著者
木山 博資 小西 博之 中込 咲綾
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

神経再生を促進する分子群の発現を統合的に制御している中核的転写機構が存在すると予想されていた。今までの成果から、転写因子のATF3,cJun,STAT3の関与がとりわけ重要であることが分かっていた。本研究では、神経損傷特異的に発現する遺伝子DINEのプロモーターを用いて、これらの転写因子が別の転写因子であるSp1に結合し、Sp1を介してDNAに結合していることを明らかにした。この新たな転写因子複合体は、一部の他の神経再関連分子の転写も同様に制御することから、神経再生を起動する新たな再生コア因子複合体であることが明らかになった。
著者
半田 宏 落合 孝広 青木 伊知男
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

SV40外殻タンパク質VP1の自己集合化能を利用して、試験管内でナノカプセルを形成し、ナノカプセルの中へ生理活性物質を導入し、さらにナノカプセル表面を修飾・改変する技術を開発した。また、形状や性状やサイズの異なる構造体をVP1五量体で被覆する技術を開発したので、VP1五量体被覆により形成されるナノカプセルの応用展開される分野を大幅に拡大することが可能になり、新規DDS用キャリアとして極めて有用な高機能性ナノカプセルの基盤となる技術開発に成功した。
著者
寺岡 徹 有江 力 鎌倉 高志
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

(1)我々が構築したdifferential cDNA libraryから、付着器形成時、侵入時に特異的に強く発現している病原性関連候補遺伝子をマクロアレイ、RT-PCRにより選抜した。その中から特異性の高かった、FMI1(Functional gene of Magnaporthe Infection 1; クローン#B19)、FMI2(クローン#B48)、MGH61A(Magnaporthe Glycoside Hydrase family 61A;クローン#B59)を選抜して、それら遺伝子の構造解析、ゲノム解析を行い、当該遺伝子の破壊株を作出して、付着器の形態形成ならびにイネ葉への感染過程における機能を解析した。いずれも既報の遺伝子と高い相同性を示すものはなかったものの、部分的にいくつかのドメインを保持していた。FMI1はN末端にセリン残基に富んだ配列と核局在性シグナル様配列をコードし、そのC末端側にsucrase/ferredoxinと部分的相同配列をコードしていた。当該遺伝子の破端株は付着器形成の異常、侵入の遅延をもたらした。FMI2はdual specificity phosphataseの活性ドメインを一部コードしていた。当該遺伝子破壊株は付着器形成の異常をもたらしたが、両遺伝子とも顕著な病斑形成能の低下はもたらさず、その発現も接種後3-4日以内の肉眼的病斑形成以前に限られていた。MGH61Aはシグナル配列を持つ分泌型タンパク質で、5'側の一部にglycoside hydrase family 61と相同性の高いドメインを保持していた。当該遺伝子の破壊株は付着器形成、侵入、病斑形成の低下をもたらした。(2)ベトナムを中心として、世界各地で分離されたイネいもち病菌の病原性レースと交配能について、自然交配能を有する雲南産ならびにアメリカ産イネいもち病菌を基準に調査したところ、ベトナム菌株は病原性レースは多様性に富むものの、交配能を保持している菌株は見いだせなかった。ただ、今まで報告されたことのない二本鎖RNAウイルスを見出した。本ウイルスは容易に水平移動し、いもち病菌の生育、病原性を低下させた。
著者
菅野 了次 園山 範之 米村 雅雄 田村 和久 山田 淳夫 鳥飼 直也 小林 弘典 山田 淳夫 小林 弘典 鳥飼 直也
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究課題では,新規なイオニクスデバイスの開発を目的として,新規材料開発と新規反応開拓を目指した.全くのブラックボックスである電気化学界面での反応挙動の解明のためにモデル電極を開発し,電気化学界面での反応の詳細が明らかにできるようにしたことが,本研究の大きな成果である.また,最高のイオン導電特性を示す固体電解質材料にたいする純理学的な知見は,今後の材料開発の指針を示すものである.
著者
山邊 信一 小原 繁 松下 叔夫 鷹野 景子 長嶋 雲兵 細矢 治夫
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

