著者
池谷 裕二
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010

脳回路の自己書き換え性を追求する上で、ニューロン同士のつくるシナプスに着目をしながら実験を進めて行ったところ、偶然にもアストロサイトが神経細胞の活動性に大きな影響をあたえることを見出した。アストロサイトはグリア細胞の一種であり、近年の研究では、脳の情報処理に多様な影響をもたらしうる動的な細胞であることはすでに報告されてはいる。しかし、多数のアストロサイトからなるアストロサイト・ネットワークがどのような挙動を示すかということについては未だ不明な点が多い。そこで、本研究では、急性海馬スライス標本における、アストロサイト・ネットワークの自発的な時空間活動パターンを、大規模カルシウムイメージング法によって記録した。その結果、隣接したアストロサイトどうしは、同期したカルシウム活動を示しやすく、ネットワーク全体として、局所的かつ動的な同期細胞集団を形成していることが見出された(本研究では、この活動を「アストロサイト・アイランド」と命名する)。薬理学的検討の結果、このネットワーク活動には、代謝型グルタミン酸受容体の活性化が関与し、神経活動とは独立に生じうることが明らかになった。また、ケージド・カルシウム化合物を用いて数個のアストロサイトを光刺激すると、周辺のニューロンにおいて、数mVの静止膜電位の脱分極と、自発的なシナプス入力頻度の増加が観察された。本結果は、アストロサイト・ネットワークの活動パターンを、従来にないほど大規模かつ詳細に記述するものであり、アストロサイト-ニューロンコミュニケーションを考察する上で重要な知見であると考えている。
著者
田中 愛治
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

平成4年度には、同年7月の参議院選挙の前後に横浜市において有権者1,000名に対し郵送法による世論調査を行い、横浜市における一般有権者の政治不信と政党離れ意識について調査した。平成5年度は、前年の郵送調査における「政党支持なし」の回答者を深層面接法により追跡調査する予定であった。しかし平成5年の政治状況は、国民の政治不信、特に既成政党に対する不信感が更に高まり、政党離れがいっそう進行した。平成5年6月の宮沢内閣不信任案の成立後、自民党から新生党、新党さきがけが分裂し、同年7月18日の衆議院総選挙の結果、昭和30年の自民党結党以来初めて政権交代が起こった。この新党(新生党、新党さきがけ、日本新党)の出現と政界再編の状況下では、少数の「政党支持なし」の有権者の深層面接よりも、一般有権者を対象に従来と異なった投票行動をとる心理的メカニズムを広範に探ることの方が重要性が高いと判断し、研究計画を変更して、総選挙の前後にパネル方式の電話世論調査を実施した。有権者の政治不信、政党離れが急激に進む状況の中で、「政党支持なし」層の役割はかつてなかったほど重要になり、それに呼応するように3新党が総選挙では躍進して、政権交代が起こった。上述の電話調査の結果からは、3新党の支持者はどの新党に対しても好意的な感情を持っており、相互に支持する傾向が見られるが、逆に既存の伝統的な自民党と社会党に対しては冷淡な態度が見られ、既存の政党離れが進んだことが明らかになった。さらに、「政党支持なし」層の存在が、92年の参議院選挙に続いて、93年の総選挙の際にも確認されたが、この積極的な「政党支持なし」層が必ずしも新党の支持に回ったとは言い切れず、単純な構造ではないことが分かった。今後、本調査のデータ分析を更に進めていく所存である。
著者
長谷川 兼一 坂口 淳 白石 靖幸 鍵 直樹 三田村 輝章 篠原 直秀
出版者
秋田県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,児童が何らかの健康障害を有していることが,住宅のDampnessと関連深いことに着目し, Dampnessに誘発される居住環境要因による健康リスクを明らかにすることを目的とする。ダンプビルディングの室内環境の実態を把握するために実測調査を実施し,延べ48件の調査データにより,各部湿度性状,微生物濃度, MVOC, VOCs, SVOCなどの特性を明らかにした。また,アンケート調査データを用いてダンプネスの度合いと健康影響との関連性について検討し, Dampnessの度合いが大きくなるほどアレルギー症状を複数有すること等を示した。
著者
尾中 文哉 大川 清丈 白鳥 義彦
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、「歴史」をふまえた「比較」の方法に関する、新聞を資料とした一連の実験的考察の一部である。そこでは、(1)1980年前後に、日本の受験生の態度が「受験に対する否定」から「中立」に変化すること、(2)試験成績の公開に関してイングランドとウェールズで90年代以降違いが生じたこと、(3)この90年ほどの間に試験制度の変化が量的な観点を強化されていくこと、(4)この変化は、イギリスの場合には試験の教育制度への統合過程、日本では逆にその分離過程と関連していることが明らかとなった。こうした研究を通して、このタイプの研究には、「言説」よりも「記事」という視点が適切であるとした。また、具体的な方法論として「逆欠如視点」「社会文化的ネットワーク分析」を提案した。
著者
大塚 秀高 高田 時雄 原山 煌 樋口 康一 牧野 和夫 森田 憲司 庄垣内 正弘 浅野 裕一 赤尾 栄慶 高山 節也
出版者
埼玉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

