著者
松村 人志 江村 成就 黒田 健治
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

研究代表者らは、以前に、一酸化窒素(nitric oxide : NO)の生体内合成酵素(nitric oxide synthase : NOS)の阻害剤であるN^G-nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME)をラット間脳領域に持続投与すると、レム睡眼が顕著に増加することを見いだし、続けて、NOを供与する性質を持つ化合物であるNOC 12を同領域に投与すると、レム睡眠が減少することを見いだした。これらの実験結果から、間脳領域のNOがレム睡腹の制御に関与しているのではないかと考えた。レム睡眠を制御するならば、ひいては、意識変容といった病態にも関与する可能性もある。しかし、L-NAMEやNOC 12の作用が本当にNOの変動を介したものなのか、あるいは何らかの別のメカニズムによるものかは明確でなかった。そこで、間脳領域のNOが睡眠・覚醒、とりわけレム睡眠と連関した日内変動を示しているのか、さらにL-NAMEを投与した際に、間脳領域で、本当にNOが量的に低下しているのかを確かめる必要があると考えた。本研究では、無拘束ラットで、2日あるいはそれ以上にわたり持続的に間脳領域のNOの量的変動を測定しつつ、さらに間脳領域にL-NAMFを6時間にわたり持続投与し、その睡眠・覚醒に対する効果を観察しつつ、同時にNOの量的変動を記録することに成功した。その結果、間脳領域のNOは、ラットの活動期である夜間に高値を示し、睡眠期である日中に低下するという日内変動を示し、さらにL-NAMEを持続投与することで、低下を示すことが証明された。本研究では、この成果を、この研究グループがこの2年間になし得た他の関連研究成果とともに報告する。
著者
片山 一道 徳永 勝士 南川 雅男 口蔵 幸雄 関 雄二 小田 寛貴 上原 真人 清水 芳裕
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

南太平洋に住む人びとの祖先集団であり、ポリネシア人が生まれる直接の祖先となった先史ラピタ人の実態を解明するため、生物人類学、先史人類学、考古学、生態人類学、人類遺伝学、年代測定学、地球科学などの研究手法で多角的な研究を進めた。トンガ諸島のハアパイ・グループ、サモアのサワイイ島、フィジーのモツリキ島などで現地調査を実施して、それぞれの分野に関係する基礎資料類を収集するとともに、それらのデータ類を分析する作業を鋭意、前進させた。それと同時に、ラピタ人からポリネシア人が生まれる頃にくり広げられた南太平洋での古代の航海活動を検証すべく、ポリネシアから南アメリカの沿岸部に散らばる博物館資料を点検する調査を実施した。特記すべき研究成果は以下のごとくである。まずは、フィジーのモツリキ島にあるラピタ遺跡を発掘調査して古人骨(マナと命名)を発見し、フィジー政府の許可を得て日本に借り出し、形質人類学と分析考古学の方法で徹底的に解析することにより、古代ラピタ人の復顔模型を作成するに成功したことである。マナの骨格、ことに頭蓋骨は非常に良好な状態で遺残しており、これまでに発見されたラピタ人骨では唯一、詳細な復顔分析が可能な貴重な資料であったため、世界に先がけて古代ラピタ人の顔だちを解明することができた。それによって彼らがアジア人の特徴を有するとともに、併せて、現代のポリネシア人に相似する特徴も有することを実証できた。そのほか、一般にポリネシア人は非常に足が大きく、世界でも最大の大足グループであることを証明し、その性質がラピタ人の頃に芽生えたらしいことを推論できたこと、さらに、サモアのサワイイ島で考古学の発掘調査を実現できたこと、トンガ諸島で古代の漁労活動を類推する資料類を収集するとともに、現代人の遺伝的な関係を分析する血液試料を採集できたことなども大きな成果である。とりわけ世界で最初に復顔したラピタ人の等身模型は国内外に発信できる本研究の最大の研究実績であろう。
著者
鳥居塚 和生 平井 康昭 堀 由美子
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

