著者
高野 吉郎 大島 勇人 前田 健康 馬場 麻人 坂本 裕次郎 寺島 達夫 花泉 好訓
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

口腔領域における抗原提示細胞ネットワークの全容を解明するための一連の研究の一環として、ラット切歯、臼歯、ヒト永久歯および乳歯を用いて、以下に示す項目について検討を行った。1.抗原提示細胞ネットワーク:マクロファージを含む抗原提示細胞ネットワークをMHC class II抗原に対する免疫組織化学と、ACPaseの酵素組織化学の二重染色法、ならびに免疫電顕法により精査した。歯根膜と歯髄で、樹状細胞郡とマクロファージ郡の2郡に大別し、両者の分布パターンの異同を大筋で明らかにした。幼若な個体では歯髄、歯根膜ともに樹状細胞は少数で、成長に伴って増加した。ラット臼歯歯根膜では樹状細胞と破骨細胞の棲み分けが確認され、歯髄では樹状細胞が頻繁に象牙細管に細胞突起を刺入していることが確認された。2.窩洞形成刺激が歯髄樹状細胞に与える影響:従来看過されていた窩洞形成後の樹状細胞の早期反応の詳細を明らかにした。窩洞形成直後から多数の樹状細胞が象牙細胞の傷害野へ集積し、修復象牙質の形成開始期まで溜まってダイナミックな動態を示すことが確認され、樹状細胞が外来抗原刺激の感受に加えて、歯髄修復に何らかの関与をしている可能性が示唆された。3.抗原提示細胞と破骨細胞の前駆細胞判別の試み:歯槽骨の骨形成野と骨吸収野が歯根の近遠心で明瞭に区別されるラット臼歯歯根膜では、同じ骨髄単球系細胞である樹状細胞と破骨細胞がやはり明瞭な棲み分けをしていることが確認された。そこで矯正的に骨の吸収と添加の方向を変化させ、樹状細胞と破骨細胞の局在性を変化させることで、in situでの両細胞の分化を誘導し前駆細胞の異同を検討した。4.ヒト乳歯歯髄の樹状細胞:健常、歯根吸収期、歯冠吸収期の乳歯歯髄に多数の樹状細胞の存在を確認した。樹状細胞はヒト永久歯歯髄やラット臼歯と同じく象牙細管に突起を刺入するものが多く、特に乳歯では歯髄側の象牙質吸収野に見られるセメント質様組織の形成との関係が伺われた。当初計画した歯髄樹状細胞の所属リンパ節への移動に関する細胞化学的検討と樹状細胞の抗原物質処理経路の免疫細胞化学的検討については、今後の検討課題とした。
著者
山岡 道男 大城 ジョージ 片桐 庸夫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1925年に本格的な国際的非政府組織(INGO)として誕生した太平洋問題調査会(IPR)は、その後に創設されたPBEC、PAFTAD、PECC、ASEAN、APECの先駆的組織として位置づけることができる。本研究の目的は、IPRの歴史性と今日的意義を考察することにより、今日のINGOとの連続的視点から今後のアジア太平洋地域における地域主義発展の可能性や方向性、問題点を探ることにあった。当該研究期間において、本研究ではハワイ・アメリカ本土・カナダ・イギリス・オーストラリア・ニュージーランドに関するIPR関係資料を積極的に蒐集することによって、IPR国際会議(通称:太平洋会議)の実態を多面的に理解すること、これまで未知の部分が多かったIPR国際事務局・イギリス・オーストラリア・ニュージーランドの各IPR支部の動向を把握することに対してかなり接近できた。すなわち、IPRの歴史性の考察に関して多くの成果を得ることができた。IPRはアジア太平洋地域に利害を有する国家・地域の多くの有力な民間人たちの集合体である。それゆえに、IPR関係資料の総量の多大さと所蔵機関の広範さによって、その歴史性の考察が十分に達成できたと判断することはできず、IPRの今日的意味合いの定義づけは、近い将来への課題として残されよう。けれども、すでにASEAN、APECに関する資料蒐集の緒についている。今後、本研究は、課題の達成のためにIPRの歴史性と今日性、そしてアジア太平洋地域の将来性の考察を並行して進めていかなければならない。
著者
松本 透 水谷 長志 尾崎 正明 市川 政憲 田中 淳 中林 和雄
出版者