(1)研究集会の開催:班の研究テーマである「出版文化論研究」を念頭に、班長の筆者により、複数回研究集会が企画・開催された。ちなみに、平成16年度の研究集会の概要は以下のようになっている。平成16年5月14・15の両日、14日は京都国立博物館の講堂、15日は京大会館の会議室を会場とし、C班と共催で企画・実施(七条学会)。七条学会のテーマは、京都国立博物館で開催中の「南禅寺展」にちなんだ仏教関係の研究と、班員共通の研究対象であるアジアの特殊文庫とした。D班の発表者は、計画班で牧野和夫と筆者大塚秀高、公募班で西村浩子と中見立夫であった。七条学会の開催をきっかけに、班員の間に、相互の研究テーマに対する認識が一層深まった。そもそもD班とC班は、平成13〜14年度に筆者大塚が代表を兼ねていたため、メンバー相互間に交流があり、D班公募班の高橋章則・高倉一紀・西村浩子などは、現C班代表の若尾政希が主催する研究会「書物・出版と社会変容」研究会で報告をしている。また、G班公募班の松原孝俊が開催した第4回海外所蔵日本資料データベース会議に、D班の高田時雄・中見立夫ならびに大塚が参加し、高田と大塚は報告を、中見は司会をつとめた。(2)調整班会議の開催:後半2年間にあっては、第1回調整班会議を平成15年11月28目におこなわれた第3回「東アジア出版文化に関する国際会議」にあわせて開催し、上記の七条学会につき協議した。第2回は七条学会の当日に開催し、第3回は6月26・27の両日、沖縄那覇で開催された平成16年度第6回研究集会のおりに開催した。(3)その他:班長である大塚は総括班会議に出席し、必要な情報についてはメールで班員に伝達した。また、総括班会議でニューズレターを班ごとの特集号とするよう提案し、第6号をD班特集号とした。第6号に各自の研究テーマに関する文章を寄せた者は、計画班で大塚秀高・原山煌・牧野和夫・森田憲司の4名、公募班で蔵中しのぶ・高橋章則・中見立夫・西村浩子の4名の、あわせて8名であった。また調整班の成果報告書を作成し、班員に配布した。
著者
葛岡 英明 加藤 浩 鈴木 栄幸 久保田 善彦 山下 淳
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

