著者
小林 良彰 名取 良太 河村 和徳 金 宗郁 中谷 美穂 羅 一慶
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

平成23年度、(1)選挙公約内容分析ユニットでは、日本の地方選挙における都道府県知事選拳・都道府県議会議員選挙・政令指定都市長選挙・政令指定都市議会議員選挙、韓国の地方選挙における道知事選挙・道議会議員選挙・広域市長選挙・広域市議会議員選挙の公約を収集して、16の政策領域について内容分析した。次に、(2)政治的選好/政策分析ユニットでは、平成22年度に行った日本の都道府県知事・全ての市長宛の意識調査と比較するために、日本の都道府県議会議長・全ての市議会議長、韓国の道知事・基礎自治体長・道議会議長・基礎自治体議会議長宛の意識調査を行った。また日本の都道府県・全ての市の企画部局、韓国の道・広域市を含む全ての基礎自治体の企画部局宛の意識調査を行った。さらに(3)データアーカイブユニットでは、日本の都道府県、政令市を含む全ての市町村、韓国の道・広域市を含む全ての基礎自治体の財政データを収集してデータアーカイブを構築した。上記の各ユニットで得られたデータを接合して分析した結果、地方分権の効果は、(ア)韓国においてより肯定的に評価されていること、(イ)韓国においてより地域活性化への意識が強いこと、(ウ)日本においてより財政再建志向が強いこと、(エ)韓国において、より「代理型」の代表スタイルが施行されていること、(オ)韓国では、政治的・財政的に中央との結びつきが強く意識されていること、(カ)日韓両国とも、首長と議会の間の認識ギャップが存在するが、そのギャップは日本において、より顕著に見られること、(キ)韓国の地方選挙において公約の地域差のみが表れるのに対して、日本の地方選挙においては公約の地域差と政党差をみることができ、有権者に政策上の選択肢が提示されていることが明らかになった。これらの分析を通して、日本と韓国における自治体が有する共通点と相違点が統計的に明らかにされた意義は大きいと考える。
著者
追川 修一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は,組み込みプロセッサ向け仮想化環境の研究,および異なるプロセッサアーキテクチャを持つプロセッサの相互接続手法の研究の2点を研究の目的とした.研究成果として,組み込みシステムで広く使用されているARMプロセッサをターゲットとする仮想化ソフトウェアの開発手法を明らかにし,また実際に実装することで手法の正しさを検証した.また,OpenCLを拡張したHybrid OpenCLにより,効率的に複数のプロセッサを相互接続できることを明らかにした.
著者
横澤 一彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本プロジェクトの目的は、高次視覚と行為への理解であり、多くの認知心理学的実験が行われた。第1に、同時に提示される2つの日常物体の奥行き回転による方位差を弁別させる実験課題における反応時間と誤答率を測定した(Niimi & Yokosawa, 2008)。その結果、視覚系は正面、側面、後面に特異的であり、高速で正確であったが、斜め方向では時間がかかり不正確であった。このような特性は水平線や対称性などの方位特異的な特徴に基づくことが分かった。日常物体の方位の視覚判断の効率性は方位依存的であり、前後軸を基に知覚されている可能性が考えられる。第2に、刺激と反応が対応しているときに効率的であるという刺激反応適合性がまったく無関係な次元間でも生ずるかを調べた(Nishimura & Yokosawa 2006)。その結果、直交型サイモン効果と呼ぶ上右/下左が優位となる結果が得られた。この直交型サイモン効果は、左反応が正極になると減弱するか、逆転した。この結果は、刺激の正負の符号化によって、反応の正負の符号化が自動的に生起することを示している。第3に、時間的に系列的に提示された文字列中の標的において、報告される標的の正答率の違いを調べた(Ariga & Yokosawa, 2008)。その結果、提示系列の後半に比べ、前半に標的が提示されるとき、その正答率が低下することが分かった。この新しい現象を「注意の目覚め」と命名した。
著者
地主 将久 菰原 義弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

