著者
近藤 憲久 福井 大 倉野 翔史 黒澤 春樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.63-70, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
36

北海道網走郡大空町にある旧大成小学校体育館で,コウモリの出産哺育コロニーが発見された.本コロニーを形成する個体の捕獲を行い,外部形態を精査したところ,乳頭が2対あることからヒメヒナコウモリと同定した.また,8月以降にコロニー周辺で拾得された2個体のコウモリについても,外部並びに頭骨計測値からヒメヒナコウモリと同定した.5回にわたる捕獲調査の結果,本種は6月下旬~7月上旬に出産し,8月上旬には幼獣が飛翔を始めていた.本コロニーを形成する雌成獣は約60頭であった.8月以降は,成獣はほとんどいなくなり,幼獣が大部分(96%)を占めていた.飛翔時の音声構造は,FM-QCF型であり,ピーク周波数の平均値は26.1 kHzであったが,FM成分とQCF成分の比率は飛翔環境によって大きく変化していた.ヒメヒナコウモリのねぐらおよび出産哺育個体群は国内初記録であり,今回の発見により,本種の国内における繁殖・定着が明らかになった.
著者
赤倉 優蔵
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.166-175, 2015-06-01 (Released:2015-06-01)
参考文献数
18

「データからニュースを発見する」「データから発見したニュースをわかりやすく表現する」手段として,データジャーナリズムと呼ばれる,データを活用する報道手法が,日本をはじめ,世界各国の報道機関に急速に浸透している。データジャーナリズムの手法を取り入れた取材活動は,スクープを生み出し,政治や行政を動かす,あるいは社会に大きな影響を与えるなど,すでに大きな成果を上げ,さらにはニュースの概念をも変えている。本稿ではデータジャーナリズムについて概説したうえで,世界的な広がりをみせる背景とその影響について言及する。
著者
田島 公 山口 英男 尾上 陽介 遠藤 基郎 末柄 豊 石上 英一 藤井 譲治 金田 章裕 西山 良平 坂上 康俊 西本 昌弘 本郷 真紹 加藤 友康 武内 孝善 田良島 哲 渡辺 晃宏 石川 徹也 石川 徹也 山口 和夫 藤原 重雄 稲田 奈津子 遠藤 珠紀 三角 洋一 月本 雅幸 吉川 真司 小倉 慈司 綾村 宏 杉橋 隆夫 桃崎 有一郎 島谷 弘幸 猪熊 兼樹 馬場 基
出版者
東京大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2007

禁裏(天皇家)や主要公家文庫収蔵史料のデジタル画像約100万件、東山御文庫本・伏見宮家本の1画像毎の内容目録約20万件を作成し、編纂所閲覧室での公開準備を進めた。木簡人名データベースと漢籍の受容を網羅した古代対外交流史年表を公開した。『禁裏・公家文庫研究』3・4、研究報告書4冊等を刊行し、禁裏・主要公家文庫の家分け蔵書目録を公開した。「陽明文庫講座」「岩瀬文庫特別連続講座」等市民向け公開講座を約百回開催し講演内容の一部を一般向けの本として刊行した
著者
佐藤 義則 小山 憲司 三根 慎二 倉田 敬子 逸村 宏 竹内 比呂也 土屋 俊
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.506-514, 2013-11-01 (Released:2013-11-01)
参考文献数
8

国内45機関の参加・協力の下,2011年10月から12月にかけ電子ジャーナルの利用に関するアンケート調査を実施し,広範囲の主題領域の研究者(教員,博士後期課程大学院生)から3,922の回答を得た。これらのデータを多方面から分析した結果,電子ジャーナルの利用がより広範囲にかつ深く浸透するようになっただけでなく,利用者の読書行動や意識(選好)も大きく変化していることが明らかとなった。また,電子ジャーナルの利用度の違いは国際文献と国内文献のいずれを主に利用しているかに密接に関係しており,印刷体と電子情報資源に対するそれぞれ別個のサービスモデルの維持を避けるためには,国内文献の電子化の遅れの解消が必要であることがあらためて確認された。
著者
倉山 満
出版者
関西法政治学研究会
雑誌
憲法論叢 (ISSN:1343635X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.91-111, 2010

