著者
朴 培根
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

大韓民国政府は日本による韓国併合の法的効力を認めず、大韓帝国と大韓民国との間では法的断絶のない継続性があるという見解を持っている。「大韓民国が締結した多数国間条約の効力確認」に関する韓国外務部の説明資料によれば、大韓民国は大韓帝国と同一の国際法主体として、同じ国家の内部で国体、政体および国号が変更した場合であるという。また、韓国の制憲憲法はその前文において大韓民国が1919年に樹立したという。韓国政府のこのような見解は、1919年以来韓国には国家の要素としての実効的政府が存在したことを前提にしているように思われる。その「政府」とは、中国上海でできた「臨時政府」にほかならない。しかし、臨時政府の成立の経緯、統治の実体、国際社会からの承認及び外交関係の実績等の点に照らしてみれば、それが国家の要素たる実効的政府であったかに関しては疑問が残る。その論理的帰結は、大韓帝国は国家として消滅し、旧大韓帝国の領土は日本の領土になり、その国民は日本国民になったこと、そして大韓民国は日本から独立した新生国ということになるだろう。にもかかわらず、韓国は大韓帝国と大韓民国とは法的に同一であるという態度を堅持しているし、国際社会においても条約の承継と関連して両者を法的には同一のものとして扱う事例も見られる。近年のバルト3国の例でみるように、50年以上も他国の一部として併合されたと思われてきた国家も、国際社会によっていわゆる「復活した国家」として認められる場合もある。大韓帝国と大韓民国の国家的同一性を認めることが、国際社会の法的安定性を著しく害することなく、韓国の民族的・国民的名誉と自尊心を回復させ、外国による支配がもたらした不当な結果を是正する道と認められる場合には、韓国にも「復活した国家」としての地位が与えられる余地はあると思われる。
著者
廣田 照幸 佐藤 晋平 森 直人 二宮 祐 丸山 和昭 香川 七海 冨士原 雅弘 長嶺 宏作 太田 拓紀 小野 方資 末冨 芳 神代 健彦 田中 真秀 徳久 恭子 岩田 考 宇内 一文 荒井 英治郎 金子 良事 筒井 美紀 布村 育子 古賀 徹 植上 一希
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、日本教職員組合(日教組)の1950年代から1980年代末までの期間を研究対象に据え、日教組が所蔵する非公開史料の特別な利用、日教組幹部OBのヒアリングや私文書の活用により、それぞれの時期に日教組内部でどのような論争や対立があり、それが結果的に日教組の運動にどういう方向性を与えたのかを、労働運動と教育運動の両面から分析する。保守対革新、文部省対日教組という単純な2項対立の図式で描かれることが多かった日教組運動史を、多様なイデオロギーのグループ間のダイナミックな相互作用過程としてとらえ直していく。
著者
福島 志斗
出版者
松江工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では、通常の太陽光発電に用いる太陽電池モジュールが発電効率の低下をまねく原因の一つであり、日光によるモジュール温度上昇を抑えることで発電効率の向上が可能であるか検討を行った。同時に、温度差を電気エネルギーに変換可能なペルチェ素子を併用し、冷却時の温度差を電気エネルギーに変換することで太陽エネルギーの効率的なエネルギー変換システムについての検討を目的として実験を行った。実験の結果、製作した実験装置で冷却に水道水を用いて冷却した場合、日光において10[℃]程度の冷却効果が実現できているため、発電電力全体の約4[%]を改善することが可能であると考えられる,また、この際に15[mW]とわずかではあるがペルチェ素子による発電を確認することができた。その後、夏場70[℃]程度まで上昇する太陽電池モジュールを再現するため、人工光源を使用して90[℃]程度まで温度を上昇させて実験を行った結果、ペルチェ素子により最大で240[mW]程度まで発電し、太陽電池モジュールの発電効率の改善も同様に4[%]程度確認することができた。これらの実験には、200[mm]四方の単結晶化型太陽電池モジュールを用いた。これらの実験により、太陽電池モジュールを冷却し発電効率の改善を図ることが可能であり、冷却時にペルチェ素子を介することで更なる電気エネルギーへの変換が可能であると言える。また、冷却水を循環させることで温水器としての利用も考えられる。この実験を通し、太陽電池モジュールの発電量や背面温度の測定方法を、本校にて卒業研究を行っている学生に対して実物を用いて測定方法の指導することができ、実験装置の教育効果としての役割も果たすことができた。
著者
坂口 伸治
出版者
久留米大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

