著者
川平 敏文
出版者
熊本県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、江戸初期の儒学者・林羅山の徒然草注釈書『野槌』の精査するものである。羅山および当時の儒学者は、中国の思想や文学のみならず、自国の古典文学についても大きな関心を持っていた。そしてその方法論は、それまで日本で行われてきた古典学とは違って、儒教的人間観や学問観にもとづく、全く新しいものであった。これは、後代の古典学への展開を考えるうえでも注目すべき問題である。
著者
岡本 敦
出版者
東海学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

3次元コンピュータ・グラフィックス(3DCG)によるアニメーションを使用して、体育・スポーツの運動学習を行った際に、立体表示が身体動作の再現性に与える影響を検討した。エアロビクスダンスの3DCGアニメーションを作成し、その映像を2次元表示と立体表示で学習者に提示した。その時の学習者の身体動作を分析した結果、2次元表示では奥行き方向の動きが小さくなっているのに対して、立体表示では、左右方向、奥行き方向ともにより学習モデルに近い動きが再現されていた。したがって、体育・スポーツの複雑な身体動作の運動学習では、3DCGアニメーションによる立体表示が有効であることが示された。
著者
曽田 貞滋
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

マイマイカブリのゲノム塩基配列を決定するために,粟島産亜種アオマイマイカブリ1雄から抽出したゲノムDNAを用い,イルミナHiSeq2000を180 bpと500 bpのペアエンドライブラリーのシーケンスデータ(ゲノムサイズの188×),PacBio RSを用いたシーケンスデータ(ゲノムサイズの34×)を得た.HiSeq2000のデータについてはSOAPdenovo, SGA, ALLPATHS-LGを用いてアセンブリを試みた.得られたゲノム配列について予備的に既知の昆虫の遺伝子データベースおよびAUGUSTUSを用いたgene predictionを行った.HiSeq2000データ単独でのアセンブリには限界があるため,HiSeq2000データを参照してLSC,PacBioToCAでエラー補正したPacBioのシーケンスデータをHiSeq2000データと合わせてアセンブリすることを試みた.本研究に関連して,今年度は,佐渡島亜種と粟島亜種の戻し交雑に基づく,亜種間形態変異に関する量的遺伝解析の結果を論文として発表し,またマイマイカブリのゲノムサイズを論文として報告した.また,形態分化の適応基盤に関して,2つの採餌形態間のトレードオフに関する解析を行い,論文を投稿した.さらに,日本列島におけるマイマイカブリの形態の地理的分化について,Ornstein-Uhlenbeck modelを用いた系統比較法解析を行い,論文を投稿した.この研究では,隔離された島だけでなく,本州内の地域間でも,体形に適応的分化が起こっていることが示唆された.
著者
渡邉 大輔
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、戦後の日本映画における児童の映画観客の映画受容の実態・動向を多角的に明らかにしたものである。さらに本研究では、そのために当時の観客や視聴者調査にまつわる言説群も参照した。1950年代から60年代にかけての児童映画観客の実態は、主に二つの劇場外の映像受容の文脈と密接に結びついていることが明らかとなった。第一に1920年代から活発化した「映画教室運動」や「学校映画会」と呼ばれる学校施設での映画上映、そして第二に国産のラジオドラマやテレビアニメーションといった新たな放送メディアとの関わりである。とりわけ本研究では、1960年代に国産テレビアニメが児童映画観客に与えた影響を分析した。
著者
中村 裕子 森 一将 横瀬 敏志
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、歯髄保存と歯髄再生に有効なEnamel matrix proteinの機能を解析することが目的であった。そのためエムゲイン・ゲル(ビオラ社製)を用い、ラット臼歯の直接覆髄や脛骨穿孔後の治癒過程を検討した。また血管新生・組織誘導について検討した。結果:①ラット歯髄や脛骨穿孔後の創傷治癒に対して促進効果があることが認められた。②組織誘導効果を検討した結果、多くの血管を含んだ結合組織の誘導が観察された。③血管内皮細胞の管腔形成を促進した。これらの結果から新生血管・結合組織の誘導能を有することが示唆された。
著者
疋田 光孝
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

