著者
栗田 俊之
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会技術報告 (ISSN:03864227)
巻号頁・発行日
vol.15, no.43, pp.37-42, 1991-07-19

第10回ICCEが、6月5日〜7日の3日間、米国のWestin Hotel O'Hareで開催された。本報告は、その中で7日に行われたEDTV/IDTVおよびVIDEO CODINGの2つのセッションの報告である。EDTV/IDTVおよびVIDEO CODINGセッションでは、それぞれ6件、7件の発表が行われ、盛況であった。
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
ドクメンテーション研究 (ISSN:00125180)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.153-163, 1966-12

科学技術会議は1959年6月5日付で内閣総理大臣から発せられた諮問第1号"10年後を目標とする科学技術振興の総合的基本方策について"に対して1960年10月4日付で答申をおこなった。この答申は現在でも生きているが、科学技術の急速な進展と経済および社会の高度な発展にかんがみ、科学技術会議は1964年以来この内容について総合的に再検討をおこない、1970年までの方策に関して意見をまとめるに至った。これが1966年8月31日付41科技会第80号として公表された表記意見である。当協会理事会は、この中でドクメンテーションに関係のある部分、すなわち第3章科学技術情報活動の強化に関する方策、および第4章科学技術の国際交流の強化に関する方策を紹介することが当協会の会員にとってきわめて効果的であると認め、関係筋の了解をえてここに転載することにした。
著者
松浦 正孝 山室 信一 浜 由樹子 土屋 光芳 中島 岳志 高橋 正樹 宮城 大蔵 WOLFF David 大庭 三枝 吉澤 誠一郎 姜 東局 大賀 哲 酒井 哲哉 後藤 乾一 都丸 潤子 関根 政美 矢口 祐人 高原 明生 遠藤 乾 松本 佐保
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、アジア各地における多様なアジア主義のビジョンと構造を解明し相互比較すると共に、アジア主義ネットワークの生成過程を解明した。方法としては、国内外から選ばれた各地域の専門研究者と各事例を議論することで、アジア主義に共通の構造と地域それぞれに固有の特徴とを明らかにした。そうすることで、各地域におけるアジア主義を相対化して民族中心的なバイアスから解放し、アジアにおける共同体の可能性と条件、各民族・国家の共生の可能性を探ろうとした。
著者
片野 學 真鍋 孝 難波 正孝
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.218-223, 2005-06-05
参考文献数
8

昭和61年度, 収量停滞打破を目指す一方策として, 熊本県菊池郡市に第6葉抽出成苗(不完全葉を1とする)ポット苗移植機が導入された.本機導入に伴う栽培管理方法は, 導入先進地である山形県からもたらされたものであり, その特殊個別技術として6ないし8条を1つの単位(複条)とし, それらの間に2条間分に相当する60cmを空ける栽植方法(以下, 複条並木植, 複条と複条との条間を複条間と呼ぶ, また, 複条内の条間は30ないし33cmである)があった.調査を行った水田は品種コシヒカリおよびミナミニシキが複条並木植されていた9水田であり, 両品種とも成熟期に, 複条並木植の各条から連続した15株を収穫し, 15株の占有面積を測定後, 常法に従って収穫物調査を行った.まず, 6月5日に移植し, 9月20日に収穫した複条間が約60cmであったコシヒカリ2水田における最外列(各複条の最外列2条をいう, 以下同様)単位面積当たり収量は中央列(最外列2条以外の条, 以下同様)の82%と87%であった.次に, 6月下旬に移植し10月末から11月上旬に収穫したミナミニシキ7水田における複条数は6, 8および12, 複条間も45と60cmなど様々であった.中央列に対する最外列単位面積当たり収量は, 複条間が約45cmであった2水田ではほぼ同じであったが, 60cmの場合, 毎年2〜5t/10a相当の完熟豚糞が施用された1水田を除く4水田の場合には78%〜91%にとどまっていた.両品種ともに複条の最外列では, 占有面積拡大分に見合う穂数と1穂収量の補償効果が認められなかったためであった.以上のように, 複条間を60cmとする移植法については減収する場合が多いことが明らかになり, 昭和62年度にはこの複条間距離で栽培する農家はいなくなった.
著者
中島 敦司 万木 豊 永田 洋
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.584-589, 1994-11-01
被引用文献数
5

