著者
佐藤 衆介 西脇 亜也 大竹 秀男 篠原 久
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌 (ISSN:13421131)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.95-104, 1999-03-03
被引用文献数
1

岩手県の低投入型放牧酪農家2戸(N牧場、K牧場)の家畜福祉性を、主として乳牛の行動の調査結果に基づき、乳生産や疾病記録を加味して評価した。両牧場とも急傾斜地にあり、面積はN、K牧場とそれぞれ46ha、40haで、改良草地放牧地、野草林間放牧地および採草地からなっていた。N牧場には、加えて採草放牧兼用地があった。両牧場ともまき牛繁殖で、放牧地での自然分娩であった。N牧場では2ヵ月齢までの自然哺乳、K牧場では3ヵ月齢まで人工哺乳であった。両牧場ともに、無施肥による放牧地管理をし、フスマやビートパルプといった農産副産物の他には、濃厚飼料は無給与という低投入型で、牛乳を4,000kg/頭/年程度生産していた。N牧場の乳牛では、全行動レパートリーが出現したが、6月の食草・樹葉摂食行動は1日当たり平均11.0時間となり、それは過去の報告例の上限に近い水準であった。強制離乳子牛1頭に模擬舌遊び行動が観察された他には、異常行動は観察されなかった。K牧場では、人工哺乳のため母子行動は発現できなかった。K牧場での全摂食行動(食草、樹葉摂食、給与飼料摂食)は6月および7月には昼夜を問わず間断的にみられ、それぞれ1日当たり平均52時間および82時間であった。しかし、9月の食草・樹葉摂食時間は2.8時間と極端に短くなり、特にシバヘの依存が急激に低下した。N牧場では1994年の治療回数は2回で、捻挫と子牛の奇形による難産が理由であった。K牧場では1995年には下痢子牛3頭、後産停滞2頭、起立不能症1頭で治療を要した。両牧場とも、ウシの疾病率が低く、さらに異常行動は1頭を除き発現せず、行動レパートリーのほとんどが出現し、各行動時間配分も通常範囲内にあり、行動的にもほぼ正常であり、家畜福祉レベルは平均的な酪農家に比べて高いと判断された。しかし、N牧場では、強制離乳された子牛のストレス性の軽減が、K牧場では晩夏以降の草生の改善が、さらなる家畜福祉性改善に必要であると示唆された。日本家畜管理学会誌、34(3) : 95-104、1999 1998年4月16日受付1999年1月7日受理
著者
佐藤 正樹
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

「十六世紀フランス語散文物語の文体論的研究」は、フランス語散文物語という当時生まれたばかりのジャンルの形成をマクロな観点から記述することを目標とした。十六世紀前半期の俗語散文物語は大きく二つのグループに分けられる。ひとつは騎士道物語に由来するいわゆる「ロマン」の流れを汲むのもで、もうひとつはボッカチオの『デカメロン』に由来する「ヌーヴェル」の系列である。「ロマン」の特徴は、伏線が絡まりあいながらどこまでも続く延長可能性にあり、作中人物は傑出した性質を帯びているのが普通である。主題的には、まず遠い「過去」の物語であること、作中人物の移動範囲が極めて大きいこと(「遍歴」の主題)、そして目くるめく超自然的な「驚異」が物語を進ませる原動力としてちりばめられていることが挙げられる。一方の「ヌーヴェル」の特徴は、物語が現実世界の断片として描かれるという点にある。したがって、物語に超自然的要素な要素は入り込まない。また、作中人物は傑出した性質を持つものとしては描かれず、出来事が淡々と描かれる。この書き方には年代記の影響があるかもしれない。さて、十六世紀を通じてより多く出版されたのは「ロマン」の流れを汲む作品のほうである。当時の読み手は、奇想天外でいつ果てるともない「ロマン」に、物語の醍醐味を感じていたのであろう。「ヌーヴェル」は、読者層にはそれほど浸透しなかったものの、「ロマン」の道具立ての陳腐化をいち早く感じ取り、俗語表現の可能性を追求しようとする一部の書き手に影響を与えた。「ロマン」と「ヌーヴェル」は、十六世紀にはまったく違うものとして生産・受容されていた可能性が高いが、ラブレーの作品はこの二つを意図的に混淆して作られているように見える。今後の研究では、特異なラブレーの創作プログラムを、「ロマン」と「ヌーヴェル」の緊張関係という観点からより明らかにしていきたい。
著者
佐藤 成明
出版者
筑波大学体育センター
雑誌
大学体育研究 (ISSN:03867129)
巻号頁・発行日
no.24, pp.9-12, 2002-03

昭和49年に筑波大学体育化学系に配置換えとなり着任、翌50年(1975)4月より共通体育・剣道実習が開講されてから今日迄、年間1クラス又は2クラスであったが、まるまる27年間継続して学生諸君の相手をさせていただいた。 昭和50年(体育専門学群第2期生が入学した年でえある)当時は申すまでもなく筑波大学は ...
