著者
一戸 猛志
出版者
東京理科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

【目的】高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)のヒトでの感染がアジアを中心に増加し高い致死率を示しており、それらに対応できる交叉防御能のあるワクチンの開発が急務である。我々は2005/2006シーズンのインフルエンザ三価HAワクチンの経鼻接種によるH5N1ウイルスに対する交叉防御を調べる事を目的とした。【材料と方法】本邦で認可されている三価インフルエンザHAワクチンをBALB/cマウスに経鼻接種及び皮下接種した。アジュバントとして合成二本鎖RNAであるpoly(I):poly(C_<12>U)(Ampligen[○!R])を用いた。ワクチン1μgをアジュバントと共にマウスへ3週間隔で3度経鼻又は皮下接種した。接種2週間後の血清中、鼻腔洗浄液中のウイルス特異的な抗体価をELISAで測定した。さらにワクチン接種2週間後に強毒H5N1株を1,000PFU経鼻感染させ(2μl/片鼻)、感染3日後の鼻腔洗浄液中のウイルス価をプラークアッセイ法にて測定し、マウスの生存率を14日間観察した。【結果と考察】皮下接種群ではワクチン特異的な血液中のIgG抗体応答が、経鼻ワクチン接種群ではワクチン特異的な血清中のIgG、鼻腔洗浄液中のIgA抗体応答が誘導された。高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)による攻撃感染に対し、皮下接種群では防御効果が認められなかったが、経鼻接種群においてウイルス価の減少と生存率の上昇が認められた。アジュバント併用経鼻ワクチン群では、ワクチン株とは異なるH5N1ウイルス感染に対しても感染防御効果が見られた。このことからシーズナルインフルエンザワクチンの経鼻接種によりワクチン株と抗原性が異なる株が流行を起こしても、ある程度の感染防御効果が期待できることが示された。
著者
大黒 徹
出版者
北陸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ファビピラビルは、抗インフルエンザウイルス薬として承認されたが、RNAウイルスに広く効果を示す。そこでファビピラビルとその誘導体で、他のRNAウイルスにどの誘導体が最も効果が高いかを検討した。実験にはポリオウイルスを使用し、薬剤はファビピラビルの6位のフッ素を水素、塩素、臭素に置換した誘導体を用いた。インフルエンザウイルスでは、ファビピラビルより6位を水素置換した誘導体の方が効果が高いという報告があるが、ポリオウイルスでは、ファビピラビルが最も高い抗ウイルス効果を示し、塩素置換、臭素置換体は効果が低かった。ファビピラビルやその誘導体の抗ウイルス効果はウイルスの種類によって異なると考えられる。
著者
櫻井 厚
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本報告書では、食肉産業、なかでも日常的には隠されている屠場労働者、さらに皮革産業では、原皮のなめし業従事者、革の加工のひとつである靴職人や太鼓職人などの生活史インタビューをとおして、かれらのライフストーリーを集積するとともに、それらの資料をもとに人びとのアイデンティティがどこにあるのか、今日の被差別観はどのような変化を見せているのかを、被差別部落内居住者、被差別部落出身だが部落外居住者、さらに非部落出身者など、部落差別と関連づけながら検討したものである。全体は二部構成になっている。第一部は、本書の問題意識と関連させて現在の被差別部落の様相と現状の課題を検討し、それぞれの産業従事者の生活史の具体的な様相と人びとがかかえる困難をあきらかにする論文から構成されている。第二部には、(1)屠場(食肉センター)労働者および屠畜関係者の生活史インタビュー・トランスクリプト(書き起こし)と解釈、(2)皮なめし業従業者の生活史インタビュー・トランスクリプトと解釈(3)靴職人の生活史インタビュー・トランスクリプトと解釈、を収録した。それぞれのライフストーリーに基づいた自己アイデンティティと被差別意識のとらえ方は、その方法論的な吟味とともに今後の課題でもあるが、さしあたり、本調査研究をとおしてこの業種に対して確認できたことは次の点である。ひとつは、食肉・皮革産業に対する忌避観を表象する言説は、かつての「ケガレ」意識や「環境問題」言説から、生命尊重や動物愛護に裏打ちされた「教育問題」言説へ移ってきていることである。この最近の変化は、長く食肉文化を謳歌してきた欧米においても動物愛護やベジタリアンの登場とあいまって静かな広がりをみせている。二つめは、「部落産業」と呼ばれるように部落差別の根拠とされていた産業が、被差別のまなざしを向けられる地域と離れることによって職業差別と結びついて発現されるように変化してきたことが、この産業に働く人びとの被差別意識の変化のなかに伺うことができる。
著者
Hanley Sharon 櫻木 範明 伊藤 善也 玉腰 暁子 大島 寿美子 山本 憲志 岸 玲子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