肺非小細胞癌の自然発癌モデル、ヒト検体を活用して肺非小細胞がんにおけるEGFR-TKIの治療抵抗性に寄与する免疫制御因子を検索したところ、肺腺癌においてM2マクロファージ、MDSCなど免疫抑制系ミエロイド細胞の分化・活性にかかわるシグナル群とEGFR-TKIの治療応答抑制、T790Mなど治療抵抗性遺伝子変異出現率が正の相関を示すことが判明した。さらに、肺非小細胞癌自然発がんモデルに対するCSF-1阻害剤投与により、EGFR-TKIによる効果は相乗的に増強することを解明した。一方PD-1など免疫チェックポイント経路は変化はなかった。肺腺癌における免疫制御経路を同定したうえで重要な成果である。
著者
下澤 楯夫 西野 浩史 馬場 欣也 水波 誠 青沼 仁志
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

機械受容は、動物と外界との相互作用の「基本要素」であり、機械刺激の受容機構を抜きにして動物の進化・適応は語れない。従来、機械受容は「膜の張力によるイオンチャネルの開閉」といった「マクロで単純すぎる」図式でとらえられて来た。また、機械感覚の超高感度性の例として、ヒトやクサカゲロウの聴覚閾値での鼓膜の変位量が0.1オングストローム、つまり水素原子の直径の1/10に過ぎないことも、数多く示されてきた。しかし、変位で機械感度を議論するのは明らかに誤っている。感覚細胞は外界のエネルギーを情報エントロピーに変換する観測器であり、その性能はエネルギー感度で表現すべきである。エネルギーの授受無しの観測は「Maxwellの魔物」で代表される統計熱力学上の矛盾に行き着くから、いかなる感覚細胞も応答に際し刺激からエネルギーを受け取っている。コオロギの気流感覚細胞は、単一分子の常温における熱搖動ブラウン運動)エネルギーkBT(300°Kで4×10^<-21>[Joule])と同程度の刺激に反応してしまう。機械エネルギーが感覚細胞の反応に変換される仕組み、特にその初期過程は全く解明されていない。この未知の細胞機構を解明するため、ブラウン運動に近いレベルの微弱な機械刺激を気流感覚毛に与えたときの感覚細胞の膜電流応答の計測に、真正面から取り組んだ。長さ約1000μmのコオロギ気流感覚毛を根元から100μmで切断し、ピエゾ素子に取付けた電極を被せてナノメートル領域で動かし、気流感覚細胞の膜電流応答を計測した。長さ1000μmの気流感覚毛の先端は、ブラウン運動によって約14nm揺らいでいることは計測済みである。先端を切除した気流感覚毛を10-100nmの範囲で動かしたときの膜電流応答のエネルギーを計測し、刺激入力として与えた機械エネルギーと比べたところ、すでに10^6倍ほどのエネルギー増幅を受けていた。従って、機械受容器の初期過程は細胞膜にあるイオンチャンネルの開閉以前の分子機構にあることが明らかとなった。
著者
野崎 久義 関本 弘之 西井 一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

我々は群体性ボルボックス目の雌雄の配偶子をもつプレオドリナから、オスに特異的な遺伝子"OTOKOGI"(PlestMID)を発見し、オスが同型配偶の優性交配型(クラミドモナスのマイナス交配型)から進化したことを明らかにした(Nozaki et al.2006, Curr.Biol.)。その結果、"メス"が性の原型であり、"オス"は性の派生型であることが示唆された。この研究では、従来的なモデル生物を用いた研究では不明であった進化生物学的大問題(オス・メスの起源)が、独自に開発した材料(プレオドリナの新種)を用いることで解き明かされ、生物学の一般的な教科書で示されている同型配偶から異型配偶/卵生殖への進化がはじめて遺伝子レベルのデータで説明された。また、本研究におけるオス特異的遺伝子の同定はこれまでに全く未開拓であったメスとオスの起源を明らかにする進化生物学的研究のブレークスルーになるものと高く評価された(Kirk 2006, Curr.Biol.16 : R1028 ; Charlesworth 2007, Curr.Biol.17 : R163)。「雌雄性の誕生」とは性によって配偶子に差異が生じることであり、この差異を生み出した分子生物学的要因を特定するには、性によって異なる性染色体領域ゲノムの比較研究することができれば最適である。オス特異的遺伝子"OTOKOGI"はクラミドモナスの性染色体領域に存在する性決定遺伝子MIDのオーソログであり、プレオドリナのオスの性染色体領域に存在することが推定される。従って、本遺伝子のオーソログを同型配偶~卵生殖に至る様々な進化段階の群体性ボルボックス目の生物から得ることができれば、各進化段階の性染色体領域を探索するプローブとして使用できる。これらの性染色体領域に着目した比較生物学的な研究を実施すれば「雌雄性の誕生」の分子細胞学的基盤が明らかになるものと思い、群体性ボルボックス目の同型配偶のゴニウムからMIDオーソログ(GpMID)を探索し、その分子遺伝学的な特性を調査した(Hamaji et al.2008, Genetics)。
著者
秋山 英文
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

