著者
栗原 英見 佐藤 勉 鴨井 久一 石川 烈 花田 信弘 伊藤 公一 村山 洋二 岩山 幸雄 丹羽 源男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

唾液を用いた歯周病検査の開発について多角的に検討した.侵襲性歯周炎患者においてPorphyromonas gingivalis(P.g)に対するfgA抗体産生がみられ,唾液中の特異的IgA抗体測定によってP.g感染を検出できる可能性を示した.PCR(polymerase chain reaction)法での唾液を使った歯周病原性細胞検査が可能であることを明らかにした.血清とActinobacillus actinomycelemcomltans(A.a)の外膜タンパク(Omp)が強く反応した歯周病患者の唾液を使って,A.aのOmpを抗原としたfgAレベルでのA.a感染の同定を行う有効な手段を示した.Streptococcus-anginasus(S.a)をPCR法で特異的に検出する技術を確立し,上皮組織の抗菌ペプチド(hBD-2)とS.aの関連によって,S.aが病原性を示す際に必要な分子メカニズムの一端を解明した.歯周治療によりインスリン抵抗性や血糖コントロールを改善した糖尿病患者モデルを使うことで,唾液を用いた歯周病検査の開発に利用できることを明らかにした.糖尿病患者の唾液を検体とした生化学検査によって歯周疾患群と歯周疾患なし群とで有意差をは認めず,糖尿病と歯周疾患の関連性を明らかにすることはできなかった.唾液中の好中球のエラスターゼ活性や活性酸素産性能は歯周疾患の病態やリスク判定に有用である可能性を明らかにした.唾液中のMMP-8量の測定から,その活性型の値によって歯周疾患活動性の高い患者を特定できることを明らかにした.健常者に比べ歯周病患者では唾液中の酸化ストレス産物(8-OhdG)が有意に高く,歯周病診断の検査項目として有用なことを明らかにした.歯槽骨代謝マーカーとして有用性の示唆されている硫酸化グリコサミノグリカン(S-GAG)について,唾液での測定を行ったが測定できなかった.
著者
井端 泰彦 井上 慎一 岡村 均 千原 和夫 本間 さと 貴邑 冨久子
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は昨年に続き12名の班員による研究により,生体リズム発現及び同調機構,内分泌リズム,自律神経リズム,ヒトにおけるリズム発現,時間記憶などの研究課題について研究を行ってきた。平成9年度に多電極皿上における培養視交叉上核のリズム解析(井端),行動リズム位相変化と哺乳類時間遺伝子(岡村),視交叉上核VIP,AVPニューロンの自律神経反応と高血糖反応への影響(永井),視交叉上核におけるリズム同調機構に対するCREB,CREMの関与(井上)マウスにおける概日リズム突然変異体の分離(海老原),概日リズム光同調に対する心理的ストレスの影響(柴田)GnRHの概日リズム発現に対する視交叉上核AVP,VIPニューロンの影響(貴邑)視床下部成長ホルモン分泌制御機構(千原),条件恐怖刺激に対する視床下部オキシトシン,バソプレシン分泌反応に対する視交叉上核の関与(八木),ヒトにおける生物時間同調因子について(本間),高血圧における血圧の概日リズム機構異常とその治療(田村),睡眠覚醒障害に対する高照度光治療(佐々木)についてそれぞれ研究を行い昨年12月に班会議を開催し研究成果の発表と討論が行われた。特筆すべきことは昨年哺乳動物(ヒトにおいても)にショウジョウバエの時計遺伝子とホモローグである遺伝子が存在することが異なる研究施設から時を同じくして発表されたが(Science,Nature)本研究班の一人である岡村はこの研究グループのひとりであり,彼は続いてこの遺伝子のマウス視交叉上核での発現や光照射による影響や位相変化について"Cell"に発表したことである。即ち哺乳動物における概日リズム発現機序の手がかりが得られたことは大きな成果と考えられる。
著者
佐藤 三久 朴 泰祐 建部 修見 天笠 俊之 櫻井 鉄也 山本 有作 高橋 大介 北川 博之
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