サザンカの開花に及ぼす初夏以降の温度の影響を調べる目的で、3年生のサザンカを6月5日から25℃に0、15、30、ならびに45日間置き、その後18℃の条件へ移動させた。この結果、25℃の期間が長くなるほど開花率が高くなった。一方、同様の日程で18℃から25℃に移動させる実験を行ったところ、10月中旬にはすべての花芽が落下し、開花はみられなかった。そして、生殖にかかわる雄ずい、雌ずいの発達は8月中旬までの積算温度と正の相関関係にあった。また、野外において、6月5日から日長を8、20時間に調節し、自然日長と比較して、開花と日長の関連について検討したところ、短日区で開花が早くなったが開花率は日長の影響を受けなかった。
著者
萩原 優騎
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. II-B, 社会科学ジャーナル (ISSN:04542134)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.205-223, 2007-03

The concept "paradigm" has been used in many research areas since Thomas Kuhn used it in his book The Structure of Scientific Revolutions. However, as this concept was applied to various areas, its critical meanings in philosophy of science tended to be lost. The aim of this paper is to reconsider paradigm theory and deepen an understanding about it in relation with social anthropology and Lacanian psychoanalysis. Paradigm is necessary to form a scientific community, where scientists study following shared models. It brings about the stable situation of community which Kuhn called normal science. Kenelm Burridge called the subject in this situation the person. According to Burridge, the person is a result of socialization, which is necessary for the subject to become a member of society. From a viewpoint of Lacanian psychoanalysis, it means to enter the symbolic order. The subject follows this order, and it makes him/her stable because the symbolic controls the imaginary which is a dimension of the identity of ego. The imaginary conceals the lack of a basis of the symbolic, and then the stability of daily life is maintained and reproduced. When this stability is shaken, a chance of paradigm change comes. However, paradigm does not change easily even if irregular cases which are not consistent with a given paradigm appear. Paradigm changes only when its instability reaches the limit where the balance of its system cannot be maintained. This deadlock of symbolization is the real. The person can become the individual who is a creative ignition to change a given tradition, when he/she meets the real. Conversely, the individual cannot come into existence without the person; the real cannot be recognized retroactively as a miss of perfect symbolization until symbolic order is formed. Paradigm change is a change of referent. The subject can compare different paradigms, but he/she cannot understand them perfectly. If he/she can do so, paradigm A which he/she belongs to should be equal to paradigm B which he/she recognizes as a different paradigm. He/she cannot avoid distortion of understanding, which is called incommensurability. When he/she recognizes something as an incommensurable object, this object is object a as a remainder of the real. It is a structural gap of his/her imaginary identity or a mirror of nothing where he/she meets the real. He/she as the individual can recognize this object as the real, but he/she as the person cannot do so because the imaginary usually conceals a structural lack of the symbolic by putting the object as an object of fantasy on the gap. The individual transcends a given paradigm through such processes, then he/she accepts the lack of a basis of the symbolic. However, he/she does not leave the symbolic because the subject cannot exist without the symbolic. Because of this psychoanalytic structure, he/she cannot help accepting his/her structural limit and trying to symbolize the real again. A new paradigm appears here through a process of symbolization. To symbolize consistently, theorization is necessary; he/she uses a theory as a frame of reference to see consistently. Even if he/she symbolizes successfully, this is not a goal. He/she has a lack of the symbolic, which guarantees him/her structurally to continue self-critical praxis.
著者
高橋 勅徳
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題は、欧米における企業家研究の理論的・方法論的転回を踏まえた、理論的・経験的研究を行うことを目的としている。理論的研究としては、制度派組織論、社会企業家研究および経営学の実践的転回に関する文献レビューを実施し、あらたな理論的フレームワークを提示した。経験的検討については、主として大阪市におけるクリエイター集積、沖縄県・北海道におけるエコツーリズム、老舗企業の事業転換に関する調査を行い、経験的分析を行った。本研究課題から得られた研究成果は、国内の主要学会で研究報告を実施した上で、査読付き論文として掲載された。
著者
後藤 元信 佐々木 満 桑原 穣 キタイン アルマンド 神田 英輝
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

