊原 久裕 井田 靖子 山本 政幸 暮沢 剛巳 佐賀 一郎
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

視覚文化におけるデザイン資源に関する本研究では、国内外のデザイン・アーカイヴの調査を行った。視覚デザインの生産物、すなわち写真・映像、活字、タイポグラフィ、ピクトグラム、アイソタイプ、アイコン、ディスプレイなどは、デザインの潮流を生み出すデザイン思想やICOGRADAなどの国際組織と深い関わりがある。デザイン創造行為と生産物は、国際デザイン組織ICOGRADAを通じた人的交流によって世界規模で拡大・発展した。さらに新たなデザイン思想を構築し、継承と還流を繰り返していることが解明された。
著者
岩崎 均史 小林 ふみ子 桑山 童奈 田沢 裕賀 大久保 純一
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

浮世絵版画では、大小(摺物・暦)制作及びその交換で、明和二年の交換会により、錦絵と称される多色摺が完成することは定説である。だが、錦絵誕生期以外の大小に関して研究されたことはごく少ない。これは、まとまった大小の作品を見る機会を得ることが困難だったことに原因がある。本研究は、国内最大の貼込帖である東博蔵「大小類聚」の大小のデータ採取し、作品名(仮題は付与)・解読・翻刻・分析・分類・大小の特定などをまとめた目録とし、加えて本研究進行中に生じた新知見、情報も適宜加えたその有用性を発信することを目的としたデータベースを研究者に公開する。これにより研究者に不足していた情報が提供可能となり、大小の活用が図られる。現在までに完了した作業での主要データ採取項目は、①摺・写の判別:摺物(版画)が筆写を含む肉筆か、またはその混合かを判別。②作品名:文字のある場合はあるがままで採取、ない場合は課題付与。③画題特定:明確なもののみとし、推定はメモ程度にとどめる。④注文主特定:記名・印章などから判定。⑤絵師特定:落款・記名で判定、画派などの推定はメモ程度にとどめる。⑥印章等判読:印章や花王など、作品に何らか関係する人物のもののみ判読、⑦採寸確認:以前採寸したものと、異なるような場合再度採寸する(通常、縦×横㎝)。⑧大小の探索:大の月、小の月がどのように配されているか確認、貼込帖の表題年代との錯誤確認。⑨文字の翻刻:配された文字をあるがまま採取し翻刻。現在、全冊の仮データベースの入力をしつつ、データ内容の確認作業を行っている。早期にこの作業を継続終了させ、撮影された画像と合わせて、逐次共同研究者の手元に送信し、内容の確認と合わせ、各分野の専門的視点を加えた検証を加えていく。
著者
廣岡 孝志
出版者
北陸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

メチル水銀中毒(水俣病)の脳傷害の局在性は,脳浮腫形成とそれによる二次的な循環障害に起因するとされる。しかしながら,メチル水銀による脳浮腫形成の分子機構は不明であった。申請者は,メチル水銀が,脳微小血管を構成する内皮および周皮細胞に対して特徴的な毒性を発現することを明らかにした。この結果は,メチル水銀が脳微小血管構成細胞の機能障害を介して脳浮腫を発生させる可能性を示すものである。
著者
吾妻 重二 三浦 國雄 陶 徳民 湯浅 邦弘 二階堂 善弘 藤田 高夫 澤井 啓一 井澤 耕一 藪田 貫 原田 正俊 増田 周子 篠原 啓方 西村 昌也 于 臣
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

東アジア地域、すなわち中国、韓国・朝鮮、ベトナム、日本など「漢字文化圏」といわれる諸地域における伝統教養の形成と展開を、書院・私塾における教育と講学機能を通して学際的に考察し、多くの論文、図書を公刊した。他の個別作業としては、朱熹の書院講学の記録『朱子語類』の訳注を作成し、さらに大阪の漢学塾「泊園書院」およびその蔵書「泊園文庫」を調査して『泊園書院歴史資料集』や『泊園文庫印譜集』などを公刊するとともに、充実したコンテンツをもつ「WEB 泊園書院」を公開した。
著者
光武 範吏 高村 昇 サエンコ ウラジミール ログノビッチ タチアナ 高橋 純平
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