著者
中村 生雄 岡部 隆志 佐藤 宏之 原田 信男 三浦 佑之 六車 由実 田口 洋美 松井 章 永松 敦
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、日本および隣接東アジア地域の狩猟民俗と動物供犠の幅広い事例収集を通じて、西洋近代率会において形成された「供犠」概念の相対化と批判的克服を行ない、東アジアにおける人と自然の対抗・親和の諸関係を明らかにすることを目的とした。言うまでもなく、狩猟と供犠は人が自然にたいして行なう暴力的な介入とその儀礼的な代償行為として人類史に普遍的であるが、その発現形態は環境・生業・宗教の相違にしたがって各様であり、今回はその課題を、北海道の擦文・オホーツク・アイヌ各文化における自然利用の考察、飛騨地方の熊猟の事例研究、沖縄におけるシマクサラシやハマエーグトゥといった動物供犠儀礼の実地調査などのほか、東アジアでの関連諸事例として、台湾・プユマ(卑南)族のハラアバカイ行事(邪気を払う行事)と猿刺し祭、中国雲南省弥勒県イ族の火祭の調査をとおして追求した。その結果明らかになったことは、日本本土においては古代の「供犠の文化」が急速に抑圧されて「供養の文化」に置き換わっていったのにたいして、沖縄および東アジアの諸地域においては一連の祭祀や儀礼のなかに「供犠の文化」の要素と「供養の文化」の要素とが並存したり融合して存在する事例が一般的であることであった。そして後者の理由としては、東アジアにおけるdomesticationのプロセスが西南アジアのそれに比して不徹底であったという事実に加え、成立宗教である仏教・儒教の死者祭祀儀礼や祖先観念が東アジアでは地域ごとに一様でない影響を及ぼし、そのため自己完結的な霊魂観や死後イメージが形成されにくかった点が明らかになった。またく狩猟民俗と動物供犠とに共通する「殺し」と「血」の倫理学的・象徴論的な解明、さらには、人間と自然とが出会うとき不可避的に出現する「暴力」の多面的な検証が不可欠であることが改めて確認された。
著者
渡利 徹夫 江尻 晶 森下 一男 佐貫 平二 渡辺 二太 西村 清彦 天野 恒雄 成原 一途 岡本 正雄 笹尾 真美子 霍 裕平 沈 慰慈 沈 学民 李 健剛 張 大慶 王 孔嘉 兪 国揚 王 兆申 方 瑜徳 張 暁東 万 元熈 万 宝年 邵 育貴 朱 思錚 武藤 敬 関 哲夫 熊沢 隆平 大久保 邦三 岡村 昇一 足立 圭三 東井 和夫 佐藤 哲哉 孟 月東 藤原 正巳 羅 家融 藤田 順治 SHEN Xuemin SHEN Weici FANG Yude WANG Zhaoshen WANG Kongjia YU Guoyang HUO Yuping WAN Yuanxi WAN Baonian LI Jiangang ZHANG Daqing ZHANG Shaodong LUO Jiarong MENG Yuedong SHAO Yugui ZHU Sizheng 万 元煕 李 建剛 愈 国揚
出版者
核融合科学研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

本計画立案時点において、トーラス型プラズマ装置として核融合科学研究所(NIFS)ではJIPP T-II U及びCHSが稼働中であり、準定常運転を目指す大型のLHDが建設中、他方合肥の等離子体物理研究所(ASIPP)ではHT-6M装置が稼働中、準定常運転を目指す大型のHT-7が建設中であった。またこの時点では「高ベータプラズマの閉じ込め研究」を共同研究の主要なテーマとしたが、基本となるプラズマ加熱が未だうまく行かない状態にあったASIPP側では大電力イオンサイクロトロン加熱の実現をHT-6Mの第一優先項目としたので、本計画もこの方面への研究協力に力点を置くことにした。