半導体レーザーの利得性能計算には、自由電子近似に基づくバンド理論が用いられてきた。本研究では、計算パラメータをk・p 摂動論に基づいて決定し、1 次元量子細線系と2 次元量子井戸系用のキャリア間多体クーロン相互作用を平均場近似で取り入れ、レーザーのモード利得を定量的に計算する理論を、コードとして試作した。遮蔽クーロン相互作用の波数依存性を無視した計算も行った。実験では、高品質3周期T型量子細線試料を用いて、利得スペクトルのキャリア密度依存性を精密測定した。理論により得られた定量的利得スペクトルやピーク利得値を実験と比較して、開発した理論の有用性を明らかにした。
著者
加藤 行夫 田中 一隆 山下 孝子 英 知明 佐野 隆弥 辻 照彦 勝山 貴之 石橋 敬太郎 杉浦 裕子 真部 多真記 西原 幹子 松田 幸子 本山 哲人 岡本 靖正
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、主として英国初期近代(エリザベス朝およびジェイムズ朝)の演劇作品および当時の役者・劇団・劇場の総合研究を「歴史実証主義的立場」から新たに検証し直す作業を行なった。とくに「デジタルアーカイヴズ」を多用して、定説と考えられてきた既存の概念・理論を、現存する公文書や有力な歴史的基礎資料を根幹とした「検証可能な方法」で再検討し直すことを最大の特徴とした。この研究手法により、当時の劇作家、幹部俳優、劇場所有者、印刷出版業者等をはじめとした「演劇世界全般の相関的ネットワーク構築」の特徴的なありようを、演劇理論や劇作家と劇団研究、個々の劇作品とその出版等を通して追究した。
著者
馬居 政幸 外山 知徳 阿部 耕也 磯山 恭子 唐木 清志
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

