著者
坪木 和久 伊藤 耕介 山田 広幸 堀之内 武 篠田 太郎 高橋 暢宏 清水 慎吾 大東 忠保 南出 将志 辻野 智紀 山口 宗彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2021-07-05

台風は自然災害の最大要因であり、なかでも最強カテゴリーのスーパー台風は甚大な被害をもたらす。地球温暖化に伴い、日本本土へのスーパー台風の上陸が懸念されている。しかし台風強度の推定値と予測値の両方に大きな誤差があることが大きな問題となっている。その最大原因は台風が急速に発達する「急速強化」である。さらにそのとき眼の壁雲が二重となる構造がしばしばみられ、その力学的・熱力学的構造が未解明だからである。本研究課題では、スーパー台風が、なぜ、そしてどのように形成されるのか、それにおける急速強化と二重壁雲構造はどのような役割をしているのかを、航空機観測、地上観測、数値シミュレーションの三本柱で解明する。
著者
山田 高誌 Yamada Takashi
出版者
九州地区国立大学間の連携事業に係る企画委員会リポジトリ部会
雑誌
九州地区国立大学教育系・文系研究論文集 (ISSN:18828728)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.No.5, 2018-03-31

本論文は, 18世紀後半のナポリの諸劇場と関わりをもった作曲家, 台本作家, 演奏家, それぞれの待遇の経年変化, キャリアの変化について, ナポリ銀行歴史文書館所蔵, 興行師による支払い文書史料134点の支払い文書全訳とともに, その労働条件, 職務を解明するものである.
著者
山田 桂子
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、世界初のテルグ語-日本語辞典を作成した。見出し語は約6000語である。テルグ語は話者人口においてインドで3番目に多く、ドラヴィダ系諸語ではもっとも多い。フィールドワークはインドと他の東南アジア等、テルグ移民居住地域でも行い、その成果は見出し語の選定、語法の特定、例文の作成等に反映されている。この辞書は、報告者が2010年に出版した文法書(『基礎テルグ語』大学書林2010年刊)と併用することで、日本人がテルグ語を独習することを可能にするものである。
著者
山田 真紀 藤田 英典
出版者
椙山女学園大学教育学部
雑誌
椙山女学園大学教育学部紀要 = Journal of the School of Education, Sugiyama Jogakuen University (ISSN:18838626)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.111-127, 2022-03-01

同じ質問項目を用いた二つの質問紙調査PACT1995とNAPP2018を用いて,この22年間に,教員の意識のうち「同僚との関係性」「学校の役割範囲」「教職観や働き方」の3点においてどのような変化があったのかを統計的に明らかにすることを試みた。その結果,①同僚性については,同僚との関係性が希薄化し,同僚関係を負担に感じる教員が増加しているとともに,他の教師の学級経営について議論の俎上にあげていた風土も,余計な軋轢を避けるための不干渉へと移りつつあること,②学校の役割範囲については,生活習慣・基礎的学力・受験学力・思いやりなどの社会性を学校の役割範囲ととらえる割合が低下し,限定的な教職観を持つ教員が増加していること,③教職観や働き方については,教職のサラリーマン化ともいえる傾向が進み,あまり努力することなく,熱意を持つこともなく,淡々と勤務するタイプの教師が増えていること等を明らかにすることができた。
著者
細井 卓司 山田 高成 森崎 浩 浦上 研一 楠原 正俊 玉井 直
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.407-417, 2017-07-15 (Released:2017-08-26)
参考文献数
54
被引用文献数
1 2

