著者
塩川 徹也 佐藤 淳二 中地 義和 月村 辰雄 田村 毅 菅野 賢治 岩切 正一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

古典修辞学がヨーロッパの知的世界においてはたしてきた役割については、近年わが国においても理解が深まりつつあるが、各種教育機関におけるその実際の教育法や、また修辞学と文学との関わりについては、欧米の研究者間でも未だよく認識されてはいないのが現状である。本研究は、その対象がフランスに限定されてはいるものの、とりわけ実際の学校教育で用いられた修辞学教科書の収集とその分析を通じて、各時代の修辞学教育が提示したディスクールの規範型(パラダイム)の抽出に務め、一定の成果を挙げた。その結果、各時代の修辞的な規範型と実際の作品との対比的な検討によって、フランス文学における文学的創造のひとつのメカニスムを明らかにし得たのである。とりわけ中世ラテン語詩論書にみられるエロ-ジュ・パラドクサルの典拠の探求、および、俗語フランス文学中に見られる各種の風刺的類似例との関係性についての考察、19世紀における中等教育機関での修辞学的教育の数次にわたる改革と複数の文芸思潮との関係を歴史的に考察することに成功するという業績を得ることができた。この結果については、最終報告書の刊行により広く共有できるものとして公開されている。修辞学という広い視点からも、プル-ストと絵画との関係を視覚の修辞学的観点から研究した吉川一義(研究補助者)の大部の論考が同報告書に公表されている。
著者
榎田 一路 LAUER J・J 前田 啓朗 磯田 貴道 田頭 憲二 阪上 辰也 鬼田 崇作
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では,大学英語教育において,ポッドキャストとウェブ型教材を,一斉指導,個別学習,およびICTを用いた協同学習に援用した。まず,ポッドキャスト教材及びウェブ型準拠教材を開発・配信した。次にこれらを利用して教室内指導と教室外個別学習を組み合わせた実践を行い,その結果を分析した。さらにデジタル・ストーリーテリングを通じてICTを協同学習に援用することの効果を探った。ポッドキャストを活用した一斉指導と個別学習の連携は,学習者の学習意欲を高め,英語学習の絶対量向上に貢献した。デジタル・ストーリーテリングは,扱った題材への理解を深めつつ,成果物を共有することによる学び合いを提供する点で効果があった。
著者
吉久 徹 遠藤 斗志也 遠藤 斗志也
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

tRNAの一生における細胞内動態の全貌を明らかにする目的で、出芽酵母より新たなtRNA結合タンパク質の生化学的な単離・同定を行った。Hsp70ファミリーに属すSsa2pが新規tRNA結合タンパク質として同定され、実際、栄養飢餓時に見られるtRNAの核内輸送因子であることが、in vivo、in vitroの実験で明らかとなった。併せて、RNAの3'末端を配列特異的に可視化できる手法を開発した。
著者
中窪 裕也 野田 進 中内 哲 柳澤 武 矢野 昌浩 丸谷 浩介 吾郷 眞一 井原 辰雄
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、わが国の雇用保険制度の現状と課題を考えるための素材として、失業保険制度の国際比較を行ったものである。対象国として、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、中国の5か国を取り上げている。本研究において行った活動は、次の4点である。第1に、基礎的な作業として、わが国の雇用保険制度の内容を精査したことである。この間、雇用保険法の2007年改正も行われたが、それを含むいくつかの事項について、論考を発表した。第2は、本研究の本体にあたる、5か国の失業保険制度の研究である。各国について、書籍やインターネットで入手できる資料をもとに基本調査を行ったうえで、担当者が現地を訪問し、ヒアリング調査と資料収集を行った。