硫酸亜鉛(5%) 20μL点鼻による嗅覚障害モデルマウスを作成し,嗅球中モノアミン含量への影響について電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフィー法により検討した.その結果,対照群に対して,硫酸亜鉛を点鼻投与した群のドーパミン(DA)組織重量は低下することがわかった.この嗅覚障害モデルマウスに対して,漢方処方の加味逍遥散(KSS:柴胡,芍薬,朮,茯苓,当帰,甘草,牡丹皮,山梔子,薄荷,生姜)を経口投与した群では, DA組織重量の低下が抑制された.構成生薬10種より一味の生薬を除いた処方を作成し生薬の寄与を検討したところ,加味逍遥散の脳内モノアミン含量に対する障害改善効果は,構成生薬が総て揃った処方としたときが最も高く,一味を抜くことで弱まることを確認した.また甘草,芍薬,生姜,朮が効果に大きく寄与することが示された.また感覚器入力に対する行動薬理学的検討を実施した.その結果,嗅覚障害モデル動物が記憶学習障害の評価モデルの一つとなりことを明らかにした.またこのモデルにおける嗅球におけるドーパミンレベルの著しい低下と,受動的回避課題の大幅な減衰を引き起こすことに関与する物質を明らかにする目的で,嗅球における神経伝達物質の機能を持つとされるL-カルノシン(β-alanyl-L-histidine)の関与について検討した. L-カルノシンの腹腔内投与により用量依存的にマウスの常同行動を惹起した.またこれらはドーパミン受容体拮抗剤のクロロプロマジン,ハロペリドールおよびドーパミン合成酵素阻害剤で抑制された.中枢におけるドーパミン神経系における制御にL-カルノシンが寄与することを示した.またドーパミンの再取り込み阻害剤ノミフェンシンの投与で,記憶学習障害が顕著な改善を示すことを明らかにした.
著者
澤木 啓祐 鯉川 なつえ
出版者
順天堂大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

低酸素環境下におけるトレーニングは、現在心肺機能や造血機能などの効果を期待し、マラソンをはじめ水泳、スキーやスケート等様々なスポーツで取り入れられている。しかし、高地の環境は低圧。低酸素・低温および低湿度であるため、冷たい空気は水分を多量に含むことができない。平成17年度に本研究グループは、高地での運動中は、平地に比べ、呼吸や発汗の促進に伴い身体から大量の水分が失われ、水分の喪失が多く、血液量が減少する原因になる可能性について報告した。そこで本研究では、長距離ランナーの高地滞在中に、水を2リットル/日の適正なウォーターローディングブログラム群(以下Water群)と水を自由に摂取する群(Control群)で、血液データおよび血液レオロジーがどのように変化するかを検討することとした。研究方法は、長距離走を専門とする男子学生ランナー5名を対象に、標高2300mの高地で5泊6日の高地トレーニングを2回実施した。被験者はWater群とContro1群にわけ、1ヶ月以上あけて再度実施する、オーバークロス方式とした。そして、高地トレーニング前後に血液検査と、(株)エムシー研究所製MC-FAN HR300 Bloody7にて血液レオロジー測定を実施した。なお、両群に差がでないよう研究期間中の食事、練習量を統制し、健康調査を実施した。その結果、以下の知見が得られた。1.Water群、Control群ともに高地トレーニング後において、RBC、Hgb、Hctおよび血小板が有意に増加した。2.Control群は、高地トレーニング後において、Na、C1が有意に低下した。またKは有意に高まり、Water群との間に有意な差がみられた。3.高地トレーニング後の血液通過時間は、両群の間に有意な差は認められなかったが、Water群(52.1秒/100μl)に比べControl群(67.1秒/100μl)の方が延長する傾向がみられた。これらの結果から、両群とも高地トレーニング後に血液通過時間が延長したのは、血放生化学的酸素運搬能の向上と、軽い脱水症状によるものと考えられる。しかし、高地滞在中にウォーターローディングを実践することで、血液流動性を改善させ、高地トレーニング効果を高める可能性が示唆された。
著者
竹本 雅憲
出版者
成蹊大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、信号交差点左折時において多方向から横断歩道に進入する自転車に対して、自動車運転者の危険予測能力を高めて安全な確認行動を誘導する運転支援システムの開発を目指した。そして、具体的なシステムを設計して支援効果を実験的に検証するとともに、システムの設計要件を示した。特に、運転に合わせて確認行動を誘導する即時支援システムと、運転後の運転診断アドバイスによって次回運転時の確認行動を間接的に誘導する事後支援システムとを併用することで、高い支援効果が得られた。
著者
松山 洋 泉 岳樹 中山 大地 島村 雄一 長谷川 宏一 尾身 洋
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の主な成果は以下の通りである。(1)葉面積指数をよりよく推定する新植生指標を提案した。(2)常緑針葉樹であるオオシラビソの分布規定要因を定量的に示した。(3)太陽高度の低い時期における衛星画像の地形効果補正法を提案した。(4)集中型モデルであっても融-流出量を精度よく推定できることを示した。(5)北方常緑針葉樹林の生育開始に融雪が影響している可能性を示した。(6)タブレットPCを用いた高速マッピングシステムを構築した。
著者
小野塚 知二 藤原 辰史 新原 道信 山井 敏章 北村 陽子 高橋 一彦 芳賀 猛 宮崎 理枝 渡邉 健太 鈴木 鉄忠 梅垣 千尋 長谷川 貴彦 石井 香江 西村 亮平 井上 直子 永原 陽子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2022-06-30

