著者
林 行雄 上林 卓彦 真下 節 松田 直之 服部 裕一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

脳死状態は心臓が強い交感神経緊張状態にさらされた後中枢神経の支配が破綻した状態という観点に立ち、以下の研究を行った。(1)中枢神経による不整脈制御周術期不整脈のモデルであるハロセン-エピネフリン不整脈を用いて不整脈発生における中枢神経の役割を検討した。副交感神経の情報伝達物質であるアセチルコリンが不整脈抑制に関与し心臓のアセチルコリン受容体、PTX感受性Gタンパク、protein kinaseAを介して、最終的には心臓のATP感受性Kチャンネルを開口させ、抗不整脈作用をもたらすことを示した。また脳内のイミダゾリン受容体のタイプ1がこの制御に深く関与していることも明らかとなった。脳死による中枢神経の廃絶に伴う副交感神経機能の廃絶が脳死状態での不整脈制御の破綻の一因の可能性が示唆された。(2)脳死における揮発性麻酔薬の心筋感作作用Pratschkeらの方法(Transplantation 67:343-8,1999)に基づいてラット脳死モデルを確立した。脳死状態ではハロセンに心筋感作作用が認められたが、イソフルレン、セボフルレンの心筋感作作用は弱かった。しかし麻酔薬間の格差は縮まった。この結果は中枢神経機能が吸入麻酔薬の心筋感作作用に関与していることを示していると考えられる。(3)脳死に伴う心機能の変化ラット脳死モデルにより、コンダクタンスカテーテルを用いた心機能の評価を行った。脳死に伴い、血圧の低下は脳死後5-6時間を要するが、脳死導入後2,3時間でEjection Fractionの低下が認められる。っまり、脳死後の早期に現れるEjection Fractionの低下を抑制することで脳死後の心機能の維持につながると思われた。ATP感受性Kチャンネルの開口薬であるニコランジルはいわゆるpreconditioning作用で心筋保護に働くことが知られているが、これを脳死前から持続投与することでEjection Fractionの低下に至る時間を延長し、結果脳死後6時間での生存率の改善が見られた。またこのニコランジルの作用はミトコンドリアATP感受性Kチャンネル阻害薬で消失した。脳死による心機能の破綻にミトコンドリアATP感受性Kチャンネルが関与していると思われた。
著者
溝口 理一郎 來村 徳信 笹島 宗彦 古崎 晃司 林 雄介
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では,Webコンテンツの中から製造業における技術ドキュメントに焦点を絞り,工業製品に関する工学知識の融合とオープンな相互運用を実現する実用的な枠組みを開発することを目的とした.製造業の現場において爆発的に生産されデータベースなどに格納される工業製品関連知識の,記述コンテキストや独自概念体系への暗黙的依存性を,人工物に関する基盤的なオントロジーを核とした融合とオープンな相互運用性によって解決することを目指した.特に,平成18年度においては,製品ライフサイクルにおける製造と使用のフェイズに注目し,製造プロセスモデル,機能発揮プロセスモデル,ユーザ使用プロセスなどの関連性をプロセス間関係として捉え,オントロジー工学的に考察することを行った.まず,人工物の製品機能発揮プロセスと製造プロセスについて,両者の関係を,機能発揮の主体である人工物製品が製造プロセスの客体としての役割を果たすという役割(ロール)の違いとして定式化した.一般的なプロセス間関係を捉え,その特殊化として定義した.さらに,情報学研究で扱ってきた不具合プロセスとの関係を同様に定式化し,さらに関係を一般化した.また,ユーザ操作プロセスモデルとの関係性を分析し,ロールモデルとしては分散化されることを明らかにした.これらをまとめて,人工物関連プロセスの統合的モデル枠組みを構築した.また,それを支える人工物プロセスオントロジーを概念的に構築した.プログラム実装については,アノテーション枠組みの基礎的検討に加え,3次元的な人工物プロセス統合モデルビューアのプロトタイプを開発した.また,機能に関する一般オントロジー(一般機能オントロジー)を既存の機能定義をマッピングするための「参照オントロジー」として用いて,他の概念体系との具体的なマッピングとモデル構造の変換について検討した。
著者
近藤 浩
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