幼児期に身につけた生活習慣は成人期に持ち越され、その内容によってはがんのリスクを高める行動に繋がる。本研究の目的は、学童の健康教育の歴史が長い英国・豪州のがん教育を参考に、小中学生向けの教材を開発する。両国では、効果的な教材の開発の為に保健医療省と教育省が連携している。英国では小児期の肥満が問題となり、保育園から食生活と運動習慣が健康教育に含まれている。気候のよい豪州では、屋外での活動は一般的であるが、皮膚がんのリスクが増加する為、紫外線への曝露を避けるように学校単位で指導される。どちらの国でも、学校単位でのHPV教育が効果的に行われている。現在、英国の教材を日本で使えるよう翻訳を進めている。
著者
佐藤 郁哉 川嶋 太津夫 遠藤 貴宏
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

2017年度は特に、2014年に英国で実施された研究評価事業であるReserach Excellence Framework(REF 2014)を踏まえた制度の改訂点とそれが大学機関の対応行動に与えた影響に焦点をあてて分析を進めた。あわせて、英国の研究評価制度を重要なモデルにしながらも独自の発展を遂げてきた豪州の評価制度である、Excellence in Research for Australia(ERA)を第3の検討対象事例として、聞き取りを資料調査による分析をおこなった。REF 2014に関する第三者委員会による検討の結果は、2016年7月にいわゆる「Stern Review」として公表され、その結果を踏まえた次回のREF(REF 2021)における評価制度の大枠は2017年11月に示されることになった。その骨子となる評価対象となる研究者の幅の拡大と1人あたりの業績点数の柔軟化は、いずれも大学側での策略的対応を抑制することを主な目的としていたが、聞き取りや資料調査の結果は、それらの改訂が別種の策略的対応を生み出す可能性を示唆している。豪州のERAについては、英国のREFとは対照的に公的補助金の選択的配分とはほぼ脱連結された評価制度が大学および研究者個人の対応行動ひいては研究の質に与える影響を中心にして検討を進めた。その結果明らかになってきたのは、豪州の場合には、補助金の獲得というよりは、むしろ評価結果が各種大学ランキングへの影響等を介して間接的に授業料収入(とりわけ留学生の授業料)に結びつくという点が大きな意味を持っていることが確認できた。以上の知見は、今後日本で本格的な研究評価がおこなわれる場合の制度設計にとって大きな意味を持つと思われるだけでなく、日英豪の大学の収益モデルについて再考を迫るものだと言える。
著者
藤原 英司
出版者
独立行政法人農業環境技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

核実験等由来の人工放射性核種のうち代表的なものとしてCs-137が挙げられる。日本におけるCs-137降下量は1990年代を通して低水準で推移したが、2000年代に入ると増大し、2002年には北日本や日本海側地域において顕著な降下が認められた。この現象は黄砂飛来と関係があるとみられているが、Cs-137を含む砂塵の起源は不明である。そこで地上気象観測データにもとづいて近年の砂塵発生範囲を推定したところ、2002年には中国北部の草原域において砂塵発生が顕著であったと示された。しかし当該地域について核実験や原子力関連施設の立地に関する情報が存在せず、Cs-137の放出源を特定できなかった。このため現地調査を実施し表土試料を採取してCs-137の分析をおこなった。その結果、草原表土からCs-137が検出され、その放射能濃度は6.5〜83.5mBq/gと高かった。しかし砂漠表土では不検出となり、畑地表土では不検出〜13.4mBq/gと低かった。Cs-137が検出された試料について、さらにSr-90も測定し、これら核種の放射能濃度比を求めたところ、表土のCs/Sr濃度比は草原で8.3±2.0と高く、畑地では3.7±0.8と低くなり、明瞭な傾向が認められた。一方、Cs-137およびSr-90の日本における降下量データから、近年の降下物のCs/Sr比は、Cs-137降下量の多い北日本や日本海側地域において高く、それ以外の地域で低いことが明らかになった。このことから飛来する砂塵のCs/Sr比は高いと認められ、その起源として大陸の草原が考えられた。これまで大陸の草原表土にはグローバルフォールアウトに由来するCs-137が保持されていたが、近年の砂漠化進行とともに砂塵が飛散しやすい状況になったとみられ、この草原におけるCs-137の再浮遊が日本でのCs-137降下量増大の原因として考えられた。
著者
太田 好信 瀬口 典子 辻 康夫 松島 泰勝 池田 光穂 冨山 一郎 加藤 博文 北原 次郎太
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、①(自然人類学と文化人類学との両方を包含する広義の)人類学とこれまで分断されてきた批判的社会運動との間に、公共哲学を媒介として新しい連携を構想、②日本において萌芽的状態にある先住民族研究(Indigenous Studies、Native Studies)という研究領域と海外の先住民族研究との間でのネットワーク形成を促進、③この研究領域を日本の公共空間においても意味のある探究として根付かせるために必要な政治・哲学理論と倫理の構築を目指す。
著者
一柳 廣孝 橋本 順光 金子 毅
出版者
横浜国立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