P2Pグリッドとは、従来、各研究組織にある計算資源を共有することが目的であったグリッド技術を、P2P技術を活用しオフィスおよび個人のPCなどの潜在的な計算資源をグリッドの計算資源として活用するものである。本研究の目的は、期待される大量の計算資源による大容量コンピューティングのためのP2Pグリッド基盤を構築・利用する技術を確立し、その有効性を検証することである。1. P2P環境の潜在的な計算資源をグリッドの計算資源として活用するために、多くのPCで利用されているWindowsにおいてLinuxバイナリを実行するためのシステムBEEとUDPによるファイアウォール越えを用いたP2Pオーバーレイネットワークを開発した。さらに、P2P環境における認証機構として、匿名相互証明書とP2P通信を用いる認証方式AUBReX、他のジョブスケジューラと相互に協調し資源を共有する機構について開発した。2. 大容量コンピューティングのプログラミングモデルとして、RPCモデルから広域ネットワーク上の大容量データを効率的に扱うためのデータレイヤOmniStorageを開発し、それを拡張し、多数のノードに分散配置された大量データに対して、グローバルなデータ並列操作を行うプログラミング環境を提案した。また、大規模スケーラブルP2PにおけるXMLデータ管理について、MLデータの内容による検索に着目し,P2Pネットワーク上でXMLデータのキーワード検索を可能にする手法を考案した。3. P2Pグリッド向きのアルゴリズムとして、複素積分を用いた非線形固有値計算アルゴリズムや前処理手法を開発した。また、P2Pグリッドの有望な高性能な計算資源として、ヘテロジーニアスマルチコアであるCellプロセッサを取り上げ、この資源を利用するための数値計算ソフトウエアを実装した。
著者
石井 久美子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008-04-08

インターネット文書の読解支援を動的に行うためのユーザインターフェース技術ならびに自然言語処理上の研究を行った。特に、ユーザがweb文書をブラウザで閲覧している際に、文書部分に関してアクションをとると、関連する情報を取得してユーザに動的に提示するweb mash up技術を中心に研究を進めた。内容は、web mash upをブラウザと連携して行うクライアントと、関連情報を抽出するサーバの研究に分かれる。クライアントについては特許を取得し産学連携上の成果につながり、プロトタイプを共に構築した学生が起業しその会社が育った。また、サーバに関しては関連情報を抽出する手法に関して種々の研究成果が挙がった。
著者
西村 可明 田畑 理一 岩崎 一郎 雲 和広 杉浦 史和 塩原 俊彦 荒井 信雄
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,ロシアにおいて市場経済化が開始されて十年以上経過した時点で,既に市場経済が成立したといえるのかどうか,経済成長の中長期的展望はいかなるものかについて,経済学的に正確な見解を提示することにある。そのために,(1)1992年以降のロシア経済の発展動向の分析,(2)経済改革の進捗状況の分析,(3)マクロ経済の推移と展望,(4)企業・ミクロ経済制度の考察の課題に,研究分担者・協力者による共同研究を通じて応えようとするものである。我々のある程度結論的な見解は,次の通りである。すなわち,(1)ロシア経済は1992年以降外部から移植された市場経済制度にもとづく経済活動を通じて、持続的な経済成長が確保されるようになっていることから,基本的には市場経済が成立したと見なしうること,(2)その事はミクロレベルでは企業のコーポレートガバナンスの形成によっても裏付けられること,(3)但し金融市場の整備は遅れていること,(4)経済改革の動向は一義的に分明ではなく,自由経済への接近と国家資本主 義的動きとが錯綜していること,(5)ロシア経済は長期的には人口減少の問題を抱えているが,独自のイノベーションなど技術革新が無くても,先進国からの平均的技術の輸入によってキャッチアップしながら成長を続ける巨大な可能性があることの5点に要約できる。この様な見解は,我々の研究成果の中で提示されておりそれは,大別すれば,(1)ロシア・マクロ経済の発展動向と見通しに関するもの,(2)ロシアにおける経済改革の動向に関するもの,(3)ロシアにおける経済体制の現状に関するもの,(4)ロシア企業・金融機関の制度的・実証的分析にかかわるもの,(5)その他に分類することができる。
著者
戸波 江二 古野 豊秋 畑尻 剛 小山 剛 栗城 壽夫 近藤 敦 實原 隆志 光田 督良 鈴木 秀美 小山 剛 藤井 康博 上村 都 丸山 敦裕 浮田 徹 古野 豊秋 押久保 倫夫 門田 孝 大森 貴弘 有澤 知子 赤坂 正浩 嶋崎 健太郎 渡辺 康行 根森 健 畑尻 剛 石村 修 中西 優美子 工藤 達朗
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