燃料電池自動車用の水素ガス漏洩等をセンシングする新弾性表面波ガス・センサーを提案した。従来の弾性表面波センサーは、圧電結晶基板が水晶に限定されていたが、自己温度補償機能の発案により結晶に対する制約を取り除いた。基本周波数と3倍周波数を用いることにより、センサーのダイナミック・レンジを大幅に拡大出来る可能性を示した。更に、2.4-GHz帯ZigBeeセンサー・ネットワークに本センサーを導入するための周辺回路との共通化等の可能性も示した。
著者
原田 竜三
出版者
北里大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、救命救急センターに搬送され、治療の甲斐無く、亡くなられた患者の家族への看護について、看護師がどのような援助をしていく必要があるのかを探求する目的で行った。国内、国外の文献を幅広くレビューし、どのような実態があるのかを調査した。その結果、欧米における研究では、突然死患者の家族に対する死別後の遺族に対するケアや研究がされ、救命救急センターでの看護援助が遺族の悲嘆に影響を及ぼすことが明らかにされていた。家族が救命救急センターに入室した時点から家族との関わりを持ち、蘇生場面に立ち会い、死亡確認がされ、救命救急センターから退室するまでの一連の流れの中での具体は的な方法が示されていた。患者に行われている治療の情報を提供する。蘇生に立ち会わせる。家族に寄り添い、家族の抱く感情を受け止め、悲嘆の感情を表出させる。また、患者の身体をきれいにし、清潔なリネンで覆い患者の身体に触れてもらうことも悲嘆の援助となっている。さらには、死別後のケアや地域のサポートグループの紹介などが含まれていた。突然死の死別後の遺裂ケアの必要性を探求するため、突然死別後の遺族の悲嘆について、死別後から1年を経過した2名の遺族から身体の不調はなく、故人のいない生活に慣れてきていることが語られた。また、四十九日までの間は、身体的な不調があったこと、故人のいない生活に混乱をきたしたことも語られた。周囲からのサポートが悲嘆プロセスを促進していることが考えられ、研究対者が少ないことから、さらに救命救急センターにおいて研究依頼を試みたが、倫理的な問題から協力が得られなかった。我が国の救命救急センターにおいては、近年、精神科医の協力を得て、死別後の家族のケアが行われ始めているとの報告が見られている。救命救急センターにおいて、家族は突然の状況により医師の説明を十分に理解することができないことから、行われた治療に対する説明を聞く機会を作る必要があると考える。また、救命救急センターにおける看護師が、突然死を体験する家族における援助において、時間的な制約や信頼関係の確立などから難しいという認識を持っているとの報告がある。そのことから、今後、救命救急センターの看護師が家族に関わるための知識やスキルをどのように獲得していけばよいのかについて検討していく必要がある。
著者
神崎 映光
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究課題では、無線センサネットワークにおいて、人が持ち歩くスマートフォンなど、環境内を自由に移動するモバイル端末をデータ収集用端末(モバイルシンク)として利用する場合に、センサデータの収集を高信頼かつ低負荷で実現するためのデータ転送機構について研究を推進した。具体的には、モバイルシンクへのデータ転送を効率的に行うための通信制御手法、およびセンサデータの特性を利用した通信量削減手法をそれぞれ考案した。本研究の成果は国内外の論文誌や学会において積極的に公表し、国際的に著名な国際会議や国際論文誌、さらには書籍のチャプターとして掲載されるなど、国際的に高く評価された。
著者
小笠原 喜康 中里 勝芳
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、科学教育を幼少期から進めるために、科学博物館で教材を貸し出すことを目的としてローンキットを作成し、それを幼稚園・保育所、小学校などで、実践試行して利用を推進するための条件などを検討することを目的として進められた。これを進めたのは、OECDの国際学習到達度調査(PISA)において、日本の子どもたちが科学に全く興味を持っていないことがあげられる。かたやまた、科学博物館をはじめ博物館があまり学校教育に利用されず、「総合的学習の時間」が始まったものの、教師達は十分な教材を準備できずに苦労をしている。そこで本研究では、なるべく早い時期から科学的現象に親しんでもらい、科学館なども利用してもらうきっかけをつくために、科学館内外で利用できる光を題材としたローンキットを作成した。キットは、全体を「杉並ゆめたまご」と命名して、「光のへや」「鏡のへや」「光と影」の三つのキットを作成した。