著者
西藤 清秀 吉村 和昭
出版者
奈良県立橿原考古学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

パルミラ人は、紀元前2世紀から紀元後3世紀に海路にも隊商を編成し、東はインドまで進出し、バハレーンは格好の寄港地・基地として利用され、パルミラ人のティロス社会への進出も生み出している。本研究ではティロス期の墓の考古学調査と種々の学術領域や手法を用いて、パルミラ社会とティロス社会の交流を可視化する。2019年度、マカバ(Maqaba)1号墳の発掘調査、三次元計測、人骨・遺物の精査を実施した。発掘調査では4基の漆喰棺の完掘と5基の漆喰棺の検出を行い、少なくとも5点の成果を得た。第1は、未盗掘の漆喰棺F-0063を検出し、遺体にストライプ状の有機質を組み合わせた被せ物を施した埋葬状態と副葬品の位置と種類に特色があった。特に左手の甲付近から出土した革袋入り硬貨は、過去数百基も発掘されているティロス期の古墳では初例である。第2は、F-0056の棺長辺側にはパルミラで認められるような水鉢状の施設が付随する形で検出でき、さらに盗掘を受けているが、遺存状態の良好な若年から成人の男性の人骨を検出し、今後の理化学的な分析が楽しみな1体である。第3は、棺への供献土器である。F-0056、F-0062、F-0063の棺蓋石上から完形の施釉陶器碗が各1点、供献時の状態を保ち出土し、今後のティロス期の供献土器の在り方を探る上で重要な例となった。第4は子供を葬ったと思われるF-0064から10枚の真珠貝が出土した。既往の発掘例から真珠貝と子供がティロス期に密接に関係しているが、今回の例はその中でも最も多くの貝が副葬品された墓である。第5は、F-0049では棺外側に周壁を設けた新たな形態の墓の発見である。このように従来ティロスの墓ではあまり認められなかった5点の要素が今回の調査で確認できた。
著者
山下 俊一 高村 昇 中島 正洋 サエンコ ウラジミール 光武 範吏 鈴木 啓司
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

チェルノブイリ周辺の海外連携研究拠点並びに欧米共同研究機関と共に放射線誘発甲状腺がんの分子疫学調査を以下の項目で推進した。特に、国際社会における専門家交流と学術研究成果の新知見などの意見交換ならびに今後の調査研究推進について国際交流実績を挙げた。① 7月3~5日:ジューネーブにて開催されたThe 15th meeting of WHO REMPANに参加し、チェルノブイリと福島の教訓と今後の研究に向けた協議を行った。8月28~29日:カザフスタンでの第12回国際会議“Ecology, Radiation and Health”、11月22~23日:台湾での第32回中日工程技術検討会、平成30年2月3~4日:長崎での第2回3大学共同利用・共同研究ネットワーク国際シンポジウム、3月2日:ベラルーシにて開催された国際甲状腺がんフォーラム、3月5日:ロシアのメチニコフ国立北西医科大学での世界展開力強化事業に関する調印記念シンポジウム等に参加し、放射線と甲状腺に関する研究成果を発表した。② 共同研究者として平成29年5月~平成29年10月までベラルーシ卒後医学教育アカデミーよりPankratov Oleg先生を客員教授として招聘し、小児甲状腺がん全摘手術後の放射性ヨウ素内用療法の副作用研究を行い、平成29年11月~平成30年3月までロシア・サンクトペテルブルクより北西医科大学のVolkova Elena先生を客員教授として招聘し、内分泌疾患の臨床疫学研究と、日露両国における診断治療法の違いについての比較研究を行なった。チェルノブイリ周辺諸国より6名の研修生を7月13日~8月16日まで受け入れた。サンプリング収集と解析については、チェルノブイリ現地における大規模コホート調査研究を推進し、生体試料収集保存管理のバイオバンク構築維持を引き続き継続している。
著者
