著者
萱 のり子 神林 恒道 梅澤 啓一 新関 伸也 赤木 里香子 大嶋 彰
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、近代以前から日本が緊密な文化的影響関係をもってきた東アジア諸国における鑑賞教育を調査することにより、(1)近代主義の功罪を見直し、今後の文化的・伝統的視点の生きた教育理念を構築していくこと、(2)教育現場での授業実践へと研究を推進させていくための基盤を得ること、を目的としている。調査内容は、理念に関わる資料収集と、現場の実践見聞を主としたフィールドワークを主とし、東アジアの鑑賞教育を対象として以下2つの視点から行った。(1)東アジア諸国(中国・台湾・韓国)における「近代」以降の鑑賞教育の理念と実践に関わる資料収集、および現在の美術教員による授業実践に関するフィールドワーク(2)東アジア諸国の鑑賞教育に対する欧米(アメリカ・ドイツ)の研究、および欧米における鑑賞教育の東アジアへの影響に関する調査研究成果の形態・研究成果報告書には、調査収集資料をもとに、研究メンバーがおのおのの視点から考察を加えたものを収録した。・研究期間中に収集した資料の中から文献を邦訳して抄録した。これは、今後の継続的な研究に向けて、研究メンバーが相互活用できる便宜をはかり、別途CD-ROMに収めた。・調査研究をすすめつつ、鑑賞教育の具体的なありかたを提示するため『鑑賞101選』を執筆・編集した。はじめに、歴史的・文化的に重要な作品を西洋・東洋からそれぞれ選出し、公教育において取り上げるべき作品の検討を行った。続いて、現場での授業で鑑賞教材として活用していくために、作品に関して3つの視点「作品のテーマと内容」「作品の見所」「美術史上の位置」を設け、全202作品を分担執筆した。・書画領域の共通課題を認識する上で、本課題と重要な接点をもつ国際会議(第5回書法文化書法教育国際会議)の研究論文選を別途刊行した。今後の課題報告書に収めた論考は、研究メンバーおのおのが、それぞれの国や自治体が発する教育方針を把握した上で、現状に根ざす実践上の課題を提起したものである。今後は、これらをカリキュラムや指導理念に反映させながら、実践の力を高めあうネットワークづくりを目指していきたいと考えている。
著者
掘江 未来 芦沢 真五 芦沢 真五 太田 浩 黒田 千晴 舘 昭 米澤 彰純 吉川 裕美子 堀江 未来
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.国内調査日本の高等教育機関における外国成績・資格評価の実態を明らかにするため、留学生受け入れ大規模校30校を対象に、質問紙調査及び訪問調査を行った。留学生入試に携わる教職員から得られたデータを分析した結果、日本では、留学生選抜において、外国成績評価のシステムは確立しておらず、個々の教職員の経験と知識によって書類が評価されていること、特に重視されているのは証明書の真偽検証であること、留学生選抜に教員が深く関与していることが明らかになった。2.アメリカ及びヨーロッパ諸国における調査及び関係機関におけるトレーニング受講NAFSA年次総会やEAIE年次総会に参加し、米国・欧州における外国成績・資格評価システムの基礎情報及び最新動向について情報を収集した。また、外国成績・資格評価を専門的に行う団体であるWES、AACRAO、NUFFICを訪問し、これらの機関における評価手法、成績・資格評価の専門家育成のプロセス、ならびにオンラインデータベースの開発のプロセス、運用状況について調査した。3.実務ワークショップ/研究シンポジウムの開催2006年3月、米国・イギリス・オランダから外国成績・資格評価の専門家を招き、日本の大学の入試担当職員に対し外国成績・資格評価の理論的な枠組みについての講義を実施し、議論を深めた。2006年7月、アメリカとヨーロッパから外国成績評価の専門家を招聘し、日本の高等教育機関で留学生選抜業務に携わる教職員を対象とした、外国成績・資格評価の実務ワークショップを開催した。2006年11月、本研究で得られた知見をもとに、米国・オランダから高等教育専門家を招き、日本における外国成績・資格評価のシステム化の可能性について議論した。
著者
塩村 耕 高橋 亨 阿部 泰郎 榊原 千鶴
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

