著者
中村 徹 郷 孝子 鳥 云娜 林 一六
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.342-350, 2000-01-31
被引用文献数
16

内蒙古バイインシル草原において24の立地で枠法による群落調査を行い,103種の植物を記録した。そのうち30種は50%以上の調査地点に出現した。それらの種類は,放牧の強さによって群落内での重要度を変化させた。この30種と文献による14種を加え43種を用いて,放牧圧に対する各種の反応を検討した。弱い放牧圧の立地で高い重要度を示す種はAneurolepidium chinense, Stipagrandis, Achnathelum sibiricumであった。これらの種類をタイプIとした。逆に,放牧圧の強い立地で高い重要度を占める種類はCarex Korshinskyi, Cleistogenes squarrosa, Artemisia frigidaなどであった。これらの種類をタイプIIとした。Kochia prostrateやPotentilla bifurcaなど,放牧圧の強さにかかわりなくある程度の量を維持していた種類をタイプIIIとした。それらの群落構成種をもって立地の状態を判定する指数を工夫した。そのために,これらタイプI,II,IIIにそれぞれ4,0.25,1という評点を与え,この評点と各群落構成種の重要度指数の積の合計をもって立地の状態指数(Stand Quality Index:SQI)とした。すなわちSOI=Σ(rl・s)rl:それぞれの種の相対重要度,s:50%以上の出現頻度を持つ種を含む44種のそれぞれの種の評点。この立地状態指数は,1979年から16年間放牧を中止した草原では975,現在放牧を続けている草原で300前後となった。へクタールあたり8頭を越える放牧を行うと,この指数は100以下となった。草原の構成種の生育型組成は,放牧圧が強くなると匍匐型(p型)が増し,放牧圧の弱い立地では分枝型(b型)が増えた。群落の種多様性は,放牧圧が弱い立地では高くなる傾向を示したが,立地の状態指数とは直接関係がみられなかった。
著者
松田 佳久 佐藤 正樹 中村 尚 高橋 正明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

異常気象の力学の問題は複雑であり、様々な側面をもっている。本研究では、この問題を、中高緯度でのロスビー波の振る舞い、熱帯の40日振動、及び熱帯地方と中高緯度の相互作用という観点から捉え、緊密な協力の下にそれぞれの研究を行った。中村らは,東西非一様な基本流中を3次元的に伝播する定常ロスビー波束に伴う活動度フラックスの定式化に初めて成功した.それをブロッキング時に観測された偏差場に適用し,大陸上で冬季形成されるブロッキングが上流側から入射する定常ロスビー波束の「局所的破砕」に伴い増幅する事を確認した.また,等温位面データの解析で,7月にオホーツク海高気圧上空のブロッキングが同様の機構で増幅する事も確認した.松田らはこの解析結果に基づき、東西非一様な基本流中をロスビー波がどのように伝播するかを、数値実験により研究した。計算には、球面上の順圧モデルを用いた。数値実験の結果は、上流側から入射する定常ロスビー波束がジェットの出口付近で停滞し、その振幅が増幅する事を示した。この計算結果は上のデータ解析結果と興味深い対応を示している。高橋らは熱帯の40日振動に関して,年々変動の立場から解析的研究をおこなった.エルニーニョ時の40日振動はノーマルな状態にくらべ,振幅が強化され,また40日にともなうクラスターは熱帯東太平洋まで進むことがわかった.佐藤らは低緯度循環と中緯度循環の相互作用を子午面循環と角運動量輸送の観点から調べた角運動量バランスにより,熱帯の熱源が十分強い時には中緯度の傾圧帯の活動は熱帯の循環に支配される.一方,中緯度から低緯度に及ぼす影響についても,傾圧帯の活動が熱帯の積雲活動に及ぼす効果として現れる.