独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本年度は、平成11-12年度の調査を引き継ぎ、主に以下の調査・研究を行った。1)ドイツを代表する日本美術研究家であるイルムトラウト・シャールシュミット=リヒター氏を招聘し、平成10-11年に、同女史をゲスト・キユレーターとして当館ほかの協力のもとにドイツ2都市で開催された「もう一つの近代-日本の絵画1910-1970」展の反響や受容について報告を受け、今後の海外における近代日本美術の紹介のあり方について協議するとともに、当館が開催した「未完の世紀-20世紀美術がのこすもの」展等について意見交換を行った。また、別途来日した国立エルミタージュ美術館アジア部アレクセイ・ボゴリューボフ氏(日本美術担当学芸員)を招いて研究会を開き、ロシアにおける日本美術研究の現状・態勢について口頭発表いただき、意見交換を行った。2)BHA(Bibliography of History of Art}などの文献検索年鑑誌、『東亜美術史』(独)、Japon Pluriel(仏)をはじめとする学界報、および前年度までに収集した単行書、学位論文、展覧会図録等について目録化のための入力を引きつづき行った。3)研究成果報告書の作成を行った。
著者
キヤンベル ニツク 定延 利之 柏岡 秀紀
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究のはじめに「対話構造」、「アクティブ・リスニング」を主なテーマとして、招待講演や国内および国際会議での発表を多く行った。本プロジェクトにより、新たな技術を得てはいないが、自然音声対話に関しての合成と認識手法に関して理解を深めることが可能となった。また本研究はEUのプロジェクトであるSocial Signal Processingに影響を及ぼした。さらに大規模マルチモーダルコーパスを数カ国の大学と協力して収録し、ウェブページhttp://www.speech-data.jp/nick/mmx/d64.htmlにそのデータベースを掲載した。最後に本研究で開発された画像処理モジュール、音声処理モジュールを含み、簡単な会話が可能なロボット"Herme"を完成させた。"Herme"は現在アイルランドに展示されており、ロボットとの対話音声コーパスの収録を行っている。
著者
今中 哲二 川野 徳幸 木村 真三 七澤 潔 鈴木 真奈美 MALKO Mikhail TYKHYY Volodymyr SHINKAREV Sergey STRELTSOV Dmitri
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

旧ソ連での原子力開発にともなって生じたさまざまな放射能災害について、現地フィールド調査、関係者面談調査、文献調査、関連コンファレンス参加といった方法で実態解明に取り組んだ。具体的には、セミパラチンスク核実験場の放射能汚染、チェルノブイリ原発事故による放射能汚染、マヤック原爆コンビナートからの放射能汚染、原子力潜水艦事故にともなう乗組員被曝といった放射能災害について調査し、その結果を論文にまとめ学術誌に投稿するとともにホームページに掲載した。
著者
今村 文彦 高橋 智幸 箕浦 幸治
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、地滑り津波の発生機構の解明および解析手法の確立を目的とし、非地震性津波の発生する可能性のある地域を評価する手法を提案することを目指している。今年は、現地調査、水理実験、数値モデルの開発を行ったので、異化に実績を報告する。まず、現地調査の対象地域は地中海沿岸であり、ここでは非地震性津波の多くがエーゲ海を中心とし歴史的なイベントが多い。昨年の1999年トルコ・イズミットおよびマーマラ海での調査に引き続き、トルコ共和国エーゲ海沿岸での調査を実施した。ダラマンにおいては、津波の堆積物を発見し、3層構造、各層の中にも2から3の異なる構造を持つことが分かった。これは、地震による液状化、津波の数波の来襲を示唆している。その他の地域では、津波による堆積物を確認することは出来なかった。次に地滑り津波発生モデルの基礎検討として、地滑りが流下し水表面に突入し、津波を発生する状況の水理実験も実施し、既存のモデルとの比較を継続して実施した。斜面角度、底面粗度、乾湿状態などを変化させ、土石流の流下状況と津波の発生過程を観測し、モデル化を行った。実験で明らかになった点として、押し波に続く引き波の存在があり、これは土砂の先端波形勾配に最も関係していることが分かった。さらに2層流のモデルの適用性を検討し、抵抗のモデル化(底面摩擦、拡散項、界面抵抗)をさらに改良した。最後に移動床の水理実験も同時に実施しており、陸上部に堆積する土砂のトラップ条件と水理量との比較検討を行った。津波の遡上後、引き波で砂が戻る前に、トラップ装置を落下させ、砂の移動がないように工夫し、陸上部において、詳細に体積量を測定することが出来た。流速の積分値と堆積量がもっとも関係あることが分かった。
