著者
若林 雅哉
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

川上音二郎による翻案劇制作を研究対象とし、その受容環境との関係を中心に考察を行った。翻案劇の制作は、まずは受容環境への適応として現れるが、しかし次世代の受容の素地となっていく。翻案制作は、次世代にとって乗り越えるべき「ひとときの代用品」にはとどまらない。「歌舞伎受容層」への適応としての川上演劇のあり方と、「探偵劇」という従来は注目されていなかった様相を考察することを通じて、次世代の受容基盤を川上音二郎の制作が提供していることを明らかにした。また、翻案は制作当時の歴史的な受容のなかでは翻案としては認識されず、その役割を終えたときに翻案と認定されるという、芸術制作の認識にかかわる理論的な知見を得た。以上は、共著書・論文・講演・学会発表のかたちで公表した。
著者
若松 寛 橋本 伸也 渡邊 伸 渡辺 信一郎 河村 貞枝
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

(1)本研究は、多様な生産形態・民族・言語・宗教・文化を基礎に政治的統合を達成した国家を帝国システムとして捉え、システム内部の諸要素の比較史的検討を通じて、世界史上における多様な政治的統合のあり方を解明すると共に、国家そのものの現在的意味を問いなおすことを目的とし、3年間共同研究を行ってきた。その成果は次のとおりである。(2)若松寛は、清朝による青海地方平定の後、ここに設置された旗の数に関し、当初の29旗が1746-1806年の期間のみ30旗あったことを解明した。(3)河村貞枝は、ヴィクトリア期からエドワード期にかけての帝国体制・帝国文化の中で形成されたイギリスの「第一波」フェミニズム運動をとりあげ、その本質が帝国主義の問題を中心に内包するものであったことを指摘し、インド女性との関係、ボ-ア戦争に対する姿勢、国際的なフェミニズムの連携に果たした役割などを考察した。(4)渡辺信一郎は、『大唐開元礼』に規定される唐王朝の元旦儀礼の訳注をおこない、元旦儀礼をつうじて象徴的に表現される皇帝と中央官僚との君臣関係、中央政府と地方政府及び諸外国・異民族との政治的従属関係の存在を指摘し、それらを唐王朝の帝国構造として把握した。(5)渡邊伸は、神聖ローマ帝国に関する近年の二つの研究動向に注目した。その一つは、帝国を「平和」のための法共同体とするものであり、いま一つは皇帝を中心とする人的結合関係から帝国をとらえようとする。そして事例考察から帝国システムの解明に後者の方向が有効と指摘した。(6)橋本伸也は、3次にわたるポーランド分割によってロシア領となった西部諸県の18世紀以来の教育的伝統を踏まえたうえで、19世紀前半のポーランド・シラフタを対象とした帝国の民族教育政策の転回について考察した。
著者
池田 忍 柴 佳世乃 久保 勇 伊東 祐子 亀井 若菜 水野 僚子 土屋 貴裕 成原 有貴 メラニー トレーデ 須賀 隆章 中村 ひの
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、日本の中世の物語絵画、とりわけ多様な知識や情報を共有し伝達する媒体であった絵巻の描写を手がかりに、身分と階層を跨る絵巻制作者と享受者の重層的な世界観を明らかにしようとするものである。本研究では、中世の人々の日常生活、労働、信仰、行事、儀礼、合戦の他、異国や異域、神仏化現の舞台となる「場」(型)を抽出・収集し、そこに描かれた建築や環境、多様な「もの」に、身分差や階層差、ジェンダーの差異がどのように描き分けられ、関連付けられているかを具体的に検証し、物語絵画、とりわけ絵巻という媒体の歴史的特性を明らかにした。
著者