下田 正弘 蓑輪 顕量 永崎 研宣 大向 一輝 宮崎 泉 納富 信留 Muller Albert 苫米地 等流 藏本 龍介 船山 徹 高橋 晃一 師 茂樹 齋藤 希史 高岸 輝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は「人文学がデジタル時代にいかに遂行されうるか」という次世代の人文学にとって重要なテーマについて、人文学諸分野が参照可能なデジタル知識基盤を仏教学から提供し、人文学全体が共同で未来を開く方法論を検討する〈統合デジタル研究環境〉を形成する。そのため、人文学におけるテキスト、画像、事物、行為等の研究対象の相違と、思想、言語、歴史、行動科学等の研究方法の相違の両者を視野に入れ、両者から生まれる知識の多様性を、デジタル技術を通し効果的に保存し利用する多層的概念モデルを構築し、新大蔵経データベース(新SAT-DB)に実装して提供する。
著者
鎌田 東二 島薗 進 津城 寛文 河合 俊雄 永澤 哲 井上 ウィマラ 鶴岡 賀雄 野村 理朗 倉島 哲 稲葉 俊郎 古谷 寛治 奥井 遼 林 紀行 町田 宗鳳 棚次 正和 篠原 資明 齋木 潤 金 香淑
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本科研研究プロジェクトは、「こころの荒廃」から抜け出るための手がかりを瞑想や修行や儀礼や芸能などの「身心変容技法」という宗教的リソースに求め、その意味・意義・機能・はたらき・諸相を明らかにしようとするものである。2017年度は、9回の定例公開研究会(第56回身心変容技法研究会~第63回身心変容技法研究会)、2回のフィールドワーク(2017年5月の東北被災地追跡調査(第12回目目)と2018年2月の天河大辨財天社の鬼の宿・節分祭・立春祭調査)、多摩美術大学芸術人類学研究所との特別合同シンポジウム「大地の記憶を彫る」、毎月1度の定例分科研究8「世阿弥研究会」を行ない、その成果をHP:http://waza-sophia.la.coocan.jp/と、2018年3月発行の科研成果報告書『身心変容技法研究第7号』(全272頁)に掲載し、社会発信した。そこで問いかけた諸問題は、①オウム真理教事件を事例とする霊的暴力や魔や悪魔の問題、②身心変容(技法)と芸術・芸能との関係、③身心変容(技法)の科学、④身心変容(技法)の哲学、⑤身心変容(技法)と教育、⑥身心変容(技法)と聖地ないし場所などなどの諸問題である。こうして、「身心変容(transfomation of body & mind)」や「霊的暴力(spiritual violence)」や「霊的虐待(spiritual abuse)」の概念を明確にしつつ、その負の局面を分析・考察した。カトリックや禅や瞑想「悪魔」や「魔境」やバランスの崩れの問題を問いかけるとともに、縄文時代の身心変容や古代の洞窟(洞天)が果たした象徴機能や役割やそこにおける諸種の身体パフォーマンスについて考察の目を向け、理論的研究と事例的研究と認知神経科学的な実験的研究の突合せと整理を行ない、認知神経科学における「畏怖・恐れ」の問題の実験的研究に一歩踏み込んだ。
著者
北 泰行 土肥 寿文 藤岡 弘道
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

申請者らの有する独創的合成法を、興味深い生物活性を有するが微量しか得られず複雑な高次構造を有する天然物や生体機能分子を得るための、環境にやさしく持続的に使用可能な手法へと発展させ、創薬に役立つ化合物を種々合成した。これらの得られた新規化合物を基に、新しい作用機作を有する新規医薬品候補化合物の創生に向けた研究を、独自の薬物評価系を持つ他研究所や研究機関と共同研究の下で推進した。またさらに、我々の独自の手法を用い、有機機能性素子の合成へと展開し、その有用性を明らかにした。
著者
宮本 俊和 河内 清彦 柿澤 敏文 和田 恒彦 徳竹 忠司 濱田 淳
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-10-31

本研究は特別支援学校(盲学校)理療科で鍼灸マッサージの教科を教える理療科教員の臨床能力と資質向上を意図するとともに、筑波大学理療科教員養成施設のITを用いた授業の充実を図ることを意図した。研究成果は、研究成果報告書として全国の盲学校、鍼灸関連学校、視覚障害関連の教育機関や研究機関に配布した。報告書には、1)明治以降の理療科教員養成の歴史的変遷、2)鍼灸受療者の実態、3)日本におけるIT活用と盲学校理療科におけるIT活用、4)理療科教育における講義形式の授業(電子黒板やタブレット端末を利用した授業など)、5)実習形式の授業(解剖実習や鍼実技でのiPad、iPodの活用)などについて記載した。