It is said that Yoshino Sakuzo was a standard-bearer of the democracy of Japan. However, it is assumed that it takes advantage of an expansionist current of the times in the youth, and nationalism speech and behavior was done by him. A current research is exaltation of the nationalism done when he is young and it is insisted that thought be fundamentally changed. I wonder whether the nation was existence that can be thrown away however for Yoshino. No, it is not so. Even if the insistence was changed for Yoshino according to the change in the situation, the nation outlook that existed in the basis was immovable. In this thesis, whether Yoshino really changed thought is verified through the key words. These are "Nation State", "Constitutionalism", and "Election and party politics". Moreover, there are "Modernist", "British type monarch system", and "Security" importance in "Constitutionalism".
著者
野島 義照 冲中 健 瀬戸 裕直 倉山 千春 二階堂 稔 高砂 裕之
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.168-176, 1995-01-31
被引用文献数
14 12

建築物の屋上を緑化することによる夏期の建築物および都市の温熱環境の改善効果を把握するために, 1993年夏に計測実験を行った。東京都内の9階建てビルの低層棟(5階建て)の屋上を対象として, カンツバキの植栽地, 舗装面, 机で日陰を作った舗装面の3箇所の温熱環境の違い, 植栽地の葉面からの蒸散速度等の測定を, 8月2日の曇天日と8月12日の晴天日に行った。その結果, 夏の強い日差しを受けた8月12日には, 日射を受ける舗装面では表面温度の上昇も建築物への熱流量も非常に大きく, それぞれの最大値が56.6℃, 507W/m^2に昇った。机で日射から遮蔽された舗装面では表面温度の上昇は相当緩和されて最高が32.6℃にしかならず, 建築物への熱流量は日中でおおむね50W/m^2程度であった。それに対して植栽地では, 植物による日射の遮蔽と葉からの蒸散による潜熱消費により, 地表面温度の上昇が大きく抑えられ, 14時前後に日陰舗装面よりも高くなった以外は日陰舗装面よりも相当低く, 建築物への熱流量も最高で33W/m^2とごくわずかであった。
著者
倉又 朗人 飯塚 和幸 佐々木 公平 輿 公祥 増井 建和 森島 嘉克 後藤 健 熊谷 義直 村上 尚 纐纈 明伯 ワン マンホイ 上村 崇史 東脇 正高 山腰 茂伸
出版者
日本結晶成長学会
雑誌
日本結晶成長学会誌 (ISSN:03856275)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.130-140, 2015 (Released:2017-05-31)

Gallium Oxide is attracting attention as a new material for optical and electrical applications. It has a large band gap of 4.8 eV. The electron concentration can be controlled in a range between 10^<16> cm^<-3> and 10^<19> cm^<-3>. Large-size bulk crystals can be obtained easily because melt growth is possible under the atmospheric pressure. From these material features, we expect high performance and low production cost of LEDs and high power devices. In this report, we introduce the properties of β-Ga_2O_3 single crystal substrates and the present status of device development.
著者
白子 隆志 加藤 雅康 藤山 芳樹 田尻下 敏弘 沖 一匡 吉田 隆浩 小倉 真治
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.12, pp.897-903, 2014-12-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
17