人間とは動物の中で唯一死の概念を有する「死を知る人(homo memor mori)」であり、そうであるがゆえに未来へ本を遺し、過去の本を読む「本の人(homo librarius)」でもある。したがって、書物は人類の遺した文化遺産の中で最重要のもので、我々は遺されたそれらの全体像を出来るだけ明らかにすべき責務がある。この研究計画の目的は、古典籍の宝庫として知られる西尾市岩瀬文庫の古典籍全1万8千点について、各書籍の書誌、成立、内容を詳細に書き込んだ、いまだかつて見られないような「記述的(descriptive)」な書誌DB(データベース)を完成・公開し、そのことを通して新たな時代の書誌目録のあり方を全国の所蔵機関や文庫に提案することにある。本研究計画に先立つ事前調査を含めて6年間の集中的調査を経て、現在1万1千点について調査入力が終了した。また、DB公開運用の先行モデルとして、並行して調査を進めてきた名古屋大学附属図書館神宮皇学館文庫について平成17年4月より書誌DBを公開し、新たに判明した問題点を改善した。まだまだ前途は遼遠ながら、岩瀬文庫という豊富にして多彩な内容を含む一大文庫について、DBを完成公開する夢の実現が具体化しつつある。正直に言えば、古典籍にかかわる一研究者として、珠玉の知見に満ちたDBを公開することに躊躇する気持ちは、調査開始以後しばらくの間は強くあった。しかしながら、大量の古典籍-その全ては死者の遺したものである-に触れる中で、書物と人間との関わりについて体感開悟するところがあり、今ではDBの公開が書物の活用に大きく資するものであり、そのことが書物を遺してくれた先人たちに対する報恩となることを確信している。そして、このようなDBが方々の文庫に備わることによって、日本の人文学が新たな局面に一歩を踏み出すに違いない。
著者
泉 武夫 長岡 龍作 シュワルツ・アレナレス ロール 井上 大樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

兜率天上の弥勒菩薩の造形について、インドから日本中世までの展開過程をおおよそ明らかにした。中国唐代までは持水瓶・交脚形が主流であるが、宋代およびその影響を受けた日本中世では持麈尾・趺坐形が浸透する。また兜率天浄土の表現についても、中央アジアから中国、日本に至る図様形成と変容状況を遺品から跡づけた。とくに日本中世の兜率天曼荼羅図のタイプを整理することができた。
著者
小池 孝良 笹 賀一郎 日浦 勉 高木 健太郎 牧野 周 丸山 温 船田 良
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

冷温帯葉落広葉樹の光合成生産機能を,森林を構成する高木の機能を樹冠レベルで評価するとともに,ギャップ更新稚樹や低木層構成樹種の光合成特性を基礎に考察した。樹冠部の光合成特性は林冠層をやや越えた高さ24mの樹冠観測タワーを用いて測定した。上層木の開葉と共に林床へ到達する光量は減少し,落葉とともに増加した。また,CO_2濃度の垂直変化は,風のない日中に樹冠部位では約320ppmまで低下し,夕方には林床付近で約560ppmに達した。高木層の開葉は雪解けの約1週間後から始まり樹冠基部から先端に向かって進行した。シラカンバやケヤマハンノキなどの散孔材樹種の開葉が早く,ハリギリやヤチダモなどの環孔材では約2週間遅かった。初夏には全ての樹種の樹冠部位での光合成速度は高かったが,真夏には樹冠のやや内部に位置する葉の光合成速度が最高であった。落葉が始まる初秋には先駆種であるシラカンバとケヤマハンノキの光合成速度は高かったが,全体としては樹冠部位での光合成速度に樹種間の差はなかった。樹冠下部の葉では集光機能を代表するクロロフィルb量が多く,また,窒素のクロロフィルへの分配量も多かった。林床では上層木の葉が展開して林冠が閉鎖する前に葉を展開し終える樹種や,上層木が落葉しても葉を保持し降霜まで緑葉を維持する樹種が存在した。林床に生育する稚樹では,光飽和での光合成速度(最大光合成速度)は大きな年変動を示した。この原因として春先の乾燥により厚く小さな葉が形成されることが考えられ,葉内部でのCO_2拡散抵抗が最大光合成速度を律速することが示唆された。窒素は最大光合成速度と高い正の相関を持つことから,非破壊で同一葉の機能を推定できる窒素計測器を導入することによって樹冠全体の光合成生産を非破壊で推定できる。
著者