人物の顔写真の対称度を測定するため、まず顔の軸を水平方向(行方向)に対して直角になるように回転させる。これはアフイン変換によりごく簡単に行えるが、回転を行うことにより画像サイズからしばしばはみ出して消失される部分が出るため顔の重心を画面の中央に移動させ、この重心を中心に回転を行った。これにより軸の回転に対する問題はほぼ解決できた。次にこうして回転させた画像の一次元フーリエ変換を必要な全行に対して行いその実部のみを2乗し、虚部をゼロとしたもののフーリエ逆変換を行う。この段階で画像の各行毎の水平方向一次元関関数が得られたことになる。このときフーリエ実部のみの逆変換(real part-only synthesis)の相関であるから原画と左右折り返しの画像との相互相関を自動的に計算していることになる。各行の原点での値(第1列目の値)はreal part-only synthesisから得られる2重画像(原画と折り返し画像)のその行のみでのエネルギーを表し、第2ピークが求める相互相関値となっている。従って目の部分、鼻の部分、また口の部分のみの関係した行のみを縦方向(列方向)に和をとることだけで局部対称性が求められる。さらにすべての行を足し合わせると顔全体の相関となり全体像の対称度が求まる。従って、初期値として目、口、鼻など必要な部分の行番号を入力しておけば、上記一連の処理は瞬時にして完結する。70人の学生に協力してもらい顔写真をディジタルカメラでコンピュータに取り込みこれらの処理を行った。平均処理時間は2.79秒であった。本年度科研費によりほぼ本テーマを完全遂行できたことに感謝するとともに、来年度からは影の消去及び3次元立体回転へと展開していきたい。
著者
金井 壽宏 三品 和広 上林 憲雄 原 拓志 平野 光俊 高橋 潔
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

長らく停滞した後、再復興期に入った日本の産業社会の活力の向上のため、企業の持続する競争優位性の元となる組織能力を再構築する必要がある。従来この議論は、たとえばリソースベースの経営戦略論として論じられてきたが、本研究では、組織能力構築に真に貢献できる、企業のコア人材、とりわけ経営人材と高度専門職人材に焦点を合わせて、人材の体系的な育成に関する理論的・実証的研究をおこなった。国家レベルの競争力を高めるうえで人材育成が果たす役割について米国を主たる比較研究も実施した。その結果、第1に、戦略の成功の問題は、人材育成の問題と切り離しては考えられないことが確認された。戦略的人的資源管理という名のもとに、戦略とリンクしてひとの問題を扱う重要性が示唆されてきたが、その育成内容は、次期経営幹部候補の体系的な育成、またその育成プロセスの加速化に焦点をあわせる研究が有望であることが判明した。また、どのように経営人材になるかという問題だけでなく、より早く最高経営責任者になり、より長く采配を振るう機会を与えることの重要性も確認された。第2に、経営人材、高度専門職人材を問わず、コア人材の育成は、フォーマルな座学の育成とのかかわりをけっして軽視することはできないが、産業のなかで、また個別の企業のなかで、いったいどのような仕事をどのような時期にだれのもとで経験するかという点がいっそう重要である。したがって、リーダーシップ開発の問題も、高度専門職の育成の問題も、なんらかの「経験の理論」にも裏付けられる必要があることがわかった。第3に、大きな展望としては、経営学におけるシステムに目を向ける視点と、ひとの問題を照射する視点とが今後は、意味ある形で統合されると、真に国家レベルの復興に経営学も貢献しうることが示唆された。経営学における人材育成を天下国家レベルの国の活力に結びつける研究への橋頭堡となった。
著者
小林 和男 飯山 敏道 藤本 博巳 酒井 均 平 朝彦 瀬川 爾朗 古田 俊夫
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1988

