著者
澤田 昭三 中村 典 田中 公夫 重田 千晴 李 俊益 佐藤 幸男
出版者
広島大学
雑誌
核融合特別研究
巻号頁・発行日
1987

1)母親の胎内で原爆破爆した子供の多くに極度の知能発育遅滞がみられ, 大きな社会問題となっている. そこで知能発育に対するトリチウムのリスクを推定するためマウスによる基礎実験を行なった. その結果, ガンマ線の急照射では脳細胞死は容易に検出されたが, 緩照射では死亡率が大幅に低下した. 一般にトリチウムは緩照射のため脳細胞死の検出方法を今後検討しなくてはならぬ(佐藤).2)マウスの卵母細胞に対するトリチウムの致死効果が妊性にどの程度影響するか調べたところ, トリチウムを16ラド以上照射すると対照群に比べて明らかに妊性が低下するが, ガンマ線ではもっと多量の線量を照射しないと低下しない(李).3)マウス皮膚創傷部からのトリチウム水の吸収速度は傷の種類によって異なるが, 傷の組織学的な観察を行なったところ, 傷害度と吸収速度がよい一致を示すことがわかった. また, すり傷からのトリチウム水の吸収は脂溶性塗布剤では完全に抑制できなかった(澤田).4)ヒト骨髄細胞のうち赤芽球幹細胞BFUーEに対するトリチウムの致死効果を調べ, ガンマ線に対するRBEとして1.3を得た(重田・大北).5)ヒトのリンパ球の染色体異常と小核出現率を指標としたトリチウム水のRBEはそれぞれ2.8と2.6が得られた(田中). また, リンパ球の致死を指標とするとRBEは2.8となった(中村).6)トヒ精子染色体に対するトリチウム水の影響を調べ, X線に対するRBEとして2.3が植られた(美甘ら).7)マウス3T3細胞に対するトリチウム水の影響を生存率, 癌化率及び突然変異率を指標としてRBEを求めたが, 生存率では1.0,癌化率では1.7が得られ, 突然変異に関しては十分な結果が得られなかった(榎本).8)マウス受精卵の胚盤胞形成を指標として有機結合型トリチウムの影響を試験管内で定量的に調べ, トリチウム水に比べ100〜10000倍も強い影響を与えることがわかった(山田).
著者
伊達 仁美
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、膨大な量の民俗資料に対し、安全にかつ容易に施工できる防錆処理として、椿油による防錆処理の普及が目的である。様々な条件を持つ収蔵施設に試験試料を設置し、油の差異による効果や経年変化の確認を行なった。その結果、防錆効果は油の差異により若干見受けられたが、処理後の保管環境によるところが大きいことがわかった。また、本研究の成果をふまえて、「博物館等民俗資料収蔵施設における簡易的な資料保存と修復マニュアル」を作成した。
著者
田島 毓堂 広瀬 英史 重見 晋也
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

15年度インドネシアスラバヤ国立大学、パジャジャラン大学、16年度韓国韓南大学校・梨花女子大学校、17年度台湾大学、浙江大学、18年度愛知学院大学で、国際シンポジウム比較語彙研究を開催し、それぞれ、発表論文集『国際シンポジウム比較語彙研究IV〜X』を刊行、計115件の語彙論に関する研究論文・講演原稿を収録した(A4版総頁数1374頁)。海外では、国際シンポジウム比較語彙研究の開催後に語彙研究者養成のために語彙研究セミナーを開いた。国内では、受講希望に応じて開催した。本研究推進の母体となった語彙研究会では、月例発表会と大会を開いた。期間中に、34回の月例会、3回の大会を開き、21件の講演・研究発表があった(平成18年度の大会は国際シンポジウム比較語彙研究X)。また、語彙研究会では、機関誌『語彙研究』1〜4を刊行して、25件の語彙研究の論文を収めた(B5版総頁数402頁)。更に、「語彙研究会叢書」を6冊刊行した。内容は『比較語彙研究の試み』11〜15、及び、「近代日中学術用語の生成及び発展」である(A4版総頁数1574頁)。これらの成果をふまえて、本プロジェクトの一方の課題であるコード付けのための電子辞書試作版を作成し、CD版として希望のあった関係方面に配布した。試作品ではあるが、現代語にっいては、6、7割のヒット率で個々の語に単語コードと語素コードを電子的に付与することができる。CD版に付載した資料を今後整理し、試作版を増補する予定であり、さらに、古典語と外国語の語彙についても、同様の試みを企画している。遺憾ながら、この計画は科学研究補助金の対象に今年度は認められなかったが、語彙論的研究推進のためには重要な研究なので極力推進していく予定である。
著者
酒井 正子 小林 公江 久万田 晋 小林 幸男
出版者
川村学園女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