術後悪心・嘔吐は,麻酔関連合併症の中で最も頻度が高く,また重篤な病態を惹起する危険性がある.その原因はさまざまな要因が指摘され,また嘔吐に関わる伝達経路も複数存在している.世界的にはこれらのさまざまな伝達経路に対処可能な制吐薬あるいは嘔吐予防薬が開発されているものの,わが国においては保険適用が限定され,高額な制吐薬を術後悪心・嘔吐には処方できない状況にある.今後は術後悪心・嘔吐を併発しやすい患者群をより精度の高い評価法や非侵襲的指標により把握し,効率的に予防することが望まれる.
著者
池口 裕昭 庄内 孝春 巳上 綾 矢澤 夏佳 高橋 正 山田 幸二
出版者
公益社団法人 日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術学会雑誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.71-79, 2013-01-20 (Released:2013-01-25)
参考文献数
11
被引用文献数
3 5

Purpose: Homogeneity of static magnetic field (B0) is unstable for head and neck magnetic resonance (MR) examination; consequently, chemical shift selective fat suppression becomes inhomogeneous. There is a commercially available additional pad to attenuate the B0 inhomogeneity, but it is expensive. It has been reported that uncooked rice can be used as a material in the pad, but it has hygienic and weight problems. We searched for a material which can replace the uncooked rice, and evaluated its performance. Method: After filling various materials into the cylindrical phantom, each material was evaluated by image distortion of gradient filed echo and spin echo single-shot echo planar images. A prototype additional pad was made with a material which showed less image distortion in the phantom experiment and is easily available in clinical examination. For comparison, an uncooked rice pad with the same volume was also prepared. Fat suppressed head and neck magnetic resonance imaging (MRI) of normal volunteers were visually compared when the three additional pads, including the commercial product, were used or not. Result: The polystyrene ball bullet (BB bullet) was adopted as a material for the additional pad. The improvement of the fat suppression in the head and neck MRI was almost the same between the three additional pads. BB bullet pad was the lightest. Conclusion: BB bullet can be used as a material of additional pad attenuating the B0 inhomogeneity instead of uncooked rice.
著者
山口 夏美 西尾 進 門田 宗之 森田 沙瑛 湯浅 麻美 松本 力三 平田 有紀奈 山尾 雅美 楠瀬 賢也 山田 博胤 佐田 政隆
出版者
一般社団法人 日本超音波検査学会
雑誌
超音波検査技術 (ISSN:18814506)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.590-596, 2022-12-01 (Released:2022-11-22)
参考文献数
20

症例は,60代女性.幼少期に心雑音を指摘され,21歳時に当院で膜様部型心室中隔欠損症と診断されていたが,その後は医療機関を受診していなかった.今回,発熱および咳嗽を主訴に近医を受診し,血液検査で細菌感染が疑われ,抗生剤が処方された.心拡大とNT-proBNPが高値であったことから精査のため前医を紹介受診したところ,経胸壁心エコー図検査で肺動脈弁に長径30 mm程度の可動性を有する心筋と等輝度の異常構造物を認め,重症の肺動脈弁逆流を呈していた.感染性心内膜炎の診断で同日に前医に入院し,抗生剤が開始された.その後,外科的治療検討のため当院へ紹介となった.同日施行された経胸壁心エコー図検査では肺動脈弁に付着する巨大な疣腫と重症の肺動脈弁逆流を認めた.また,心室中隔膜様部に既知の心室中隔欠損を認めた.さらに右室内に異常筋束を認め,右室二腔症と診断された.前医の血液培養からStaphylococcus warneriが検出された.血行動態は安定しており,明らかな塞栓症は起こしていなかったため抗生剤による加療が優先された.その後,待機的に肺動脈弁置換術,心室中隔欠損閉鎖術,右室流出路心筋切除術が施行された.右心系の感染性心内膜炎の割合は感染性心内膜炎全体の5~10%程度とされており,左心系に比べ少ない.今回,先天性心疾患に合併した肺動脈弁位感染性心内膜炎の1例を経験したので報告する.
著者
木村 圭一 岩崎 哲也 山田 拓哉 岩崎 竜一朗 榊原 祐子 中水流 正一 石田 永 山口 真二郎 尾下 正秀 三田 英治
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.1420-1425, 2016 (Released:2016-09-20)
参考文献数
13