著者
松尾 和枝 喜多 悦子 酒井 康江 佐藤 珠美 小林 益江
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

昨年の調査で得られた『雪の季節の出産が大変である』この住民の声を踏まえて、雪の季節の出産を避ける。また出産時、救急車で運ばれなければならない状況を早期に発見し、対処方法を検討する。この2つの目的のために、「予防と早期発見」が必要であることを住民達自身が気づくように、健康学習会と意見交換会を行った。女性集団、男性集団をそれぞれに集めて、日本から持参したマギーエプロンを用いて、出血や分娩の経過に異状をもたらす妊娠中の母体の状態を視覚的に示した。その体内で起きている異常を視覚的に理解すると、住民達は、早期発見の必要性と検診の必要性を理解することができた。現地ナース、助産師が健診受診による早期発見対処の可能性について補足説明をした。助産師は、パクリット村の方言を加えたペルペル語でアズロのマタニティ病院での制度、システム、経費について説明を加えた。最初は、雪の季節を避けた計画妊娠について、神のみが知ることと、全く聞く耳を持たなかった年配の女性達も、助産師の説明で理解をした。また、男性たちも雪の季節に妻や子を救急車で搬送をすることの負担や、その結果、娘を失った辛く悲しい経験を共有し、今回の健康教育内容を家族や地域に広めていくことを約束した。今回の健康学習会は、バクリット村住民の約20数名に伝えたに過ぎない。村の住民に妊娠出産についての正しい情報提供と、その正しい知識に基づく適切な保健行動の形成については、今後も継続的な啓蒙普及活動が必要であると考える。今後は、B村のナースとデレゲションの助産師と継続的な連携を持ちながら、活動の定着、妊婦・乳幼児死亡ゼロの村を目指した住民の意識・行動の変容やスタッフの活動の評価も行って行きたい。今回の調査活動並びに健康学習会の一連の過程を、現地看護職に紹介し事例検討を行なった。彼らは、病院で患者を待っていたことを反省し、医療職が現地に出向いて地域の問題に気づき、住民と共に健康問題の改善に努力するアウトリーチの活動の必要性に気付いた。
著者
益田 実 齋藤 嘉臣 橋口 豊 青野 利彦 三宅 康之 妹尾 哲志 小川 浩之 三須 拓也 山本 健
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

従来の冷戦史研究では、冷戦期国際関係上の事象の「どこまでが冷戦でありどこからが冷戦ではないのか」という点につき厳密な検証が不十分であった。それに対し本研究では、「冷戦」と「非冷戦」の境界を明確にし、「冷戦が20世紀後半の国際関係の中でどこまで支配的事象であったのか」を検討し、より厳密な冷戦史・冷戦観を確立することを目的に、冷戦体制が確立した50年代半ばから公文書類の利用が可能な70年代後半までを対象とし、冷戦との関連性に応じて8つの事象を三分類し、関係諸国公文書類を一次史料として「冷戦」と「非冷戦」の境界を実証的に分析した。
著者
周 立波 清水 淳 尾嶌 裕隆 山本 武幸 江田 弘 神谷 純生 岩瀬 久雄 山下 輝樹 田代 芳章 田 業氷
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は,超高速光通信用可変分散補償器のコア要素である単結晶Siエタロンの加工技術を確立することを目的に,独自に開発したSiと化学反応するCMG加工技術を用いて,大口径Siウエハを高精度・高品位に加工できるOne-stop加工システムを開発し,CMG砥石およびプロセスの最適化を行い,固定砥粒加工だけでGBIR<0.3μm,加工変質層のない15μmの極薄Siウエハを実現した.