平成22年度は4回の研究会をおこない、以下の方々の発表について検討した。志村三代子氏「戦後の『透明人間』-恐怖映画とジェンダーをめぐって」、鷲谷花氏「3DCGアニメーションにおける「不気味なもの」-または我々はいかに心配するのを止めてCGを愛する、ようになったか」、越野剛氏「ソ連におけるオカルト・超科学について」、濱野志保氏「写真と流体-ヨーロッパにおけるエネルギー写真と念写」。また、天理市に天宮清氏を訪ね、CBAに関するインタビューをおこなった。さらに雑誌「GORO」におけるオカルト関連記事のデータベースを作成した。今年度は本研究プロジェクトの完成年度にあたり、それまでの活動・研究報告の総括として「現代日本における「オカルト」の浸透と海外への伝播に関する文化研究研究成果報告書」をまとめた。研究会活動報告、本研究プロジェクトメンバーの研究成果などからなる「研究の概要」、「吉永進一氏インタビュー」、「新倉イワオ氏インタビュー」、「天宮清氏インタビュー」、「雑誌「GORO」オカルト関連記事一覧」が、その内容である。吉永氏の記事からは60~70年代におけるオカルト研究史、新倉氏からはテレビメディアにおける心霊シーンの変遷、天宮氏からは、日本におけるUFO研究の変遷とサブカルチャーへの影響関係など、きわめて貴重なお話をうかがうことができ、価値ある研究成果報告書になったと自負している。
著者
福間 将文
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

量子重力理論の新しい定式化として、量子力学の起源をランダムネスに置き、「ランダムネスから時空の幾何が発現する機構」を構築した。具体的には、マルコフ確率過程における遷移の難しさを定量的に表す量として「配位間の距離」という概念を初めて導入し、様々な確率過程からどのような時空が得られるのかを調べた。とくに行列模型の確率過程については、固有値を時空の座標とみなしながら、結合定数を付加的力学変数とする焼き戻しを行うと、拡大された配位空間に、3次相転移点をホライズンとする漸近的反ド・ジッター・ブラックホールの幾何が現れることを示した。
著者
高橋 均 荒 このみ 山本 博之 増田 一夫 遠藤 泰生 足立 信彦 村田 雄二郎 外村 大 森山 工
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

戦後、欧米先進諸国に向けて、開発途上国出身の多くの移民が流入し、かれらを文化的に同化することは困難であったため、同化ではなく統合を通じてホスト社会に適応させようとする≪多文化主義≫の実験が各地で行われた。本研究課題はこのような≪多文化主義≫が国際標準となるような≪包摂レジーム≫に近い将来制度化されるかを問うものである。結論として、(1)≪多文化主義≫の背景である移民のエンパワーメントは交通・通信技術の発達とともになお進行中であり、いまだバックラッシュを引き起こす危険を含む。(2)第一世代はトランスナショナル化し、送出国社会と切れず、ホスト社会への適応のニーズを感じない者が増えている。(3)その反面、第二世代はホスト社会の公立学校での社会化により急速に同化し、親子の役割逆転により移民家族は不安定化する。このために、近い将来国際標準的な≪包摂レジーム≫の制度化が起こる可能性は低い。
著者
高木 潤野
出版者
長野大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