その内容は、研究成果報告書の中に収められている。各国ごとに制度の様相はさまざまであるが、欧州諸国における早期再就職の促進に向けての失業認定や給付の再編、アメリカにおける州法の多彩な内容、中国における制度創設と定着の努力などが分析されている。第3は、関連事項として、日本および各国の最低賃金制度についても検討を行ったことである。両制度は、労働者にとって就労時の所得保障と失業時の所得保障という形で連続するものであるが、各国における最低賃金制度の概要を、上記の研究成果報告書の中に織り込んだ。第4は、以上を踏まえたうえで、わが国の雇用保険制度(および最低賃金制度)について、体系的な現状分析と将来の方向性の検討を行ったことである。これに関しては、日本労働法学会の114回大会のシンポジウムで報告する機会が与えられ、「労働法におけるセーフティネットの再構築-最低賃金と雇用保険を中心として」というタイトルの下に、6名が報告を行った。このときの報告内容とシンポジウムでの討論の模様は、日本労働法学会誌111号(2008年)に収められており、本研究の一部をなす。
著者
加藤 一郎 平賀 紘一 西条 寿夫 近藤 健男 武田 正利
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は中枢神経系を含む全身で非ケトーシス型高グリシン血症・脳症の原因蛋白質であるH蛋白質を欠損するマウスを作製し、高グリシン血症・脳症の成因や病態を明らかにすることにある。平成16年度の研究は以下の通りに順調に進行した。1.マウスのグリシン開裂酵素系H蛋白質遺伝子のエキソン1周囲に2か所のloxP部位を導入したキメラマウスを5匹得た。うち2匹が変異遺伝子のgerm-line transmissionを示した。2.上記マウスとCre Recombinase遺伝子導入マウスを交配して、loxP間のエキソン1を含むゲノムDNA領域を欠損したH蛋白質遺伝子ヘテロ欠損マウスを得た。3.抗H蛋白質ポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット解析では、ヘテロ欠損体でH蛋白質が50%に減少していることが確認された。4.次にホモ欠損マウスを得るためにH蛋白質遺伝子ヘテロ欠損マウス同士を交配し、その子孫のgenotypeをPCR法およびサザンプロット法で解析した。ホモ欠損マウスは全く得られなかった。ヘテロ欠損体では出生直後に体内出血・体幹異常を示す異常個体が散見された。5.さらに胎生14日目までさかのぼって胎児を遺伝子解析すると、野生型26:ヘテロ欠損33:ホモ欠損0であった。ヘテロ欠損体はメンデル則で予想される数より少ない傾向が見られた。本研究の結果、H蛋白質遺伝子ホモ欠損マウスは全く発生できないか、極めて早期に胎生致死となっていることが示唆され、本蛋白質がマウスの正常発生に必須であることが、はじめて明らかになった。今後H蛋白質が50%に減少しているヘテロ欠損マウスを用いて、H蛋白質がさまざまな臓器ストレスに対する耐性獲得に果たす役割の検討が可能になった。さらに薬剤誘導可能な、あるいは臓器特異的なCre Recombinase遺伝子発現マウスとの組み合わせにより、条件特異的なH蛋白質欠損マウスを作製し肝臓や脳、心臓などの主要臓器におけるH蛋白質の生体内機能を深く探求することができる。
著者
大藪 多可志 木村 春彦
出版者
金沢星稜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

植物は様々な環境要因を認識する能力を有している。また, 移動することは困難なため環境適応能力に優れている。本研究においては, 植物の環境認識能力を生体電位を用いて明らかにすると共にその癒し効果を表現するインタフェースを構築した。インターフェースとしては, 植物にとって良い環境状態であるとき微笑んでいることを顔表現で示す。暑さや寒さを顔表現で示し, 人間からの問いかけに対して環境状態を音声で知らせる。成果を書籍として出版した。
著者
堤 裕昭 篠原 亮太 古賀 実 門谷 茂