沖縄本島北部に伝承される「手踊りエイサー」は、現在盛んな太鼓の群舞とは全く異なるスタイルのエイサーである。殆ど知られていないその実態を調査し、全体像と芸能史的な位置づけを探った。その結果約60集落で伝承を確認、曲目や歌詞、演奏スタイルの違いなどから、いくつかの系統や地域性が見出された。また近代には舞台芸能や流行歌を取り込み、戦後は太鼓エイサーへと進化し、1980年代以降は創作エイサーの強い影響を受けるなど、芸能の変遷とダイナミズムが明らかになった。
著者
水谷 正治 坂田 完三 清水 文一 木下 朋美 水谷 正治
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

調査研究には、Tocklai Tea Experimental Station(TTES)の母体であるインドTea Research Association(TRA)の全面的協力が得られることとなり、2年間の共同研究契約を締結し、調査研究を下記のように実施した。1)ダージリン高級紅茶“Second flash"の実態調査06年5月末、日本側から3名の研究者がアッサム地方トクライにあるTTBSとダージリンを訪ね実態調査を行った。インド側2人の研究者とともにダージリンの代表的茶園を順次訪ねて、虫害の状況と製茶状況を視察した。また、2カ所の茶園では“Second flash"製造時の各製造段階でのサンプルの採取を行った。ダージリンではヨコバイ(英名:jassid(green fly):Empoasca flavescens Fabr.)の他にアザミウマ(英名: thrips: Taeniothrips setiventris Bagnall)の食害が多かった。いずれの虫害がダージリン茶の香気形成に重要かを明らかにする必要がある。07年6月、日本側から3名の研究者がTTESを訪問し調査研究を行った。ヨコバイとアザミウマを実験室で飼育できるよう指導し人工飼育に成功した。人工飼育した虫を用いて実験室レベルでチャ葉に虫害を与え、それを材料にして香気分析を行なうようインド側研究者に指導した。2)虫害チャ葉から作られる“Second flash"特有香気生成機構の解明06年にダージリン茶園試料をGC-MS香気分析に供した結果、台湾の東方美人の場合と同様に、ダージリン紅茶でもhotrienolなどのモノテルペンアルコールの生成に虫害が密接に関与していることが示唆された。07年にTTESにて人工飼育したヨコバイおよびアザミウマを用いた加害試験を行った結果、“Second flash"紅茶特有の香気生成には虫害の関与が大きいことが明らかとなった。また、日本のやぶきた種茶園にて採集した農薬処理を行ったチャ葉と虫害を受けたチャ葉とで香気成分を比較し、diolの生成にはヨコバイ吸汁刺激が引き金になっていることが示唆された。3)新しい簡易紅茶製造法開発に向けた調査研究高品質な紅茶を簡便に製造するための新しい技術として、烏龍茶の製造技術を応用することをTTESの研究者に指導し、TTESにてパイロット機器を用いた製茶を行った。萎凋工程および撹拌工程の追加改良により、紅茶香気の改善が期待された。
著者
渡来 靖
出版者
立正大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

熊谷地域における夏季の高温メカニズムを明らかにし、高温要因それぞれの寄与率を評価するために、領域気象モデルWRFを用いた数値シミュレーションを実施した。高解像度土地利用データを作成し、熊谷市街地で発生するヒートアイランドを再現出来るような高解像度シミュレーションを試みた。
著者
大西 裕 品田 裕 曽我 謙悟 浅羽 祐樹 磯崎 典世 川中 豪
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、日本における選挙管理に関する政治学的・行政学的研究の嚆矢である。選挙管理は途上国に限らず政治的に中立性を保ちにくく、それだけ政治権力からの独立性が必要とされている。しかし、韓国のように独立性が強い国ではそれゆえに選挙管理機関自体が政治化しやすい。制度と選挙管理のパフォーマンスの間にも先行研究が指摘するような対応関係は確認できず、全国一律で実施されている日本でもバリエーションが発生する。
著者
秋元 美晴 河住 有希子 藤田 恵 北川 幸子 浅野 有里
出版者
恵泉女学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、日本語能力試験点字冊子試験のユニバーサルアクセス化を目的とした研究である。視覚に障害のある学習者への日本語教育現場の環境整備に着手し、日本語能力試験受験までの学習プロセスを支援した。本研究の成果として、視覚障害教育への知識を持たない晴眼の日本語教師のための、授業支援マニュアルを作成した。同マニュアルはウェブサイト『さわって、きいて、あじわう日本語』にて公開している。
著者
増田 弘 佐藤 晋 加藤 陽子 加藤 聖文 浜井 和史 永島 広紀 大澤 武司 竹野 学
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