平成22年度はまず、柏崎中学校において授業を実施した。生徒を、提案システムを利用した実験群と、提案システムからCG映像を削除した統制群に分け、それぞれの群にプレテストとポストテストを実施した。その結果、地球の自転の理解に関して、実験群の点数の上昇が、統制群の点数の上昇よりも有意に高い傾向があることがわかった。しかし、学習の様子を観察した結果、システムには、俯瞰視点(学習者がタンジブル地球儀を見る視点)と地上視点(地上から空を見上げた状況をCGによって合成した映像)を結びつけることが困難であるという問題点があるという知見を得た。そこで、俯瞰視点と地上視点を結びつける補助として、天球映像を提示することを考案した。これは、半球をスクリーンとして利用し、上部からプロジェクタで太陽の動きを投影する装置である。この装置の有効性を確認するために、被験者を、装置を利用した実験群と利用しない統制群の2群に分けて比較実験をおこなった。プレテストとポストテストによって評価をおこなったが、提案した装置の有効性を示すことはできなかった。被験者の感想や実験の様子を観察した結果、天球映像をあまり参照しない学習者が多いことがわかった。この問題を改善するためには、学習課題や学習のためのインストラクションを見直して、それぞれの装置の機能や目的を意識して学習できるようにする必要がある。また、学習の様子をより詳細に分析し、天文学習において何が問題となっているのかということに対する理解を深める必要がある。
著者
和崎 春日 上田 冨士子 坂井 信三 田中 重好 松田 素二 阿久津 昌三 三島 禎子 鈴木 裕之 若林 チヒロ 佐々木 重洋 田渕 六郎 松本 尚之 望月 克哉
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

「グローバル化時代における中下層アフリカ人の地球的移動と協力ネットワーク」現代社会において、グローバライゼーションを生きるのは、北側社会や特別なアフリカ人富裕層だけではなく、「普通の」アフリカ人たちが、親族ネットワーク等を駆使して、地球を広く縦横に生き抜いている姿が、本共同研究から析出された。その事実を基礎にした外交上の政策立案が必用になってくることを、本共同研究は明らかにした。
著者
砂原 俊彦 堀尾 政博 橋爪 真弘
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

バングラデシュの首都ダッカにおける過去20年間の気象データとコレラやその他の下痢症患者数のデータベースを構築した。このデータを用い、降雨量および気温と患者数の関連を時系列統計解析を行なって調べた。その結果、週平均降雨量の増加によりコレラ患者数は14%増加し、コレラ以外の下痢症は5%増加することが明らかとなった。逆に、平均降雨量が減少してもコレラ患者数が増加することも明らかとなった。森林環境を好むマラリア媒介蚊Anopheles dirusのベトナムの森林伐採地における分布を、高解像度の衛星画像と標高データから得られる地被覆および地形の情報を利用して解析した。一般化線形モデルにより、この蚊が森林から20km程度の範囲では自然林に依存していないこと、深い谷があるような地形に多いこと、ゴムの植林地は生息に不適だがカシューナッツの植林地は好適であるらしいことが明らかになった。この地域のAn. dirusは森林から農地へと生息環境を移行させており農薬に用いられるピレスロイド系殺虫剤への抵抗性の獲得が懸念される。都市環境で人工容器を主な発生源とするネッタイシマカに媒介されるデング熱動態の数理モデルを、マイクロソフトエクセルをベースにして開発した。気温、湿度、降雨量が蚊の発生源の数や蚊の生存率、蚊の体内でのウィルスの潜伏期間に影響するというメカニズムを微分方程式で表した。容器の数などを未知のパラメータとし、適当な初期値を代入したモデルに現実の気象データを入力し、計算されたデング患者と現実のデング患者との差が最小になるように未知のパラメータを決定するSimplex法をプログラムに組み込んだ。このモデルを用いてデング熱患者を最小にする殺虫剤噴霧のタイミングを計算したところ、先行研究で示されたものとは異なり患者数のピークよりも前が最適であると結論された。
著者
尾崎 正峰 高津 勝 内海 和雄 上野 卓郎 坂 なつこ 岡本 純也
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