著者
池井 寧 山下 利之 茅原 拓朗 上岡 玲子 上岡 玲子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,人間の記憶力強化の新しい手法として,空間情報にかかわる人間の記憶特性を利用した容量拡大の方法論を構築することである.本手法の特徴は,携帯型コンピュータ等を用いて,場所(空間)やモノの画像と記憶掛けくぎ画像の素早い合成操作を行わせることだけで記憶を高めうることである.携帯電話を含む小型コンピュータを用いた複数の実験で,短い制限時間の記憶課題において,本手法を用いない場合に比較して著しい再生率の向上を達成しうることが実証された.
著者
弦間 洋 小松 春喜 伊東 卓爾 中野 幹夫 近藤 悟
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

暖地での高品質果実生産のための指針を得る目的で、果皮着色機構、成熟制御機構並びに分裂果等の障害発生機構の解明を行い、一定の成果が得られた。すなわち、リンゴ及びブドウ果実のアントシアニン生成経路の詳細な調査を基に、暖地産果実の色素発現生理の一部を解明することができた。例えば、ブドウ'巨峰'の場合、適地である長野産はアントシアニン含量が高く、暖地産のものは低含量であったが、熊本産はプロアントシニンやフラポノール含量が高く、前駆体のフラバノノールからアントシアニンに至る経路が高温によって阻害され、一方、和歌山、広島産ではこれらの含量が低く、フラパノノール合成以前の過程で阻害された可能性が推察された。ジャスモン酸アナログのn-プロピルジハイドロジャスモン酸(PDJ)とABA混用処理をベレゾーン以前に行うと、不適環境下での着色改善に効果があった。暖地リンゴの着色に及ぼす環境要因について、紫外線(UV)吸収及び透過フィルムで被袋し、さらに果実温を調節して検討したところ、低温(外気温より3〜4℃低い)によってアントシアニン畜積が認められ、内生ABA含量も増加する傾向にあった。しかし、UVの影響については明らかにし得なかった。リンゴ品種には貯蔵中に果皮に脂発生するものがあり、'つがる'果実で検討したところ暖地産(和歌山、熊本、広島)は'ふじ'同様着色は劣るが、適地産(秋田)に比べ脂上がりが少ないことが認められた。果実成熟にABAが関与することがオウトウ及びブドウ'ピオーネ'における消長から伺えた。すなわち、ブドウでは着色期前にs-ABAのピークが観察され、着色に勝る有核果で明らかに高い含量であった。また、種子で生産されたs-ABAは果皮ABA濃度を上昇させるが、t-ABAへの代謝はないことを明らかにした。モモの着色機構についても、無袋果が有袋果に着色が勝ることから直光型であることを認めた。さらに裂果障害を人為的に再現するため、葉の水ポテンシャルで-3.0MPa程度の乾燥処理を施したが裂果は起こらなかったものの、糖度が向上すること、フェノールの蓄積があることなどを認めた。これらの知見は暖地における品質改善への指針として利用できる。
著者
勝田 茂 鰺坂 隆一 大森 一伸 奥本 正 久野 譜也
出版者
東亜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、1999年に1回目の測定を行った超高齢エリートアスリートに対し、2001、2002及び2003年と測定を継続し、身体活動能力はどこまで維持できるかを検証することを目的として実施した。被験者は全国各種マスターズ大会や世界ベテランズ大会等で活躍している80歳以上(一部女性は70代を含む)の超高齢エリートアスリート33名(男性18名、女性15名)及びコントロール31名(男性9名、女性22名)、合計64名であった。測定項目は全身持久力、等速性下肢筋力、筋横断面積、骨密度、文部省新体力テストおよびライフスタイルに関する調査であった。