渋谷 寿一 納冨 充雄 井上 裕嗣 岸本 喜久雄
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

次世代の半導体素子は,プリント基板に実装された後に樹脂で上から基板ごとコーティングするタイプが増加すると考えられている.また,高温用タービンブレートは,耐熱性のセラミック材料を溶射によって金属基材にコーティングする.このような場合は,コーティング層の強度特性評価を充分に行わないと,材料の信頼性が得られない.そこで,コーティング層の機械的特性と湿度や応力による劣化の評価を行なうことが重要である.本研究では,金属のベース材料にコーティングが施された場合の,コーティング層の機械的特性と湿度や応力による劣化の評価を行った.本研究の成果を以下の通りである.(1)収集した情報に基づいて,コーティング素材の選定を行い,コーティング母材の試験片を製作した.(2)曲げ試験を行い,荷重-たわみ関係等を測定した.(3)x線応力測定装置で試験片表面のコーティング層の残留応力を測定した.(4)残留応力の測定結果を基に,破断荷重をワイブルプロットにより整理し,統計的な処理によって一般化破断荷重を決定できることを明らかにした.(5)ワークステーションを用い,材料中の各層ならびに層間に働く応力分布を弾性論にもとずく数値解析によって明らかにした.(6)各試験前後の試験片のコーティング層の界面を走査型電子顕微鏡で詳細に観察し,メカニズムを解明した.
著者
大塚 英作 平野 雅章 古門 麻貴 田名部 元成 橋本 雅隆 松井 美樹
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

電子商取引の本格化によって新しいビジネスモデルが提唱され、これを実現するためのサプライチェーン・マネジメントのあり方が議論されはじめている。海外の事例としてウォルマートを、国内の事例として株式会社しまむらを取りあげ、小売業態を起点とするサプライチェーンにおけるロジスティクス・ネットワークの構造とオペレーションについて検討した結果、小売業態を起点としたサプライチェーンに、構造上・オペレーション上の特長を見出すことが出来、中間流通における物流機能の高度化は、小売業態の設計の中に組み込まれてはじめて可能になることが理解された。サプライチェーンの革新的効率化の道具として注目されているRFID(無線タグ)についても広範なサーベイを行い、その問題点、技術的課題、応用可能性などについて検討を行った。また、伝統的な企業(ブリック&モルタル)が情報技術をフルに活用する企業(クリック&モルタル)に移行(「ネットトランジション」と呼びます)するには、単にホウムペイジを作成すればよいわけではなく、企業がおかれた競争環境の他に企業自身の組織能力を見極め、自社の優位性を活かし不利をカヴァーするような、戦略と一体となった情報システムの使い方を編み出すとともに、一旦設定された戦略と情報システムの組み合わせも、競争環境や技術の変化に対応して見直していく必要もあるわけであるが、本研究では、既存企業が戦略的に情報システムを活用するためのネットトランジションの戦略パターンおよびネットトランジションに必要な組織能力・ネットトランジションプロセスのマネジメントのあり方について検討した。これらの成果を実験的に検証するためのシミュレーターとしてビジネスゲームを構築した。さらに、本研究では、これからの企業情報システムとして期待されるERPサーバーを実際に稼動させ、その可能性や操作性、新しいビジネスモデルやサプライチェーンへの応用などについて経験を積むことが出来た。
著者
秋元 英一 須藤 功 村山 祐三 地主 敏樹 加藤 一誠 佐藤 千登勢 山本 明代 久田 由佳子 原口 弥生 橋川 健竜 篠原 総一 篠原 総一
出版者
帝京平成大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ニュー・エコノミーと呼ばれる情報技術革命とグローバリゼーションを基盤とした経済システムのパターンは1990年代以降のアメリカに典型的に見られたが、それの進展の内的メカニズムと労働、金融、テクノロジーを含む経済的、歴史的諸側面を解明し、国際シンポジウムを開催し、内外研究者の交流を図ると同時に、その成果を千葉大学公共センターの英文ジャーナルに全面的に公表した。
著者
松原 孝俊 稲葉 継雄 出水 薫 原 智弘