前川 玲子 若島 正 加藤 幹郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、両大戦間の時期を中心に、ファシズムを逃れてアメリカに亡命した知識人たちが、アメリカの文化や社会との出会いの中でどのような思想変容を遂げ、同時にアメリカ社会にどのような変化をもたらしたかという相互変容の歴史を辿るものである。我々は、「亡命」という概念を、政治的・民族的な迫害による望まざる移動という客観的現実と、トランス・ナショナルな可能性を追求しようとする新たな主体の形成という二重の視点から捉えようとした。具体的には、ロシア、ドイツ、東欧を逃れてアメリカに移住し、「異郷」を永住の地にした多彩な知識人の生き様、彼らの残した作品、アメリカ文化・社会への影響などに焦点をあてた。地理的移動、文化的な異種混交、祖国からの心理的断絶と望郷、および「家郷なきもの」の疎外感などに注目しながら、個々の人物や集団の思想的変容や新たな表現形態の獲得などを探っていった。学際的な亡命知識人研究を目指そうとした我々は、三つのアプローチを用いた。第一は、ナチズムから逃れてきた学者に研究の機会を提供した高等教育機関や財団などの資料をもとに、ヨーロッパとアメリカを結ぶ知のネットワーク作りに果たした亡命学者の役割を検証するものである。第二のアプローチでは、亡命知識人の中でアメリカ文学に大きな影響を与えたウラジーミル・ナボコフの小説を取り上げ、そのテキスト分析を中心に据えた。第三のアプローチでは、亡命者がアメリカの大衆文化、とくに映画産業に与えた影響を辿った。本報告書において我々は、ナチズムと対峙するなかで新たな学問的パラダイムを形成していった社会科学者たち、ナボコフを中心とした亡命文学者、さらには映画の観客としてまた製作者としてアメリカ映画史に一時代を築いた移民や亡命者などの実像に迫ることで、知識人の「亡命」という現象がもたらしたアメリカの文化的、社会的変容の複雑な諸相を示そうとした。
著者
若月 剛史
出版者
学習院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は、大正期から昭和初期にかけての技術官僚の政治的動向について重点的に研究を進めた。その一環として、東京大学工学部や国立国会図書館などで史料調査を行ったほか、2010年8月から2011年3月にかけて、米国のUC・バークレー校日本学研究所に滞在し、戦前日本の技術官僚の政治運動に多大な影響を与えたアメリカの技術者諸団体(ASCEやAICEなど)に関する史料を収集した。その成果の一部として、同研究所のセミナーで"The activities of technocrats under Political Party Rule in Japan"(「政党内閣期(1924年~1932年)における技術官僚」)と題する報告を行った。また、前受入研究者であった村松岐夫氏(京都大学法学部名誉教授、行政学)が残された文書を整理し、目録を作成して公表した。同文書には、戦後の各種審議会や研究会についての貴重な史料が含まれており、本研究を進めるうえでも大きく資するものであった(同文書は今後、しかるべき史料収蔵機閥において公開される予定である)。他に、戦前日本の政党内閣制や官僚制を考えるうえで重要な史料である「牧野伸顕日記」、「入江相政日記」、「浜口雄幸日記」についての小論を執筆した。現在、これらの研究成果を踏まえたうえで、本研究の完成を目指して研究を進めているところである。
著者
若松 昭子
出版者
聖学院大学
雑誌
聖学院大学論叢 (ISSN:09152539)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.325-338, 2006-03-27