本補助金による2年度にわたる集中的な研究によって西南日本沖(南海トラフ陸側斜面)の海底湧水帯の位置が精密に同定され、その実態がはじめて詳しく解明された。シロウリ貝群集が湧水帯上に集中して生息することは1985年のKAIKO計画においてすでに推定され、世界の他海域(バルバドスやオレゴン沖)でも証拠が挙がっていたが、今回現場での海底下鉛直温度勾配測定によって1年数mに及ぶ湧出水がシロウリ貝群集直下の径1m程度の範囲に集中して存在することが明瞭に示された。この湧出水はやや、深部からもたらされたメタン、硫黄等を含み貝の生育を助ける共生バクテリアの餌となると共に、酸素に富んだ表層間隙水により酸化されて炭酸カルシウムをつくり、周囲の堆積物の間隙を埋めて堆積物を固結させる働きをすることがわかった。湧水帯が集中する海溝付加帯の変動前面(水深3800〜3600m)でも1m弱の軟い堆積物の下に固化した砂泥の存在が推定され、海底にもいくつかの堆積物チムニ-が顔を出していることが曳航テレビと潜水船で観察されて試料採取にも成功した。この地点では3ケ月にわたる地殻熱流量と海底電位差の連続測定が行われ、有意な時間変動を検出している。一方、変動前面の上方に当るバックスラスト域(水深2000m)では小さなシロウリ貝群集が発見されスラストに沿う小規模の湧水が推定されるが、それ以外の海底には貝殻を含む固結した堆積物が露出し侵食を受けていることが判った。前面域で堆積し固化したものがしだいに上方に押し上げられて一部が露出するがほとんど地層内にとり込まれて行く一連の過程が1地域で観察されたことになり、プレ-ト沈み込みに伴う海溝付加帯の生成と成長についてこれまで古い地質時代の地層について推定されていたできごとが、現に海底で起こっているようすをありのまゝにとらえることができた点で日仏協力KAIKO-NANKAI計画の一環としても価値の高い成果である。
著者
木下 一彦
出版者
早稲田大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2004

光学顕微鏡下の一分子生理学、とくに「一目で分かる」研究を標榜し、巨大目印による分子機械の動き・構造変化の直接可視化を通じて、動作機構の解明を試みた。回転分子モーターF1-ATPaseにおける化学反応→力学的仕事の共役スキームをほぼ完成させ、分子機械一般に通じ得る共役原理を提出した。一方、回転軸無しでも回転するという意外な発見をし、構造に基づく機能の説明は振出しに戻った。二本足のモーター、ミオシンの脚の動きの直接観察に成功し、ブラウン運動をうまく使って歩くことを証明した。
著者
荒川 修
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本研究では、石垣島産ウモレオウギガニZosimus aeneusより麻ひ性貝毒関連の未知の2成分を分離し、それぞれsaxitoxin(STX)およびneosaxitoxin(neoSTX)のcarbamoyl-N-hydroxy誘導体であることを明らかにすることができた。その概要は以下のとおりである。1990年から1991年にかけて沖縄県石垣島川平湾周辺のリ-フ上で採取したウモレオウギガニ31個体の付属肢および頭胸部外骨格900gを試料とした。塩酸酸性80%エタノールで毒を抽出し、ジクロルメタンで脱脂後、活性炭処理、Bio-Gel P-2およびBio-Rex70カラムクロマトグラフィーにより順次精製し、“STX画分"を得た。本画分につき、さらにBio-Rex70カラムクロマトグラフィーを繰り返し行ない、最終的に既知成分であるSTX、neoSTX、decarbamoylSTX、decarbamoylneoSTXに加え、2つの未知成分(以下BR-1およびBR-2と仮称)を分離した。BR-1、2の収量はそれぞれ、2.4および1.9mgで、マウスに対する比毒性は1,400および1,700MU/mgと測定された。これらは、電気泳動分析においてRm値0.63、0.94に黄緑色ないし青色の蛍光スポットを、HPLC分析において保持時間10.2、16.9分に単一ピークを、さらにESIマススペクトル分析においてm/z332、316に分子イオンピーク(M+H)^+を与えた。以上の知見に加え、^1Hおよび^<13>CNMRスペクトルを検討した結果、BR-1、2はそれぞれ、neoSTXおよびSTXのhydroxycarbamoyl体であることが推定された。このことを確認するため、BR-2を酸加水分解に付したところ、decarbamoylSTXを生成した。加えて、BR-1、2はともにFeCl_3と反応し、ヒドロキサム酸(RCONHOH)に特異的な紫色を呈した。以上の結果から、これらの2成分はそれぞれ、carbamoyl-N-hydroxyneoSTXおよびcarbamoyl-N-hydroxySTXであると結論した。
著者
服部 良久 青谷 秀紀 朝治 啓三 小林 功 小山 啓子 櫻井 康人 渋谷 聡 図師 宣忠 高田 京比子 田中 俊之 轟木 広太郎 中村 敦子 中堀 博司 西岡 健司 根津 由喜夫 藤井 真生 皆川 卓 山田 雅彦 山辺 規子 渡邊 伸 高田 良太
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