介護老人保健施設(以下,老健施設)に入所中の83歳女性が心肺停止になり,勤務中の看護師らスタッフによる心肺蘇生が実施された。心肺蘇生中の看護師A(53歳,女性)が突然意識を消失したため,残りのスタッフが入所者の心肺蘇生を引き継ぐとともに看護師Aの心肺停止を確認し,救急隊の追加要請と看護師Aのcardiopulmonary resuscitation(CPR)を開始した。施設唯一のautomated external defibrillator(AED)は入所者に装着されたため,救急隊到着後に救急隊の半自動式除細動器を入所者に装着し,施設のAEDを看護師Aに装着した。「shock advised」の指示に従いスタッフが1回目のショックを看護師Aに実施した。先着救急隊により入所者を搬送後,追加要請された後着救急隊により看護師Aを救命救急センターに搬送した。救急外来にて看護師Aの心肺停止,VFを確認後2回目のショックを実施し,アドレナリン1mgを投与後に自己心拍が再開した。抗不整脈薬投与,人工呼吸管理,低体温療法を行い,その後implantable cardioverter defibrillator(ICD)を移植し,完全社会復帰した。看護師Aは既往歴に肥大型心筋症を罹患しており,今回の心肺停止は急激な心肺蘇生によって身体的・精神的負荷がかかったために,VFを発症したものと推測した。本症例は,日常の訓練とスタッフを含む適切な救命の連鎖が看護師Aの社会復帰につながったものと考えられた。院内の事後検証において老健施設のAEDの機種,設置場所,台数,予備パッドの管理体制の不備を指摘し,既設のAEDを廃棄後2台新設した。Japan Resuscitation Council(JRC)ガイドライン2010によると心肺蘇生中の救助者が心肺停止に陥ることは極めて稀であるが,救助者の安全についても十分考慮する必要がある。
著者
高倉 祐樹 中川 良尚 橋本 竜作
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.316-320, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
13

臨床現場に出て数年の初学者にむけ, 失語症状に対する分析的な視点と, 失語症状の長期的な回復を考慮した視点から, 失語症者本人とその家族への対応について述べた。第 1 章では, 失語症状のメカニズムを推定し, 治療的介入の手がかりを得るためには, 数量的な評価 (正答数) だけでなく, 質的な評価 (誤りの特徴) が重要であることを解説した。第 2 章では, 病棟で受ける失語症者と家族からの質問に, どのように答えるのか, 専門家として寄り添いつつ, 納得を得るための対応について解説した。
著者
山内 啓之 鶴岡 謙一 小倉 拓郎 田村 裕彦 早川 裕弌 飯塚 浩太郎 小口 高
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.169-179, 2022 (Released:2022-06-14)
参考文献数
25

近年,バーチャルリアリティ(VR)の技術が様々な分野の教育実践において注目されている.地理教育においてもVRを活用することで,対象者の地理的事象への関心や理解を向上できる可能性がある.そこで本研究では,仮想空間に再現した現実性の高い環境を観察したり,散策したりするVRのアプリケーションを構築した.対象は横浜市にある人工の横穴洞窟の「田谷の洞窟(田谷山瑜伽洞)」とした.アプリケーションは,田谷の洞窟保存実行委員会と研究者が連携して取得した洞窟内の三次元点群データと,筆者らが現地で撮影した全天球パノラマ画像,洞窟の小型模型,環境音を用いて構築した.アプリケーションの使用感と効果を評価するために,市民の交流イベントにおいてVRの体験会とアンケート調査を実施した.その結果,VRアプリケーションは,幅広い年代の利用者に体験の満足感や地理的事象に対する関心や理解を与えることが判明した.
著者
倉田 めば
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.198-214, 2020 (Released:2021-09-30)
参考文献数
12