著者
野村 大成 本行 忠志 中島 裕夫 岡 芳弘 藤川 和男 足立 成基 梁 治子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

1.ヒト臓器・組織置換マウスの作製と維持:IgG、IgM値が検出限度以下のC57BL/6J-scid等を大量生産し、ヒト甲状腺、骨髄、肺、胎芽組織片等の長期継代維持を行った。2.核分裂放射能の影響:(1)近畿大学原子力研究所原子炉UTR-KINKI(熱出力;1W,炉心分の熱中性子;最大10^7n/cm^2・sec程度)を用い、照射SCIDマウス体内での正確な中性子線、ガンマ線被曝線量を得た。(2)ヒト甲状腺、肺組織を移植したSCIDマウスに中性子線1回0.2Gyの照射を7日毎に6回および4回繰り返した。ヒト甲状腺、肺組織ともに、ρ53,K-ras, c-kit,β-catenin、RET、bak、BRAF遺伝子の変異は得られていない(γ線11-33Gy急照射では、20例中8個のP53,c-kitの突然変異が有意に発生したが、緩照射では0であった)。また、GeneChipを用いた遺伝子発現異常の解析(8,500遺伝子)をヒト甲状腺とヒト肺組織において4回照射1週間後に行ったところ、甲状腺で59.7、肺では11.5個の遺伝子で4倍以上の変化がみられた。3.放射性ヨード(^<131>I)の影響:0.5MBq/マウスのI-131投与を週1回繰り返した。37週以上群で18例中6個の突然変異が誘発された(p53,β-catenin)。0.06〜0.5MBq/マウス1回投与でも25-51.5個の遣伝子発現異常がみられ、強い影響を確認できた。4.チェルノブイリ核施設崩壊事故被曝者にWT1遺伝子の発現異常が有意に検出された。白血病発生のとの関連が2例にみられた。被曝者F_1のマイクロサテライト変異の調査も行った。5.放射線障害防護実験:ガンマ線による発生異常、白血病に対し、担子菌菌子体由来物質の有意な予防効果をみつけた。以上、当初計画どおりの成果を得た。
著者
山下 俊一 大津留 晶 高村 昇 中島 正洋 光武 範吏 難波 裕幸
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

チェルノブイリ原発事故後激増した小児甲状腺がんの成因と長期健康影響を明らかにする研究目的で、すでに確立した海外拠点との学術交流による分子疫学調査を計画的に推進することができた。特にWHOやNCRP、EUなど欧米の放射線安全防護に係わる国際プログラムに積極的に参画し、低線量被ばくのリスク評価・管理について交流実績を挙げた。旧ソ連3ヶ国(ベラルーシ、ウクライナ、ロシア)における放射能汚染地域の住民データ、生体試料の収集から遺伝子抽出活動を継続し、放射線誘発甲状腺がん疾患関連遺伝子群の探索を行い、候補遺伝子のSNPs多型を解析した。その結果、DNA損傷修復酵素、がん抑制遺伝子群のSNPsの交洛関係を見出した。同時にChernobyl Tissue Bankという国際共同研究体制の運営に継続参画し、放射線誘発甲状腺がんの潜伏期や被ばく時年齢、病理組織像などの違いを詳細に検討し、臨床像の特徴についての解明を試みた。その結果、放射線被ばくによる甲状腺癌は非被ばくの散発性甲状腺がんと比較してもその予後や再発率に大差なく、通常の診断治療指針の遵守による生命予後の良さを明らかにすることができた。網羅的遺伝子解析の途中結果では疾患感受性遺伝子SNPs候補を見出している。上記研究成果は国内外の学会で報告すると同時に、WHOなどの低線量被ばく安全ガイドラインへの取組に保健医療行政上からも貢献している。放射線の外部被ばくによる発がんリスクだけではなく、放射性ヨウ素類の選択的甲状腺内部被ばくにより乳幼児・小児期被ばくのリスクが明らかにされ、今後の原発事故対策や放射線安全防護基準策定の基盤データの整備につながり社会的波及意義が大きいと期待される。
