著者
浦野 正樹 松薗 祐子 長谷川 公一 宍戸 邦章 野坂 真 室井 研二 黒田 由彦 高木 竜輔 浅川 達人 田中 重好 川副 早央里 池田 恵子 大矢根 淳 岩井 紀子 吉野 英岐
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、東日本大震災を対象として発災以来社会学が蓄積してきた社会調査の成果に基づき、災害復興には地域的最適解があるという仮説命題を実証的な調査研究によって検証し、また地域的最適解の科学的解明に基づいて得られた知見に基づいて、南海トラフ巨大地震、首都直下地震など次に予想される大規模災害に備えて、大規模災害からの復興をどのように進めるべきか、どのような制度設計を行うべきかなど、復興の制度設計、復興の具体的政策および復興手法、被災地側での復興への取り組みの支援の3つの次元での、災害復興に関する政策提言を行う。また、研究の遂行と並行して、研究成果の社会への還元とグローバルな発信を重視する。
著者
西園 晃 アハメド カムルディン 齊藤 信夫 山田 健太郎 鈴木 基 グエン キューアン パカマッツ カウプロッド エリザベス ミランダ
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

東南アジアにはイヌ肉を食する文化があり、感染犬とその食肉の取り扱いに伴う狂犬病感染リスクが想定されるが、実態は全く知られていない。3年間の計画で、ベトナム、フィリピンでのイヌ肉取り扱いによる非定型狂犬病曝露の可能性、リスク因子の解析を行った。その結果、これらの国では動物咬傷に依らずイヌ肉を食するまたはその肉を扱うことで、狂犬病ウイルスに感染する非定型的な感染様式が存在することが明らかになった。特にベトナムのイヌ食肉市場従事者の中には、イヌからの咬傷曝露歴や狂犬病ワクチン接種歴がないにもかかわらず狂犬病ウイルスに対する抗体を有し、微量のウイルスの曝露による不顕性感染が成立したと考えられた。
著者
大泉 匡史 小村 豊 笹井 俊太朗
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

左脳と右脳をつなぐ脳梁がてんかんの治療のために切断された脳は「分離脳」と呼ばれ、患者はあたかも左脳と右脳に2つの独立した意識が生じているかのような行動をとる。分離脳を理解することは、我々がなぜ左脳と右脳とで統合された1つの意識を持ち得るのかということを理解する上で重要である。本研究では、この分離脳の神経メカニズムの理解を目標として、サルのECoGデータの記録及び、神経活動データから神経ネットワークの構造を抽出するアルゴリズムの開発を行った。このアルゴリズムは情報の統合が最大となるサブネットワークを効率的に探索することが可能で、これによって脳活動からネットワークの分離を判定することが可能となる。
著者
伊藤 弘明 岩崎 基 原田 浩二
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ここ数十年で乳がんの年齢調整罹患率は著しく増加してきたが、乳がんの原因はその既知の危険因子だけでは半分程度しか説明できないとされている。一方、新規な環境汚染物質である有機フッ素化合物への曝露が乳がん発生に関与している可能性が注目されている。しかしながら世界的にもデータが乏しく、国際機関が発がん性を評価していない有機フッ素化合物も多い。既存の疫学研究では異性体別に研究しておらず、南半球での研究例もまだない。これまで日本人女性において有機フッ素化合物が乳がんの発生に及ぼす影響の解明を進めてきたが、これに加え、本研究ではブラジル人女性における症例対照研究を行い、国際比較と統合解析を行う。
著者
山口 琴美
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

日本だけでなく海外を含め、妊娠線に関する研究はほとんど発表されておらず、妊娠線の出現機序や原因について明らかにされていない。妊娠線出現と妊娠線予防行動が妊婦の心理面に及ぼす影響について初めて QOL 評価票を使って明らかにした。妊娠線予防対策実施群では、妊娠線が出現しているにもかかわらず、QOL に差異を認めなかった。そのため、妊娠線予防対策は妊婦に対して QOL の視点から考慮されるべきことが示唆された。
著者
垣田 裕介
出版者
大分大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