超臨界流体中あるいは常圧から超臨界領域の圧力でのガス・超臨界流体と液体界面での放電プラズマを利用した物質変換プロセスとして各種色素の反応、アラニン等のアミノ酸などの反応を検討したところ、プラズマにより重合反応を中心に化学反応が誘起されることを見出した。プラズマの発光強度の測定から、発光強度と反応の関係および反応機構を明らかにした。金属への超臨界流体中でのレーザーアブレーションにより生成するナノ粒子やクレーターの圧力依存性が極めて大きく、臨界圧力近傍で粒子生成が促進されることが分かり、プラズマの発光強度との関係を明らかにした。また、水熱電解による物質変換プロセスが構築できた。
著者
高橋 清 大竹 博行
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.27-32, 1993-03-05

分げつが鉛直方向へ姿勢の抑制を行う仕組みを解析するために, 水稲品種ササニシキを用いて分げつ茎の各節の重力屈性反応の大きさについて検討を行った. 第1実験. 1/5000aワグネルポットにイネを1個体ずつ育て, 11葉期と出穂後10日目に地上部を採取し, 全分げつの各節位別の屈曲角度を調査した. 一本の茎の中で最大の屈曲角度を示したのは, 伸長茎部と非伸長茎部の境に位置する節 (0位節) の葉枕であった. 次いで, その1節下 (-1), 1節上 (+1), 2節下 (-2) の順であった. 1次分げつ茎では, 下位節に発生する分げつで屈曲角度が大きく, 上位分げつで小さかった. また, 屈曲する節数も下位分げつで多かった. 下位節からでる1次分げつは, 新しい分げつの出現と生長によって, より外側に押されたものと推定される. 第2実験. 3.5-4.0葉期の苗を水田に移植した. 栽植密度は, 30×30cmと30×15cmの2段階, 1株植え付け本数は1本と5本の2段階とした. 出穂後40日目に地上部を採取し, 全分げつの各節の屈曲角度を調査した. 1本の茎の中で屈曲角度が最大であったのは0位節であった. 次いで-1, +1, -2位節の順となり, 第1実験の孤立個体の結果と全く同一の傾向が得られた. これらの結果は, 水稲ササニシキでは特定の部位 (0位節とその付近の葉枕) が, 分げつ茎の鉛直方向への姿勢の制御において重要な働きをしていることを示唆している.
著者
佐渡島 紗織 太田 裕子 冨永 敦子 ドイル 綾子 内田 夕津
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

早稲田大学における「学術的文章作成」授業(主に初年次生対象、領域横断内容、e ラーニング、大学院生が個別フィードバックする、全8 回1 単位)の成果調査を行った。三観点五段階の学術的文章評価ルーブリックを開発し、授業を全回視聴し課題をすべて提出した履修者707 人の、初回提出文章と最終回提出文章を評価し差を調査したところ、文章作成力が有意に伸びていることがわかった。また、付与されたコメントを分類するためのコードも開発し、コメントを分類した。文章作成力を伸ばした履修者とあまり伸びなかった履修者との間で、付与されたコメントの種類に有意差を認めることはできなかった。
著者
後藤 雄佐 星川 清親
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.496-504, 1988-09-05
被引用文献数
8