本計画の3年間に、日本から合肥への派遣延べ21名,合肥から日本への招聘延べ18名を含む交流が実行された。平成5年度:ASIPPは採用していたカーボンリミターの材料の選択に問題があるとしてこれを撤去した。引き続きイオンサイクロトロンアンテナのファラデイシールドと呼ばれる部分の構造に問題があるというNIFS側の指摘に基づきこれも撤去した。これらの結果として、加熱の効果を示す「アンテナの負荷抵抗の増大」が観測された。NIFSのイオンサイクロトロン加熱において実績のあるチタンゲッターをHT-6Mに持ち込み不純物の制御を試みた。その結果ターゲットプラズマの質が向上した。入射電力は多少増大したものの未だ本格的な加熱には至らなかった。平成6年度:NIFSにおいて実績のある、固体ボロンを使ったボロニゼーションを試みた。不純物の流入が減少し、表面加熱に関する実験を行なう事が出来た。不純物の問題はいくらか改良されたものの、アンテナは絶縁破壊が起り大電力入射を妨げている。これを解決するために「長いアンテナ」を製作することにした。NIFSは2イオン共鳴加熱に移行することを主張していたが、HT-6Mでは磁場を0.9T以上にする上での技術的問題とASIPP内の実験テーマの優先順位の問題があって、2イオン共鳴加熱への移行は持ち越すこととなった。NIFSではLHDのイオンサイクロトロン加熱のための技術開発研究を行なっている。この一部としてASIPPの同軸切替器を改造して使用することにした。平成7年度「長いアンテナ」を装着し、第2高周波加熱以外に2イオン共鳴加熱の実験も行なった。予備的なものであったが、水素と重水素の成分比等の基本データも
著者
佐藤 夏雄
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.424-458, 1999-11

第34次南極地域観測隊越冬隊は, 越冬隊長佐藤夏雄以下40名で構成され, 1993年2月1日から1994年1月31日までのあいだ, 昭和基地の運営・維持管理を行うとともに, 計画に基づき昭和基地, 沿岸, 内陸で観測および設営活動を行った。越冬期間の主な研究観測計画は, 2年越しの超伝導重力計の設置観測, ドームF(現在ドームふじ観測拠点)までの内陸旅行等であった。超伝導重力計に関しては, 3月に装置が立ち上がり連続長期観測データが得られた。内陸旅行も, 冬開けには中継拠点までの旅行と夏のドームFまでの本旅行も予定どおりに実施できた。その他の宙空系, 地学系, 気水圏系, 生物系の観測も順調に実施できた。定常観測も順調に経過し, 気象部門の観測では, オゾンホールの発達を今回も捕らえる事ができた。設営関係も順調に経過し, 基地の維持・運営及び観測関係のサポートに大きく貢献した。生活面では, 管理棟内の食堂, バーや医務室などの内部設備が完成し, 使用を開始したため, この棟が生活の中心の場となった。なお, 年間の気候は気温が低く, かつブリザードに度々襲来され, かなり厳しい気象条件下での越冬であった。
著者
佐藤 公則 渡邊 睦 鹿嶋 雅之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究はドアノブを握るという自然な動作の中で取得しやすい掌紋を個人認証に用いることを提案した.認証手法としては回転や移動,拡縮,明度変化にロバストであるSIFT特徴を用いている.ドアノブを握る動作の中で取得される1枚の画像のみでは握りの強弱により歪みが発生する.そこで,ドアノブを握る動作の動画を用い,複数の掌紋画像を時系列に時間幅を持たせて比較することを提案し,掌紋の歪みを考慮した認証を行うシステムを構築した.その結果,等価エラー率EERは3.16%となった.また他人受入率が初めて0%となる箇所を見た場合,本人認証率は93.7%となった.
