著者
笠井 亮秀 小路 淳 小路 淳
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

フィールド調査の結果、ミズクラゲ重量と底層の溶存酸素濃度の間に負の相関が認められた。またミズクラゲの分布域と、魚卵稚仔や動物プランクトンの分布域は、一致していなかった。安定同位体比分析より、ミズクラゲは魚卵稚仔を含む動物プランクトンを主な餌とする雑食性であると推定された。ミズクラゲは強い貧酸素耐性を有しており、沿岸域の 貧酸素化にともない、ミズクラゲへの栄養フローが増大していると推定される。
著者
二木 昭人 吉田 朋好 本多 宣博 増田 一男 村山 光孝
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

今年度は,ケーラー・アインシュタイン計量の存在およびケーラー・リッチソリトンの存在問題において,モンジュ・アンペール方程式の近似解が収束しない場合に現れる乗数イデアル層についての成果を得た.これらの乗数イデアル層と二木不変量との関係を調べることは代数多様体の幾何学的不変式論の意味の安定性,特にスロープ安定性と呼ばれる性質とケーラー・アインシュタイン計量の存在との同値性に関する予想を証明する上で有用である.まず,ケーラー・アインシュタイン計量の存在問題から現れる乗数イデアル層については次の結果が得られた.XをトーリックFano多様体とし,Xはケーラー・アインシュタイン計量を持たないとする.GをXの自己同型群の極大コンパクト部分群,G^Cをその複素化とする.VをG-不変計量を初期計量とするG^C-不変乗数イデアル層の定める部分概型のサポートとする.もし,ある正則ベクトル場に対し二木不変量が正とすると,そのベクトル場が定める半空間とモーメントポリトープの共通部分にVのモーメント像が入ることはない.この結果を用いると2次元射影平面の1点blow-upの乗数イデアル層のサポートが決定できる.ケーラー・リッチソリトンの存在問題は二木不変量の代わりにTian-Zhuの不変量を用いると任意の正則ベクトル場について同様の主張が成立することがわかる.これを用いると2次元射影平面の1点blow-upにケーラー・リッチソリトンが存在することの別証明が得られる.
著者
安井 幸則 橋本 義武 大田 武志 阪口 真 阪口 真
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

近年の超弦理論の発展は高次元のEinstein方程式を解析する大きな動機づけを与えた. このような流れの中で高次元ブラックホールに存在する隠れた対称性を発見した.この結果をさらに発展させ「高次元ブラックホール解の一意性定理」を証明した. また,高次元ブラックホール解をコンパクト化することにより得られる佐々木Einstein計量を使ってゲージ・重力理論対応の検証を行った
著者
安積 徹 佐々木 陽一 喜多村 昇 山内 清語
出版者
国際教養大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

以前安積は、モリブデンの六角クラスターの三重項状態からの燐光の温度変化を解析し、燐光は、三重項状態がスピン軌道相互作用によって分裂した3つのスピン副準位からの発光の重ね合わせによるものと解釈した。その後、モリブデンクラスターと同じ電子数で同じ対称性のレニウムクラスターについてGreyらによって報告されたが、彼らは、スピン副準位を考えず、温度変化の原因を振動励起状態からの発光の寄与と結論した。一方、北海道大学の喜多村らは、スピン副準位の寄与を考えたが、安積のモリブデンクラスターと異なり、4つのスピン副準位が関与していると結論した。電子数も対称性も同じである2種類のクラスターでどうして発光機構がそれほど異なるのかを解明するために、本研究では、モリブデンクラスターとレニウムクラスターを総合的に理論、実験の両面から再検討を行った。実験は、モリブデンクラスターについては、カウンターイオンの異なる2種類のクラスターを、また、レニウムクラスターについては、配位子の異なる2種類のクラスターを、結晶状態およびPMMAポリマー溶液状態で燐光の温度変化を詳細に観測した。その結果、すべてのモリブデンおよびレニウムクラスターについて、燐光は主として3つのスピン副準位からの発光の重ね合わせであることが明らかになった。更に、測定温度を極低温の3Kまで拡張した測定により、2番目のスピン副準位についてJahn-Teller効果による対称性の低下が起こり、それに伴ったエネルギーレベルの分裂が観測された。理論面では、従来のd電子のみを考慮する二重群論に基づく理論が、この種のクラスターに広く適用できることが明らかとなった。
著者
石川 透 佐藤 道生 佐々木 孝浩 寺澤 行忠
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