平成21年度から23年度に至る3力年の研究の具体的成果は、本年9月に慶応義塾大学出版会より刊行が予定されている増田弘編『大日本帝国の崩壊と復員・引揚』にある。本書は、日本が第二次世界大戦に敗北したことで生じた帝国日本の崩壊過程に関して、外地からの民間人引揚と外地に在った日本軍将兵の復員という視座に立った実証研究であると同時に、東アジアにおける冷戦という新局面との歴史的接合点を解明しようとする試論である。
著者
吉川 欣亮 設楽 浩志 野口 佳裕 STEVE Brown 奥村 和弘
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

新規難聴モデルマウスの樹立およびそれを応用した難聴発症機構の解明を目指し、ポジショナルクローニングおよび分子間相互作用解析に基づき研究を実施した結果、以下の主要な成果を得た。1)2種の難聴モデルマウスの発症原因遺伝子が共通してMyosinVIであることを明らかにした。2)発現解析および蛋白質相互作用解析に基づき、4.1BおよびGelsolinが感覚毛伸長に機能することを明らかにした。3)SansおよびWhrlinの2重変異マウスの表現型から両者が有毛細胞上の感覚毛の平面細胞極性に機能することが示された。
著者
佐藤 卓己 渡辺 靖 植村 和秀 柴内 康文 福間 良明 青木 貞茂 本田 毅彦 赤上 裕幸 長崎 励朗 白戸 健一郎 松永 智子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

情報化の先進諸国におけるメディア文化政策の展開を地域別(時系列的)、メディア別(地域横断的)に比較検討し、国民統合的な「文化政策」と情報拡散的な「メディア政策」を明確に区分する必要性を明らかにした。その上で、ソフト・パワーとしては両者を組み合わせた「メディア文化政策」の重要性が明らかになった。佐藤卓己・柴内康文・渡辺靖編『ソフトパワーとしてのメディア文化政策』を新曜社より2012年度中に上梓する。
著者
大西 範和
出版者
愛知みずほ大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

平成13年度には健康な成人男子6名を対象に、70%VO_2maxの運動強度で25分間の自転車運動を、週4回の頻度で4週間行う持久的トレーニング、平成14年度には健康な男子7名、女子4名を対象に、ハンドグリップ・エルゴメータを用い、8RMの運動負荷強度で、両側の掌握運動を一日に左右各8回を3セット、週3回の頻度で4週間行う筋力トレーニングを行わせた.毎回トレーニング後に、一側の運動肢を持久的トレーニング後には5±1℃、筋力トレーニングの場合は10±1℃の冷水に20分間浸し(持久的トレーニングでは2回)、身体トレーニング後に習慣的にアイシングを施すことが、持久能や筋の発達、パフォーマンスの変化などに及ぼす影響を観察した。持久的トレーニングに伴い、一側下肢の運動負荷テストにおける運動持続時間は対照側で有意(p<0.05)に延長したが、冷却側では有意な変化は認められなかった。最高酸素摂取量の増加率は、対照側に比べ冷却側で有意(p<0.05)に低かった。筋力トレーニングに伴い、最大筋力は両側で増加(冷却側p<0.05、対照側p<0.01)した。しかし、トレーニング前の最大筋力の30%の負荷強度で疲労困憊に至るまでの掌握回数で評価した筋持久力は、対照側で統計的に有意(p<0.01)な増加率を示したのに対し冷却側では変化しなかった。いずれのトレーニングによっても、持久能の向上が冷却によって減衰し得ると推察された。運動後の筋の温度、代謝量や血流量などの差異に起因する応答やそれに伴う適応性の違いが機序として考えられ、今後解明が課題である。また、スポーツ現場などで、急性外傷の治療などの必要のない健常な筋に、アイシングを行う意義や適用条件について検討する必要性を示唆する。被験者の鍛錬度、トレーニング期間、強度、冷却の方法などの条件の違いが結果に影響する可能性もあり、さらに検討を要する。
著者
六角 正廣 竹内 順一 渡辺 好明 藤幡 正樹 野口 玲一
出版者
東京芸術大学
雑誌
地域連携推進研究費
巻号頁・発行日
1999