One of the influences of printing, invented in the middle of the 15th century, is the modernization of the book. In the history of printing, the most significant change was the appearance of the title-page which made clear who was responsible for writing the book and brought about the right of authorship. The appearance of the title-page and its process development in the latter half of the 15th century are studied through examination of the incunabula of the Newberry Library.
著者
和崎 春日 松田 素二 鈴木 裕之 佐々木 重洋 田渕 六郎 松本 尚之 上田 冨士子 三島 禎子 若林 チヒロ 田中 重好 嶋田 義仁
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

科研共同研究の最終年度にあたり、報告書に向けての総括的なまとめ討論をおこなった。とくに、日本における第1位人口をしめるナイジェリア人と第2位人口のガーナ人の生活動態については、この分野の熟成した研究を共同討論のなかから育てることができた。日本への来住ガーナ人のアフリカ-日本-アフリカという、今まであまり報告されていない新しい移民動態の理論化(若林ちひろ)や、日本に来住したナイジェリア人の大企業従業員になろうとするのではない、起業活動に向かう個人的・野心的なアントルプルヌーシップについての新規な理論化(川田薫)と、まったく情報のなかった、その日本における協力扶助と文化維持のアソシエーション活動の詳細な記述報告(松本尚之)、さらには、アフリカ-日本-アメリカという地球規模のネットワーク形成がナイジェリア人によってなされている動態を、アフリカ移民論のまったく新しい指摘として提示しえた。また、アフリカ人の芸能活動についても、ギニア、マリ、セネガルといった西アフリカ・グリオ音楽文化の「本場」とされる地域からの日本への来住アフリカ人の活動調査と、そのアフリカの母村での活動状況の調査の両方を行い、それをめぐる、やはり新規性に富む、日本ーアフリカ間の何層からもなる往来活動を抽出し、指摘・一般化することができた(鈴木裕之、菅野淑)。こうしたポジティブな活動側面のほかに、ネガティブなHIVをはじめとする病気の実情とそれにむけるホスト社会側からの協力の可能性についても重要な研究糸口を提案している(若林ちひろ)。1年後に『来住アフリカ人の相互扶助と日本人との共生に関する都市人類学的研究』と題して報告書を出版し、この共同研究の成果と今後の継続的発展について、アフリカ学会における集中発表でも熱い期待と高い評価を得た(2008年5月於・龍谷大学)。
著者
磯部 彰 金 文京 三浦 秀一 若尾 政希 大塚 秀高 新宮 学 磯部 祐子 鈴木 信昭 高山 節也 中嶋 隆藏 勝村 哲也 尾崎 康 藤本 幸夫 関場 武 栗林 均
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

本領域研究では、共同研究及び個別研究の両形態をとって研究を進めてきた。研究組織を円滑に運営するため、総括班を設け、目的達成への道標として数値的目標を掲げ、構成員が多角的方法をとりながらも、本研究領域の目標を具体的に達成し得るようにした。本研究では、東アジア出版文化を基軸とする新学問領域を確立することを目標とし、その骨格をなす要素を数値的目標に設定した。それは、(1)東アジア出版文化事典の編纂準備、(2)東アジア研究善本・底本の選定と提要作成、(3)東アジア研究資料の保存と複製化、(4)日本国内未整理の和漢書調査と目録作成、であり、更に、(5)東アジア出版文化研究の若手研究者の育成、(6)国際的研究ネットワークの構築などを加えた。初年度には、総括班体制を確立し、ニューズレターの発刊、ホームページの開設、運営事務体制の設定を行い、計画研究参画予定者を対象に事前の研究集会を実施した。平成13年度からは、計画・公募研究全員参加の研究集会と外国研究者招待による国際シンポジウムを毎年開き、国内の研究者相互の交流と国外研究ネットワークの構築を推進した。前半2年は、総括班の統轄のもとで、主として東アジア出版文化をめぐる個別研究に重点を置き、共同研究の基盤強化を図った。新資料の複製化も同時に進め、東アジア善本叢刊4冊、東アジア出版文化資料集2冊を刊行する一方、展覧会・フォーラムなどを開き、成果の社会的還元を行なった。研究面では、後半は共同研究を重視し、調整班各研究項目での共同研究、並びに領域メンバーや研究項目を越えて横断的に組織した特別プロジェクトを4ジャンル設定し、総括班の指導のもとに小研究域として定着させた。年度末ごとに報告書を編集する一方、前後の終了時に研究成果集を作成している。研究領域の数値的目標は約四分之三達成し、窮極の目的である新学問領域設定も、概然的ながら構想化が具体的になった。
著者
柳井 晴夫 亀井 智子 中山 和弘 松谷 美和子 岩本 幹子 佐伯 圭一郎 副島 和彦 中野 正孝 中山 洋子 西田 みゆき 藤本 栄子 安ヶ平 伸枝 井上 智子 麻原 きよみ 井部 俊子 及川 郁子 大久保 暢子 小口 江美子 片岡 弥恵子 萱間 真美 鶴若 麻理 林 直子 廣瀬 清人 森 明子 奥 裕美 外崎 明子 伊藤 圭 荘島 宏二郎 植田 喜久子 太田 喜久子 中村 洋一 菅田 勝也 島津 明人 金城 芳秀 小林 康江 小山 眞理子 鶴田 恵子 佐藤 千史 志自岐 康子 鈴木 美和 高木 廣文 西川 浩昭 西山 悦子 野嶋 佐由美 水野 敏子 山本 武志 大熊 恵子 留目 宏美 石井 秀宗 大久保 智也 加納 尚美 工藤 真由美 佐々木 幾美 本田 彰子 隆 朋也 中村 知靖 吉田 千史 西出 りつ子 宮武 陽子 西崎 祐史 山野 泰彦 牛山 杏子 小泉 麗 大西 淳子 松本 文奈 鶴見 紘子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