平成19年度に行った研究活動は、主に次の3点である。第1に、前々年度および前年度に引き続いて、ホームレス問題や貧困・社会的排除論に関する先行研究成果のレビューを行った。本研究課題に関する文献・資料は、急速な勢いで量を増してきており、効率的にサーベイし、重点をふまえたレビューを行うためにも、全国レベルの学会や私信・メール等を通じて、研究論文の著者や関係者との意見・情報交換なども積極的に進めてきた。学内外の研究会等においても先行研究のレビュー報告や意見交換を行った。第2に、本研究課題に関する実態把握を目的として、共同研究者らと前年度に兵庫県尼崎市で行ったホームレス実態調査の分析を行い、その結果の分析および報告書執筆の作業に携わった(大阪府立大学社会福祉調査研究会編『ホームレスの実態に関する全国調査及び尼崎市悉皆調査報告書』2008年)。第3に、以上に関する研究作業を発表する作業であり、雑誌論文や共著を発表した。以上のように、平成19年度の研究活動は、先行研究のレビューや実態分析を中心として進めてきた。3年間の交付期間を通して、先行研究や実態調査データなど、非常に多くの豊富な研究材料を得ることができたため、引き続き分析・研究作業を進めていくことが課題となるとともに、当面の筆者の研究活動の深化を図ることのできる環境が整備されたといえる。
著者
藤田 尚 茂原 信生 松井 章 鈴木 隆雄
出版者
新潟県立看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

現在まで、韓国の古人骨研究でまとまったものは、日本の古墳時代初期に相当する礼安里人骨の報告があるのみと言って良いだろう。しかし、礼安里人骨は個体数こそ70個体を数えるが、保存状態が良好なものはごくわずかであった。しかし、平成16年度から調査研究を行った勒島人骨は、礼安里人骨の時代をさかのぼること約400年。日本の弥生時代の中期初頭に相当し、しかも極めて保存状態が良好な個体が数多くある人骨群であった。また、当時の韓国にどのような疾病が存在したかと言う観点での研究は、現在まで全くなされていない。結核の起源など、渡来人によって日本に持ちこまれた疾病を解き明かすことは、昨今の古病理学の大きな課題であり、日本、韓国を始めとする、東アジアの疾病史の研究においても、非常に価値が高いものであった。以上のように、平成16年度より、基盤研究(C)「韓国勒島出土人骨に関する形質人類学的研究」を行い、日本の弥生時代中期相当の、韓国南部の人骨の形質や古病理学的分析を進めてきた。その結果、当時の日本と韓国は、文化的・人的交流が非常に盛んであったことが、明らかとなった。一例を挙げれば、勒島遺跡からは、日本の弥生土器(須玖I式、II式土器など)が多数出土し、恐らくは、日本の土器が搬入されたのではなく、「日本人が移住していた」と考えられる。人骨の形質は、概ね北部九州地方から出土する「渡来系弥生人」に類似するが、男性で変異が大きく、女性で変異が小さいという特徴を持つ。この傾向は、礼安里人骨、土井ヶ浜人骨には共通するが、金隈人骨の女性は変異が大きく、違った傾向を持つ。
著者
石 純姫
出版者
苫小牧駒澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

前近代期末期から近代期初期、戦時期、戦後においての朝鮮人の移住と定住化の形成過程について調査を行った。北海道においてはアイヌ民族との非常に緊密な繋がりを確認した。また、北海道立文書館から明治16年、朝鮮人に対して、鳥獣猟を許可する公文書を発見した。これは明治初期における朝鮮人の定住化を示唆するものと考えられる。朝鮮人の移住と定住化は、幕末や明治期の早い時期から進んでおり、従来の説を根底から覆すものと考える。また、歴史的背景は異なるが、サハリンにおける朝鮮人とアイヌ民族、その他の先住民との繋がりとアイデンティティーの重層性と複雑さを考察した。
著者
安達 登 坂上 和弘 澤田 純明
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