89歳,女性.腹痛,嘔吐の精査加療目的で入院となった.CT検査で小腸異物による食餌性イレウスが疑われた.イレウス管挿入を行い減圧を図ったが異物の自然排出は認めず,ダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行し異物(梅の種子)を回収した.その後,偶発症なく退院となった.イレウス管併用ダブルバルーン小腸内視鏡検査はトリプルバルーンメソッドとして報告されている.今回,トリプルバルーンメソッドにて食餌性イレウスを加療し得た症例を経験した.
著者
門間 陽樹 川上 諒子 山田 綾 澤田 亨
出版者
日本運動疫学会
雑誌
運動疫学研究 (ISSN:13475827)
巻号頁・発行日
pp.2101, (Released:2021-01-29)

身体活動が健康の維持向上に寄与することは広く受け入れられており,国内外のガイドラインで身体活動の促進が推奨されている。一方,近年では,海外のガイドラインにおいて有酸素性の身体活動だけではなく筋力トレーニングの実施についても言及されるようになってきており,週2回以上実施することが推奨されている。このように,筋力トレーニングに関する研究は,スポーツ科学やトレーニング分野だけではなく公衆衛生分野にも広がり,健康アウトカムに対する筋力トレーニングの影響をテーマとした研究を中心に筋力トレーニングに関する疫学研究が報告されるようになってきている。そこで本レビューでは,新たな運動疫学研究の分野である筋力トレーニングに関する疫学研究について概説する。最初に,筋力トレーニングに関する用語の定義と整理を行う。次に,筋力トレーニングに関する歴史を紹介する。その後,死亡や疾病の罹患をアウトカムとした筋力トレーニングの研究を中心に解説し,最後に,筋力トレーニングの実施割合および関連要因について述べる。本レビューで紹介する研究の多くは海外からの報告である。日本で実施されている筋力トレーニングに関する疫学研究は,主に実施者の割合に関するものであり,特に,健康リスクとの関連に関する疫学研究は非常に限られている。今後,日本人を対象とした研究が数多く報告されることが期待される。
著者
馬場 駿吉 高坂 知節 稲村 直樹 佐藤 三吉 鈴木 茂 遠藤 里見 石戸谷 雅子 小野寺 亮 山田 公彦 大久 俊和 荒井 英爾 鈴木 雅明 大山 健二 粟田口 敏一 戸川 清 岡本 美孝 松崎 全成 寺田 修久 喜多村 健 石田 孝 馬場 廣太郎 島田 均 森 朗子 池田 聖 金子 敏郎 今野 昭義 山越 隆行 石井 哲夫 窪田 市世 鍋島 みどり 田口 喜一郎 石山 哲也 中野 雄一 中村 英生 五十嵐 文雄 古川 仭 作本 真 山下 公一 久保田 修 宇佐神 篤 伊藤 博隆 鈴木 元彦 間宮 紳一郎 横田 明 加藤 薫 大屋 靖彦 河合 〓 岩田 重信 横山 尚樹 井畑 克朗 瀧本 勲 稲福 繁 坂倉 康夫 鵜飼 幸太郎 雨皿 亮 山田 弘之 坂倉 健二 平田 圭甫 伊藤 由紀子 村上 泰 竹中 洋 山下 敏夫 久保 伸夫 中井 義明 大橋 淑宏 阪本 浩一 村田 清高 平沢 昌子 原田 康夫 森 直樹 白根 誠 多田 渉 小林 優子 竹林 脩文 河野 嘉彦 夜陣 紘治 平田 思 宮脇 修二 津田 哲也 山下 隆司 二階堂 真史 柿 音高 永澤 容 増田 游 後藤 昭一 西岡 慶子 折田 洋造 東川 康彦 武 浩太郎 進 武幹 前山 忠嗣 百田 統洋 堤 昭一郎 茂木 五郎 川内 秀之 松下 太 吉村 弘之 高田 順子 石川 哮 定永 恭明 大山 勝 松崎 勉 坂本 邦彦 廣田 常治 内薗 明裕 鯵坂 孝二 中島 光好
出版者
The Society of Practical Otolaryngology
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.389-405, 1995-03-01
被引用文献数
13 16