その結果、この5年間で、文部省新体力テスト(高齢者用)においては、男性は筋力・柔軟性敏捷性は10%以内の低下率であったが、歩行能力は-20%以上、バランス能(開眼片足立ち)は-50%以上と最も高い低下率を示した。女性も同様の傾向であったが、低下率は男惟よりも小さく体力がよく保たれていた。等速性筋力では、男女とも高速(180deg/sec)における膝関節屈曲筋力の低下が著明で、これは筋横断面積において大腿四頭筋よりも屈筋であるハムストリングの低下率が大きいことと符合していた。VO2maxは20-25ml/kg/minで、5年間で約-20%を示し,男女とも同様の傾向を示した。骨密度の減少は数%に止まった。また、調査から多くのシニアエリートアスリートは、80歳代でも週2-3回、1回1-2時間の練習またはトレーニングを行い、年間数回の国内・国際大会に出場し、常に積極的に前向きに生きている様子が伺えた。これらの被験者の中には50歳代・60歳代になってからスポーツを始めた者も多く、高齢化社会にあって「スポーツも生きがいに足るものである」こと示す、よい参考例になるものであると考えらる。
著者
金坂 清則 山田 誠 新谷 英治 勝田 茂 坂本 勉 天野 太郎 小方 登 秋山 元秀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、19世紀の世界をリードした西欧の中でもとりわけ重要だった大英帝国の人々が行った旅や探険とその記録としての旅行記について、アジアに関するものに絞り、歴史地理学的観点を主軸に据えつつ、歴史学者や言語学者の参画も得て多面的に研究し、そのことを通して、未開拓のこの分野の研究の新たな地平を切り開く一歩にした。また、その成果を地理学のみならず歴史学や文学の世界にも提示して学問分野の枠組みを越えることの有効性を具体的に提示し、かつそれを一般社会にも還元することを試みた。このため、I英国人旅行家の旅と旅行記に関する研究、II英国人の旅と旅行記に関するフィールドワーク的研究、III旅のルートの地図・衛星画像上での復原、IV19世紀のアジアを描く英国人の旅行記文献目録編纂という枠組みで研究を進めた。Iでは、このような研究の出発点となるテキストの翻訳に力点を置く研究と、それ以外の理論的研究に分け、前者については最も重要かつ代表的な作品と目されるJourneys in Persia and Kurdistanについてそれを行い、後者については、最重要人物であるイザベラ・バードやその他の人々の日本・ペルシャ・チベット・シベリアへの旅と旅行記を対象に研究した。IIについては、イザベラ・バードの第IV期の作品であるJourneys in Persia and Kurdistanと、第V期の作品であるKorea & Her NeighboursおよびThe Yangtze Valley and Beyondを対象とし、このような研究が不可欠であり、旅行記の新しい読み方になることを明示した。またツイン・タイム・トラベル(Twin Time Travel)という新しい旅の形の重要性を提示し、社会的関心を惹起した。IIIでは縮尺10万分の1という従来例のない精度でバードの揚子江流域の旅のルートを復原すると共に、この種の研究に衛星画像の分析を生かすことができる可能性を西アジアについて示した。また今後の研究に必須の財産となる目録を編纂した(IV)。
著者
久保田 滋 伊藤 美登里 樋口 直人 矢部 拓也 松谷 満 成 元哲
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