平成20・21・22年度の3年度に渡り、ニューヨーク公共図書館スペンサーコレクションでの調査研究を行った。その際、反町茂雄氏『ニューヨーク公立図書館スペンサーコレクション蔵日本絵入本及絵本目録』(昭和53年、弘文荘刊、以下、「反町目録」と略称する)を使用し、それが刊行された時点での全貌を把握した上で、研究代表者と連携研究者の4人が、それぞれの専門分野の担当となり、実際の調査の中心となった。その分担は、石川透が物語・説話関係、佐々木孝浩が歌仙関係、寺澤行忠が和歌関係、佐藤道生が漢籍関係ということになった。反町目録に掲載されている作品数は相当数に及び、内容も様々である。それぞれの作品を4人の担当者で分け、下調べをした上で、スペンサーコレクションにおいて、調査・撮影を行うのである。この調査過程において、「反町目録」に掲載されていない収蔵品の存在も明らかになり、より多くの所蔵本を調査することができたのである。この研究の報告会としては、在米のコレクションについての報告会を兼ねた、奈良絵本・絵巻国際会議を、平成20年度にはワシントン・フリア美術館においてワシントン大会を、平成22年度にはニューヨーク・メトロポリタン美術館においてニューヨーク大会を開催した。本来ならば、ニューヨーク公共図書館で開催できればよかったのであるが、残念ながらニューヨーク公共図書館には、コレクションの内容を検討するスタッフが存在せず、最も近い施設でスタッフの存在するメトロポリタン美術館やフリア美術館を使用したのである。これらの集会については、別途紹介予定であるが、盛会の内に、有意義に終えることができた。
著者
野崎 浩 川出 洋 林 謙一郎
出版者
岡山理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高等植物では,ジテルペノイドは植物ホルモン,抗菌物質や摂食忌避物質など,様々な生理活性を示す2次代謝物として生産される.下等な陸上植物である蘚苔類やシダ類においては,それらジテルペンの生合成経路は不明であった.そこで,陸上植物におけるテルペノイド生合成系の進化を世界に先駆けて明らかにすることを目的として,下等植物である蘚類と苔類からのジテルペン合成酵素のクローニングと機能解析に加えて,シダ植物イヌカタヒバからも,ジテルペン合成酵素遺伝子のクローニングと機能解析に着手した.その結果,苔類ツツソロイゴケと蘚類ヒメツリガネゴケのカウレン合成酵素の遺伝子クローニング,機能解析および酵素触媒機構の解析に成功した.また,イヌカタヒバからは,4種類のジテルペン合成酵素遺伝子をクローニングし,その酵素機能に成功した.興味深いことに,シダ類は,より下等な蘚苔類とは異なるタイプのジテルペン合成酵素遺伝子を保持しており,被子植物のジテルペン合成へと進化する途上の酵素遺伝子群と考えられた.
著者
和泉 志津恵 中地 敬 藤井 良宜 古川 恭治 中地 敬 藤井 良宜 古川 恭二
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