憲法および憲法学が現実の政治や社会に対して、また、他の法学・社会科学の分野に対してどのような規範的な力を発揮しているか、発揮すべきかについて、他分野の研究との交流、憲法の歴史的発展、外国との比較研究を通じて解明した。日本国憲法は、戦後の政治・社会において基本法としての規範力を発揮し、戦後日本の展開を支えてきたこと、民事法、刑事法の分野でも憲法が浸透し、憲法ないし憲法学との相互交流の動きがでてきている。
著者
根ケ山 光一 河原 紀子 大藪 泰 山口 創 岡本 依子 菅野 純 川野 健治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、人間の対人関係において基本的に重要な役割を果たしている身体接触に関して、その正負両面にまたがる意味を、ライフサイクルのさまざまな時期にわたって注目し、生涯発達的に検討したものである。まず、胎児期においては接触が胎動という形で採り上げられ、母親が胎内の子どもの身体と接触的にコミュニケーションする様が、「オノマトペ」を通じて明らかにされた。乳幼児の研究としては、抱き(および抱きにくさ)・身体接触遊び・ベビーマッサージといった異なるアプローチを通じて、身体接触が母子間での重要なコミュニケーションチャンネルであることが示され、またそこに子どもも主体的にかかわっていることが明らかにされた。また、母子関係を離れても、子ども同士や保育士との身体接触には、子どもの対人関係構築上の大きな機能が示唆された。さらに、寝かしつけという睡眠・分離導入場面においては身体接触の様態に大きな文化差がみられ、接触・分離が文化規定性の強い側面であることも示された。青年期になると、親子の反発性、友人関係における性や攻撃性に伴う反発性など、身体接触の負の側面が強く前面に出てくることがある。親子関係でいえば、インセストなど身体的反発性が接触への嫌悪として強くみられることが明らかにされた。また、老化とともに、身体が相手に触れることの意味がさらに変化する。介護と身体接触につながるようなテーマが介護ロボットを用いて明らかにされた。以上のような研究の成果をもちよって報告会を行い、関係構築の確固たる土台としての身体と、それを触れあわせることの発達に伴う意味の推移とが議論された。そして、それをふまえて最後に報告書を作成した。
著者
庄司 俊明 岡田 聡一 伊山 修 伊師 英之 小森 靖 宮地 兵衛 長尾 健太郎 宮地 兵衛 筱田 健一 谷崎 俊之 兼田 正治 有木 進 和田 堅太郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

Exoticベキ零錐の軌道分解から得られる交差cohomology とC型Weyl群の既約指標との間のSpringer対応を証明した。それを利用してこれらの交差cohomology のPoincare多項式に関するAchar-Henderson の予想を証明した。
著者
篠田 知和基 松村 一男 丸山 顕徳 目崎 茂和 不破 有理 廣田 律子 服部 等作 荻原 真子 栗原 成郎 吉田 敦彦 諏訪 春雄 栗原 成郎 三原 幸久 中根 千絵 鷹巣 純 目崎 茂和 後藤 明 丸山 顕徳 依田 千百子 松村 一男 岡本 久美子 立川 武蔵 小松 和彦 百田 弥栄子 小南 一郎 鈴木 正崇 門田 真知子 蔵持 不三也 不破 有理 服部 等作 広田 律子 荻原 真子 木村 武史 宮本 正興 クネヒト ペトロ 水野 知昭 中堀 正洋
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

