著者
中本 泰史
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,中心星近傍で発生したX線フレアを起源とする星風が原始惑星系円盤に衝突し,衝撃波が発生するという現象をとりあげ,(1)そのような現象が発生するかどうか,(2)発生するとしたら円盤内の物質にどのような影響を及ぼすか,(3)それらの現象を天文学的あるいは隕石学的な手法により確認することができるか,などを明らかにすることを目的とした。そのために,電磁流体力学数値シミュレーションや流体力学,輻射輸送計算,解析的検討など種々の手法を用いて研究を推進した。電磁流体力学数値シミュレーションの結果,円盤上層部に衝撃波が発生することが確かめられた。また,これらの衝撃波はコンドリュール形成やダストの加熱結晶化にとって適当な衝撃波となることも明らかにした。つまり,(a)3AU程度以内ならば,円盤の上空に強い衝撃波が発生してダスト粒子を十分加熱することが可能なこと,(b)X線フレアによって発生した星風は磁場によるコリメーションを受けるため,5AU程度よりも外には影響を及ぼしにくいこと,などがわかった。一方,発生する衝撃波の性質をより的確に理解することが出来るようになり,衝撃波の発生場所,すなわち,ダストが加熱を受ける場所をより具体的に議論することが出来るようになった.このことにより,加熱を受けて結晶化したダストが彗星に取り込まれる可能性について,検討することが可能となった。それによれば,X線フレアに伴って発生する円盤上空衝撃波で加熱・結晶化できるダスト粒子は中心星から5AU程度までのものであるから,彗星中の結晶化ダストがそのようなものであるとすると,なんらかの機構によって5AU以内にあったダスト粒子を彗星形成領(30AU程度)まで運ぶ必要があることになる。ダスト粒子の輸送機構にはいくつかの可能性があるが,今後はそれらの輸送機構の適否を詳しく検討することが必要になるだろう。
著者
安江 恒 藤原 健 大山 幹成 桃井 尊央 武津 英太郎 古賀 信也 田村 明 織部 雄一朗 内海 泰弘 米延 仁志 中田 了五 中塚 武
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

将来予想される気候変動下での国産主要4樹種の肥大成長量や密度変化の予測を目的とし,年輪年代学的手法による気候応答解析を行った。スギ,ヒノキ,カラマツ,ブナのクロノロジーネットワークを構築し,気候データとの相関解析を行った。スギとヒノキについては,ほとんどの生育地において冬~春の気温が年輪幅変動に対して促進的に影響していた。ブナにおいては,比較的寒冷な生育地では,夏季の気温が年輪幅に促進的に影響しており,一方温暖な生育地では気温が制限要因となっていないことが示唆された。カラマツについては,生育地によって年輪幅や密度と相関を示す気候要素が大きく異なっていた。
著者
橋本 洋志 坪井 利憲 大山 恭弘 苗村 潔 天野 直紀 石井 千春 小林 裕之
出版者
東京工科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,日常生活で現れる手の動き(箸や鉛筆の使い方,玉遊び等)を時系列データとして取得し,動きの特徴を表す特徴量を抽出して保存する(アーカイブ(archive)と称す)とともにこの特徴量をハンドガイド(写真参照手に装着して自動制御によりワイヤー型アクチュエータで5本の指を動かす)に送ることにより,ハンドガイドを手に装着した人間に,力覚として手の動きそのもののインストラクションを行えるようにすることにある。本年度では,前年度までの実験結果を基にして,次の成果を得た。● 指関節角度の時系列データに対する主成分分析法により,第1主成分が,動きの巧みさの指標となりうること,また,指関節角度の時系列データのうち,箸使いでは,人差し指と中指の間の角度に対する標本分散が,箸使い上手さの指標となりうることがわかった。● 玉回しでは,親指を含めた3本の指先関節が周期的に動くことが上手さの鍵となることがわかった。また,手の動きに関連して,副次的に次の知見を得た。● 手の力覚を用いて,人間の周囲にある障害物環境を認職できるという視覚の代替感覚を実現できることを明らかにした。● 人間がレクリエーションの一環として太極拳の動作を行うとき,手先の動きが重要であることが判明した。これは上手に動こうとするときの指標として,手先でバランスをとったり,スムーズな動作移行のときに手先反動を用いているためで,人間の動作と手の動きとの関連性に注目することが必要であることがわかった。以上の知見をもとに,指先のみならず手先の動きがしなやかになるようなインストラクションディスプレイのプロトタイプを構築し,臨床実験を通してその高い利便性・使用性を立証した。さらに,指先のモーションアシストデバイスを試作し,指の感覚とその動かし方に関する幾つかの知見を示した。
著者
高橋 英治
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