分子疫学的因子や生活環境因子が, がん等の疾病リスクにどのような影響を与えるかを調べるために, 生活環境における曝露の寄与率を取り入れた因果推論モデルを構築し, 寄与率の推定値のばらつきを考慮した手法を開発した。提案手法は, m水準のカテゴリカルな曝露変数に対して, 曝露群の症例を曝露由来のものとそうでないものに確率的に分類し, 寄与率に基づくオッズ比により因果関係を推測する。実データに即した数値実験の結果, 曝露由来でないとして分類された曝露群の症例によって, 従来の方法において推測された因果関係の強さが過小評価されている可能性を示唆した。
著者
松浦 眞 生田 信之 石山 純一 鈴木 勝彦 野本 俊夫 今野 一弥 浅田 格 遠藤 智明 野角 光治
出版者
宮城工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は移動実験車を使って中学校への総合的学習への直接的支援活動を行うことを目的とするものであった。本研究を遂行するために必要な条件は第1に移動実験車を設置すること、第2に体験教室を実行できるスタッフを確保すること、第3に体験教室に必要な実験テーマを決定し、実験器具等の準備をすること、第4にこの活動の趣旨を広め、中学校から派遣要請を得ることであった。3年の研究期間を通してこれらの条件のうちはじめの3つの条件は満足できたが、最後の中学校からの派遣要請は予想より少なく必ずしも満足できるものではなかった。しかしながら、3年間の活動全体としては本活動が"リカレンジャー"の呼び名で全国紙やテレビで報道されたこともあり、爆発的ともいえる程の人気を得た。その結果、今や出動要請は引きも切らないほどで、5月には年間の申し込みを締め切らざるを得ないほどとなった。3年間の活動を通して実施した出前体験教室は計29回、教室参加者の合計は2200名以上、講師として参加した教職員の延べ人数は82名、アシスタント学生は延べ160名以上となった。またリカレンジャーの活動はマスコミに繰り返し報道され、地元テレビ局には7回登場し、新聞には3回、ラジオに1回取り上げられた。また読売新聞の全国版にも大きく報道された。このように本活動は青少年、特に小学生に対する理科離れ対策として大きな成功を収めることが出来た。本活動が成功した理由は、(1)移動実験車により求められればどこへでも出かけ、インパクトのあるサイエンスショーとものづくりの楽しさを体験できるワークショップを組み合わせで実施したこと。(2)リカレンジャーの名称やロゴをデザインしたそろいのTシャツを着るなど、子供達に親しみやすいイメージを与えたこと。(3)多くの学生の積極的協力が得られたこと等である。その結果、これまでに経験したことがない広範囲の子供達にサイエンスの不思議さやものづくりの楽しさを経験させることが出来た。本活動は従来各地で行なわれてきた青少年科学祭典とは異なる新しい活動スタイルを生み出したと言えよう。今後、この活動が中学校の理科教師に受け入れられ、中学校の理科教育への支援活動に貢献できるようにすることが課題である。
著者
大賀 水田生 中畑 和之 谷脇 一弘 海田 辰将
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は, 無線機能付きMEMS加速度センサを橋梁等の構造物の構成要素に添付し, そこから得られる振動波形のモニタリング情報から部材の大まかな損傷位置・程度を推定する技術を開発することである。本研究は, 振動時刻歴応答解析シミュレーション技術の構築, 無線機能付きMEMS加速度センサの製作, 及び本システムの検証から成っている。
著者
水田 敏郎 藤澤 清 吉田 和則 保野 孝弘 大森 慈子 宮地 弘一郎 権藤 恭之 堅田 明義
出版者
仁愛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では,知的障害を有する高齢者を対象に認知機能の検討をおこなった.S1-S2パラダイムに基づき,S1を顔刺激としS2で提示される複数の顔刺激からS1を検出するものとし,ボタン押し反応や視行動,ならびに心拍反応から検討を行った.その結果,若年成人群ではS1-S2間隔における心拍反応において,第1減速-加速-第2減速の三相からなる一過性の変動が出現し予期的減速反応を反映したものと考えた.また,後半S2提示直後の刺激探索に関する方略の獲得にあわせて,反応時間の短縮が認められた.他方,高齢者群では正答率,平均反応所要時間などの指標はいずれも若年成人に比べると成績が劣っていた.心拍反応については個人差が大きかったが全体的に若年群に比べて変化が小さく,加齢による心拍変動の減少によると思われた.次に,知的障害高齢者を対象とした同様の心理機能の検討を試みた.その結果,知的障害を有する事例はS2として提示した複数の刺激のなかからターゲット刺激を検出するのが困難であった.そのうち1事例の反応所要時間は顕著に延長しサッケード潜時は比較的短かった.この事例の心拍反応には,わずかに予期的反応を反映した減速反応がみられた.また別の事例では,反応所要時間は比較的短くサッケード潜時は延長していた.本事例の心拍反応はS1提示直後から減速し,S1に対する低位的性格をもつ反応と位置づけた.また同事例では予期的反応がほとんど惹起されず,このことが原因となってサッケードの生起が遅れたと考えられた.以上より本パラダイムで心拍指標を用いて検討すると,刺激の分析を含めた認知過程ならびに予期的反応の生起過程を捉えることが可能になるといえる.また心拍に反映された2つの心理過程は,行動指標の結果にも合致し,知的障害高齢者の認知機能の評価に有効であることが指摘できた.
著者
佐藤 寿倫
出版者
九州工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