「ユーラシアの神話の道」「海洋神話」につづき、主として天空の神話を世界神話においてしらべて比較し、そこから各文化の世界観、すなわちコスモロジーを究明した。天空神話としては日月、風、星辰、それに「天界」の神話をとりあげた。
著者
伊藤 耕三 木戸脇 匡俊 酒井 康博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、超分子を利用した新規高分子材料の創成を目指しており、超分子構造の一種であるポリロタキサンを応用して、側鎖が軸高分子上を自由に動く様々なスラディンググラフトコポリマー(SGC)を合成し、これを用いて新しいミクロ相分離構造と物性を示す高分子材料を構築することを目的としている。本年度はまず、軸高分子(ポリエチレングリコール)の長さが一定で、グラフト鎖の長さと数が制御されたSGCの合成を試みた。我々のこれまでのポリロタキサンの修飾法は、多数あるシクロデキストリン(CD)水酸基に対してランダムに置換基を導入していたため、1つのCDに対する置換基の数や位置を厳密に定義するのは困難であった。本研究では予め官能基を導入したCDを用いてポリロタキサンを合成し、反応サイトを限定する。CD誘導体については、初めはMono-hydroxy α-CDのように市販されているものを購入して使用した。あるいは、多くの論文や成書で確立した合成法が報告されているので、それらに従い合成することも可能である。一方、グラフト鎖の導入方法としては、酸クロライドなどの水酸基と反応性の高い末端を有する高分子を結合させる方法と、ポリロタキサンからモノマーの重合反応により高分子鎖を成長させる方法が考えられる。本研究ではまず、精密な反応の制御が可能なリビング重合の一つであるATRP法により、モノマーとして疎水的なブロック鎖を形成するメタクリレート誘導体を用いた重合反応を試みた。合成した試料の同定は主にNMRによって行い、また、分子量の評価には本年度新たに導入した示差屈折計検出器を用いた。尚、本研究は、科学研究費補助金(基盤研究(S)・課題番号:20221005・研究代表者:伊藤耕三)の採択に伴い、平成20年8月11日付けで廃止となった。
著者
新山 馨 米田 健 奥田 敏統 山下 多聞
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

東南アジアの熱帯多雨林で、地下部の相対成長式を実測により作成し、正確な地下部現存量をはじめて明らかした。半島マレーシア、パソ森林保護区の熱帯多雨林で、最大幹直径、116cmの個体を含む121個体(78種類)の地下部を掘り取り調査した。細根と調査中に失われた根の量も補正し、精度の高い地下部現存量推定式を作成した。地下部、地上部のバイオマスは95.9 Mg ha-1と536 Mg ha-1、地下部・地上部の比は0.18と推定された。
著者
丸野 俊一 加藤 和生 仮屋園 昭彦 藤田 豊 小林 敬一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

子どもの発達に応じた創造的ディスカッション(CDC)技能を育む学習/教育環境作りに関する3年間の研究成果は次の通りである: 1)"CDC技能を育む学習/教育環境作りの基本型は対話中心(「子ども主体の話し合い・学び合う」)の授業実践にある"という前提の基に、対話を中心とした授業実践作りに向けての「学びの共同体」作りを行い、現場教師の実践力の向上を図るアクションリサーチを展開した。3年間に渡る追跡研究の中から、身体化された実践知を客観的に可視化し、支援する教師成長過程モデルを構築し、その妥当性を検証した。 2)子どものCDC技能はどのように発達していくのかに関する発達段階モデルを、「態度」「技能」「価値」の諸側面を考慮しながら構築し、その促進を図る為には、どのような学習/教育環境作りが不可欠であるかについての縦断的な追跡研究を行った。 3)対話を中心とした授業実践を行う為には、教師は「新たな授業観」(授業とは子どもと協同構成するもの)のもとに「子どもの視点を取り入れた事前指導案作り」を行い、実践の中では「最適な心理的距離」(自分の感情に振り回されない、遂行上の責任性)の取り方に注意し、3つの位相(授業前、授業中、授業後)での省察的思考に熟達化していくことが不可欠であることを実証した。 4)子どものCDC技能の育成には、"対話を支える談話的風土作り"(グランドルール作り)が教科を超えて必要であるが、創造的・批判的思考が広まる/深まるような対話が生まれる為には、具体的な授業実践の文脈の中でグランドルールの重要性を認識する/体験するような教師からの働きかけが不可欠である。 5)教師の"対話を中心とした授業実践力"の向上と、子ども達の創造的・批判的なCDC技能の向上との間には、車の両輪のごとく、切るに切れない双方向性の関係があり、一つのシステムとして機能する。
著者
川田 順造 鈴木 裕之 鶴田 格 分藤 大翼 塚田 健一
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