東京都、千葉県、長野県から出土した縄文時代人骨合計23個体について、新規開発したミトコンドリアDNAの一塩基置換検出法を用いた解析をおこない、17個体の解析に成功した。観察されたハプログループの種類およびその出現頻度は北海道および東北縄文時代人に類似していたが、サブハプログループのレベルでは、従来検出されなかった遺伝子型も確認された。本研究の結果は、いわゆる「縄文人」を遺伝的に均一な集団として捉えることが難しいことを示唆しているものと考えられた。
著者
藤井 進也 中島 振一郎 野田 賀大
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

近年、音楽経験を豊富に積んだ高齢者は、音楽経験の少ない高齢者に比べて、ワーキングメモリーや実行機能など、認知課題の成績が優れていると報告された。これらの先行研究を踏まえると、音楽はヒトの認知機能の改善や維持、長寿健康社会の実現に有用であると示唆されるが、その神経生理メカニズムは十分に解明されていない。そこで本研究では、核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)と、経頭蓋磁気刺激と高解像度脳波の同時計測手法(TMS-EEG)を用いて、音楽家と非音楽家の前頭前野グルタミン酸・γアミノ酪酸(GABA)神経機能を横断比較し、音楽機能・認知機能との関連性を解明する。
著者
櫻井 勝康
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-04-01

目的1. オーガズムを視覚的に捕える-オーガズムの脳内表現 -1-1. Cat-FISHによるオーガズムをコードする神経細胞群の探索1-2. in vivoイメージングによるオーガズムをコードする神経細胞群の神経活動の計測目的2. オーガズムを機能的に捕える-オーガズムのコントロール -2-1. CANEシステムによるオーガズムをコードする神経細胞群の操作
著者
瀬川 拓郎 水野 章敏 秦野 裕介 葛原 俊介 岡 陽一郎 中村 和之 山本 けい子 寺門 修
出版者
札幌大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

奥州藤原氏の建立になる平泉・中尊寺や、藤原秀衡の平泉館といわれている柳之御所遺跡から出土した金箔に用いられている砂金に、北海道の砂金が使われていたかどうかを明らかにする。そのため、SEM-EDSおよびXRFにより、非破壊分析を実施する。それと平行して北海道・東北各地の砂金および産出地の土壌サンプルを蓄積する。このデータベースの数値と平泉での測定数値を比較して、砂金の産地同定を行う。
著者
高橋 麻理子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、マクジャク(鳥綱キジ目キジ科クジャク属)の求愛行動を調査し、先に報告されている同属インドクジャクの求愛行動と比較した。比較の結果、オスの上尾筒(目玉模様の付いた長い飾り羽)を使ったディスプレイ行動が2種間で酷似した一方、繁殖期の音声はオスとメスともに2種間で異なり、音声の特徴の性差はマクジャクで小さかった。本研究の結果は、上尾筒を使ったオスの求愛行動が2種の共通祖先によって獲得された古い形質であること、一方で求愛音声が2種の分岐後に新しく変化した形質であることを示唆している。
著者
平山 真理
出版者
白鴎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では裁判員裁判で性犯罪が審理される場合(以下、性犯罪裁判員裁判と言う)の課題をさまざまな観点から考察した。これらの課題は、量刑の変化とその理由、被害者への配慮、裁判員の負担、被告人の処遇や性犯罪対策に対する裁判員の期待等である。これらの課題について性犯罪裁判の傍聴や弁護人、また被害者団体へのインタビューを通じて考察を行った。また、比較法的視点として、米国、英国、ドイツ、ベルギーにおける市民参加型裁判の傍聴、調査を行い、とくに性犯罪事件等における課題を考察した。また、性犯罪者対策や性犯罪被害者支援について諸外国の実践例を考察した。
著者
岩崎 稔 今井 昭夫 篠原 琢 長 志珠絵 金井 光太朗 石井 弓 成田 龍一 板垣 竜太 小田原 琳 土田 環 米谷 匡史 藤井 豪
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本事業は、「歴史にとって記憶の問題とは何だったのか」という共通の課題設定のもとで、「記憶論的転回以後」の集合的記憶に関する言説状況を検討し、東アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカの事例研究を空間的に広げて総括してきた。また、二十世紀後半以後の時系列に即して、個々の社会的コンフリクトのフェーズことに記憶の動態分析も行ってきた。その場合、モーリス・アルヴァックスの概念設定に端を発し、ドイツのヤン・アスマンやアライダ・アスマンの概念装置などにも立脚しながら自覚的に記憶と忘却の反省的理論として整理することをめざしてきている。また、とくに本事業の取組みの焦点となるのは、メモリースタディーズの高度化によって獲得された知見や語彙の明示化であり、また記憶論的転回以後に起こっている歴史像の分断や二極化という劇症化したコンフリクトの分析であった。これまでにも、記憶に関するブレーンストーミングのワークショップなどを開催し、①国民国家の記憶に関するヨーロッパボーダーランド地域の個別研究、②戦後東アジアの記憶の再検討、③記憶と忘却の動態の理論化、④記憶と忘却のレキシコンの作成などに、ひとつひとつ取り組んできた。そうしたなかで、研究分担者からは、新たに意識化されたハザードスタディーズの一環としての記憶の語りや、近年のレイシズム再来現象についても、災害の記憶やコロニアリズムの記憶という論点として、積極的に組み込んでいくべきであるという提案があり、それらを通じて事業計画の視野はより豊かになってきている。
著者
長廣 利崇
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