EU行動計画書の展開を示した。Journal of Interdisciplinary Economics, Special Issue : International Corporate Governance を客員編者(Guest Editor)として発刊した。単著『ドイツと日本における株式会社法の改革--コーポレート・ガバナンスと企業結合法制』において、日本とドイツのコーポレート・ガバナンス改革について詳論した。単著『企業結合法制の将来像』において企業結合のコーポレート・ガバナンスの在り方につき詳論した
著者
福山 透 徳山 英利 菅 敏幸 横島 聡 下川 淳
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

本研究課題では、独自に開発した合成方法論、および独創性が高く高効率的な合成デザインによる、真に物質供給に耐えうる全合成法の開発を目的として、ヘテロ元素を含む高次構造天然物の全合成研究をおこなった。その結果、当研究室で独自に開発した芳香族アミノ化反応を用いることで、デュオカルマイシン、ヤタケマイシンを、不斉CH挿入反応によるジヒドロベンゾフラン環合成法を用いることでエフェドラジンA、セロトベニンを、ラジカル環化反応によるインドール合成法を用いることでストリキニーネ、コノフィリン、アスピドフィチンを、それぞれ合成することに成功した。また独創的合成デザインに基づき、FR901483、リゼルグ酸、モルヒネ、オセルタミビルの効率的合成法の開発に成功した。強力な抗腫瘍活性を有しながらも天然からは微量にしか得ることが出来ないヤタケマイシンにおいては大量合成にも成功し、市場における化合物供給にも耐えうる方法論を確立した。またタミフルについて、その副作用の原因究明のための研究に対して、活性化合物を提供した。セロトベニンの全合成では光学活性試料の合成に成功し、生合成経路におけるラセミ化機構の解明に大きな知見を与えることが出来た。また全合成の達成には至らなかったものの、レモノマイシン、UCS1025A、プラキニジンA、アルテミシジン、アニサチン、レペニンの合成研究を行い、有機合成上有用な知見を得ることが出来た。以上の研究成果が得られたことより、本研究課題の目的を十分達成することが出来たものと考えている。以上のように本研究課題の成果は、有機合成化学を基盤とした幅広い研究分野に対して、大きく貢献することができた。
著者
松浦 茂 長部 悦弘 山本 光朗
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)研究代表者は、満洲語档案と探検記録とによって、清朝の繊維製品がアムール川下流・サハリン地方に流入する過程と、同地域の辺民がそれを衣料その他に受容する過程を明らかにした。またそれらの一部は、この地域の交易のネットワークを通じて、周辺地域に流れたことを解明した。研究代表者はまた、満洲語档案に現れる北方の少数民族の言語をとりあげて、その意義と、それがなぜ満洲語の中に入ったかを考えた。たとえば清の漢文献においては、17世紀のアムール地方に現れたロシア人を「羅刹」と記すが、その語源は、サンスクリット語ではなくて、アムール地方の少数民族が、これらのロシア人をロチャ(ルチャ)と呼んだことに由来することを明らかにした。こうした視点は、北方史の研究に不可欠である。(2)研究分担者は、15世紀以前の北方の少数民族について、研究を行なった。金朝を作った女真は、後に中国本土に移住して、漢族と雑居するようになると、漢姓を名のることが多くなった。ただその理由はさまざまで、それにより民族的なアイデンティティーを失ったという見方は、単純にすぎるということを明らかにした。研究分担者はまた、古林・遼寧省と内蒙古自治区・山西省に分布する、鮮卑族の史跡に関する近年の報告・記事・論文を、日本と中国の学術雑誌などから拾い出して、そのリストを作成した。(3)研究代表者と分担者は、明朝がアムール川の河口に建設した奴児干都司と永寧寺について、従来の学説を再検討した。とくに永寧寺碑文の内容を吟味して、当時の交易のネットワークについて考察した。このことについては、さらに研究を深めてから発表するつもりである。
著者
宇根 ユミ
出版者
麻布大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、外来/野生動物に流行する感染症および病原体のリスクプロファイリングを行い、その対策を確立して、我が国の生態系および生物多様性の保全に貢献しようとするものである。カエルツボカビは国内に広く、高率に分布し、国内の両生類は海外とは異なる多くのハプロタイプを有していることを明らかにし、併せて非侵襲的検査法と除菌法を確立した。ラナウイルスによる大量死事例の確認と感染実験により本ウイルスの高い病原性を明らかにした。また、国内でラナウイルスが分布を広げ、かつ保有率が急上昇していることを示した。これらの研究活動の成果を公表し、実務的な流行阻止・防除システムの構築に、有用な情報を提供した。
著者
高谷 好一 マツラダ Mattulada 深沢 秀夫 田中 耕司 古川 久雄 前田 成文
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