世界でもアフリカ地域はとくに、「音文化」が豊かに発達し、継承されてきた地域だ。西洋近代で作られた「音楽」に当たる概念はあまりに狭いので、口頭伝承、器音、身体表現をともなう歌や囃子なども含めた「音の文化」を、私たちの班では研究対象としてきた。近年日本へも盛んにミュージシャンが来演している「グリオ」系の声のパフォーミング・アーツはじめ、アフリカ起源のアメリカ黒人が生んだ、ジャズ、レゲエ、ラップにいたるまで、20世紀の世界の音楽は、アフリカの音文化を抜きにして語ることができない。アフリカでもすでに、いくつもの音文化がユネスコの世界無形文化遺産として登録されているが、大陸全体での音文化の豊かさから見れば不十分であり、ユネスコなどの国際機関を通じて世界に知らせるべき無形文化遺産(日本の公式用語では無形文化財)はまだ多い。私たちの研究班では、アフリカのさまざまな地域ですでに長い調査体験をもつ研究者の、現地調査に基づく第一次資料によって、今期3年度間には、無形文財を支えている地域社会との関係を明らかにする研究を行った。無形文化財は、有形のものと異なり、それを担い、未来に向かって継承してゆく地域社会との結びつきが極めて重要であり、地域社会なしには、無形文化遺産はあり得ないと言ってもいい。今期私たちの班では、西部アフリカ(ブルキナファソ、ギニア)、中部アフリカ(カメルーン)、東部アフリカ(エチオピア、タンザニア)と、かなり偏りなく取りあげられた地域社会について、それぞれが継承してきた音文化との関わり、継承の未来について研究した。その研究成果は、研究代表者川田が多年専門家として活動してきたユネスコにも報告しており、活用されることが期待される。
著者
石川 烈 吉江 弘正 村上 伸也 栗原 英見 和泉 雄一 西原 達次 岡野 光夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