The efficacy and safety of Kampo preparation Sho-seiryu-to were studied in a joint double-blind trial in comparison with a placebo. The study was carried out on 220 patients with perennial nasal allergy at 61 hospitals. Granules in a dose of 3 g were administered 3 times daily for 2 weeks. Moderate to high improvement was recorded in 44.6% of the treated patients and in 18.1% of those receiving placebo. The difference is significant (p <0.001). Side effects were noted in 6.5% of the treated patients and in 6.4% of the controls (not a significant deference). The side effects were mild and had no influence on the daily life of the patients.
著者
小林 哲郎 難波 光義 黒田 暁生 松久 宗英 山田 研太郎 今村 洋一 金重 勝博 浜口 朋也 川村 智行 佐藤 譲 高橋 和眞 丸山 太郎 西村 理明 勝野 朋幸 楠 宜樹 清水 一紀 柳澤 克之 粟田 卓也 雨宮 伸 日本先進糖尿病治療研究会
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.403-415, 2014-06-30 (Released:2014-07-02)
参考文献数
79
被引用文献数
1

最近,持続インスリン皮下注入療法(Continuous subcutaneous insulin infusion:以下CSII)と持続血糖モニタリング(Continuous glucose monitoring:以下CGM)が糖尿病の治療機器として普及しつつある.我々はCSIIおよびCGMに関する科学的根拠をもとに,これをコンセンサスステートメントとしてまとめた.CSIIでは適応,臨床効果,リスク管理など,さらに,運用法の実際的な要点,シックデイ,妊娠,食事・運動などに関する注意などについて述べた.CGMに関してもその適応と効果,糖尿病治療への活用法,注意点を述べた.CSIIおよびCGMは1型糖尿病,2型糖尿病の一部や妊娠中の糖尿病症例にも重要な臨床機器であり,このステートメントをもとに内科および小児科領域の患者教育に適応できる具体的なガイドラインの作成が望まれる.
著者
山田 芙夕楓 川上 健太郎 栗原 康志 松田 一仁 田原 司睦
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC) (ISSN:21888841)
巻号頁・発行日
vol.2022-HPC-185, no.4, pp.1-6, 2022-07-20

Arm プロセッサ用の HPC 向け命令セットである SVE が開発され,スーパーコンピュータ「富岳」では,この命令セットを採用した Fujitsu Processor A64FX が使用されている.Python の数値演算ライブラリである NumPy は SVE に対応しておらず,A64FX の性能を十分に引き出せていない.そこで今回 NumPy を SVE 対応したので報告する.特に配列に対する超越関数の処理では,A64FX の性能を引き出すように ①SIMD 化と ②ループ 展開数の最適化の 2 つの工夫を行い,配列データに対する超越関数処理を 24 倍高速化した.
著者
山田 紀代美
出版者
日本健康学会
雑誌
日本健康学会誌 (ISSN:24326712)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.60-67, 2022-03-31 (Released:2022-04-18)
参考文献数
25

This study clarified concerns and difficulties related to communication and involvement experienced by spouses of older people with hearing loss.The study subjects were 11 spouses of older people with hearing loss (5 men, 6 women). We interviewed spouses about communication-related difficulties and concerns of older people with hearing loss. The following results were obtained. The pure-tone hearing level of good hearing ears of these spouses (77.7±4.3 years old) was 20.6±9.5 dB. The age of the elderly with hearing loss was 78.5 ± 4.0 years, of which 6 were diagnosed with Hearing loss. We classified the spouses' communication experiences with older people with hearing loss into 6 categories: “Dissatisfaction with volume settings based on the standards for older people with hearing loss,” “Requests for conversations based on what older people with hearing loss understand,” “Sympathy for hearing difficulties,” “Consideration for neighbors,” “Acceptance of hearing loss as a sign of old age,” and “Distant relationships with older people with hearing loss.”Since the number of older couple households is expected to increase in the future, it is suggested that it is necessary to support not only the older people with hearing loss but also their spouses.
著者
大西 賢治 山田 一憲 中道 正之
出版者
一般社団法人 日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.35-49, 2010-06-20 (Released:2010-07-01)
参考文献数
31
被引用文献数
4 3

