著者
大津留 智恵子 石橋 章市朗 小西 秀樹 土倉 莞爾 廣川 嘉裕 安武 真隆
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

グローバル化によって多文化共生が現実となる社会において, 政治の周縁に置かれてきたマイノリティや若年層の政治参加意識と能力を高め, 民主政治を活性化する手がかりを, 多文化化の先行する社会との比較の中で検討した。マイノリティや若年層の政治参加にとって, 市民社会における政治的資源やその利用のためのネットワーク形成の重要性が確認された。また若年層の政治意識の調査からは, 政治的社会化において教育の果たす役割が認識できた。
著者
孫 媛 根岸 正光 宮澤 彰 大山 敬三 西澤 正己
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

産官学の研究連携に関して,企業が先導役を果たすNational Systems of Innovation(NSI)モデルに代わり,Triple Helix(三重螺旋)モデルが国際的に注目されるようになっている。本研究は,産官学問の連携活動を反映すると考えられる産官学の共著論文データに注目し,その分析を通してTriple Helix的連携の浸透の実態を実証的に明らかにすることを目的とする。まず,日本の学会誌論文を対象とした「引用文献索引データベース」(CJP)を用いて,名寄せ,所属機関の同定およびセクター分類方法の検討等を行った上で,日本の研究ネットワークの実態分析を試みた。とくに,産学連携関係からみた各大学の特徴・類似度,大学に対する企業の研究依存度,産学連携が盛んな上位大学および企業の個別性を重点的に分析した。和文論文の共著分析として初めての研究であり,今後の研究可能性を示す役割も果たしたと考える。つぎに,米国の引用索引データベース(NCRJ)を用いて,国際・国内雑誌への投稿論文に基づく比較・分析を行った。その結果,企業と大学の協力関係は対等とはいえず,大学側から見たときの企業の役割の重要さは,企業側から大学を見るときのそれに及ばないことが判明した。1995年前後を境として大学が企業との共同研究から離れる様相も明らかになった。また,企業の基礎研究離れ,企業にとっての国内学会誌の役割の大きさ,産学連携の取り組みにおける大きな分野差・地域差,産学連携が特定の地域に集中する趨勢が近年一層強まっていることなども明らかになった。これらの成果は国際・国内学会で発表したほか,国際・国内学術雑誌にも投稿し,内外の研究者との意見交換・情報発信を積極的に行った。わが国の科学技術政策を論じるために,本研究のような統計的分析,計量的評価を地道に展開する必要があると考え,これまでの成果を踏まえて,今後さらにさまざまな観点からの研究を継続する予定である。
著者
川上 泰雄 宮本 直和 栗原 俊之 若原 卓 岩沼 聡一朗 佐久間 淳 平山 邦明 鈴木 克彦 神田 和江
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、2つの動作速度でカーフレイズ運動を行い、筋疲労の程度と遅発性筋肉痛(DOMS)および筋損傷マーカーの量の変化、筋の機能変化の関係ついて、運動前後および運動後7日間にわたって調査した。その結果、(1)筋疲労の程度は動作速度によって異なり、速い動作ほど疲労が少ないこと、(2)筋疲労の程度と遅発性筋肉痛・筋損傷マーカーの量が関係し、これには筋特異性が存在するが、筋疲労の程度によらず筋の機能は速やかに回復すること、(3)運動中の筋線維動態はこれらの変化と連動して変化する可能性があることが示された。
著者
西島 央 藤田 武志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