本研究計画は、これまで実施した科学研究費による海外学術調査、「熱帯島嶼域における人の移動に関わる環境形成過程の研究」(昭和55ー59年度)および「マレ-型農耕文化の系譜ー内発的展開と外文明からの変容」(昭和61ー63年度)、の研究成果を統合・総括するために計画されたものである。上記の調査によって、東南アジア島嶼部、スリランカ、南インド、マダガスカルなどのインド洋をとりまく諸地域が古くからの東西交流・民族移動によって共通の農耕文化要素をもつことが明らかになってきた。本計画は、上記二つの調査をとりまとめ、東南アジア、インド、マダガスカルにわたる、いわば「環インド洋農耕文化」ともよべる、この地域に共通の農耕文化の性格を明らかにし、海域世界の人の移動と農耕文化展開との関係を総合的に解明しようとして計画された。研究計画は、若干の補足調査を必要とするスリランカ、南インドへの分担者1名の派遣と、これまでの国外の共同研究者を招へいしての研究集会の開催、および調査成果の刊行の準備作業からなる。まず、補足調査については、分担者田中が10月21日から11月12日の派遣期間のうち前半はスリランカ、後半は南インドに滞在して調査を行い、スリランカでは分担者のジャヤワルデナが調査に参加した。スリランカでは、南西部ウェットゾ-ンの水田稲作における水稲耕作法について精査し、とくにマレ-稲作と共通する水牛踏耕や湿田散播法の分布と作業の由来などについて聴取調査を行った。また、稲品種の類縁関係からマレ-稲作との関連をさぐるための資料として、在来稲の採集・収集を行った。南インドの調査は、タミ-ルナドゥ、ケララの2州を中心にスリランカと同様の調査を実施するとともに、インジ洋交易の中継点となったカリカット、ゴアなどの港市都市を観察した。国外の分担者マツラダおよびジャヤワルデナをそれぞれ約1週間招へいし、分担者との共同研究とりまとめの打ち合せを行うとともに、平成2年1月19日と20日の2日間にわたり研究集会を開催した。研究集会では、各分担者が以下の研究報告を行い、各報告の検討と共同研究成果のとりまとめについて協議された。高谷:環インド洋をめぐる自然環境と人の移動史前田:マダガスカルとマレ-の農耕儀礼古川:環インド洋におけるアフリカ農耕とマレ-農耕田中:環インド洋に共通する稲作技術とその分布深沢:マダガスカル、ツィミヘティ族の村落、農業と牧畜マツダラ:東南アジア島嶼部の漂海民バジョウとその生業ジャヤワルデナ:スリランカ・マレ-の移住、その歴史と現在調査成果の刊行については、上記の研究報告を各分担者の責任において関連の学術雑誌に報告することが研究集会で確認された。また、研究成果を単行本として出版することが計画され、その第一段階として分担者古川が東南アジア島嶼部の低湿地に関するモノグラフをとりまとめた。これは平成2年秋に出版の予定である。
著者
池村 真弓
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