そしてそれを、「杉並科学館」「青砥福祉保育園」「湘南学園小学校」で試行して、その活動を記録して、その開発課題を検討した。キットの試行の結果、年齢の違いによって、この教材へのアプローチに違いがあることは当然であるが、こちらの予想以上に、多くの遊びを考案することがわかった。中でも「カラーシール」は、単にガラスなどに貼って色を楽しむことから、それを様々に重ねて新たな色の光を作りだすことに多くの子どもが挑戦していたのは印象深かった。また予想外に、保育所や小学校の教員達が興味を示し、今後とも使っていきたいという意志を示していたのも収穫であった。しかし同時に、ランプ類の耐久性やテントや局面鏡の設置の問題が見つかった。費用との関係もあるが、もう少し耐久性のあるものを開発したり、修理の道具もキットに含めることが必要であることが了解された。
著者
大西 暁生 石 峰
出版者
東京都市大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、黄河流域を対象に水利権転換の導入によって引き起こされるであろう水資源への影響と、環境汚染・資源消費・社会経済への影響を総合的に検討した。具体的には、地域の経済成長と水利用との関係を把握するとともに、地表と地下の水利用の実態を解明した。さらに、効率性を考慮することで転換可能水量を算出し、水需給ギャップの把握と黄河の流出量への影響を検討した。そして、工業生産(インフラ建設投資等)の水資源に対する影響を分析することによって、最終的にはこの流域における省資源型・環境調和型社会を目指した適正な水資源配分のあり方を水利権転換といった観点から検討した。
著者
津田 一郎 西浦 廉政 大森 隆司 水原 啓暁 相原 威 乾 敏郎 金子 邦彦 山口 陽子 奥田 次郎 中村 克樹 橋本 敬 阪口 豊
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

領域の事後評価はAであり、その成果を冊子体の形で集約し、広く社会・国民に情報提供することには大きな意義がある。取りまとめ研究成果は以下のとおりである。1.成果報告書の冊子体での編集と製本を行った。計画班11、公募班44の全ての計画研究・公募研究の班員が、計画班各8ページ、公募班各4ページで執筆し、研究の狙いとその成果を文書と図でわかりやすくまとめた。これらを冊子として製本し、領域に参加する研究者と関係者に配布した。2.成果報告書のCDを作成し、冊子体に添付する形で配布した。3.本成果をWeb上のデータベースDynamic Brain Platformとして成果公開するための準備を完成させた。これまで当領域の成果報告の場として作成公開して来たホームページは、領域終了後に管理できなくなる。そこで、この領域ホームページをINCF 日本ノードDynamic Bain Platform (DB-PF)に移管した。また、成果報告書の電子版をDB-PFにアップロードするための準備を行った。本公開は、広範な分野の人々から永続的な閲覧を可能にするもので、成果を社会・国民に発信する方法として有効であると期待できる。
著者
井田 民男
出版者
近畿大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2001

微視的な拡散燃焼過程の理解は,流れと燃焼反応の相互作用からなる燃焼挙動の定常性を定量化する上で重要である。微視的な拡散燃焼過程を研究するには,分子レベルでの燃焼反応による挙動と分子拡散による流れの条件との相互関連を定量的に理解することが重要となる。同時に微視的な定常拡散燃焼過程を造りだすことは,それらの条件の整合性を見出せる可能性を含んでいる。本研究で開発されたシングル・マイクロフレームでは、分子拡散作用と燃焼反応現象との微視的な燃焼メカニズムに基づく性状を定量的に把握することができた。次のステップとして開発されたダブル・マイクロフレームでは、異なる燃料種における微視的な燃焼過程の変化を可視化することができた。1つの興味ある現象は、アウターバーナ(OB)によって形成された半球状の水素拡散燃焼場にインナーバーナ(IB)よりアセチレン燃料を微流量を供給することにより、輝炎発光の発生制御が可能となり、水素拡散火炎の半球状の極点からのみ輝炎発光が生じ出すことが明らかとなった。本研究では、微視的な燃焼過程を究めるために分子レベルでの拡散作用と燃焼反応が非対称かつ非定常な燃焼過程を実現できる微視的な燃焼場を造りだした。この微視的な燃焼場は、非同軸のバーナで,OBで形成された定常な拡散火炎内においてIBにより分子数千個のオーダで任意の位置から燃料が供給され形成される。結果次のような成果を得た。1)微視的な定常拡散燃焼場において、ススの生成過程である輝炎発光がマイクロフレームの半球状の極点で発生するメカニズムは、拡散燃焼場が軸対称であることが必要条件であることが示唆された。2)フレキシブル・ダブルマイクロフレームによって形成される非対称燃焼場では、輝炎発光像が不定位置でかつ非周期で発生することが定量的に明らかとなった。