著者
井上 豪 中村 努 石川 一彦 甲斐 泰 松村 浩由
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

超好熱始原菌Aeropyrum pernix K1株由来のペルオキシレドキシン(Prx)であるThioredoxin Peroxidase(ApTPx)は、チオール依存型のペルオキシダーゼであり、過酸化水素H_2O_2やalkylperoxideを水やアルコールに還元する働きを持つ。ApTPxは、子量20万の10量体蛋白質であり、プロトマー1分子中に3つのシステイン残基(C50,C207,及びC213)を持ち、たとえば、過酸化水素を水に還元する反応を行う。これまでの研究から、ApTPxのアミノ酸配列は1-CysのPrxと相同性が高いのに対し、その反応機構は2-CysのPrxと同様に2つのシステイン残基(C50及びC213)が反応に必須であることが報告されている。本研究課題では、変異体C50S,C20,7S,C213Sの結晶中で過酸化水素と反応させ、中間体構造を低温でトラップしてX線構造解析を行う方法で、ApTPxによるH_2O_2の還元機構の詳細の解明を目指した。その結果、C50SおよびC213SについてX線回折強度データの収集を行い構造精密化中で反応機構に関する知見はまだ得られていないが、C207S変異体からは、Cys50がCys-SHから、Cystein sulfenic acid (Cys-SOH)の状態へと酸化され、S-OH中間体を形成し、配位子数4の硫黄原子(10-S-4)を持つ超原子価構造をとることが判明した(Proceedings of the NattionalAcademy of Sciences USA(PNAS),in press)。
著者
藤井 良知 阿部 敏明 田島 剛 寺嶋 周 目黒 英典 森 淳夫 佐藤 肇 新納 憲司 砂川 慶介 横田 隆夫 秋田 博伸 岩田 敏 佐藤 吉壮 豊永 義清 石原 俊秀 佐野 友昭 中村 弘典 岩井 直一 中村 はるひ 宮津 光伸 渡辺 祐美 久野 邦義 神谷 齊 北村 賢司 庵原 俊昭 桜井 實 東 英一 伊藤 正寛 三河 春樹 久保田 優 百井 亨 細井 進 中戸 秀和 西村 忠史 杉田 久美子 青木 繁幸 高木 道生 小林 陽之助 東野 博彦 木野 稔 小林 裕 春田 恒和 黒木 茂一 大倉 完悦 岡田 隆滋 古川 正強 黒田 泰弘 武田 英二 伊藤 道徳 松田 博 石川 純一 貴田 嘉一 村瀬 光春 倉繁 隆信 森田 秀雄 森澤 豊 浜田 文彦 辻 芳郎 横尾 哲也 林 克敏 冨増 邦夫 木戸 利彦 上原 豊 森 淳子 森 剛一 内田 哲也 大塚 祐一 本廣 孝 半田 祥一 山田 秀二 沖 眞一郎 吉永 陽一郎 荒巻 雅史 織田 慶子 阪田 保隆 加藤 裕久 山下 文雄 今井 昌一 鈴木 和重 岡林 小由理 金子 真也 市川 光太郎 曽田 浩子 清水 透子 長田 陽一 木葉 万里江 石橋 紳作 高橋 耕一 杉山 安見児 三宅 巧 荒木 久昭 垣迫 三夫 前野 泰樹 下飛田 毅 高岸 智也 松隈 義則 平田 知滋 田中 信夫 永山 清高 安岡 盟 林 真夫 天本 正乃 津村 直幹 小野 栄一郎 神薗 慎太郎 中嶋 英輔 永光 信一郎 野正 貴予 松尾 勇作 樋口 恵美 長井 健祐 末吉 圭子 橋本 信男 弓削 健 久保田 薫 川上 晃 渡辺 順子 藤澤 卓爾 西山 亨 岩永 理香子 牛島 高介 山川 良一 山村 純一 富永 薫 臺 俊一 安藤 寛 久田 直樹 藤本 保 元山 浩貴 丸岡 隆之 伊達 是志 杉村 徹 西依 淳 朝木野 由紀 山田 克彦 是松 聖悟 早川 広史 佐々木 宏和 木村 光一 山田 孝
雑誌
The Japanese journal of antibiotics (ISSN:03682781)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.921-941, 1995-07-01