3年間にわたりデータチェックプログラムの改良を行い、データの追加における標準化、定式化をすすめた。また、データの誤り検出に活用するQCLDB辞書とそれを作成・充実するプログラムを改良したこの誤り検出プログラムは、収集済みの全文献データを対象として辞書を作成することと、粗データ中の全単語と辞書中の単語を高速に比較し、粗データ近傍に誤り内容を出力する機能を有する。このプログラムを利用して、1996年の収集粗データをある程度精製し、その後の本研究の班員が目の子作業による再精製を行ったところ、年号の間違いなど新しいミスを見つけだし、本検出プログラムの有効性を確認した。平成9年度加えたデータは、4005件で、全データ数36856件に上り、データ増大に対応できる新しい検索システムの構築が急務である。そこで次期データ検索システムのデザイン検討のため、市販のデータベースソフトを試験的に購入し、検索システムとしての評価をおこなった。さらにインターネットに対応したデータベース配布と検索支援システムの構築に関し、現在持っている検索プログラムをcgiとして利用して、分子科学研究所電子計算機センターのWWWで試験公開し、本格的な公開に向け、リレーショナルデータベースとの連係を中心にデータ内容と管理・運用の技術的な問題点の検討をすすめた。また海外のミラーサーバー構築のため、スイス、アメリカの研究グループと交渉をはじめた。この他、粗データの質的向上を目的に収集・査読者を対象とした講習会を分子構造総合討論会期間中に行った。またQCLDBを量子化学者のみならず実験家にもより広く利用してもらうため、ICQC(アトランタ)及び国際会議(福岡カンファレンス)でデモンストレーションを行った。研究成果として、1996年分QCLDBを冊子として学術雑誌THEOCHEMに掲載し、別に磁気デ-プ版を作成、配布した。
著者
田邉 新一 中野 淳太 岩下 剛 秋元 孝之 堤 仁美 西原 直枝 木村 建一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、室内環境要素が知的生産性に与える影響を明らかにすること、および知的生産性を評価するツールを開発することを目的とした。被験者実験および現場実測により、精神作業時の作業成績、心理量測定、生理量測定から、室内環境の質が知的生産性に与える影響を総合的に評価した。作業成績のみでなく、作業者の疲労やメンタルワークロードに着目をした点が特徴的である。1)作業成績コンピュータまたは紙面を用いた、複数の作業を被験者に課し、作業の正確さとスピードを用いて評価した。2)心理量測定室内の温熱、空気、光、音等の環境について主観的申告を行った。また、日本産業衛生協会の「自覚症状しらべ」を用いた評価を行い、室内環境が各症状群の出現にどのように影響するかを分析した。ポジティブな尺度である、活力度を測定する手法について検討した。疲労感や室内環境に対する満足度などが作業成績に与える影響について考察した。日本語版NASA-TLXを用い、作業負荷の特徴を測定した。3)生理量測定疲労やメンタルワークロードの指標として、近赤外線酸素モニタによる脳内酸素代謝状態の測定を行った。疲労測定として、フリッカー値や音声を用いた測定を行った。対象とする室内環境は、温度、気流、湿度、室内空気質、音、光環境とした。作業成績による評価はモチベーションなど心理的な影響を受けやすく、室内環境質が与える影響を評価することが難しかった。一方、室内環境質の違いは、作業者の疲労をはじめとした、心理量や生理量に与える影響が大きいことが明らかとなった。長時間作業を課す実験により、疲労や室内環境質への不満の程度が大きくなると、作業成績が低下することを明らかとした。また、近年の環境設備機器制御のオープン化にむけて、ネットワーク環境を用い、オフィス執務者の環境評価、疲労、活力、生産性に関するデータを収集するツールを開発し、コールセンター等のフィールド実測を行った。
著者
中澤 哲夫 別所 康太郎 坪木 和久 斉藤 和雄 榎本 剛 原 昌弘
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

