著者
森口 祐一 工藤 祐揮 松八重 一代 福島 康裕 醍醐 市朗 中島 謙一 栗島 英明 菊池 康紀 中谷 隼 田原 聖隆 井原 智彦 兼松 祐一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究課題では,国内産業および輸入原料を含む国産製品のサプライチェーンを対象として,それが産み出す社会価値と,地域レベルおよび地球レベルで発生する環境・資源ストレスの統合的ホットスポット分析の枠組みを確立することを目的とした。輸入資源の国際サプライチェーン分析,地域における再生可能エネルギー供給システム,産業廃棄物の地域間分析,サプライチェーンの地震リスクといった数多くの事例分析を実施し,それぞれ潜在的なストレス・リスク要因のホットスポットを特定した。さらに,分析方法のアルゴリズムおよび原単位のデータベースをソフトウェアに実装することで,ホットスポット分析の枠組みの汎用化を目指した。
著者
青野 敏博 東 敬次郎 苛原 稔 池上 博雅 廣田 憲二 三宅 侃 田坂 慶一 堤 博久 寺川 直樹
出版者
徳島大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

TRHやLH-RHは下垂体前葉からプロラクチン(PRL)やLHの分泌を促進する. 一方PRL産生下垂体腫瘍の治療にはドーパミン(DA)の作動薬であるブロモクリプチンが繁用されており, PRL分泌を抑制するほか, 腫瘍を縮少させる効果のあることが知られている. 本研究の目的はPRL, LH分泌時における下垂体細胞内情報伝達機構について明らかにし, DAのPRL分泌抑制作用を検討する実験系としてラット下垂体前葉細胞またはPRL産生下垂体腫瘍であるGH3細胞を用いた. 実験結果をまとめると, (1)マイトトキシンは下垂体細胞内へCa^<2+>の流入を起こし, PRL分泌を促進した. (2)^<32>Pのホスファチジールイノシトール(PI)への取り込みを検討した結果, TRHはPIの代謝回転を促進した. (3)Ca^<2+>によって活性化され, PIを分解するphosphol:pase Cの作用によってジアシルグリセロール(DG), IP3から産生されPRL分泌を促進した. (4)下垂体前葉にはCキナーゼが存在し, PMAによって活性化された. PMAを細胞に添加するとLH, PRLの分泌が促進された. またTRHを作用させると細胞内のCキナーゼは細胞質から膜分画へ移行した. (5)細胞内に取り込まれた標識アラキドン酸はTRHによって放出された. (6)添加されたアラキドン酸はPRL, LHを放出した. (7)アラキドン酸の代謝産物のうちPGは影響を及ぼさなかったが, lypoxygenaseの代謝産物である5-HETEとLeukotrienB4がPRL, LHの分泌を促進した. (8)下垂体前葉細胞における上記の情報伝達系の各ステップはDAによって抑制されたことからDAは全てセカンドメッセンジャーを抑制していることが考えられた. DAの受容体を持たないGH3細胞ではDAによるPRL分泌抑制作用は認められなかった. 以上の結果より, TRH, LH-RHはDG-Cキナーゼ系, Ca^<2+>-アラキドン酸系を細胞内情報伝達系としていることを明らかにし, DAは受容体に結合後, これらの全てのセカンドメッセンジャーを抑制していると考えられる.