この研究の目的は、芸術文化の実情とそれらを取り巻く環境に焦点を当て、特に藝術を街づくりの主要な要因として、都市や建築、ランドスケープ等の環境整備を行い、街全体が美術館化していくことを期待し、市民の情操教育や活動に役立つ方法を開発していくことである。近年、街づくりの手法の一つとして、藝術(以降アートと呼ぶ)を手がかりとしたものが増えつつあり、それらが周囲にあたえる影響や変化がどのようなものであるのかを研究・分析する必要性が出てきている。街を美術館化する、ということは、単純に彫刻物等の作品を駅前のロータリーや商店街等の街中に飾っていくといったことではなく、アートを介在して街のイメージが形成されたり、様々なアクティビティが生じて、結果アートが街にとっての共有財産となることが目的とされる。観光資源や文化、歴史的背景を持たない地において、街づくりや再開発を進める場合、画一的手法により全国どこでも同じような風景がひろがっていくケースが多々ある。何を核にこの街ならではの顔を作り出すことができるのか、といった点がこれらの街に共通の問題点であるが、アートはそのプログラムの組み方によって街にとっての共有財産をつくりあげていく手がかりとなる。本研究ではアートが街の共有財産となるための手法をつくりあげていくプロセスの一つとして、主に茨城県取手市と東京藝術大学との連携のケースを中心に、実践と成果のプロセスを報告する。又、他に地理的特長や、歴史的特長、現実にかかえる問題等に対して実際に「アート」と「地域-街-」との関係性を実現化していった(あるいはしつつある)3例、宮城県岩出山町、埼玉県吉川市、埼玉県熊谷市の例を挙げる。
著者
坂本 澄彦 堀内 淳一 大川 智彦 横路 謙次郎 細川 真澄男 小林 博
出版者
東北大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1989

低線量の放射線の腫瘍制御に果たす役割について研究を続けているが、今年は基礎的研究として、15ラドの全身照射を行なったマウスに対し尾静脈から腫瘍細胞を注入した場合に、肺に造る腫瘍細胞のコロニーが出来る割合が、照射をしなかったマウスの場合とどう異るのかについて更に詳細な検討を加えた。先ず肺に造るコロニーは10ラドの照射より15ラドの照射を受けたマウスの方が形成率が低いこと、更に15ラドの全身照射と局所照射の組合せが腫瘍の局所制御率が高まることを確認した。一方放射線照射による腫瘍関連抗原のshedding抑制とその意味する所についての研究が行なわれ、放射線照射による抗腫瘍免疫誘導の機序としてTAAの存在様式の変化が関与している可能性を示し、このような現象が生ずるのには30Gyという至適線量が存在することがわかった。又腫瘍誘発に対する低線量域での放射線の線量と線量の効果についての研究も進められているが、この研究の結論を得るのはもっと先の事になると思われる。臨床的研究としては、昨年に引続き全身或は半身照射のみの効果を調べるため進展例の悪性リンパ腫に対する効果を検討した。結果は45例の悪性リンパ腫の患者のうち1例は他病死したが残りの44例は、現在、再発の徴候なしに生存している。その生存期間は6ケ月から44ケ月の間に分布しており、現在もどんどん治療例が増えているので、近い将来に、統計的解析を行なって治療成績の正しい評価が下せるようになると考えている。又、肺癌、子宮癌、食道癌などの固形腫瘍に対する全身又は半身照射と局所照射の組合せによる治療も開始しているが、この研究は次年度に更に積極的に推進する予定である。
著者
八幡 耕一
出版者
龍谷大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究から得られた示唆は、情報通信技術の革新が、先住民族の権利宣言の立案過程とその議論にも影響を及ぼし、国家が先住民族テレビを制度的に支援する意義が、起草・交渉の過程を通じて低減または変質していったと推察される点である。また、事例分析からは、国内法における先住民族問題の認知が重要な役割を果たすことは明らかであり、技術革新だけに依拠していては、先住民族テレビの成立・存続は十分に達成しえないと考えられる。
著者
松本 伸示 佐藤 真 森 秀樹
出版者
兵庫教育大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