大学で得られた学びが職業にどのように活かされているのだろうか。比較的データを集めやすい「今」を対象とした研究は多いが、過去にさかのぼってこれを検討した研究は少ない。我々の生きる「今」は、過去の蓄積から成り立っているため、歴史的視点が重要になる。この研究は、第二次世界大戦以前における日本の高等教育(とくに文系の教育)を受けた学生・生徒の学びが職業にどのように結びついたかを検討するものである。この研究によって戦前期のイメージを掴み、「今」をより深く知ることができよう。
著者
中塚 武 木村 勝彦 箱崎 真隆 佐野 雅規 藤尾 慎一郎 小林 謙一 若林 邦彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2017-05-31

全国の埋蔵文化財調査機関と協力して、年輪酸素同位体比の標準年輪曲線の時空間的な拡張と気候変動の精密復元を行いながら、酸素同位体比年輪年代法による大量の出土材の年輪年代測定を進め、考古学の年代観の基本である土器編年に暦年代を導入して、気候変動との関係を中心に日本の先史時代像全体の再検討を行った。併せて、年輪酸素同位体比の標準年輪曲線(マスタ―クロノロジー)を国際的な学術データベースに公開すると共に、官民の関係者への酸素同位体比年輪年代法の技術一式の移転に取り組んだ。
著者
竹沢 泰子 斎藤 成也 栗本 英世 貴堂 嘉之 坂元 ひろ子 スチュアート ヘンリー 松田 素二 田中 雅一 高階 絵里加 高木 博志 山室 信一 小牧 幸代
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、京都大学人文科学研究所における定期的な共同研究会と2002年に国際人類学民族学会議において東京と京都において行った国際シンポジウムをもとに、推進してきた。共同研究では年間13日間開催し、毎回5時間以上かけ2人以上が報告を担当した。これまで検討してきた人種の概念に加え、人種の表象と表現に焦点を当てながら、人種の実在性についても、発表や討議を通して研究を発展させた。本研究の最大の成果は、2002年に国際人類学民族学会議において東京と京都において行った国際シンポジウムをもとに、学術研究書をまもなく刊行することである(竹沢泰子編 人文書院 2004)。この英語版も現在アメリカ合衆国大学出版局からの出版にむけて、準備中である。本研究の特色のひとつは、その学術分野と対象地域の多様性にある。さまざまな地域・ディシプリンの人種概念を包括的に理解する装置として、編者(研究代表者)は、小文字のrace、大文字のRace、抵抗としての人種RR(race as resistance)を主張する。それによって部落差別などの意見目に見えない差別の他地域との共通性が見えてくる。さらに、それぞれの三つの位相がいかに連関するかも論じた。また人種概念の構築や発展にとって、近代の植民地主義と国民国家形成がいかに背後に絡んでいるかも考察した。具体的には、まず広告、風刺画、文学作品、芸術作品に見られる人種の表象、アフリカや南米でのアフリカ人の抵抗運動、言説分析、ヒトゲノムや形質(歯や頭骨)からみたヒトの多様性なである。地域的にも、琉球、中国、インド、ドイツ、フランス、アフリカ、アメリカ、南米などにわたった。
著者
浅井 隆志 野崎 智義 佐貫 潤一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