著者
佐藤 宣子 佐藤 加寿子 藤村 美穂 加藤 仁美
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ズギ人工林地帯である九州をフィールドとして、高度経済成長以降、過疎化が進行している山村の持続的な社会への転換と森林、農地、景観等の資源保全に向けた地域連携の課題を明らかにするために、主に、宮崎県諸塚村と大分県上津江村においてアンケートや聞き取り調査を実施した。特に、(1)山村問題を歴史的に概観し、(2)現段階の山村を持続可能な社会へ転換するための課題を、農林経済学、社会学、環境設計論の各立場から明らかにすること、(3)持続的な山村社会形成と森林保全にとって不可欠となっている山村と都市との連携の現況と問題点について検討をおこなった。諸塚村での村民アンケート(1400部強)と小集落アンケート(72集落)によって、近年、道路の維持管理が困難となっており、山村コミュニティにとって、(1)山村社会を支える主体形成のあり方(男性壮年層中心から女性や高齢者、Iタ-ン者などが参加しやすい活動への転換)、(2)集落組織の再編方向(小集落組織合併、集落機能の見直し、村内NPOなど「選択縁」的組織と地縁組織の連携)、(3)地域連携・都市山村交流活動を推進するための山村側の課題(自治体による住民に対する説明責任、都市住民との対等な関係作り、住民の意識改革)といった3点が明らかとなった。また、都市との連携に関して、産直住宅運動、草地景観保全ボランティア、農産物産直について考察を行い、活動を通じて山村住民の意識変化と同時に都市住民との意識差異が依然として存在していることが示された。
著者
張 欣 嘉戸 誠司 上原 淳 佐藤 広明
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. A・P, アンテナ・伝播 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.230, pp.15-21, 2001-07-19
被引用文献数
1

近年, ミリ波・準ミリ波において, 加入者用高速無線アクセスシステムの実用化が盛んに行われている。FWA子局アンテナを室内に設置した場合, 親局との通信は窓ガラス越しに行われる場合が多いと思われる。そこで, この装置に用いられるミリ波・準ミリ波帯(22GHz〜33GHz)の電波に対してガラスがどのような影響を与えるかを実験的に検証する。
著者
村田 浩一 仁位 亮介 由井 沙織 佐々木 絵美 石川 智史 佐藤 雪太 松井 晋 堀江 明香 赤谷 加奈 高木 昌興 澤邊 京子 津田 良夫
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.501-503, 2008-05-25
被引用文献数
2

南大東島に生息する野鳥4科4種183個体の血液原虫感染状況を調査した.そのうち3種109羽(59.6%)に血液原虫感染を認めた.ダイトウコノハズク30個体の末梢血液中に原虫を認めなかった.Haemoproteus sp.およびPlasmodium sp.感染がダイトウメジロ14羽(45.2%)に認められた.モズおよびスズメにPlasmodium spp.感染が認められ,感染個体比率はそれぞれ92.2%(94/102)と5%(1/20)であった.