昨年度に試料の収集のための業務委託契約を結んだベラルーシのミンスクがんセンターだが、その後も順調に収集が進んでいる。ミンスクにある長崎大学代表部を通して、事務手続きも問題なく行えている。昨年度同様、現地にてフォローアップ中の患者をリクルートし、採血した血液よりリンパ球を抽出、長崎大学へ輸送している。その後、長崎大学においてDNA抽出を行い、ほぼ全てのサンプルで質・量とも問題なくDNAを得ることができている。一部、検体不良のサンプルがあったが、情報をフィードバックし、プロトコールの確認作業を現地で行った。本年度は100例を収集し、予定通り順調に進行中である。本年度はまた、ベラルーシ、ブレスト州の内分泌疾患センターを訪問した。この地区は、検診受診数、甲状腺癌患者のフォローアップ数が多く、上記ミンスクがんセンターとは協力関係にある。担当医に研究の趣旨を説明し、同センターを通した試料収集への協力を依頼した。また、モスクワの内分泌センターを訪問し、講演を行った。センター幹部との現地打ち合わせも行い、ここでも協力を依頼した。さらにオブニンスクの医学放射線研究センターへも共同研究者を派遣し、打ち合わせを進めた。甲状腺癌発症に関連する一塩基多型については、解析対象についてのデータ収集と検討を引き続き行っているが、本研究課題で想定していた350-400例程度では十分な検出力が得られないものもあることが分かり、解析対象について当初より拡大するためには、今後の収集数の再検討も考慮する必要があると考えられた。
著者
伊吹 裕子
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

多環芳香族炭化水素(benzo[a]pyrene(BaP))と紫外線(UVA)の免疫機能への複合的影響を検討するにあたり、まず培養細胞(ヒト正常皮膚細胞、ヒト白血病細胞)さらに、DNA修復に関与する分子Ku80の欠損株(CHO-K1,xrs-5)を用いてin vitroにおけるその影響を検討した。BaP、UVA単独では影響が認められないが、それら2つを複合作用させると非常に強い毒性が認められた。xrs-5細胞ではCHO細胞に比べ有意な毒性の亢進が認められたことから、BaP, UVAの複合作用によりDNA二本鎖切断がおこっていることが示された。また、発がんの代表的な指標とされる酸化DNA、8-oxo-dGの産生が有意に上昇していた。これらの結果は、BaPとUVAの複合的影響による細胞毒性上昇から免疫能低下の可能性を示唆するばかりでなく、DNA損傷からの皮膚発がんの誘発を示唆するものであった。そこで、マウスを用いたin vivo実験を行った。マウス背中皮膚にBaPを塗布後、さらにUVAを照射し、その後の免疫能の変化をDNFBを抗原とする遅延型過敏症contact hypersensitivity (CHS)の誘導能を指標に検討した。BaP、UVA単独ではCHSの誘導能は変化無かったが、複合処理では明らかなCHSの低下を示した。その低下は、照射側および照射側とは逆の腹側にDNFBを塗布した場合両方とも引き起こされた。さらに、DNFBを接触させる時間をBaP, UVA処理後1,3,5日間と変化させると、1日後よりも3,5日後の方が強いCHS誘導の低下を示した。しかしながら、BaPとUVAの処理回数を複数回に増やしても、CHSの誘導能の低下の度合いは変化しなかった。以上の結果は、BaPはUVAと複合的に働くことにより強い免疫低下を誘導すること、その低下は局所にとどまらず、全身性の低下をも引きおこすことが判明した。また、影響は少なくとも照射後5日間は継続することが示された。
著者
林田 直美 高村 昇 鈴木 眞一 南 恵樹
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

福島県では、福島第一原子力発電所事故後、小児を対象とした甲状腺超音波検査が行われている。この検査では、約半数の小児で小さな結節やのう胞が認められているが、小児における甲状腺所見の頻度についての報告はないため、日本人一般における甲状腺超音波検査を行った。その結果、対象者の約半数に甲状腺のう胞が認められ、結節は0.7%にみられ、福島県と同様の頻度であった。成人での調査では、これより多い頻度で結節を認めた。甲状腺を4年間観察したところ、大半の小児でのう胞の有無や大きさが変化することがわかった。
著者
高村 昇 松田 尚樹 林田 直美 中島 正洋 折田 真紀子 柴田 義貞
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故では、放射性ヨウ素の内部被ばくによる甲状腺がんの増加が認められたが、それ以外の疾患については増加が認められていない。一方2011年の福島第一原子力発電所事故後、初期の食品管理によって内部被ばくの低減化が図られたものの、住民の間には放射性ヨウ素や放射性セシウムの内部被ばくによる健康影響への懸念が広がった。今後甲状腺がんのみならず、甲状腺の良性疾患に対する不安が広がることも予想される。そこで本研究では、チェルノブイリにおける放射性ヨウ素の内部被ばくによる甲状腺良性疾患の増加があるかどうかについて、疫学研究を行った。
著者
小畑 弘己 小林 啓 中沢 道彦 櫛原 功一 佐々木 由香
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