被引用文献数
19
著者
伊藤 ゆり 杉本 知之 中山 富雄 中村 隆 ベルナルド ラシェ ミシェル コールマン
出版者
地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所)
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

地域がん登録資料を用いて、がん患者の治癒割合および非治癒患者の生存時間の中央値を推定し、その時代変化を検討することによりがん医療の評価を行った。1975~2000年において、食道、胆嚢・胆管、肺がんは全期間を通じて治癒割合、生存時間ともに向上し、診断・治療技術の向上が示唆された。一方、肝がんでは治癒割合は向上せず生存時間だけが延長した。また、前立腺がんでは生存時間の延長がなく、治癒割合だけが向上し、過剰診断の可能性が示唆された。
著者
田中 重好 中村 良二 柄沢 行雄
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

「都市は社会的生活の中心的機能の所在地である」という視点から、鈴木栄太郎の都市結節機関説、矢崎武夫の統合機関説などによって、都市が具備する機能が議論されてきた。こうした理論からは、どの地域においても妥当する、中心都市と各地域との序列的な機能分担のあり方が提示される。しかし、弘前の広域市町村圏の地域づくりの調査から導き出された結論は、地方都市の機能は実に「個性的であり」、個性を生かした形で、地方中心都市の機能と整備のあり方を構想して行くべきであるという点にある。したがって、地方都市の整備のあり方を、個性を無視して一律に議論することはできない。地方中心都市の都市機能や都市基盤は基本的に、周辺の各市町村の「地域づくりの志向性」を尊重しながら、整備されるべきである。いいかえれば、各市町村のこれまでの地域づくりの方向性・地域づくりのベクトルを尊重し、各地域の個性を生かしながら、それに連動・共振しうる弘前市の都市づくりがされなければならない。岩手県県南地域の三つの都市、一関市、水沢市、江刺市を事例とした調査からは、中心都市の政策的な判断および条件によって、地方都市の整備方針が異なることを見てきた。三つの都市ごとに、高速交通体系の整備にともなう地域社会の変化の仕方が異なっていた。その差異は、各都市が選択した施策によってもたらされたものである。
著者
西 薫 辻 ひとみ 中村 哲史 山本 明美 飯塚 一
雑誌
皮膚病診療 (ISSN:03877531)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.39-42, 2005-07
被引用文献数
1

出版社版79歳男.脳出血,脳血管性痴呆の既往があった.疥癬治療後,両上肢に無症候性紅色結節が出現した.受診時,両上腕,腋窩,肘内側に直径2cmまでの暗赤色で表面平滑,境界明瞭な結節を認めた.苛性カリ検査は陰性であり,皮膚生検を行った.病理組織学的所見では血管,附属器周囲にリンパ球,組織球様細胞と少数の好酸球を,真皮上層に多数の炎症性細胞浸潤を認めた.免疫染色ではCD3,CD45RO陽性のT細胞とCD20,CD79陽性のB細胞の浸潤を,また,S100陽性細胞の多数浸潤を認めた.post-scabetic nodulesと診断した.ステロイド外用により約半年で略治した.本疾患は疥癬治療薬の無効な反応性病態ととらえられ,疥癬の治療歴のある患者においては念頭に置くべき疾患であると考えられた。
著者
中村 生雄 岡部 隆志 佐藤 宏之 原田 信男 三浦 佑之 六車 由実 田口 洋美 松井 章 永松 敦