現行学習指導要領におけるクラブ活動の廃止、学校と地域の連携、教育の市場化といった教育改革のなかで、中学校や高校では、部活動を縮小・廃止したり、地域と連携/委譲を図ったりする動きがみられる。このことが、教師による生徒指導や進路指導、生徒の学校への関わり方や進路選択のありようといった学校のその他の教育活動場面や、生徒のスポーツ・文化活動への参入機会にどのような変化をもたらすかを明らかにすることが本研究の目的である。そのために、東京都、静岡県、新潟県を中心に、中学生、高校生を対象とする質問紙調査、並びに部活動改革に取り組む中学校における観察・インタビュー調査を行ってきた。これらの調査によって得られた主な知見は以下のとおりである。部活動に対する生徒のかまえには活動本意の志向性と人間関係本意の志向性がある。活動本意志向の生徒にとって部活動改革は望ましいが、人間関係本意志向の生徒にとっては、学校で行われる部活動でしか享受され得ない人間関係形成の場を失うことになる。学業だけではないさまざまな場面が学校には準備されていることは、学業に興味のない子どもたちにも学校に対する前向きなかまえをもたせるように働いており、部活動に積極的に関わることが学業成績や将来展望にプラスの影響を及ぼしている。部活動が、ジェンダー・サブカルチャー形成の場として機能している。スポーツ・文化活動への参入機会には、出身家庭の文化的経済的状況や地域性によって差があるが、その格差は、学校で部活動が組織されていることによって縮減されている。部活動の地域との連携や移行という取り組みは、第一に、指導者の外部化によって活動が競技志向に傾くと同時に、顧問教師の関与が下がるため、生徒指導の機会が縮小する。第二に、かえって地域社会や保護者の学校への期待が明確化し、その役割や責任が強調されるという矛盾した結果を生み出している。
著者
廣田 薫 董 芳艶 畠山 豊
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、提案している階層的多構造計算モデル(HIMS)に基づいた物流最適計算システムを構築している。構築システムでは、配送サービスに対する消費者の多様な要求を満足しつつ、配送側の利益を最大化し、さらにリアルタイムに変動する配送環境にも柔軟に対応することが特徴である。成果として、17 件の原著論文と16 件の国際会議論文(いくつかの基調講演を含む)を発表している。石油物流業界への産業応用の見通しも得られており、今後はコンビニエンス業界など他業種も含めた幅広い実用化に向けて更なる応用を進める。
著者
田畑 仁 佐伯 洋昌
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

物性“ゆらぎ"の1現象であるスピングラスは、隣り合うスピンを並行に揃えようとする強磁性相互作用と、反並行に揃えようとする反強磁性相互作用が混在した状態、つまり、“フラストレーション"と“ランダムネス"とが競合した際に生じる興味深いスピン状態である。前述したように、スピネル型結晶構造を持つフェライト化合物(FeO){Fe_2O_3}を薄膜化することにより、室温を超える高い温度でのクラスター(スピングラス)グラス材料の合成に成功した。ホップフィールドによればスピングラスを示すハミルトニアンが、脳シナプスにおける情報伝達モデルと同値とされており、スピングラスを利用した脳型素子が期待される。一方、双極子“ゆらぎ"についても、人工格子技術を用いたペロブスカイト型酸化物において、双極子グラスとも言うべきリラクサー材料を対象として、双極子ゆらぎを人工的に制御することに成功している。さらにスピン秩序と双極子秩序を併せ持つ物質(マルチフェロ材料)を、ガーネット型フェライトにおいて実現し、これをトンネルバリアとして、スピングラスと強磁性金属によりサンドイッチしたスピンTMR素子は、スピンフィルタ機能を有すると共に、外場により強誘電性による双安定ポテンシャルおよび、強磁性によるゼーマン項を利用する事で多値論理回路への適応が可能となると思われる。このように、スピンおよび双極子の協調現象および“ゆらぎ"機能を利用する事で、新しい光エレクトロニクスが期待される。