23人の研究分担者が国内外の研究協力者と共に、中・近世ヨーロッパのほぼ全域にわたり、帝国、王国、領邦、都市と都市国家、地方(農村)共同体、教会組織における、紛争と紛争解決を重要な局面とするコミュニケーションのプロセスを、そうした領域・組織・政治体の統合・秩序と不可分の、あるいは相互関係にある事象として比較しつつ明らかにした。ここで扱ったコミュニケーションとは、紛争当事者の和解交渉から、君主宮廷や都市空間における儀礼的、象徴的な行為による合意形成やアイデンティティ形成など、様々なメディアを用いたインタラクティヴな行為を包括している。
著者
田中 三郎 廿日出 好 岩佐 精二
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

核磁気共鳴(NMR)は静磁場中で原子が固有周波数の磁気エネルギーを吸収・放出する現象で、これを利用した地中の石油貯留層を探査する地下資源探査システムの研究開発に取り組んだ。rf-SQUIDに結合したシステムを作製し、地磁気レベルの低磁場を用いてプロトン1^HのNMR信号の計測を行なった。実験の結果、1^Hのピーク信号が確認でき、このときのSN比(信号対雑音比)は7以上の良好な結果を得ることができた。よって、地磁気中の1^H-NMRを計測可能なSQUID地磁気NMRシステムの基礎を構築することができたと考えられる。
著者
堀内 一穂 柴田 康行 米田 穣 大山 幹成 松崎 浩之 箕浦 幸治
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

年縞堆積物中のベリリウム10を分析し, 同一の堆積物から得られた既存の炭素14記録や, 本研究にて新たに分析されたアイスコアのベリリウム10記録と比較することで, 最終退氷期の太陽活動変動曲線を抽出することに成功した.その結果, 太陽活動は退氷期の古気候変動を支配するものではないが, 気候変動イベントのトリガーには成り得ることが分かった.また, 古木から単年分解能で効率的に炭素14 を分析する手法や, 年縞堆積物から単年分解能でベリリウム10を分析する手法が確立された
著者
渡辺 明子 渋谷 治男 融 道男 渡辺 明子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

要約:治療抵抗性の気分障害者に抗うつ薬に加えて甲状腺末を併用投与すると抑うつ症状が改善する事をしばしば経験する。これは両薬剤の併用が抗うつ作用を増幅した結果と考えられる。このような抗うつ作用の増幅の機序を明らかにするために、ラットにデスメチルイミブラミン(DMI)とレポチロキシンナトリウム(T_3)を併用投与したときの動物行動、脳内アミンおよびβ受容体、セロトニン(5HT)2A受容体について調べ検討した。対照群、DMI群、T3群、DMI+T3併用群の4群間で比較検討した。薬物の投与は単回(DMI 30mg/kg,T3 1mg/lkg)、反復投与(DMI 10mg/kg,T3 100μg/kg)7日間とした。DMI+T3併用群についての結果は、強制水泳テストで7日間の併用薬投与でのみ有意な無動時間の短縮(59%に減少)を認め、抗うつ作用の増幅作用を裏付けるものであった。その時の脳内アミンの変化は前頭前野皮質(PF)でノルアドレナリン(NE)の有意な増加、ドーパミン(DA)代謝回転の亢進、海馬(HIP)で5HT代謝回転の亢進を示した。反復東予によるβ受容体の変化はDMI群で従来報告されているようにPF,HIP,視床下部(HY)で有意な結合量の減少を示したが、T3群はPFで有意な増加を示し、併用薬群はいずれの部位でもその中間値を示し対照群との差を認めなかった。5HT2A受容体をは7日間の併用薬反復投与群でPFで結合量の減少を示した。この時、T3群も減少を示したが、DMI群では変化なくT3がその効果を高めたと考える。従来の抗うつ作用機序とされるβ受容体、5HT2Aの減少が言われているが、今回の結果は必ずしも一致するものではなかった。アミンおよび受容体の変化を主にPFで認めたことから抗うつ作用の責任部位の一部はPFが担っており、そこではDA,NE,5HTニューロンが相互に係わっている可能性を示唆した。
著者
野口 俊之 郷 通子
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