95年度から実施してきた調査を踏まえ、平成14年度から3年計画で次の3種の調査研究を実施した。1.日本文化開放政策進行に伴う韓国青少年の意識と行動の変化把握のためのソウル市、大田市、釜山市での継続・発展調査。2.日本理解・批判に関係する学習機会の青少年への影響と社会的文化的基盤解明のための新調査。3.日韓相互理解教育のためのプログラム開発とモデル授業実施。これらの調査結果の分析から、現代韓国青少年が日本と同様に個人化が進行する豊かな社会に育ち、社会的自立への課題を日本青少年と共有することを明らかにした。さらに、日本文化への接触状況と日本・日本人への評価の継続調査の総合分析から、漫画を中心に日本文化開放以前に浸透した日本文化が韓流文化の源流を形成し、文化開放の進行に伴いアニメや歌謡も類似の傾向が見られることを把握した。また日本・日本人観の変化の5類型を析出し、相互理解を阻む新たな意識構造を解明した。特に韓国中高生の「日本・日本人評価」と「推測する韓国・韓国人評価」の比較から、日本と同水準の生活を享受する青少年による既存世代と異なる韓国上位の意識形成を確認。これらとモデルプログラム実施結果との総合分析から相互理解教育促進への次の課題を解明した。1.インターネットを代表にIT化の進行が自国文化・言語内に閉じた意識と行動を強化するため、従来と異なる相互の理解(誤解・不信)に関わる多様な情報サイトの影響の実証研究と相互理解促進のための情報サイトの増設が必要である。2.両国の現代文化共有化は相互理解の基盤形成に寄与する反面、両国社会の問題点を認識させる側面もある。その克服は規制ではなく、より積極的かつ多面的な現代文化共有化の機会拡大が必要である。3.世代間格差を伴う新たな相互理解の障壁形成を克服するために、差異の相互認知に止まらず相互に修正をも要求しあうことで二国間を超えて共有すべきアジア的シチズンシップの構築とその教育システムが必要である。
著者
中野 正大 宝月 誠 油井 清光 加藤 一巳 近藤 敏夫 藤澤 三佳 鎌田 大資 高山 龍太郎 大山 小夜
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、前回の科学研究費補助金による研究「シカゴ学派の総合的研究」(課題番号10410045)に引き続き、米国シカゴ学派社会学の諸成果に対する多角的な検討を通して、現代社会の諸問題を分析するためのより有効な社会学的土台の構築を目的とした。この目的を達成するために、初期シカゴ学派から戦後の第2次シカゴ学派まで幅広くシカゴ学派社会学の研究業績を検討した。研究成果は、およそ5つに分類できる。一つは、「シカゴ学派社会学総論」である。シカゴ学派社会学には、多様な理論的志向と方法論が混在する。その一枚岩ではないシカゴ学派社会学を統一的に理解しようと試みた。二つは、「シカゴ学派の方法論の応用可能性」である。芸術、専門職、非行など個別の研究領域におけるシカゴ学派社会学の応用可能性を明らかにした。また、近年注目されているナラティブや主観的データの研究上の取り扱いについて、その基本的発想をシカゴ学派社会学に見いだした。三つは、「シカゴ学派の理論的インプリケーション」である。シカゴ学派社会学の基底を構成している科学論や相互作用論などの抽象度の高い理論について整理をおこなった。四つは、「シカゴ学派のモノグラフ研究再考」である。コミュニティ、エスニシティ、逸脱というシカゴ学派社会学を代表する3つの研究領域のモノグラフについて詳細に検討を加え、その内実を明らかにした。五つは、「現代社会のエスノグラフィー」である、シカゴ学派社会学再考でもっとも言及されることの多いエスノグラフィーの方法を現代日本社会に応用した。以上の検討から、シカゴ学派社会学が、異質性と流動性が高まりつつある現代日本社会の研究に、十分に応用可能であることが確認された。
著者
新原 道信 古城 利明 中島 康予 川原 彰 藤井 達也 田渕 六郎 古城 利明 藤井 逹也 川原 彰 中島 康予 柑本 英雄 石川 文也 田渕 六郎 中村 寛 メルレル アルベルト バストス ジョゼガブリエルペレイラ 鈴木 鉄忠
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本調査研究は、21世紀"共成"システム構築を全体構想として、グローバリゼーションのもとで頻発する異物・異端排除をめぐる諸問題に対して、衝突・混交・混成・重合しつつ共存するヨーロッパの"境界領域"の"共成の智"を明らかにすることを目的として、"境界領域のメタモルフォーゼ"を鍵概念として、地域自治・自立、国際地域間協力、地域住民のアイデンティティの複合性・重合性に関する地域調査・聴き取り調査をおこなった。
著者
大林 稔 落合 雄彦 松浦 さと子 遠藤 貢 武内 進一 牧野 久美子 戸田 真紀子 栗本 英世 船田クラーセン さやか 川端 正久 児玉谷 史朗 高橋 基樹
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、現代アフリカ社会のダイナミズムにおけるメディアの位置と機能を確定するための基礎的作業であり、90年代以降のアフリカの構造変化に、メディアの発展がどのような影響を及ぼしているかを検証するものである。上記の研究目標達成のため、サハラ以南アフリカ数カ国(フランス語圏二カ国を含む)で、現地研究者の協力を得て進められた。アフリカにおけるメディアの発展史の整理、政治・社会的発展、特に民主化・紛争・経済の自由化及び開発との相互関係を主なテーマとした。またメディアの種類として、新聞・ラジオ・テレビ・携帯電話を含むICTを対象としたが、伝統的な口誦(oral)および筆記(chirographic)メディアは扱わなかった。そこから次のような成果を得た:(1)1990年代の政治的自由化前後より、メディアは政治過程に大きな影響を及ぼすようになった。(2)メディア自由化は一直線には進まず、その速度と深度は政府と市民社会の力関係に依存する。(3)メディアの自由化が始まってから、旧メディア市場への新規参入と新メディアの発展により、メディアの数と種類の増加、到達範囲の拡大が著しい。(4)メディアの発展は情報アクセス量を増加させたが、都市と農村、貧富の格差は縮小していない。(5)自由化により政治以外の分野でもメディアの役割に関心が広がった。とりわけ開発におけるメディアの重要性が認識されるようになった。(6)メディアが社会と(エリートではなく)普通の人々の行動に影響を及ぼし始めている。(7)メディアの今後の発展には、自由化の徹底と人材育成および経営基盤の確立が重要だ。本研究は、メディア自由化の進展により、社会経済発展において情報とそれを伝達するメディアの重要性が増加していることに注意を向けた。今後、政治・経済・文化・社会・開発など全ての分野におけるアフリカ研究において、メディアと情報の役割はますます重要となると思われ、研究の提示した視角は今後の研究発展に貢献できるものと考える。メディアの多様化と情報アクセスの増加につれて、今後、人々とメディアが相互にどのように影響しあっていくのかが注目される。
著者
川田 順造 鈴木 裕之 鶴田 格 亀井 伸孝 川瀬 慈 松平 勇二
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