グローバル化が進む情勢下で、さまざまな変容を遂げてきている現代のスポーツについて、イギリス、ドイツ、オーストリア、アイルランド、オーストラリア、そして日本を研究対象として、各国・地域のスポーツの歴史・社会的な考察を行った。その結果、第一に、現代のグローバル化の進展が逆にナショナルな(あるいは、ローカルな)「伝統」を呼び起こしていること、第二に、コミュニティの紐帯の変容が言われる中、ローカルな場のスポーツを通して、新たなコミュニティ意識の形成の胎動が見られることが明らかとなった。
著者
国井 秀伸 瀬戸 浩二 野中 資博 森 也寸志 相崎 守弘 石賀 裕明 野村 律夫
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

高度汚水処理法・直接浄化法の開発と,底質処理法(無害化・資源化)の開発を行い,流域統合管理の視点を加えて,流域の管理の違いが水文循環過程に与える影響を評価した.さらに,科学的・普遍的な立場もふまえて,汽水域生態系モニタリングのシステムを研究・開発・構築し,さらに地域と一体となった汽水域の生態系保全活動を行うことを目的に,地域住民との連携による汽水域長期モニタリング法を検討した
著者
中出 麻紀子
出版者
独立行政法人国立健康・栄養研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では大学生とその親に自記式質問紙調査を実施し、大学生の意識・生活習慣や親による食育実施を含む様々な側面から朝食欠食の原因を探ることを目的とした。その結果、朝食欠食者は男女共に一人暮らしの人に多かった。また、女子学生の朝食欠食者では、喫煙習慣者、1時以降の就寝、朝食を欠食しても良いと考える人、夕食~就寝までの間に間食をする人、母親が朝食欠食する人が多く、アルバイト従事者、昼食~夕食までの間に間食をする人、母親の最終学歴が短大・専門学校以上、母親がパート勤務の人には朝食欠食者が少なかった。さらに、子どもの頃に親が食べ物の栄養的価値について子どもと話し合ったり、健康的な食べ物を楽しんで食べるところを見せていた人では朝食欠食者が少なかった。以上の結果から、大学生の朝食欠食には不健康な生活習慣や意識、母親の朝食欠食習慣が関連しており、母親による子どもの頃の食育は朝食欠食を防止し得る要因であることが明らかとなった。
著者
藤田 大輔 我部山 キヨ子 田中 洋一 岡田 由香
出版者
大阪教育大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

H県N市における乳幼児健康診査対象児(4か月児・1歳6か月児・3歳児)の2164名の母親に、文書でインターネットを利用した育児支援コミュニティ開設の趣旨を説明し、同意の得られた対象に、「育児に関する調査」と題した質問紙調査を実施した。その結果、育児支援ネットコミュニティ参加申し込み者は276名で、その内訳は、乳幼児健診全対象者に対して、初産婦が25.7%、経産婦が17.3%と、初産婦で申し込み希望が多く関心が高かった。育児支援コミュニティの利用状況を示すホームページへのアクセスは、月平均約100件で、初産婦が66.2%で、経産婦が33.8%であった。月曜日と水曜日のアクセスが比較的多く、全体の約6割を占めていた。逆に土曜・日曜日は5%前後と少なかった。また、最も多い時間帯は、12時〜17時で35.2%であった。掲示板の書き込み内容は、子どもの病気や予防接種について、保育園入園の時期などが挙げられた。初産婦の質問に対し、経産婦が体験談を通してアドバイスをする傾向にあった。育児支援コミュニティの利用希望者の心理特性では、利用を希望しない者に比べ、手段的支援ネットワークが有意に低く、ストレス反応が有意に高い傾向であった。逆に、育児に対する否定的感情は低く、育児に関する情報や解決策入手の数は多い傾向が観察された。この傾向は、サイト開設後の調査においても変わらなかったが、特性的自己効力感と情緒的支援ネットワークは、サイト開設後の方が比較的高い傾向であった。以上より、手段的支援の認知が低く、ストレスが高い傾向で、育児情報を探索する傾向にある者が、育児支援サイトを利用する傾向が認められた。結果、育児支援サイトを利用することで、体験者の励ましや助言から、情緒的な支えを得ることで育児に自信をもって対処しようとする効果が期待されることが示唆された。
著者
細谷 裕 波場 直之 尾田 欣也
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