著者
佐藤 節子
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

私は1994年度、液全体が半透明の糊状に固化するという状況が示される硫酸水素テトラメチルアンモニウムと水の二成分系で、共融点以下の温度で存在しているガラス状態あるいは凍っていない液体状態について、さらに詳しくこの系の特徴付けを行なうために、示差熱解析により上記の塩と重水の二成分系の相図を調べた。これにより、重水との二成分系では、軽水との二成分系と異なり、ガラス転移とそれに引き続き起こる低温結晶化を示す熱異常は現われず、明らかな重水素効果が存在することを突き止めた。これについては、さらに軽水素と重水素の割合を変えた場合についての結果とともに、分子構造総合討論会(1994年9月、東京)で報告している。以上のように、軽水との二成分系において状態の変化が起こる場合の、ミクロな内部の動的構造に関わっている水分子とH^+イオンの運動と、中に溶けているテトラメチルアンモニウムイオンの再配向運動の励起過程について、また、重水との二成分系の場合のそれらの運動の在り方を調べるために、^1HNMRのスピン-格子緩和時間、スピン-スピン緩和時間の測定を行なった。その結果、軽水との二成分系では、共晶点以下でも、中に溶けている陽イオンと共にプロトンはかなり動いており、"液体的"とも言える状態であるのに反し、重水との二成分系では、その様な挙動とはなっていないことが明らかになった。これらの結果については、近々、投稿する予定である。本研究により、生体内部に存在する水の動的構造への重水素の影響に関して、手掛かりが得られた。
著者
佐藤 伊久男 柳沢 伸一 斎藤 寛海 斎藤 泰 三浦 弘万 渡部 治雄 鶴島 博和
出版者
東北大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

この2年間我々は、《特殊ヨ-ロッパ的》社会構造に着目しつつ前近代の統合的諸権力の構造と展開を把握することに努めてきたが、その際独断に陥らないよう研究史をフォロウし、その研究史を対象化するために史料に沈潜し、また研究成果の相互批判に努めてきた。これらの目的は、本研究費補助金により著しく促進された。さて我々の研究は、第1領域《地域的諸集団と統合的諸権力》、第2領域《統合的諸権力における教会の地位》、第3領域《統合的諸権力と官僚》を単位に進められ、その結果は、未発表の独立した諸論文(もしくはその要約)からなる『研究成果報告書』としてまとめられた。その中で、佐藤伊久男が中世イングランドの国家と教会との関係において12世紀が大転換期であることを解明したのに続き、第1領域で、三浦弘万氏はカ-ル大帝による他部族併合過程におけるグラ-フシャフト制の導入の意義を強調し、斎藤泰氏は原スイス永久同盟の形成過程における渓谷指導層の利害の決定性を示し、柳沢伸一氏は宗教改革期の帝国都市とスイス都市との同盟に帝国の統治構造の特殊性を見、斎藤寛海氏は16世紀ヴェネチアの食糧政策の中から特殊イタリア的な支配構造の特質を摘出した。第2領域では、渡部治雄氏は帝国教会制との絡みでドイツ王国成立を国王ジッペからディナスティ-への構造的転換として把握し、鶴島博和氏はイングランド統一国家の原理が部族国家統合のへゲモニ-ではなく教会に由来すると主張した。第3領域では、小野善彦氏は領邦国家において君主の公的経営と学識法曹の私的経営とが役得プフリュンデとしての地方行政官職の形で癒着していたとし、神宝秀夫氏は絶対主義時代の領邦軍制(職業的常備軍と選抜民兵制)に見られる君主と内外の権力者との二元主義が特殊ヨ-ロッパ的特質の1つであると指摘した。今後は国家史を「官僚と軍隊」の観点から追究していく計画である。
著者
麻生 武彦 岡野 章一 藤井 良一 前田 佐和子 野澤 悟徳 三好 勉信 佐藤 夏雄 江尻 全機 佐藤 薫 小川 忠彦
出版者