今回の研究対象は高齢者と若年者の男女の喉頭である。研究方法は高齢者と若年者の声帯、各5例の標本を作製し、透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡で観察を行った。声帯の可塑性に大きな影響を与える線維成分(膠原線維と弾性線維)、基質の変化を電顕的に観察し加齢的変化を観察した。またこれらを産生する線維芽細胞の超微構造を観察しその加齢的変化を検討した。1.発声時に最も振動する声帯粘膜固有層浅層の弾性線維は、若年者の弾性線維と形態的に異なっており組織に弾力性を与える弾性線維本来の働きが低下していることが示唆された。このことから高齢者の声帯では粘膜固有層浅層の弾力性が低下しており、このことが声帯振動に影響を与え、声の老化の一つの原因になっていると考えられた。2.声帯の線維成分の産生は声帯の黄斑で主に行われる。高齢者声帯黄斑の形態学特徴は、線維芽細胞の形態的変化であった。線維芽細胞の数が少なくなっており、その多くは活動性が低下した、あるいは変性過程の線維芽細胞であった。またこのような線維芽細胞では膠原線維と弾性線維の産生が低下していた。高齢者声帯黄斑の線維芽細胞の形態的機能的変化は声帯靱帯などの声帯の線維組織の老化に影響を与え、声の老化に関与していることが示唆された。現在研究結果は、論文として投稿準備中である。またさらに高齢者声帯の超微構造の研究を進めている。
著者
宇佐美 誠 大屋 雄裕 松尾 陽 成原 慧
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究計画は、人工知能(AI)が著しく発達した近未来の社会的経済的状況を見据えて、新たな分配的正義理論を提案するとともに、個人の自由への新たな形態の脅威に対して理論的応答を提示することを目的とする。この研究目的を効果的に達成するため、正義班と自由班を組織しつつ、相互に連携して研究を実施する。補助事業期間を基礎作業、構築・展開、総合・完成という3つの段階に分け、計画的に研究活動を推進する。
著者
蔡 毅
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本の明治期と中国の清代末期の日中漢詩交流に関しては、もう一つの大きな課題が未解決のまま残っている。それは明治の「文明開化新詩」が清末の「詩界革命」に与えた影響である。「詩界革命」とは、西洋文明がもたらした新しい事相や言葉を伝統的な漢詩ジャンルに取り入れようとする清末の文学運動で、中国では画期的な文学革新であるため、重要な研究テーマとされてきた。ところが、その起源について、今までの研究はほとんど中国国内における西洋文明の影響のみに着目しており、中国より先に西洋文明の新しい機運を積極的に漢詩に取り入れた明治期の「文明開化新詩」との関係についての展望は皆無と言える。筆者の調査によれば、明治の「文明開化新詩」が清末の「詩界革命」に直接的または間接的に与えた影響に関しては、未だ多くの資料が埋もれており、それを用いて、さらに事実を解明し得る可能性を秘めているのみならず、明治期における日中文化交流の歴史を大いに書き直すことも見込まれる。また、明治期漢文学の研究視野は今まで日本国内に限られるが、その外延が彼方の中国まで伸びるという事実を確認することによって、明治期漢文学自身の再評価に繋がることも考えられる。
著者
永井 晋 野口 実 鈴木 哲雄 高梨 真行 角田 朋彦 野村 朋弘 橋本 素子 実松 幸男 佐々木 清匡 北爪 寛之
出版者
神奈川県立金沢文庫
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