ヒッグス粒子の正体、余剰次元の存在の可能性、クォーク・レプトンの起源をLHC実験で探れる物理として探求した。ヒッグス粒子を余剰次元のゲージボゾンとするゲージ・ヒッグス統合理論を構成した。質量126 GeVのヒッグス粒子の存在から、余剰次元での励起粒子、ヒッグス粒子の相互作用の間に普遍的な関係(ユニバーサリティ)があることを発見した。今後のLHC実験で検証されれば、余剰次元の存在が確立される。
著者
田中 純
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では次の4点について、それぞれを有機的に関連づけながら研究を展開し、成果を得た。1.アビ・ヴァールブルクが精神形成をおこなった19世紀後半のハンブルクの文化的環境を、特にドイツでも有数のユダヤ人銀行家一族であるという彼の出自に注目しつつ、調査・分析し、主にイタリア・ルネサンスの美術を対象とした研究に結実していくヴァールブルクの思想形成過程を資料に即して考察した。2.ヴァールブルクの著作や書き残したメモに基づいて、その図像学的方法論を再構成し、同じ美術作品を主題とした諸研究にも目を配ることによって、ヴァールブルクの方法の独自性を検証した。3.ヴァールブルグ研究所におけるパノフスキーをはじめとする図像学研究を方法論的な見地から検討し、個別の美術史的分析ではなく、方法論的な次元においてヴァールブルクの思想との比較をおこなった。これとともに、図像学が学問的な言説として制度化されるプロセスを、1920〜30年代のドイツとその後のロンドンを中心とするヴァールブルク学派の活動のなかに辿った。4.ヴァールブルクの思考をルートヴィッヒ・クラーゲスの『魂の敵対者としての精神』などにおける議論と比較し、ジークムント・フロイトやカール・グスタフ・ユングの精神分析を視野に収めて、イメージと記憶、あるいは近代における「古代の再生」といった問題を中心に、世紀転換期から1930年代にいたる時代のドイツ文化圏の思潮について、イメージ論の観点から思想史的な分析をおこなった。これによって、クラーゲスもその一端を担ったバッハオーフェンの母権論思想復活の動向をはじめとする、この時代のドイツ思想における神話的イメージの大きな役割が見出された。また、ヴァールブルクの思想とヴァルター・ベンヤミン『パサージュ論』との比較対照を通じて、このいずれもがその背景にゲーテ自然学、とくに形態学の思想をもっており、同時代の思想に幅広く同一傾向の見られる点が明らかとなった。
著者
赤澤 堅造 奥野 竜平 金 寛 彼末 一之
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

近年,筋萎縮性側索硬化症,運動ニューロン病など,進行性で,かつ死に至る神経・筋系疾患が多く見られ,その診断,治療のため運動ニューン個数・サイズ分布の計測手法の開発が非常に強く望まれている.本研究では,等尺性随意収縮時の筋電信号を用いて,運動ニューロンの個数およびサイズ分布を推定する新しい理論を提唱し,筋電信号発生のモデルの構築とモデル解析により,推定法の妥当性と推定誤差を明らかにし,臨床診断への適用可能性を示すことを目的とした.本研究では,運動ニューロンの個数およびサイズを推定を以下の通り遂行した.(1)筋電信号発生モデルの構築サイズの異なる多数の運動ニユーロンからなる筋電信号発生のモデルを構築する。運動ニューロンのパルス発射パタンを与えて、筋電信号(時系列信号)をモデルにより作成した。(2)運動単位発火周波数の計測独立成分分析を用いた運動単位活動波形のデコンポジションプログラムの開発を行った.等尺性収縮時の多チャンネル筋電位信号を対象とし,運動単位の同定と運動単位発火周波数を算出した.その結果,収縮レベルの増加に伴い,運動単位発火周波数が増加することを示した.
著者
別府 哲
出版者
岐阜大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