著者
川田 順造 SOW Moussa DEMBELE Mama SANOGO Klena KASSIBO Breh 中村 雄祐 楠本 彩乃 足立 和隆 坂井 信三 芦沢 玖美 応地 利明 MOUSSA Sow MAMADI Dembele KLENA Sanogo BREHIMA Kassibo SKLENA SANOG ISSAKA BAGAY SAMBA DIALLO BREHIMA KASS 田中 哲也
出版者
東京外国語大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

平成5年度は、8年間続けたこの国際学術研究の最終年度にあたり、これまでの研究の方法、組織、内容、成果等について、全般的な総括・反省を行なうとともに、第4巻目の報告書を、これまでと同様、フランス語で作成することに充てられた。報告書をフランス語で作成するのは、第一に研究の成果を、研究対象国であるマリをはじめ西アフリカに多いフランス語圏の人々に還元するためである。第二に、フランス語という、アフリカ研究において長い歴史と蓄積のある国の言語であり、同時に広い国際的通用力を、とくにアフリカ研究の分野でもつ言語で発表することにより、国際的な場での研究者の批判・教示を得、また国際学界への貢献を意図するからである。幸い、この2つの目的はこれまでの3巻の反応をみても、十分に達せられたと思われる。研究分担者であるマリ人研究者も、彼らの公用語であるフランス語で研究成果を刊行し、それがマリをはじめアフリカのフランス語圏の人々、および世界のフランス語を理解する研究者にひろく読まれることに満足し、この面での日本の研究協力に感謝している。他方、フランスをはじめとする世界の研究者からの、この研究報告に対する反応は大きく、巻を重ねるにつれて、送付希望の申込みが、諸国の研究者や研究機関から寄せられている。国際的アフリカ研究誌として伝統のあるフランスの『アフリカニスト雑誌』に第1巻の書評が載ったのをはじめ、学会、論文などでの言及や引用は枚挙にいとまがない。研究の方法、組織については、研究条件等の著しく異なる日本とマリでの共同研究という困難にもかかわらず、マリ側の研究分担者が共同研究の意義をよく理解し、日本人研究者との研究上の協力、便宜供与、成果の共同討議(現地で)、報告書執筆において、誠意をもって協力してくれたことは幸いであった。ただ、マリ国の研究所のコンピューター、ワープロ等の設備の不十分さや故障、郵便事故等に加えて、1991年春の政変に伴なう暴動で研究所の図書や資料、備品が盗難や破壊の被害を受け、この報告書のために準備しておいた貴重な調査資料(録音テープや写真、フィールドノート等)もかなりのものが失なわれて、折角の調査の成果が報告書に十分生かせなかったものもあるのは残念である。それにもかかわらず、マリの研究分担者は、学問的良心に忠実に、内容の充実した報告書を寄せてくれた。1991年の政変の被害で、その年秋締切りの第3巻に報告書を寄せることができなかった、クレナ・サノゴ、ママディ・ダンベレの2人の考古学者は、その欠落を償うべきであるという義務感から、共同の力作レポート1篇のほかに、各自の単独執筆の1篇をそれぞれ寄稿し、報告書全体の広さと厚みを増してくれた。その他の研究者の、調査成果のまとめについては、計画通りないしは、当初の計画をはるかに上まわるもの(例えば、応地利明氏の、熱帯乾燥地の雑穀農業についての、広汎かつ独創的なレポートなど)である。昨年度の現地調査の結果、予定されていた報告書のほか、川田は研究代表者として、8年間の共同研究全体を展望する論考として、「サヘルとスワヒリ」と題する、東西アフリカのアフリカ=アラブ文化の大規模な接触地帯の比較を行なう報告をまとめた。これは川田が年来アフリカ学会等の学会でも発表してきたものの、今回の調査成果をふまえた総括であるが、当研究が対象とする地域である「サヘル」(アラビア語の「緑」「岸」)と東アフリカの「スワヒリ」(「サヘル」の複数形)との対比は、国際学会の視野でもはじめての試みである。また、研究分担者芦沢等によって実施された身体技法と身体特徴についての計測に基づく実証的な研究は、アフリカでの現地調査における文化人類学と自然人類学の共同調査の試みとして、第3巻につづくものであるが、文化を自然の関係を探求する新しい試みとして、予備的な発表を行なった学会(1993年10月日本人類学会・日本民族学会連合大学での楠本等の報告)でも注目されている。その他、坂井、中村、カッシ-ボ、ソ-等の研究分担者も、それぞれの分担課題についての精緻な現地調査に基づく報告をまとめ、独創的な貢献を行なっている。
著者