近年、看護系大学の急増と医療の高度化に伴い、卒業までに取得すべき看護実践能力の評価の重要性が増加している。その一環として、臨地実習に入る直前の段階までに看護学生が取得すべき知識・能力を正しく評価しておくことは看護実習の適正化のための急務の課題である。このような状況に鑑み、申請者は、2008~2010年に科学研究費補助金を受け、看護系大学の学生が臨地実習以前に必要とされる知識・能力の有無を検証することを目的として、看護学18領域から約1500の多肢選択式形式の設問を作成し、730名の学生に紙筆形式のモニター試験、および、220名の学生に対するコンピュータ試験(CBT:Computer Based Testing)を実施し、その結果を比較し、全国看護系大学共用のコンピュータ試験の有用性を確認した。
著者
伊藤 健児 若山 公威 岩田 彰 梅田 英和
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告マルチメディア通信と分散処理(DPS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.26, pp.147-152, 2006-03-16

2005年6月から7月にかけて、「IT実証実験」として、愛・地球博の会場において、最大130台規模の大規模モバイルアドホックネットワークの実証実験を行った。実証実験では、アドホックネットワークにおける位置推定、およびPKIベースの機器認証と暗号化通信に基づくセキュア通信の実証を目的とし、自由に動き回っている多数の端末間でも、的確にマルチホップ通信が行えることを確認したが、規模の拡大に伴いメッセージ数の増加が問題となった。実証実験の経験から、本研究では動的なルーティングパラメータの変更による通信メッセージ数削減手法を提案し、静的パラメータを用いた従来方式より、同等の遅延時間を保ちつつ、メッセージ数を削減できることを確認した。From June to July 2005, we have executed an experiment of large scale mobile ad hoc networks using 130 mobile wireless LAN terminals as "IT Proof Experiment" at "EXPO 2005 AICHI, JAPAN". The purpose of this experiment is to examine our position estimation method on ad hoc networks, and secure communication protocol based on authentication and encrypted communication (PKI). It has been confirmed that multi hop communications between many moving terminals were possible, but the more terminals using, the more packet collisions occurred because of message increasing. A method to change routing parameters dynamically is proposed in this paper. It has been investigated the proposed method can reduce messages than conventional method using static parameters though keeping same delay time.
著者
福 知栄子 倉知 桂子 若林 敏子 内本 充統
出版者
岡山県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

岡山県内ファミリーサポートセンター依頼会員調査からセンター活動の活用状況や期待および課題を捉え、さらに全国アドバイザー調査からはセンター活動の支援状況や支援プロセスおよび今後の課題等を把握した。また、事例を通して地域子育て支援活動としてセンター活動が果たすコーディネート機能について検討した。依頼会員は、子育てへの安心感(緊急支援)を得ることやワークライフバランスを図るために登録をしている。提供会員には、子どものケア・ニーズへの対応とともに、親のニーズへの対応も期待している。地域住民参加型の子育て支援ネットワークづくりへの依頼会員の貢献が今後の課題である。アドバイザー調査からは、センター活動がひとり親、障害のある親、外国人の親等多様な家族を支援する実態がみえる。支援活動の質を左右するマッチング場面のアドバイザー同席は半数である。提供会員研修には、手どもの育ちや応急手当等と子育て不安への理解等親関連の内容も含まれる。センターが地域関連機関との間で情報交換をするのは、保健所や保育所が最も多く、次に子育て支援センターや主任児童委員等である。個別ケース支援の連携もあり、アドバイザーのコーディネート機能による地域連携活動として、くらしが不安になる離婚前後での支援や親の精神的不安が強い時期の支援等の事例がみられる。今後の課題は、提供会員の量的拡大と質的向上、関連機関との連携の充実、アドバイザーの知識・技術の向上等である。適切で柔軟なコーディネートができるアドバイザーの質的向上のための研修体制・スーパービジョン体制の確立が重要である。子育て家族が抱える課題を共通理解し、地域で子どもと家族を支援するチームとして支援者と親が協働で活動することが今後のセンター活動の展望を切り開く。
著者
佐々木 徹 若島 正
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