2008年に行った航空機からの台風直接観測による進路予報へのインパクトについて調査を行った結果、ターゲット観測の予報改善効果が確認できたものの、台風第13号と第15号の二つの台風での限られた観測のため、有効性を十分に確認することまでは至っていない。高い感度領域でのデータ同化が、必ずしも予報精度の改善へ寄与していない事例のあることもわかった。台風周辺での観測のインパクトについては、数値予報の成績がよい気象庁やヨーロッパ中期予報モデルなどでは改善率が小さく、逆に米国のモデルなど通常の予報成績があまりよくない場合に改善率が大きいこともわかった。また、台風中心付近のデータをどのように同化システムに取込むかどうかによって予報精度が大きく影響されることが明らかになった。
著者
嶋本 伸雄 十川 久美子 永井 宏樹 HAYWARD Rich CHATTERJI Di
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究の最大の発見は、バクテリアにおいて初めてプリオン様の調節機構を発見したことである。この意外な発見のため、主要な努力をこのテーマに注ぎ込んだ。転写の大部分に関与する主要転写会誌因子の動態は、病原菌を含むバクテリアを制御するために重要である。大腸菌の主要転写会誌因子σ^<70>因子の細胞内の動態を観察するために、大腸菌のクロモゾーム上のσ^<70>の遺伝子(rpoD)を破壊した菌株を昨年度作製した。この株を利用して、プラスミド上の遺伝子の発現を制御することによって、野生型変異型のσ^<70>の細胞内量を調節した。この結果、σ^<70>は、高い増殖温度や増殖後期に、αヘリックスからβ構造の転移を伴うアミロイド繊維を形成して、転写の活性を低下させ、マイナーσによる転写パターンに切り替えることが明らかになった。アミロイド繊維を形成しやすい変異株、しにくい変異株に置き換えると増殖温度が変化したので、σ^<70>が大腸菌の分子温度となっている傍証を得た。また、σ^<70>の細胞内濃度を変化させながら観察すると、熱ショック遺伝子の定常的発現量と誘導的発現量はともにσ^<70>の存在量に反比例したので、熱ショックσとのスイッチングとアミロイド生成との関係を証明した。また、20年来謎であった、RNAポリメラーゼのωサブユニットの機能を明らかにした。ω欠損株は、野生株と同じ表現型を示すが、コア酵素には、シャペロニンGroELが結合していた。GroELを除いたコア酵素σ^<70>は結合することができず、活性が無かった。つまり、ωサブユニットはコア酵素の成熟因子であり、これを欠く細胞においてはGroELがその役割を代行することが明らかになった。σ^<70>のアミロイド繊維を含む封入体を可溶化する必要から、高濃度のグリセロールを用いた可溶化法を開発した。この手法を、各種生物の蛋白質を大腸菌で量産したときにできる封入体に応用し、8-200倍の改善を観察し、その一般性を証明した。
著者
松本 尚英 小川 芳弘 中村 政明 島本 知茂
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

光、温度などの外部情報で制御できる新しい物質群を創生した。1、外部摂動により高スピンと低スピン状態間を相互変換するスピンクロスオーバー分子。2、一つの分子が磁気履歴をもつ単分子磁石、単一次元磁石。1では特異な性質を示す新しい錯体群を見出した。(A)イミダゾール含有直鎖上配位子の鉄錯体で一次元集積構造と熱履歴をもつスピンクロスオーバー錯体を合成した。(B)3座配位子鉄錯体に水素結合とπ-π相互作用を導入して熱履歴を実現した。(C)鉄錯体で2段階スピン転移をもち、さらにこの中間状態が異常に安定な錯体を合成した。(D)組成式[Fe(H_3L)]CIXをもつ一連の三脚型鉄錯体を合成した。塩化物イオンとイミダゾール基間の水素結合が2次元層構造を形成する。層間を埋める陰イオンXの大きさ、形状によりスピン転移挙動は大きく変化し、一段階、二般階スピン転移をはじめとする多なスピン転移を陰イオンの選択で実現した。さらに高スピンと低スピンが共存する中間般階ではキラリティが発現した。(E)(D)の系では、掌性の起源をさぐるアイデアが生まれた。もともと三脚型鉄錯体は右巻きと左巻きの分子があるが、高スピン状態では右巻き分子の隣に左巻き分子が水素結合で連結して二次元層構造を形成していた。右巻きと左巻きのキラリティ以外では構造的違いがない。ところが中間状態では、右巻き分子は高スピンのまま、左巻き分子は低スピンへと変化し、光学活性な空間群へと変化したと解釈された。しかしこのときのFlack値は0.5であり、外部摂動によるFlack値の偏りを探る研究の端緒となる。一方、単分子磁石、単一次元磁石の研究では、希土類の磁気異方性を利用して一次元鎖錯体をいくつか合成した。この分子系の分子修飾により新しい単一次元磁石を模索した。
著者
平野 恒夫 村上 和彰 小原 繁 長嶋 雲兵
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