著者
堀井 憲爾 原田 達哉 河野 照哉 河村 達雄 小崎 正光 赤崎 正則
出版者
名古屋大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

IMV交流送電の次の高電圧電力技術の基盤となるべき4つのテーマについて協同実験及び各個研究により、総合的検討が行われ次のような成果が得られた。1)超々高圧架空送電の研究として、2MV交流および1MV直流について、線路気中絶縁の問題、特に開閉サージフラッシオーバとコロナ・イオン流などの環境問題について協同実験による検討が行われ、絶縁・環境の両面からみて、1MV直流送電の方が開発の実現性が高いことが示唆された。2)架空送電に代わる新送電システムの研究として、しゃへい導体大気送電は、建屋内に電線を収納することにより、絶縁の縮少化・高信頼化ができ、環境問題にも対処できること、また、地中洞道内に電線を引込む方式と共に、架線空間に大気圧の【SF_6】ガスまたは空気との混合ガスを封入することにより新しい大容量の超高圧送電線を実現できる可能性が協同実験で示された。また、新しい地中ケーブルとして、押出しポリエチレン絶縁に【SF_6】ガスを含浸する方式、及び極低温超電導ケーブルなどについてモデルによる実験が実施され、今後の開発への道程が示された。3)UHV・EHV送電の極限絶縁設計の研究は、送電線の絶縁設計基準と試験法を再検討し、信頼性と経済性の接点を探ろうとするものである。耐雪設計の見直しとして、冬期雷の特異性とその対応が検討され、絶縁材料の改良開発として、有機材料の部分放電劣化、ZnOバリスター素子の劣化、ベーパミスト絶縁の耐電圧特性などが検討された。4)極限高電圧(50MV)の発生と測定に関する技術として、前駆リーダ放電、残留インダクタンス、直列火花ギャップの問題と対策及び光電変換分圧測定器が検討され、新しい発生器として直径60mのバルーンによるファンデグラフ方式が提案、検討された。
著者
小谷 卓也 竹歳 賢一 長瀬 美子
出版者
大阪大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の成果の概要は、以下の通りである。[1]幼小一体型数理教育カリキュラムとして、「乳幼児期のかがく」のモデル保育を計15個、「低学年児童期のかがく」の生活科モデル授業を計16個開発することができた。[2]時系列エピソード記録の事例分析法による分析から、「数」と「自然の事物・現象」に対する認知発達の度合いを示す評価指標の開発の基本データとなる探索行動の特性として、(1)探索行動には3つの段階が存在すること、(2)「1回試行」で探索を終えずに同じ試行を何度も繰り返す傾向があること、(3)探索行動中のコミュニケーションには3つのパターンが存在するという仮説が導かれた。
著者
中村 哲 松本 裕治 戸田 智基 サクリアニ サクティ Neubig Graham Duh Kevin 小町 守 高道 慎之介
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-05-31

同時通訳基本方式研究として、フレーズベース統計翻訳における右確率を用いた同時通訳方法により、翻訳単位を短くする方法、翻訳単位の長さを調整する手法を提案した。さらに、形態素情報を使って文を分割する方法、Tree-to-string翻訳での部分構文構造を考慮して分割する方法を提案して高精度化を実現。さらなる精度改善のため、訳文に単語順序の入れ替えが発生するかを予測するモデルを構築すると共に、ニューラル翻訳の実装、統計翻訳のリランキング、注意型ニューラル翻訳の研究を進めた。また、同時通訳コーパスとして日英合計約80時間、講義データの書き起こし約50時間、うち約22時間分の日英翻訳を完了した。
著者
貴志 俊彦 陳 來幸 石川 禎浩 武田 雅哉 川島 真 柴山 守 松本 ますみ 孫 安石 大澤 肇 小林 聡明 谷川 竜一 菊地 暁 富澤 芳亜 泉水 英計 西村 陽子 李 梁
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本共同研究では、近100 年間に東アジア域内で起こった歴史的事件、あるいは時代の画期となるトピックをとりあげ、それぞれの局面で登場した非文字史料がはたした役割とその受容者の解釈を検討した。国内外における広範な調査と成果発表にあたっては、複数の地域で製作された非文字史料を比較対照するとともに、(a)図像解釈学的分析、(b)語彙分析による情報処理、(c)コミュニケーション・パターン分析等を導入して、紛争・協調の時代イメージと非文字史料との因果関係を明らかにした。