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究プロジェクトの成果の一つは「『敗戦国』ニッポンに帰りたくなかった日本人」の検討を踏まえて、「在朝内地人」という作業仮説を提出し、「内地」の日本人とは異なるタイプの「外地」型日本人が出現していたと論じた。もう一つは「帝国日本が崩壊した直後の、米軍政庁による統治が始まるまでの『真空』地帯となった時期の朝鮮半島の歴史的考察」において、いかなる政治的メカニズムが作用し、いかなる社会的秩序が崩壊し、いかなる金融システムが機能不全に陥り、いかにして警察権・裁判権が移譲されていったかなどを、引揚者らに対するオールヒストリー調査を活用して、文字資料に顕在化しない事実の解明に努めたことである。
著者
高橋 明善 古城 利明 若林 敬子 大内 雅利 黒柳 晴夫 桑原 政則
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

一 研究課題1 日米特別行動委員会(SACO)合意に基づく沖縄の基地返還・移設、跡地利用に関する研究(1)名護市における基地移設・ジュゴン保護と住民運動。(2)普天間飛行場移設問題の政治過程。(3)読谷飛行場の返還と跡地利用計画に関して1996年のSACO合意以来の経過を追跡研究した。2 基地引き受けの代替として進められる地域振興策と内発的振興の研究を次の場面で実施した。(1)基地移設に関する日米SACO合意の実施過程。(2)移設先並びに沖縄北部振興(3)読谷飛行場跡地利用 (4)普天間飛行場跡地利用 (5)環境保全と観光開発3 沖縄を中心とする国際交流の研究。沖縄の持つ国際性を移民社会と歴史研究の中で検討した。(1)中国と沖縄の歴史的交流の研究 (2)ブラジルにおける沖縄文化 (3)歴史の中の沖縄とアジア二 研究上の留意点と得られた成果主要研究テーマである基地の返還・移設問題に関して次のような問題を特に重視した。(1)沖縄の戦略的位置づけの変化による米軍再編と基地負担軽減問題。(2)移設元の普天間基地所属の沖縄国際大学への落下、騒音、婦女暴行、危険な訓練実施などの基地被害、基地災害がもたらす基地批判世論の盛り上がり。(3)普天間基地の名護市移設がもたらす環境破壊に反対する運動の国際的拡がり。(4)知事先頭の日米地位協定改定要求運動。(5)以上の結果としてもたらされた普天間基地移設見直しと日米政府の政策転換。(6)普天間基地移設をめぐる政治過程と跡地利用問題。(7)読谷飛行場の返還と跡地利用計画の進展。得られた最も重要な知見は次の2点にある。(1)環境保全への配慮なくしては基地問題の処理も、地域振興も不可能であるほどに環境問題が地城政策の実施にとって根本的な重要性をもつにいたった。(2)沖縄の基地の存在と基地政策は、日米政府による世界最強のシステムが作り出したものである。しかし、そのシステム世界も住民の生活世界からの抵抗を受けることにより、政策を調整・譲歩せざるを得なくなったという重要な帰結がもたらされた。ふたつの世界の葛藤のダイナミズムの研究を通して歴史変動への想像力を拡大することができた。
著者
田中 きく代 阿河 雄二郎 竹中 興慈 横山 良 金澤 周作 佐保 吉一 田和 正孝 山 泰幸 鈴木 七美 中谷 功治 辻本 庸子 濱口 忠大 笠井 俊和
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、海域史の視点から18・19世紀に北大西洋に出現するワールドの構造に、文化的次元から切り込み、そこにみられた諸関係を全体として捉えるものである。海洋だけでなく、海と陸の境界の地域に、海からのまなざしを照射することで、そこに国家的な枠組みを超えた新たな共時性を映し出せるのではないか。また、海洋を渡る様々なネットワークや結節点に、境界域の小さな共同体を結びつけていくことも可能ではないか。このような着想で、共同の研究会を持ち、各々が現地調査に出た。また、最終年度に、新たなアトランティック・ヒストリーの可能性を模索する国際海洋シンポジウム「海洋ネットワークから捉える大西洋海域史」を開催した。なお、田中きく代、関西学院大学出版会、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)研究成果報告書『18・19世紀北大西洋海域における文化空間の解体と再生-「境界域」の視点から-』を、報告書として刊行している。