分子軌道計算は、材料化学や医薬品開発のために欠くことのできない手法であり、現在本方法は化学工業においても広く利用され始めている。分子軌道計算は、基底関数の数Nの4乗に比例する演算量および、補助記憶量を必要とするため、タンパク質等の巨大分子の計算は、事実上不可能であった。そこで、本研究では演算時間の大幅な短縮と補助記憶量の削減を目的として、分子軌道計算のための専用計算機MOE(MO Engine)とそれを用いた分子軌道計算プログラムの開発を試みた。このシステムの実現には、既存分子軌道計算プログラムの改良、MOE-LSI(MOE用高度集積チップ)の作成ならびにその専用ボードへの実装が必要である。本研究で開発しようとしたMOEは、パソコンにIEEE1394と呼ばれる標準プロトコルを用いて接続される専用並列計算システムであり、その最小単位であるMOEL-SIを、今回新たに開発した。性能は200MFlopsである。このMOEL-SI5個をボード上に実装した。5個のMOEL-SIはPPRAM-Linkを用いて相互結合されているので、1ボードあたり1Gflopsの性能を示す。一方、分子軌道法計算プログラムの改良としては、現在広く世界で使われているGAMESSをベースに行った。
著者
恒川 篤史 鈴木 雅一 森田 茂紀 飯山 賢治 篠田 雅人 西田 顕郎
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、多様な生態系を対象としてさまざまなタイプの数値シミュレーションモデルを適用し、その生態系で生じている現象の理解を深め、新たな現象を解明すると同時に、モデル自体についてもさまざまな改良や開発を続けてきた。主要な研究対象と成果は以下の通りである。1.日本の代表的な森林であるスギ・ヒノキ人工林の東京大学千葉演習林において、Komatsu et al.(2006)によって開発された生態系プロセスモデルを用いて、斜面部による蒸散開始時刻の違いがどのような要因によって生じるかを解明した。2.米国モンタナ大学で開発されたBiome-BGCを日本の代表的な森林であるスギ・ヒノキ人工林の東京大学千葉演習林袋山沢に適用した結果、幹材積炭素含有量の、植栽から現在までのモデルによる計算値の推移は、千葉演習林のスギの収穫表と袋山沢での観測値をほぼ再現した。3.Centuryモデルを富士山における一次遷移のデータに適用し、その適用性を検討した。いくつかのパラメータを変更する必要があったが、パラメータを変更することでCenturyモデルは富士山における一次遷移のデータを良好に再現することができた。4.Biome-BGCモデルをモンゴル中央県のバヤンウンジュールの典型草原に適用した。さまざまなチューニングにより実測値の正確な予測が可能となった。このモデルを用いて干ばつに対する植生影響のシミュレーションを試みた。5.広域スケールの生態系プロセスモデルとして、光合成有効放射吸収率(FPAR)、葉面積指数(LAI)、4種類の気候データ(純放射、日最低気温、日平均気温、飽差)および土地被覆図を用いた生産効率モデルを用いて、1982年から1999年までの全球陸域NPPを推定した。
著者
立木 茂雄 林 春男 重川 希志依 田村 圭子 木村 玲欧 山崎 栄一 上野谷 加代子 柴内 康文 牧 紀男 田中 聡 吉富 望 高島 正典 井ノ口 宗成
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