研究期間全体を通じて、申請書に記載した知事選や総選挙に関するサーベイ調査に加えて聞き取り調査も実施し、以下のようなデータが得られた。(1)投票行動に関するデータ。徳島、高知(2004年)、東京(2005年)、長野・滋賀(2006年)、東京(2007年)。(2)政治に関わる行為者に対する聞き取り。徳島(150件)、滋賀(40件)、高知・長野(各10件)。こうしたデータの解析のうち、徳島調査については成果を刊行し、他の都県については予備的な分析を発表し本格的な解析に着手するところである。そうした段階で当初の仮説の当否とその後の発展は、以下のとおりである。(1)政治的亀裂構造の再編に伴い、テクノクラシー-底辺民主主義-ポピュリズムという3つの供給様式が生じるという仮説は、調査地以外の宮崎・大阪といった事例をみても妥当かつ有効であることが検証された。(2)新たな政治的亀裂として院内-院外があるという見通しを得られたため、それを徳島の事例で検証したところ有効であることが確認できた。すなわち、院内=保革問わずすべての既成勢力は、既得権益に関わる争点が生じたときに対応できず、院外=既成勢力とは関係の薄い一般有権者の代弁者(住民運動や知事個人など)が現れたときに対抗しえない。(3)(2)の結果として、議会=政党を迂回した政治的意思決定がなされる「中抜きの構造」がもたらされる。(1)で述べた3つの新たな供給様式は中抜きの構造に親和的であるが、テクノクラシーが地方自治の脱政治化を目的とするのに対し、底辺民主主義とポピュリズムは再政治家をもたらす。このうち底辺民主主義は強い正統性を持つが、決定単位を分散化することで決定コストの上昇をもたらす点で、より効率の良いテクノクラシーに敗北することが、徳島調査の結論となる。
著者
水口 仁 千住 孝俊
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

「酸化物半導体の熱励起を利用した完全分解」に関して、以下に示す4項目の検討を行った。1.ディーゼル排気ガスに含まれるトルエン、ベンゼン、黒色粒状物質(PM)の完全分解。2.各種の酸化チタンのキャラクタリゼーションと最適酸化チタンの探索。3."酸素過剰下における完全分解"から発想を転換し、"酸素欠乏状態"でメタノールならびにメタンの部分分解による水素生成を達成。4.VOC等への応用を考慮すると、酸化物半導体の支持体への担持が要素技術となるので、粉体を電気泳動電着法により発熱体への担持する手法、ならびにアルミナボール上にチタンやスズが被覆された金属ボールの直接酸化で担持する手法を確立した。項目1のディーゼル排気ガスの完全分解はディーゼルエンジン対策のみならず、一般の有害ガス、悪臭等の浄化に極めて重要な技術となる。我々は流動床タイプの分解システムを使って、排気ガスの成分であるトルエン、ベンゼンの完全分解、ならびにPMの完全分解を達成した。この研究成果を実用化に結びつけるには、現行の粉体システムから粉体を支持体へ担持する方法が要素技術となると考え、項目4の担持方法の検討に入った。項目2のスクリーニングで選び出した最適酸化チタン(ST-01:石原産業(株))を泳動電着法でNi-Cr線のような発熱体に直接担持することに成功した。この担持法の優れた点は酸化チタンの熱励起に必要な発熱体がシステムに内蔵されていることである。さらに、最適な酸化チタンの特性を損なうことなく担持出来ることも大きな特徴である。また、TiあるいはSnを被覆したアルミナボールの直接酸化のメリットは、酸化物半導体層を簡便な手法で調製できることである。更なるメリットは本ボールを最蜜充填で配置しても常に26%の空隙率が確保でき、目詰まり等の心配がないことである。本研究で検討した担持化の手法は項目2で述べたメタノールやメタンの部分分解により水素を生成する際のシステムにも適用することができる。
著者
伊藤 守 杉原 名穂子 松井 克浩 渡辺 登 北山 雅昭 北澤 裕 大石 裕 中村 潔