水稲の孤立個体における主茎と分げつとの生長の相互関係を葉齢に着目して調べた. 個体の齢を表す「葉齢」を分げつの齢を表すのにも用い, 各分げつの葉位を, 主茎の同伸葉の葉位で表したものを各分げつの相対葉位と規定し, さらに, 相対葉位で表した各分げつの葉齢を相対葉齢と規定した. これにより, 主茎と各分げつ間の生長の比較が可能となった. また, 同伸分げつを位置づける相対分げつ位(RTP)を規定し, これにより相対葉位を算出した. ポットに1個体植えした水稲品種ササニシキ, トヨニシキ, アキヒカリに肥料を充分に与え, 湛水状態で育て, すべての葉に印をつけて観察した. 初期に出現した分げつには, 主茎同様に出葉転換期が認められ, 生理的な変化が個体全体でほぼ同時期に起きたことが示唆された. 栄養生長期後半の観察では, 同一日には分げつ次位が高いほど, 相対葉位の高い葉が出現し, それに伴いRTPの高い嬢分げつが出現した. 各分げつの相対葉齢から主茎の葉齢を差し引いた差を相対葉齢差(D)と規定すると, Dは生長とともに直線的に増加し, 播種後94日目, 止葉の抽出直前に最大となった. また, Dは分げつ次位が高いほど大きく, 各時期におけるDは, ほぼ分げつ次位に比例して増大した. Dの値の大きさには, 品種間で差が認められた.
著者
小黒 康正 浅井 健二郎 小黒 康正 杉谷 恭一 小川 さくえ 増本 浩子 桑原 聡 恒吉 法海 東口 豊 恒吉 法海 福元 圭太 杉谷 恭一 小川 さくえ 坂本 貴志 増本 浩子 濱中 春 山本 賀代 岡本 和子 北島 玲子 桑原 聡 クラヴィッター アルネ オトマー エーファ
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ドイツ現代文学は、言語に対する先鋭化した批判意識から始まる。とりわけホーフマンスタール、ムージル、カフカの文学は、既存の言語が原理的機能不全に陥っていることを確信しながら、言語の否定性を原理的契機として立ち上がっていく。本研究は、ドイツ近・現代文学の各時期の代表的もしくは特徴的な作品を手掛かりとして、それぞれの作品において<否定性>という契機の所在を突き止め、そのあり方と働きを明らかにした。
著者
荒井 宏祐
出版者
文教大学
雑誌
文教大学国際学部紀要 (ISSN:09173072)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-18, 1998-10