人と環境の相互作用の視点から災害脆弱性をとらえ、地理情報システ ム(GIS)の活用により、平時における災害時要援護者の個別支援計画の策定や、災害時におけ るり災情報と支援策の重ね合わせによる支援方策の最適化等に資する標準業務モデル群を開発 した。開発成果は東日本大震災被災地および被災地外の自治体で実装した。併せて、東日本大震 災の高齢者・障害者被害率と施設収容率との間に負の相関関係があることを見いだした。
著者
宮本 太郎 坪郷 實 山口 二郎 篠田 徹 山崎 幹根 空井 護 田村 哲樹 田中 拓道 井手 英策 吉田 徹 城下 賢一
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の主題は、福祉雇用レジームの変容が政治過程の転換をどう引き起こしたか、また政治過程の転換が、逆にいかに福祉雇用レジームの変容を促進したかを明らかにすることである。本研究は、国際比較の視点を交えた制度変容分析、世論調査、団体分析などをとおして、福祉雇用レジームの変容が建設業団体や労働組合の影響力の後退につながり、結果的にこうした団体の調整力に依拠してきた雇用レジームが不安定化していることを示した。同時にいくつかの地域では、NPOなどを交えた新たな集団政治が社会的包摂をすすめていく可能性を見出した。
著者
富田 正弘 湯山 賢一 永村 眞 綾村 宏 藤井 譲治 大藤 修
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、作成年代の明記のない紙を素材とする文化財(文書・典籍・聖教・絵図)の年代推定について、非破壊調査である光学的観察によって行う方法論を確立することである。そのため、これらの文化財特に文書の原本の料紙を所蔵機関に出向いて調査を行った。その主なものは、東寺百合文書(京都府立総合資料館)・上杉家文書(米沢市上杉博物館)・東大寺文書(東大寺図書館)・醍醐寺文書(醍醐寺)・東福寺文書(東福寺)・津軽家文書(国立国文学研究資料館)で、合計1万点ほどの調書を採った。また、前近代の文書等の料紙について、本研究グループが推定した製法で実際にその紙ができるのか確かめるために、高知県紙産業技術センターの協力を得て、大高檀紙の吊り干し製作等、前近代文書料紙の復元製作実験を行った。さらに、中国唐代以前の紙と日本の奈良時代のそれとの繋がり、宋代以降の紙と日本のそれとの関わりを考えるため、中国・韓国を訪問し、文書・聖教の料紙を調査した。その結果、まず成果として確認できたことは、前漢時代の紙は文字を書く素材としては未熟であるが、繊維を水中に拡散させ簀で漉き上げるという製法は製紙と同じ技法であること、蔡倫以後の紙は筆記用の素材として優れたものであること、宋代以降の宣紙・竹紙の白さと滑らかさは江戸期の製紙に与えた影響が大きいと思われること、等を確認できた。日本の文書等料紙の変遷としては、奈良時代の麻紙・楮紙、平安時代から南北朝時代の檀紙・引合、室町時代の杉原紙・強杉原、桃山時代から江戸時代の大高檀紙・奉書紙・美濃紙、南北朝時代と戦国時代の斐紙、戦国時代以降の椏紙等のそれぞれの時代の特徴的な料紙を捉えることができた。また、戦国時代の関東武士の発給文書の料紙は前時代に対し特異であり、それが江戸時代の製紙に与えた影響については、改めて考える必要があることが分かってきた。これらの成果は、料紙の時代判定の基準として充分に使えるものである。
著者
菱田 雅晴 毛里 和子 天児 慧 加藤 弘之 高原 明生 大島 一二 趙 宏偉 南 裕子 WANK David 唐 亮 小嶋 華津子 朱 建榮 加茂 具樹 諏訪 一幸 鈴木 隆 阿古 智子 中岡 まり 中居 良文 林 載桓 福田 円 呉 茂松 弓野 正宏
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

中国共産党を組織集団として捉えようとの目的から、中国側カウンターパートの協力の下、党および党員に関する認識をめぐる広範なインデプス・インタビューおよびアンケート調査を実施した。国家社会論フレームに基づくクロス解析結果から、「党政関係」、すなわち,党・国家体制の揺らぎおよび「党群関係」、すなわち,党に対する公信力の低下が観察された。だが、その一方で、政府、とりわけ中央政府に対する信任は依然として高位にあるところから、党信任の脆弱性は国家信任の強靱性によって補完されており、党のサバイバル戦略が依然として機能しているものと推測される。
著者
潮見 佳男 橋本 佳幸 コツィオール ガブリエーレ 松岡 久和 愛知 靖之 木村 敦子 山本 豊 長野 史寛 山本 敬三 横山 美夏 佐久間 毅 和田 勝行 天野 佳洋 吉永 一行 栗田 昌裕 松尾 健一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、①信託を中心とする事業財産権モデル、②知的財産の完全な自由利用を保障するタイプと対価徴収権を中核とするタイプの複合モデルを基礎とする情報財産権モデル、③景観利益や環境利益の侵害に対する救済および原子力損害からの被害者救済に適合した環境財産権モデル、④パブリシティーや個人情報の財産化、ヒト由来物質や身体の譲渡・利用可能性に照準を合わせた人格財産権モデルを提示した。そのうえで、これらの研究成果を踏まえ、共同研究メンバーが、物権法、債権法、契約法の各領域の再編を企図した体系書を刊行したほか、2015年度の日本私法学会シンポジウムで「不法行為法の立法的課題」を担当した。
著者
石田 英實 伊丹 君和 荻原 直道 中務 真人 栗田 祐 久留島 美紀子 山崎 信寿 堤 定美 国松 豊
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