各研究目的ごとに以下のような実施状況と成果があった。1.圧痕調査・軟X線・X線CTによる調査:北海道館崎遺跡・鹿児島県一湊松山遺跡・千葉県加曽利貝塚・宮崎県椨粉山遺跡をはじめとする縄文時代を中心とした10遺跡で圧痕調査を実施し、一部は軟X線・X線CTによる調査を実施した。栽培植物の地域的な偏りと種実混入土器の発見などが成果として挙げられる。とくに北海道館崎遺跡では、縄文時代前期末のヒエ入り土器と同後期のコクゾウムシ入り土器を検出でき、これらを報告書に掲載した。潜在圧痕を含む混入個数およびその意義については、論文(英文)投稿・作成中である。2.土器作りの民族調査による土器作り環境と種実・昆虫混入のメカニズムの研究:タイ北部の土器作りの村を訪ね、土器作り環境の調査と試料採集を行った。土器作りの場において穀物の調理屑や家屋害虫が混入する可能性を実物資料によって検証することができた。現在論文作成中。3.X線CTによる種実・昆虫圧痕の検出技術の開発:埼玉県上野尻遺跡におけるオオムギ圧痕候補について軟X線およびX線CTにより撮影・観察を行い、オオムギでないことを検証した。伊川津貝塚のアワ入り土器を軟X線・X線CTで撮影し、その個数を検証した。4.食以外の種実利用・家屋害虫拡散プロセスに関する研究:2本の論文(邦文・英文)を作成し、公開した。5.土器編年(縄文時代晩期)の整備:大陸系穀物圧痕を有する九州地方の晩期土器の調査を行い、編年的な位置づけを行った。これら成果に関しては、その一部を12月に明治大学で開催した研究公開シンポジウムを通じて広く一般の方へも公表した。その他、一般図書や雑誌において、圧痕法研究に関する最新成果を公表した。
著者
松井 正文 西川 完途
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-11-18

止水産卵性種からみたボルネオ産両生類多様性の起源を探るため、ボルネオ島と、その周辺地域についての野外調査・標本調査を行い、形態・音声・分子に基づく系統分類学的な解析を行った結果、アオガエル科、ヒメアマガエル科の一部で高度の固有性が認められたものの、総体的にはボルネオ産の止水性両生類種は流水性種ほどの分化を示さないことが分かった。これはボルネオ島が本来、山地森林に被われていて、低地性の止水性種の生息に適した範囲が限られたためであろう。数少ない固有種は古い時代の侵入者と思われるが、それらの近縁種はスマトラ-ジャワに見られることから、大陸からスンダ地域へ古い時期の進出には2経路あったと推定される。
著者
大西 晶子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