1995年以来、語りや踊りも含む「音文化」という概念の下に、ユネスコとの連携で続けている我々の研究対象は、ユネスコの観点からすれば無形文化遺産に他ならない。2009~ 2011年の研究期間には、研究代表者1名、研究分担者3名、連携研究者2名によって、アフリカ西部(ブルキナファソ、ベナン、コートジボワール)、アフリカ東部(エチオピア、タンザニア、ザンビア)における、さまざまな音文化=無形文化遺産の存続の条件を、それを支えている地域集団との関係で探求した。一方ユネスコの側からは、当該の文化遺産が現在その地域社会で機能していることを、無形文化遺産として登録される前提条件としており、文化的・歴史的価値だけでは登録できない。現地地域集団にとっての意味、研究者の視点からの価値判断、国際機関が提示する条件、三者の関係をどのように考え、現実に対応して行くかが今後の課題だ。
著者
渡辺 裕 佐藤 守弘 輪島 裕介 高野 光平
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

学生運動が盛り上がりをみせた「1968年」は、日本戦後史における社会の転換期とされるが、この時期は同時に、芸術や文化の諸領域においても大きな変化が生じた時期でもある。この研究では、視覚文化、聴覚文化、大衆文化、メディア研究の専門家が協同して同時代の言説研究を行い、その変化を検証した。その結果、それらが政治や社会の変化を反映しているというこれまでの理解とは異なり、この時期は人々の感性や心性が大きく変化し、文化の枠組みや価値観全体が構造的な転換を蒙った時期であり、政治や社会の変化もまたその大きな動きの一環をなすものであることが明らかになった。
著者
大石 敬一郎 宝野 和博 メンディス チャミニ 鎌土 重晴 本間 智之
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