出版者
熊本県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

2005年4月〜2007年12月に、有明海中央部〜奥部海域を縦断する方向に設定した9〜12調査地点において、冬季を除き毎月1〜2回水質調査を行うとともに、最奥部の4調査地点では海底環境および底生生物群集の定量調査を行った。この3年間で共通に見られた現象として、梅雨明け後の7月末〜8月上旬の小潮時に奥部海域の広範囲にわたって海域で貧酸素水が発生したことが挙げられる。2006年8月5日には、この海域の水面下5〜6m付近で無酸素層が観測され、海底直上でも1mg/Lを下回った場所が多かった。貧酸素水発生原因は、海底への有機物負荷の増大によって基質の有機物含量が増加したことと、酷暑のために表層水温が30℃を超え、梅雨期に増殖した珪藻類がその熱で死滅し、その死骸が水中に懸濁している間に分解されて酸素消費に拍車をかけたことが推測された。沿岸閉鎖性海域における貧酸素水発生の原因に関する従来からの理解は、赤潮発生に伴う海底への有機物負荷量の増大にあったが、近年の地球温暖化による夏季の水温上昇が、さらに深刻な貧酸素水が発生する事態を招く原因となりつつあることがわかった。毎年夏季における貧酸素水の発生によって、奥部海域の底生生物群集は、夏季に密度および湿重量が著しく減少し、冬季に一時的に回復する季節的なサイクルを繰り返している。しかしながら、年々、冬季の回復が鈍り、スピオ科の小型多毛類およびシズクガイ、チヨノハナガイなどの環境変動に適応性の高い小型の二枚貝類しか生息できない状況となっている。この底生生物群集の著しい衰退が、同海域における底生生物に依存した食物連鎖を崩壊しつつある。このまま夏季の貧酸素水発生が続けば、有明海では、もっとも底生生物が豊かに生息する奥部海域の浅海部より海底生態系が著しく衰退し、それが有明海全体の生態系の衰退をもたらして、近い将来、生物の乏しい海域が形成される可能性が指摘される。
著者
北後 寿 貫井 光男 小竿 真一郎 加村 隆志 宮坂 修吉 竹内 淳彦
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

平成7〜9年度に実施した調査研究内容につき,構造・材料・計画・環境・工業地理の各側面から列記し,研究成果の概要を述べる。1.構造は,建築物の構造種別分布状況について現地調査を実施した。結果より,沖縄地方における建築物の構造および施工の特徴を明らかにした。さらにアンケート調査結果より,沖縄地方の設計関係者による建築物の構造計画,施工方法などの考え方を明らかにした。2.材料は、製造関係の調査結果を基に,沖縄県の空洞ブロック造の歴史的変遷(ブロック製造・使用時期,施工方法,ブロック造の変遷)について,また実態調査結果より,琉球セメント・拓南製鐵・本部町の砕石製造業の現状を明らかにした。3.計画は,沖縄本島における地理的環境が及ぼす建物形態を6タイプに分類し,その違いを明らかにした。住宅におけるコミュニティーのアメニティーの調査については,この地方の住宅は台風,雨,火災等については災害の心配が殆どなくなっており,その他のアメニティーも著しく向上していることを明らかにした。4.環境は,沖縄の南部,中部,北部地域10住宅で室内浮遊真菌と付着真菌の調査を実施した。このエリアは高温多湿の特徴を有している。結果として,真菌同定と濃度の両面で東京エリアとの差違が認められた。5.工業地理は,コンクリートブロック製造業の存在形態,市場構造,コンクリートブロック・コンクリート系住宅の建築体系について調査を行った。その結果,沖縄地方における住宅建築に関わる建築材の生産と分配,市場構造,コンクリート系住宅建築の地域的体系等の社会・経済的特質を明らかにした。
著者
土川 忠浩 内田 勇人
出版者