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、日本および隣接東アジア地域の狩猟民俗と動物供犠の幅広い事例収集を通じて、西洋近代率会において形成された「供犠」概念の相対化と批判的克服を行ない、東アジアにおける人と自然の対抗・親和の諸関係を明らかにすることを目的とした。言うまでもなく、狩猟と供犠は人が自然にたいして行なう暴力的な介入とその儀礼的な代償行為として人類史に普遍的であるが、その発現形態は環境・生業・宗教の相違にしたがって各様であり、今回はその課題を、北海道の擦文・オホーツク・アイヌ各文化における自然利用の考察、飛騨地方の熊猟の事例研究、沖縄におけるシマクサラシやハマエーグトゥといった動物供犠儀礼の実地調査などのほか、東アジアでの関連諸事例として、台湾・プユマ(卑南)族のハラアバカイ行事(邪気を払う行事)と猿刺し祭、中国雲南省弥勒県イ族の火祭の調査をとおして追求した。その結果明らかになったことは、日本本土においては古代の「供犠の文化」が急速に抑圧されて「供養の文化」に置き換わっていったのにたいして、沖縄および東アジアの諸地域においては一連の祭祀や儀礼のなかに「供犠の文化」の要素と「供養の文化」の要素とが並存したり融合して存在する事例が一般的であることであった。そして後者の理由としては、東アジアにおけるdomesticationのプロセスが西南アジアのそれに比して不徹底であったという事実に加え、成立宗教である仏教・儒教の死者祭祀儀礼や祖先観念が東アジアでは地域ごとに一様でない影響を及ぼし、そのため自己完結的な霊魂観や死後イメージが形成されにくかった点が明らかになった。またく狩猟民俗と動物供犠とに共通する「殺し」と「血」の倫理学的・象徴論的な解明、さらには、人間と自然とが出会うとき不可避的に出現する「暴力」の多面的な検証が不可欠であることが改めて確認された。
著者
中村 みどり
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

一次資料に基づき、外務省の東方文化事業に陶晶孫が関わってゆく過程、すなわち彼が日本留学時代に「特選留学生」に選抜されてから帰国後に上海自然科学研究所へ入所するまでのルートとその背景を明らかにすることができた。また戦前の中国人留学生たちの帰国後のネットワーク、およびその後の形跡を辿ることにより、陶が戦後国民政府から台湾帝国大学の接収に派遣されるまでの背景を考察し、陶晶孫研究に新たな視点を与えるに至った。
著者
角田 力弥 中村 直哉
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

我々は科研費の助成を受けて、濾胞樹状細胞(FDC)の新規機能的マーカー:胚中心Bリンパ球(GCB)のEmperipolesis能を発見し、FDCはこの密接な細胞相互作用を介してGCBのアポトーシス感受性を変動させ、そのセレクションにも積極的に関与していると報告してきた。今回はこの研究をさらに発展させ、FDCはに再発現するRAG-1&RAG-2も制御している可能性を検索した。ただ、研究を始めてまもなく、改めてRAG-1&RAG-2が成熟Bリンパ球に特異的に再発現する事自体が疑問視されるようになり、我々の研究も依然として推敲を重ねている途中であるが、これまでの成績からいえることは、(1)ヒト扁桃の成熟Bリンパ球に明瞭なRAG-1&RAG-2の発現はない。(2)それをrIL-4/CD40で活性化させるとRAG-1&RA6-2の発現がで時折観察される。(3)しかし、FDCに包み込まれた分画Bリンパ球に発現の有意義な変動はなかった。(4)29例のB細胞腫瘍株でのRAG-1&RAG-2の発現をサーベイすると、Follicular lymphomaのほとんど(3/3)とDiffuse large B cell lymphomaの亜群(centroblastic 1/9,T cell/histiocyte-rich 5/7)にメッセージが確認された(中村ら、発表)。以上のことから、FDCは胚中心のRAG-1&RAG-2発現現象に積極的に関与していないらしい。ただ、B細胞腫瘍株での検索ではRAG-1&RAG-2発現が胚中心成熟段階と関連深いことを改めて示唆しているので、意義についてはさらに現在の検出実験系の感度を上げたり、その他の遺伝子発現との総合的な検討をくわえた研究を続け、将来に成果を発表したい。