タンパク球状ドメインは、10-40残基ほどの長さのフラグメントがつくるコンパクトなサブ構造=モジュールの組み合わせにより構成されている。モジュールの境界と遺伝子上のイントロン位置の対応から、モジュールが固有な構造を持つビルディングブロックとして組合わさることによりタンパク質は進化してきたと考えられている。モジュールがビルディング・ブロックとして固有な構造を持ち得るためには、モジュール内の相互作用がバランスしていること、すなわち、その構造は力学的に安定であることが必要である。本研究では次の問題:1)モジュールの構造の力学的な安定性は多くのタンパク質でも成り立つのか? 2)モジュールの構造の力学的安定性の要因は何か? を明らかにするために、つぎの2段階の計算機実験を行った。1)4つの折りたたみの型:α型、β型、α/β型、α+β型のタンパク質の代表として、ミオヘムエリスリン、免疫グロブリン、フラボドキシン、リゾチームおよびバルナーゼのモジュールの力学的安定性の分子動力学計算。2)原子間相互作用である静電相互作用、水素結合を仮想的に除いた計算機シミュレーションにより、モジュールの力学安定性への各相互作用の寄与を調べた。その結果、上記のタンパク質のモジュールの7割は1ナノ秒の間ネイティブ構造に近い構造を保持した。このことから、モジュールの力学的な安定性は一般的に成立すると考えてよいことが判った。次に、力学的に安定なモジュールの酸性、塩基性アミノ酸の電荷を中和し、さらに、水素結合も除いた、仮想定な状態においても、それらのモジュールの約7割は、安定であった。このことは、一つ一つは弱いファンデルワールス相互作用によって、モジュールの力学的安定性の大半が担われていることを示している。モジュールはコンパクトな構造単位として定義されたが、コンパクトであることは、それが、タンパク質進化の単位としてのビルディングブロックであるための物理化学的要請であったことを、この結果は示している。
著者
大門 正克
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1950年代から60年代の日本において、生活改良普及事業及び新生活運動など、生活を改善する運動が盛んに取り組まれ、とくに女性及び家庭生活に大きな影響を与えた。近代化と民主化を進めるためであり、戦後日本の復興を生活面から支えるためだった。生活改善運動は、農林省・文部省・厚生省の各省庁、政府、民間団体など、官民をあげてひろく取り組まれ、農村では生活改良普及事業が、都市では新生活運動が主として展開した。
著者
重田 眞義 ベル アサンテ
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2009年度は、博士学位論文「地域住民による文化遺産管理の取り組み-エチオピアのハラールとアジスアベバにおける博物館活動の事例-」に関する研究成果の公刊とその準備に精力を集中した。研究分担者(特別研究員)が日本ナイル・エチオピア学会誌(Nilo-Ethiopian Studies)(1報)および、UCLAの発行するAfrican Art誌に論文2報を投稿し掲載された。また、2008年度にエチオピアのハラールで主催した国際ワークショップの成果をまとめて、京都大学アフリカ地域研究資料センターが出版する国際学術雑誌African Study Monographsの特集号を代表者と分担者が共同で編集出版した。分担者の受け入れ先である京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科においては、在来知研究グループを主催する受け入れ研究者(研究代表者)と協力してアフリカにおける文化遺産保全に関する研究会を2回開催した。11月にはアジスアベバ大学にて開催された国際エチオピア研究学会に参加し、地元アジスアベバ大学における同分野の研究者との意見交換をおこなった。あわせて受け入れ先の大学院アジア・アフリカ地域研究研究科が運営するエチオピア・フィールドステーション主催の国際ワークショップをアジスアベバで組織し、ケニア、イギリス、日本から10人の研究者、実践者を招いて研究発表をおこなった(発表題目:Communities and Cultural Heritage Centers in East Africa : A call for collaboration.)。また、これらと並行してこれまでの成果をまとめた単著の出版準備をすすめた。以上の活動を展開して、2010年5月にナイロビにおいて開催される国際学会Shaping the Heritage Landscape : Perspectives from East and southern Africa British Institute in Eastern Africaにも参加発表することが決まっている。国内では京都大学アフリカ地域研究資料センター公開講座「創る」アフリカの人びとが創りだす美と技の世界で講師をつとめたほか、JSPSサイエンスダイアログに協力して奈良と福井の高校において2回講演をおこなった。
著者
角替 晃
出版者
東京学芸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