中世に下総国下河辺庄という広域荘園が形成された地域にについて、各分野の研究者や自治体の文化財担当者と意見交換を行い、現地での確認調査・聞き取り調査を行った結果、鎌倉時代に地頭として下河辺庄を治めた金沢氏が河辺・新方・野方と三地域に分割した経営形態が地域の実情に即した適切な統治の形態であったことを確認することができた。すなわち、下河辺庄は荒川・利根川・大井川(太日川)の三本の河川が集まる水上交通の要衝という物資輸送の利便性を持つが、それは同時に、肥沃な土壌が継続的な供給される生産性の高い水田地帯という経済的優位性と水害に弱い洪水常習地帯という豊凶の落差の激しい中下流部の低地帯(新方・河辺)と、鎌倉街道中道の通る猿島台地・下総台地上の耕地帯に大きく分かれていることが明らかになった。金沢氏は、一律の基準で支配できない広域荘園に対し、本家が直轄する所領と一族や被官を郷村の地頭代(給主)に補任して治める所領に細分化し、それらを公文所が統合することで全体の管理を行っていた。本科研では、下河辺庄の成立過程を探るために、摂津源氏の東国進出と秀郷流藤原氏下河辺氏の成立に始まり、江戸時代に語られていた下河辺庄の記憶で調査年代を終えることにした。成立期の下河辺庄は秀郷流の本家小山氏との関係を重視したので野方の大野郷に拠点があったと推定される。下河辺庄の地頭が下河辺氏から金沢氏に交代すると、金沢氏は鎌倉の館に置かれた公文所が直轄して管理する体制をつくったので、下河辺庄は鎌倉の都市経済に組み込まれた。この時期に、下河辺庄赤岩郷は鎌倉に物資を輸送する集積地として発展を始めたと考えられる。南北朝時代になると、下河辺庄赤岩郷は金沢家の菩提寺称名寺の所領として残されたので、称名寺が任命した代官や現地側の担当者と称名寺がやりとりする書状や書類が多く残されるようになった。また、称名寺のリスク管理の中で年貢代銭納が行われ、上赤岩には年貢として納入するために保管されていた出土銭が発掘されている。享徳の乱によって古河公方が成立すると、下河辺庄は古河公方側の勢力圏の最前線となり、簗田氏や戸張氏といった公方側の武家が庄域を管理し、扇谷上杉側の岩槻大田氏と境界を接するようになる。この時期に、称名寺と赤岩郷の関係が確認されなくなる。江戸時代になると、下河辺庄新方は武蔵国に編入され、新方領とよばれるようになる。この地域は『新編武蔵国風土記稿』や『武蔵国郡村誌』といった詳細な地誌が残るので、地域で語られていた下河辺庄の記憶を知ることができる。本科研は、歴史学を中心とした地域総合研究として、荘園史の枠組みを超えた地域研究を行おうとしている。調査の編目は、後述する報告書掲載論文から明らかになるし、調査の詳細は報告書の本文をご覧いただきたい。
著者
潮見 佳男 橋本 佳幸 村田 健介 コツィオール ガブリエーレ 西谷 祐子 愛知 靖之 木村 敦子 カライスコス アントニオス 品田 智史 長野 史寛 吉政 知広 須田 守 山本 敬三 横山 美夏 和田 勝行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成30年度は、前年度に引き続き、ゲストスピーカーを交えた全体研究会の開催を通じて、情報化社会における権利保護のあり方をめぐる従来の議論の到達点と限界を検討し、知見の共有を図った。個別の研究課題に関しては、次のとおりである。第1に、個人情報の収集・利活用に関する私法的規律との関連では、全体研究会を通じて、EU一般データ保護規則(GDPR)の全体的構造のほか、EUにおけるプライバシー権の理論構成について理解を深めた。また、プラットフォーム時代のプライバシーにつき、プロファイリング禁止やデータ・ポータビリティーなどの先端的課題を踏まえた理論構成のあり方を検討した。第2に、AIの投入に対応した責任原理との関連では、全体研究会において、ドイツでの行政手続の全部自動化立法の検討を通じて、AIによる機械の自動運転と比較対照するための新たな視点が得られた。第3に、ネットワーク関連被害に対する救済法理との関連では、担当メンバーが、ネットワークを介した侵害に対する知的財産権保護のあり方を多面的に検討し、また、オンライン・プラットフォーム事業者の責任について分析した。以上のほか、私法上の権利保護の手段や基盤となるべき法技術および法制度に関しても、各メンバーが新債権法に関する一連の研究を公表しており、編著の研究書も多い。さらに、外国の法状況の調査・分析に関しては、ドイツやオーストリアで在外研究中のメンバーが滞在国の不法行為法の研究に取り組み、複数のメンバーがヨーロッパ諸国に出張して情報収集を行った。また、研究成果の国際的な発信も活発に行っており、国際学会での日本法に関する報告が多数あるほか、新債権法に関して、その翻訳、基本思想を論じる英語論文が挙げられる。
著者
太田 光明 塩田 邦郎 政岡 俊夫 和久井 信 田中 智夫 植竹 勝治
出版者
麻布大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