19年度は,兵庫県加東市の小学校で低学年児童を対象として絵本の「読み聞かせ」活動を取り入れた日本版の「哲学」授業を実践した。これは,これまでIAPCで開発されたテキストを用いてきたが,低学年児童を対象するには討論の題材が身近であること,さらには,低学年児童の読解力の発達を考慮にいれたことによる.また,これまで「総合的な学習の時間」を活用して「哲学」授業をおこなってきたが,今年度は子どもたちにもっと哲学的討論を身近なものとするため,学校のカリキュラムに縛られることのない放課後の学童保育の時間を活用することも考えてみた.これにより教室という物理的,心理的な条件に縛られることなく子どもたちは自由に哲学的討論を楽しむことができた.さらに,兵庫教育大学附属中学校においても選択科目の時間を活用し日本版の「哲学」カリキュラムを開発して授業実践した。これはイギリスのNEWSWISEを手がかりにニュースを教材としたP4Cの手法を参考としつつ,討論テーマを生徒の身のまわりの出来事から取り上げた実践研究である.この実践ではより哲学的な要素を含んで討論が展開されるようにカリキュラムを設定した.また,17年度に収集した韓国の資料をもとに思考力育成を図るための副読本「お母さんとともに創る日記」を完成させた。これらの基礎データによって日本においても「哲学」授業が可能であり,児童・生徒の思考力の育成につながっていくことを明らかにした。
著者
原田 優也
出版者
沖縄国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