29年度は28年度中に実施した調査を継続、またその結果を分析して学会などで報告を行うとともに、研究論文にまとめ学術誌への投稿を行った。まず、28年度中に実施した留学生を対象としたインタビュー調査等の結果をまとめ、学会で成果を発表し、研究論文にまとめた(掲載決定済み)。また質的調査を踏まえて、留学生向けのキャンパス多文化風土評価尺度を作成し、日本語、英語、韓国語、簡体字、繁体字版の多言語版への翻訳作業を行った。翻訳版の内容の等価性を確認のちに、留学生を対象としたパイロット調査を実施し、尺度としての有効性を確認する作業を進めている。次に、留学生を対象としたインタビュー調査より、大学の組織としての対応体制が、キャンパスの風土形成に強く寄与することが予想されたため、国立大学の留学生支援体制に関して調査を実施した。中でも、学生のニーズやニーズの変化を各大学がどのように把握しているのかを明らかにするために、各大学の学生調査の実施状況に注目し、その特徴を検討した。その結果、留学生等の少数派の学生のニーズの把握を可能とするような全学的な調査実施体制は十分に整備されていない状態が確認できた。調査結果を整理し、学術誌に投稿を行った(掲載決定済み)。これら国内の関係者を対象とした調査結果と並行して、28年度に延期していた国外大学の訪問を行った。訪問先を、日本同様にアジア出身の学生を多く受け入れているが、日本とは異なる学生支援の体制を整備している豪州の大学とし、関係者の聞き取り調査を実施した。
著者
加藤 毅
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、昨年度に引きつづき、人的資源管理論や大学マネジメント、大学職員論をめぐる新動向や政策展開などに関する先行研究や文献等のレビューを継続実施すると共に、優れたマネジメントを実践している大学役職員を対象とするインテンシブなインタビュー調査を継続実施した。初年度に実施したアンケート調査と継続的に実施しているインタビュー調査を通じて得られたデータを分析することにより、 昨年度までの作業を通じて構築したホワイトカラー総合職モデルをベースとして、大学職員の成長プロセスをモデル化するとともに、SDのあり方も含めて育成のための枠組みについて検討を行った。一般職員、初級管理職ともに、現状は定型作業と習熟業務のみで仕事のおよそ70%を占め、自身の知識やスキルとの比較で難度が高いと答えるものはわずか16%という低い水準にある。しかしながら、状況に甘んじることなく仕事の質を高めようと努力する者も一定割合存在する。そこで行われているのが、①業務改善行動、②IR活動、そして③人間関係構築である(中分類)。さらにその延長線上に、高度の仕事(プロジェクト)を自らの手で作り出すという可能性も開かれている。我が国の大学職員には、ルーティンワークに埋もれることなく、自身の努力と成果次第でさらなる成長にむけて前進する道が開かれており、多くのハイパフォーマーはこの道を通って生まれてきているのである。さらに、そこで実現している高度業務について、①タスク完結性の高い課題選択、②技能多様性の高い業務デザイン、そして③リーダーシップの高度化、という三つの次元から構成される構造モデルを構築した。さらに、これらのモデルの妥当性を検証すると同時に発展的なインプリケーションを得ることを目的として、新規アンケート調査の設計作業に着手した。
著者
吉田 文 杉本 和弘 杉谷 祐美子 姉川 恭子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2017年度は、国内調査と香港の訪問調査を実施した。国内調査は、国内4年制大学を対象に、過去15年程度のタイムスパンにおける教養教育の改革状況に関し、カリキュラム面と実施組織の両面からの改革状況を中心にしたアンケート調査を実施した。これは2003年に実施した調査と後継であり、ある程度同じ質問項目を用い、経年比較することを目的とするものである。その結果、カリキュラム面では、教養教育における大学教育への適応支援の科目がさらに増加し、教養教育が高校と大学との接続のための教育として用いられていること、他方で、2003年度調査では専門教育の学際化が進んでいたが、今回はむしろ専門教育の高度化が目指されていた。組織面では、教養教育の実施担当組織を設ける大学が増加傾向にあり、大綱化からの揺り戻しが生じているようである。香港調査では、香港大学、香港中文大学、香港科学技術大学、嶺南大学を訪問し、2012年の大学の4年制化にともなって導入が義務付けられた一般教育がどのように機能しているかについて、関係者へのヒアリングを実施した。導入の決定は2008年になされたが、4年間の猶予のなかで、どの大学もアメリカ、イギリスなどの大学を訪問し、どのような一般教育を構築するかの研究がなされて、どの大学も学際的カリキュラムの構築に注力されたこと、一般教育を担当を促進するために、departmentへの割り当てとともに担当することに対する補助金の付与を行い、インセンティヴを高める工夫をしていることが明らかになった。教員に対する一般教育担当のインセンティヴを高める方法は大学によって異なるものの、この工夫が一般教育の定着に寄与していると考えられる。
著者
村澤 昌崇 羽田 貴史 阿曽沼 明裕 白川 優治 藤墳 智一 立石 慎治 安部 保海 堀田 泰司 大場 淳 渡邉 聡
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