野良猫の有無とその消滅過程に注目して、人間・社会の諸特質(家族形態、高齢化態様と介護形態、高齢者の孤独、猫餌の相対価格、帝国主義・植民地主義の経験とその変容、動物愛護思想、住環境、衛生意識、動物観など、従来はそれぞれ個別に認識されてきたことがら)を総合的に理解する。猫という農耕定着以降に家畜化した動物(犬と比べるなら家畜化の程度が低く、他の家畜よりも相対的に人間による介入・改変が及んでいない動物)と人との関係を、「自由猫」という概念を用いて、総合的に認識し直すことによって、新たに見えてくるであろう人間・社会の秘密を解明し、家畜人文・社会科学という新しい研究方法・領域の可能性を開拓する。
著者
新川 詔夫 太田 亨 吉浦 孝一郎
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ヒト耳垢型決定遺伝子ABCC11多型に関する分子遺伝学的・医学的・人類学的研究を行った。乳癌との関係は証明されないが、産婦の初乳量と湿型耳垢型との間、および腋窩臭症と湿型多型間に相関を認めた。全国SSHコンソーシアムとの共同研究で、乾型耳垢型のアレル頻度に関する日本地図を完成した。さらに、ABCC11遺伝子多型が湿型。乾型耳垢型表現型を形成する分子機構を明らかにした。
著者
森澤 眞輔 米田 稔 中山 亜紀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

放射線等価係数を用いた新しいリスク評価法をベンゼン誘発白血病に適用した結果、1ppmの大気中ベンゼンに対して3.5×10-4-8.5×10-4、1μg/m3の大気中ベンゼンに対して1.2×10-7-2.8×10-7の白血病リスク推定値を得た。これらの推定値は表6に示した疫学情報に基づく報告値と比べて約30分の1から約20分の1程度の過小評価となった。白血病の標的臓器である骨髄の正常細胞を用いることでリスク推定値が改善されたと言え、エンドポイント毎に適切な細胞を用いるなど用量-反応評価の条件を整えることで、より正確な健康リスク評価が実現できると予想される。本研究の成果により使用細胞等の実験条件を発症機構に即したものへと近づけることで、より正確なリスク評価が実現できる可能性が示された。今後実験条件に更に改良を加えることで、信頼性を保った予見的な新しいリスク評価法の実現が期待できる。
著者
岩垣 真人 楠山 研 牧野 邦昭 松山 直樹
出版者
沖縄大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では,京都帝国大学や,県立兵庫高等商業学校,琉球大学などに着目し,まず,そのような高等教育機関が,どういった経緯で,既存の高等教育機関に対抗して設立されたのか,検討を行う。さらにそれらの高等教育機関において,対抗関係と特殊な事情の下で掲げられた,教育・研究に関する理念が,現実との関係のなかでどのように変容していったのか,分析を行う。この研究では,帝国大学などを軸とした「国策」に基づく高等教育機関の設置やその発展とは異なる,全国各地で地域のニーズに応じて設置・運営された後発の高等教育機関像を並列することで,日本における高等教育機関の複線的記述を一層拡張することを試みていく。
著者
寺田 祐子
出版者
静岡県立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