脂肪肝におけるハロペリドールの血中濃度と臓器への毒性相関を解明するために、モデルラット(FL)を用いてハロペリドールの臓器内薬物蓄積性について検討を行った。その結果、治療量投与では血中および臓器内薬物濃度はFLで有意に増加するが、中毒量投与では有意差は認められなかった。その原因としてFLでの薬物タンパク結合率の低下と、薬物投与前より門脈血流量が増加し薬物投与により変動しないことから、薬物代謝能低下が示唆された。本研究成果は臨床だけでなく法医学実務における薬物関連死の死因判断においても有用な基礎的知見である。
著者
庄子 習一 竹山 春子 水野 潤 関口 哲志 細川 正人 尹 棟鉉 鈴木 美穂 福田 武司 船津 高志 武田 直也 モリ テツシ 枝川 義邦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、微小発光サンプルの光学的超高感度定量計測を可能とすべく、以下の新規マイクロ流体デバイス要素技術を開発した。1)自由なサイズの液滴作製技術の構築,2) 自由な流れのコントロール技術の構築,3) 液滴のパッシブソーティング技術の構築。次に要素技術をシステム化することにより、微小発光サンプルの計測を実現した。1)液滴に生体サンプルを個別に抱合して環境微生物個々の遺伝子を解析,2) 個別に抱合された細胞の成長を観察して酵素反応活性を評価。本研究の遂行により、従来定性的観察のみ可能であった光学信号が高感度な定量的計測結果を得るのに十分なレベルに増幅され、光学的定量計測が実現された。
著者
中澤 公孝 LAVENDER Andrew P LAVENDER Andrew
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

加齢に伴って筋神経系機能は徐々に低下する。それらは高齢者の転到確率の増大に関連することは間違いない。加齢に伴う筋神経系機能の低下を抑止するためには定期的運動が有効である。しかし、神経系、とりわけ大脳運動野のトレーナビリティー、可塑性が加齢に伴ってどの程度変化するのかが十分に明らかになっていないため、有効な運動処方は未だ確立されていない。本研究はそのような観点から、加齢に伴う大脳皮質運動野の可塑性の変化およびそれに対する運動の効果を明らかにすることを目的とする。この目的に接近するために、高齢者を対象とし、有酸素運動トレーニングが運動野の可塑性に与える効果を調べる。当該年度は(1)有酸素運動トレーニングが大脳運動野の可塑性に与える効果を明らかにするために、経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いPAS(paired associative sitimulation)による大脳皮質可塑性の変化を調べるとともに、関連する実験として、(2)大脳皮質の血流に慢性的影響を与えると考えられる喫煙習慣と大脳運動野可塑性との関係に関する実験を計画した。その結果、(1)については有酸素運動の急性的効果を調べる実験を行い、一過性の運動によって大脳皮質可塑性が改善されることを示唆る結果を得た。また(2)については喫煙群で大脳皮質の可塑性が低いことが明らかとなり、現在論文を投稿中である。これらの結果は、大脳皮質運動関連領野の可塑性は当該領域の酸素運搬能力など血流に関連し、これを改善することで向上することを示唆するものである。なお(1)の実験については、12週間の有酸素運動トレーニングの効果を調べる実験を計画し、一部開始したが、震災により中断を余儀なくされた。外国人特別研究員の研究期間はまだ半年余り残しており、実験を再開する予定である。
著者
古永 真一
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