著者
中村 僖良 山田 顕 小田川 裕之
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、高結合KNbO_3圧電結晶について、ECR酸素ビームとPLD(パルスレーザデポジション)を組み合わせた独自の方法により、高品質な単結晶膜をエピタキシャル成長させることを目指している。本年度の成果概要を以下に示す。1.Nd:YAGレーザ4倍波を用いるPLDにECR酸素ビームを組み合わせた膜成長法を採用して(110)MgOおよびSrTiO_3基板上に膜成長を行い、擬立方晶(001)配向のKNbO_3膜の成長に成功した。2.ECR酸素ビームを導入した場合と単なる酸素ガスを導入した場合について実験を行い、ECR酸素ビームが膜成長に有効であることを明らかにし、酸素圧力、ECRパワー、基板温度などの最適条件を求めた。また、膜の組成比をEDSにより調べた結果、ターゲット組成比K:Nbが1:1よりも2:1の場合の方がK/Nb【approximately equal】1.0の良い膜が得られることがわかった。3.X線ロッキングカーブ測定を行い、半値幅FWHMの膜厚依存性を明らかにした。4.ポールフィギュア測定により、膜がエピ成長していることを検証し、基板との面内方位関係を決定した。5.X線回折用高温アタッチメントを用いてKNbO_3結晶と基板の格子定数の温度による変化を調べるとともに、成長時および冷却する際の相転移点通過時における基板との格子定数の関係で決まる面方位との関係について考察した。6.参考のため、格子定数がほぼ同じBaTiO_3強誘電薄膜を同じ方法で作成・評価して比較検討した。7.膜の導電率を測定し、10^6Ωcmと比較的高いことがわかった。またD-Eヒステリシス曲線を測定し、強誘電性を確認した。8.薄膜の圧電性の評価を行い、超高周波厚み縦振動の電気機械結合係数k_tは約27%であることがわかった。9.相転移点付近でポーリングすることにより2種類の90°ドメインからなる有極性マルチドメインを形成し、その圧電特性などを調べて圧電性がエンハンスされることを明らかにした。
著者
中村 仁彦 今川 洋尚 野地 朱真 岡田 昌史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の成果は以下の4点でまとめられる.・複数のヒューマンフィギュアなど大規模な構造可変リンク系に適用可能な高速順動力学計算法を開発した.この計算法を用いるとN個のリンクからなる系の動力学シミュレーションに必要な計算量がO(N)となり,さらにO(N)個のプロセスで並列計算を行うことにより計算時間をO(logN)に短縮することができる.これは現在提案されている最も高速な順動力学計算法と同じ計算複雑性であるのに加え,構造可変リンク系に適用可能であるという特徴を持つ.これにより,接触を含む複雑な運動を実時間の数倍程度の時間でシミュレートすることができる.・逆運動学計算を用いて,数個のリンクの位置を指定するだけで全身のポーズを決定することのできる計算法を開発し,CGアニメーション生成に応用した.従来のCGアプリケーションと比べて容易に自然なアニメーションを生成することができ,作業効率が大幅に向上することが示された.・上記動力学計算法と逆運動学計算のインタフェースを応用して,力学的整合性を満たすヒューマンフィギュアの運動生成を行う方法を開発した.これにより,簡単なインタフェースで力学的なバランスなどを考慮した運動を自動的に生成できるようになった.・力学計算を用いたゲームなどのアプリケーションに必要なインタフェースを考案した.力学シミュレーションを用いることにより,サーカス,アクロバットなどモーションキャプチャの難しい運動も扱えることを実証した.
著者
奥田 太一 松田 巌 柿崎 明人 松田 巌 柿崎 明人
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