This paper elucidates Rousseau's three-dimensional perception of nature. He first viewed nature with the compound vision of his mind. In this perceptual mode, for example, he not only celebrated the beautiful charm of vegetables,but also perceived their ecological function. Second, he recognized the general characteristics and structure of flowers, but also perceived "ľordre des choses" in the world, reflecting a perceptual insight into the natural environment. Third, he often drew out social implications from observed natural phenomena, thus perceiving "signs" in the natural world that indicated essential aspects of his thought on the relations between humans and society. Thus, Rousseau viewed nature through the refractive lens of his own soul. It is said that Rousseau used. the term "nature" in many diverse ways. In this paper, I introduce an alternative thesis. Rousseau's wide and deep vision of the natural environment opens the reader to the idea of virtue as a possible solution for social dilemmas we confront in contemporary environmental problems. The will of each individual must be reconciled to the general will which may exist in the global ecosystem, as Rousseau anticipated in the context of "Discours sur ľ Économie Politique", "Émile" and "Du Contrat Social". J.-J.ルソー(Jean-Jacques Rousseau,1712~1778)はその著作の中で、ある言辞をしばしば多義的に用いることがある。カッシーラーは「社会」や「sentiment」の「二重語義によくよく注意しなければならない。」と述べ、また恒藤武二は「一般意志という語はルソーにあってはきわめて多義的に使用されている。」と指摘している。とりわけ「難解な語」とされているのが「自然」であり、平岡昇はこの語が「本来彼に独得な両義的思考法の好対象」ではないかと言っている。舟橋豊は、この語義の分析を試み、ルソーの「自然」とは、「神であり、宇宙を統べる整然たる法であり、人間界の正にして善なる自然法であり、崇高美あふれるアルプスの山河であり、さらには生まれながらにして善なる人間の本性でもある。」と述べている。平岡はまた、ルソーの「自然」は彼自身の「多様で自由な使用法を通じて人々の心につよく訴えかけてくる魔力」を持つとしている。 たしかに「自然」の語は、「ルソー的ディアレクティック」とともに、あたかも『オデュッセイアー』にあらわれる魔女セイレーンの「甘く楽しい歌声」のように、我々を「前よりもっと物識りになりお帰り」願うがごとく、さまざまな声をもって語りかけてくるようである。 ともあれルソーの「自然」の中には、上記舟橋の分析にも「アルプスの山河」とある通り、自然環境が含まれていることは明きらかである。これまで筆者は、ルソーの自然環境としての「自然」認識のうちには、生態作用を持つ「環境」としての「自然」認識が含まれていることなどを指摘するとともに、これらとルソーの文明社会批判や「自然人=エミール」の「自然現象・事物の教育」=「環境教育」との関連などに考察を加えてきた。本稿では、これらをもとに、ルソーの自然環境としての「自然」の多義性の特徴についてさらに考察と整理を試みるとともに、新たに彼の「自然」あるいは「環境」認識と、その政治思想上の基本概念の一つである、「一般意志」・「徳」や、「万物の秩序」とのかかわりを探り、これらをふまえて現在環境問題に関連して注目されつつある「社会的ジレンマ」問題との関係を、他の諸言説とともに一瞥することで、ルソー思想の現代的意義の一端に触れてみた。 これらはいまだ試論的段階ではあるが、その目的は、これまでの検討にひきつづき、ルソーの社会・教育・政治・宗教・国際平和・文学などの諸思想・言説と、「自然」あるいは「環境」認識がいかなる関連を有するのかを探索することにある。
著者
長谷川 陽子
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

ハンナ・アーレントの1920年代から1958年までの論考が、その後の著作に重要な影響を与えていることを論証するため、当該期間に著された論考の原文による読解をおこなった。今年度は主として『全体主義の起源』、草稿である『カール・マルクスと西欧政治思想の伝統』と、同じく草稿である『政治の約束』の前半部を中心的に読み解くことで、アーレントの思想が、『人間の条件』執筆以前に完成された形で提示されていたことを論証することができた。1920年代のアーレントの思想から、連綿と受け継がれてきた「実存哲学」思想が、『人間の条件』以前までの論考の中に主軸として発展させられていたことを確認した。従来の研究ではこのアーレントの「実存哲学」思想には、全体主義につながる契機となるのではないかとするマーティン・ジェイを代表とする指摘を受け、重要視されることはなかった。しかし、この「実存哲学」こそが、アーレントの人間の『複数性』と「個別性」とを訴えかける貴重な契機となっていることが了解されたのである。この成果をもとに、前年度までに学会報告等において知り合うことができた、国内の他のアーレント研究者の協力を求めて話し合うことで、より多面的な見地から、意見を伺うことができた。また、1920年代から1930年代にかけてのアーレントの思想を改めて追う中で、「公的空間」における「創造の契機」こそが、アーレントにとって最も重要であったことを再確認した。このことは、アーレントの「公的空間」が、その中での問題解決を最初から見込んでいるものではないとする、思想射程を明確化する機会ともなった。上述してきた研究成果を、発展させ、アーレントの思想における「他者存在」と「政治的公共空間」とがどのようにその思想の中核となっていったかを明確化した上で、博士論文の執筆を行った。
著者
武田 はやみ
出版者
名古屋工業大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