メントール受容体TRPM8に対する新規のアンタゴニストとして、Voacanga africanaのvoacangineを見い出し、論文として発表した。Voacangineは初めての化学アゴニスト選択的TRPM8アンタゴニストであり、副作用のないTRPM8遮断薬のシード化合物になることが期待される。さらに構造-活性相関研究を行い、化学アゴニスト選択的TRPM8阻害に決定的に重要な構造を明らかにし、論文として発表した。本ワサビ・西洋ワサビ・カラシ類に含まれるisothiocyanete化合物20種を用いた構造-活性相関研究を行い、構造とTRPA1・TRPV1活性の関係について調べた。本研究により、本ワサビの緑の香り・カブ様の香り成分(ω-alkenyl isothiocyanetes・ω-methylthioalkyl isothiocyanetes)は、低辛味でありながら、allyl isothiocyaneteと同等のTRPA1・TRPV1活性を持つことが明らかとなった。TRPA1・TRPV1活性を持つ食品成分は、エネルギー代謝を高めるため、抗肥満効果がある。これまで報告されてきたTRPA1・TRPV1アゴニストは強辛味のものが多いが、低辛味のアゴニストは強辛味のものに比べて摂取し易いと考えられる。本研究結果は、低辛味のTRPA1・TRPV1アゴニストの開発に貢献することが期待される。本結果を論文にまとめて提出し、現在査読を受けている。また研究予定にはなかった、婦人科がん(卵巣・乳・子宮がん)患者の生存期間とTRPチャネルの発現量に関する解析及び、カプサイシン受容体TRPV1の発現量・TRPV1アゴニストが卵巣がんの増殖に与える影響の解析を、米国ミシガン州立大学にて行った。予定にはなかった米国での研究も実施でき、期待以上に研究を進展させることができた。
著者
藤井 雅文
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、電磁気学および電子物理化学を基礎とする新しい原理による短期地震予測法を確立することを目標としている。地震の直前には地殻の岩盤に圧力が加わることにより、応力誘起された大量の電荷が岩石内部から放出される。そしてこれらが地表面に出現し滞留することで上空の電波によって励起されプラズマ振動する。これがさらに上空の電波伝搬に影響を与え、通常の状況では生じ得ない遠方への超長距離伝搬が引き起こされることが明らかになっている。特に地殻活動に伴う電磁気現象を理論と実験観測の両面から考察し、地震の前に地殻に作用する応力の変動を精密な電波観測により広範囲に検知し、その観測精度を向上することにより地震の短期予測を実現することを目指している。高感度低雑音の観測装置を用いて電磁波の観測を実施している。これまでに規模の大きな地震の数日前から前日にかけて、異常な電波伝搬現象を観測している。特に2022年3月16日の福島沖M7.4の地震の直前に非常に明瞭な電磁波異常を観測した。この観測結果により、これまでの異常現象が地殻活動に由来するものであることを示すことが可能となり、地震前兆時に異常信号が観測可能かどうかの論争に終止符を打てる可能性が高まっている。また、我々は地震予測の適中率と地震発生の予測率を評価しており、近年はそれぞれ90%近い値を得ている。さらに、観測データを深層学習により解析し異常信号から地震の発生を予測する研究を実施しており、高い精度で予測できる結果を得ている。これらの結果をすでにまとめて科学技術誌に投稿し、現在審査結果を待っている。
著者
高橋 康介
出版者
立命館大学
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2022-06-16