場面緘黙は、話す力があるにも関わらず学校や職場等の社会的状況において話せないことを主たる症状とする。適切な介入により緘黙症状を改善させることが可能であるが、本人の治療への参加が消極的であると介入が困難となる。本研究の仮説として、治療への参加が消極的な場面緘黙当事者は「治療によって緘黙症状を改善させることができる」という期待(自己効力感=セルフ・エフィカシー、SE)が低いのではないかと考えた。そこで、場面緘黙当事者を対象としたセルフ・エフィカシーを高めるための心理教育を試みた。10代~30代の場面緘黙当事者10名(女性7名、男性3名)を対象に、各6回のカウンセリングを行った。初回と最終回を除く2~5回目では、個別のカウンセリングに先立ち「治療によって緘黙症状を改善させることができる」という期待を高めるための心理教育を実施した。各回において、1)治療への参加意欲、2)「緘黙症状を改善させることができる」という特定の課題に特異的な期待(SSE)、3)一般的な個人の行動傾向としての自己効力感(GSE)、4)緘黙症状を自己記入式の質問紙を用いて測定した。初回の参加意欲とSSE(緘黙症状の改善への期待)には相関がみられた。治療により緘黙症状が改善するという期待が高い者ほど、参加意欲が高い傾向があることが示された。一方、初回の参加意欲とGSEには相関がみられなかった。6回の介入を通じて、SSEについては10名中6名に上昇がみられた。GSEについてもわずかな上昇を示した者がいた。緘黙症状については10名中4名が顕著な改善を示し、その他の6名についても改善傾向がみられた。SEと緘黙症状の改善との関係をみると、緘黙症状の改善が大きい者の方がSSE及びGSEの上昇率が高い傾向がみられた。以上の結果から、「治療によって緘黙症状が改善すること」への期待を高める心理教育は有効性がある可能性が示された。
著者
池田 譲
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

鏡に映る自分を認識する能力である「自己認識」は、ヒトを含む一部の大型類人猿とバンドウイルカにのみ認められる高度な知性であり、発達した社会性を背景に進化を通じて獲得されたと考えられている。本研究は、イカ類が発達した神経・感覚系および無脊椎動物最大の脳を有し、かつ、高度な記憶・学習能、発達した社会性をもつことに着目し、イカ類が自己認識を有しているとの発想にたち、水産重要種であるアオリイカを対象に、自己認識と社会性の発達に関わる以下の研究を行った。初めに、自己認識検知のためマークテストを試みた。その結果、アオリイカは視認不能部位にマークが付けられると鏡の前で静止するという行動を示した。次に、アオリイカを隔離飼育し、隔離個体に鏡を提示して自己鏡像に対する行動を観察した。隔離個体は鏡面に対して一定の距離をフリーズする、または鏡に張り付くといった通常では見られない行動を表出した。これらの実験から、本種には自己認識の萌芽があり、それは同種他個体の存在という社会的要因に可逆的に影響を受けることが示唆された。次に、アオリイカ卵を育成し孵化個体を得、孵化後間もなくから孵化後約120日までの個体について、自己鏡映像へのタッチ行動発現の過程を記録した。その結果、アオリイカは孵化直後から鏡に接近して鏡面を滑るように腕先端でかすかに触る行動が見られた。孵化後30日には成体同様に鏡面に対して明確に定位する個体が認められた,成体期におけるタッチ行動に比べるとその頻度は低かった。孵化後50日以降では、タッチ行動を示す個体の数も増え、個体によっては成体期と同レベルの頻度を示すものも見られた。以上の観察から、アオリイカにおける自己鏡映像へのタッチ行動は、孵化直後から認められるものの、それは孵化後の生育に伴いより顕著になっていく過程であり、類人猿における鏡像自己認識と類似する点が認められることが明らかになった。
著者
張 小鋼 玉田 敦子 坂本 貴志 伊東 貴之 川島 慶子 長尾 伸一 橋本 周子 逸見 竜生 隠岐 さや香 小関 武史 染谷 智幸
出版者
金城学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度は18世紀の東アジアの様相を多面的な視点から検討し、その相互比較を行うことを中心とした。そのため韓国18世紀学会に所属する研究者および中国人民大学清史研究所と密接に連絡しつつ国内での研究を進めた。2019年度は二つの学会が下記の通り開催された。前期は国際18世紀学会がイギリスのエジンバラ大学で開催された。そこで、日・韓・中共同セッションの企画・実施によって、18世紀の東アジア諸国の文化、政治、科学、風俗の展開を具体的に検討し、相互比較するとともに、三か国の研究者間の交流を深めつつ、国際的な観点から研究を進めた。その結果。朝鮮王朝、清朝、江戸時代の文化、風俗、政治、学問、文芸の多様な様態と、それらの諸国の18世紀における「社交性」の展開が、それぞれの歴史的文脈の中で明らかとなった。これに参加した研究者によって三国を結ぶ研究ネットワークを構築する方向性を確立した。後期は日本18世紀学会が中部大学で開催された。国際18世紀学会での討議を踏まえて、「ユーラシア近世史」の構想を発展させるべく、西洋、イスラム圏などの思想史的研究を行って、一定の見通しをたてるとともに、今後の研究ネットワークを構築していく作業を行った。秋以後は国際学会で得た成果をもとに、代表者、分担者がそれぞれの担当分野での研究を進め、次年度の国際会議(中国あるいは日本)に向けた準備を行った。またこの過程で、主に中国での18世紀研究とのネットワーク構築が進み、北京と上海という二つの拠点を中心に、韓国、日本との交流を進めることとなった。
著者
真鍋 祐子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本の論壇、学会に一定の地位を占める在日コリアン知識人の「知」の系譜をポストコロニアルの文脈から考察し、彼らがその民族的属性において「独自的」な存在でありながら、その語りが「普遍性」を獲得しうるゆえんを検討した。近年の日韓両国における歴史修正の動きを警戒し、ヘイトスピーチ、あるいはセウォル号事件等の社会問題をめぐって政治参与を試みる流れがある一方、慰安婦問題に対する言論活動が際立ったより若い世代では、当事者性に基づく普遍的価値を希求する姿勢が見出される。それは主に世代間の「独自的普遍」の質的変容によるポストコロニアルの視座の転換と捉えられる。
著者
橋本 鉱市 村澤 昌崇 保田 直美 井本 佳宏 白旗 希実子 丸山 和昭 日下田 岳史 谷村 英洋 荒井 英治郎 石井 美和 高橋 望 高橋 哲 小島 佐恵子 勝野 正章
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