現在行われている歯周治療では歯周炎の進行を阻止することにとどまり、歯周炎により破壊された組織を健常な状態に戻す再生治療には至っていない。歯周組織の再生研究は3段階の過程として示すことができる。第1段階は組織再生誘導法と呼ばれる処置で、破壊された歯周組織への上皮の侵入を阻止し、周囲の組織からのその部位への細胞増殖を待ち、定着させる方法である。これに対して第2段階の進歩は単に待つのみではなく、成長因子等を加えることにより積極的に再生を導き出そうとするものである。本研究班では川浪らはBMP-2を、和泉らはGDF-5を、村上らはβ-FGFを用いて研究を進め、それぞれの成果を示しているが、いずれも期待させる成果を得ている。第3段階の進歩は再生を導く歯周組織細胞を欠損部に直接用い、更に確実に再生を導こうとする研究である。即ち自己細胞移植を軸とした組織工学を応用した新しい歯周組織再生治療法を世界に発信することである。栗原らは骨髄からの間葉系細胞を用いて、吉江らは骨膜間葉細胞を用い、五味らは歯髄細胞を用い、大石らはヘルトビッヒ上皮鞘細胞を用い、太田らは自己増殖細胞歯根膜組織を用いてその再生機構を追求した。石川らは岡野の開発した温度応答性培養皿を用い、ヒト歯根膜細胞のシートを用いた歯周組織の再生を試みた。この結果、自己歯根膜シートを歯周組織欠損部に移植することにより、ほぼ完全なセメント質とシャーピー線維を伴う歯周組織の再生が得られることを見出した。渡辺はその臨床応用を可能にするCPCを構築した。基礎研究として小方らは石灰化機構に重要な役割を果す骨シアロタンパク質の転写促進機構を明らかにし、西原らはムコ多糖類のコンドロイチン硫酸の破骨細胞分化抑制機構を明らかにした。これらの研究は2回にわたって研究成果報告会として発表され、公開された場で充分な討議を行い、真の再生治療への可能性が高まった。
著者
月本 昭男 佐藤 研 山我 哲雄 市川 裕 澤井 義次 鎌田 繁 池澤 優 河東 仁
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究はユダヤ教,キリスト教,イスラム教における神観につき,比較宗教史的観点から、4.で述べるように、四つの側面から実証的総合研究を行った。そのうち、(1)「古代ユダヤ教における一神教成立の解明」については、下ガリラヤのテル・レヘシュ遺跡発掘調査により、古代イスラエル最初期の宗教に関する実証的なデータが発見され、成果の一部はV国際宗教史会議(トロント大学、2010年8月)および「国際ガリラヤ会議」(立教大学、2011年5月)で公表した。(2)~(4)の課題の研究成果については、以下の報告4を参照されたい。
著者
大河内 直彦 山田 桂太
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では,地質時代の海底堆積物中に含まれるクロロフィル(光合成色素)およびその分解生成物の窒素安定同位体比(15N/14N比)測定を,世界ではじめて地質学試料に展開した。多くの海洋表層環境において,窒素は生物生産を制限している重要な栄養塩である。その栄養塩と生物生産の動態を,窒素同位体比を用いて復元した。ナミビア沖,日本海,南極アデリー海から採取された堆積物を分析した結果は,最大過去250万年間におけるそれらの海域の窒素サイクルの大枠を示した。
著者
酒井 啓子 飯塚 正人 保坂 修司 松本 弘 井上 あえか 河野 毅 末近 浩太 廣瀬 陽子 横田 貴之 松永 泰行 青山 弘之 落合 雄彦 廣瀬 陽子 横田 貴之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

9-11事件以降、(1) 米国の中東支配に対する反米意識の高まり、(2) イスラエルのパレスチナ攻撃に対するアラブ、イスラーム社会での連帯意識、(3) 国家機能の破綻に伴う代替的社会サービス提供母体の必要性、を背景として、トランスナショナルなイスラーム運動が出現した。それはインターネット、衛星放送の大衆的普及によりヴァーチャルな領域意識を生んだ。また国家と社会運動の相互暴力化の結果、運動が地場社会から遊離し、トランスナショナルな暴力的運動に化す場合がある。
著者
横山 泰 生方 俊
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