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究から、住民一人ひとりの主体的参加と民主的でオープンな討議を通じた巻町「住民投票」が偶発的な、突発的な「出来事」ではない、ということが明らかになった。巻町の行政が長年原発建設計画を積極的に受け止めて支持し、不安を抱えながら町民も一定の期待を抱いた背景に、60年代から70年代にかけて形成された巻町特有の社会経済的構造が存在した。「住民投票」という自己決定のプロセスが実現できた背景には、この社会経済的構造の漸進的な変容がある。第1に、公共投資依存の経済、ならびに外部資本導入による大規模開発型の経済そのものが行き詰まる一方で、町民の間に自らの地域の特徴を生かした内発的発展、維持可能な発展をめざす意識と実践が徐々にではあれ生まれてきた。第2に、80年以降に移住してきた社会層が区会や集落の枠組みと折り合いをつけながらも、これまでよりもより積極的で主体的に自己主張する層として巻町に根付いたことである。「自然」「伝統」「育児と福祉」「安全」をキーワードとした従来の関係を超え出る新たなネットワークと活動が生まれ、その活動を通じて上記の内発的発展、維持可能な発展をめざす経済的活動を支える広範な意識と態度が生まれたのである。こうしだ歴史的変容が、町民に旧来の意思決定システムに対する不満と批判の意識を抱かせ、自らの意思表明の場としての「住民投票」を可能にしたといえる。
著者
服部 裕幸 美濃 正 大沢 秀介 横山 輝雄 戸田山 和久 柴田 正良
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

われわれはコネクショニズムと古典的計算主義の対比を行ないつつ、コネクショニズムの哲学的意味の解明を行なった。美濃は、ホーガン&ティーンソンのアイディアを援用し、古典的計算主義を超えつつも、いくつかの点で古典的計算主義と前提を共有する立場の可能性を模索した。服部と金子はコネクショニズムにおける表象概念(すなわち分散表象)がはたして「表象」と呼ぶに値するかということを研究し、その有効性の度合を明らかにした。金子はどちらかといえば、分散表象を肯定的に評価し、服部は否定的に評価しているので、この点についてはさらに具体的な事例に即した研究が必要であることが明らかとなった。柴田と柏端は、「等効力性」議論を検討することを通じて、「素朴心理学」的説明による人間の行為の説明が真ではないとする主張の意義を研究し、柏端は、コネクショニズムが素朴心理学の消滅よりはむしろその補強に役立ついう評価をするに至った。他方、柴田は、条件つきではあるものの、素朴心理学は科学的心理学を取り込んだ形で生き残るか、道具主義的な意味で残るであろう、と結論するに至った。戸田山と横山はコネクショニズムが認知の新しい理論であると言われるときに正確には何が言われているのかということを研究した。特に横山は、コネクショニズムを科学についてのより広いパースペクティヴから見なければならないと結論した。大沢は、古典的計算主義における古典的表象のみならずコネクショニズムにおける分散表象もともにある種の限界をもつと論じ、それに代えて新たに像的表象の概念を提案し、そこでの論理を具体的に提案した。しかし、この点はまだ十分に展開しきれてはいないので、今後も引き続き研究する必要のあることが判明した。
著者
山木 昭平 金山 喜則 山田 邦夫
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

インベルターゼ遺伝子の発現調節と肥大成長に対する役割を、ニホンナシ果実成長とバラ花弁の肥大成長によって検討した。(1)ニホンナシ果実より2つの液胞型インベルターゼの全長cDNA(PsV-AIV1,PsV-AIV2)をクローニングした。PsV-AIV1は細胞分裂の盛んな初期成長に関与し、PsV-AIV2は糖集積を伴う細胞肥大成長に強く関与した。(2)バラ花弁の肥大成長は、酸性インベルターゼ遺伝子の発現増加に伴う活性上昇により、スクロースがヘキソースに変換し、大きな膨圧を形成することによって生じる。そしてこの活性上昇はオーキシンによって引き起こされた。