1、研究目的ジオポリマーは適当なシリカおよびアルミナの非晶質相をアルカリ溶液と混合することのみで得られるため、低環境負荷材料として注目されている。本研究の目的は、ジオポリマー硬化体に遷移元素を拡散させて、天然岩石の色合いを呈する新規無機人工建材を創生することである。2、研究方法発色遷移金属として銅を用いた。メタカオリン、水ガラス、水酸化カリウムと各種銅化合物(Cu(OH)_2,CuO,Cu_2O,CuCO_3・Cu(OH)_2・H_2O,CuCl_2・2H_2O,CuSO_4-5H_2O)を混合して、型に流し込み、60℃で48時間養生することによって銅を発色源とするカラージオポリマー硬化体を作製した。作製したカラージオポリマー硬化体の強度測定、FT-IR分析、XRD分析、ESR分析等を行い、発色機構の解明を行った。3、研究成果銅化合物の添加による硬化体の顕著な強度低下は認められなかった。また、発色は以下に示すような2つの様態が考えられた。(1)顔料発色様態:Cu(OH)_2,Cu_2Oはジオポリマー化反応に関与せず、それ自身の発色をジオポリマー硬化体中で呈する(2)鉱物様発色様態:CuCO_3-Cu(OH)_2・H_2O,CuCl_2・2H_2O,CuSO_4・5H_2O,CuOはジオポリマー化反応中に分解し、ジオポリマーの構造中にCuが取り込まれCuイオンによって青緑の呈色を示す。また、硬化体中には孤立Cu^<2+>イオンが存在するため、このCu^<2+>イオンがジオポリマー構造中のOH分子と錯体を形成することによって発色しているとも考えられた以上のように、従来の建材に用いられる顔料とは異なる発色様態を持つカラージオポリマー硬化体を作製することができた。
著者
伊藤 靖 三浦 浩 中村 憲司 吉田 司
出版者
日本水産學會
雑誌
日本水産學會誌 = Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.1019-1026, 2009-11-15
参考文献数
28
被引用文献数
5 5

マアジの行動様式を把握するため日本海佐渡島羽茂地先の水深 45 m に設置された人工魚礁において,超音波バイオテレメトリー(V9P-1H, VEMCO 社製)を全長 30 cm のマアジへ外部装着し,追跡を行った。追跡は 2008 年 6~7 月の間に 1 尾ずつ 7 回行った。マアジは日中には人工魚礁や天然礁の天端から高さ 10 m 程度に留まり,夜間は水深 5~10 m の表層を遊泳しながら礁から離脱し,早朝,礁に移動し,日中,礁に蝟集するといった明確な日周行動を示した。<br>
著者
萩原 一郎 野島 武敏 杉山 文子 小机 れかえ 安井 位夫 篠田 淳一
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

軽量で高剛性、高強度のコア構造は省資源に役立つことからますます重要となる。コアの代名詞でもあるハニカムコアは熱に弱く、高価であるもののハニカムに代わるものは得られていない。本研究提案の、折紙工学と空間充填理論によって得られたダイアコアは「日本の折紙の産業応用への大いなる可能性」として本年7月にNatureに取り上げられた。この可能性ある折紙工学が確かに産業応用されるためには計算力学援用による安価な成型法の確立、機能の最適化が必要である。これまでの強度・剛性に関する検討からダイアコアはハニカムコアに総合力で優ることが示され、10月9日の日刊工業新聞の第1面に取り上げられた。更に、我々は既存の角柱型のコアモデルとは全く異なる、正多面体、準正多面体の空間充填形や、捩れ多面体等の形を持つ数々の独創的なコア構造を創案している。本研究では、ダイアコアの安価な製造法の確立、遮熱、吸音・遮音などの機能創出などを行うとともに、角柱型でない新しい概念に基づくコア構造に関しても同様に、計算力学を援用し新しい意匠デザイン、機能創出と安価な成型法の開発を目指した。ただし、今回の期間(平成20年4月-5月)では、ダイアコアの成形シミュレーションの手法開発を行った。
著者
上山 義人 山口 奈緒子 窪田 泰夫
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