国立極地研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

最終年度におけるそれぞれのサブテーマの実績概要は以下のとおりである1.EISCATレーダーによる極域電磁圏熱圏大気ダイナミックスに関しては2003年11月11日から19日における8日間のキャンペーンデータ等をもとに、流星レーダー等との比較、イオン温度からの中性温度の導出における定量的な誤差評価、中性温度における大気潮汐成分の解析検討、F層イオン温度の緯度分布と電離層等価電流の分布の比較による両者の密接な関連の解明等を行った さらに下部熱圏における大気ダイナミクスの理解のため、EISCATキャンペーン観測データ解析から準2日波、大気潮汐波、平均風の高度変動および緯度変動、イオンドラッグ加速度、コリオリ加速度、および全加速度の導出とそれらの比較を通してのイオンドラッグの重要性の吟味等を行った。またオーロラ粒子エネルギー導出のための4波長フォトメータ観測をトロムソにて実施し、電子密度高度分布をEISCAT観測データと比較した2.流星レーダーによる極域中間圏・下部熱圏大気ダイナミックス観測ではスバルバールでの4年余の連続観測により、極域大気潮汐波クライマトロジーの解明を行うとともに、トロムソ流星レーダー、EISCATレーダー、MFレーダーとの観測値の直接比較、NSMRレーダーとの比較による大気潮汐波モードの解明、高エコー率を利用しての大気重力波の水辺伝播方向解析と平均流とのかかわり、運動量輸送等について検討した3.HFレーダーによる極域電磁気圏・熱圏ダイナミックスの観測については、EISCATヒーティング装置を用いたSuperDARN CUTLASSレーダーとの共同実験により周期の異なる地磁気脈動の励起伝播について興味ある結果を得た4.オーロラ夜光スペクロトグラフによる極冠域オーロラ・夜光の観測では、酸素原子発光および酸素イオン輝線発光と、ESRによる電離層の電子温度・密度、イオン温度、イオン速度の同時観測データから、低エネルギー電子降下時に磁力線に沿った速度数100m/sのイオン上昇流が発生することを定量的に明らかにした。5.ALISによるオーロラ・大気光トモグラフィ観測では、ヒーティングとの同時観測、しし座流星群の光学観測などが試みられたほか、先端的逆問題手法のトモグラフィー解析への応用研究を始めた6.数値モデリングと総合解析においては中間圏・熱圏下部における半日潮汐波の日々変動について、大気大循環モデルによる数値シミュレーションにより調べた。特に、下層大気変動が、中間圏・熱圏下部の半日潮汐波に及ぼす影響および太陽放射量の日々変動(F10.7の日々変動)が熱圏の大気潮汐波に及ぼす影響を調べた。また流星レーダーで見出された12時間周期付近のスペクトル等についてもモデルによる検討を行った
著者
成田 龍一 岩崎 稔 長 志珠絵 佐藤 泉 鳥羽 耕史 水溜 真由美 上野 千鶴子 戸邉 秀明
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本科学研究費補助金にかかわる、本年度の研究成果は、これまで収集してきた「東京南部史料」の分析と、その歴史的な位置づけを集約した『現代思想』臨時増刊「戦後民衆精神史」にまとめられている。同誌は、2007年12月に刊行された。ここには、研究協力者(池上善彦、『現代思想』編集長)の多大の協力がある。研究代表者および、研究分担者、研究協力者による成果は、以下のとおりである。研究協力者の道場親信(東京外国語大学講師)「下丸子文化集団とその時代」「工作者・江島寛」、研究協力者・岩崎稔「詩と労働のあいだ」。「討議戦後民衆精神史」に、成田龍一(研究代表者)、鳥羽耕史(研究分担者)、道場が参加した。さらに、道場による「東京南部文化運動年表」が付された。そのほか、『現代思想』「戦後民衆精神史」には、浜賀知彦氏の所蔵にかかわる1950年代のサークル誌である、『油さし』『いぶき』『たんぽぽ詩集』などの分析が寄稿されている。