地震前の動物の異常行動は、電磁波など地震前兆を感知した動物のストレス反応の一つであろうとの仮説のもとに研究を重ねてきた。しかし、ラット、ビーグル犬など「実験動物」に対して電磁波照射を繰り返しても、明確な異常行動は見られない。一方、ヒトと日常的に生活している「家庭犬」を用いたところ、6頭のうち、少なくとも2頭に顕著な異常行動を認めた。すなわち、1)マウスやラットのように「実験動物」として用いられる犬種は、ほとんどビーグル犬である。個体による違いを含め、犬の特性のいくつかを喪失しているとしても不思議はない。人による改良が進めば進むほど、電磁波異常など非日常的な物理現象を感じる必要性もなくなる。実際、本研究において電磁波の影響は見られなかった。この研究成果を遺伝子解析に応用した。2)遺伝子解析を進めるためには、プライマーが必要であり、犬遺伝子では、CRH、DRD2、DRD4など極めて少数しか判明していない。本研究では、はじめにCRH遺伝子の多型について検討した。しかし、33犬種37頭を解析した結果、遺伝子多型は検出されなかった。つまり、CRH遺伝子が「地震感知遺伝子」の可能性は低い。一方、兵庫県南部地震の直後、一般市民から集められた前兆情報のなかには、古来からの地震前兆情報であると考えられてきた夥しい数の報告が含まれていた。特に、動物の前兆的異常行動に顕著であった。また、阪神・淡路大震災の前兆情報として、犬で約20%、猫で約30%が異常行動を示したという。こうしたことから、3)本研究では、富士通株式会社ならびに株式会社NTTドコモ関西との産学協同体制でこの「動物の異常行動」の情報収集システムの構築に取組み、プロトタイプのシステムを完成させた。モニター登録者が暫時増加し、平成16年3月1日現在で、50人を数えた。
著者
田口 正樹 佐々木 健 林 信夫 加納 修 大月 康弘 小川 浩三 松本 英実 鈴木 直志 新田 一郎 櫻井 英治 粟辻 悠 西川 洋一 佐藤 公美 小林 繁子 神寳 秀夫 佐藤 雄基 佐藤 彰一 石部 雅亮
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

前近代の西洋と日本について、法律家を中心に、公証人、弁護人、軍人、商人など多様な専門家を取り上げて、専門家と専門知を存立・機能させる環境、専門家と専門知が権力構造において占める位置、専門家間の組織形成とネットワークの広がりといった側面を検討して、専門家と専門知の発展を国制史に組み込んだ。ドイツの研究グループとの学術交流により、専門家に関する文化史的視点を補強して、その意味でも従来の国制史の枠を広げた。
著者
山崎 晶子
出版者
一橋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-08-30

フランスにおいて、エリートの再生産が階層の固定化を促進していると言われている。しかし、研究代表者は中等教育未修了程度の学歴もしくは移民の親を持ちながら出身階層を乗り越えてエリートとなった人物(非再生産型エリート)と少なからず出会ってきた。親から継承する「資本」を持たない彼らはいかに階層を上昇することができたのだろうか。この問いの解明のために、本研究は、主に非再生産型エリートを対象とするライフストーリー・インタビューを実施する。この調査によって、従来型と言える再生産システムによるエリート形成との違いを示しながら、21世紀のフランスにおけるエリート形成過程の多様性と階層の乗り越え方を見いだす。
著者
桜井 芳生 赤川 学 尾上 正人
出版者
鹿児島大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2017-06-30