著者
佐々木 睦 平井 博 加部 勇一郎 青木 美智子 上原 かおり
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

三年にわたる研究で、中華民国期の児童雑誌、特に『児童画報』、『児童世界』、『小朋友』、についての調査を行った。この研究により、民国期の児童雑誌には、日本の児童雑誌『コドモ』、『幼年画報』、『少年画報』に掲載された漫画から転載された漫画や絵物語が多数あることが明らかになった。また、本研究により、商務印書館が出版した児童雑誌と中華書局が出版した児童雑誌の差異を明確にすることができた。
著者
北 潔 稲岡 健ダニエル 原田 繁春 斎本 博之
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は寄生虫のエネルギー代謝系酵素群が極めて特殊な性質を持ち、宿主中での寄生適応に重要な役割を果している事を明らかにして来た。シアン耐性酸化酵素(Trypanosome alternative oxidase)は宿主の血流中に生息するアフリカトリパノソーマの増殖に必要不可欠であり、薬剤標的として有望な酵素である。そこで我々が見出した特異的阻害剤アスコフラノンに着目し、化学の領域から生命現象を捉え、その応用を視野に入れたケミカルバイオロジーの観点により酵素の特徴、阻害剤との相互作用、そしてアスコフラノンの生合成経路を明らかにした。
著者
北村 俊雄 稲葉 俊哉 松井 啓隆
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

HL60はレチノイン酸で好中球に、Vitamin D3で単球に分化する。本研究ではHL60分化において経時的にRNAseqを行い、好中球および単球に分化する際に上昇してくる遺伝子を複数の遺伝子を同定した。しかしながら予想したようにこれらの遺伝子が染色体上の近傍に存在するということはなかった。そこで、HL60の分化におけるエピジェネティクスが果たす役割を調べるためにエピジェネティクス因子ASXL1のノックダウンを行い、細胞分化とヒストン修飾の関係を調べた。ASXL1ノックダウンはヒストンH3K4とH3K27のトリメチル化を低下させ、HL60の分化を阻害した。
著者
吉田 早苗 藤田 覚 宮崎 勝美 藤井 恵介 田島 公 詫間 直樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.東京大学史料編纂所に所蔵される江戸時代有数の故実家裏松固禅研究の基本的な史料『裏松家史料』について調査を完了し、全点の題名・内容・書誌情報等を含む詳細な調書を作成した。そのデータからデータベースを完成し、全点目録「裏松家史料目録」(第1版)を作成した。目録は史料編纂所の「所蔵史料目録データベース」上での公開を予定している。2.「裏松家史料」のうち修理中の冊子約80冊を除いた冊子本約300点とそれ以外の史料の全点について、マイクロ撮影・デジタル化を完了した。得られた画像データは、史料編纂所の「所蔵史料目録データベース」に対応する画像公開システムにより公開する予定である。3.「裏松家史料」中の書籍の奥書、固禅が作成した勘文類などに基づき、天明-寛政期の固禅の活動を解明して「裏松固禅活動年譜(稿)」を作成した。4.固禅の主要著作『大内裏図考証』については、引用史料データベースの仕様を確定し、テストデータの入力を行ない、献上に関する重要史料である『大内裏図考証清書目録』を翻刻した。5.以上の「裏松家史料目録」(第1版)「裏松固禅活動年譜(稿)」「『大内裏図考証清書目録』翻刻」および、「裏松家史料」を直接の基礎史料として固禅の執筆活動と公家社会の構造の関連性を解明した、「裏松固禅と裏松家史料について」(吉田早苗)、「裏松固禅の著作活動について」(詫間直樹)、「寛政期有職研究の動向と裏松固禅」(西村慎太郎)、「『皇居年表』の編修過程について」(詫間直樹)の4篇の論文を掲載した研究成果報告書を刊行した。
著者
齊藤 正樹 井頭 政之 鈴木 正昭 関本 博 赤塚 洋 飯尾 俊二
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