自動車用鋼板のような大型部材として用途のある展伸用Mg合金の開発を目指し、圧延・押出などの熱間加工後、時効処理により強化できるような時効硬化型Mg合金の研究を行った。時効析出型のMg-Ca合金はAlやInの微量添加により時効硬化性が改善される。Al添加合金では底面上にGPゾーンが形成され、In添加合金では柱面上に板状析出物の形成が確認された。この柱面析出物は析出強化に有効に働くとされており、新しい時効硬化型マグネシウム合金開発に期待される。さらに、これらの結果に基づいてMg-Al-Ca-Mn合金の熱間押出し材を作製し、400MPaを超える高い引張耐力を示す材料の開発に成功した。
著者
鹿園 直毅 梅野 宜崇 原 祥太郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では,炭化水素燃料を用いた究極の発電効率を実現するために不可欠な固体酸化物形燃料電池(SOFC)を対象とし,その経時劣化において大きな課題となる燃料極Niの焼結挙動を解明することを目的とする.そのために,第一原理計算,分子動力学法,レベルセット法を用いて,物性値情報を共有させたナノからミクロンスケールまでの連成数値シミュレーション手法を開発する.実際のSOFC燃料極構造データおよび実験結果を用いつつ,世界に先駆けて開発する数値シミュレーション技術を駆使することで,SOFC燃料極のNi焼結挙動の解明を行った.
著者
相良 かおる 小野 正子 鈴木 隆弘 小木曽 智信 高崎 光浩 浅原 正幸 外山 健二
出版者
西南女学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

標準化された用語がないまま、電子カルテシステムは普及し、電子医療記録文書が蓄積される中、我々は医療記録文書で使われる用語77, 775語を収録した辞書ComeJisyoを作成・公開し、また、語種と字種の分布を明らかにした。ComeJisyoは、電子医療記録文の単語分割の解析精度を90%以上に向上させ、複数の解析結果の比較(メタ分析)を可能とする。また、ComeJisyoに付加されるヨミガナは、音声への変換や仮名漢字変換等に活用できる
著者
中田 喜文 藤本 哲史 三好 博昭 川口 章 安川 文朗 田中 幸子 宮崎 悟
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

日本の医療人材の現状を、労働市場における状況、医療施設における状況に分けて分析した。医療人材の労働市場においては、労働市場としての需要と供給のミスマッチの回復機能は、賃金水準に対し需給状況が限定的な影響を与えているとの結果が得られた。同時に日本の医療制度の持つ、様々な医療施設のマネジメントに対する影響を通した間接的な影響の存在も確認できた。このことは日本の医療政策の近年の変化が、個別医療施設のマネジメントの有り様に影響を与えることを通して、一義的にはその組織内の労働条件に影響を与え、さらには間接的に医療人材の労働市場にも影響を与えることが分かった。
著者
越智 裕之 佐藤 高史 筒井 弘 中村 行宏
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

長寿命なデジタル記憶システムの実現に向け、長期安定性に優れるマスクROMの実装されたシリコンウエハ全体を完全に絶縁層で封止し、非接触で電源供給や相互通信を行うための構成方式の検討を行った。非接触電源供給技術としてオンチップ太陽電池に注目し、ブーストインターリーブ太陽電池を提案した。非接触相互通信技術としてオンチップダイポールアンテナに注目し、低消費電力な送受信回路を提案した。高集積、超低電圧動作が可能なNAND型マスクROMの特性を明らかにした。これらを総合して恒久保存メディアのアーキテクチャ検討を行い、待機時消費電力を極限まで削減する階層的なパワーゲーティング手法の有用性を示した。
著者
増永 慎一郎 永澤 秀子 田野 恵三
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-11-18

遠隔転移能と、休止期腫瘍細胞の殺細胞効果も加味した腫瘍制御効果を同時に評価するアッセイ系を確立し、腫瘍内急性低酸素を解除する処置が腫瘍からの肺転移を抑え、中性子捕捉療法では、慢性低酸素の大きな休止期腫瘍細胞に分布できるBSHを用いると局所腫瘍制御が向上し、急性低酸素細胞に分布可能なBPAを用いると遠隔転移能が抑制される事が判明した。酸素化休止期腫瘍細胞の感受性を検出可能な手法も確立し、休止性と高いDNA損傷からの回復能の点で癌幹細胞との共通性が認められた。腫瘍内不均一性に依存して分布するBPAのCBE値は変化しやすく、この値が腫瘍の不均一性の評価のための有望な指標になり得る事も判明した。