スピンを分離して電子状態を測定するスピン分解光電子分光法は従来のスピン分析法が非常に非効率であったため,測定に長時間かかるにも関わらずエネルギー、角度分解能を落として測定せざるを得なかった。そのためこれを用いた物質の磁性研究は必ずしも十分行えていなかった。本研究では新しく高効率のスピン分析器を開発し、その検出効率は従来の100倍に向上し、エネルギー角度分解能を格段に上げたスピン・角度分解光電子分光測定が可能となった。
著者
角 知憲 外井 哲志 大枝 良直 梶田 佳孝 松永 千晶 小林 敏樹
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

九州地方の中小都市を対象に、高齢化と人口減少がもたらす都市の閑散化・低密度化と高齢者の日常的な交通の実態を調査した。さらに、将来の年齢構成に基づいて交通需要を予測し、それを支える交通システムと都市の改造の方向性を検討した。その結果、軽便な軌道交通システムと進歩した情報システムを用いた効率的な公共交通網とそれに沿って住宅やショッピングセンターなどを適切に再配置する必要と、そのために都市の土地利用を誘導し規制する方策が求められることが判明した。
著者
西谷 大 篠原 徹 安室 知 篠原 徹 安室 知 梅崎 昌裕
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

伝統的な技術でおこなわれてきた農耕は、ある特定の生業に特化するのではなく、農耕、漁撈、狩猟、採集といった生業を複合的におこなうことに特徴があり、これが生態的な環境の多様で持続的な利用につながってきた。本研究では、中国・海南省の五指山地域と、雲南省紅河州金平県者米地域とりあげ、伝統農耕の実践と政府主導による開発、そして自然環境という3者を、動的なシステム(いきすぎた開発と環境の復元力)としてとらえ、その関係性の解明を目的とした。対象とする地域の現象は「エスノ・サイエンスによる伝統農耕と環境保全技術」「共同体意識と環境保全」「地域社会の交易とグローバルな市場経済の影響」など、アジア地域の環境問題を考える上で重要な視点を含んでいる。中国の急速な経済発展は、さまざまな社会的矛盾を生み出すだけなく、激しい環境破壊をもたらした。2006年から開始した第11次5カ年計画は、中国政府が推進している「小康社会(生活に多少ゆとりのある社会)」の達成に重要な役割を担うものと位置づけられている。特に経済を持続可能な成長モデルに転換するため循環型に切り替え、生態系の保護、省エネルギー、資源節約、環境にやさしい社会の建設を加速するといった環境政策の大変革をおこなおうとした。しかし昨今の中国の公害問題が意味するように、経済発展が至上目標であるという点はまったく変化がない。中国において地域社会を維持してきた特徴の一つとして市の存在がある。市を介して地域内で各家庭単位での参加と「小商い」が可能な、この市の存在こそが自給的な経済活動を維持してきた。そのことが環境保全や地域社会の生業経済を両立させることに結びついてきたと考えられる。環境保全と生業経済を両立させようとするならば、地域社会の生活と経済に深く結びついた市を維持、または復活させる必要があると考えられる。
著者
茂木 一司 福本 謹一 上田 信行 苅宿 俊文 刑部 育子 阿部 寿文 下原 美保 佐藤 優香 宮田 義郎 熊倉 敬聡
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