バンドデシネ(フランス語圏のマンガ)が第九の芸術としてフランスで認知される過程においては、マンガ固有の表現や芸術性をアピールする必要があった。1960年代からフランソワ・ラカサンはバンドデシネ・クラブを結成し、バンドデシネの研究書を公刊するなどその認知に努めた。ラカサンはバンドデシネを「省略の美学」と位置づけ、コマとコマが織りなすシークエンスの描き出す省略的な表現を価値づけるために、映画や美術、アメリカのコミックスなどさまざまな資料に依拠しながら、バンドデシネのもつナラトロジーの可能性を説き続けた。今回の研究では、ラカサンだけでなくバンドデシネ・クラブには、アラン・レネのような映画監督や社会学の研究者エヴリン・シュルロや編集者ジャン=ジャック・ポーヴェールなど多士済々の面々が集結し、注目すべき活動や批評眼をもっていたことに着目した(この点については拙稿「1960年代フランスのマンガ文化--第九芸術への道」、『美術フォーラム21 2011年第24号特集:漫画とマンガ、そして芸術』を参照)。他方、ブノワ・ペータースとフランソワ・スクイテンの代表作『闇の国々』は、バンドデシネとナラトロジーの関係性を考えるうえで大変興味深い作品である。というのもこのSFマンガにはジュール・ヴェルヌや彼の小説に登場するキャラクターが登場し、映画や絵画への目配せに濫れた遊戯性を遺憾なく発揮した作品だからである。テクスト相関性という観点からしても、『闇の国々』はマンガ表現が融通無碍なナラトロジーを発揮しうる媒体であることを見事に証明している。今回私はこの作品の翻訳をBD研究家原正人氏と共に出版するにあたり、原作者ブノワ・ペータースに直にインタビューする機会を得た。日仏のマンガ文化やこれからの書物のありかたなどを考えるうえで貴重な機会となり、今回の研究を実施するにあたっても大きな刺激となった。
著者
遊佐 典昭 小泉 政利 那須川 訓也 金 情浩 ニール スネイプ
出版者
宮城学院女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

(1)第二言語の熟達度における個人差を、脳活動の変化としてとらえることが可能である。(2)敏感期以降の日本人英語学習者でも、統語論においては経験以上の知識を得ることが可能であり、外国語環境でも母語で機能する生物学的制約が機能している。(3)統語論の基本原理(構造依存性)に関しては、敏感期以降でも機能する。(4)冠詞、時制の誤りはランダムではなく体系性があり、普遍文法と素性の再構成という観点から、原理的な説明が可能である。(5)明示的教授は少なくとも、言語運用面においては効果がある。(6)本研究の結果は、学習文法の改善に役立つ。
著者
前野 隆司 昆陽 雅司
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

粗さ感・摩擦感・硬軟感を含む複数の触覚因子を統合したマスタ・スレーブ型触感伝達システムを開発した.このシステムでは,スレーブ側の触覚センサで,状態をリアルタイムに推定し,マスタ側に伝達する.その結果,複数の布素材やエンボス紙をほぼ識別できること,因子数を増やすほど識別率が向上することを確認した.また,触覚遠隔伝達のニーズ調査を行った結果,一般には触りにくいものを触るというニーズが大きいことを明らかにした.
著者
山下 太郎
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

平成11年度は、ウェルギリウスの作品『アエネーイス』における創作技法を考察する手がかりとして、『国家について』(De Re Publica)等、膨大な作品群を残したマルクス・キケロの思想のこの作品に対する影響関係を取り上げた。『アエネーイス』第一巻の冒頭には、国家(ローマ)建設を主人公の使命として位置づけるモチーフが繰り返し認められる。この使命を、トロイア崩壊とともに全ての希望を失った主人公にたいし、詩人はどのように、あるいは、それがどのようなものであるとして、伝えているのだろうか。この問題は、詩人の言葉で言うところのpietasとは何か、という問題と不可分である。当時のローマ社会独特の社会通念、宗教観、倫理観などの考察を抜きに、この問題を検討することはできない。このとき、とりわけ、「国家の父」と呼ばれ、当時のローマ社会のみならず、後代のヨーロッパ社会に絶大なる思想的影響を与えたキケロの思想を手がかりとして、同時代の桂冠詩人であったウェルギリウスの作品解釈を行うことが有益である。従って、平成11年度は、キケロの作品の中でも、とりわけpietasの概念を中心として扱っている『神々の本性について』(De Natura Deorum)を取り上げ、その作品解釈を綿密に行うことを研究の中心課題とした。
著者
橋本 健二
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,2足歩行ロボットの足部に着目し,砂利道や砂地などの脚接地面が変形するような路面に対する適応歩行の実現を目指し,接地面積が大きく確保でき,路面との接地圧を分散可能な足部機構を開発することを目的とする.しかし,足部機構単体だけではそのような路面すべてに対応することが困難であると考えられるので,歩行を安定化させる制御の開発も必要に応じて行う.計画の前半である平成19年度では,以下の2点について研究を推進した.(1)路面形状保持機構の考案路面の凹凸にならう際に接地面積が大きく確保でき,路面との接地圧を低減させることが可能な路面形状保持機構を考案した.これはスチールボールと永久磁石からなり,路面の凹凸にスチールボールがならい,ロック時にはそこに磁場をかけ,路面形状を保持するというものである.(2)着地衝撃緩和を目指した不整路面適応制御の構築これまでに考案してきている着地軌道修正制御は,そのアルゴリズム上の問題のため,歩行時における着地衝撃が問題となり,継続的な歩行安定性に悪影響を及ぼすという問題点があった.そこで,不整路面に適応しつつ,着地時における衝撃力を緩和する歩行安定化制御のアルゴリズムを考案した.着地時におけるならい動作および着地衝撃緩和に関しては,遊脚中にモータの位置ゲインを下げることにより脚部コンプライアンスを上げ,足底6軸力センサにて測定される力の微分値の立ち上がりにより着地を検知し,運動量保存則に従い,足先速度を0にすることで衝撃緩和を図った.この手法により,従来用いていた着地軌道修正制御においておよそ1000N程度発生していた着地時における衝撃を,およそ400N程度と,自重の30%程度にまで低減させることに成功した.
著者
安仁屋 政武 青木 賢人 榎本 浩之 安間 了 佐藤 和秀 中野 孝教 澤柿 教伸
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