著者
佐藤 博信 松浦 尚志 都築 尊 松永 興昌 片渕 三千綱 生山 隆
出版者
福岡歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

老年性骨粗鬆症モデルマウス(SAMP6)の下顎骨が骨粗鬆症様の骨の性質を有する可能性を組織学的および生化学的に検証した.コントロールマウス(SAMR1)と比べると,SAMP6の下顎骨は骨形態計測学的に骨量が少なく,骨基質の透過型電子顕微鏡像で明らかなコラーゲン線維の狭小化が認められた.両マウスの下顎骨の骨基質の生化学分析によると,その大部分はI型コラーゲンであった.SAMP6の下顎骨は,SAMR1に比べ,基質中のコラーゲン量が少なく,またコラーゲンの翻訳後修飾の一つであるハイドロキシリシンの量が多く認められた.リシンのハイドロキシル化が亢進するとコラーゲン線維の狭小化が起こることが報告されており,SAMP6の下顎骨のコラーゲンに認められるコラーゲン線維の狭小化はおそらくリシンのハイドロキシル化の亢進が関与しているものと推察された.リシンのハイドロキシル化の亢進は,同マウスおよび骨粗鬆症患者の大腿骨でも認められることが報告されており,骨粗霧症の骨質に大きく関与するコラーゲン性状に,コラーゲン翻訳後修飾の一つであるリシンのハイドロキシル化が寄与している可能性が示唆された.本研究の結果から,老年性骨粗鬆症モデルマウスの下顎骨は骨量的にも骨質的にも骨粗鬆症様の性質を有していることが明らかとなった.骨粗鬆症患者の顎骨も量的のみならず質的に低下している可能性が考えられ,今後の臨床研究により骨粗鬆症患者での傾向を明らかにしていくとともに,ゲノム解析による骨質診断法の確立とそれに対応した歯科治療の開発へと発展させていける可能性が見出せた.
著者
中牧 弘允 住原 則也 塩路 有子 澤野 雅彦 廣山 謙介 日置 弘一郎
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

最終年度にあたるため、イギリスでの補足調査を実施するとともに、研究成果のとりまとめをおこなった。報告書には日本語版と英語版を掲載した。(1)宗教共同体に関しては、三井がクエーカ-の企業体であるロウントゥリー(ヨーク)の調査を継続し、クエーカーのダービー家によって創始された製鉄業の象徴的建造物であるアイアンブリッジを訪問した。(2)企業博物館に関しては、中牧、広山がストーク・オン・トレントとバートン・アポン・トレントでそれぞれ陶器業と醸造業の補充調査を実施した。ケリーはバートン・アポン・トレントに合流するとともに、他の醸造業の博物館についても調査を実施した。住原とセジウィックはスコットランドで昨年度着手した蒸留酒のビジターセンターについて補充調査を実施した。廣山、中牧、ヘンドリーはロンドンでウエルカム財団ならびにその資料を展示した大英博物館企画展の調査を実施した。澤野はレディングでハントゥリー&パーマー社の補充調査をおこなった。(3)観光産業の経営文化に関しては、塩路が引き続きコッツウォルズ地域を対象に、とくに陶器をめぐる産業と家庭と関係について補充調査を実施した。(4)マツナガは長期滞日中のため現地調査はおこなわなかったが、報告書の英語版の監修に当たった。(5)日置は勤務校の責務のため、現地調査を実施しなかった。(6)オックスフォード・ブルックス大学でミニ・シンポジウムを開催し、メンバー以外の研究者や学生の参加を得た。
著者
松本 真理子 森田 美弥子 栗本 英和 青木 紀久代 松本 英夫 灰田 宗孝 坪井 裕子 鈴木 伸子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

子どものロールシャッハ法に関する多角的視点からの研究を包括することによって、現代に生きる日本人一般児童のパーソナリティの特徴が解明され、また日本における被虐待児の心理的特徴も明らかにされた。さらに脳画像と眼球運動という生理学的視点からも子どものロールシャッハ反応の意味するものについてアプローチした結果、国内外において初の知見が得られ、さらに発達障害児との比較などについて、現在、研究を継続中である(平成21年度~25年度科学研究費基盤研究(B)(課題番号21330159)にて継続)。これまでに得た知見は国内外の学会および論文として既に発表している。平成21年度中には図書として成果の一部を刊行する予定である(2009年9月刊行予定)。