異文化理解・多文化共生の可能性を探る身体・メディア活用型プロジェクトの主要な成果は、(1)日本文化(美術)、身体を基礎にしたアート(学習)、障害児(者)のアート(学習)、プログラミング(cricket, scratch)による創造学習、などのワークショップの開発・実践・評価、(2)カフェ的な空間=オールナタティブスペースの創出と学びの検討、(3)ワークショップにおけるファシリテータ養成プログラムの開発とNPOの教育力の活用、の3点である。(1)では、異文化や多文化を単なる外国文化との交流だけでなく、障害のあるなしも含めた広い概念で捉え直し、日本文化(美術)を基盤にした(ワークショップ型学習には不可欠な)身体性を中心に据えたワークショップ(型学習)の開発・実践・評価を行い、それが表現性や協同性という特色によって、学びを創造的にし、(学校教育を含めた)現代の閉塞的な教育状況において非常に有効であることが実証できた。(2)(3)では、新しい学びの空間(学習環境のデザイン)をカフェという「ゆるやかにつどい語らう場」での学びがやはり現代教育にとって有効であることやワークショップという学びを支えるファシリテータに必要な資質の検討や育成のプログラムを作成した。
著者
成田 伸 大原 良子 鈴木 幸子 遠藤 俊子 齋藤 益子 吉沢 豊予子 野々山 未希子 水流 聡子 跡上 冨美 矢野 美紀 西岡 啓子 加藤 優子 森島 知子 齋藤 良子 角川 志穂 段ノ上 秀雄 黒田 裕子 工藤 里香
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

望まない妊娠や性感染症罹患の予防を専門的に支援する避妊・性感染症予防カウンセラー育成プログラムを構築した。プログラムは6日間の集合教育と専用のウエブサイトを活用した自己学習からなり、2008年度と2009年度の2回にわたって助産師を対象に開催した。育成プログラムの成果を評価するために、受講者と非受講の比較群で学習成果を比較した結果、受講者に知識の増加や態度の変容がみられた。また受講者のカウンセリング能力が向上した。今後は、育成されたカウンセラーの実践自体を評価する研究が必要である。
著者
竹内 典之 野中 理伸 中島 皇
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究によって開発された撹拌型融雪雨量計は従来の溶液型融雪雨量計の溶液を低温・降雪時に撹拌することによって凍結を防ぎ、降雪の融解を促進させる機能を持たせた独創的なものである。また、太陽電池+バッテリ-仕様の観点からは太陽エネルギーを直接融雪に利用できるような機器の先駆的役割をなすものである。この試作機は従来の貯留式雨量計、ヒーター付き雨量計に比べれば、それぞれデータが短いインターバルで取れる点、AC100Vが供給できない場所(山地域や森林地帯)でも観測可能な点などが優れている。京都大学芦生演習林において、1995年から1997年にかけての二冬の野外長期稼動試験の結果、新撹拌型転倒マス雨量計と撹拌型貯留雨量計は約1000mmの期間総降水量、降雪強度50mm/日の降水も確実に記録し、撹拌型融雪雨量計の有効性が確かめられた。また、北海道演習林での野外試験によって、この試作機は暖地のみならず寒地の積雪地帯でも使用できる可能性が出てきた。現段階では撹拌器に市販のバスポンプが用いられているが、今後の課題として効率の良いモーターの選定(作成)及び太陽電池とバッテリ-の組み合わせの駆動電源装置システムの小型化・計量化が挙げられる。また、その実用化が図られれば、アメダスの観測所等などでも広く採用されるようになり、冬期の精度の良い降水量データが場所に制約されることなく得られる。冬期の降水量が正確に把握されれば、積雪地域おける降雪・融雪のメカニズムやその流域の流出特性の解明など、森林水文学の分野に大きく貢献することになる。それのみならず、冬期の降水量は夏期の渇水に大きく関与していると思われ、精度の高い降水量の見積と流出特性の把握は水資源という面にも有用なデータを提供することになる。
著者
酒井 治孝 瀧上 豊 酒井 英男 谷村 好洋 豊田 和弘 百原 新 桑原 義博 山中 寿朗 藤井 理恵
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ヒマラヤ山脈上昇史の鍵を握る変成岩ナップは, 約1440万年前に地表に露出・急冷し, 年間3-4cm の速度で南南西に前進し, 約1100 万年前に運動を停止した.冷却は先端から北方へ向け年間約1-1.5cm の速度で進行した.古カトマンズ湖の泥質湖成堆積物の堆積開始は約100 万年前まで遡り, 寒冷期には化学的風化が進まず, 堆積速度が遅く, 温暖期には化学的風化が促進され, 堆積速度が速かったことが判明した.
著者
田中 望 斎藤 里美 岡崎 敏雄 山田 泉 林 さとこ 上野 田鶴子 大橋 敦夫 大谷 晋也 古川 ちかし
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