使用済み燃料中に存在するプルトニウム以外の超ウラン元素は、現在、高レベル放射性廃棄物として長期間管理が求められているが、大きな中性子捕獲断面積を持つため、原子炉内に初期に装荷することにより、初期の余剰反応度を抑えつつ、中性子によって核変換し、新しい核分裂製物質に変換され、長期間原子炉内は核分裂を維持することが可能となる。本研究では、これらの超ウラン元素を適切に原子炉内に再装荷することにより、長期間新燃料補給の必要のない超長寿命原子炉(軽水炉・重水炉・高速炉)の成立性に関する研究を実施した。その結果、^<237>Npを軽水炉及び重水炉に装荷した場合、燃焼度150-200GWd/tを持つ長寿命炉心が成立すること、また、6種類の冷却材(軽水、重水、Heガス、CO_2ガス、ナトリウム、水蒸気)を選択し、長寿命特性及び炉心の安全特性に及ぼす中性子スペクトルの影響について系統的に検討を行った結果、黒鉛減速Heガス冷却の場合がその特性を良く発揮することがわかった。また、^<237>Npと同様な中性子工学的性質を有する^<241>Am等を軽水炉に装荷した場合、約100GWd/tの高燃焼度が達成できることを確認した。また、いずれの場合も使用済燃料中に^<238>Puが多く生成されるため、核拡散に対して高い抵抗性を持つPuが生成されていることがわかった。また、核燃料交換や反応度制御が一切不要となる可能性のある原子炉燃焼概念(核反応敵に活性な領域が自立的に移行する燃焼方式)について検討し、約400GWd/tの高燃焼度を持つ高速炉炉心の可能性を確認した。また、関連する解析コードの改良や核反応データベースの整備を行った。
著者
島田 悠彦
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究ではランダム系の臨界現象や量子多体系のエンタングルメント・エントロピー(EE)の解析を、レプリカ法によって誘導される有効対称性である多層構造をもつ場の理論を通して行うのを目的としていた。具体的には、これまで研究されてきたゼロ次元ランダム系や1次元量子系に比べると現実的だが格段に難しい2次元ランダム系と2+1次元の量子系に関する結果を得るべく研究を進めた。ランダム系ではレプリカ層がバルクで相互作用するのに対し、量子系では層を張り合わせた境界のみで相互作用する場の理論となる。バルクに関しては前年度までに一定の成果を得たので、本年前半は境界に注目して2+1次元の量子臨界点の重要な例であるRokhsar-Kivelson点を一般化した状況における基底状態の波動関数を特徴づけるEEの普遍部分を主に調べた。この一般化には米や仏のグループの数値実験があるのみで解析計算がなかった。解析的にはEEは層の境界がもつ基底状態縮退(Affleck-Ludwigのg因子)の情報から決定できると考えられる。そこでレプリカ対称性と共形不変性の両方を併せ持つ「レプリカ型」境界状態をクーロンガスの方法に基づき構成し、g因子を層の枚数の関数として決定した。これにより繰り込み群のフローから数値結果を説明できた。EEの特殊値等、一部整合的でない部分が残ったものの、レプリカ対称性を共形不変性と組み合わせた場合に許される境界状態を具体的に書き下し特定したことは重要である。後半の仏滞在では、これまでとってきた径路積分描像と相補的である転送行列描像における付随代数や数値計算を用いてランダム系を解析して、二次相転移を示唆する繰り込み群の固定点の存在を確かめた。この相転移における臨界指数とフラクタル次元等を精度よく調べることは今後の課題である。
著者
佐野 嘉拓 田畑 昌祥 浦木 康光 篠原 邦夫 岸本 崇生 久保 智史
出版者
北海道大学
雑誌
地域連携推進研究費
巻号頁・発行日
1999

シラカンバは寒冷地に大量に存在する早生広葉樹であるが、有効利用されずに放置されている。北海道には他にも、多くの除・間伐材、わら類などの農業廃棄物が存在する。これら未利用資源を有効利用できるバイオマス変換産業を北海道に創出するための基礎的・応用的研究を行った。更に、シラカンバ外樹皮に特異的に存在するベチュリンを生分解性ポリマー、界面活性剤、生理活性物質など高度な用途に利用する技術の確立を計った。シラカンバ木材、農業廃棄物などをバイオマス変換産業の原料に利用するために、主要成分であるセルロース、リグニンとヘミセルロースの無公害・省エネルギー・省資源型簡易成分分離技術(常圧酢酸法とHBS成分分離法)を新たに開発した。50%を占めるセルロースは製紙、糖化・発酵によるバイオケミカルス、機能性セルロース誘導体など広範な用途に利用できることを明らかにした。ヘミセルロースとリグニンもほぼ定量的に単離され、ヘミセルロースはバイオケミカルス、食料添加物、医薬品、リグニンはクリーンで高熱量の燃料シックレス接着剤、環境浄化資材など高度な用途に使用できた。ベチュリンを簡易に単離・精製し、生分解性プラスチック、医薬品、天然界面活性剤などに利用する技術を確立した。これらの結果は北海道にベチュリン(シラカンバ外樹皮成分)、低質木材、農業廃棄物を有効利用したバイオマス変換産業を創設できることを示唆した。