近年値予測を用いたデータ依存の投機的実行が注目されているが,値予測のためのハードウェア量が問題となっている.本研究では,値予測機構のハードウエア量を削減することを検討した.具体的には,頻繁な値の局所性に着目し.予測値を0と1だけに限定している.SPECべンチマークではレジスタに書き込まれる値の平均で20%以上が0と1で占められているので,予測値を制限しても有意義なパフォーマンスが得られる.シミュレーションの結果,提案した予測器は2倍以上のハードウエア規模を必要とする従来の最終値型予測器よりも,性能が高いことが確認された.
著者
大場 秀章 SUBEDI Mahen 宮本 太 寺島 一郎 黒崎 史平 増沢 武弘 若林 三千男 菊池 多賀夫 SUBEDI Mahendra N.
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

世界最大のヒマラヤ山脈では、植生の明瞭な垂直分布構造がみられる。高山帯最上部の亜氷雪帯は海抜4000mから5000mにあり、そこでは高等植物はまばらにしか生えていない。いわば、植物にとっては極限環境ともいえるこの亜氷雪帯に生える植物には特殊な形態をした種が多々ある。なかでも特異なものは温室植物とセ-タ-植物で、これらはヒマラヤとその周辺地域にしかみられない。本研究ではこれら温室植物・セ-タ-植物を中心に亜氷雪帯にのみ生育する特殊形態をした植物の形態学・生理学的特性、ならびにこれらの植物が生育する地域の植物相と植生を解析することを目的に計画された。1)調査地域としてネパ-ル東部のジャルジャル・ヒマ-ルを選定した。対象とする植物を豊富に存在すること、交通の便などを考慮した結果この地域を選んだ。2)ジャルジャル・ヒマ-ルの海抜4300mの無名地を主たる観測場所とし、ここで実験を行なった。3)光合成、蒸発散、温度、湿度、日照量などの経時変化を、種々の実験機器を用い測定・記録した。これらの機器は電気で作動するものであったが、発電機を携行した。これらは、ヒマラヤ高山の現地で得た、世界ではじめてのデ-タである。4)目下デ-タは解析の途上にあるが、代表的温室植物のRheum nobileでは、晴れると気孔を閉じて光合成が停止するといった特性が発見され、温室植物・セ-タ-植物がヒマラヤ東部の湿潤環境と関連していることを示唆された。5)温室植物・セ-タ-植物は亜氷雪帯を中心に分布するが、高山帯中部でのテ-ラスやモレ-ンの砕礫地に、生育している。様々な実験を行なった観測基地の周辺で、Rheum nobileが生育する場所の立地条件、群落密度、微地形に対応したミクロスケ-ルでの植生、繁殖法を調査した。6)温室・セ-タ-植物の細胞遺伝学的特性を明らかにするため、様々な種々根端、茎頂、未熟胚、花粉母細胞を固定し持ち帰った。現在、染色体数、核型などの解析を進めている。7)代表的温室植物である、Rheum nobileにおける胚発生を観察するための材料を採集し、持つ帰った。8)上記の種の成長過程を解剖学的に解析するための材料を採集した。9)ジャルジャル・ヒマ-ルには温室・セ-タ-植物を多産するこことが判明したので、同地高山帯の全植物相を調査し、その特性を明らかにした。10)温室・セ-タ-植物の地理的分布を明らかにするため、環境上乾燥ヒマラヤに傾斜したネパ-ル西部ジュムラ奥地と、ジャリジャル・ヒマ-ルより一層湿潤なインド・ダ-ジリン地区シンガリラ山地において調査し、これらの植物の分布調査を行なった。11)上記の諸調査・解析で得た成果はすでに14篇の論文その他として専門学術誌などに発表あるいは投稿中である。その他専門学術誌に発表予定の論文を数篇準備中である。12)上記成果の一部として、「ジャルジャル・ヒマ-ルの植生と植物相」(英文)を刊行する。これは、ヒマラヤ地域における初の地域植物誌である。これらの研究を通じてヒマラヤ山脈に固有な温室植物・セ-タ-植物の存在が湿潤ヒマラヤの環境と深く関係している可能性が示唆された。ひと口にヒマラヤといっても、植物学的にみれば実に多様であり、ヒマラヤ内部での地域性の存在を示すものである。今後、ヒマラヤの植物学的特性の一般化に向けて、特性を有する地域間での比較研究の必要性が改めてクロ-ズアップされたともいえる。
著者
渡辺 公三 高村 学人 真島 一郎 高島 淳 関 一敏 昼間 賢 溝口 大助 佐久間 寛
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