これらは、池上、岩崎、道場が主宰する研究会での成果の反映である。『現代思想』「戦後民衆精神史」には、木戸昇氏による「東京南部」のサークル運動の概観も「資料」として付されており、『現代思想』「戦後民衆精神史」は、1950年代のサークル運動、さらには文化状況の研究を一挙に進めたものといいうる。また、他の研究者たちによる1950年代の文化運動、およびサークル運動の研究会やシンポジウムにも参加し、成田・岩崎・鳥羽はアメリカ合衆国コロンビア大学を会場とするMJHW(近代日本研究集会)で報告と討論をおこなった。さらに、鳥羽と池上は、1950年代に生活記録運動を展開し、サークル運動と深いかかわりをもった鶴見和子をめぐる研究集会(京都文教大学)に参加した。韓国やドイツにおける研究者との交流を、持続的に行ってもいる。
著者
佐藤 比呂志 岩瀬 貴哉 池田 安隆 今泉 俊文 吉田 武義 佐藤 時幸 伊藤 谷生
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

平成16年度には、2003年7月26日に発生した宮城県北部地震の震源域を横断する反射法地震探査を行い、中新世に形成された正断層が逆断層として再活動することによって発生した地震であったことが判明した。この北方の宮城県北部で1900年以降に発生したM6.5を越える内陸地震は、2003年の震源域の北方の領域から、南方に破壊してきたことが明らかになった。この一連の地震は、中新世の日本海の拡大時の最末期に形成された北部本州リフトの東縁のリフト系の再活動によるものであった。このリフト系の延長である水沢地域における石油公団が実施した反射法地震探査データと、現地の活断層調査によって、この地域の活断層はリフト系のハーフグラーベンを限る西傾斜の正断層が逆断層として再活動して形成されたものであることが明らかになった。また、リストリックな形状の正断層の再活動に伴って、浅層の高魚部分をショートカットして形成された、footwall short cut thrustも見いだされた。同様の再活動は、このリフト系の東縁の延長である三戸地域でも見いだされ、地表地質と重力から推定される密度構造から、中新世初期に活動したハーフグラーベンの東縁の断層が鮮新世以降再活動し、現在、活断層として知られる折爪断層はこの再活動によって形成されている。東北日本の太平洋側に分布する活断層は、仙台市周辺の長町-利府断層も含め、こうした中新世の背弧海盆の拡大に伴って形成されたかつての正断層が再活動したものである。したがって、震源断層は均質な物質中で形成される30度前後の傾斜を有するものではなく、50度前後の高角度のものとなる。本研究プロジェクトで検討した、中央構造線活断層系や糸魚川-静岡構造線活断層などの成果も含め、現在の大規模な内陸地震は、既存の断層の再活動によって発生しており、深部の断層の形状は地質学的なプロセスと密接に関連している。
著者
杉山 三郎 佐藤 悦夫 植田 信太郎 奥田 隆史
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

我々は平成16年度まで「月のピラミッド」を集中発掘し、内部に7時期のピラミッド基壇と5基の埋葬墓を発見した。ピラミッドの隣接区域からは住居址、黒曜石工房跡、5時期の中規模モニュメント遺構を確認した。本研究では、7年間のフィールドワークにより得られた膨大な発掘資料の整理と報告書の作成、また出土した遺物の分析・解釈・出版準備、そして副葬品の完形遺物のデーターバンクの作成を行なった。現在成果の出版準備中である。英語版はニューメキシコ大学出版社から、またスペイン語による詳細な発掘報告書はメキシコ政府の国立人類学歴史学研究所から出版する同意を得ている。さらに地上測量を基にしたテオティワカン中心部の三次元復元図作成のため、長期の現地作業を行なった。