代表的な熱不可逆フォトクロミック化合物であるジアリールエテンは、ヘキサトリエン部位が光環化する際に二つの不斉炭素を生じる。ヘキサトリエン部位の周辺に不斉炭素を導入すると、環化で生じる不斉炭素の絶対立体配置が片方に偏って、ジアステレオ選択的なフォトクロミズムを生じる。我々は、ヘキサトリエンの末端に不斉炭素を導入した化合物1を合成し、不斉炭素の周辺に働くアリリックストレインを立体配座のパイロットとして用いて、88%から94%deと、高いジアステレオ選択的フォトクロミック閉環反応を実現してきた。しかし、用いる複素芳香環の接続位置を3位から2位に変えた化合物2では、比旋光度変化は13000と大きいものの、ジアステレオ選択性は47%deと大きく低下した。そこで、電子反発を有効に働かせることができるために高い選択性を示すであろう分子3を設計し、合成を行った。その結果、3の光環化におけるジアステレオ選択性は90%deまで向上した。それに伴って、光反応に伴う比旋光度変化は9530の変化を示した。この結果は、J.Org.Chem.に掲載された。さらに、アリリックストレインを働かせるパイロット置換基を両側のベンゾチエニルエテンにつけた化合物を合成したところ、ビスベンゾチエニルヘキサフルオロシクロペンテンの化合物4ではジアステレオ選択性は98%de、比旋光度変化は142goを示した。残念なことに、同じ置換基をつけたビスナフトチエニルエテン5、ベンゾチエニル基とナフトチエニル基をもつもの6、については、光反応性が極端に低下し、紫外光照射によってわずかな着色体を与えるのみであった。
著者
河村 公隆 渡辺 興亜 中塚 武 大河内 直彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、グリーンランド(Site-J)で採取した氷床コア中に生物起源の脂肪酸を検索し、炭素数7から32の脂肪酸を検出した。海洋生物起源の脂肪酸(C_<12>-C_<18>)の濃度は、1930-1950年代に高く1970年代にいったん減少した後、1980年代に増加することがわかった。濃度増加が認められた時代は、温暖な時期に相当しており、この時期には海氷の後退と低気圧活動の活発化によって海水表面からの大気への物質輸送が強化されたものと考えられる。また、シュウ酸(炭素数2のジカルボン酸)から炭素数11までのジカルボン酸を検出した。ジカルボン酸の炭素数分布の特徴は、コハク酸(C_4)がほとんどの試料で優位を示したことであったが、19世紀以前は優位でなかったアゼライン酸(C_9)が20世紀になって急激な濃度増加をし、1940年代に大きなピークを示した。アゼライン酸は生物起源の不飽和脂肪酸の光化学反応によって選択的に生成される有機物であることから、この結果は、海洋生物由来の有機物の大気への寄与がこの時期に大きく増加したことを示すとともに、それらが大気中で光化学的に酸化されたことを意味する。南極H15アイスコア中にUCM炭化水素やPAHを検出したことにより、人為起源物質が南極氷床まで大気輸送され、保存されていることが明らかとなった。これらの濃度は1900年以降増加しており、この結果はグリーンランドアイスコアの傾向と一致した。このことから、1900年代以降、全球的に大気中の人為起源物質が増加したことが示唆された。不飽和脂肪酸や低分子ジカルボン酸の組成比から推定された大気の酸化能力は、過去350年間において大きく変動したと考えられる。アゼライン酸とその前駆体である不飽和脂肪酸の濃度比は、1970年代以降急激に増加しており、南極における対流圏の光化学的酸化能力が、1970年代以降、成層圏オゾン濃度の現象に対応して増大している可能性が示唆された。
著者
山本 一良 津島 悟 榎田 洋一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

超臨界流体中での大きな同位体効果が観測されたクリプタンド(2B,2,1)を固定相とし,超臨界二酸化炭素にメタノールを添加して塩化チウムを溶解させた流体を移動相とする系について,ブレークスルー方式によるクロマトグラフィー実験を行うことにより減圧して得られる溶出液中のLiの同位体比を誘導結合プラズマ質量分析計で測定した.溶出曲線におけるLi濃度とLi同位体比より,平衡分離係数と理論段相当高さを解析により算出し,圧力によって変化する溶媒和効果との相関を試みた.得られた平衡分離係数は,一例としては,10MPaの場合に1.025±0.009であり,理論段相当高さは約10mmであった.平衡分離係数については,超臨界二酸化炭素を用いずメタノール溶媒だけを用いた実験結果は1.040であったので,溶媒和効果の影響があり,圧力を変えることで平衡分離,係数を制御できることがわかった.圧力を高めた場合には,樹脂に対する吸着量が大きくなる傾向があり,理論段相当高さを小さくできることがわかった.溶出曲線におけるLi濃度とLi同位体比より,平衡分離係数理論段相当高さおよび吸着容量を解析により算出し,二酸化炭素モル分率によって変化する溶媒和効果との相関を試みた.この結果,二酸化炭素モル分率が小さくなると溶媒和の効果が大きくなり平衡分離係数を大きくできるが,吸着容量は小さくなることから,工学的な同位体分離においては,二酸化炭素モル分率すなわち溶媒和の大きさに最適値が存在することがわかった、さらに,超臨界二酸化炭素中の溶媒和の効果を理論的に解析するために,クラウンエーテルやポリエチレングリコールのように超臨界二酸化炭素に親和性を有する分子をモデル分子として,Gaussian 98による量子化学計算を実施し,実験結果を定性的に説明する結果を得た.