姫路工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.在宅高齢者の生活・居住環境に対する不満度を、面接アンケートに調査した。調査対象地区は、兵庫県にある山間部集落と市街地の在宅高齢者とした。居住環境に対する不満は、地域に関係なく冬季の室内の寒さに対する不満が顕著であった。2.山間部集落および市街地集合住宅に居住する高齢者住宅の居間の温湿度を夏季と冬季に、それぞれ1ヶ月間程度測定した。冬季において独居世帯および夫婦世帯の気温が、同居世帯よりも顕著に低かった。3.高齢者と大学生、男女の間で嗜好する手摺の太さ及び材質に差がみられるかどうかについて検討した結果、高齢者・大学生とも35mmの手摺を一番高く評価し、25mmの手摺を低く評価した。高齢者においては、木材、プラスチック、金属の評価の間に有意な差はみられなかったが、大学生においては木材が最も高く評価された。4.70歳以上の高齢女性を対象として、またぎ動作時の認知とQOL、ADL、体力との関係について検討した。ステップワイズ法を用いて多重ロジスティック回帰分析を行った結果、握力が有意な変数として選択された。本研究において、バーをまたぐ際の自己認識と実際の動作能力との間の不一致とも有意な関連がみられた。その一方で、下肢の運動機能と認識の不一致との間には有意な関連がみられなかった。握力を良好な状態に保つことの重要性が確認された。5.インターネット入力装置の使いやすさと年齢の高低、健康状態の良悪、携帯電話・インターネットの必要性の有無との関連について検討した結果、高年齢者群(オッズ比=3.86,95%信頼区間0.83-18.98)、健康状態の悪い群(オッズ比=5.00,95%信頼区間1.05-25.41)、今後の携帯電話・インターネットの必要性を認めない群(オッズ比=7・22,95%信頼区間1.34-43.88)が選んだ最も使いやすい入力装置は、タッチスクリーン入力方式であった。6.在宅高齢者(要介護者を含む)とその家族(介護者)を対象にアンケート調査及び簡単な体力測定を行い、住宅の各種性能に対する不満の所在、バリアフリー化(住宅改修)の効果、QOL(モラール)・ADLと居住環境との関係、介護者に対する介護負担の軽減効果等について検討を行った。バリアフリー化によって、住宅内の段差等に対する不満は軽減されていた。しかし、一方で住宅内の温熱環境に対する不満が比較的多く、住宅に対する総合的不満につながっている傾向が示された。6.山村集落の自立高齢者に対する転倒予防教室において、体力測定とアンケート(転倒リスクアセスメント等)調査を行った。自宅住宅内での転倒経験は少ないものの、「つまづき」への恐怖心が生活動作に対する自信を失わせている傾向が示された。
著者
太田 斎 秋谷 裕幸 木津 祐子 岩田 礼
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

中国における方言研究は長らく字音を対象とした記述研究と比較音韻史研究が中心であった。方言地理学は決して新しい方法論ではないが、中国では従来ほとんど行われることがなかったため、中国方言学の分野では大きな収穫が期待された。これまで日本で志を同じくする研究者が、方言地理学を核として新たな方法を模索しながら共同研究を継続して、漢語方言地図集を第3集まで発表してきた。今回の我々の共同研究はそれを受け継ぐものであった。我々は方言地理学に利用可能な文献データを集積する一方で、文献のみでは埋められない地理的空白をフィールドワークを行うことで埋めることを計画した。また歴史文献に現れる方言データ及び社会言語学的事例についても分析を進め、歴史的考察に利用することにした。初年度には文献データの整理を一段落させ、『地方志所録方言志目録 附方言専志目録』を完成、また初年度のフィールドワークのデータを整理し、次年度初頭に『呉語蘭渓東陽方言調査報告』を作成した。これらの作業と平行して、パソコンによる方言地図作成ソフトSEAL (System of Exhibition and Analysis of Linguistic Data)利用のための環境整備を進め、この年度でほぼ作業を完成させた。そして最終年度に試行錯誤を繰り返して方言地図を作成し、討論を重ねてその修正作業を行った。またこれまでは個々の音韻、語彙、文法項目の地図を作成して中国語における様々な特殊な変化の類例を集積して、一般化を模索してきた訳だが、今回は同源語彙間に現れる特殊な変化を容易に観察できるような語彙集も編纂し、「類推」、「民間語言」、「同音衝突」といったような体系的変化以外の変化の事例の集積を図った。これにより従来の方言地図で行われた分析も類似の事例が複数見出せることになり、我々の方言地理学的考察により強い説得力が付与されることになった。その最終報告書が『漢語方言地図集(稿)第4集』である。