フランス人類学の定礎者マルセル・モース(1872-1950)はデュルケームの甥であり、フランス穏健社会主義の指導者ジョレスの盟友であり、ロシア共産主義の厳しい批判者であった。その人類学分野以外での活動もふくめて思考の変遷を、同時代の動向、学問の動向、学派(デュルケム学派社会学)の進展との関係を視野に入れて明らかにし、現代思想としての人類学の可能性を検討する。そのうえでモースの主要業績を明晰判明な日本語に翻訳する。
著者
竹元 博幸
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

Takemoto(2004)は、チンパンジーの地上利用頻度に季節差があるのは、樹上果実量が多いときに樹上を良く利用するためではなく、気温が高い季節は地上部が過ごしやすい気温になるためだと結論している。熱帯林内の林冠付近は地上部にくらべ気温が高いのが一般的傾向であると言われているが、アフリカの大型類人猿調査地で気温の垂直構造が測定された事はない。本研究は、熱帯林内の食物量と気温や湿度など物理環境の変動を地上部から林冠までの垂直構造とともにとらえ、野生チンパンジーとボノボの森林内空間利用がどのように変化するかを明らかにすることである。本年度は今まで収集した資料を用いて両種の生息地の環境と地上利用の違いを解析した。西アフリカ・ボッソウのチンパンジーの地上利用時間は乾季に増大し、雨期に減少する。また、雨期には林冠に近い高さを良く利用するが、乾季の利用高度は低くなる。対して中央アフリカ・ワンバ地域のボノボの地上利用時間の季節差は無く、森林内の利用高度も変化しなかった。両生息地とも林冠付近の気温は5℃程度地上付近の気温より高かったが、気温の季節変化はボッソウが大きい。多変量解析によると、地上性の差は種や調査地あるいは果実量の差ではなく、観察日の気温の影響が強いことが判明した。森林内気温の季節変化が大きいボッソウ地域に対して季節差の少なかったワンバ地域の気象が森林内利用空間の違いをもたらしていると考えられる。今後2種の採食内容を比較するとともに、アフリカ古気候の変遷が2種の生態に与えた影響について考察したい。
著者
蓬茨 霊運 柴崎 徳明
出版者
立教大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究から次のようなことが明らかになった。1.X線新星、LMXB(低質量連星型X線星)それぞれのX線スペクトルには二成分が存在する。この内の一成分はどちらにも共通しており、降着円盤から期待されるスペクトルによく合う。この降着円盤成分はどちらのX線源においても強度の時間変動がきわめて少ないか、あってもゆるやかである。このことから中性子星のまわりにも、またブラックホールのまわりにも同じような性質の降着円盤が形成されているといえる。2.スペクトルのもう一方の成分は、X線新星の場合は、ベキ型のスペクトル、LMXBの場合は黒体輻射のスペクトルでよく表わされる。ベキ型の成分はブラックホールの近傍でホットプラズマによるcomptonizationあるいは非熱的なプロセスでつくられるのであろう。一方、黒体輻射成分は中性子星表面からの放射と考えられる。3.ベキ型成分、黒体輻射成分はどちらも激しい強度変動を示す。X線新星でもLMXBでも、スペクトルの二成分はそれぞれ独立に変動することをみつけた。もしこれらの二成分が正の相関をも動するならば、降着円盤を通過した物質がブラックホールや中性子星表面に到達することになる。したがって、二成分間に相関がないということから、中心天体への物資降着には降着円盤(幾何学的にうすく光学的にあつい円盤)を通過するチャンネルの他にもう一つ別のチャンネルがあると結論できる。もう一つのチャンネルに対し、私たちは降着降着円盤が二重構造、つまり光学的にあつく幾何学的にうすい円盤が光学的にうすい円盤ではさまれたサンドイッチ状の構造になっているのではないかと考えている。現在、観測との比較のため必要になる二重構造円盤のより詳細な性質に向けて研究を進めている。
著者
上原 秀幸
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