Toxoplasma gondiiに特異的と考えられていたジチオスレイトールにより活性化されるヌクレオシド三リン酸加水分解酵素(NTPase)が最近新種として登録された細胞内寄生原虫Neospora caninumにも存在ことを明らかにした。この酵素(NcNTPase)の遺伝子の塩基配列を調べたところ、予想アミノ酸数は626でT.gondiiのそれより2残基少なく、545と546番目のアミノ酸が欠落していること、NcNTPaseには二つ以上のサブタイプがあることが判明した。またNcNTPaseはT.gondiiに二つあるNTPaseアイソザイムのNTPase-IおよびNTPase-IIと約69%のアミノ酸配列が相同であった。また酵素学的性質はNTPase-Iに似ていた。このNcNTPase遺伝子組換体を作製し、ヒトIgG抗体との反応性を酵素抗体法(ELISA)で調べた。健常人のIgG抗体とNcNTPaseは反応せず、色素試験陽性者(T.gondii感染者)のうち一部のIgG抗体だけがNcNTPaseに反応し陽性であったが、しかし殆どのIgG抗体は全く反応しなかった。一部の陽性例は当然N.caninum感染が疑われたが、両虫体の全抗原を用いたウエスタンブロット法による精査の結果、両感染者ともNcNTPase以外のN.caninumのどの抗原とも反応しないが、多数のT.gondii抗原と反応することから、この陽性例のN.caninum感染は否定された。このことから、NcNTPaseはN.caninumのエイズなど免疫不全患者における人体寄生例の検索に有用な抗原であることが示唆された。
著者
能川 元一 河野 哲也 中村 雅之 信原 幸弘
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1.J.J.ギブソンの生態学的知覚論、F.J.ヴァレラのEnaction理論はいずれも伝統的な実在論/観念論という存在論的な二項対立を超えた存在論、客観主義/主観主義という認識論的な二項対立を越えた認識論を要求しており、これらはメルロ=ポンティが自らに課した哲学的な問いと同型である。2.それゆえ、メルロ=ポンティに依拠しつつギブソン、ヴァレラらの認知科学に哲学的な基礎を与えることができる一方で、メルロ=ポンティの存在論、認識論を解釈しなおす可能性も生じる。研究分担者河野はメルロ=ポンティとギブソンの存在論を「性向の実在論」として再定式化することを提案している。3.また、研究分担者信原は心脳同一説への批判として、認知は脳、身体、環境からなるシステムによって担われていることを、コネクショニズムの立場から明らかにした。また研究代表者能川が分担して研究したEnaction理論の見地からすると、コネクショニズムを身体-環境というシステムの中に位置づけることにより、ギブソンやヴァレラらが主張する反表象主義の立場とコネクショニズムとを整合的に理解する可能性が開ける。後者については、今後さらに研究を継続する予定である。4.研究分担者中村は「心の理論」論争がもたらした知見を認知意味論の解釈にとりいれることにより、認知意味論に欠けていた意味の間主観的生成という側面を記述することが可能になることを示した。また研究代表者能川は関連性理論をある種の「心の理諭」として捉えなおし、コミュニケーションを「表象」ではなく「行動」の観点から理解しなおす可能性を検討したが、これについては今後さらに研究を進める必要がある。