著者
安井 夏生 松浦 哲也 二川 健 西良 浩一
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

オステオアクチビンは膜結合型の糖タンパクで、細胞外ドメインと膜貫通ドメインをもつ。我々はスペースシャトルで無重力を体験したラットの筋肉にオステオアクチビンが高発現していることを報告した。オステオアクチビンは機械的ストレスの感知機構に何らかの役割をはたしていると考えられてきたが、延長仮骨における発現は現在まで調べられていない。本研究ではマウス下腿延長中にオステオアクチビンがタンパクレベルでも遺伝子レベルでも過剰発現していることがわかった。またオステオアクチビンの細胞外ドメインは延長仮骨には多数存在するが、延長を行わない骨切り部には存在しないことが明らかとなった。延長仮骨においてはMMP-3も高発現していたが、これはオステオアクチビンの細胞外ドメインに誘導された結果と考えられた。さらにオステオアクチビンは延長仮骨における骨吸収を抑制している可能性が示唆された。最近、我々はオステオアクチビンのトランスジェニックマウスの作成に成功し、徳島大学動物実験委員会に届け出た上で交配・繁殖させてきた。このマウスを用いて下腿延長術を行い正常マウスと比較した。予想されたとおりオステオアクチビンのトランスジェニックマウスではMM-Pが過剰発現しており、同時に延長仮骨の吸収が著明に抑制されていることがわかった。
著者
神吉 博 安達 和彦 川西 通裕
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

スペースシャトルやH II-Aロケットエンジンをはじめ超高圧蒸気タービン等軸流タービンの不安定振動問題や、石油、天然ガスの効率的な取出しに不可欠な超高圧リインジェクションコンプレッサー等の不安定振動問題の解決は、我が国の情報産業やエネルギー問題の解決に必要不可欠な課題である。そしてこの種の技術の高さが世界における日本の立場を支配する重要なポイントとなっている。本研究では軸流タービンに起こる不安定振動と遠心コンプレッサーで発生する不安定振動を統一的に見直し、現象解明を行うとともに、それぞれに適した防止対策を考慮し、これを理論的、実験的に検証することを目的とする。昨年までの研究で軸流タービンの不安定振動の解明と対策案の検証を完了し、新しく遠心圧縮機の不安定振動解明のための、独特の実験装置の開発を完了した。今年度はこの実験装置による実験を実施した。回転数と流量をパラメータにして新しい実験装置を運転し、各条件で運転中加振テストを実施し、不安定振動発生の傾向を調査した。現在の運転条件では、不安定振動は発生していないが、回転数上昇に伴い、減衰比の低下が見られた。さらに回転数を上げることにより、不安定振動を発生することができると考えられる。またベースとなっている減衰の要因の1つである。上部軸受部をよりスムーズに動かせて、振動再現性を良くする対策として、深溝玉軸受を自動調心軸受に改良した。今後さらに実験を続け、現象解明を推進する予定である。
著者
藏田 伸雄 石原 孝二 新田 孝彦 杉山 滋郎 調 麻佐志 黒田 光太郎 柏葉 武秀