エクスプロラドーレス氷河の前面にある大きなモレインの形成年代を推定すべく周辺で合計15点の^<14>Cによる年代測定試料を採取した。大きなモレインの6つの試料の年代は9250BPから820BPである。このデータからは形成年代に関して確定的なことは言えないが、モレインの堆積構造、試料の産出状況、植生、年輪などから14-17世紀頃の小氷期に形成されたと解釈した。氷河観測では、D-GPS静的測位を用いた氷河流動測定、 D-GPS動的測位を用いた氷河表面形態の測量、5MHzアイスレイダーによる氷厚測定を行った。流動は各期に氷河上の巨礫を反復測定し、末端部付近では50m、アイスフォール下部では140m程度の水平流動を得た。また、末端部付近では著しい上方向の流動があることが観測された。レイダーによる氷河末端付近の氷厚は260〜300mと推定された。氷河流域の年間水収支を算出し、それにより氷河の質量収支を推定した。2004年12月から末端付近に自動気象・水文観測ステーションを設置し、観測を継続している。また、夏季(2004年12月)、冬季(2005年8月)の双方で、氷河上の気象要素分布・表面熱収支・融解量分布などの観測を実施して、氷河融解の特性を明らかにした。2004年12月から2005年12月までの1年間における末端付近の平均気温は7.4℃、降水量は約3300mm、さらに氷河流出河川の比流出量は約6600mmであった。ペリート・モレーノ氷河において、中流部の表面高度測量および歪速度観測、カービングフロント付近の氷河流動の短期変動観測および写真測量、融解観測、氷河湖水位観測、中流部におけるGPS記録計による年間流動の観測、氷河脇山腹における長期写真記録および温度計測を行なった。近年上昇していた中流部の表面高度が2004年〜2005年で減少していた。この地域に2004-2005年の期間にストレイングリッドを設置してひずみや上昇速度を観測したが、大きな下降速度が計算された。また移動速度は0.8〜1.2m/dayの値が観測された。氷河末端部の測量からは、1.5m/dayを超える速度が多くの地点で観測された。
著者
久野 覚 高橋 晋也 古賀 一男 辻 敬一郎 原田 昌幸 齋藤 輝幸 岩田 利枝
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