デジタル・ネットワークの登場により、娯楽産業の伝統的商業活動は大きく変容した。世界的ITネットワーク網の拡大により国境を越えた違法ダウンロードの蔓延など企業は新たな経済問題に直面している。本研究は日本製娯楽ソフトを対象とする違法ダウンロード後(ポスト違法ダウンロード)消費行動モデルを構築し、日本製娯楽ソフトの人気と不正利用が多いアジア市場において流通現場の視察や違法ダウンロード経験者に対するヒアリング調査などを実施した。
著者
杉田 繁治 尹 載秀 劉 仁善 全 京秀 高 恵星 (全 恵星) 朝倉 敏夫 嶋 陸奥彦 KOH Chun He-sung CHUN Kyung-soo YOON Jae-soo YU In-sun
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、一つに18世紀における中国、日本、韓国、ヴェトナムの四ケ国の刑律および刑事判例を使い、それぞれの国の家族・親族の構造を折出し比較すること、二つに18世紀の東アジアにおける刑律および刑事判例のデータベースを作成することにある。ことに第一の目的において、刑律および刑事判例を使うことによって、これまでなされてきた上層階級ばかりでなく、すべての社会階層における東アジアの家族・親族の比較を考えている。これら四ケ国は、7世紀に中国の『唐律』を受容し、それぞれの国の要求および状況に即しこれを修正し、17・18世紀にはそれぞれの国における刑律が確立し、刑事判例がだされている。これらの刑律と刑事判例の中から、本研究の目的に合致し、最も信頼すべき、かつ比較に供する史料を慎重に選択し、四ケ国において共通する漢字による原本をコンピュータに入力し分析することが、本研究の一義的な作業となる。これにそって今年度は、昨年度に続き、第3次、第4次、第5次の三回のワークショップで以下の研究作業を進めた。1.各国の刑律および刑事判例のうち、コンピュータに入力する史料を特定し、入力作業を行う。そのサンプルとして、韓国の『増補文献備考:刑考』とヴェトナムの『黎朝刑律』に加えて、韓国の『続大典』『秋官録』『審理録』、中国の『刑案匯覧』『清律』、日本の『御仕置例類集』を選択する。そして、それらの史料を基とした用語解の作成と、参考とすべき各国の刑律・刑事判例の書誌解題の作成する。なお、史料の選択の過程で、ヴェトナムの法が『唐律』に、韓国の法が『明律』に基づいていることから、これらの法を考慮すべきであることを確認する。2.コンピュータに入力する時のコード化の開発とその分析方法を検討する。3.韓国とヴェトナムの史料の具体的入力と編集を行う。中国、日本の史料についても順次入力と編集の作業を進めていく。4.四ケ国それぞれにおける親族研究の回顧と展望をする。5.四ケ国それぞれにおける刑法の展開についての研究の回顧と展望をする。また、以下の点について討議を行った。1.本研究に使用する史料が総合的な法規の実行記録であるため現代西洋の概念との対照が困難であり、法と文化に関する概念の再検討が必要であることを確認する。2.四ケ国における親族の概念の違いが明らかになる。これに関して、さらに社会学、歴史学など各国の専門家との討議が必要であることを確認する。3.コンピュータに入力するための刑律・刑事判例の構文解釈をどのように行うかを各国の法学研究者に諮問し、批判と教示をあおぐ。4.入力・出力の一貫性のため四ケ国の漢字使用の対照表を作成する。四ケ国における漢字のコンピュータ入力の互換性について、今後さらに検討していく。本研究は学際的な研究であり、その構成員も幅広い学問分野から構成されているが、研究を効率的に推進するために、研究作業の分担とともに、研究成果の発表と最終報告の執筆についても試案ではあるが、すでに調整してある。なお、本研究は平成9年度からも2年間の予定で継続していく計画であるが、そこでは本研究で入力されたデータを出力し、これを分析するとともに、さらに入力のコード化を比較文化研究に使用できるよう再検討し、より汎用性と精度の高いデータベースの作成を行い、このデータベースに基づいて、各研究者がそれぞれの学問分野においてテーマを定めて研究を展開していく予定である。
著者
石井 研士 黒崎 浩行 川島 堅二 葛西 賢太
出版者
国学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、現在急速に進行しつつある高度情報化が、精神文化としての宗教にどのような影響を及ぼし、宗教団体がどのような対応をとったか、あるいは対応を迫られたかを調査研究することを目的としている。また、高度情報化社会と宗教との関係を考察する上で、その前史ともなるラジオ、テレビといった映像メディアと宗教との関係にも留意することとした。具体的な調査内容として、以下の項目を念頭に置いて研究調査を行った。1)音声メディア・映像メディアにおける資料収集と分析2)宗教団体のニューメディア利用の調査研究3)コンピュータ・ネットワーク上の宗教サイトおよび利用者情報の収集と主催者へのインタビュー4)コンピュータ・ネットワーク上の宗教的行為についてのインテンシヴな調査5)上記に関する面接調査6)インターネット利用の国際比較本研究が「基礎的研究」と謳っているように、この領域での研究成果の蓄積は、現象自体が新しいこともあってほとんどない。こうした中で、ラジオ放送における宗教番組の変化と現状を石井がとりまとめ、あわせて昭和28年から始まったテレビ放送における宗教番組の収集、川島による日本のウェブサイトの分析、とくにキリスト教関係のホームページの現状とその分析、および海外との比較、黒崎による宗教ウェブサイトの傾向の時系列的な分析、神社ウェブサイト主催者へのインタビュー等の調査結果は、今後の研究の基礎になるものと考えることができる。他方で、ほとんど研究蓄積のない領域だけに、研究すべき事柄が多く残ったことも確かである。とくに、テレビにおける宗教状況の把握が十分でなかったことは、現在においてもテレビの与える影響力の大きさを考えたときに、残念かことであった。今後こうした領域の研究調査を地道に継続し、成果を公開することで、現代社会と宗教に関する多くの問題点が明らかになるものと考えられる。
著者
庄村 雅子
出版者
東海大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、文献レビュー、国内外の視察調査結果と看護相談の質的分析を統合したがん看護相談支援モデルを、SF-36のQOL評価を主要評価項目として効果を査定し、評価・修正し提示することを目的とした。支援モデルに基づき、対象患者41 名、家族19名に介入し、患者と家族のSF-36平均値は増加傾向を示したが、統計的に有意な差は認めなかった。下位項目スコアは、PFは男性で高く、RP、GH、VT、SF、RE、MHはChild-Pugh Bで低かった。相談開始時に、TNMステージIII以上でMHスコア40点未満は生存期間が短かった。ベースラインのMH40未満でOS低値であったことから、心の健康を保つ重要性が確証された。未分析の結果を総合して支援モデルを評価し、介入効果を高めるために、電話フォローを全対象に併用し、介入頻度と内容を追加・修正することや、介入評価法の検討、およびRCTデザインを取り入れることなどが課題に残された。