本稿の目的は,当事者である筆者の体験と活動をとおして,回復という現象の特徴を記述し,現在の薬物政策や薬物依存者処遇が,それまでに蓄積してきた当事者活動の豊穣さを簒奪し,一義的な意味に還元する事態について論じることである.すでに逸脱を社会的な視点から考える時代は過ぎ,こんにち薬物依存は自己責任の問題となった.しかし当事者はそれ以前から支援活動を行い,それは時代の変化を超えて存在し続けている.その一つであるダルクは,こんにちの社会からみたら逸脱的な支援を,すでに四半世紀にわたって続けてきた.その重要な考え方は「薬物を使う自由と使わない自由」が本人にゆだねられているということであり,そのことによって実現されるのは「回復の集約とその後の拡散」と表現できるものである.一方,近年の法改正や行政機関の薬物再乱用防止プログラムの実施は,薬物問題への取り組みとして望ましいものとされ,専門家らを巻き込みながら推進されている.しかしながら,それらによって回復という言葉は当初の輝きを失い,当事者活動本来の豊穣さが覆い隠されつつある.
著者
村山 幸子 小林 江里香 倉岡 正高 野中 久美子 安永 正史 田中 元基 根本 裕太 松永 博子 村山 陽 村山 洋史 藤原 佳典
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.151-160, 2022-02-02 (Released:2022-02-02)
参考文献数
23
被引用文献数
3

世代継承性は元来中年期の心理社会的課題とされてきたが,近年は高齢期の課題としても注目されている。本研究は,高齢期の世代継承性を多元的かつ簡便に測定できる改訂版世代継承性尺度(以下,JGS-R)を作成し,その信頼性と妥当性を検討した。日本語版Generativity尺度(大場他,2013)をもとにJGS-Rの項目を作成し,都市部在住高齢者1,393名に質問紙調査を行った。探索的因子分析の結果,「世代継承的行動」,「世代継承的関心」,「世代継承的達成感」という3因子が抽出され,確認的因子分析により因子妥当性が確認された。この3因子をもとに作成した下位尺度は,いずれも高い内的整合性が認められた。さらに,JGS-Rの各下位尺度得点は他世代との会話頻度,他世代への手段的・情緒的サポートの提供頻度,および地域における子育て支援行動と正の相関関係にあり,このことから尺度の基準関連妥当性が認められた。
著者
若松 美智子 佐野 遙 伊藤 亜希子 中村 和子 松倉 節子 蒲原 毅
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.160-163, 2020-02-01

64歳,女性。初診時,右拇指に爪甲の肥厚,粗糙化,破壊と爪甲下の膿疱が認められた。病理組織学的にKogoj海綿状膿疱がみられたが,当初は皮膚カンジダ症が合併していたことなど,診断に苦慮した。無菌性膿疱が慢性に繰り返してみられたこと,再度皮膚生検を施行し病理組織学的にKogoj海綿状膿疱が確認できたことからHallopeau稽留性肢端皮膚炎と診断することができた。エトレチナート20mg/日内服で膿疱は速やかに消失し,ほぼ正常な爪甲の再生がみられた。これまでエトレチナート減量や中止で汎発化した既報告例が散見されるため,今後も注意深い経過観察が必要であると考えられた。
著者
板倉 孝信
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.2_285-2_311, 2016 (Released:2019-12-10)
参考文献数
32

本稿は政治・社会史的なアプローチから, 英国の所得税廃止論争の再検討を試みたものである。1815年にナポレオン戦争が終結すると, 翌16年には英国議会で戦時所得税の存廃をめぐる激しい論争が展開された。これに際して, 所得税廃止を要求する大規模な請願運動が行われた結果, 与党トーリーが多数を占める下院で, 政府提出の所得税延長法案は否決された。本稿では, 従来看過されてきた他税種との関連性を重視することで, 先行研究とは異なる角度から所得税廃止論争を分析した。まず筆者は, この論争が所得税延長への反対だけでなく, 対仏戦争中に強化された多くの戦時増税への不満から生じた点に着目した。その上で, 請願運動における言説を分析し, 戦争中から蓄積されてきた納税者の不満が, 終戦後に一挙に表面化する過程を追跡した。さらに筆者は, 所得税廃止を主張する富裕層と麦芽税廃止を主張する中間層以下が, 減税要求に関して緊密に連携した点に注目した。その上で, 以前は別々に展開されてきた両者の請願運動が融合したため, 減税要求が激化したことを指摘した。