快適性には、不快がないという消極的(negative)な快適性と、面白い・楽しい・気持ちいいという積極的(positive)な快適性の2種類がある。後者の快適性はプレザントネス(pleasantness)とも呼ばれている。現在の技術の下で、建築環境工学的諸問題の多くが解決され、ほぼ不快のない空間の達成がなされていると言っていい。しかし、このような状態では、暖かいとか涼しいといったプレザントネスはない。本研究の目的は、オフィス環境における温熱環境と照明視環境を中心にプレザントネス理論を応用した新たな環境調整法を検討し、その評価手法を確立することである。得られた成果は以下の通りである。1)温熱環境:被験者実験により、低湿度空調のプレザントネス効果および屋外から室内への移動(環境変化)に伴う生理心理反応とプレザントネス性の関係について明らかにした。さらに、パーソナルコントロールが可能な天井吹き出しユニットを用いた空調方式のプレザントネス効果について研究を行った。他の研究者によって行われている研究との違いは、アンビエントつまり周囲気温を中立温度ではなく不快側に設定する点である。2)視環境:・高輝度窓面をシミュレートする調光可能な光源装置を作成し、オフィス環境実験室でアクセプタブル・グレアの実験を行った。高輝度面に対する被験者の向き、机上面照度、高輝度面の立体角のの影響などについて明らかにした。また、視覚刺激生成器(VSG)を用いた色知覚の研究、光とヒトの生体リズムの研究を行った。3)以上の結果をもとに、オフィス環境におけるプレザントネスについて総括した。
著者
矢田 順三 堀 正倫
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

国内外の実地調査および文献調査に基づいた考察により、持続可能な循環型社会において、パッシブな自然エネルギー利用伝統的技術が主要な役割を果たすと論じた。今日の科学技術は華々しい成果をもたらしている反面、環境破壊というマイナスの部分があるのに対して、伝統的技術は環境調和型である。科学技術の進歩した現在でも、エネルギーの効率については厳然とした限界がある。現代社会は、経済に支配されており、経済的に成立たないために、樹木を育てるべき森林や食料を生産すべき田園が放置される場合がある。持続可能な地球、循環型社会を目標とするときには、自然エネルギーの内容を、いわゆる自然エネルギーに限定せず、これらに森林や食料を含む植物(場合によっては動物)を加えたものを、広義の自然エネルギーとし、これらすべてを一体として取扱うことの妥当性を論じた。歴史的または伝統的家屋における自然エネルギー利用状況を再現するために、本研究で開発したシミュレーション用プログラムを、一部屋だけの最も単純な構造の家屋モデル(立方体型、三角屋根型、竪穴式型)に適用し、標準的な年間外気条件のもとで、1時間毎の室内温度および湿度の計算を冬季及び夏季について行い、屋根および壁の材質(萱、木材、土、岩石)が、これらに及ぼす影響を調べた。その結果、萱を用いた場合が、最も室内温度変動は小さく且つ保温性が良いこと、木材および土壁(漆喰)を用いた場合、室内湿度を外気湿度より低く保つことができること、縦穴式住居の場合、湿度が高いという問題はあるものの、冬は暖かく、夏は涼しいという室内環境が実現されることが示された。循環型社会に使用される作動流体として、自然作動流体(自然冷媒)の熱物性をまとめた。
著者
高橋 達
出版者
東海大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

今年度は、通風と天井扇により室内気流を促進させた二重屋根採冷システムの室内熱環境における快適感・温冷感の変化を定量的に把握するために、試験家屋を用いた被験者実験を行なった。昨年度と同様に東京都立川市にある試験家屋を実験に使用した。特に、天井扇による対流促進の実験のために、天井に扇風機(定格電力使用量43W/台、天井付近の平均風速2.65m/s)を2台設置し、天井表面に気流をあてて室空気を冷やし、室内気流を促進した。実験パターンは「夜間換気」「天井扇による対流促進」「通風」の3つであり、いずれも葦簾による日射遮蔽・天井散水・夜間換気(定格電力使用量4Wの換気扇で20:00〜翌6:00に50m^3/h)を実施しており、被験者はそれぞれ16人、15人、15人である。2006年8月1〜20日に被験者実験を行なった結果、以下のことが明らかになった。1)いずれの実験パターンにおいても相対湿度が50〜85%で高かったにも関わらず、MRTが低めに抑えられていたため、90%の申告割合で温度・湿度について「許容できる」という申告が得られた。2)「天井扇による対流促進」の実験では、外気温30℃以上のときに作用温度28℃未満で温冷感申告が「涼しい」側になり、快適感申告は「快適」側になった。「通風」の実験では、外気温30℃以上のときに温冷感申告が「涼しい」側と「暑い」側とでほぼ半々であり、快適感申告はほぼ「快適」側になった。