分析はおもに以下の様な因果図式であった。遺伝子多型の値(ss,sl,ll,の三値)は、生得的に不変とかんがえ、つねに独立変数としてあつかった。[ジーン(×SES)→ネットワークタイ分析]すなわち、遺伝子の値(と当人の社会経済的変数)が当人のネットタイ形成(具体的には友人形成)に影響をあたえているのか。また、二者間の遺伝子変数の類似がその二者の友人形成を促進するのか。すなわち「(遺伝的)類が、友を呼ぶ」のか、の分析をおもに、ロジスティック回帰分析を利用して分析をこころみた。[ジーン×ネットタイ×SES→SES 分析]すなわち、第一波第二波第三波の時系列データを収集するので、これを利用する。すなわち、第一波時点におけるジーン・ネットタイ(だれと友人か)・SES(社会経済状態)が、第二波時点の当人のSES(社会経済的状態)ならびにネットタイの変化にどのように影響したのかを分析した。これはおもに第二波のSES ならびにネットタイの一つ一つを従属変数とし、第一波のジーン・ネットタイ・SES を独立変数とする重回帰分析によって解析した。さらに第一波で計測した遺伝子の値、第二波でのネットワーク変数(だれとタイをむすんでいるか。本人のネット中心性の値など)を独立変数とし、第三波のSES ならびにネットワーク変数を従属変数とし、同様の分析をこころみた。さらに個別の遺伝子の一塩基多型のタイプが被験者の社会行動に影響をあたえていないか、スマートホンアンケートとの同時計測の結果について相関分析を試みた。
著者
渡邊 敬子 森下 あおい 大塚 美智子 諸岡 晴美 丸田 直美 石垣 理子 持丸 正明 小山 京子
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

3Dでスキャンした人体形状や類型化されたグループの平均形状のデータをそのままボディとして用いるのではなく、ドレスボディのようにゆとりの入った形状に変換したものを用いると、より効率良くパターン設計ができると考えられる。そこで、a)ヌードボディとドレスボディを3D計測し、断面を比較するb)ボディ制作者・ボディメーカー等の聞き取りを行うc)研究室所蔵の体表の伸縮データを再検討するなどして、ゆとりを入れる場所と量について検討した。この結果を参考に、LookStailorXで既存のヌードボディに対して、適量のゆとりを入れたガーメントを作成した。このヌードボディとガーメントデータの差分を利用して、HBM-Rugleでモーフィングによる変形を試みた。腕付根位の周囲長で2cm、5cm、8cmのゆとりが入るように変換したボディを基に、タイトフィットのパターンを作成し、厚地のトワルで実験着を作成した。モーフィングで変換した断面図を観察すると、意図した箇所にゆとりを付与できていた。また、製作した実験着の外観には不自然なつれや余り皺はなく、衣服圧の検討からは、ゆとり2cmでも日常の小さな動作には対応できることが分かった。さらに、体格が違う男性や子どもにも同様にモーフィングを行ったところ、意図した箇所にゆとりを付与できており、汎用性があることが予想された。一方、昨年度までは、体型の分類のため、体幹部と下肢部に分けて相同モデルを作成し、解析してきた。全身のモデルは腋下や股下の欠損があり、計測器に付属したソフトの補間では、この部位が実際の位置よりも下方でつながれ、寸法算出や着装シミュレーションの際に問題が生じていた。そこで、ジェネリックモデルやランドマーク位置を工夫することで、これらの位置が正しく表現できる相同モデル作成が可能にした。この方法を用いて、今までに計測したデータをモデル化している。
著者
鈴木 越治
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

健康格差の全体的評価において重要なデータ分析・評価方法の構築を行った。特に、健康格差を評価する際に考慮すべき交絡バイアスの性質を明らかにして、交絡の四つの観念の類型を示した。また、健康格差を評価する際に生じる誤差の新たな体系的分類を提示した。加えて、健康の社会的決定要因(例:ソーシャル・キャピタル)や環境要因(例:砂塵)に着目し、日本における健康格差の特色を明らかにするとともに、格差拡大の背景を評価した。
著者
佐藤 喜和 中下 留美子
出版者
酪農学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