棋士は脳内に将棋盤をイメージし操作する(以降「脳内盤」と呼ぶ)。熟達した棋士の脳内盤の在り方は多様であり、将棋に関する法則と物語が内在化されている。本研究では棋士の中にある熟達した脳内盤の表象と多様性を明らかにし、その多様性を生み出す背景要因を探る。まず脳内盤メトリクスを作成し、オンライン調査により棋士の脳内盤の表象と多様性を定量的かつ体系的に解明する(研究1)。続いて棋士のイメージ化に関連する認知特性の個人差を認知心理学実験により検討する(研究2)。さらにインタビュー調査により棋士それぞれの固有の脳内盤が育まれた熟達化過程、来歴、経験を探る(研究3)。
著者
高浪 景子
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

1. 両生類ツメガエル知覚神経系におけるガストリン放出ペプチド(GRP)系の組織化学解析前年度行った遺伝子発現解析およびタンパク質発現解析の結果を受け、今年度は、中枢神経系におけるGRPの局在解析を行うため、成体ネッタイツメガエル(Silurana tropicalis)の脳および脊髄組織を用いて免疫組織化学解析を行った。その結果、脳-脊髄の広域にわたり、GRP免疫陽性を示す神経軸索が密に分布していた。さらに、延髄および脊髄において、GRP免疫陽性線維や細胞体が多数観察された。以上から、両生類ネッタイツメガエル知覚神経系においてもGRP系が発現していることが示唆された。2. 硬骨魚類メダカ知覚神経系におけるGRP遺伝子、アミノ酸配列の同定硬骨魚類メダカ(Oryzias latipes)のゲノム情報に基づいたバイオインフォマティックス解析によりGRP/GRP受容体のオ-ソログ遺伝子を単離した。得られたメダカGRP配列を既に報告されている他の脊椎動物におけるGRPホルモン前駆体の配列と多重配列アライメントを用いて解析した。その結果、今回同定したメダカのGRP配列もGRP受容体配列もこれまで報告された他の脊椎動物との高い相同性が示された。次に、GRPとGRP受容体の各臓器における発現分布をRT-PCRを用いて解析したところ、哺乳類と同様にメダカにおいてもGRPが中枢神経系と消化器系に発現し、GRP受容体は脳と脊髄で高発現することが明らかになった。また、ウエスタンブロット解析により、GRP受容体のタンパク質レベルでの発現を調べた結果、脳と脊髄において、メダカGRP受容体の予測される分子量に特異的なシグナルが確認された。以上から、メダカ脳・脊髄においてもGRP/GRP受容体ともに遺伝子およびタンパク質レベルで発現することを明らかにした。
著者
本岡 毅
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

1.高波長分解能・高時間分解能の地上観測による、各種土地被覆の分光特性の把握昨年度、一昨年度に引き続き、各種土地被覆において分光特性(ハイパースペクトル分光放射計による)や天空・地表面状態(定点自動撮影カメラによる)の観測を、コンピュータ自動制御により毎日継続して実施した。観測は順調に実施され、本研究提案の分光指数GRVI (Green-Red Vegetation Index)を用いた植物季節検出アルゴリズムや土地被覆分類アルゴリズムの開発と検証に必要なデータを取得することができた。また、得られた地上データを用いてサブピクセルサイズの雲によるノイズについて検討した。その結果、従来多く用いられてきた分光指数(NDVI)では大きなノイズ成分が生じる一方で、それ以外の指数(特に近赤外・短波長赤外の波長域を利用したNDWIやLSWIなどの指数)ではほとんどノイズが生じないことがわかった。これは、適した分光指数を選択することで時系列情報を有効活用できることを示しており、本研究を遂行するうえで重要な知見である。2.分光指数の時系列変化情報を用いた土地被覆分類分光指数の時系列変化の特徴から各ピクセルの土地被覆を分類するアルゴリズムを構築し、2001年から2010年までの衛星観測データ(Terra MODIS、8日間コンポジット、大気補正済み)に適用した。対象範囲は日本である。現在、現場の踏査情報を用いた検証とアルゴリズム改良を進めている。
著者
鶴岡 真弓
出版者
多摩美術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