今年度は以下の研究を進展させた。①大学組織に関する基礎研究の一環として、昨年度に引き続き、Bess&DeeのUnderstanding College and University Organizationの翻訳勉強会を進めた。②所属組織保有の過去の調査データをマージして二次分析に生かすための検討を行った。併せて東洋経済新報社刊『大学四季報』のデータを購入し、東洋経済新報社とのコラボレーションにより、大学の外形特性と生産性・競争的資金獲得との関係に関する計量分析を行い、2018年2月2日RIHE公開セミナーにおいてその成果を報告した。③方法論の見直し・新手法の適用可能性を検討し、その成果を分担研究者との連名で高等教育学会編『高等教育研究』の依頼論文(2017年6月刊行)、研究協力者との連名でディスカッションペーパーシリーズ(広島大学高等教育研究開発センター刊)として刊行した。④研究分担者により、大学の機能最適化に関する数学モデルで用いられる機能分化指数を用い,カリフォルニア及びニューヨークの大学群の機能の経年変化の分析を行い,UC Berkeley 公共政策大学院高等教育研究センターのリサーチペーパーとして発表した。⑤研究分担者により、大学組織の基本単位である学部に着目し,特に改組を行った人文社会系学部を取りあげ,当該学部の教員構成を分析した。その成果は、2017年度の日本高等教育学会にて報告された。⑥研究分担者により、シンガポールの高等教育の将来像を示す「SkillsFuture」政策およびシンガポール工科大学(SIM)の過去10年の発展の経緯と今後の戦略についての情報収集を行った。さらに、フランスにおける大学組織の在り方や統合・連携等についての調査研究を行い、大学の統合・連携の進展が進行しつつあり、全ての大学が統合又は地域毎に連携しなければならないことが明らかになった。
著者
丸山 文裕 両角 亜希子 福留 東土 小林 雅之 秦 由美子 藤村 正司 大場 淳
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

大学へのファンディングと大学経営管理改革との関係を検討するのが本研究の目的である。平成29年度は、一つには、日本において大学へのファンディングの方法の変化が、大学での研究生産性に及ぼす影響を考察した。大学へのファンディングは、国立大学への運営費交付金など基盤的経費の削減と、他方科学研究費補助金などの競争的資金の増加にシフトしているが、それが研究の生産性にマイナスの効果を持つことを、専門分野の異なる全国の大学の研究者にアンケート調査することによって得られたデータにより証明した。また平成29年秋の参議院選挙まえに突如争点となった自民党や有識者会議「人生100年時代構想会議」等が主張する教育無償化について、それが高等教育機関の経営管理に対する影響も含め、検討した。教育無償化案は、大学進学者や大学経営にポジティブな影響をもたらすものと推測されるが、一方で政府財政の立て直しや、大学に配分される研究費にとって、必ずしもポジティブな効果をもたらさないことを論じた。消費税増税分の一部を無償化に回すことで、国際公約となっている公的債務削減が遅れ、政府財政の健全化に支障をきたすこと。また文教予算のうち高等教育無償化を推進するため、日本学生支援機構への奨学金事業費が増加するものの、その分国立大学運営費交付金および私立大学への経常費補助金が削減される可能性があること、の2つが危惧される。以上2つの研究成果は、論文として平成29年度に公表した。
著者
瀧本 知加
出版者
東海大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、当初予定していた「専門学校化」言説に関する資料収集を一通り終わらせたうえで、専門職大学に関する検討を通して、大衆化した大学と専門学校化の関係性を検証する作業を行なった。専門職大学に関しては、本科研の助成期間内である平成28年度に提出された中教審答申「人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について」の中で、新たな大学として、制度化が提起され、学校教育法が改正されることとなった。専門職大学は既存の専門学校の教育を大学に格上げする形で設計された大学であり、その制度化の議論においては、大学における職業教育と専門学校における職業教育の関係について詳細な議論が行われている。この議論は本科研の課題ともかかわる重要なものであるため当初の作業に加えて、これら専門職大学をめぐる議論の検討を試みることとなった。本年度はそれらの作業をまとめた論文を執筆することができた。専門職大学をめぐる議論からは、大衆的な大学に求められることとなっている職業教育機関としての役割が、実際には多くの大学の中に様々な形で取り込まれており、専門学校との境界線がすでに曖昧となっていることが明らかとなっている。専門職大学は専門学校が大学化したものとして整理できるものであるが、その制度設計は「大学との差異化」を目指しており、本科研が解明を目指す「大学とは何か」という問いの解明の手がかりとなるものである。以上のように、当初の研究予定に加える形で、専門職代が区の検討を行なっているところであるが、補充的な情報を得ることができており、本科研の最終段階である「教育機関としての専門学校と大学の関係の再定位」に向けた資料の収集と検討は順調に進んでいるといえる。