圃場で観測した土壌水分データの空間相関特性に基づき、センサノードをクラスタリングし、ノード間の協調制御で低消費電力を図るセンサネットワークプロトコルを開発した。具体的には、(1) 観測データの空間相関分布特性に基づくクラスタリング・アルゴリズム、(2) ノード間協調によるON-OFFスケジューリング制御、(3) 環境の変化に対応してクラスタを再構築するアルゴリズム、(4) 省電力化に加え転送遅延とスケーラビリティを改善する疑似同期MACプロトコルを開発した。
著者
大浦 宏邦 海野 道郎 金井 雅之 藤山 英樹 数土 直紀 七條 達弘 佐藤 嘉倫 鬼塚 尚子 辻 竜平 林 直保子
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

秩序問題の中核には社会的ジレンマ問題が存在するが、社会的ジレンマの回避は一般に二人ジレンマの回避よりも困難である。本研究プロジェクトでは、Orbel & Dawes(1991)の選択的相互作用の考え方を拡張して、集団間の選択的な移動によって協力行動が利得のレベルで得になる可能性を検討した。まず、数理モデルとシュミレーションによる研究では、協力型のシェアが大きければ選択的移動が得になる可能性があることが明らかになった。次に所属集団が変更可能な社会的ジレンマ実験を行った結果、協力的な人は非協力者を逃れて移動する傾向があること、非協力的な人は協力者がいるうちは移動しないが、協力者がいなくなると移動することが明らかとなった。この結果は、特に協力的なプレーヤーが選択的な移動をする傾向を持つことを示している。実験室実験の結果を現実社会における集団変更行動と比較するために、職場における働き方と転職をテーマとした社会調査を実施した。その結果、協力傾向と転職行動、転職意向には相関関係が見られた。これは、実験結果の知見と整合的だが、因果関係が存在するかどうかについては確認できなかった。方法論については、基本的に進化ゲームやマルチエージェント分析は社会学的に有意義であると考えられる。ただし、今回主に検討したN人囚人のジレンマゲームは社会的ジレンマの定式化としては狭すぎるので、社会的ジレンマはN人チキンゲームなどを含めた広い意味の協力状況として定義した方がよいと考えられた。広義の協力状況一般における選択的移動の研究は今後の課題である。
著者
金森 修 杉山 滋郎 杉山 滋郎 小林 傳司 金森 修
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