著者
長田 敏行 渡辺 昭 岡田 吉美 中村 研三 三上 哲夫 内宮 博文 岩淵 雅樹
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

体勢上レンガ積み構造に例えられる植物体に発達された内・外的刺激に独特の応答反応を示す現象の分子機構の解明を目的として立案された本研究組織において、研究期間終了にあたって次のような成果が得られた。まず、植物ホルモンのうち作用が最も広範かつ劇的ゆえ重要とされるオーキシンについて発現制御をする遺伝子を探索して得られた遺伝子は、グルタチオンS-トランスフェラーゼをその翻訳産物と同定したが、これはオーキシン制御の遺伝子で機能の同定された最初であった。また、やはりオーキシン制御の遺伝子で細胞増殖に関っていると推定されるGタンパク質のβ-サブユニット様の遺伝子も同定したが、これは植物で初めてのGタンパク質関連遺伝子であり、タンパク質Cキナーゼを介する新しい信号伝達経路の展開を予測させたが、同様な展開は蔗糖により誘導されるβ-アミラーゼでも、Ca依存タンパク質キナーゼの介在を予測させ、斯界に本邦発の情報として貢献できたといえる。また、植物ホルモンが形態形成に果たす役割についても遺伝子の同定がなされた。一方、植物への病原菌の感染に伴う応答機構については、エリシターに対応する受容体の同定、中間で作用するホスホイノチド代謝経路の推定もなされ、病原菌抵抗性植物の再生も試みられた。さらに、植物ウイルスであるタバコモザイクウイルスの感染に関しては、ウイルスの複製酵素領域が抵抗性を支配していること、またウイルスの細胞間移行に関する30kDaタンパク質のリン酸化が抵抗性に関与していることも示された。なお、本研究グループで広く用いられたタバコ培養細胞株BY-2は、高度な同調化が可能ということで世界18ヶ国で使われるにようなったが、その流布にあたっていは本研究グループが大いに貢献してた。
著者
堀井 憲爾 和田 淳 SUNOTO M.A. SOEKART J. SIRAIT K.T. 河崎 善一郎 仲野 みのる 角 紳一 依田 正之 中村 光一 山部 長兵衛 鬼頭 幸生 SUNOTO M. E. SOEKARTO J. SIRAIT K. T. 堀井 憲爾
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

インドネシアは、11月から4月に至る雨期には、ほゞ連日の雷雨に見舞われ、年間雷雨日数は、多いところでは150日にも達する世界的な雷多発地帯の一つである。雷の特性は、わが国の夏形雷に近いと思われるが、高緯度のわが国の雷との比較研究は意義がある。一方、インドネシアの電力施設は、現在、急速な開発途上にあり、送配電システムの雷防護対策は、極めて重要な技術として,その基礎となる雷の研究が重視されている。雷の研究は、自然雷の観測と共に,人工的に雷を制御し、誘発させて、雷放電特性を詳細に解明するロケット誘雷実験が欠かせない。ロケット誘雷実験は、わが国において、本研究組織のメンバ-により十数年の実施経験がある完成された技術である。このメンバ-とインドネシア側の大学、研究所のメンバ-の共同によるロケット誘雷実験が、昭和64年度より開始されて、平成2年4月6日には、インドネシアではじめての誘雷に成功した。本年度のロケット誘雷実験は、昨年度に引続き,ジャカルタの南ボゴ-ル地区のプンチャ峠近くの国営グヌンマス茶園内で、平成3年12月19日から平成4年2月19日までの2ケ月間実施された。同地点は、標高が1400mあり、ジャカルタ平原を見下ろす絶好の実験地である。この茶園内の小山の頂上に9基の発射台を立て,地上電界の測定・監視により、雷雲の接近時に、直径0.2mmの接地されたスチ-ルワイヤ付きロケットを真上に向って発射した。ロケットは英国製の船舶用救命索発射用ロケットを利用し、約500mの高度に上昇する。