佐々木はアムステルダムで行われた国際ディケンズ学会で、アメリカの批評家エドマンド・ウィルソンによる画期的なディケンズ論を再考する学術講演を行った。この中では英国の学者たちによるウィルソンに対する反論を考察した。また、チェスタトンの著したディケンズに関する古典的研究書の解題・序論を英国の出版社から世に問うた。特に、この論の中では、ディケンズのトランスアトランティック的体験、すなわち彼のアメリカ旅行をチェスタトンがそのディケンズ論の中心においていることの意味を考察した。若島は、トランスアトランティックという概念をさらに広く異文化間交流の問題につなげて研究を進め、ウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』をテキストとして、その諸言語における翻訳がいかにさまざまな文化間を越境する場を生み出すかを考察した論文を発表し、日本英文学会関西支部の年次大会において、「コスモポリタニズムと英米文学」と題されたシンポジアムで司会兼講師を務め、「亡命文学の変容」というテーマで発表を行った。このコスモポリタニズムという概念が、あらゆる側面におけるグローバル化とも関連して、トランスアトランティックという英米交流の主題と近接するのは言を俟たない。「亡命文学の変容」で取り上げたのは、ドイツのロシア人、およびアメリカのロシア人である現代作家2人で、異郷に同化したこの2人のロシア人が描く物語が、いかにナボコフが描いたような過去の亡命文学から隔たっているかを論じた。また、「英語青年」誌に掲載された論文「ジョン・ホークスと飛田茂雄」は、ある意味で文学を通じた日米交流の一記録をたどり直した論考でもある。
著者
高橋 明善 古城 利明 若林 敬子 大内 雅利 黒柳 晴夫 桑原 政則
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

一 研究課題1 日米特別行動委員会(SACO)合意に基づく沖縄の基地返還・移設、跡地利用に関する研究(1)名護市における基地移設・ジュゴン保護と住民運動。(2)普天間飛行場移設問題の政治過程。(3)読谷飛行場の返還と跡地利用計画に関して1996年のSACO合意以来の経過を追跡研究した。2 基地引き受けの代替として進められる地域振興策と内発的振興の研究を次の場面で実施した。(1)基地移設に関する日米SACO合意の実施過程。(2)移設先並びに沖縄北部振興(3)読谷飛行場跡地利用 (4)普天間飛行場跡地利用 (5)環境保全と観光開発3 沖縄を中心とする国際交流の研究。沖縄の持つ国際性を移民社会と歴史研究の中で検討した。(1)中国と沖縄の歴史的交流の研究 (2)ブラジルにおける沖縄文化 (3)歴史の中の沖縄とアジア二 研究上の留意点と得られた成果主要研究テーマである基地の返還・移設問題に関して次のような問題を特に重視した。(1)沖縄の戦略的位置づけの変化による米軍再編と基地負担軽減問題。(2)移設元の普天間基地所属の沖縄国際大学への落下、騒音、婦女暴行、危険な訓練実施などの基地被害、基地災害がもたらす基地批判世論の盛り上がり。(3)普天間基地の名護市移設がもたらす環境破壊に反対する運動の国際的拡がり。(4)知事先頭の日米地位協定改定要求運動。(5)以上の結果としてもたらされた普天間基地移設見直しと日米政府の政策転換。(6)普天間基地移設をめぐる政治過程と跡地利用問題。(7)読谷飛行場の返還と跡地利用計画の進展。得られた最も重要な知見は次の2点にある。(1)環境保全への配慮なくしては基地問題の処理も、地域振興も不可能であるほどに環境問題が地城政策の実施にとって根本的な重要性をもつにいたった。(2)沖縄の基地の存在と基地政策は、日米政府による世界最強のシステムが作り出したものである。しかし、そのシステム世界も住民の生活世界からの抵抗を受けることにより、政策を調整・譲歩せざるを得なくなったという重要な帰結がもたらされた。ふたつの世界の葛藤のダイナミズムの研究を通して歴史変動への想像力を拡大することができた。
著者
大羽 和子 山本 淳子 伊藤 幸子 藤江 歩巳 竹内 若子
出版者
日本海水学会
雑誌
日本海水学会誌 (ISSN:03694550)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.234-240, 2002-05-24
被引用文献数
1