著者
加藤 守通 井ノ口 淳三 相馬 伸一 大田 光一 下司 裕子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の目的は、コメニウス中期の思想を代表する主著『光の道』に焦点を当て、彼の教育思想の多義的・重層的性格を明らかにすることであった。成果は以下の通りである。(1)教育思想史のみならず科学史における基本文献である『光の道』の本邦初訳を完成した。(2) コメニウスと新プラトン主義およびルネサンス思想との関連を明らかにした.(3)コメニウス教育思想が学校教育を超えた生涯学習論へと展開していく過程を明らかにした。(4)『光の道』啓蒙思想との関連を明らかにした。(5) オランダ、チェコなどでの調査や発表を通じてUwe Voigt教授をはじめとした世界的なコメニウス研究者との連係を確立した。
著者
六鹿 茂夫 渡邊 啓貴 小久保 康之 廣瀬 陽子 佐藤 真千子
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、欧州近隣諸国政策(ENP)のイースタン・ディメンション、すなわち西部新独立国家(WNIS:ウクライナ、ベラルシ、モルドヴァ)および南コーカサス(グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン)をめぐる政治過程について海外調査研究をした結果、以下の結論を得た。1.EUは、ENPの二国間関係に加え、黒海シナジーという多国間協力を展開し始めた。2.ENPのアクション・プランは南コーカサスにも適用されるに至った。3.EU=ロシア関係において貿易は増大したものの、深刻な問題が露呈した。エネルギー問題の解決は困難を極め、「4つの空間」ロードマップも、人権やマスメディアの自由および凍結された紛争をめぐる溝を埋められないでいる。4.凍結された紛争をめぐるOSCEとEUの関係は、前者が主要アクター、後者がそれを後方支援する関係にあり、OSCEの紛争解決における重要性が増している。5.とはいえ、凍結された紛争におけるロシアの影響は依然として重要であり、その役割は極めて大きい。(6)EUはモルドヴァのトランスニストリア紛争解決にも一層積極的となり、問題を残しつつもEUBAM(国境支援使節)氏遣で同地の闇経済摘発と民主化に貢献し始めた。(7)米国の対黒海地域政策としては、ポーランドの米系NGOへの支援を通したウクライナの民主化支援や、チェコおよびポーランドへのレーダー基地の設置計画が重要課題である。だがロシアはその代替案として、アゼルバイジャンのレーダー基地を提示している。これは米露関係が中欧と南コーカサスという二つの広範な地域に展開されている証左であり、広域ヨーロッパを見る際の重な分析視角を提示するものである。ENPを通してWNISや南コーカサス諸国の民主化と市場経済化が推進され、それに伴い黒海地域諸国全体の地政学的戦略的重要性が一層高まった結果、今や黒海地域の安全保障環境が劇的な変化を見せている。
著者
直田 健 今田 泰嗣 小宮 成義
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

クリーンで遠隔操作可能な有機流体の流動性制御や物質配列による機能発現を目的として、メカノストレスを外部刺激として用いる洗濯ばさみ型パラジウムおよび白金錯体の分子集合の精密制御法の開拓を行った。環状二核パラジウム錯体を用いる分子集合において、超音波感受性のコントロール方法を検討し、溶媒、超音波照射時間及び構造異性体の添加等の因子により、ゲル化速度や構造のモルフォロジーを制御できることを明らかにした。さらに、対応する白金錯体の超音波応答性分子集合による発光増大現象において、超音波照射時間に依存する発光強度制御に成功した。
著者
井上 正康 佐藤 英介