上昇途中でロケットから上向きのリ-ダ放電が進展し、その直後にロケットに落雷が起り、ワイヤに沿って雷電流が流れ、ワイヤは爆発燃焼してア-ク放電となる。実験期間中に30回近くロケット発射の機会があったが、ロケット不良が多く、うち15回の正常飛行により6回の誘雷に成功した。電流値は、現在詳細解析中であるが、最大12KAに達し、電流の極性はわが国の夏雷と同じく、負が5回と多く,正が1回であった。地上電界は、針端コロナ電流で最大3μAに達し、10kV/mを越える強電界を示した。今回の実験での特記すべき結果は、わが国の実験でもこれまで観測されなかった,避雷針への誘雷に成功し、流し写真の撮影にも成功したことである。12月25日,17:30の最大ー12kAに達する雷放電の第1線が、ワイヤに沿って発射台へ放電した後、約0.5秒後の第2撃が,発射台より約4m離れた10mの高さの避雷針へ放電した。その後,0.06秒後の第3撃もやはり避雷針へ放電しており、避雷針の保護効果は、多重雷の後続電撃に対して極めて有効な場合があることが確認された。15回の発射のうち1回は、ロケットが上昇途中でワイヤが地上から切れ、雷雲と大地との間の空間にワイヤが張られるという珍しい状況となり、いわゆる雷雲内放電誘発の実験となったが、残念ながら誘電には成功しなかった。今後,この方式の実験を再挑戦する必要を認めた。また,1回は空間電界計を塔載したロケットを打上げたが、電界計の不調のため観測に失敗した。この他,インドネシア電力公社の援助により、実験場内に300mの試験用配電線を架設し、誘雷放電時にこの配電線に誘導されるサ-ジ電圧の観測の準備を進め、特に分圧測定システムの技術について指導を行った。今年度は、実験の開始時と中間段階で、日本側から計5名が実験に参加し、技術指導と共同観測を行ったが、ロケットの操作、デ-タの観測記録は,すべてインドネシア側の責任で実施され、この実験に関する技術移転はほゞ完了したと考えてよい。しかし、英国製ロケットの不良が多く、次回からはわが国のロケットを輸出する必要があり、また一部の高度測定技術(電流波形記録,電磁界変化記録など)については、来年度以降も引続き技術指導と援助が必要であり、これに沿った施策推進が望まれる。なお、次年度以降も、乏しい資金ではあるが、インドネシア側で実験を継続する意向があり、日本側もできる限りこれに協力する覚悟である。
著者
池田 忍 柴 佳世乃 久保 勇 伊東 祐子 亀井 若菜 水野 僚子 土屋 貴裕 成原 有貴 メラニー トレーデ 須賀 隆章 中村 ひの
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、日本の中世の物語絵画、とりわけ多様な知識や情報を共有し伝達する媒体であった絵巻の描写を手がかりに、身分と階層を跨る絵巻制作者と享受者の重層的な世界観を明らかにしようとするものである。本研究では、中世の人々の日常生活、労働、信仰、行事、儀礼、合戦の他、異国や異域、神仏化現の舞台となる「場」(型)を抽出・収集し、そこに描かれた建築や環境、多様な「もの」に、身分差や階層差、ジェンダーの差異がどのように描き分けられ、関連付けられているかを具体的に検証し、物語絵画、とりわけ絵巻という媒体の歴史的特性を明らかにした。
著者
津田 敏隆 川原 琢也 山本 衛 中村 卓司
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、京都大学のMUレーダーで高感度の流星観測を行い、流星の大気への流入及びその時の中間圏界面領域の大気力学場を詳細に観測し、併せてナトリウムライダー観測や大気光観測による中層大気上部の大気微量成分の増減を測定し、中間圏大気の物質の変動と流星フラックスや大気力学場の関係を探る事を目的とした。特に、流星起源であるナトリウムなどの金属原子層の密度が突発的に増大するスポラディックナトリウム層などの現象にも焦点をあて、その成因を探った。また、その過程で種々の知見が得られた。