著者
島崎 邦彦 中田 高 中村 俊夫 岡村 眞 千田 昇 宮武 隆
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

別府湾中央断層および北西部の三名沖断層、沖の瀬沖断層において音波探査およびピストンコアリングによる堆積物採取を行った。別府湾中央断層では過去6300年間に最大20mの上下食い違い量が見いだされている。この最も活動度の高い部分でコアリングを行い、断層の南北両地点で海底下16mを超える深度までの連続不撹乱試料を得ることができた。断層を挟む堆積物の対比結果により、海底面から海底下約2.5mまでは大きな上下食い違いを生じていないことが明かになった。年代測定の結果を考慮すると、過去1000年間この断層からは大きな地震が発生していないと結論される。しかし、断層の北側海底下2.5mから5mまでの間に、断層の南北で約7mの上下食い違いを生じている。この約7mの上下食い違いは年代測定の結果によると、2000年前から1000年前までの間に生じたと推定される。対比面の数が少ないため決定的な議論はできないが、約2000年前に7mの上下食い違いを生ずる大地震が発生した可能性がある。(他の可能性は、2000年前から1000年前までの間に複数回地震が発生した。)過去6300年間に約20mの上下食い違いを生じているので、一回の地震で7m食い違いを生ずるとすれば、過去6300年間に3回地震を発生したはずである。平均繰り返し間隔は約2000年となる。これは、昨年度の研究によって明かとなった中央構造線活断層系西部の松山沖の部分の繰り返し間隔とほぼ等しい。この両者はほぼ同じ時代に地震を発生している可能性があり、80km近く離れているが、力学的になんらかの連動性を持っているのかも知れない。中央構造線活断層系の四国中央部、および四国東部の部分も同様な繰り返し発生間隔であるとの推定があるが、最新の地震活動は、いずれも2000年前より新しい。このため現在の地震発生ポテンシャルは、西部の松山沖が最も高いと考えられる。同様に、別府湾中央断層も地震発生ポテンシャルが相対的に高いと結論される。
著者
相馬 恒雄 船木 實 酒井 英男 椚座 圭太郎
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.飛騨ナップと、飛騨帯(飛騨/宇奈月変成帯)の上昇と中生層のテクトニクスを関係させて考察した。飛騨帯は250Maの衝突変成(6Kb:地下20Km)のあと、180Maには2Kb、170Maには地表付近まで上昇した。上昇にともない飛騨外縁帯を被覆する来馬層群が削剥され、付加体堆積物である美濃帯が形成した。上昇の終了と同時に手取層群が飛騨帯と飛騨外縁帯を被覆しており、飛騨ナップの形成により飛騨帯と飛騨外縁帯が接合したと考えた。2.変成岩の熱履歴と古地磁気方位の変化からナップ運動を知るために、神岡地域の高温変成岩、母岩のミグマタイト、さらにそれらを取り込む神岡鉱床のヘデン岩についてEPMA分析とテリエ法により検討した。変成岩およびミグマタイトの形成は、250Maの飛騨変成作用以前であり、その後3回以上の変成作用をこうむっている。各岩石の熱消磁のパターンは異なるが、岩石学的な熱履歴との対応づけは今後の課題である。3.熱水変質岩の磁力の安定性と保持機構を調べるため、神岡鉱床のヘデン岩40個について残留磁化測定(交流消磁法で500Oeまで)とVSM(振動型磁力計)による磁化特性の測定(10KGaussの磁場で700℃まで)を行った。残留磁化は安定なものと不安定なものがあり、安定なものも磁化方向はバラバラであった。磁性鉱物を検討した結果、磁化を担っている鉱物は全てヘマタイトであることが判明した。磁化の不安定性と集中度が良くなかったことについては今後の課題である。4.飛騨外縁帯の結晶片岩の年代測定を岡山理科大学にて行った。青海地域の8個の試料の年代は264-338Maであり、青海地域が西南日本の三郡変成帯の延長であることを示す。飛騨帯を特徴づける250Ma変成作用を被っていないので、180Ma頃と推測される飛騨ナップ形成以前には、飛騨帯宇奈月変成帯と飛騨外縁帯は接していなかった。