著者
西村 清和 尼ヶ崎 彬 長野 順子 相澤 照明 山田 忠彰 中川 真 渡辺 裕 津上 英輔 青木 孝夫 外山 紀久子 大石 昌史 小田部 胤久 安西 信一 椎原 伸博 上村 博 木村 建哉 上石 学 喜屋武 盛也 東口 豊 太田 峰夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は従来自然美論、風景論、環境美学、都市美学という評語のもとで考えられてきたさまざまな具体的、個別的諸問題領域を、日常生活の場において企てられたさまざまな美的実践としてとらえなおし、あらたな理論化を目指すものである。具体的には風景、都市景観、森林、公園、庭園、人工地盤、観光、映画ロケ地、遊芸、雨(天候)、清掃アートなど多様な現象をとりあげて分析し、その成果を『日常性の環境美学』(勁草書房、2012)として刊行した。
著者
佐伯 聰夫 阿部 生雄 菊 幸一 仲澤 眞 矢島 ますみ 生沼 芳弘 上杉 正幸 米谷 正造
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度研究において、我々はEU化の変動の中で先進的な企業経営を行っているドイツ及びフランスのゲルマン系トップ企業を訪問し、経営とスポーツ支援に関わる責任者を中心としたインタビュー調査を実施した。同様に、平成16年度には、イタリアとスペインのラテン系トップ企業を、17年度には、米国と英国のアングルサクソン系企業を対象としたインタビュー調査を実施した。また、これに対応して、支援を受けるスポーツクラブやNOC等のスポーツ団体の調査も実施した。この間、平行して、日本において伝統的にスポーツ支援に積極的に取り組み、また、企業スポーツを展開している新日鐵等の素材企業、トヨタや日産等の自動車産業、NECや松下等の家電企業、サントリーやキリン等の飲食産業、東電や東京ガス等のエネルギー産業等の一流企業を対象とした企業経営とスポーツ支援についてのインタビュー調査を実施した。関連資料の収集・分析とこうしたインタビュー調査の結果から、以下のような結論を得た。欧米の企業は、経済環境のグローバル化と企業の社会的責任論の進展の中におけるメディアとしてのスポーツの価値を認識し、企業と市民社会とのコミュニケーションメディアとしてスポーツを活用するために、スポーツ支援を経営戦略の一環として展開している。一方、日本の企業の場合は、長期経済不況から脱したものの、なお、積極的経営に留保しており、スポーツ支援、特に企業巣スポーツについては、企業忠誠心や労働モラールの高揚のために、またスポーツスポンサードについては、マーケティングの一環として展開している状況が見られた。しかし、環境と共生という21世紀世界課題に対応する形で、企業の社会的責任がグローバルスタンダードとなる現代、日本企業にも社会的責任論に立つ企業経営が求められている。従って我が国では、企業が、市民社会とのコミュニケーションメディアとして最強であるスポーツを、経営資源として戦略的に活用することが求められている。こうした視点から、日本企業の固有資源としての企業スポーツを、1.スポーツ文化の発展を担うプロスポーツ化2.地域社会貢献を担う地域クラブ化3.職域・職場の人間化を担う福祉化の3つを、日本企業が所有するスポーツ資源を、成熟型企業経営における経営戦略的活用のモデルとして開発し、提案する。
著者
中村 満紀男 平田 勝政 岡田 英己子 二文字 理明 星野 常夫 荒川 智 宮崎 孝治 渡辺 勧持
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