伊東 正一 稲本 志良 加古 敏之 山路 永司 石川 行弘 丸山 幸夫 加賀爪 優 茅原 紘
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究はアジアのコメ需要が減退しつつあり、このままでは生産縮小に追い込まれるという、アジア農業にとっては危機的状況が予想されることから、アジア各国及び世界のコメ需要、さらに、今後の見通しについて解析した。結論は下記の通りである。1.世界の一人当たりコメ消費量は2000年代は年平均0.6%の減少率で推移している2.この減少率が続くと世界の一人当たりコメ消費量は2050年には58.9kgに減少する(シナリオ1)3.この減少率が2倍(シナリオ2)及び3倍(シナリオ3)になると、2050年にはそれぞれ52.7kg、及び46.2kgにまで減少する4.世界のコメの総消費量は2050年においてシナリオ1,2,3ではそれぞれ5億3,500万t、4億7,900万t、4億1,800万tとなり、シナリオ3では現在の消費量から増加しない、ということになる5.シナリオ1の見通しは現在の減少率の維持という最も控え目な予測であるが、IRRI(国際稲作研究所)が2003年に見通したものはこれより7%多い(2025年の時点)ものとなっている。国際研究機関の過剰な予測が懸念される6.アジア各国におけるコメ消費動向に関する研究は日本を除いて非常に少なく、コメ消費減退の実情が理解されていない7.1960年代から現在までの間に、台湾の一人当たり消費量は160kgから50kgに激減し、日本も120kgから60kg余に半減した。中国では2000年代に入り、100kgのレベルから減少の速度を加速し、年2kgの減少を呈しているこうした減退しつつある世界のコメ需要に対し、コメの加工向け、飼料向けの利用開発が求められる。こうした動きはアジア全地域で取り組む必要があり、効果的な方法の一つとして、日本が発展途上国に提供しているODA予算に対しても、アジア向けのODAにはコメ消費拡大に向けたプログラムに援助するということもアジア地域の食料安全保障対策や国際食糧需給政策として重要である。
著者
藤岡 慎介
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

高輝度X線で満たされた環境中に低温なガスやプラズマが存在する場合、光電離プラズマが生成される。天体観測では、白鳥座X-3や帆座X-1など、ブラックホール又は中性子星と伴星が対になった、連星系において光電離プラズマが観測されている。本研究ではレーザー爆縮法を用いて、500 eVに達する高輝度黒体X線放射源を生成し、このX線を低温・低密度のシリコン又はマグネシウムプラズマに照射することで、実験室中で光電離・非熱平衡プラズマを生成した。光電離・非熱平衡プラズマからのX線発光スペクトル及び吸収スペクトルを観測し、天体観測だけでは分からなかった発光線の起源やプラズマ中のイオンの価数分布を明らかにすることが出来た。
著者
荒木 英樹
出版者
山口大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では,蒸散によって生じる"水圧シグナル(hydraulic signal)"が,地上部の乾きを素早く根系に伝達するシグナルとなり得るかどうかを検証した.ササゲを,高大気湿度条件下と低大気湿度条件下,すなわち葉面にかかる水要求度が異なる環境下で生育させ,根系における水の通導コンダクタンスをハイプレッシャーフローメータ法で測定した.高湿度条件では生育させたササゲでは,葉の水分要求度が低く水欠乏が生じなかった.そのような個体では,照明点灯後3〜9時間の間に根系の通導コンダクタンスが上昇しなかった.一方,低湿度条件に曝された個体では,照明点灯後3〜6時間の間に葉に軽度の水欠乏が生じるとともに,根系の通導コンダクタンスが有意に上昇した.気孔コンダクタンスを測定した結果,低湿度条件下,すなわち高蒸散要求条件に曝された個体でも,気孔が閉鎖していなかった.すなわち,低湿度条件下に曝されたササゲは,地上部の乾きを感知して,蒸散要求に見合うように根の吸水能力を高めていた.次いで,葉の乾きを根に伝達する経路について検討を行った.導管のみが地上部と根系の連絡路となっている個体を用いて同様の測定を行った結果,師部の物質輸送能力を消失させても根の通導コンダクタンスが上昇した.地上部を切除しその切り口から吸引圧をかけた個体でも同様の反応が起こった.また,地上部の水ポテンシャル(吸引圧)が低下した個体ほど通導コンダクタンスは大きく上昇した.以上の結果から,ササゲには地上部の水欠乏や水要求を感知して,根の吸水能力を高める適応性があることを明らかにした.その乾きを伝達するシグナルは,化学物質の合成と輸送を要する師部経由ではなく,導管を経由する吸引圧であることが示唆された.