We observed 4 cases of aggressive response of Japanese macaques (Macaca fuscata) toward a Japanese giant flying squirrel (Petaurista leucogenys) at the feeding site of the Katsuyama group.When a Japanese giant flying squirrel glided over to a tree at the feeding site, almost all the adult and subadult monkeys resting around the tree mobbed the flying squirrel with threatening sounds. Immature monkeys aged ≤ 2 years screamed, and the mothers retrieved their infants immediately on spotting the flying squirrel. Several peculiar high-rank adult males and females chased, threatened, and attacked the flying squirrel for 25-114 minutes, but mothers with infants seldom approached the flying squirrel. High-ranking adult males had a greater tendency to perform agonistic displays toward the flying squirrel than low-ranking adult males and females.Our observation and previous reports about interspecific encounters suggest that Japanese macaques recognize the Japanese giant flying squirrel as being in the same category as raptors, which prey on Japanese macaques. This explains why the monkeys respond aggressively, which is typical of antipredator behavior, to the common behavioral features of the flying squirrel and raptor-gliding and descending nearby. However, this aggressive response does not seem to benefit monkeys in terms of avoiding predators because the flying squirrel is not actually a predator. There are 2 other possible benefits. Their sensitivity to behavioral features that resemble those of the raptors may improve their efficiency in terms of antipredator behavior towards actual predators such as raptors. In addition, adult or subadult male monkeys may display their fitness to potential mates by performing agonistic displays in response to the Japanese giant flying squirrel.In order to better understand the relationship between Japanese macaques and other species, it is necessary to establish a system for collecting and sharing data on rarely observed cases.
著者
梅垣 敬三 池田 秀子 吉岡 加奈子 鬼頭 志保 山田 澄恵 西島 千陽 岩﨑 孝宏 清水 浩一
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.3-20, 2022-02-01 (Released:2022-03-12)
参考文献数
86
被引用文献数
2

【目的】健康食品の利用拡大に伴い,健康被害の発生が懸念されている。そこで米国のDietary Supplement(DS)制度の取り組み状況を参考にして,日本の健康食品の安全性確保の現状と問題点を明らかにする。【方法】文献調査等により製品の実態,利用状況,有害事象の収集・評価体制等を調査した。米国の状況は担当部署への視察により情報収集した。【結果】消費者の自己判断で利用される多様な健康食品の利用が増大していた。このような健康食品が関連した有害事象の中で,重篤事例の大部分は,食品ではなく,違法に医薬品成分が添加された無承認無許可医薬品に該当するものであった。軽微から中等度の事例は,消化管の不調やアレルギー等が多く,それらは公的機関に報告されていなかった。また,報告されている有害事象の件数は少なく,製品との因果関係の判断が難しいことから,情報が十分に活用できていない実態があった。日本の食品機能表示制度に参照されている米国のDS制度は,安全性確保の対応において,日本と類似点は多いものの,製品に対する適正製造規範の義務付け,事業者に対する重篤な有害事象報告の義務化や電子媒体を用いた迅速な情報収集と評価実施の点で違いがみられた。【結論】消費者の自己判断で利用されている健康食品では,市販後に発覚している軽微から中等度の有害事象を迅速かつ効果的に多く収集・評価し,類似事例や重篤症状の発生防止に活用する取り組みが必要である。