近年、教育課題の複雑化に対し、限られた予算と人員の下に効率的に対応する手法のひとつとして、教育専門業務のアウトソーシング(OS)が模索されている。本研究は、就学前教育、初等中等教育、高等教育の各段階で進むOSの実態と影響を、総合的かつ実証的に分析し、これからの教育専門職のあり方、外部機関との連携における課題、方策を示すことを目的としている。研究計画としては、①国際比較調査:文献調査及び訪問調査を通じ、教育分野における専門業務のOSを促したマクロレベルの要因を解明する。②質的調査:教育機関、教育専門職、及びアウトソーシングを担う外部組織への聴き取り調査を通じ、OSが教育専門職の業務に与える影響や、必要な方策について明らかにする。③量的調査:質問紙調査及びWeb アンケートを通じ、我が国の教育分野における専門業務のOSの実態と潜在的な需要を把握する。上記3課題に関する初年度の研究実績としては、以下のとおりである。①英国への訪問調査を実施し、マンチェスター大学の研究者、全英教員組合の専門職員、民間教員研修プロバイダーから、教員研修民営化の現状と課題についての詳細な情報供与を受けるとともに、 それぞれの視点・立場での認識を聴き取った。民間教員研修の質保証という課題のほか、教職の専門職性の変容との関係についても示唆が得られた。②初中等レベルでは、学校における働き方改革に関連する基礎的作業として分業化、協業化の精査を進め、東北地方のA県ならびにB市の教育委員会関係者とラポールを形成した。また高等教育レベルでは、都下5大学の教職員に対する聞き取り調査を行った。③初中等レベルでは、小学校・中学校・高校の教員に対し教育業務のOSに対する意識に関する質問紙調査のたたき台を作成し、調査対象地域の選定を行った。高等教育レベルでは、大学教育のOSの現状を明らかにするための質問紙調査の設計を進めた。
著者
三代川 寛子
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

19世紀末から20世紀初頭にかけての時期、エジプトのコプト・キリスト教徒が主体となって推進された文化ナショナリズムの思想、運動を3つの事例から検討した。(1)コプト暦の元日祭の復興運動、(2)コプト語の復興運動、(3)コプト博物館の設立とその国有化がその3事例であり、それぞれの事例から、コプト・キリスト教徒の間では、宗教的アイデンティティがエジプト民族としてのアイデンティティ構築に重要な役割を果たしていたことを明らかにした。
著者
中村 治 古川 彰 鳥越 皓之 松田 素二 西城戸 誠 土屋 雄一郎
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