ヒト頭髪in vivo実験系を確立する目的で、単離ヒト頭髪毛包の凍結保存法を検討した。採取したヒト頭皮から眼科用ハサミ、ピンセットにて機械的に毛包を単離し、そのままSCIDマウスに移植する群と一旦凍結してから移植する群に分けた。直ちに移植する群は、その場で移植し、凍結群はDMSO添加細胞凍結用保護培地に浸漬して凍結用チューブに入れ、ドライアイスにて凍結し、液体窒素中に一週間以上おいて、BALB/cA-nu,scidマウス背部皮膚へ移植した。両群(凍結保存群92本、未凍結群58本)で毛包の生着率を比較したところ、凍結群27.2%、未凍結群27.9%で、凍結保存による差は認められなかった。組織学的にも差違は認めなかった。このように、単離ヒト頭髪毛包は通常の細胞凍結技術の応用で比較的簡単に凍結保存が出来ることが判明した。そのため、上記の方法で凍結保存しておけば、計画的な移植実験が可能となる。移植成功率が1/4-1/3と考えると、一匹に10本程度の移植をしておけば、ほぼ2本のヒト頭髪を持った免疫不全マウスが得られるということになり、十分、実用に耐えうる。以上の結果が得られたため、年齢、性、部位、疾患別に整理して、“単離ヒト頭髪バンク"を作ることを試みた。しかしながら、最近の剖検率の低下、特に、頭部の剖検体数の低下、臨床におけるインフォームド・コンセントの難しさなどの問題があり、現在までのところ、総数11例に止まっている(いづれも健常人の頭髪、男女ほぼ同数、部位別には側頭部が多い)。次に、この実験系を用いてヒト頭髪に対すエナント酸テストステロンの影響を調べたところ、投与群5本の内2本において毛幹の脱落を認め、生着した毛包にも組織学的に退行変性の像を認めた。しかし、変化の全くなかった毛包も認められたため、今後の検討が必要である。
著者
木田 重雄 宮内 敏雄 新野 宏 西岡 通男 宮嵜 武 近藤 次郎 三宅 裕
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

「要素渦」とは混沌とした乱流場の中に存在する微細な秩序構造であるが,近年のスーパーコンピュータや高性能の実験装置の普及のもと,高度な計算アルゴリズムや実験技術の開発により,ごく最近,その物理特性の詳細が明らかになり,また乱流エネルギーの散逸や乱流混合に重要なはたらきをしていることがわかってきたものである。この要素渦に着目し,自然界,実験室,そしてコンピュータ上で実現されるさまざまな種類の乱流に対して,その物理特性や乱流力学におけるはたらきのいくつかを,理論,実験,ならびに数値計算によって明らかにした。要素渦は乱流の種類によらず共通で,管状の中心渦に周辺渦が層状に取り巻いていること,中心渦の断面の太さや回転速度はコルモゴロフのスケーリング則に従うが渦の長さは乱流の大規模スケールにまで及ぶこと,レイノルズ数の大きな流れにおいては,要素渦が群を作り空間に局在化すること,複数の要素渦が反平行接近して混合能力を高めること,等々の特徴がある。要素渦の工学的応用として,要素渦に基づくラージ・エディ・シミュレーションのモデルの開発,要素渦を操作することによる壁乱流のアクティブ・フィードバック制御,「大規模要素渦」としての縦渦の導入による超音速混合燃焼の促進,「大気の組織渦」としての竜巻の発生機構,等の研究を発展させてきた。さらに,クエット乱流中に要素渦の再生を伴なう「不安定周期運動」(乱流の骨格とも呼べる時空間組織構造)を発見した。本特定領域研究によって得られた乱流要素渦の概念,反平行接近などの渦の力学,低圧力渦法などの流れ場の解析手法,などを理論的ツールとして,乱流構造や乱流力学の本質を探る研究が今後大いに進展されることを期待している。