すでに「月の広場」から「城壁」まで「死者の大通り」に沿った建築群を2.5Kmにわたり、一部の住居群を除き、測量済みである。これにより、都市計画全体の空間配置も正確に把握可能となり、建築データはすでに様々な研究に使われ成果が出始めている。巨大化したモニュメントの資料は、国家形成と政治体制に関する直接的資料であり、政権の拡張と宗教的イデオロギーを反映する。また生贄体や戦士の副葬品、戦士の象徴であるジャガー、ピューマ、狼、鷲等の生贄動物体は、従来考えられていた平和的な神聖国家像と異なり、軍事的な覇権国家であったと示す。他に黒曜石製品、遠隔地からの貝製品、ガテマラのヒスイ製品などはテオティワカン国家の交易・政治的介入を暗示し、マヤ王朝と直接の関係を示す資料も出土した。一方でモニュメント周辺の諸活動に関する資料も得て、現テオティワカン国家像を大きく変える物的資料獲得と理論形成に貢献したと考える。
著者
柳井 晴夫 亀井 智子 中山 和弘 松谷 美和子 岩本 幹子 佐伯 圭一郎 副島 和彦 中野 正孝 中山 洋子 西田 みゆき 藤本 栄子 安ヶ平 伸枝 井上 智子 麻原 きよみ 井部 俊子 及川 郁子 大久保 暢子 小口 江美子 片岡 弥恵子 萱間 真美 鶴若 麻理 林 直子 廣瀬 清人 森 明子 奥 裕美 外崎 明子 伊藤 圭 荘島 宏二郎 植田 喜久子 太田 喜久子 中村 洋一 菅田 勝也 島津 明人 金城 芳秀 小林 康江 小山 眞理子 鶴田 恵子 佐藤 千史 志自岐 康子 鈴木 美和 高木 廣文 西川 浩昭 西山 悦子 野嶋 佐由美 水野 敏子 山本 武志 大熊 恵子 留目 宏美 石井 秀宗 大久保 智也 加納 尚美 工藤 真由美 佐々木 幾美 本田 彰子 隆 朋也 中村 知靖 吉田 千史 西出 りつ子 宮武 陽子 西崎 祐史 山野 泰彦 牛山 杏子 小泉 麗 大西 淳子 松本 文奈 鶴見 紘子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

近年、看護系大学の急増と医療の高度化に伴い、卒業までに取得すべき看護実践能力の評価の重要性が増加している。その一環として、臨地実習に入る直前の段階までに看護学生が取得すべき知識・能力を正しく評価しておくことは看護実習の適正化のための急務の課題である。このような状況に鑑み、申請者は、2008~2010年に科学研究費補助金を受け、看護系大学の学生が臨地実習以前に必要とされる知識・能力の有無を検証することを目的として、看護学18領域から約1500の多肢選択式形式の設問を作成し、730名の学生に紙筆形式のモニター試験、および、220名の学生に対するコンピュータ試験(CBT:Computer Based Testing)を実施し、その結果を比較し、全国看護系大学共用のコンピュータ試験の有用性を確認した。
著者
長田 佳久 西川 泰夫 鈴木 光太郎 高砂 美樹 佐藤 達哉 鷲見 成正 石井 澄 行場 次朗 金沢 創 三浦 佳世 山口 真美 苧阪 直行 藤 健一 佐藤 達哉 箱田 裕司 鈴木 光太郎 櫻井 研三 西川 泰夫 鈴木 清重 増田 知尋 佐藤 隆夫 吉村 浩一 鈴木 公洋 椎名 健 本間 元康 高砂 美樹 仁平 義明 和田 有史 大山 正 鷲見 成正 増田 直衛 松田 隆夫 辻 敬一郎 古崎 敬
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では, 国内で行われてきた実験心理学研究に関連した機器や資料の現状の把握, 保管方法の検討及び活用方法に関して検討した。本研究活動の成果として,1) 国内の研究機関で保管されている機器の状態の把握,2) 廃棄予定の機器の移設,3) 機器・資料のデジタルアーカイブ化,4) 機器・資料の閲覧方法の検討の4つが挙げられる。これらの成果を通じて, 日本の実験心理学の歴史的資料を残し, 伝えるための手法に関する基盤を築いた。