前年度に続き、2021年度も、コロナ禍が全世界で終息の兆しがみえず、本研究の重要な目的の1つである、ロシアやカナダなど海外の博物館・美術館おいて、美術史・考古学・宗教民俗学的なアプローチからおこなう「鹿」信仰」の調査、なかでも、「角」を神聖視する「鹿角」信仰の背景を現地調査の実行ができないまま推移した。また21年度末の2月下旬には戦争も勃発し、世界情勢は予測できなかった事態となった。特に本研究の主題であるスキタイ美術の筆頭たる作例「黄金の鹿」(ロシア南西部、黒海東岸、クラスノダール地方コストロムスカヤ、第1号墳出土、前7世紀後半-前6世紀初頭)は、ロシアの博物館(エルミタージュ博物館:サンクト・ペテルブルク)に所蔵されている。初年度から継続させるべき、本作と他の博物館所蔵の「鹿造形」の「様式」「形態」「素材」に関する現地での実見・観察の機会はなお阻まれている。しかし現地には赴けないなかにも、「黄金の鹿」が出土した黒海沿岸からみると、遥か東方の「南シベリア」の巨大古墳から出土した、スキタイの早期の「動物意匠」と比較することによって、「黄金の鹿」が生まれた最盛期を準備した、初期段階の動物意匠の分析できた。そこから「黄金の鹿」の「角」の部位を特徴づけている「湾曲」形態の由来、ならびに早期と成熟期の形態上の差異を解明することを集中的におこなえた。それを証明する遺跡は、スキタイ時代の古墳として最大の、現トゥバ共和国に所在する「アルジャン古墳」である。これはユーラシアの遊牧社会に築かれた「クルガン=大古墳」で、首都クイズイルの北西部のウユク川 (エニセイ川支流) 流域のスキタイ時代 (前8―3世紀頃) に属し、ここから「鹿」「豹」などを象った金工の動物意匠が出土させているので、スキタイ美術の動物意匠の出発点を、「角」の「湾曲」形態の特質に光を当て明らかにできた。
著者
中島 岳志
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

1920年代前半は大正デモクラシーが拡大した時期とされる。しかし、その数年後の30年代には超国家主義が拡大したとされる。この急激な変化の間にあるものは何か。本研究では、大正デモクラシーと超国家主義・アジア主義の連続性に注目し、その特質を追究した。特に新人会・無産政党メンバーの思想と行動に着目し、彼らの構想に内在する超国家主義・アジア主義の論理を抽出した。成果の一部は『超国家主義-煩悶する青年とナショナリズム』(2018年、筑摩書房)として出版した。
著者
高木 駿
出版者
北九州市立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

近代美学では、「美」が「善」から独立したことに伴い、「悪」と混同されてきた「醜」も、独立した一つの概念と見なされるようになった。現代に入ると、醜さは、崇高との強い連関が発見され、美の範疇では理解不可能な芸術を説明するための美的範疇として定着した。しかし、醜さは、崇高と関係しない場合もあり、芸術にのみ限定されるものでもなく、特に「自然の醜さ」が未解明のままに残されている。本研究は、「自然の醜さ」の解明を行う。そのために、 カントの美学理論を用いる。カントの理論は、自然を対象とする理論であると共に、不快の感情に基づき、崇高と関わる醜さをも含めた様々な種類の醜さを説明できるからである。
著者
田中 英彦 富田 眞治 斉藤 信男 雨宮 真人 村岡 洋一
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