国後島・択捉島には世界で唯一上半身が白いヒグマが生息している。この毛色パタンにはサケ類を捕獲する際に発見されにくいという適応的な意義があるとの仮説を立て,これを明らかにする足がかりを得ることを目的に研究を行った。国後島・択捉島のヒグマは個体差なく草本類とサケマス類,果実類を中心とした資源利用をしていた。着衣色を変えカラフトマスの反応を見る実験から,黒には敏感に反応し接近しなかったが,白には接近しやすかったことから,上半身が白いヒグマには適応的意義があることが示唆された。
著者
野田 菜央
出版者
神奈川県警察科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

資料の劣化は法科学的資料によく見られる特徴であり、体液種の同定における劣化資料への対策は重要な課題である。法科学的資料としてしばしば扱う体液種の1つである唾液の同定法として汎用されているアミラーゼ活性検査も、劣化した資料では活性低下により唾液同定が困難になることがある。また、劣化の程度は資料ごとに異なり、採取状況や資料の外観から劣化度を知ることは困難である。劣化度を正確に把握できれば、劣化度に応じてより効果的な検査法を選択し、資料の消費を抑えることができると期待される。そこで本研究では、唾液同定法の一種であるELISA法に着目し、資料中のタンパク質の劣化度をタンパク質分解度(PDR ; Protein Degradation Ratio)という指標で定義して資料の劣化度を評価した上で、PDRの異なる資料に対してELISA法を実施し、劣化資料に対する有効性を明らかにすることを目的とした。まず、タンパク質分解酵素で段階的に断片化したBSAについて、280nmにおける吸光度により総タンパク質量、Bradford法により比較的断片化していないタンパク質量を定量し、それぞれの定量値の比をPDRとして定義した。その結果、分解酵素の処理時間に応じてPDRの増大が認められた。また、土壌環境下で処理した健常人の唾液斑についても同様にPDRを推定したところ、劣化資料は未処理の唾液斑に比べて高いPDRを示した。さらに同資料に対してアミラーゼ活性を測定したところ、劣化資料においてアミラーゼ活性の低下が認められた。また、アミラーゼ、スタセリンを指標としたELISA法を実施したところ、劣化資料においてアミラーゼは検出されたが、スタセリンはほとんど検出されず、ELISAマーカーによって結果に差異が生じた。本研究より、資料の劣化度をPDRという指標で推定できることが明らかとなった。また、PDRから資料の劣化度に応じたELISAマーカーの選択ができる可能性が示唆された。今後は新たなELISAマーカーについて唾液同定の有効性を検討していきたい。
著者
吉岡 洋輔
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

雑草メロンのもつ単為結果性の遺伝的機構を解明し、育種的利用のための科学的・技術的知見を獲得することを目的として、単為結果性の遺伝解析を実施するとともに、単為結果性メロン系統と現行メロン品種・系統間の交雑後代の単為結果能力の選抜を実践し、単為結果性メロン品種の育種可能性を探った。その結果、雑草メロンの単為結果性は2つの主要な劣性遺伝子により支配されていると考えられ、本系統を素材として、幅広い作型で単為結果するメロンF1品種の育成が可能であることが明らかになった。
著者
日高 薫 荒川 正明 山崎 剛 澤田 和人 坂本 満 櫻庭 美咲 吉田 雅子
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

ジャポニスム(19 世紀末)以前の西洋における日本文化受容を、漆器・磁器・染織品などの交易品を中心にとらえるとともに、西洋において「シノワズリ」と呼ばれる東洋趣味を総合的に把握し、その中における日本の役割について考察した。従来、分野ごとに個別におこなわれてきた日本コレクションの調査を合同で実施することにより、当地における研究に寄与することができた。また、漆の間・磁器の間の実地調査を通じて、オランダに始まった東洋趣味の室内装飾の伝統が、王族の姻戚関係を通じてドイツとイギリスに伝わったのちに、その他の国へ広まっていく経緯を確認することができた。