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究ではまず、科学技術に関するリスク-便益分析の方法について批判的に検討し、リスク論に社会的公平性を組み込む可能性について検討した。第二に、ナノテクノロジー、遺伝子組換え農作物等の科学技術倫理の諸問題をリスク評価とリスクコミュニケーションの観点から分析した。第三に、リスク論に関して理論的な研究を行った。さらにリスク論と民主主義的意思決定について検討した。第四に、技術者倫理教育の中にリスク評価の方法を導入することを試みた。まず費用便益分析に基づくリスク論は、懸念を伴う科学技術を正当化するための手段として用いられることがあることを、内分泌攪乱物質等を例として確認した。また研究分担者の黒田はナノテクノロジーの社会的意味に関する海外の資料の調査を行い、アスベスト被害との類似性等について検討した。また藏田は遺伝子組換え農作物に関わる倫理問題について検討し、科学外の要因が遺伝子組換え農作物に関する議論の中で重要な役割を果たすことを確認した。そしてリスク論に関する理論的研究として、まず予防原則の哲学的・倫理学的・社会的・政治的意味について検討し、その多面性を明らかにした。他に企業におけるリスク管理(内部統制)に関する調査も行った。リスク論に関する哲学的研究としては、確率論とベイズ主義の哲学的含意に関する研究と、リスク論の科学哲学的含意の検討、リスク下における合理的な意思決定に関する研究を行った。またリスク評価と民主主義的な意思決定に際して、参加型テクノロジーアセスメントや、双方向型のコミュニケーションによって、リスクに関する民主主義的決定モデルが可能となることを確認した。また技術者倫理教育に関して、研究分担者の間で情報交換を行い、上記の成果を技術者倫理教育に導入することを試みた。
著者
木村 圭志
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

コンデンジジは、SMC2/SMC4の二つのSMC ATPaseサブユニットと三つのnon-SMCサブユニットからなるタンパク質複合体で、M期の染色体凝縮に必須の因子である。最近になって、修復、チェックポイントの活性化、転写制御などの間期におけるDNA代謝にもこの酵素が関与することが報告されている。コンデンシンは、in vitroでATP依存的にDNAに正のスーパーコイルを導入する活性(スーパーコイリング活性)を持つ。我々は、コンデンシンの細胞周期における制御機構を解析した。コンデンシンのタンパク量、及びタンパク質の安定性は細胞周期を通じて一定だった。細胞周期におけるリン酸化を調べたところ、コンデンシンは間期においてCK2で、M期ではCdc2でリン酸化されていた。M期でのリン化がコンデンシンのスーパーコイリング活性を促進するのに対して、CK2による間期リン酸化は著しく抑制した。このCK2による抑制的なリン酸化レベルの細胞周期における変動を調べたところ、M期に染色体上で著しく低下していた。さらに、ツメガエルのM期卵抽出液中で、コンデンシンのCK2部位のリン酸化レベルを上昇させると、染色体の凝縮は阻害された。これらの結果から、コンデンシンの機能は、従来から考えられていたM期キナーゼCdc2だけでなく、CK2によっても制御されていることが示唆された。一方、精製したコンデンシンをin vitro転写系に加えると、転写レベルは抑制された。また、その抑制はCK2によるコンデンシンのリン酸化により解除された。これらの結果から、コンデンシンは、間期においてもクロマチン構造をコンパクトな構造に転換するのに寄与し、CK2リン酸化によるコンデンシン活性の抑制は、クロマチン構造の弛緩と、その結果としての転写活性化に関与している可能性が示唆された。
著者
津田 彰 津田 茂子 山田 茂人
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、実験的-フィールド研究の方法論に基づいて、ストレスの状態と心理生物学的ストレス反応との関連性について検討を加えたものである.3年間の研究を通じて、以下に列挙するような知見を最終的に得ることができた。1.唾液中MHPGの測定と不安の指標としての妥当性について男女大学生221名を対象に、唾液3-mthoxy-4-hydroxyphenylglycol(MHPG)(ノルアドレナリンの代謝産物)濃度と気分(STAIならびにPOMSによって測定)、精神的健康度(GHQ-28で評価)との関連性を検討したところ、男子学生の場合、不安、緊張、抑うつ、怒り、敵意の気分ならびに特性不安とMHPG濃度との間に有意な相関が認められた。