著者
本橋 洋一
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

Riemann予想に関連してHilbertとPolyaはζ(s)となんらかの自己随伴作用素との関係に想到したことは周知のことである。近年、量子力学にmodelを求め、作用素論の立場からこの主題を論ずることが盛んである。しかし、そのような立場からは具体的な作用素とζ(s)との関係は今だ特定されてはいない。しかるに、本研究者は素数分布論からの要請である極めて古典的な主題「ζ(s)の量的解析」を探究する途上、上半平面に作用する双曲的Laplacianとζ(s)との極く明示的な関係を得た。函数ζ(s)と自己随伴作用素との具体的関係として始めての結果であった。また、それはHecke作用素とζ(s)との意外な関係をも明らかにした。上半平面や上半空間を代表とする双曲的空間にてLaplace作用素の数論的意味を論ずることは、なんらかのCasimir作用素に制限(表現論におけるK-trivial)を設定して議論することに相当する。勿論、この制限には意味がある。つまりそれによってζ(s)との関連は古典的とも言うべき程に鮮明になるのである。しかしながら、前回に採択された我々の基盤研究において,算術的離散群とζ(s)との関連を三次元双曲空間への拡張を通じて考察するなかで、制限K-trivialを再考すべき場面に遭遇した。つまり、これらの群について或る興味深い積分変換につきその逆変換を求める必要が起きたが、その解決は困難を極めunitary表現論を全面的に援用してようやくに成された,という経緯があった。また、それによってより精妙なζ(s)のスペクトル解析も得られることが判明した。この事実は、ζ(s)と一群のLie群との関連を示唆するものと我々は観た。ただし,この時点までの研究はKloosterman和のスペクトル理論を経由する煩雑な面があり,「ζ(s)と空間の直接の関係」に立脚したものとは言い難いものであった。[成果]本研究の目的は,第一義的にこのKloostermann和理論をゼータ函数論から排除し,Lie群の幾何構造のなかでζ(s)を把握することであった。主としてR.W.Bruggemanとの共同研究においてこの目的は達成された,と言える。つまり,「ζ(s)の4乗平均」を函数空間L^2(PSL_2(Z)\PSL_2(R))のなかに或るPoincare級数の特殊値として埋め込み,スペクトル解析を行うことに成功した。この研究により,ζ(s)とJacquet-Langlands局所函数等式との関係も明瞭となった。この事実はより高次元への拡張を視野に入れることを可能にするものであり,ゼータ函数論における基盤的な成果と言える。
著者
伊藤 正人
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は,ベイズ推論とその基礎となる個々の事象の確率値を経験を通して獲得する過程を扱ったものである.ベイズ推論とは,二つの異なる確率的情報から一つの結論(確率)を導き出す過程である.遅延見本合わせ課題における見本刺激の偏りを一つの確率的事象,正しい比較刺激の信頼度をもう一つの確率的事象とした手続きを用いた.遅延見本合わせ課題を訓練した後,見本刺激を提示せずに,情報刺激のみを提示する推論テストと見本刺激のどちらも提示しない確率値推定テストを行って,経験にもとづく確率値の推定とベイズ推論を検討した。ハトを被験体とした実験では,確率値の推定テストにおいて,見本刺激の偏りは,かなり正確に推定されることが示された.さらに,ベイズ推論テストにおいて,ハトの比較刺激の選択の仕方は,おおむねベイズの定理から予測される理論値に一致することが明らかなった.この事実は,ハトにおいても,経験を通して獲得した見本時間の偏りと情報刺激の信頼度に関する情報を新奇なテスト場面で利用できることを明かにしている.すなわち,経験にもとづくベイズ推論が可能なことを示していると考えることができる.このような行動が動物からヒトに共通する側面であるか否かについては,現在のところ,十分な結論を導き出すことはできないが,ある事象の確率的構造の性質は経験を通して明らかになるという観点を支持するものといえる.今後の課題としては,遅延見本合わせ手続きを用いた訓練法やテスト法の改良,異なる動物種での検討,ヒトの発達観点からの検討などが考えられる.