著者
藤井 美穂 寒河江 悟 豊田 実 時野 隆至
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

MCA法による新しい遺伝子の同定:卵巣癌細胞株を用いMCA(methylated CpG island amplification)法により、正常細胞とでサブトラクションを行うことにより、卵巣癌での異常メチル化している多数の遺伝子を同定した。これは卵巣癌に抑制的に働く新たな遺伝子の発見につながるもので、現在遺伝子データベースを利用し各遺伝子について検討している。同時に各遺伝子のエピジェネティクな異常と卵巣癌での分子生物学的特徴について検討中である。TCF2遺伝子についての解析:上記のMCA法により、メチル化によりサイレンシングしている遺伝子の一つとしてTCF2遺伝子を同定した。TCF2は細胞の分化に関与する転写因子であり、各種腫瘍において発現異常が報告されている。実際卵巣癌ではTCF2遺伝子のメチル化は、卵巣癌細胞株16例中8例(50%)、卵巣癌症例68例中16例(23.5%)に認めた。メチル化を認める細胞株においては、発現の低下あるいは消失を認め、DNAメチル化阻害剤により遺伝子の再発現を認めた。また、プロモーター領域のヒストン脱アセチル化を認め、メチル化による遺伝子発現抑制にヒストン修飾が関与することが示唆された。さらに組織型別では明細胞性腺癌ではメチル化による抑制は少なく高頻度な発現が認められた。これは卵巣癌の中でも予後不良な明細胞性腺癌の生物学的解明につながる可能性がある。(投稿中)癌での細胞周期M期の制御の解析:これまで細胞周期M期に関わる遺伝子の異常と微小管阻害剤の感受性を検討してきた。ドセタキセルを暴露させたMitotic Indexの高い細胞株は抗癌剤に高い感受性を示し、CyclinBの核への集積が認められた。発現を調節している分子としてBUB1,MAD, Auroraなどの分子について検討中である。さらにCHFR遺伝子を細胞株に導入することによって、M期での分子制御機構の解明や抗癌剤の感受性の変化についても検討中である。
著者
A Dybovski 生田 美智子 ヨコタ 孝之 藤本 和貴夫 モルグン Z.F. ヒサムットディノフ A.A.
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本科研は、国立極東大学(1920-1939)及び当時の極東ロシアの日本学を考察し、アーカイブス資料に基づき、同時代の極東ロシアの実践的東洋学の意義と役割を改めて位置づけるように努めた。1930年代のロシアにおける大テロルの時代に粛清されたロシアの日本学者についての歪曲された事実を発掘し、ロシアの日本学史に大きな功績と持つ代表的な学者を始め、民間の研究者に至るまで、極東ロシアの日本学の知られざるページを究明した。本研究の成果は、2014年9月25日、大阪大学大学院言語文化研究科と極東連邦大学の地域国際研究スクール共催の国際シンポジウム「極東ロシアの東洋学:歴史・現代・将来」で公表された。
著者
中尾 篤人
出版者
山梨大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

正常時でも血漿中のヒスタミンの濃度は昼夜において変動し、とりわけ夜間に高くアレルギー症状に相関することが示唆されている。しかしその血漿ヒスタミン濃度を調節するしくみはよくわかっていなかった。本研究では、マスト細胞が定常状態において時計遺伝子依存的に自発的かつ概日性にヒスタミン放出を起こし血漿ヒスタミン濃度の日内変動を調節していることを明らかにした。本成果は血漿ヒスタミン濃度を標的としたアレルギー疾患の新しい予防や治療に役立つ。
著者
サルカルアラニ モハメドレザ 石田 隆城 柴田 好章 中島 繁雄 深谷 孟延 石川 芳孝 坂野 久美 水野 正朗
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、授業に深く関わる文化的スクリプトを解明することであった。異なる文化的背景を有する者の“レンズ”を通すことで、文化的コード(例:誤り、雰囲気など)の抽出が可能となり、考察(討論)を通して文化的スクリプト(例:主体的・個別的・構成主義的スクリプトなど)を明らかにすることができた。比較授業分析の結果、複数の文化的スクリプトが併存しており、時にそれらが協調したり競合したりしながら、授業が成立していることが明らかにされた。また、同一文化内では気付きにくい文化的特徴が相対化されるという比較授業分析の可能性が示された。