重点領域研究・超並列は総括班と、4つの研究班、それぞれ(A)超並列アプリケーション班、(B)超並列プログラミング言語班、(C)超並列計算機用OS班、および、(D)超並列アーキテクチャ班で構成されている。本年度は成果とりまとめの年度として、各班がそれぞれの成果をリファインするとともに、最終のデモンストレーションに向けてそれぞれの成果や開発されたシステムの垂直的な統合化をを行った。総括班は研究全体の取りまとめを司り、約3か月ごとに会合を開き、各班の研究状況の確認や意見交換などを行った。本年度は、特に成果とりまとめ年度として、3月の第7回「超並列」シンポジウムの開催、その際のデモンストレーションの計画、成果をまとめた英文図書の出版、過去のシンポジウムの予稿集のCD-ROMの作成など、プロジェクトの成果を積極的に国内外にアピールしてゆく活動を幅広く敢行した。A班は、超並列計算における新たなアルゴリズムやアプリケーションの構築を目的とし、以下のような応用に対しB班が開発した超並列言語NCXなどへの移植を行い、各種の実験や性能評価、及び言語開発へのフィードバックを行った:・熱流体、渦発生のシミュレーション・弾性体の変形と応力の計算(境界要素法)・場の計算(境界要素法)とSORによるポアソン方程式求解 ・有限要素法における自動メッシュ分割・コンピュータグラフィックスにおける並列レンダリング・生態系(魚群)の自律型行動シミュレーション・並列遺伝的プログラミングによるニューラルネットの構造生成・実時間音楽情報処理システムB班では、超並列言語NCXの実装を改良すると共に、共有メモリ型計算機、分散メモリ型並列計算機、ワークステーションクラスタなど、種々なアーキテクチヤを持つ並列計算機への対応化を行った。また、幾つかの代表的なベンチマークプログラミングを移植し、それぞれの計算機上で性能評価を行った。更に、その他のMIMD型の超並列型プログラム言語V,ANET-LやABCL/fなどの並列計算機上での開発も行った。C班では、超並列計算機でのマルチユーザの保護と性能、複数のユーザのプログラミングモデルの提供、超並列用入出力機構のサポート、などの特徴を備えた超並列計算機用のOS・COSを設計・開発した。本年は、D班の作成する超並列計算機JUMPミ1へのCOSの実装に備え、並列ワークステーションをLANで接続した評価用の環境を用意し、その上にJUMP1ミ1のエミュレータとCOSマイクロカーネルをのプロトタイプを結合したCOSエミュレータを設計・実装した。また、D班の開発したプロトタイプボードJUMP-1/3(仮称)へのCOSエミュレータの移植を行った。D班では、様々な超並列計算のパラダイムに対応できる共有メモリ超並列計算機JUMPミ1の研究開発を遂行し、本年度は(1)主要コンポーネントであるメモリベースドプロセッサ(MBP)、キャッシュコントローラ、ネットワークル-タなどのを開発・デバッグを行い、(2)MBPをDSPでソフトウェアシミュレーションして他の部分はJUMP-1と同設計のシステムJUMP-1/2の設計・開発をし、(3)また、JUMP-1の特徴である高速プロセッサ間ネットワークRDTや高速シリアルI/OシステムStaff-Linkの開発・及びCOS開発のために、SUNワークステーションに接続して種々の実験が行える評価用ボードJUMP-1/3の設計・開発を行った。
著者
横山 百合子 廣川 和花 森田 朋子
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

1872年の芸娼妓解放令は、“遊女の背後には必ず売春を強制する者がいる”という近世の売春観から、“淫らな女が自ら売るのが売春である”とする近代の売春観への変容の起点をなす法である。本研究では、これを近代初頭の「売春の再定義」と位置付け、日本社会にこのような売春観の変容をもたらした政治的、社会的背景を、19世紀の国際社会の動向、性感染症をめぐる近代医学の進展等もふまえて多角的に検討し、近世近代移行期社会の実像を断絶と継続の両面から明らかにするものである。