ソルビトール脱水素酵素遺伝子の発現調節とソルビトールの蓄積についてイチゴ果実を用いて検討した。(1)イチゴ果実のソルビトール脱水素酵素(NAD-SDH)の全長cDNA(FaSDH)をクローニングし、その活性も検知した。しかし、ソルビトールー6ーリン酸脱水素酵素遺伝子は存在したが、タンパク質と活性を検知できなかった。そしてNAD-SDH活性のキネティックスから、フルクトースの還元反応によってソルビトールが生成されることを明らかにした。(2)NAD-SDH活性はフルクトース、ソルビトール、オーキシンによって促進された。しかしmRNA量の大きな変化はなかった。(3)NAD-SDHのmRNAはイントロンを含んだpre-mature mRNAとmature mRNAを含んでおり、フルクトース、ソルビトール、オーキシンによる活性促進は転写後のスプライシング速度を促進することによって生じた。以上のように、インベルターゼとソルビトール脱水素酵素はバラ科植物の肥大成長、糖集積に密接に関わり、それらの基質や植物ホルモンによって発現が調節されていることを明らかにした。
著者
首藤 伸夫 米地 文夫 佐藤 利明 豊島 正幸 細谷 昂 元田 良孝
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1.終戦直後の開拓事業から展開してきた岩手山麓の農業は販売農家率が高く、後継者の同居率が高い。当該地帯は、被災後にも農業再建を目指す潜在力が高いと判断された。2.岩手山の約6000年前の噴火と、磐梯山1888年噴火は極めて類似しており、磐梯山での住民の対応記録の分析で学んだことは、岩手山で災害が生起した際の避難行動のために、役立つ。3.住民の郵送調査と面接調査、防災マップの収集と分析、行政のヒアリング等を行い、高齢者の避難や冬季の避難の対策、防災マップのノウハウの蓄積が重要であることを示した。4.火山活動情報が岩手山周辺の宿泊施設等への入り込み数に与える影響の数量分析、宿泊施設への聞き取り調査、雲仙普賢岳に事例を比較した総合的な考察を行った。5.災害の発生予測、被害緩和と訓練との関係の認知、予想被害の深刻さの認知、地域社会との関係の認知、避難訓練の参加コストの見積もり等が、住民の防災への対応に影響することを示した。6.災害時の通信に関しては、有効な方法をすべて調査し無線LANの優位性を示した。次に無線LANベースの情報ネットワークを構築し、その上でインターネットを利用する安否情報システムを開発した。さらに双方向ビデオ通信システムを開発し、実験で有効性を確認した。7.社会福祉分野における危機管理として、住民への直接的情報伝達におけるユニバーサルデザインの配慮が求められる。また、災害時の情報伝達システムには、ケアマネジメントとの連動、ニーズ変化等動的情報への対応、サポートネットワーク変容への視点が重要である。8.被災者の医療・看護体制に関しては、被災が予想される地域住民の健康状況及び防災調査の結果に基づき、災害弱者の避難方法、治療継続の保証を確保することに重点をおいて対策を実施した。弱者救援の組織化と慢性疾患患者の自己管理の情報提供である。
著者
赤江 剛夫 諸泉 利嗣 守田 秀則 石黒 宗秀 濱田 浩正 濱田 浩正
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

(1)インド洋津波による農地海水被曝事例を調査した。衛星画像と地形情報を用いて被害域を推定する方法を提案した。(2)現地除塩枠試験により、海水被曝地の除塩方法として湛水リーチング法が最も効果的であることを見出した。(3)湛水リーチングによる除塩用水量を評価する除塩特性指標を提案し、その有用性をカラム実験と数値シミュレーションで確認した。(4)除塩特性指標を対象地域にマッピングし、人為的な除塩必要性を判定した。(5)沿岸低平農地の除塩のための最適用水配分の策定法を開発した。