別府(1994)は後方向の指差し理解を検討する中で、自閉症児も健常児と同様、一定の発達年齢(発達年齢1歳以上)になれば指差した方向を振り返る事は可能であること、しかし共有伝達行動(大人に指差された方向を自分も指差しながら、振り返って大人を見る)に見られる他者認識は、健常児と比較して自閉症児の弱い点で在ることを指摘した。それでは自閉症児はどのようなレベルの他者認識を持っているのか。その点を観察による他者の「振る舞いとしての理解(麻生1980)」側面から、検討することが今回の目的である。そして対象としては、通常1歳頃に見られる、他者の情動を変化させる行動(からかいtease)に焦点を当て、それが在る時期に頻発した自閉症児N児一事例を取り上げる。方法としては、保母の日誌、母親の連絡帳、月1回程度のビデオ記録(3歳0カ月から6歳7カ月迄)から、(1)N児自身の喜びや不快等の情動表出場面、(2)母親・保母・他児がN児に対して喜びや不快の情動表出を行った場面、を取り出し分析した。取り出した場面は計531場面となる。ア・からかい行動の発達:からかい行動を「他者の予期を認識しその意図的操作を含む行動(James&Tager-Flusberg,1994)」と定義すると、N児の場合は「追い掛けられるのを期待して逃げる」形で出現した。最初は、N児自身が相手を叩くことで相手がプレイフルな情動に基づいて追い掛けてくれるのを楽しんでいたのだが、途中から相手がプレイフルな情動であるかどうかと無関係に相手の行動のみを求める行動に内容が変容して行った。これを「自分の特定の行動→(相手の特定の情動→)それに基づく相手の行動」と言う、一義的な随伴性の理解による他者理解に基づくからかい行動と考える。イ・指差しの理解との関連:N児の場合、指差し理解の成立がアで述べた一義的な随伴性の理解による他者理解に基づくからかい行動出現の時期と一致し、そのレベルの他者理解との連関が想定された。
著者
村上 和弘
出版者
愛媛大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

2006年8月、10月、そして2007年3月の3回にわたり、対馬市にて現地調査および資料収集にあたった。8月の調査は「対馬アリラン祭」を中心に参与観察および関係者への聞き取り調査を行なった。この「対馬アリラン祭」は対馬における日韓交流行事の象徴的存在であるが、それだけに日韓関係の影響を受けやすい。この年は春先にかけて来島韓国人観光客の行動が全国ネットのTVニュースや新聞で取りあげられたこともあり、特に、これら全国規模で流通するマスメディア言説への反応に注目しつつ調査を行った。10月は「対馬アリラン祭」との関係を念頭に、厳原八幡宮例大祭の参与観察を行なった。この両者は同じ地区で開催されており、地区住民にとってはともに屋台や出し物が出る「ハレの日」であることには変わりない。しかし、前者が「日韓友好」のイベントであるのに対し、後者は神社の祭礼であり、その性格付けはかなり異なる。そこで、特に対韓感情および郷土意識に注目しつつ、調査を行った。2007年3月は、昭和20年代を中心に資料収集を行なったほか、当時の貿易に関わる様相について関係者にインタビューを行なった。このほか、昨年度に引き続き、対馬に関連する学術論文・調査報告書の調査収集を行なった。また各種基礎資料、特に交通手段・ルートの変遷に関する資料の調査収集に努めた。この過程で対馬における観光開発関連も収集を行った。これらの文献資料と聞き取りデータとを照合しつつ、地域の全体像を明らかにするための作業を進めた。なお、今年度までの成果の一部は論文として『国際交流センター報』に発表したほか、2本を投稿中である。
著者
小松 秀雄
出版者
神戸女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