金森修は、コンディヤックの『動物論』を分析する過程で、人間と動物との関係を巡る認識的議論にその調査対象が拡大した。その過程で、金森はフランスの重要な科学史家ジョルジュ・カンギレムの仕事に注目するようになった。そして結果としては、コンディヤックの『動物論』自体の分析は、擬人主義論の中ででてくることはでてくるが、副次的なものになり、より射程の広い擬人主義論、そしてカンギレム自体のさまざまな業績を扱った四つの論文、計5篇の論文の形で、その成果をまとめることができた。まず「擬人主義論」では、心理学が擬人主義を放擲かくするに及んで、もともとの研究プログラムを喪失していく過程の分析、比較心理学や動物行動学に伏在する擬人主義の剔抉などを中心に扱った。次の「主体性の環境理論」では、一八世紀から一九世紀初頭にかけて、環境という概念がどのようにその意味あいを変えていくかを巡る史的な分析を行い、それが一九世紀から二○世紀にかけて、主体を環境によって規定された受動的なものとしてではなく、それなりに環境を構成する能動的なものとして把握するという思潮がどのようにでてきたのか、またその考え方の環境倫理学的な意味あいについて分析した。次の「生命と機械」論では、古来からの生物機械論と生気論とが、現代的なバイオメカニックスや人間工学においては、対立ではなく、融合を起こしていること、そのため、人間がどこまで機械として説明できるのか、という問い自身がもはや成立しえないことを論証した。次の「生命論的技術論」では、技術的制作一般を巡る主知主義的な把握を破壊し、技術制作と創造者との間の相即的で相互誘発的な関係を分析した。 次の「美的創造理論」では、アランの美学をカンギレムが分析している文章を精密に分析する過程で、創造行為一般における創発性、規範の存在の重要性などを分析した。杉山滋郎は、平成2年度から4年度に収集した文献資料をもとに、当初の研究目的にそって考察を進めてきた。その結果、「生命観」の概念規定を明確にすることに努めつつ、わが国における「生命観」の時代的変化ならびにその特質について、概念が把握されつつある。現在のところまだ具体的な論考には結晶していないが、必要な資料をさらに収集して、今後しばらく検討を続けたうえで、すみやかに成果を公表する予定である。
著者
中澤 達夫 蔵之内 真一
出版者
長野工業高等専門学校
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、低コストで高効率の太陽電池実現が期待される、銅-インジウム-セレン(GIS)系薄膜太陽電池の各要素のうち、バッファ層用のCd(Zn)Sおよび吸収体材料であるCIS(S)薄膜を溶液法で堆積するための基礎を検討したものである。得られた新たな結果を以下にまとめて示す。・CBD法によりCdS薄膜の堆積では、出発原料としてよう化物,あるいは,硫酸塩を用いると、塩化物や酢酸塩を用いた場合に比べ、よりムラが少なく表面状態の良好な膜が得られた。・溶液法によるZnS膜の堆積は困難であった。CdZnS膜については、溶液中のCdとZnの混合比率の制御により、膜中のCd/Zn比を制御することができた。・電気めっき法によるCIS薄膜の堆積では、Cu-In-Seの三元素を混合した溶液を用いるone-step堆積法により、ほぼ良好なCIS薄膜が得られることがわかった。・CIS膜の禁制帯幅制御を行ってさらに太陽電池の変換効率を改善することを目指し、三元素の電着溶液にさらに硫黄(S)を加えた四元素を同時電着する方法を試みた。この場合、電着溶液を一定時間放置し、生じる沈澱をろ過し去った溶液を用いることでCuIn(S, Se)_2四元薄膜が堆積できることがわかった。このとき、ほぼ化学量論組成の膜を得るための電着条件(電着電位、溶液組成)を明らかにした。・電着した薄膜を真空中で熱処理することにより、CuInSe_2およびCuIn(S,Se)_2のX線回折ピークが観察され、カルコパイライト構造を持つ半導体薄膜の形勢が確認できた。・CIS薄膜上にアルミニウム薄膜を蒸着した構造で、整流性が確認できた。
著者
長野 仁 高岡 裕 真柳 誠 武田 時昌 小曽戸 洋
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

中国を起源とする漢方だが、腹診と小児鍼は日本で発達した診断・治療法である。本研究の第一の目的は、日本における腹診の発達の歴史の解明である。加えて、もう一つの日本発の小児鍼法も解析対象である。本研究の成果は、腹診の起源と変遷と、小児鍼成立に至る過程、の二点を解明した事である。加えて、資料の電子化とオントロジー解析も実施し、更なる研究に資するようにした。