損傷、変形を受けた形態の復元は、人類学や考古学などで非常に重要である。しかし、その作業の主体はマニュアルであり、精度の高い修復には多くの時間と長い作業経験が不可欠であった。そのため本研究では計算機内に3次元構築した変形化石を,形態情報に基づいて客観的に修復.復元するシステムを開発した。特に本研究では、頭蓋骨など左右対称の骨について変形形態の復元手法を開発した。左右対称な骨では,正中矢状面内の特徴点は空間の同一平面上に、その他の左右で対になる特徴点は2点を結ぶ線分が正中矢状面と中点で垂直に交わる位置に、必ず存在する。しかし、土圧などにより化石が変形するとそのような幾何学的関係が失われる。このことに着目して客観的な変形復元を行う方法を考案した。具体的には、化石の3次元表面形状データと解剖学的特徴点の座標を取り込み、特徴点の位置を上述の幾何学的制約を満たすように移動させた。そして元座標から修正座標への非線形写像を薄板スプライン関数によって記述し、それを用いて化石の表面形状全体を変換することにより変形の除去を行った。本手法を応用して、中新世化石類人猿プロコンスルの変形頭蓋骨化石の復元を試み,光造形装置により立体モデルとして実空間に取り出した。化石化の過程で形態が受ける変形は,直方体が平行六面体になるような一種な変換ではなく、部位により歪みの大きさや方向が異なる非線形変換である。しかし、本手法によれば、そのような変形を受けている化石でも、その歪みを除去することができ、本手法の有効性を確認した。このように、CT等から得られるデジタル形状情報から仮想空間内で化石や骨の3次元構築を行い、それを計算機により数理的に復元して立体形状を作成するシステムは、生物の形態分析に必要不可欠な技術であり、当該分野の今後の発展に貢献するものとなる。
著者
吉田 敏 位田 晴久 下町 多佳志 川満 芳信 尾崎 行生 渡部 由香 安永 円理子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

西南暖地の施設園芸における冷却技術の普及を阻む原因が,冷却技術を導入したときの温度効果を定量的に評価する手法や,冷却がもたらす植物生育,収量および収穫物の品質への影響について,生産現場に十分な理解が得られていないことにあるとの観点から,環境制御施設,模擬実験温室および実際の生産現場において施設冷房・冷却を導入した場合の環境観測および植物生体計測に関する検討を行い,冷却がもたらす生産性向上効果について評価した.
著者
伊藤 谷生 宮内 崇裕 金川 久一 伊勢崎 修弘 佐藤 比呂志 岩崎 貴哉 佐藤 利典
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

今年度は本研究の最終年度であるため、2000年9月に行われた日高超深部地震探査結果の解析を行い、日高衝突帯の超深部構造を明らかにする糸口を見つけだすことが中心的課題であった。このため、年度の前半は、探査結果解析のための前処理を千葉大学所有の反射法処理システムを用いて行い、後半は、新たに導入した汎用地震探査処理システムSuper XCを用いて解析作業を進めた。また、この作業と平行して、測線周辺の地質調査を行った。これらを通じて明らかになったことは以下の点に要約される。1)日高主衝上断層(HMT)は低角であり、しかも地下2km程度でほとんど水平になる。これは、変成岩類主帯の構造から推定されてきたことと調和的である。2)TWT14秒付近に顕著な反射面群として把握されているものは、自然地震の震源分布との対応関係から太平洋プレート上面と推定される。3)デラミネートした千島下部地殻下半分のイメージは現在までの処理過程では把握されていない。その理由としては、高角なためイメージングできない、破砕されているため地震波が散乱し反射面を形成できない、エクロジャイト化して上部マントルと区別できない、の3つが考えられるが、1つを特定できない。4)東北日本側のウェッジにも顕著な反射面が認められ、当初考えられていた単純なデラミネーションーウェッジモデルよりも複雑な"刺しちがえ"構造の存在が碓定される。5)イドンナッブ帯中の冬島変成岩類の西縁断層は衝上断層である。6)日高超深部地震探査と平行して行われた遠地自然地震のレシーバ関数解析についての予察的研究によれば、4)に対応するインターフェースの存在が確認される。これまでの解析は最もベーシックな段階であるにもかかわらず、日高衝突帯超深部構造解明の糸口を与えるものである。今後の木格的な処理作業によって、解明へ大きく前進するであろう。
著者
海老原 史樹文 鍋島 俊隆 髙田 耕司 阿部 訓也 間宮 隆吉
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

抗うつ薬の評価法として用いられる尾懸垂試験における無動行動を制御する遺伝子Usp46を中心として、マウスの行動障害に関わる遺伝要因及び遺伝と環境との相互作用について分析し、その生理生化学的メカニズムを解明することを目的とした。その結果、Usp46は脳の様々な領域で発現し、GABA神経系を介して多様な行動に影響を及ぼすことが示された。また、Usp46変異マウスはストレスに対して脆弱であり、養育活動も低下するが、適正な養育活動を受けて成長すると、正常な養育行動が発現することが明らかになった。