1. レーダー観測から、群流星などの活動期であっても散在流星のフラックスが多く、群流星の活動によって顕著に流星フラックスが増加することはないと認められた。ただし、出現方向、出現高度、強度などを限定すると群流星でもかなりの増大がある。2. レーダーとライダーの同時観測によって、ナトリウム原子密度の周期数時間以上で位相が下降する変動は、大気重力波によると確認された。さらに冬季に見られる周期12時間前後の同様の変動も、半日潮汐波ではなく大気重力波と判明した。3. レーダーとライダーとの同時観測によって、スポラディックナトリウム層と流星フラックスの関連は見出されず、むしろ水平風速の鉛直シアや温度の局所的な上昇などが絡んでいることが解った。さらに統計的な解析からは、風速シアの強度と相関が高いことが解った。4. 大気発光層とレーダーおよびライダーとの同時観測から、流星フラックスの増大と発光層との関連は見られなかったが、大気発光層中の様々な大気重力波イベントの考察やその統計解析など、大気力学研究上貴重な知見が得られた。5. 1998年のしし座流星群観測では、大流星雨予想の約1日前に明るい流星の大出現がレーダー観測された。なお、当日は天候が悪く光学観測は翌日になったがこのときには中間圏界面に顕著な変動は見られなかった。
著者
川辺 良平 河野 孝太郎 北村 良実 鷹野 敏明 井田 茂 中村 良介 阪本 成一 石黒 正人
出版者
国立天文台
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
1999

星と惑星系の形成の問題は、現代天文学の重要課題である。ミリ波干渉計による観測の進展で、太陽系外の惑星系の形成現場を直接観測が可能となった。これにより、観測と理論との直接比較から、惑星系形成論の構築が可能になった。一方、太陽系外の惑星系が発見され、その惑星系の多様性が明らかになってきた。これにより、太陽系が普遍的な存在なのか、その多様性をコントロールする物理は何かなど新たな問題が提起されている。ここでは、新たにサブミリ波の領域で、サブミリ波の特徴を生かし、星形成に伴う原始惑星系円盤の形成や、その構造(円盤の初期条件)を干渉計観測で詳細にしらべ、惑星系形成のシナリオを構築することを目指した。また、観測的研究で、円盤の形成・進化、巨大惑星の形成に制限を与えるガス成分の消失時期、固体惑星の形成の形成に制限を与えるダスト成分の消失時期を抑え、理論と比較することにより惑星系形成のシナリオ構築を目指した。また、惑星系の多様性を説明する独自のパラダイムを提案し、観測との比較を行うことや理論的な実証を行った。既存の野辺山ミリ波干渉計を用いてサブミリ波干渉計を目指し、干渉計実験に成功した。本格観測までは実現できなかったが、南半球領域で世界初の10mサブミリ波望遠鏡の実現へと結びついた。一方、波長1300ミクロン等での牡牛座の天体の干渉計観測により、原始星としては初めてガス円盤が存在する証拠を捕らえ、また円盤の進化する様子、降着円盤としての膨張を捕らえることに成功するなど、円盤の形成・進化の様子を世界で初めて捕らえた。また、惑星系円盤(初期条件)の多様性を観測的に捕らえた。理論的には、独自のパラダイムの理論シミュレーションによる実証ができた。また観測的に発見された系外惑星系が、このパラダイムで説明可能であることを明らかにすることができた。ダストとガスの消失時期について、理論的には推定できた。ガスの消失時間を、観測的には抑えるために、チリに設置した10mサブミリ波望遠鏡による観測を今後実行する予定である。これらにより、惑星系形成論の構築に大きく前進した。
著者
中村 嘉孝
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
神戸外大論叢 (ISSN:02897954)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.41-60, 2005-09-30