現代都市における祭礼の持続と変容に関して理論と実証の両面から研究を試みた。理論面では、文化的再生産論と都市社会学の下位文化理論の研究を深め、現代都市において祭礼を支える組織と技能が世代から世代へと受け継がれていく過程を再検討した。また実証面では、横浜の日技神社例大祭(お三の宮大祭)と神戸の生田神社例大祭(生田祭)に関して、組織と技能の文化的再生産(伝承)という視点から参与観察してデータを集めた。また、組織と技能の文化的再生産に焦点を当てて、文化的再生産が成功している都市の祭礼(名古屋地区の半田祭など)の資料も併せて収集してみた。これらの理論研究と実証的調査に基づいて、1997年に『横浜お三の宮大祭の社会学的研究-現代都市における祭礼-』(文部省科学研究費補助金による中間報告書)、「横浜お三の宮大祭の文化的再生産」(神戸女学院大学論集)を発表した。『横浜お三の宮大祭の社会学的研究』は、横浜の日技神社例大祭(お三の宮大祭)の調査結果をまとめたものである。祭礼の歴史と現在の祭礼の社会過程を論文の形でまとめると同時に、多種多様な祭礼の文書資料と写真を集めたもので適当に編集して、、祭礼のダイナミズムを直に感じ取れるように試みた。また、「横浜お三の宮大祭の文化的再生産」は、文化的再生産論の視点から横浜のこの大祭を再検討した理論的な研究成果である。祭礼は人々の組織形成能力と身体技能によって支えられ、実践される。そのような組織形成能力と身体技能は、主に地域社会と家庭における教育と訓練を通じて養成され、上の世代から下の世代へと受け継がれていく。それがまさしく文化的再生産と呼ばれる仕組みであり、論文では横浜お三の宮大祭における文化的再生産の仕組みを解明してみた。
著者
和田 尚明 渡邊 淳也
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、言語系統的に全く異なる言語である日本語と、英語をはじめとする主な西欧諸語の時制現象における相違点・類似点を指摘・考察した。特に、(1)これらの言語の時制現象を統一的に扱える時制理論として、時制関連領域に属する助動詞・アスペクト・モダリティ・証拠性ならびに話者の主観性が反映したモデルを確立し、(2)主観的要因によって大きな影響を受けるいくつかの言語環境において、これらの言語の時制現象がどの点で共通し、どの点で異なるかを示した。
著者
堀内 成子 有森 直子 三橋 恭子 森 明子 桃井 雅子 片桐 麻州美 片岡 弥恵子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

1.健康な初産婦10例に対して、一夜の終夜脳波を測定した結果、産褥5、6週までは、夜間の途中覚醒率が20%前後を示したが、産褥9週・12週においては夜間に中断された睡眠と、中断されない睡眠とが混在した。夜間において母親の途中覚醒は、こどもの足の動きと同期していた。こどもの慨日リズムは12週までに形成していた。産褥期の母親の睡眠リズムと子育てに焦点を当てて研究活動を行った。2.18組の母子を対象に行った24時間の睡眠日誌の分析からは、生後5週から12週までのこどもの睡眠・覚醒に関するパラメータの変化は、母親の同一時期のパラメータと同様の変化を示した。就床時刻は平均0時53分であり、生活が夜型にシフトしていた。夜間の覚醒時間について生後5および6週は、9週から12週に比べ、有意に長く、覚醒回数も多かった。産褥3ヵ月における母子の睡眠覚醒の推移は、同調した動きを示していた。3.7組の母子を対象に行ったアクチグラフの結果から、産褥3週から12週までの母親の夜間途中覚醒は、こどもの睡眠・覚醒の慨日リズム形成と関係していた。4.入眠前のリラクセーションを図る意味での、腰痛のある妊婦を対象に足浴の効果を見た。その結果、足浴行った実験群においては、就寝前に対する起床時の痛みの強さが軽減していた。5.子育てにともなう情緒については21人の初産婦の面接から、産褥4週以内の子育てに対しては<閉塞感のある生きにくさ>を特徴とし、育児生活そのものは<既成概念と現実のズレ>が多く、時には<暗い迷路>へとつながることもあった。育児の適切さについて<確信がもてない>毎日であり、<焦燥感や不全感>を持ちやすいことも語られた。睡眠リズムの変化に適応できないと同時に、子育てに強く困難感を抱いている事例の分析が今後の課題として残されている。