日常, 果実や野菜の褐変防止に食塩が用いられる. 酵素的褐変を触媒するポリフェノールオキシダーゼ (PPO) の活性は食塩により阻害されるといわれている. 本研究では, 市販のりんご果肉, ジャガイモ塊茎, 黒緑豆もやし胚軸の粗酵素液中に複数の異なるPPOアイソザイムが存在することを, SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で明らかにした. また各アイソザイムの食塩に対する感受性には若干の差異がみられた. 次に, 食塩によるPPOの阻害様式を明らかにするために, 黒緑豆もやし胚軸からpI 6.7のPPOアイソザイムを硫酸アンモニウム分画, 2種類のカラムクロマトグラフィーにより426倍に精製した. 本酵素は分子量約40kDaのほぼ単一なたんぱく質にまで精製された. 精製酵素のクロロゲン酸 (基質) に対する見かけのKm値は1.3mMであり, 食塩による阻害様式は非拮抗型で, その阻害定数 (Ki) は0.22Mであった.
著者
若林 敬子 聶 海松 馮 文猛 左 学金 周 海旺 周 大鳴 麻 国慶 李 強
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は中国人口問題についての社会学的実証調査研究であり、特に国策として位置づけられている"人口と環境"問題について、今回は、高齢化・社会保障・出生性比の視点から多角的なアプローチを行ってきた。都市(上海市、北京市)、農村(湖南、海南、内モンゴル)の5地区で本格的社会学的サンプリング調査、量的・質的調査をこれまでに行い、その問題点を総合的にあぶりだすことに成功した。また、その理論的・実証的な比較と総括をまとめあげ、中国の人口問題の社会学的研究の最新結果の公表・刊行した。
著者
大原 利眞 神成 陽容 若松 伸司 鵜野 伊津志
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.103-112, 2000-03-10
被引用文献数
1

1997年7月2日10時頃,東京湾中央部において大型タンカーが底触し,大量の原油が流出した。流出油は揮発性の高い原油であったため,その3割程度はすぐに蒸発し大量の石油蒸気として大気中に放出された。本研究は,この原油流出事故による大気環境影響を実測データ解析とモデル数値解析によって検討した。実測データを解析した結果,東京湾央部の流出油から揮散した高濃度NMHCは風速10m/s程度の南西風によって東京湾北東部から茨城県南部にパフ状に輸送され東京湾北部陸上で最高6ppmCに達したこと,高濃度NMHCパフの通過時にはNMHCとともに光化学オキシダントも上昇することが認められた。次に数値解析によって事故による大気環境影響を検出した。基本ケースの数値計算によって原油流出に伴う大気環境影響の基本的特徴が再現されるのを確認した後,事故ケースと事故なしケースの差を影響量とみなして分析した。この結果,高濃度NMHCパフ内においては光化学反応によってO_3等の光化学オキシダントやNO_2が生成し,その最大上昇濃度はO_318ppb,NO_22ppbであることが明らかとなった。
著者
宮島 朝子 堀田 佐知子 大島 理恵子 若村 智子 近田 敬子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は,健康レベルの異なる在宅高齢者を対象に,生活環境と生活リズムの実態を把握し,それらの関係性を「人間-環境系」の視点から分析することを目的として,平成14〜16年度の3年間にわたって行った。調査は2つの方向で進めた。一方は病院から在宅への環境移行に伴い,「在宅療養者」の生活リズムや心理・社会的な側面がどのように変化していくかを追跡した調査である。対象者の選定はH県内のリハビリテーション系病院の回復期病棟に依頼し,同院を退院した男女4名を対象として調査を行った。その内1名については,月1回1週間のデータ収集を行い,退院後4ヶ月間にわたる経過を追うことができた。もう一方は「在宅高齢者」,即ち自宅で健康的な生活を送っている高齢者の,生活リズムの実態を把握した調査である。対象者はH県立看護大学の「まちの保健室」の来談者の内65歳以上の男女9名と,A町睡眠を通じた健康づくり支援事業において,睡眠に関する個別支援が必要とされた8名の計17名を対象とした。これらの調査をもとに,報告書冊子は「在宅療養者」では,以下の3つの方向からまとめた。第1は4ゲ月間にわたってデータ収集を行った在宅療養者1事例について,病院から在宅への環境移行に伴う生活リズムの実態を分析し考察した。第2は同じ対象者が遭遇した住宅改修に焦点を当て,看護の視点からの改修に対する提案をまとめた。第3は同じ対象者とその介護者の夜間睡眠と心身機能の実態を分析し考察した。これらの研究を「人間-環境系」の視点からまとめると,環境移行に伴う在宅高齢者の生活リズムは身体機能の回復により徐々に整ってはいくがばらつきがあること,障害受容など心理的な側面の回復には時間を要し療養生活の初期に継続した支援が必要であること,介護をする家族は療養者の生活リズムに影響を受け十分な睡眠がとれていないことなど,生活環境と生活リズムは相互に影響を受けあっていることが把握できた。本研究の成果から示唆された諸課題について,今後さらに研究を発展させていきたい。
著者
渡邉 伸平 藤枝 直輝 若杉 祐太 高前田 伸也 森 洋介 吉瀬 謙二
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告組込みシステム(EMB) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.116, pp.23-28, 2008-11-20
被引用文献数
3