今回の3年間の研究の結果として概略つぎのようなことが判明した.1. アジアからの外国人女性たちに対する日本語教育は,多くの場合,抑圧的な構造をもち,彼女たちを日本人につごうのよい「疑似日本人」にしたてるために機能する,同化的なものであること.2. それに対して,日本人による支援活動のなかに,アジアからの外国人女性たちにコミュニティでの声をもたせることに成功している少数の例があること.3. 地域社会では,抑圧的な日本語教育と声をもたせるための支援活動のあいだで,どちらをとるかの議論がおこっており,外国人に日本語を教えるというパラダイムに変更を迫る動きがあること.なお,3年間の調査を通じて,もつとも重要な成果といえるのは,調査研究そのものに対する見直しを被調査者から突きつけられたことである.このことは,エスノグラフィ的調査といえども,調査のもつ搾取的構造から逃れられないことを意味しており,調査のあり方に根本的な反省を加えなければならないことになった.今後は,調査研究という枠組みをはなれて,研究者といえどもたんなる「異者のかかわり」として地域社会と関係をもつというあり方を追求する必要があると思われる.
著者
但野 茂 橋本 伸也 高橋 裕人 吉成 哲 吉成 智
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

車椅子の試作:従来の2輪駆動電動車椅子をベースに構造的、機構的検討のため、四輪駆動電動車椅子を試作した.そして雪路走行実験を行い、四輪駆動の優位性を確認した.また、室内では四輪駆動は不用のため、二輪駆動車椅子で使用できる収納型キャスター輪を考案した.これらの成果を新聞報道した.乗り心地性の客観指標の開発:市販電動車椅子および本開発の四輪駆動電動車椅子を使い、雪路、乾燥路走行時の身体負荷特性を計測した.三軸方向加速度、三軸周りの角速度、座圧分布変化量を用いることで、乗り心地性の客観的評価法が可能であることを確認した.通常路面に比べて、雪道走行では乗り心地性が悪くなった。しかし、本開発した四輪駆動車椅子の乗り心地性は、市販の車椅子に比べて、改善された。シーティング機構の開発:身体機能・状態に合わせた四輪駆動電動車椅子のためのシーティング設計法を考案した.座面角度と背もたれ角度を任意に設定可能な実験シートを作成し、それぞれの角度について走行時の座圧分布を測定した。これらのデータにより、雪道走行に最適な角度があることを示し、シーティング設計と重心位置の移動制御方法を検討した.雪路走行実験:あらゆる条件を想定した実験路面を作成した.そして、走行実験を行った.また、実際の雪路を利用した走行実験を繰返し、乗り心地性を評価した.ジョイスティックの機能デザイン:ジョイスティックの操作制御に学習効果を持たせ、使っているうちに、利用者の感覚と合ってくるものを開発した.試作車の改良と走行実験:試作した車椅子に上記の開発項目を盛り込み、改良を計った.
著者
白岩 孝行 中塚 武 立花 義裕 山縣 耕太郎 的場 澄人
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ランゲル山のコアについて、表層から深度100mまでの解析・分析を実施した。内容は、水素同位体比(0-50m)、主要イオン(0-50m)、ダスト濃度(0-80m)、X線精密密度(0-100m)、トリチウム(0-50m)である。微量金属濃度については、ローガン山のコアについて測定した。以下、上記の解析・分析から明らかになったことを箇条書きでまとめる;1.ランゲル山コアの0-50mの深度では、水素同位体比、ダスト濃度、トリチウム濃度に明瞭な季節変動が見出された。濃度のピークは水素同位体比が夏、ダスト濃度とトリチウムが春と判断された。2.ランゲル山のX線精密密度の深度方向への偏差値は、水素同位体比の変動と良く一致し、水素同位体比の重いピークに偏差の小さいピークが重なる。このことは、春から夏にかけて生じる間欠的な降雪が密度変動を大きくしていると考えられ、密度のような物理シグナルでも季節変動を記録していることが明らかとなった。3.ランゲル山コアのダスト濃度は春に高く、その他の季節に低い季節変動を示す。ダストフラックスは2000年以降増加傾向にあり、これは日本で観測された黄砂現象の増加傾向と一致する。4.ランゲル山コアのトリチウム濃度は明瞭な季節変動を示し、濃度のピークが晩春に現れる。この変動は対流圏と成層圏の物質交換に起因すると考えられ、春の低気圧性擾乱の指標になる可能性が見出された。5.ランゲル山のNaの年フラックスは冬のPDOインデックスと良い相関があり、長周期気候振動の指標となることが示された。6.微量金属分析はローガンコアの1980-2000年にかけて実施された。年間の鉄フラックスは数μg/平方mから80μg/平方m程度で変動しており、その原因として黄砂と火山噴出物があることが示された。7.ローガン山と北部北太平洋の西側に位置するウシュコフスキー山の両方で得られコアの涵養速度を比較したところ、逆相関の関係が認められ、これがPDOと連動していることが明らかとなった。
著者
金山 権 座間 紘一 座間 紘一 小松 出 任 雲 金山 権
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本調査研究が目指したことは、中国の内陸地域、沿海地域、外国の三極関係の枠組みの中で、(1)地域間の商品、労働力、資本の流れ、(2)地域開発の波及効果および開発後の地域間経済関係の変化と地域経済構造の変化、(3)地域開発に対する中央政府、地方政府の対応、(4)外資、沿海部企業の内陸部地域への進出のあり方などを分析することを通じて、中国の地域格差是正と統一市場形成のあり方を占おうとするものであった。成果では、西部地域と国内・国際経済ないし企業とのリンケージに関する研究として最初の1,2、3章がそれに当てられている。第1章は、マクロ指標の分析を通じて、西部地区経済は全体としてはまだその国内・国際的リンケージは弱く、それは、西部経済の発展が遅れた結果であると同時に、西部経済発展の阻害要因にもなっている事を明らかにしている。2,3章は,それは自動車、ミシンの個別企業と紡織産業での産業と個別企業におけるリンケージのあり方を取り上げている。その他の研究は西部地域や四川省の産業開発、産業集積、農業の産業化、農村の近代化、少数民族地区の開発、生態建設など、西部地区開発をめぐる多様な問題を取り扱っている。中国側の強力研究者の論攷も含めて、多様な側面を多角的に、深く掘り下げたものとなったと思われる。成果は以下の10編の論文から構成されている。(1)西部地域と国内・国際経済とのリンケージ、(2)中国進出日系企業の沿海地域と西部地域のリンケージ、(3)東部地域紡績企業の西部地域進出の展開と問題点、(4)中国西部地区工業化の若干の問題、(5)資金投入と経済成長、(6)西部地域における産業集積の形成と発展、(7)四川省少数民族地区での西部大開発効果、(8)「社会主義新農村建設」と「三農」問題の解決、(9)四川省農業産業化の発展、(10)四川省の生態建設、である。
著者
村田 光二 小森 めぐみ 道家 瑠見子 桑山 恵真 埴田 健司 井上 裕珠 馬場 洋香 田戸岡 好香 渡邊 さおり
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、他者の感情を他者がおかれた社会的文脈情報から自発的に推論することを示す実証的証拠を得た。また、状況への注目や音声による情報提示など、この推論を促進する要因について示唆を得た。他方で、後悔感情の予測におけるインパクトバイアスの実証的証拠を示した。また、学業課題におけるポジティブおよびネガティブな感情予測が、後の達成動機づけを強めることをいくつかの現場実験で示した。