水害現象を水害文化として長期的で経験論的かつ価値論的な視野からとらえることによって、総体としての日常生活世界の中で、水害被災当事者の生活の視点から捉え直し、生活再建や地域社会の再生のプロセスを環境社会学的に明らかにした。また、文書や写真などの水害記録を発掘し、聞き書きにより経験者の記憶を生活史として再構成しながら、これを災害教育としていかに次世代につなぎ水害文化の継承を図るか、その社会学的手法の開発に取り組んだ。
著者
大和 裕幸 松本 三和夫 小野塚 知二 安達 裕之 橋本 毅彦 鈴木 淳
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

東大総長・海軍技術中将 平賀譲氏の残された40,000点にのぼる資料をディジタル化して公開準備をおこなってきた。本研究ではディジタル化を完了し、東大附属図書館のディジタルライブラリーで公開すること、さらに東京大学などで平賀譲展を開催し、成果を一般に広め、さらにその図録をまとめることにした。その結果、(1)平賀譲文書のディジタルアーカイブを東大図書館に開設した。URLは以下のようである。http://rarebook.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/hiraga/ (2)平賀譲展-高生から東大総長まで-を東京大学駒場キャンパスで平成20年3月から5月にかけて開催し、あわせて講演会も行った。来場者は2,000名を超えた。また、呉市海事歴史科学館で開催された「平賀譲展」にも本研究での成果を反映して協力した。 (3)図録「平賀譲 名軍艦デザイナーの足跡をたどる」を文藝春秋社から刊行した。平賀譲の資料が多くの研究者の目に触れることが出来るようになったが、その意義は大きい。共同研究者は、経済史、社会学、日本史、技術史、造船史、工学と多方面にわたっており、様々な見地から新しい資料に取り組み、今後の研究のポイントと手法について検討する。具体的なテーマとしては、(1)軍艦建造の過程(計画から訓令・進水・竣工まで)から見た設計学への寄与、(2)イギリス製軍艦の建造報告を主とした艦船技術導入・移転の分析、(3)軍艦建造予算(材料費・工費)の推移をめぐる研究の進展、(4)平賀の講義ノートの復刻・解析、などがあげられた。また今後の課題として、(1)書誌情報の追加作業、(2)ポータルサイトの検討とインプリメンテーション、(3)講義ノートのディジタル化、(4)個別研究テーマの検討などが考えられる。
著者
山崎 正勝 雀部 晶 日野川 静枝 管 耕作 道下 敏則 藤村 淳
出版者
東京工業大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1984

1.史料収集:米国立公文書館等より市販されている原爆開発関係資料については、基本的に入手を終えた。主なものは、MED、ハリソン-バンディ、トップ・シークレット各ファイル、AEC関係資料、スチムリン日記などである。またブッシュ・コナント・ファイルの一部は、ゼロックス複写を得た。シカゴ治金研究所、ロスアラモス研究所関係の技術報告書の写しについても、重要資料については入手した。企業関係のものは、入手上の制約のため、デュポン社関係の一部を入手したに止まった。米国以外のものは、上記資料に含まれているものの他に、英国、日本における技術資料の一部を入手した。2.史料分析:爆弾構想の起源とその成立条件は、U、Pu爆弾についてほぼ全面的に明らかにされた。また、これと政策決定との相関についても明確となった。研究開発方式の選択・決定における軍の介入と科学者側との齟齬の問題については、その一部が明らかにされた。研究開発の諸側面については、軍事的要請が技術的変型を生んだ点がとくに注目され、平時では現実しない技術体系が、ウラン電磁分離法、プルトニウム分離における沈澱法、大型ウラン爆弾、大型インプロージョン装置などの採用と開発として、実現化したことが示された。投下目標については、政策決定者レベルでは、43年末まではドイツと日本が並列的に設定され、44年に、ドイツでの原爆開発が未完であることの察知と前後して、対日投下に一元化されたことが明らかにされた。また、投下の事前予測は相当正確になされたものの、その目的が実験と実戦使用における味方人員の安全確保におかれたため、不完全に終ったことが示された。科学者の動員、対応については、科学者がいくつかの階層構造を持つ点から分析が行われた。
著者
正高 信男
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

ヘビの写真をもちいた筆者自身がおこなった最近の視覚探索課題の研究成果を総括した。ヘビの写真をもちいた視覚探索実験はパラダイムとして、安定して再現性がたかい状態で、簡便に被験者の恐怖および不安の水準を計測できるものであることが明らかになった。発達障害のある子どもでは、定型発達の子どもと比べて恐怖の水準がはるかに高いことが明らかになった。