しかしながら、女子学生では、このような関係がまったく認められなかった。女子の場合、性周期がMHPG濃度の交絡要因になったためと思われる。2.唾液中MHPG濃度の減少と抗不安薬によるストレス症状改善との相関不安障害患者25名を対象に、抗不安薬(alprazolam 0.8-1.2mgまたはtandospirone 30mg)を投与し、ストレス症状の改善と唾液中MHPG濃度の減少が相関するかどうか検討を加えた。ストレス症状はいずれの薬物においても有意に減少したが、その程度はalprazolamの方で著明であった。Alprazoiam投与を受けた患者のMHGP濃度は投与1適間後に有意に低下したが、tandospirone投与では、とくに関連性を認めなかった。これらの知見より、唾液MHPG濃度はストレス状態を敏感に反映する指標であること、また抗不安薬の効力を臨床的に評価するための客観的な指標になり得ることが明らかとなった。
著者
武井 和人 三村 晃功 矢野 環 末柄 豊 小川 剛生 久保木 秀夫
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

(1)以下の機関・個人に所蔵される十市遠忠・実暁自筆古典籍の実地調査・写真撮影を行った。財団法人前田育徳会尊経閣文庫蔵自筆詠草類(再調査)東京大学史料編纂所蔵『一人三臣詠鈔』(天文8年遠忠書写奥書本ノ転写本)国文学研究資料館蔵遠忠関連典籍マイクロフィルム(陽明文庫蔵『五社百首』他)(2)報告書に翻刻を収載する予定の資料を選定し、担当者を決め、翻字作業に入った。新たに翻刻する資料として、以下の典籍を定めた。財団法人前田育徳会尊経閣文庫蔵『千首和歌』『三百六十首和歌』『五十番自歌合』他島原図書館松平文庫蔵『百五十番自歌合』(3)以下の遠忠自筆、および、鳥養流の能書家である鳥飼宗慶自筆短冊資料を蒐集した。鳥飼宗慶自筆短冊(京都・思文閣書店より購入)十市遠忠自筆短冊(軸装、京都・思文閣書店より購入)遠忠、及び鳥養流諸家の書蹟鑑定に際し、基礎的な資料として活用した。(4)下記の如き研究会を開催した。【第1回研究会】平成17年8月19日・於:埼玉大学八重洲ステーションカレッジ武井・石澤一志・高橋育子「<遠忠自筆資料>の筆蹟について」末柄豊「文亀四年二月九条尚経亭月次和歌会懐紙について」井上宗雄「勅撰作者部類の編者藤原盛徳(元盛法師)について」(5)本研究の概要・経緯を、日本歴史学会の依頼により、武井が『日本歴史』(第692号、2006・1)に報告した。
著者
岩本 通弥 川森 博司 高木 博志 淺野 敏久 菊地 暁 青木 隆浩 才津 祐美子 俵木 悟 濱田 琢司 室井 康成 中村 淳 南 根祐 李 相賢 李 承洙 丁 秀珍 エルメル フェルトカンプ 金 賢貞
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、外形的に比較的近似する法律条項を持つとされてきた日韓の「文化財保護法」が、UNESCOの世界遺産条約の新たな対応や「無形文化遺産保護条約」(2003年)の採択によって、どのような戦略的な受容や運用を行っているのか、それに応じて「遺産」を担う地域社会にはどのような影響があり、現実との齟齬はどのように調整されているのかに関し、主として民俗学の観点から、日韓の文化遺産保護システムの包括的な比較研究を試みた。
著者
南方 久和 安田 修 梶田 隆章 梶田 隆章
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

スーパー神岡実験によって質量とフレーバー混合が存在することが発見されたニュートリノという素粒子が未知の非標準的相互作用(NSI)をもつ可能性について研究した。NSIが存在する系におけるニュートリノ振動の全般的性質を明らかにし、全く新しいタイプの多重解の存在を見いだした。ニュートリノファクトリーを用いるNSI探索における積年の問題である1-3角とNSIとの混同の問題の解決方法を提示し、NSIの最も感度の高い探索方法を明らかにした。さらに、ミュー・タウニュートリノチャンネルにおける非標準的相互作用の探索には数年前に提唱した神岡・韓国2検出器系が有利であることを指摘し、この感度評価を行った。