19世紀末にイギリスで誕生した優生学は、瞬く間に欧米列強にも後進国にも受容される。それは、それぞれが優生学を必要とする国内情勢と国際環境に置かれており、民族自滅を回避し、人種(種族)改良をめざしていたからである。その具体策として、肯定(積極)的優生学よりは否定(肯定)的優生学が諸科学の関与のもとに展開される。その主たる対象としては「精神薄弱」「狂気」等が、方法としては断種が選択される。断種の当初の目的は、優生学を目的とする劣等種の減少・解消と収容施設の不足に対する補完を意図する優生断種にあったが、優生学の科学的根拠に対する疑問とともに、精神薄弱者のコミュニティ生活可能論および性行動受容論、子どもをもつことによる生活・養育の困難等の社会適応上の理由に基づく選択断種へと転換することになる。この過程において、精神薄弱者およびその行動を正常とみる範囲が拡大したことは確かである。このような優生学とその影響は、国と地方によって差異があったが、それは優生学に対する支持勢力の有無に基づいていた。宗教的要素と科学の関与の度合いが最大の要因となる。概ね優生学を歓迎したプロテスタント教会と社会学等の関与が強力な場合は、優生学運動は拡大し、断種法が可決されたが、ローマ・カトリック勢力が強大で、科学が消極的な場合は、優生学運動の影響は限定され、断種は促進されなかった。20世紀末に至ってても優生学は消失していない。生殖医療と先端医療技術の普及にともなって、障害発生予防を目的として、優生学的思考を孕んだ新優生学として、社会下層やマイノリティや特定のエスニシティに関連して発展しつつある。
著者
浦野 正樹 松薗 祐子 長谷川 公一 宍戸 邦章 野坂 真 室井 研二 黒田 由彦 高木 竜輔 浅川 達人 田中 重好 川副 早央里 池田 恵子 大矢根 淳 岩井 紀子 吉野 英岐
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、東日本大震災を対象として発災以来社会学が蓄積してきた社会調査の成果に基づき、災害復興には地域的最適解があるという仮説命題を実証的な調査研究によって検証し、また地域的最適解の科学的解明に基づいて得られた知見に基づいて、南海トラフ巨大地震、首都直下地震など次に予想される大規模災害に備えて、大規模災害からの復興をどのように進めるべきか、どのような制度設計を行うべきかなど、復興の制度設計、復興の具体的政策および復興手法、被災地側での復興への取り組みの支援の3つの次元での、災害復興に関する政策提言を行う。また、研究の遂行と並行して、研究成果の社会への還元とグローバルな発信を重視する。
著者
岩崎 稔 今井 昭夫 篠原 琢 長 志珠絵 金井 光太朗 石井 弓 成田 龍一 板垣 竜太 小田原 琳 土田 環 米谷 匡史 藤井 豪
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本事業は、「歴史にとって記憶の問題とは何だったのか」という共通の課題設定のもとで、「記憶論的転回以後」の集合的記憶に関する言説状況を検討し、東アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカの事例研究を空間的に広げて総括してきた。また、二十世紀後半以後の時系列に即して、個々の社会的コンフリクトのフェーズことに記憶の動態分析も行ってきた。その場合、モーリス・アルヴァックスの概念設定に端を発し、ドイツのヤン・アスマンやアライダ・アスマンの概念装置などにも立脚しながら自覚的に記憶と忘却の反省的理論として整理することをめざしてきている。また、とくに本事業の取組みの焦点となるのは、メモリースタディーズの高度化によって獲得された知見や語彙の明示化であり、また記憶論的転回以後に起こっている歴史像の分断や二極化という劇症化したコンフリクトの分析であった。これまでにも、記憶に関するブレーンストーミングのワークショップなどを開催し、①国民国家の記憶に関するヨーロッパボーダーランド地域の個別研究、②戦後東アジアの記憶の再検討、③記憶と忘却の動態の理論化、④記憶と忘却のレキシコンの作成などに、ひとつひとつ取り組んできた。そうしたなかで、研究分担者からは、新たに意識化されたハザードスタディーズの一環としての記憶の語りや、近年のレイシズム再来現象についても、災害の記憶やコロニアリズムの記憶という論点として、積極的に組み込んでいくべきであるという提案があり、それらを通じて事業計画の視野はより豊かになってきている。
著者
橋本 健二 佐藤 香 片瀬 一男 武田 尚子 浅川 達人 石田 光規 津田 好美 コン アラン
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