FPGA デバイスの大容量化に伴い,柔軟かつ効率的な組込みシステム開発に適したソフトプロセッサ(ソフトマクロのマイクロプロセッサ)の利用が広がっている.我々は,本研究室で開発している MIPS システムシミュレータ SimMips の MIPS コア部分を Verilog HDL に移植することにより,シンプルでカスタマイズ可能な MIPS32 命令セットの一部を実装するソフトプロセッサである MipsCore,及び MipsCore を利用したシンプルな組込みシステム Simplem を開発している.本稿では,MipsCore の開発背景とそのコンセプトについて述べ,既存のソフトプロセッサとの比較を行う.さらに Simplem 及びその上で動くアプリケーションについて述べる.The growth of FPGA device capacity enables us to use soft-processor which makes development of embedded system flexible and efficient. We are developing a simple and full-customisable MIPS32 ISA soft-processor MipsCore and a simple embedded system Simplem including MipsCore. To develop MipsCore, we use SimMips 窶俳ur designed MIPS system simulator窶髏. In this paper, we first describe the background and concept of MipsCore and compare with other soft-processors. We also describe about Simplem and applications run on it.
著者
小出 哲士 北川 章夫 若林 真一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,ディープサブミクロンVLSIチップのレイアウト自動設計に注目し,ディープサブミクロンVLSIチップの実用化と共に顕著になってきた回路のパフォーマンスの考慮,ハード・ソフトマクロブロックの考慮,及び設計時間の短縮,等の問題を解決するための以下の新しいレイアウト設計手法を開発した.1.パフォーマンスを考慮した回路分割手法の開発回路のパフォーマンスを最適化するために,論理合成後に行われる回路分割において,回路のパス遅延を陽に考慮した回路分割手法を開発した.2.パフォーマンスを考慮したフロアプランニング手法の開発ハード・ソフトマクロを取り扱うフロアプランニングにおいて,バッファ挿入と配線幅調整を考慮した概略配線とフロアプランニングを実用的な計算時間で同時に求める手法を開発した.3.パフォーマンスを考慮した配置手法の開発タイミングを考慮したクラスタリングと新しい配置モデル(アメーバモデル)に基づくタイミングドリブン配置手法を開発した.4.パフォーマンスを考慮した配線手法の開発6層以上の配線層に対して,配線幅とバッファ挿入を考慮したスタイナ木生成アルゴリズムを用いて,与えられたタイミング制約を満たす概略配線経路を階層的に求める手法を提案した.5.パフォーマンスを考慮した階層的バッファブロックプランニング手法の開発チップ領域をグローバルビンに分割し,タイミングを考慮したバッファブロックプランニングを階層的に行う手法を提案した.6.パフォーマンスドリブンレイアトに対する適応的遺伝的アルゴリズムの適用エリート度に基づく適応的遺伝的アルゴリズムを提案し,レイアウト設計手法に適用した.また,高速化のためのLSI化を行い,パフォーマンスドリブンレイアウト手法の数10倍の高速実行の見通しを得た.