著者
村尾 修
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究プロジェクトでは,まず1999年台湾集集地震の被災地である集集を対象として,復興過程に関して継続的な観測を実施した.そして,その数年間の復興調査データ等を用いて,「空間復興モデル」を提案した.これは被災地の都市空間の復興過程を物的環境の変化すなわち建物の復興状況(被災,瓦礫の撤去,建設中)という視点から記述し,その変化を客観的に示す方法である.そこで得られた知見を活かし,より詳細な建築確認申請データを用いて.地域の復興過程を復興曲線として客観的に示す方法を提案した.さらにこの客観的な指標で示される地域の復興過程を支える社会的背景についても,調査した.その方法としては地域の資料を読み解くとともに,被災者,役人,その他のステークホルダーに対して面接調査を実施した.その成果のひとつとして,集集鎮志を翻訳し,現地の復興過程を理解するための情報として利用した.そして面接調査や資料など集集の復興過程を読み解き,復興のエスノグラフィ作成のための方法論としてまとめた.これは,地域の復興を包括的にとらえ,工学的な要素と社会学的要素を盛り込んだ復興研究のアプローチであり,本プロジェクトで実施した他地域の復興報告書等を活用した.復興過程を表す指標構築のための研究と平行して,復興をアーカイブズとして記録するための研究も行った.そのひとつとして,筆者がモニタリングしてきた復興の記録を都市史の中でどのように位置づけたらよいのかを考察し,復興デジタルアーカイブズの意義についてまとめた.そして,その考え方の一部を集集を対象として具体化(GoogleEarthを用いた復興デジタルアーカイブズ)し,方法論としてまとめた.
著者
北川 浩 比嘉 吉一 尾形 成信 中谷 彰宏
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

結晶粒をナノメートルオーダまで微細化したナノ多結晶材料は、結晶粒を構成する原子の数に対して粒界を構成する原子の割合が高く、その構造は不規則である上に十分に構造緩和しておらず準平衡な状態にある。本研究では、ナノ結晶材料の強度を律している一般的な動的組織要因を明らかにする目的で、原子モデルを用いた大規模コンピュータ・シミュレーションを実施して、つぎのような結果を得た。(1)材料強度が粒径の減少に伴って低下する、結晶粒微細化に伴う軟化現象(逆Hall-Petchの関係)が見出される.この関係は、強さと欠陥体積率の関係として整理することができ、ナノ多結晶材料の強度は粒界領域で生じる原子構造変化により律される。(2)結晶粒径が非常に小さいナノ多結晶材料では,粒内に転位が安定して存在することは出来ず,Frank-Read源のような転位源を粒内に持つことはできない。しかし,積層欠陥エネルギーが低い材料では、拡張転位の幅と結晶粒径が同じスケールとなり、結晶すべりは部分転位のみで生じて、粒内を貫く形で積層欠陥が形成される。(3)粒内の積層欠焔の形成による構造的異方性が、ひずみ硬化、繰り返し硬化、および力学異方性を引き起こす。また、積層欠陥は、粒界部での変形のアコモデーション機構と連動して結晶粒変形の可逆的な要素となることが見出される。(4)自由表面を有するナノ多結晶材料では、積層欠陥エネルギーが大きい場合,粒界すべりにより局所変形が進行し粒界部で破断するが,積層欠陥エネルギーの小さと部分、転位による結晶すべりが主となり、粒内に残存する積層欠陥により二次すべり系の活動が抑制されて,変形の局所化が抑制され材料全体の延性が向上する。(5)アモルファス金属に局在化した変形が生じると、局所的な温度上昇によりアシストされた変形誘起再結晶が生じ、ナノサイズの結晶粒が生成される。