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本申請者は、不安定で短寿命の活性酸素やNOのクロストークが、循環エネルギー代謝、感染防御、発生分化、組織リモデリングなど、種を越えて生物の生存を保証する危機管理スーパーシステムを構築することを世界に先駆けて報告してきた。本研究は、本システムの全容解明とその特異的代謝制御法の開発により各種病態の予防治療法確立を目的として進められた。本研究により、短寿命の活性酸素やNOを個体レベルで組織特異的に代謝制御するシステムがが確立できた。例えば、虚血組織、血管内皮細胞、肝細胞、腎尿細管細胞、白血球や網内系細胞などをその特異的ターゲットとするSOD群、長時間循環型のアスコルビン酸オキシダーゼおよびチトクロムcなどの検出分子系の開発などがその例である。これらを利用し、活性酸素NO系のスーパーシステムが抵抗性血管と所属組織のミトコンドリアエネルギー代謝・活性酸素代謝系を総合的に制御している分子機構が判明し、高血圧やショック病態がその代謝の歪みである可能性も判明した。さらに、ミトコンドリア内膜分子群に対する本スーパーシステムの作用機構を明らかにし、その特異的制御によりアポトーシスのコントロールが可能となった。さらに、本スーパーシステムが細胞の増殖制御や昆虫の変態現象にも関与することが判明した。後者は、感染症との関係で変態時期を認知実行する機構を形成していることも明らかになった。これに関連し、NO代謝を主軸とする活性酸素スーパーシステムが両棲類(オタマジャクシ)、及び昆虫(クワガタ虫やカイコ)の変態(プログラム細胞死と組織リモデリング)、および神経筋疾患の発症の時期や進行速度を統御していることが明らかになった。また、ミトコンドリア依存性細胞死を抑制するカルニチンがミトコンドリア病態を介する神経・筋萎縮性病態の進行を抑制することが判明した。さらに、組織特異的な活性酸素代謝制御による抗ガン剤の副作用(特に腎と消化管上皮細胞のミトコンドリア依存性アポトーシス)の特異的抑制法が可能であることも判明した。
著者
斎藤 馨 岩岡 正博 藤原 章雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

(1)無電源地に太陽光発電システムを設置し、定時伝送システムに24時間電源供給を実現した。(2)無電源地でブナ林、2次林、人工林の森林景観と気象データを、携帯電話データカードを用いて、毎日定時に伝送するシステムを開発設置し、運用を続けている。(3)森林映像インターネット配信サーバの稼働を開始した。日々データカードで伝送蓄積している景観データについては、インターネットを使い、(a)PodcastによりPCとiPodに日々配信、(b)ブログによりPCと携帯電話への配信システムを開発し、運用を続けている。(4)過去13年間の高品質映像データから、紅葉期についてデジタル化し、配信サーバにデータベース化して組み込んだ。(5)環境学習教材開発と検証実験を行った。上記の(3)、(4)を用い、森林映像による過去13年間の紅葉期の季節変化と、定時伝送システムとインターネット配信により日々送られる紅葉期の映像データを用いた、環境学習プログラムを開発した。プログラムは、(a)映像による季節区分クイズ、(b)13年間の紅葉期映像パンフレットによる解説、(c)カエデ類の実物の葉の配布、(d)紅葉実験キットの説明と配布とした。(6)小学生とその家族を含む約100名による検証実験を行ない、アンケートを行った。(7)紅葉期が終わった後に、伝送映像と別に、高精細な映像を編集したDVDを制作し、郵送配布しアンケートを行った。(8)(5)でのプログラムでは、(a)が最も良かったと回答され、プログラム実施後に携帯電話やインターネットによる日々の配信映像を見てもらえることが分かった。また(7)では、ブログと携帯電話での視聴者が最も多く、森林景観の日々の様子を映像により観察する場合、重要なメディアであることが示された。
著者
小野寺 淳 出田 和久 平井 松午 藤田 裕嗣 小田 匡保 礒永 和貴 大島 規江 川村 博忠 倉地 克直 杉本 史子 三好 唯義 小野田 一幸 種田 祐司 野積 正吉 青木 充子 尾崎 久美子 中尾 千明 橋本 暁子 横山 貴史
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

オランダ、ライデン大学図書館にはシーボルトが収集した21鋪の手書き彩色の国絵図が所蔵されている。21鋪の国絵図を高精細画像で撮影し、国内の類似の国絵図と詳細に比較分析した結果、21鋪の基図は慶長図1鋪、寛永図6鋪、正保図と寛文図14鋪であることが明らかになった。対となる国絵図がある一方で、基図の作成年代も個々に異なる例が多く、シーボルトの手書き彩色国絵図の入手先は複数あったと想定される。