著者
本間 道則
出版者
秋田県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

有機蛍光色素をドープしたネマティック液晶を発光層とした液晶電気化学発光セルにおいて,高い輝度と偏光比を得るための設計指針を見出すために発光の基礎特性を評価した。その結果,陰極の仕事関数の減少が輝度と発光効率の向上に有効であること,フォトルミネッセンスの偏光比が高い色素である方が電気化学発光の偏光比も高くなることを見出した。さらに,コルゲート構造の発光層の導入によって素子の正面方向において効果的に偏光発光が得られることを確認した。
著者
松尾 智英 白藤 梨可
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

魚類以外の脊椎動物に寄生し、大量吸血と共に幅広い病原微生物の媒介能を有するマダニ類が類い希な飢餓耐性を持つことから、その飢餓耐性を裏付ける能力としてオートファジーに着目して研究を行った。その結果、いくつかのオートファジー関連遺伝子がフタトゲチマダニを用いて同定され、それらは未吸血期および脱皮を行う変態期に発現していたことから、マダニ類の飢餓耐性に重要な役割を持つことが示された。
著者
布村 明彦 千葉 茂
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

われわれは、酸化ストレスやミトコンドリア異常がアルツハイマー病(AD)の病態に関連することを明らかにしたが、これらの変化がアポトーシスの引き金になり得ることは興味深い。βアミロイド(Aβ)の産生や分解の異常は、ADの病態において中心的役割を果たすと考えられているが、神経細胞内Aβ蓄積と種々のアポトーシス・シグナルとの関連性は明らかにされていない。本研究では、AD剖検脳[10例(年齢60〜87歳);海馬、海馬傍回、および後頭側頭回]を用いて、免疫細胞化学的に神経細胞内Aβ蓄積、酸化的傷害、および種々のアポトーシス・シグナルを検出した・アポトーシスのカスケードにおいて上流に位置するMAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase)ファミリー(ERK、JNK/SAPK、p38)については、錐体細胞でERK、JNK/SAPK、p38の順により広汎に出現していた。また、これらのシグナルの下流で活性化されるカスパーゼ群は、イニシエーター・カスパーゼであるカスパーゼ8および9の出現が錐体細胞で観察されたのに対して、より細胞死に直結したエフェクター・カスパーゼであるカスパーゼ3、6、および7の出現は認められなかった。一方、神経細胞内Aβの免疫反応、とくにAβ42C末端の特異的抗体に対する免疫反応は、いずれのアポトーシス・シグナルよりも広汎に認められ、神経細胞内RNAの酸化的傷害は、Aβ42よりもさらに広汎に認められた。以上のことから、AD脳では、酸化的傷害が引き金となって神経細胞内Aβ蓄積が生じ、その下流で種々のアポトーシス・シグナルの出現が認められるが、アポトーシスを完結に導く後期のシグナルの出現は乏しいことが推定される。AD死後脳で観察される残存神経細胞では、従来知られているアポトーシスの過程がabortiveな段階で停止している可能性がある。