(研究代表者の死亡により以下空欄。別紙をご参照願います。)
著者
重松 隆 川上 憲司 森 豊 関口 千春 重松 隆
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

微少重力に人体が曝露されると、骨組織、筋組織、カルシウム代謝などに影響を受けると言われている。微少無重力状態では比較的短時間で骨塩が減少し骨粗鬆症が生じるとの報告がある。この発生機序は本邦においては宇宙飛行の経験も少ないため、未だその詳細は不明な点が数多く残されている。今回邦人宇宙飛行士の協力により、骨塩、カルシウム代謝を計測する機会を得、4回のミッション(宇宙飛行)における解析を行ったので報告する。計測方法は、DXA(全身、腰椎、大腿骨、踵骨など)UBD(踵骨)24時間量、尿中カルシウムカリウム、リンなどを計測した。測定は飛行開始60、30日前、飛行より帰還当日、3、10、30、120日後に行われた。測定結果は、それぞれのミッションの飛行時間も異なるため若干のデーターのばらつきを認めた。得られたデータのなかで、確実に認めた傾向は以下のごとくである。微少重力によって、骨カルシウム代謝が影響を受けることが、ほぼ明らかとなった。骨塩量は、踵骨腰椎などの荷重骨でより減少傾向を示し、その影響は尿中への漏出という形で腎臓に影響をおよぼす。この機序の詳細は不明であるが副甲状腺の血清カルシウム値の変動に対する反応性の低下が関与している可能性が示唆された。微少重力の影響は、骨組織に対して、骨形成の低下と骨吸収の促進という形で現れることが予測され、この結果として骨塩量が減少する可能性が示唆される。微少重力の骨カルシウム代謝への影響については今後さらなる検討が必要である。
著者
奥山 治美 市川 祐子 藤井 陽一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

炎症性疾患はアレルギー症、多種の癌の他、多くの難治性疾患を含み、わが国では過去半世紀の間に発症率が著増している。これらの発症、病態の進展に持続性炎症が重要な因子となっている。本研究では、摂取油脂のリノール酸(n-6)系/α-リノレン酸(n-3)系の比を下げることによって脂質性炎症メディエーターの産生を抑え、これら炎症性疾患が予防できる可能性を基礎的、臨床的に評価した。【アレルギー過敏症の体質改善】動物実験ではn-6/n-3比の低い紫蘇油が、この比の高い紅花油に比べ脂質性炎症メディエーター産生を低下させることを明らかにした。臨床的にはアトピー性患者(76名)を対象に、n-6/n-3比を低くする食物を推奨した。2年追跡時で皮膚炎症状が著しく改善し、血清脂質のn-6/n-3比の低下に伴う好酸球の減少が認められた。約半数が3年まで受診したが喘息併発者が多く、n-6/n-3比と好酸球数が元に戻る傾向が認められたが、皮膚炎症状は改善したままであった(共同研究)。【腫瘍再発予防】動物実験ではn-6/n-3比の低い紫蘇油がこの比の高い紅花油に比べ、大腸癌、乳癌、腎臓癌などの化学発癌を抑えること、腹水肝癌の肺転移を抑えることを明らかにしていた。UVB照射で誘発した皮膚癌に対し、紫蘇油は良く抑えたが魚油は紅花油と同様、抑制効果を示さなかった。魚油と紫蘇油の差は、炎症性メディエーター産生能の差では説明できずまた皮脂量でも説明できなかった。臨床的に大腸腫瘍再発予防介入試験を継続中である。ポリープ切除者の中で癌になっていない人を対象に、総脂質摂取を減らす対照群と総脂質の摂取低下とともにn-6/n-3の低下を勧める介入群につき、ポリープの再発率を評価した。各群約20名の中間段階(2年時)では、対照群の再発率が40%、介入群が8%であったが、この段階では結論的ではなかった。より多くの人数について観察する必要があるが、介入による有害作用は認められなかった(共同研究継続中)。
著者
坂本 亘 上野 正博
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