市区町村および地域メッシュ単位の統計と質問紙調査の結果から、以下の諸点が明らかとなった。(1)1990年から2010年の間に東京圏の階級・階層構造は、旧中間階級とマニュアル労働者が大幅に減少し、新中間階級とサービス産業の下層労働者が増加するという2極化の傾向を強めた。(2)この変化は、都心部で新中間階級と高所得世帯が増加し、周辺部では非正規労働者と低所得世帯が増加するという空間的分極化を伴っていた。(3)しかし、都心の南西方向では新中間階級比率と所得水準が高く、北東方向では低いという、東西方向の分極化傾向は維持された。(4)空間的な分極化は住民の政治意識の分極化を伴っていた。
著者
木庭 顕 桑原 朝子 松原 健太郎 中林 真幸 山本 隆司 加毛 明 金子 敬明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

昨年度に予告したとおり本年度は公共団体の問題に活動を集中した。その集大成は3月にKinch HoekstraとLuca Ioriを迎えて行われた「ホッブズとトゥーキュディデス」に関する研究会であり、事実上の締めくくりとなるに相応しい濃厚な二日間であった。つまり古典古代と近代をまたぎ、また国際間の衝突もテーマであったから国家間の問題、近代国家共存体制外の地域の問題、をも視野に入れた。ホッブズはまさに枢要な交点である。そのポイントで、公共団体立ち上げの条件を探った。ゲスト二人の報告は或る雑誌に翻訳して発表の予定である。また、研究代表者自身、この研究会に至る中で同時並行して一本の論文をまとめ、『国家学会雑誌』に発表した。後者は、このプロジェクトが深くかかわってきた法人理論がホッブズにとって有した意義をも論ずるものである。また、ともに、自生的な団体と深く関係するメカニズムである互酬性を、そのメカニズムの極限的なフェイズをホッブズがいかに利用しつつ克服するか、を追跡した。こうした考えをホッブズはトゥーキュディデス読解を通じて獲得した。彼が同じく翻訳したホメーロスを含め、ギリシャの社会人類学的洞察をバネにしたことになる。こうした見通しは、本研究会が遂行してきた広い比較史的視野を有して初めて持つことが可能になる。その意味では、今回の成果は、公共団体をターゲットとしてきた本年度の活動のみならず、全期間の活動の凝縮点である。付言すれば、教育目的ながら野心的な内容を含む拙著『現代日本公法の基礎を問う』も同一の軌道を回る惑星である。
著者
橋本 敦史 井上 中順 牛久 祥孝 濱屋 政志 松原 崇充 森 信介 VON・DRIGALSKI FELIX
出版者
オムロンサイニックエックス株式会社
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2021-04-05

生産年齢人口が減少する中,ロボットの産業活用は喫緊の課題である.ロボットによる作業代替を低コストで実現する方法として言語指示の活用が注目されている.しかし,「言語指示→ロボット制御」の従来型演算モデルは特定の作業に特化したものとなってしまっている.本研究では,多様な作業を対象とした汎用的な演算モデルを提案・検証する.言語・映像資源が豊富な調理を対象とし,サラダなどの比較的簡単な料理を言語指示に従って調理するロボットを最終年度までに実現することでコンセプト実証を目指す.
著者
尾野 嘉邦 石綿 はる美 三輪 洋文 横山 智哉 中村 航洋 松林 哲也 粕谷 祐子 木村 泰知 河村 和徳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究の目的は、人々のジェンダーバイアスとその政治的影響を包括的に検証し、「指導的地位」に占める者の間に大きな男女格差が生じる要因と解決策を明らかにすることである。それにより、政治や社会において男女共同参画をさらに進めるだけでなく、男女それぞれが個人として、多様な選択やキャリアの実現を可能とするための方策を考える。そのために、①議事録などのテキストデータを機械学習によって分析するテキストマイニング、②サーベイ実験などの実験的手法により因果関係の解明を目指す行動実験、③世界各国の専門家を対象とした大規模なサーベイによる国際比較調査、という複数の手法を用いて、学際的かつ国際的に研究を行う。