魚類の遊泳行動に見られる日周活動リズムの持つ役割を、魚群形成過程の面から検討した。カタクチイワシは活動機能が低下すると浮上し、機能が活発になると沈降し深い層に移動する。この傾向は比較的初期の仔魚期からあらわれることを確かめた。さらにこの浮上・沈降の日周性と流れの鉛直シア-とを組み合せると種ごとに移動して行く方向に差が生じ、次第に魚種ごとの群となって行くことを確かめるため、海洋において実験を行なった。鉛直シア-、つまり表層から次第に深い層に行くにつれ流向が変る傾向は若狭湾西部において明確にあらわれていることを確かめた。特に表層と10mとで比較すると、表層では沖合へ、10m層ではそれと全く逆の湾奥方向へ流れていることを実測により見出した。また、この流れの測定と同時に表層と10m層のカタクチイワシ仔魚の分布密度を比較したところ、表層に分布する仔魚は流れの収束・発散の影響を受けて、集中分布をする傾向が強いことがわかった。仔魚は微細なため、長時間連続的に遊泳行動を記録するための特殊な自動記録装置を開発した。これは発光ダイオ-ドと光トランジスタを230個組合せて作られており、仔魚が発光部を通過すると、その位置・時刻が自動的にマイクロコンピュ-タの中に記録として取り込まれるようになっている。測器の開発及びプログラムに1年半を要したために、カタクチイワシの仔魚発生時期(6月から8月)の研究の間に合わなかったが、カワムツを用いた実験では日周活動リズムを記録することに成功した。これらのカタクチイワシによる日周活動リズムの解析と並行して、実際に海洋を回遊しているアカウミガメの日周活動リズムの解析にも成功し、この活動リズムが大規模な回遊をする際の定位と深いかかわりのあることを確かめた。この部分はすでに学会誌に報告した。
著者
錦見 盛光 松井 仁淑
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ヒトを含む霊長類はビタミンCの合成ができないが、その原因は合成経路で働くグロノラクトン酸化酵素(GLO)の欠損による。われわれは、機能を有するラットのGLO遺伝子と機能を失ったヒトのGLO遺伝子の塩基配列をすでに報告した。本研究では、ヒトの遺伝子において特定された4つのエキソン(VII,IX,X,XII)の配列についてラットの配列と比較し分子進化学的検討を加えた。ヒトのGLO遺伝子における非同義置換は、遺伝子が機能をなくした後は選択圧を受けないため、同義置換と同じ頻度で生じてきたと推定される。この推定が正しいと仮定して、ヒトとラットの間の非同義サイトにおける置換数の値(0.16)と霊長類の同義サイトの進化速度(2.3×10^<-9>/サイト/年)とから、ヒトがGLOを失った時期は約7,000万年前以後と推測した。また、チンパンジーとマカクのゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行い、エキソンXを増幅して得られたDNAの塩基配列を決定した。その結果、ヒトの配列と比べたホモロジーはそれぞれ97.6%と89.7%であった。これらの値は霊長類の祖先がGLOを失って以降、GLO遺伝子で塩基置換がランダムに起きていることを示しており、この遺伝子が進化の中立説を説明する恰好の例であることが分かった。さらに、ヒトの配列においてエキソンXIは欠失していることが分かっているので、この欠失が類人猿においても認められるか否かを調べた。ヒト、チンパンジー、およびゴリラのゲノムDNAを鋳型として、エキソンXからエキソンXIIにわたる領域をPCRによって増幅した結果、いずれも同一サイズ(23.5kbp)のDNAが得られたことから、エキソンXIの欠失はこれらの類人猿の分岐以前に起きたものと想定された。
著者
神奈木 玲児 卓 麗聖 田口 修 後藤 嘉子 田口 修 遊佐 亜希子
出版者
愛知県がんセンター(研究所)
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

細胞表層の糖鎖には接着分子としての機能を持つものがある。癌細胞ではシアリルルイスXやシアリルルイスaなどの糖鎖が発現し、これによって転移や浸潤が引き起こされる。癌細胞で糖鎖が変化する機構は、発癌早期においては、正常型糖鎖を合成する一連の遺伝子のエピジェネティック・サイレンシングが主原因の一つとなっていることを我々は明らかにした。一方、進行期の癌においては、癌細胞の低酸素抵抗性の獲得とともに機能亢進する転写因子hypoxia inducible factor(HIF)が、一連の糖鎖合成遺伝子の転写を誘導することが大きな要因となっていることを我々は明らかにした。